そは焔狐に非ず


<オープニング>


「聞こえますね」
 灯篭持ちの妖狐が呟く。周囲は人気のない山森だと言うのに風に乗って聞こえてくる音はまるで火の爆ぜる音。妖狐の後ろには無数の鎖を身体から生やした少女が、虚ろな眼差しを先導者に向けている。少女の後ろには人ならざる異形がぞろぞろと連なっていて、その全てが少女から出た鎖に繋がれていた。
「では参りましょうか」
 その一言で、百鬼夜行は少しだけ進路を変更する。音のした方へと。
 
「みんな集まってる?」
 人の気配を感じて、運命予報士の少女は目を落としていた一冊の本から顔を上げた。
「灯篭を持った妖狐に先導された百鬼夜行の地縛霊が、新たに強力なゴーストを仲間にしようとしている事がわかったんだ」
 これは言うまでもなく妖狐の陰謀、その一端なのだろう。
「ただ、この百鬼夜行の行列は連なるゴーストの総数が明らかに五十体を越えてるんだよ」
 多勢に無勢、これではまともに戦えば勝つのは難しいだろう。
「うん、流石にこれを倒してきてとはボクも言えない。みんなにお願いしたいのは、この百鬼夜行が現れるまでの短い時間に、彼らが配下に加えようとする強力なゴーストの方を撃破して欲しいんだ」
 もちろん、撃破後は撤退する必要があるが、この作戦に成功すれば、妖狐の戦力増強を阻止するだけでは無く、日本での活動が困難な事を思い知らせることができるだろう。
「それでね、今回みんなに倒して欲しいゴーストはとある山森を彷徨ってる狐妖獣だよ」
 数は一体、燃えるような毛皮は微かに光を発しており、時折火が爆ぜるような音を立てる。
「この特徴のおかげで見つけやすくはあるから、森に入れば音とかを頼りにすぐ見つけることが出来ると思う」
 もちろん、百鬼夜行の先導役である妖狐にとっても見つけやすい存在だろうが。
「ただ、この妖獣相当手強いんだ」
 口から火球を吐く20m直線に効果をもたらす超魔炎付与の範囲攻撃に、尻尾を燃え上がらせて近接範囲を薙ぐ超魔炎付与の範囲攻撃。どちらも攻撃力依存の上……。
「尻尾から着弾と同時に爆ぜる炎の蔦を伸ばして着弾点とその周囲の相手を燃やしながら締め付けることまで出来るみたい」
 所謂20m爆発範囲の超魔炎と締め付けを付与した範囲攻撃。どれも通常攻撃並みの命中精度を誇り、幸運度で回避も出来ない。更に火球と尻尾のなぎ払いに至っては当たり所が悪ければ致命的なダメージさえ受けかねない。
「流石にもう一つの力は意味がないみたいだけどね」
 実は再生能力も兼ね備えているのだが太陽光の元でしかこちらは効果が無く、作戦の決行時刻が夜中であることもあり無用の技となったようだ。
「妖獣の能力についてはそんなところ、問題はこの戦闘が長引くと百鬼夜行がやって来ちゃう危険があるんだよ」
 長引けば長引くほどに危険性は高まる。だからこそ、能力者達には素早く確実に倒して撤退する作戦をたてる必要がある。戦力差を考えれば、百鬼夜行に囲まれたら逃げ切るのは難しいのだから。
「一応言っておくけど、現場は人の来ることはない場所だから人除けの必要はないし、時間との戦いでもあるから現場の下見なんてやってる暇はないからね」
 ついでに妖獣自体が明かりを放っているので、戦闘中は明かりの心配も必要はない。ただ、倒した後は別だろうが。
「ともかく、みんなには急で悪いけど、このまま現場にすぐ急行してもらうよ」
 多くの犠牲を出した笠間市の武曲七星儀。それを引き起こした妖狐勢力が、新たな力を得る事を、このまま見過ごす事はできない。
「それを阻止する為にも、この妖獣はここで撃破しておかないとね」
 みんな頼んだよ、と激励の言葉をかけ少女は能力者達を送り出す。作戦の成功と能力者達の無事を祈りながら。
 

マスター:聖山葵 紹介ページ
 紅葉で燃えるような山って綺麗ですよね、聖山です。

 今回は強力な妖獣を素早く倒して撤退して頂くお仕事となっております。

 戦場は山林と言うこともあり、遮蔽物としての木が多いです。
 妖獣の攻撃はどれも凶悪なので、ご注意を。

 尚、成功条件は戦闘を長引かせず妖獣を撃破、撤退することとなります。

 では、ご参加お待ちしております。 

参加者
逆上・夜刀(紫黒を繰る虚白の夜叉・b04904)
神咲・鋼(豪腕の破戒僧・b06773)
斎宮・鞘護(魔剣士・b10064)
六地蔵・忌子(箱の姫君・b10273)
白羽・命(白夜虫・b23300)
稲護・狐燐(塚護の守護者たる護りの狐火・b27095)
艮寅狼・魅龍(ひみつけっしゃの戦狼外道巫女・b42729)
九龍・幽鬼(やさしくしてください・b45611)
霊門・稀(小学生貴種ヴァンパイア・b47674)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
八重咲・凛々花(月夜に咲く桜花・b51904)

NPC:石蕗・紗夜子(小学生土蜘蛛・bn0143)




<リプレイ>

●焔の音を頼りに
(「強力なゴースト……ねえ」)
 風に梢が揺れた。流れゆく景色の一端として風に揺れる枝を捉えた逆上・夜刀(紫黒を繰る虚白の夜叉・b04904)は、風が運んでくる音をしっかりと耳にしていた。
(「まあ尾に加えられるくらいだ、その強さは押して知るべしといったところか」)
「エセ火狐たぁ、本業火狐としては黙ってらんねぇよなぁ」
 他の仲間達と夜の山林を駆ける稲護・狐燐(塚護の守護者たる護りの狐火・b27095)は言い、釣り上げた口の端が不敵な笑みの形を作る。
(「強力なゴーストに迫り来る百鬼夜行……」)
 強敵との戦いは、時間との戦いでもあった。斎宮・鞘護(魔剣士・b10064)が胸中で口にした百鬼夜行は、この場に集う仲間達が対峙するには絶望的なまでの戦力差があると言う。百鬼夜行の到来は実質タイムリミットの到来でもあるのだから。
(「厳しい戦いだ……だが難しくはない、ようは百鬼夜行が来る前に狐妖獣を倒してしまえばいい」)
 そう考えるのは、神咲・鋼(豪腕の破戒僧・b06773)。事実、運命予報士からの依頼を果たすには他に方法がない。
(「厳しい電撃戦たぁアツいねぇ」)
 と言うのに、艮寅狼・魅龍(ひみつけっしゃの戦狼外道巫女・b42729)はどこか楽しそうだった。
(「ついこの間戦争をしたばかりだと言うのに、また厄介な事態ですね……」)
 眉をひそめる九龍・幽鬼(やさしくしてください・b45611)と比べるとやけに対照的だ。もちろんそれぞれ思うところあってなのだろうが。
「うにゅ、妖狐に戦力を回復させる分けにはいかないから、きっちりやっつけないとね」
「ああ、妖狐勢力にこれ以上の力を与えるわけにはいかん」
「ええ、これ以上相手に力を付けさせるのは断固阻止しませんと……」
 白羽・命(白夜虫・b23300)の呟きは複数の同意を得、向けた視線の先に微かな明かりが見えた。音のみを頼りに進んでいた一行は、きっちりとやっつけるべき対象の姿を一部なりともようやく拝んだ形となる。
「散開なの」
 六地蔵・忌子(箱の姫君・b10273)の声は後方からあがった。声に従うように能力者達は散らばって、幾人かが足を止める。
「しっかリ戦って守ることが出来ればいいのですけど……」
 発見した妖獣へ向けて進みながら、文月・風華(暁天の巫女・b50869)は微かに後方を振り返った。
「うちなら心配せぇへんといてぇ」
 視線に気づいてそう言った八重咲・凛々花(月夜に咲く桜花・b51904)を始め、後方には複数の能力者達が起動を済ませ続いている。
「紗夜子さん、頑張りましょうね」
「う?」
 何だかやたらと幸せそうな霊門・稀(小学生貴種ヴァンパイア・b47674)の様子に石蕗・紗夜子(小学生土蜘蛛・bn0143)は瞬きしつつ首を傾げていたが、のんびり言葉を交わす時間は残されていないようだった。
「そろそろやなぁ。石蕗ちゃん、さっきの指示通り宜しゅうねぇ」
「わかったの」
「気づかれたようだよ」
「はじめよう、兵は神速を尊ぶとも言う」
 応援に呼ばれたヴィヴィ・テクパトル(アステカの巫女・b23526)を含む能力者達の声が交錯し、十七対一の戦いは幕を開けた。

●焔
(「全力を持って……斬って捨てよう……!」)
 鞘護は大太刀を振りかぶる。乱立する木々を縫うように駆けながら、鋼は自らに黒燐奏甲を施した。視界に映るのは、具現化した炎を宿す斬馬刀が妖獣へ襲いかかる瞬間。別方向からは殺傷力を有した視線が燃えるような毛皮を持つこの狐妖獣へと向いていて、更に不死鳥のオーラを宿したバス停を手に魅龍が殴りかかっている。四連携、うち三つの攻撃はほぼ同時に繰り出されていた。
「……何」
 うち幾つかは命中するかと思われた攻撃だったが、上方からの紅蓮撃を妖獣は尾で受けとめ、完全に相殺した。しかもこの瞬間、力ずくで自分の体勢をわざと崩し、残る二撃を同時に回避している。
「焔同士で相性はどーかわかんねぇけど」
 とは狐燐の弁だが、どうやら一番捌きやすい、得意とする部類の攻撃ばかりを仕掛けてしまったらしい。
(「こんな凶悪な妖獣がこんな所いたとは……」)
 仲間の攻撃をあっさりしのいだ様に風華は思わず目を見張り、妖獣は低く唸るとそのまま反撃へと転じる。攻撃を受けとめた尾を使って肉薄していた能力者二人を纏めてなぎ払ったのだ。
「ぐっ」
 紅蓮撃を相殺できるほどの力を持つ尾によるなぎ払いは、身を包む詠唱兵器の耐久力を大きく削いでいった。流石に一撃でボロボロにされることはなかったが、身を包む炎が消えなければ十秒ほどで執事服は耐久値の限界に達するだろう。
(「面白い。闘いとはこうでなければな」)
「推測通り」
 同じ痛手を受けたというのに、一人は壮絶な笑みを浮かべていたが、別の理由から笑みを浮かべた能力者が他に一人。稀に指さされた妖獣は血を吸われ忌々しげに唸り声を上げた。力任せの攻撃は得意でもブラッドスティールは苦手であるらしい。
「シュバルツ、うちらもいくでぇ」
 Wirbelwindが火を噴き、真ケットシー・ガンナーも主人に倣って二丁拳銃から制圧射撃を浴びせかける。凛々花達の射撃を避けきれず毛皮に穴を穿たれている所を見るに、極端に力任せの攻撃に強いのかも知れないが。
(「こんな厄介そうな相手を妖狐達に渡す訳には行かないの」)
 忌子は胸中で呟き、視線を妖獣の周囲にある木々へと向けた。
「この森は既に私の掌、潰れるが良いの」
 棘の生えた枝葉、木の幹はまるで声を肯定するかのように妖獣へと迫り、何かを握り込む手を思わせる動きで妖獣を掌中に捕らえた。
「行きますよ」
「わが拳を受けよ! 必殺! 龍顎拳!」
「俺はあまり得意ではないが……な」
 ジャンクプレスを形成する木々がまだ剥がれ落ちていない妖獣目掛けて、幽鬼がパイルバンカーを手に肉薄する。かけられた声に呼応して並走した風華が拳を繰り出し、夜刀は妖獣へと視線を向けた。狙いすました一撃も、青龍の力を込めた拳も、標的を内側から切り裂く視線もまた先の攻防を見ればあっさりかわされてもおかしくはない。
「ギャウッ」
 にもかかわらず妖獣の防御が一瞬遅れ、漆黒のパイルバンカーは妖獣の胴へと吸い込まれた。
「うにゅ、いくよー!」
 予想外の痛手に苦痛の鳴声を洩らした妖獣の頭上から植物で出来た巨大な槍が落ちかかる。命の放った森王の槍だった。
「力任せは効きづらいが……全てを完璧に防げる訳ではないってトコか」
 仲間達の攻防を見やっていた狐燐は不敵に笑う。得意なのはここまでの攻防を見れば明らかだが、全ての攻撃が防がれた訳ではない。
「さー、派手にぶっ飛んでくれよ!」
 直前に狐妖獣へと飛来した森王の槍の結果を見届けず、火球が撃ち出された。可能性に賭けて。その様子を遠くから一体の蜘蛛童、ギギが見ていた。
「デレはありません」
 とは赦しの舞を踊り始めた遠回・彼方(回り道・b48023)の言葉。ギギの傍らには主人が居て、主人を含む土蜘蛛の巫女三名が清らかな祈りを込めた舞いをそれぞれ踊っていた。妖獣の射程に入らず前衛に舞の恩恵を届けるには無理があったのだ。
「炎は消えたようですね」
 灰堂・貴子(八握脛・b36908)も舞い手の一人。視線の先には身を包む炎から解放された能力者達の姿があった。

●死闘
「……来ます、注意を!」
「次、来るぞ!」
 二ヶ所から同時に警告の声が発せられる。妖獣は前足だけで逆立ちするかのように下半身を持ち上げると、前足を支点に尾で円を描いた。
「遅い」
 鞘護の紅蓮撃に匹敵する威力の薙ぎ払いをあっさり避けて、鋼は言い放つ。力任せの攻撃を捌くのが得意なのは妖獣だけではない。お互いの長所を潰し合う形であるが、身に纏った僧兵用僧服の恩恵もあり、鋼にも妖獣のなぎ払いはかわしやすい一撃だった。
「……っ」
 もっとも、妖獣に肉薄していた五人全員に同じことが出来たかというなら否だが。
「すいません、一旦下がります!」
「言っておくが俺では長くもたんぞ」
 慌ただしく中衛と前衛が入れ替わり、傷を負い後方へ下がってきた能力者へと癒しの力が行使される。
(「何度も喰らったら拙いな」)
「さて、一時選手交代ってトコだな……行くぜ」
 下がる能力者は後退と同時に可能であれば自らの傷を癒し、入れ替わった中衛の能力者はそのまま攻撃へと移行する。狐月と焔月。二筋の鋭い斬撃が妖獣を襲った。
「やっぱ、こっちの方が当たりやすいか」
 刻み込まれた傷は一撃が有効打であったことを物語る。
「うーみゅ、このまま回復に手を割かれたらやばいかもね」
 ハートマークを描きつつ命は呟いた。徐々に妖獣は体力を消耗してきていたが、味方の損害も大きい。回復に手を割かれ攻撃手が減れば長期戦になりかねないのだ。忌子の様に他者の回復より敵の撃破を優先していれば別だろうが。
「この炎は敵にとっての目印。一刻も早く倒して消し去るの」
 刃物の生えた木々が再び妖獣を襲う。
「ウチの回復より攻撃に専念してなぁ」
 もちろん、凛々花の様に他者に声をかけていても別だろう。
「ぬおおっ」
 ガンナイフが火を噴き、獣の姿勢から吼えるように放たれた衝撃波が狐妖獣の身体を僅かに傾がせる。撃ち出された銃弾が妖獣の頬を掠め、丁度けん制の効果をもたらしていた。攻撃は二度で終わらず、稀は再び妖獣を指さして血を奪う。
「さらにに力を上げますよ」
 直接の攻撃でなくても、構えは次の一撃に繋がる布石。
「来るぞ」
 だが、肉薄した能力者が増えたことで妖獣が次にはなったのは尾を駆使したなぎ払いだった。
「……ッ」
 燃え上がる尻尾の一撃は、当たり所が悪ければ一撃受けただけで地面との接吻を余儀なくされるだろう。そこから意思の力で立ち上がれるかは運次第だ。
「悪い、こっち回復頼む……ッ!」
 幸いにも、悪い当たりをもらった能力者はまだ居ない。が、回復に手を割かれたことで戦いは長期戦の兆しを見せ始めた。
「くっ、弾かれたか……」
 闇のオーラを纏わせた斬撃が、金属音と共に流れを変える。ただでさえ捌かれやすい攻撃なのだ。連携の意識が薄く、仲間達が連携して繰り出す攻撃の流れに乗り切れない夜刀の場合、どうしても命中率は低下する。
「一分は経ったか?」
「そんなとこだ。とっとと倒さないとマズイな……稀ちゃん」
 ボソリと洩らして魅龍はバス停を振り上げながら仲間の名を呼んだ。
「紗夜子さんはそのまま回復に。八重咲先輩!」
 稀は妖獣を指さしつつ二人に声をかける。
「わかったの」
「まかしときぃ、シュバルツいくでぇ」
 即座に二人が応じ、シュバルツも答えるように短く鳴く。四丁の銃は妖獣を捕らえていた。引き金がひかれて飛び出した銃弾は妖獣の身体に穴を穿ち、血を吸われる苦痛に悶えた身体を不死鳥のオーラを宿したバス停が打ち据える。標識通りあの世に送るには威力が足りないが、一瞬妖獣にたたらを踏ませた連係攻撃の威力は決して弱くない。「攻撃が来ます! 皆さんご注意を!」
 ただ、風華の警告に続いた妖獣の反撃も決して侮ることの出来ないものだったが。
「そうそう何度も喰らうか」
 再び吐き出した火球を交差させた二本の長剣によって夜刀は受け流す。反応できたのは、防御に重きを置いた戦い方故か。
「紗夜子さん!」
「大丈夫……なの、まだ」
 直撃を受けていれば、後方で名を呼ばれる仲間のように一撃で倒されることもあるのだ。
「欲張るな。引き際を見誤れば……死ぬぞ」
 意思の力で立ち上がったとは言え、もう一撃受ければどうなるかはわからない。二年前の記憶を脳裏に過ぎらせつつ夜刀は言う。ここまでで戦闘不能な状況に追い込まれた能力者は居ない、仲間の呼んだ応援の恩恵があるが故に。だから、能力者達はまだ退かなかった。
「幽鬼さん!」
「風穴を開けて差し上げます……っ!」
 突撃から繰り出す風華の連続回し蹴りに反応しようとした狐妖獣の胴へ幽鬼のパイルバンカーが叩き込まれる。
「うみゅ、この調子なら間に合うかな?」
「問題ない。まだ時間はある」
 再びハートを描き出しながら命は後方を振り返った。直後にかけられた声を肯定するかのように後方には明かりも見えなければ気配もない。もちろん数分後もこうであるという保証など無いのだが。時間は無情にも流れて行く。
(「これ以上長引かせる訳にはいかんな」)
 火球に、なぎ払いに。何らかの攻撃でいったん後退を余儀なくされた仲間達と同じように、旋剣の構えをとりつつ鞘護は再度妖獣へと肉薄する。未だ健在とはいえ妖獣も度重なる攻撃に弱っては来ているようだった。
「ゆく……」
 仲間に声をかけ、連係攻撃で畳み掛けようとした瞬間。狐妖獣が尻尾を一閃させた。
「ぐあっ」
 まるで大気さえ燃やさんとする殴撃に、肉薄していた能力者達が地面に這わされる。破壊力はここまで受けていた攻撃の倍以上。能力者達が定めた撤退条件は味方三名の戦闘不能、地に伏す人影は四つ。目の前の光景は撤退を意味するはずだった。
「まだなの」
 防御は最低限、だからこそ覚悟は出来ていたのだろう。忌子のジャンクプレスが妖獣を包み込む間に鞘護が意思の力で起き上がると、隣に伏していた風華も起き上がる。
「すみません回復お願いします!」 
 二人が選んだのは中衛との交代。ただ、妖獣の方も身を蝕む毒や身を焦がす炎によって随分と消耗していたらしい。退かず、顧みずに攻撃を繰り出していればおそらくは。
「終わりやぁ」
「俺の拳が念仏代わりだ迷わず成仏するがいい」
 結果としてトドメとなったのは、銃弾によろめいた妖獣へと繰り出された鋼の一撃だった。

●撤退
「対象は倒しましたしここにはもう用は無いですね。速やかに撤退しましょう」
 風華は微かに顔をしかめつつ、仲間達に呼びかけた。自身を含めて幾人か一度は地に肩をつけさせられた能力者が居る。まさに辛勝だった。
「ああ、追いつかれてメリットは全く無いと思うしな」
「一人も欠かさず、最悪背負ってで」
 頷き狐燐は踵を返し、幽鬼は倒れた紗夜子を担ごうと近寄ったが。
「「あ」」
「気にするな力には自信がある」
 横から出てきた鋼は華奢な身体を片腕で楽々と抱き上げると、そのまま走り出した。
「後は任せるの」
「欲張るな。引き際を見誤れば……死ぬぞ」
 殿を引き受ける忌子へと夜刀は声をかけ。
「家に帰るまでが依頼やでぇ」
 冗談めかして言いつつ、凛々花の向けた視線にシュバルツは小さく鳴いた。
「(ホンマに堪忍やぁ)」
「ゆくぞ」
 仲間を促す鞘護の声に小さな呟きはかき消され。
「……次の戦争でもおぼえてろよ」
 能力者達は現場から次々に離脱して行く。
「そろそろ私達も退くの」
 やがて忌子も迫り来る百鬼夜行の気配を感じつつ現場をあとにした。


マスター:聖山葵 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:11人
作成日:2009/10/16
得票数:カッコいい20  知的1  えっち1 
冒険結果:成功!
重傷者:石蕗・紗夜子(小学生土蜘蛛・bn0143)(NPC) 
死亡者:なし
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