迅速に、そして確実に葬れ


<オープニング>


 誰も居ないはずの夜道に、揺らめく灯りがぼんやりと浮かび上がる。
 灯篭を手にした妖狐に導かれて、大小様々のゴーストを引き連れた百鬼夜行の地縛霊が、今宵も新たなゴーストを己の配下に加えるべく、夜道を進んでいく。
 彼らの行く手に見えるのは、蔦が蔓延り、所々朽ちかけた洋館。そして百鬼夜行の地縛霊が、その洋館を視界に捉える位置まで辿り着く。
 月明かりに照らされた百鬼夜行の地縛霊が、より強大なゴーストを得られることへの喜びに顔を歪ませる――。

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
 教室で皆を出迎えた彩原・湊人(中学生運命予報士・bn0228)が、挨拶もそこそこに状況の説明を始める。
「『武曲七星儀』の阻止、お疲れさまでした。ですがこの事件以来、灯篭を持った妖狐に先導された百鬼夜行の地縛霊が数多く目撃されるようになりました。これはおそらく、強力な力を持つゴーストを自らの配下に加えようとしているものと思われます」
 湊人の話では、百鬼夜行の地縛霊は既に50以上のゴーストを引き連れており、まともに接触したところで倒すのは非常に困難とのことである。
「しかし、これ以上百鬼夜行の地縛霊が力を蓄えることは、見過ごせる問題ではありません。ですから皆さんには、百鬼夜行の地縛霊が現れ、ゴーストを配下に加えようとするまでの僅かな時間の間に、ゴーストと接触し倒すことをお願いしたいのです。この作戦が成功すれば、妖狐の戦力増強を阻止するだけではなく、日本での活動が困難なことを妖狐に思い知らせることができます。皆さん、頑張って下さい」
 一息ついて湊人が、説明を続ける。
「今回現れた百鬼夜行の地縛霊は、町外れの古びた洋館に潜む地縛霊に接触しようとしているようです。この地縛霊は長身で引き締まった身体つき、燕尾服にシルクハットを被り、ステッキに仕込んだ刀で攻撃をしてきます。動きは素早く、格闘術にも長けているとあって、相当の苦戦が予想されます。また、距離を取ってもステッキから闘気を飛び道具として放ってきます。手強いゴーストですが、もし戦闘が長引けばそれだけ、百鬼夜行の地縛霊が現れる危険性が高まります。素早く、そして確実にゴーストを倒し、撤退するまでの算段はしっかりとつけてください」
 皆に注意を促して、湊人がノートを閉じる。
「ボクはこうして見守ることしかできません。ですが、皆さんの活躍で犠牲が少しでも食い止められるのでしたら、ボクは少しでもそのお手伝いをしたいと思います。皆さん、無事に帰ってきてくださいね」
 湊人の見送りを受けて、皆が教室を後にする――。

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参加者
竜胆・螢(銀夜の守護竜・b02371)
西垣・直貴(月下影狼・b07386)
篠宮・沙樹(死ノ宮ニ咲ク沙羅樹・b18858)
渕埼・寅靖(縛鎖のキマイラ・b20320)
流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・b23085)
チェスター・ドルトムント(超示現ハイパー大切断・b32351)
アルステーデ・クロイツァー(葬闇のシュヴァルツェナハト・b35311)
神戸・藍那(緋色の猛る爪・b44942)
ティロル・クレメンス(フリーダム猫っ娘・b54031)
ストレリチア・スティレット(銀花玉狼・b59811)



<リプレイ>

●闇の中繰り広げられる、静かなる戦い
 月が輝く夜空の下に佇む、朽ちかけた洋館。
 その正面真上に据えられた時計台、今は長針も短針も外され、錆び付いた鐘だけが面影を残すそこに、燕尾服に身を包んだ紳士風の男性が、シルクハットからわずかに顔を覗かせ、近付いてくる者たちを視界に収める。
「おやおや、このような時間に、我が屋敷に何用ですかな? 今宵は誰も招待した覚えはないのですが。……もしあなた方が侵略者というのでしたら、私としても黙って明け渡すわけには参りませぬな」
 ステッキを携え、時計台からとん、と地上、今は台座だけがその面影を残す噴水を背にする位置に降り立った男性を前に、駆けつけた能力者は即座に武具の装着を終え、戦闘準備に取り掛かる。
 彼らに与えられた時間は限りなく少ない。一刻の猶予も許されない状況が、彼らを急き立てる。
「時間がないんでな。悪いが一気にいくぜ!」
「皆さん、準備はよろしいですか?」
 竜胆・螢(銀夜の守護竜・b02371)が得物を構えて男性を睨みつけ、神戸・藍那(緋色の猛る爪・b44942)が周りの仲間に確認を取る。
「僕と渕埼寅靖は問題ない。……何にしても、葬るぞ、迅速に
「ああ、確実にな」
 男性を右に見る位置で、流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・b23085)と渕埼・寅靖(縛鎖のキマイラ・b20320)が互いに声をかけ合う。
「さあて、それじゃぶった斬りに行こうか!」
(「……とても強い力を感じますの。皆様をも上回るかもしれない、力を……」)
 二人に対する位置で、チェスター・ドルトムント(超示現ハイパー大切断・b32351)が愛用の長剣を構え、ストレリチア・スティレット(銀花玉狼・b59811)が湧き起こる怖れと立ち向かいながら、男性をじっと見つめる。
「私の方はいつでも行けますわ」
 前衛を担当する彼らの後方中央の位置で、篠宮・沙樹(死ノ宮ニ咲ク沙羅樹・b18858)がかけられた声に応え、同じく位置していた神凪・円(守護の紅刃・b18168)と木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)が強い意思を秘めた表情で頷く。
(「厳しい相手、そして状況……でも、負けられないわ。……生きて戻ると約束したもの、ね」)
 後衛中央から左に見る位置で、アルステーデ・クロイツァー(葬闇のシュヴァルツェナハト・b35311)が、心にもう一度約束を誓う。
「ティロちゃん達の力、見るがいいにゃん!」
 彼女と反対の位置で、ティロル・クレメンス(フリーダム猫っ娘・b54031)が男性を見据えて意気込む。
「皆、準備完了のようだな。妖狐の戦力を削る絶好のチャンス、逃さず倒すぞ!」
 能力者の中心に位置していた西垣・直貴(月下影狼・b07386)の一言で、各々が行動を開始する。前衛のうち螢と藍那が男性に向かい、両脇の二人ずつは自らを強化する術を行使しながら、男性の側面及び背後を突くべく機会を窺う。
「ほほう……拝見するに前は鶴翼、後は鋒矢、ですかな。対して私は一人、取れる計略は唯一つ……狙うは正面、まずはあなた方からですな」
 男性が腰を落とし、直後、爆発が生じたかのような加速力でもって、男性が螢と藍那の懐へと踏み込む。咄嗟に振り下ろされた得物をステッキで難なく受け止め、気合の篭った声と共に斬馬刀を弾き返す。体勢を崩した螢を捉えるべく、男性がステッキに仕込まれた刀を空いた胴体へ振り抜く。
「好きには……させないよ!」
 男性の振り抜いた刀は、藍那の振るった腕全体を覆う爪に阻まれる。攻撃を防がれた男性、しかし表情には笑みが浮かんでいた。
「……なるほど面妖な得物。しかしそれほど長くては、取り回しに苦労なさいますでしょう?」
 言って男性が、かざした藍那の爪に蹴りを見舞う。得物を弾かれ空いた懐に鞘と化したステッキがめり込み、悲鳴も漏らせず強烈な衝撃に為すがまま、藍那が大きく吹き飛ばされる。
「この、やってくれるじゃねえか!」
 螢が、刀身に闇のオーラを纏わせ、男性を潰さんが如く振り下ろす。あまりの衝撃に地面が抉れ、土埃が舞うが、そこに男性の姿はない。
「少々、動きに無駄がございますな。冥府にて修正なされた方がよろしいかと」
 真横から男性の、足元を狙った蹴りが螢を地面に転がし、そこを抜いた刀の切っ先が襲う。月夜に迸る紅い雫、かろうじて致命傷とはならなかったものの、抵抗力を大きく損じられ、二人はそれ以上男性を引き止めておくことができなかった。
「まずはお二方……翼が閉じる前にここを抜け、大将首貰い受けましょう」
 男性が前方、討ち取る価値のある者たちとして後衛の者たちを見据え、再び構えを取る。
「一点突破か……だが、ここから先には行かせない!」
 そこに、癒しの力で今は倒れ伏す者たちを救わんとする円と小夜、そして後方の仲間を護るべく、構えた姿勢から直貴が、手にした得物に氷を宿らせ、斬りかかる。ステッキで受け止めた男性の、今まだ余裕に満ちていた表情がしかし、ステッキが徐々に凍らされていくのを目にして消え失せる。
「下がりなさい!」
 沙樹が地面に突き立てた得物を伝って、影が地面を潜り、男性の眼前で掌の形を取って斬り裂かんとする。燕尾服に一筋の亀裂が奔り、白色の蝶ネクタイが紅色に染まるが、男性は意に介さずステッキに闘気を込め、反撃とばかりに放つ。
「準備完了にゃ! いくにゃー!」
「当てさせてもらうわ」
 アルステーデが光を纏った槍を放ち、ティロルが魔法陣から電撃を纏った弾を発射する。闘気とそれらが相殺し合い、余波により男性が後方へ下がっていく。結果として男性は、彼の表現した『翼』が閉じる位置にまで押し戻された格好になった。
「――仲間を傷つけた礼だ、骨ごと燃え尽きろ!」
「背後からいきなりルチャキック!」
 とん、と足を着けた男性の背後から、寅靖の炎に満ちた爪、そして影郎の蹴りが襲う。男性はステッキをかざして防御するが、炎の勢いは服を焦がし、蹴りはステッキをすり抜けるように男性の身体を打ち、男性が大きく揺り動かされる。
「ルチャセンパイナイスです! ……こいつを食らえぇ!」
「届……けっ!」
 できた隙を見逃さず、チェスターの炎迸る剣が、そしてストレリチアの氷煌く爪が男性の抵抗力を奪っていく。衝撃で吹き飛ばされ、敷地の中央に存在していた噴水に身体を打ちつけた男性が、しかしボロボロとなった見た目とは裏腹にみなぎる殺気をたぎらせ、能力者たちを見据える。
「……この状況は流石に、多勢に無勢、ですな。……ですが、この領地を預かる者として、恥をさらすわけには参りませぬ。一人でも多く、冥府にご招待と参りましょうぞ」
 男性がステッキに手をかける、そこへ闘気が集まっていく。
「後ろ、来るぞ」
「気をつけてください!」
 癒しの力を受けて戦線復帰した螢と藍那が、男性の様子を悟り能力者に注意を促す。各々が男性の行動と、その後の自らの行動を算定し終えた瞬間、男性の怒号と共に闘気がステッキから放射される。凄まじい闘気は能力者の抵抗を少なからず奪いはするが、危険な段階にまで達した者は誰一人としていなかった。
「後ろの二人は回復を! 横の二人は援護をお願いします!」
(「百鬼夜行はかなり接近している……全力で応戦してギリギリ、でしょうか」)
「早くしにゃいと来ちゃうのにゃー! ティロちゃんフルパワーでいくのにゃー!」
 沙樹が的確に指示を飛ばし、それを受けて円と小夜が総攻撃の体勢を整えるべく癒しの力を行使していく。確実に近付いているであろう、百鬼夜行の接近に警戒しながらアルステーデ、そしてティロルが前衛の仲間を援護すべく射撃を開始する。
(「攻撃の手が緩んだ、今がチャンスだ!」)
 直貴が果敢に男性の懐に飛び込み、男性と幾度か刃の競り合いを繰り返す。蹴りを放てない超至近距離まで踏み込み、競り合いから男性を吹き飛ばし、そこに黒手での一撃を見舞う。地面から競り出た掌に足を抉られた男性の姿勢が大きく崩れる。
「ここで、決めますの!」
 氷を纏った爪を振り下ろすストレリチア、必中を願った攻撃はしかし、男性の先程抉られた足によって防がれる。片足を凍らされながらも、攻撃で脇を晒した相手に、抜かない刀はない。
「それではあなたに、冥府への招待状をお送りいたしましょう」
 煌いた刀が一閃の下に、ストレリチアを地面へ転がし行動不能へと陥らせる。
「招待を受けていただき、有難く存じます。それではどうぞ、最高のおもてなしを――」
「それ以上、やらせるかぁ!」
 ストレリチアを冥府へ誘わんとした止めの一撃は、チェスターの振り抜いた長剣が男性の刀を弾いたことで防がれた。男性の手を離れ、宙を舞い地面に突き刺さる刀。そして、大きく体勢を崩した男性による次の招待がなされることは、もうなかった。
「時間もない。……これで終わりにさせてもらおう!」
「早めに倒れてもらうぜ。……ルチャ影月面キック!」
 男性が、寅靖の振るった爪に身体を焼かれ、そして影郎の蹴りで空中に大きく打ち上げられる。
「これで終わりだ、消え失せろ!」
「この一撃で、決めるっ!」
 洋館を伝って飛び上がった螢、そして藍那が、月夜を背負って宙に舞い、打ち上げられた男性を斬馬刀と爪の一撃で叩き落とす。全身を炎に包まれながら、苦しむことももがくこともせず、ただ爆ぜる音だけを残して男性の身体は塵と消え、夜に吹く風に散らされていった――。

「……! 百鬼夜行が、来ます! もう時間がありません、撤退の準備を!」
 戦闘終了の安堵に包まれることもなく、アルステーデの呼びかけに能力者が応え、撤退の準備を開始する。最後に負傷し自力での行動に支障の見られたストレリチアを後衛の者たちが支え、螢と藍那を殿とする前衛の者たちが、百鬼夜行の地縛霊からの追撃に備えつつ後に続く。
 幸い、接近が感じられた百鬼夜行の地縛霊からの追撃はなく、能力者たちは多少の被害を受けつつも、無事に作戦を遂行することができたのであった――。


マスター:音込深烈 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/10/11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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