灯篭暗行〜轟雷ノ獣


<オープニング>


 ふっ……と。
 人通りの全く絶えた田舎道を歩く『列』の先頭にいた女の足が止まる。
 東洋系の細長い瞳の奥には、遠くの景色にある小さな森が映っていた。
「夜明け前には、森に着きそうじゃの……」
 身に纏うは大陸風の着物、その手の灯篭の灯火が揺れる。
 頭に差した色鮮やかな髪飾りの間には、狐のような耳があった。
『…………』
 呟きを静かに風に流す女の後ろで、チャリ……と鎖の音が鳴る。
 鎖を揺らすは無機質な少女、その後ろに連なるのは、幾つもの影……。

 オォォォォォォォ――。

 森を目指して歩く異形の行列、低く唸るような狂気が揺れる。
 其の列を形成するは――五十に近い異形の者達。
 
「……みんなに、急ぎの知らせがある」
 開口一番に武羽・和史(小学生運命予報士・bn0099)が告げたのは、火急の用件。
 いつもは淡々と話す彼女が焦りを覚えていた事に、誰もが尋常でない予感を感じた。
「……灯篭を持った妖狐に先導された百鬼夜行の地縛霊が、より強力なゴーストを仲間に加えようとしているんだ」
 能力者達の活躍により、辛くも勝利を収めた『武曲七星儀』は記憶に新しい。
 しかし、彼等の耳に入ったのは、想像を絶する内容だった。
「……この妖狐と百鬼夜行の地縛霊が率いているゴーストは……50体に近い」
 それは、まさに百鬼夜行の様相。
 勝ち目さえ感じられない大規模な軍勢に、誰もが言葉を失った。
「50体に近いゴースト達と戦え、というのか……?」
「……いや、これは明らかに妖狐の策略だ、正面切って戦う事はして欲しく無い」
 先の戦いで戦力を失った妖狐は、より強力なゴーストを加えようとしているのだろう。
 勿論、無計画に百鬼夜行を生み出しても、銀誓館に各個撃破される事は目に見えている。
 意図的に編成された大軍勢に勝つのが難しいのは、火を見るよりも明らかだった。
「……そこで、先手を打って先に敵の目的であるゴーストを撃破して撤退して欲しいんだ」
 彼らが加えようとしている強力なゴーストを倒して撤退するまでがこの依頼の流れ。
 作戦に成功した場合は妖狐の戦力拡大を阻止するだけでは無く、日本での活動が困難な事を思い知らせることもできるだろう。
「……この一群が狙っているゴーストは、大猿のような妖獣が1体だ」
 その容姿は、古い文献に出てくる鵺(ヌエ)に近いと和史は告げる。
「……猿の頭、頑丈な虎の体、鼠のような鋼の尾は鞭のようにしなり、そして……強い」
 虎の如く吠えれば戦場に稲妻が轟き、その尾は近接している者を俊敏に薙ぎ倒す。
 鋭利な牙に噛まれてしまえば、運が悪いと瞬く間に生命力が抜き取られていくという。
「……敵は1体でも強敵だ。そして、戦闘が長引いた場合……命は無いと思って欲しい」
 百鬼夜行と遭遇してしまった場合、撤退は困難を極めるだろう……。
 戦いが長引く程、百鬼夜行と鉢合わせする危険性が高まるのは目に見えていた。
「……作戦も素早く確実に妖獣を倒すこと、撤退することに重点を置いた方がいいかもな」
 妖獣が潜んでいる森近辺には人が寄る事はないという。
「……森に入ると、すぐに開けた場所に出る事ができる。そこは視界と足場も良好だ」
 そして、人の気配を感じた妖獣も、待つ事なくそこに現れると和史は付け加えた。
「……急いでくれ。こうしている間も、百鬼夜行は確実に距離を縮めている」
 この百鬼夜行がゴーストの元に到着するまで、既に一刻を争う。
 
 多くの犠牲を出した、笠間市の武曲七星儀。
 それを引き起こした妖狐の策略を、このまま見過ごす事は──できない。

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参加者
久郷・景(雲心月性・b02660)
高瀬・洋恵(ボーディサットヴァ・b05079)
楢芝鳥・俊哉(図書室の主・b20054)
工藤・竜二(漢気一代長ラン野郎・b22996)
桜庭・柚樹(寒緋桜の雪夜叉・b32955)
斎姫・伽藍(翠嵐の蹤跡・b35932)
黒瀬・和彦(ブラックガディ・b36106)
白銀・柳(我学の酔狂者・b45723)



<リプレイ>

●闇雷
 闇と静寂に包まれた森に眩い光が灯り、それを囲むように幾つもの影が走る。
「何としても、百鬼夜行、止める、ぞ!」
 白銀・柳(我学の酔狂者・b45723) は来た道を記憶に焼き付けようと視線を動かすが、
 ある程度の地形の把握を付けておきたくても、急いでいる為に確認もままならない。
「ああ、戦時の様な犠牲はもう出したくない! 例え、危険だと判っていても……!」
 同じように周囲を見渡していたのは黒瀬・和彦(ブラックガディ・b36106)。
 今は戦う時間を少しでも伸ばしたいと、1秒を惜しむように全力で駆け出していた。
「森の中だから歩き易い登山靴を履いていければ良かったけれど……」
 桜庭・柚樹(寒緋桜の雪夜叉・b32955)は白燐蟲の灯りを灯した夢緒に礼を述べる。
 火急となれば事前準備はほぼ無いに等しく、闇を照らす灯りが何とも頼もしく思えた。
「森が開けたわ、気をつけて」
 木々に紛れていた高瀬・洋恵(ボーディサットヴァ・b05079)の足が止まる。
 工藤・竜二(漢気一代長ラン野郎・b22996)も仲間に隊列を指示した、その刹那。

 グオォォォ――ン!

 森を揺らすような轟音が響き、その場に一際大きな影が飛び込んだ。
「次に繋げる為にも、頑張りましょう」
 敵の手を早めに察知出来たからこそ、成功させておきたい。
 久郷・景(雲心月性・b02660)は時計を取り出すと素早くアラームをセットする。
 ――3分。それは皆で決めた、この決戦のタイムリミットだった。
「百鬼夜行の強化なんて、させない」
 灯りに照らされ、はっきりと瞳孔に映る異形の怪物。
 その獰猛さを前に楢芝鳥・俊哉(図書室の主・b20054)は武器を強く握りしめる。
 妖獣を迎えようとしている一群は、それを50体近くも束ねているのだ……。
「これが鵺……噂には聞いていたけど、恐ろしい姿ね」
「皆、無理はしないようにね」
 柚樹は前に飛び出すと同時に花を意匠した剣と純白の刀身に白燐蟲の光を施す。
 斎姫・伽藍(翠嵐の蹤跡・b35932)も戦う仲間を守護しようと夢の力を解き放った。
「必ず守るわ……」
 前衛と後衛のフォローをするのが、自分の役目。
 柚樹と位置をずらすように中衛についた洋恵も愛刀を掲げて勢い良く振り回す。
「それでも、やれることをする。それだけ、だ」
「ええ、生きて帰る為に出来る事を全力で……!」
 敵の思う通りにはさせたくないのは、柳も同じ。
 鵺を囲むように位置取った俊哉も柳と同時に射手で術式を高めた。
「行くぜ竜二、皆!」
「ああ、この絶好のチャンス、一手を割かず訳には行かないぜ!」
 半数が己や仲間の力を高める中、一気に攻めに転じたのは和彦と竜二。
「猫上さん、御願いします」
 同時に、景の傍らに立つケットシー・ワンダラーが主人に魔力を供給する。
 鵺の左側に和彦が、右側に竜二が素早く間合いを狭め、景も魔弾を繰り出す。
 和彦の渾身の一撃が、竜二の痛烈な蹴りが、景の炎の弾丸が鵺に炸裂した。

 グガアアア――!
 
 だが、たった3人では鵺の出鼻を挫くまでは行かず。
 攻撃体制を整えた鵺の咆哮が森を振わせ、その口から雷を纏った衝撃波が奔る。
 体制を整える前に麻痺に陥った者達に、伽藍はもう一度守護の力を与えた。
(「全員が一斉に攻撃していたら、有利に持って行けたかもしれないな」)
 最後方からでも感じる鵺の獰猛さを前に、翔の想いが微かに口元から零れる。
 隙を狙いやすい最初の一手で半数以上が自己強化で攻撃の手を止めていた事、
 長期戦ならまだしも、短期決戦を狙う戦いでは痛手になったかもしれない、と。

●凶雷
「うぐっ!」
「……っ!」
 中衛と後衛が包囲網を展開した瞬間、周囲にブンと風を斬るような音が奔る。
 瞬間、骨まで到達するような衝撃を受けた竜二と和彦は強く吹き飛ばされた。
(「くっ……重い攻撃ね」)
 敵の攻撃を無理に避けるよりも確実に防御する事に専念していたのは柚樹。
 尾から放たれた一撃に体力の3割を削られるが、唯一吹き飛ばされる事はなく。
「そっくり返させてもらうわ……」
 柚樹は返す刀の如く鵺の懐に飛び込むと、紅蓮を纏った一撃を繰り出す。
 炎と化した凝縮した妖気を勢い良く叩きつけるが、伝わる感触は――浅い。
「高火力だけで一気に押せる相手じゃないねー」
 俊哉も翻した詠唱マントから次々に雷を帯びた弾丸を撃ち続けていた。
 しかし、敵はそう易々と麻痺に掛かってくれる生易しい相手ではない。
「危ない!」
 防御も侭ならない景に雷撃が直撃しようとした瞬間、洋恵が咄嗟に突き飛ばす。
 チャコールグレーのマフラーの端が轟雷が擦ると同時に、悲鳴が上がった。
「洋恵さん……!」
「心配しないで、大丈夫……」
 体力が高めに維持していた洋恵でも雷を前に体力の半分近くを奪われていて。
 自分がまともに受けていた場合、持ち堪える事は出来なかっただろう……。
「この戦い、無事に鎮められまするよう……」
 夢緒は傷付いた仲間を救うべく、祈りを篭めた舞いを舞う。
 戦場を包み込む癒しの力。それは、戦う味方にとっては頼もしい守護の力。 
「後衛が直線上に並ばないように、位置取りに気をつけましょう」
 柚樹は既に最前線に戻り一手を引き受けていた和彦と竜二に呼び掛ける。
 轟雷波を避ける為に立ち位置を調整する事は最良の策の1つに間違いない。
 しかし、中衛と後衛にとっては攻撃の手を止める事にも繋がっていた……。
「大丈夫?」
「斎姫も、ありがとな!」
 伽藍も完治する間もなく肩口を噛まれ、生命力を啜られた和彦に癒しを施す。
 噛み付かれたまま体力を吸い取られる苦しさは尋常でなく、その息は荒い。
 しかし、己の役目は一撃でも多く攻撃を叩き込む事だと、果敢に攻めていく。
「――っ!」
 三度目の雷の咆哮が、闇の森に轟く。
 防御を試みるも間に合わず麻痺に陥った俊哉を軸に翔が癒しの風を届ける。
 地味に闇夜に隠れようとしても鵺が自らを攻撃した者を放っておく筈もなく。
 むしろ攻撃を繰り出す事自体、嫌でも反感を買うのに十分な行為だった。
「翔ちゃんに夢緒、サンキュー!」
 先程の縛めから解かれた洋恵の足元の影が揺らめき、腕を模した影が伸びる。
 伽藍も闇の腕に合わせて禍々しい怨念に満ちた瞳で鵺を睨みつける……が。
 しかし、目の前の凶獣は僅かに体を捌いただけで避けてみせて。
「普通に攻撃して、短期で倒せる相手では、なさそうだ、な」
 柳も持てる力を全て出し切るように、タイミングを合わせて魔弾を撃ち続ける。
 気魄と若干術式寄りの敵に対して同じ属性の攻撃で攻める前衛は相性が悪い。
 攻撃を惹き付けたり、敵の隙を誘う役の者がいれば、状況は違っていただろう。
(「だが、敵の攻撃が俺達に通じにくいという事にも、繋がる」)
 全員が防具を整えて体力を上げ、命中率と威力を重視した戦術には隙がない。
 鵺の猛攻の前に倒れる者は1人もなく、息を合わせて鵺の体力を減らしていった。

●轟雷
「もう一度、来るよ!」
 瞬時の戦いで見極められる程、甘い敵でないのは確か。
 しかし先程の一撃と予報士の情報を元に攻撃を察知した和彦は素早く身構える。 
 瞬間、振るわれた尾が柚樹の腕を擦り、攻撃に集中していた竜二を吹き飛ばした。
「一手持ちこたえてくれ! すぐ前線に戻る!」
 身体に走る衝撃は凄まじく、吹き飛ばされた後も息苦しささえ抱いて。
「無理し過ぎないでね、みんなで帰るんだからさ?」
「危険も敵の強さも百も承知だ、押忍!」
 多少傷が残ってようが攻撃の手を休めない竜二に洋恵が治癒を施せば、
 伽藍も柚樹が攻撃に専念できるように癒しの力を施し、其の背を支えていて。
 夢緒の舞と祈りを、翔の癒しの風を受ければ、攻めへ転じるのは難しくは無い。
(「1分半、少し不安になってきましたね……」)
 ――果たして時間まで、倒せるだろうか。
 景は微笑を絶やさずにいたものの、目前の敵に強い視線を向けていて。
 撤退に手間を取れば、非常に危険な状況になるだろう……。
(「退路の確保も、考えた方がいいだろうか」)
 後方から戦況を見ていた柳の胸の内にも、もう1つの選択がよぎる。
 勝敗よりも生きて帰ることを優先する 、それも皆で決めた大事な約束。
 ――だが、しかし。
「此処で全力を出さなきゃ、いつ出すっていうんだ……ッ!」
 麻痺に捕われようとも諦めない、倒れそうでも戦う意思を潰しはしない。
 和彦の瞳に宿る闘志は、まるで炎のように激しく揺らめいて。
「動きが止まった、轟雷波に備えて!」
 感覚を研ぎ澄ませて敵の行動を観察していた伽藍の声に全員が瞬時に動く。
 四度目の咆哮が狙うのは柳、しかし彼は紙一重でそれを避けた。
「前衛のフォローに入るから、翔ちゃんと夢緒はサポート宜しく!」
 引き受けた仕事は必ず遂行するのが自分の矜持。
 つまり、敵を倒しここにいる全員で生還する事だと洋恵は前に立つ。
「回復、御願いしますッ!」
 入れ違いにダメージが蓄積して後方に下がった和彦を伽藍が即座に癒す。
 誰もがタイミングを合わせようと、意志の疎通を行う事を常に意識していて。
 息継ぐ間もない中、互いに声を掛け合い、位置を知らせ、警戒を呼びかける。
 それは、どんな武器や防具よりも勝る、彼等のもう1つの力――。
 だからこそ、誰もが諦めず、攻撃を続けていて。
(「本当に、心強いわね……」)
 仲間から仲間に届く声は、自信の励みにもなる。
 鵺に肉薄した柚樹は強力な技の反動に臆する事なく、紅蓮の大技を繰り出す。
 隙を見せて吹き飛ばされても、中衛の洋恵と伽藍が即座に穴を埋めてくれる。
 後衛には狙撃手、最後方には癒し手達……何も臆する事は、無い。
「ならば、倒すだけだ、な」
 撤退条件を充たすには、まだ余裕がある。
 柳は闘牛に勝負を挑むように、黎き刻印の入った漆黒のマントを翻す。
 景もタイミングを合わせるように滅びを意匠する魔道書から炎を撃ち放った。
「先程よりも、攻撃が効いているね!」
 宙を裂いて飛ぶ魔弾に貫かれた上に魔炎に焼かれた鵺は、苦悶を上げていて。
 伽藍の瞳には、敵が疲労していた事が明白に映っていた。
「咬みつき注意!」
 短期決戦で敵の攻撃を覚えるのは難しいが予報士から情報は得ている。
 反撃に転じた鵺が飛びかかろうと姿勢を低くした時、俊哉は大きな声で叫んだ。
「よっしゃ、任せろ!」
 その声に反応した竜二が身を逸らせた瞬間、鋭利な牙が二の腕をかすめる。
 一髪で攻撃を避けた竜二は俊哉に礼を述べると既に反撃の態勢に移っていて。
 気心知れた友を始め、信頼できる仲間に気合い十分だと敵の懐に飛び込んだ。
「みんなで生きて帰りましょー」
 この戦いに勝つ為に、そして皆で生きて帰って、笑い合う為に――。
 俊哉は竜二の攻撃に合わせて詠唱マントを翻し、魔弾を撃ち放つ。
 中衛に戻った洋恵も休む間もなく闇の手を撃ち込む姿勢で臨んでいて。
「もう少しです、一気に畳み掛けましょう」
 明らかに疲労を濃くした敵を前に、景は猫上さんと攻撃を合わせていく。
 常に呼び掛けに耳を傾けていた柳も景達に合わせるように魔弾を撃ち出した。
 闇を、一丸となった弾丸が切り裂いた。
『グオーーーン』
 一斉に放たれた弾丸を受けた鵺は苦悶の声を上げ、柚樹に牙を剥ける。
 しかし、景の呼びかけで動きを予測していた彼女は身をよじってかわし、
 その隙を狙うように伽藍が鵺を強く睨みつけ、内側から切り裂いた。
「この炎の一撃を……食らいなさい!」
 ――強い。だからこそ、妖狐の戦力に加えさせる訳にはいかない。
 闇夜に紫色の髪が靡き、花の意匠を凝らした二刀の宝剣に乗せた紅蓮の炎が宿る。
 弾丸を追うように跳躍した柚樹は体を乗せるように、勢い良く刃を叩き付けた。
「人間の絆の力を知ればいいわ」
 沈む紫色の髪を追うのは、漆黒の腕。
 洋恵の足元のから伸びた闇を模した腕が、意思を持つかのように鵺を切り裂く。
「この一撃だけは……」
 仲間が、そして支えてくれる人達が居るからこそ、力が出せる。
 その想いが力になり、気力で麻痺を脱した和彦の背を押した。
「絶対に外さないッ!!!」
 和彦の気合と渾身の力を乗せたパイルバンカーが闇夜に煌めき、脳天を撃ち砕く。
『グオォォ……ン……』
 闇夜に響く咆哮は雷を奔らせる事も、力も無く……。
 一度だけ痙攣するように震えた凶獣は、二度と動く事なく大地に崩れ落ちた――。
 
●闇に紛れて
「少し時間を掛けてしまったわね、急ぎましょう」
 強敵を倒した喜びと安堵も束の間、洋恵の呼びかけに誰もが速やかに撤退を開始する。
「丁度3分……いやな予感がします」
「長居は無用ですし、狐が来る前にさっさと帰りましょう」
 景は素早く時計のアラームを止め、警戒するように辺りを見渡していた俊哉も頷く。
 誰もが、すぐそこまで死の影が迫っている事を感じていた……。
「一刻も早くこの場を立ち去るのが何よりも優先ですね」
 退路や敵が近付く方角を確認していた柳に続いて柚樹も後に続くように木々に紛れる。
 柳が選んだのは来た道とは逆の方角。それが、彼等に迫っていた状況を現していた。
「全員で欠ける事無く帰るのが、何よりの目標だからな!」
「ああ、全員で生きて帰るぜ、押忍!」
 和彦の声に仲間の背を護るように殿に付いていた竜二も頷く。
 そして、百鬼夜行の気配を警戒しながら木々に紛れた。

 ――其の、数十秒後。

 つい先程まで彼等がいた場所に在るのは、纏わりつくような強い怨念と死の淀み。
 夜明けと反対に色濃くなった深淵の中、灯籠の光だけが、静かに揺れていた――。


マスター:御剣鋼 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/10/16
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