雨の中の復讐者


<オープニング>


「まったく、少しも売れないじゃないか!」

 ……苛立ったような男の声の後に、ガシャァン! と、何かを蹴りつける音が響いた。
 そして―――暫ししてから、静寂。
 男の行動を止める人間は居ない……そう、人間は。居ない。
「くそ、役に立たないくせにメシだけは食うんだからな……!」
 小さく罵声を吐きつつ、男は『彼ら』に餌を与える為に動き始める。
 ―――ただ、食費を渋る彼が与えるその量は不十分に過ぎるものだったが。
「やれやれだ」
 そして、さも自分が被害者であるかのように彼は呟いて、店を出ようとする。
 だが……今日は、いつもとは事情が違った。
 ―――その瞬間響いたのは、ドンッ! と、何物かがケージを破壊する音で。
「な……ひっ!?」
『グルルルルル……!!』
 ああ。
 報いなどと言ってしまっては、陳腐すぎるかもしれないけれど。

 ―――憎い。
 憎い。憎い。憎い。
 死ね。死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死んでしまえ……!
「う、うわああああああああ!?」
 ……その男は、そんな。
 人語ではないが存分に恨みのこもった咆哮と共に、命を落とした。

「……これで、全員集まりましたね」
 では始めます、と。
 その日、藤崎・志穂(高校生運命予報士)は暗い口調で能力者達に話を始めた。
 ……外を見れば、小雨が降り始めている。
「今回皆さんに向かって頂きたいのは、やや街から外れた場所にあるこの森林です……広さ自体は、そんなに広いものでもないんですけどね」
 彼女は、手早く地図を取り出して今回の目的地を指す。
 成程。確かに都会の森だ、地図にある森の広さはそんなに驚くほどでもない。
「そして、倒すべき敵は野生の動物ではありません……近所のペットショップで飼われていた、動物達です。店主を襲って脱走したみたいですね……彼等は犬や猫といった種類で、数は全部で六匹。中には子猫もいるみたいですが、逆に獰猛な大型犬なんかも含まれているようなので……油断は禁物ですよ」
 それを聞いて、嘆息しつつ能力者の一人が頷いた。
 野生動物だろうが愛玩動物だろうが、その攻撃力……そして、こと俊敏性にかけては侮れるものではない。確かに油断は出来ないだろう。
「いずれもリビングデッドになってしまってはいますが、特殊能力は持っていません。ただ、能力者の皆さんにダメージを与えることが出来る程度の性能は間違いなく保有しているでしょうし……敵は、連携してこちらを襲ってきます。もし戦場で孤立してたら、危ないですよ。絶対に注意して下さいね」
 そう。敵は、息の合った連携でこちらを倒そうと俊敏に動き続けるだろう。
 野生ではないとはいえ、地の利を生かした連携は決して生易しいものではない筈だ。
「それと……相手は群れとして動いているでしょうから、下手に分散するのも危険です。そんなに広くない森ですから、固まりつつ敵の居場所を探り当てた方が良いでしょう」
 ――人を襲う可能性がある以上、急がなくてはならない。
 そのことを自覚しつつ、能力者達は志穂の言葉に静かに耳を傾けている。

「件のペットショップでは……みんな、あまり『良い扱い』をして貰えなかったみたいです」
 そして、最後にぽつりと呟く志穂。
 伏せられた目を覗き見ることは出来ないが、声色からその感情は読み取れた。
 ……彼女は敢えて曖昧な言い方をしたが、そもそもペットショップでリビングデッドが生まれたのだ。餌を十分に与えられなかったのか、それとも店主の暴行か―――彼女の言う言葉の意味は、能力者達にも窺い知れた。
「彼等は……店主のみならず、人間全てを憎んでいます。辛くて、辛くて、辛いのに逃げ出せなくて……きっと、過去にも沢山の仲間が死んだのでしょう。怠惰で杜撰な、店主のせいで」
 ―――それは酷く悲しい、けれど決して変えることの出来ない過去。

「……愛されなかった動物達は、可哀想だと思います。でも、既に彼等は死んでしまった。このままでは、人間を憎む彼等は近隣の人々を襲い始めるでしょう」
 だから。
 だから、自分達がどうにかしなくては、ならないのだ。
「私達は、ゴーストを倒さなくてはなりません。だからお願いします、皆さん……人間を憎むことしか知らない彼等を、もう楽にさせてあげて下さい。人だろうと動物だろうと、死んでも苦しむ必要なんか……無いんです……絶対、絶対に……」
 そう言って、彼女は小さく頭を下げた。
 ―――降りしきる雨の中、今も人を憎むことしか知らない獣達のことを、想いつつ。

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参加者
燈蛹・暁(ジキルとハイド・b00193)
春原・界音(プライベートアドレス・b00488)
皇・真理空(魔炎の魔女・b01184)
一条・深咲(星詠みの魔砲少女・b01348)
如月・龍稀(高校生魔剣士・b07771)
斎宮・鞘護(高校生魔剣士・b10064)
レナーテ・シュナイダー(氷雪の歌姫・b14748)
クレール・アンリ(碧眼の黒豹・b15435)



<リプレイ>


 目的地の森は、中々に立派な代物だった。
 存分に緑が強調されたそれは、確かに広くはないが……しかし狭くもない。
 背の高い木や密度の濃い茂みは、人が足を踏み入れることを否定しているかのようだった。
 そんな中、雨の雫の感触に目を細め、燈蛹・暁(ジキルとハイド・b00193)は空を見上げる。
「……皆、気をつけて。思ったより木々が多い」
 彼女は振り返り、後続の仲間に注意する。
 明かりとして暁が使っている白燐光――その明かりに照らされた『三人』の仲間達が、こくりと頷く気配がした。
 既に自分達は、二班に分かれて探索を開始しているのだ。
「でも……どうしてマリア達って、倒す事しか出来ないのかしら」
 日が射さず、雨の降っている森の中は寒い。
 その寒さに目を伏せ、皇・真理空(魔炎の魔女・b01184)が誰に言うでもなく呟く。
 ――ゴーストのことを。
 今回の敵である動物達を思うと、心苦しいものを覚える真理空である。
「自分が傷つけられたということが、他人を傷つけても良い理由にはならない……私はそう思うわ」
 対して、隣を歩むクレール・アンリ(碧眼の黒豹・b15435)は冷静な瞳で森を見ていた。
 ……思うところはあるが、歩調を緩めるわけには行かないから。
 そんな愁いを帯びた彼女の視線の先には、敵の襲撃に備え、仲間を守るように周囲を警戒する斎宮・鞘護(高校生魔剣士・b10064)の姿がある。
 他の面々と同じように、彼もツバのついた帽子やレインコートで身を固めていた。
(「憎しみに囚われた、動物達か」)
 人間を殺せば、彼らの心は楽になれるのか?
 斬って捨てれば、彼らの魂は救われるのか?
 ……考えても、容易に結論は出ない。
 詮無きことか、と鞘護は首を振った。
「なんつーか……悲しいなぁ。同じ生き物なのに、なんでこーなっちゃうんだろ」
 ただ。
 仲間と視線を交わらせずに呟いた暁の言葉に、同意した者はきっと居たに違いない。
「……行きましょう」
「ええ、そうね」
 クレールと真理空が、視線を交わす。
 向かうのは、敵が構える森の奥。
 ――その場に足を止める者は、一人としていない。


 さぁぁぁ……と、雨の降る音が森の中に響いている。
(「……こいつは、少しばかりマズイかな?」)
 明らかに、雨の勢いは強まっている。
 困ったものだと嘆息しつつ、春原・界音(プライベートアドレス・b00488)は傘を差し、くるくると手元のラベンダー――敵へのアピールになるかもしれない――を回した。
「敵は……まだ、出てきませんね」
 柔らかい地面を自覚しつつ呟くのは、如月・龍稀(高校生魔剣士・b07771)。
 ……探索を開始してかなり経つが、まだなんの沙汰もない。しかし、『敵』は間違いなくこの森に潜んでいるのだ。
 人に愛されぬままに死んでいった、ペット達が。
「やれやれ、保健所の人たちの気持ちが分かるねぇ」
「ええ。それと、油断はなさらないように……」
 龍稀の注意の言葉に、分かってるよ、と界音が頷いた。
 分かっている。
 妥協や油断に、意味は無い。
「しかし、Heimtier(ペット)が今回の相手とはな……」
 辺りを警戒しつつ、ややベクトルの異なる考えを浮かび上がらせるのはレナーテ・シュナイダー(氷雪の歌姫・b14748)だ。彼女の生まれたドイツでは、日本とは比べ物にならないほどに、『動物を飼う』という事に対して重い認識とルールがあった――此度の事件は、レナーテからすれば信じられないものだろう。
「かわいそうな子たちだね……だからこそ私たちが開放してあげなきゃね」
 可哀想だ。
 悲劇だ。
 ああ、酷く同情を誘う!
 ――言葉を並べることなら誰にでも出来る、と。一条・深咲(星詠みの魔砲少女・b01348)は、自らの身体が雨露に濡れるのも厭わず注意深く茂みや木陰を探す。
「動物さん相手に屋外戦は分が悪いけど……頑張らなきゃ」
「頭上も、注意した方が良いだろうな」
 索敵する深咲をサポートするようにレナーテが傍らを固め、注意する。
 実際、やりにくい敵なのだ。加えて相手には地の利がある……。

 ほら、今も頭上の木を飛ぶシルエットが―――?

「っ……皆さん、上を!」
 いち早く気付いたのは、龍稀だった。
『シャッ!』
「ちぃっ!」
 同時、空から落ちてくる敵――猫の爪を、紙一重でレナーテが回避。
 そしてすぐに後ろへ跳んだ猫を牽制するように、界音が前に出た。
「……出ましたね」
「ああ。皆、手筈通りに行くぞ! コトダマヴォイスと、その後に笛だ!」
「「了解!」」
 速やかに別の班と合流する為、レナーテと龍稀が策を打つ。
 殆ど間を置かずに、コトダマヴォイスとホイッスルの報せが森中を満たした。
『グルルルル……!』
「……来たんだね。私たちを、倒すために」
 油断無く周囲を見る深咲の目前には、三匹の大型犬と二匹の猫。
 そして、年端も行かぬ子猫がいる。
 六対の――憎しみの、瞳だ。
「負けないよ。私たちは、あなた達を解放するために来たんだから!」
 彼女が決意を叫んだ瞬間、ばっと界音の傘が宙を舞い、レインコートが翻る!
 だが、それは撤退の為ではない――己の『武器』を手に、叫ぶためだ!

「「イグニッション!」」

 仲間へ連絡するための音に続いて、力ある言葉が森を奔る。
『!?』
「行くぞ!」
 瞬時にその身を戦士に変えた四人は、周りを囲む獣達との戦闘を開始した。


 ざぁぁぁぁ……と、雨の降る音が森の中に響いている。
 最早それは、小雨というレベルを逸脱していた。
『ガァッ!』
「……おおっ!」
 そんな中。
 ごっ! と、硬質な激突音が雨の音に紛れて発せられた。
「ち、面倒だな……!」
 犬を相手に前衛を努める界音は、いつもと勝手の違う戦闘に眉を顰める。
 まず、足場が悪い。
 予め装備をして、かつ注意して戦わなければ即座に隙が出来てしまうだろう……また、視界も悪くなってきている。
「春原さん、左右から来ます!」
「ああ!」
 隣で戦っている龍稀の警句に身体を前傾させると、その頭上を折り重なるように二体の影が通過していった。
(「オマエらが悪いわけじゃないんだけど、な!」)
 心の中で呟きつつ、界音が振り向きざまに龍顎拳を放つ。
 まだ空中に居た犬はカウンター気味に攻撃を喰らい、小さく悲鳴を上げた。
「……憎むべき相手に制裁を加えたんです。もう、思い残すことは無いでしょう?」
 更に、龍稀の追撃が敵を叩く!
「―――雨の中。今こそ、その思いを散らせなさい。愚物が」
『ッ!?』
 旋剣の構えで攻撃力が高められた打撃に、犬が身を捩る。
 彼は更なる追撃に入ろうとするが、しかし他の敵が邪魔をした。
「ならば……!」
 実のところ――数の上から言えば、敵の有利なのだ。
 その戦況を支えるのが、龍稀のヒュプノヴォイスだった。
「……隙が出来たな!」
「いくよっ!」
 ここぞとばかりにレナーテのブラストヴォイスと深咲の援護射撃が敵を打つ。
 だがヒュプノヴォイスの眠りは、一度の打撃で全てが眼を覚ます代物だ。
 敵――特に大型犬のスタミナは凄まじく、戦況は不安定だった。
「上から来るぞ、気をつけろ!」
「うん……!」
 そして、やはり数が違う。
 大型犬三匹を二人で止めている界音と龍稀は、既に常軌を逸した奮戦振りだ。
 残る三匹の猫が後衛を狙ってくるのは、必然だった。
(「……貴方たちも、狭い檻に入れられるために生まれてきたわけじゃないのにね」)
 もう、此処で終わらせてあげたい。
 その想いで、必死に深咲は回復と牽制を繰り返し――
「やり切れん話だが……それでも私たちは、お前等を止める!」
 レナーテが、ブラストヴォイスで敵を迎撃する。

 ……成程、敵の連携は見事なものだった。
 しかし、彼等が同胞を信頼して戦うように。

「見つけた。それじゃ、いっちょ頑張っとくか」
『!?』
 能力者達も、信頼する仲間の到着を待っていた。
 何処かぼんやりとした『増援』の声が響いた、その瞬間――
「……ふっ!」
 雨の中、強烈な踏み込みと共に、鞘護が犬達の目前に到達した。
 彼は、向かう犬へと刀を振るう!
「所詮、俺は一振りの刃。できる事は斬って捨てる事……唯、それだけだ」
『ギャン!?』
 強烈な横薙ぎの一撃が、弱っていた大型犬を無力化した。
 残る犬にも動揺の気配が生まれ、その隙を逃さず、一気呵成と攻め立てる!

 また、後衛側にも応援の手は到達していた。
 早急に片を付けるとばかりに、レナーテや深咲へ猫の爪が振るわれるが、
「悪いけど、それはダメ」
『!?』
 しかし。
 敵へ飛び掛る直前、何の気配も感じさせず背後から攻撃してくるフォルムが在る。
 白燐奏甲で味方を援護しつつ、敵の連携に介入するのは――暁だった。
「オレも、出来ることはするつもりだから。これ以上はやらせないよ」
『ッ!』
 身を捩って直撃を回避するが、連携が崩された。
「敵の位置は把握したわ。詰みに入るわよ」
「ごめんね……でも、これがマリアの出来る精一杯なの!!」
 そこに、回数を惜しまぬクレールの白燐拡散弾と真理空のフレイムバインディングが決まる。
 既に数の有利も、連携の妙さえも、能力者達の側が上回っていたのだ。
「これで……終わりだ」
「ええ。もう、人を襲うことはないでしょう」
 そして―――ついに流れは、覆らない。
 どう! と、前衛の側で、界音と龍稀の声に重なるように犬が倒れた。
 浅い息を繰り返し、先に倒れた同胞を悲しげな瞳で見ている……。
『オオオオ!』
「――はっ!」
 最後の一匹も、鞘護と交差した瞬間大地に崩れ落ちた。
 瀕死の身体で。
 朦朧とした視線の先に、倒れた犬は何を見るのだろう?
「……」
 鞘護は何も語らない。
 ただ、一瞬目を細めたあとに――躊躇せずに、刃を振るう。
「………終わりだ」
 傍らで見届ける龍稀や界音と同じように。
 あくまでも敵を討つ、一振りの刃として。
 刀を……振り下ろした。

「こっちも……終幕、ね」
 一方の後衛側でも、白燐奏甲の輝きが味方を鼓舞する中、冷静に敵を迎撃していたクレールが呟いていた。彼女の目の前では、最後の気力を振り絞って再び上空からの攻撃を見舞おうと木に飛び移る二匹の猫。
 確かに、有効な攻撃ではあるだろうが……。
「見切った!」
「今度は、左……!」
 既に、常に注意を忘れずに戦っていたレナーテと深咲にはパターンを覚えられている。
「手持ちもそろそろ切れるか。だが、逃がさない……!」
『!』
 バックステップで回避したレナーテのブラストヴォイスが、猫を一匹討った。
 慌てて立ち上がろうとする、もう片方の猫も……立ち上がれない。
「……もう、良いのよ」
 静かに、クレールが歩いていく。
 可哀想だが、自分達の任務はこの動物達を倒すこと。
 ―――既に死したものが動く理不尽を、是正してやることだ。
「せめて、安らかにお眠りなさい……天国では、優しい飼い主に恵まれると良いわね?」
 そして、そんな言葉と共に最後の一撃が放たれる。
 能力者達が見守る中、犬達と同じく二匹の猫も息を引き取った。

「……あとは、その子猫だけだね」
「ええ……」
 ――この時点で、打倒された獣は五匹。
 連携を以って能力者達を追い詰めた獣の軍勢は、もういない。
 ただ、暁と真理空の目の前に、無力な子猫が一匹残るだけだった。
『……ニャー』
 子猫は、小さく鳴きながらも撤退しない。
 小さな頭で周りを見回し。
 同胞の全てが倒れたことを知って、ただ、鳴いていた。
「……そうか。仲間を見捨てないんだな、おまえ」
 勝ち目のない戦いの場を捨てない意図を見て取って、暁が目を細める。
 そして、一歩前に出て、真理空が優しく子猫に小首を傾げた。
「すぐ終わるからね……いい子ね……」
『……』
 雨は、もう耳を劈く轟音になりつつあった。
 
 悲しみの連鎖を断ち切る、などと言えば聞こえは良い。
 時には陳腐ですらある。
 だが、その陳腐な言葉を行為する為に――日々、能力者達がどれだけ力を注いでいることか。
 それは、酷く悲しい現実だ。
「……さよなら」
 ぽつりと呟いた彼女の一言は、すぐに雨音に解け消えて。

 ……戦闘は、ここに終了した。


 此処なら問題もないだろうということで、動物達の死骸は森に埋葬することにした。
「今度は何に生まれてくるかわからないけど、元気にお日様の下で遊べるといいね」
「そうだな……本当に、そうだ」
 素っ気無い埋葬の跡に、レナーテと深咲が祈りを捧げている。
 世界を、在るべき形に戻した。あとは、歪んだ理から解放されたペット達が……幸せを掴めるように、と。
「少しは、楽にしてやれたかな」
「多分な。リビングデッドってのは……どんなに苦しくても、死を望むことすら出来なくなっちまった存在なんだから」
「……だよね。なら、良かった」
 ぼんやりと埋葬された動物達を見る暁の肩を、ぽんと叩くのは界音だ。
 飄々とした態度の裏で、これで帰り道に捨て犬なんか見つけてしまったらどうしようか、などと苦笑交じりに考えていたわけだが。
「さて、そろそろ行きましょうか。私達は敵を倒せた……任務成功です」
「ああ……」
 ペットの埋められた場所を一瞥して、龍稀と鞘護が踵を返す。
 任務を達した以上、此処に留まる意味は無いのだから。
 ただ、彼等がこの世界に存在していたこと。
 そして、苦しんでいたこと。
 それを心に留めて、振り返らずに歩いてゆく。
「明日にでも……お花を手向けに来ようかしら」
 彼等に続き、歩きつつ口にしたのは真理空。
 誰に理解されずとも良い。
 ただ自分は、あの動物達が生きていたということを形にしたかった。
「良いんじゃないかしら?」
 隣を歩くクレールは、真理空の心遣いに微笑する。
 そして彼女も、せめて虹とは言わずとも……雨が、上がってほしいと願うのだった。
 彼等の魂が。
 光のある方向へと、進んでいけるように。

「ばいばい。またね……」
 手を振って木々を見る深咲を最後に、八人は森から出た。
 さあ、これでこの物語は終わり。
 自分達は、前を向いて。
 これからも、生きていこう。
「あ……」
 そしてその時、ふと、誰かが声を上げた。
 ……何故なら。

「雨……上がったな」

 雨上がりの空の上で、暖かい太陽が燦然と輝き始めていたからだ―――。


マスター:緋翊 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/02/20
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冒険結果:成功!
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