<リプレイ>
● 「運動会を最初に考えた人は誰なんだろう……」 活気に満ちた運動会の会場にあってただ1人。陰鬱な表情を浮かべる少女が居た。 彼女の名はアヤ。この夢を見せられている本人である。 「白組優勝目指して頑張りましょうね」 「あ……はい」 「運動会はお祭りみたいなもの、楽しまなきゃ大損ですの」 「そう……ですね」 声を掛けたのは真月・マサト(小学生月のエアライダー・b47415)とファルチェ・ライプニッツ(悠久の幻奏・b46189)。 「(運動会2戦目と云った所かな?)」 グラウンドを見回す池田・勇人(デッドマン・b44604)。 銀誓館の運動会はつい先月行われたばかりなので、能力者達にとってはやや連続の感もある。 「運動会はやっぱりブルマですの! 皆さんの分もご用意致しました」 その横で、持参したブルマを配布し始めるのは真田・幸奈(お茶目な言霊使い・b20804)。 そして言われてみれば、確かに紅組の女子達もブルマーを着用している。ナイトメアの持つ運動会のイメージが古いのが原因だろう。きっと。 「ぼ、僕ははかないですよ!」 マサトは断固として受け取りを拒否。 女装経験のある彼だが、自身の趣味では無い様だ。 「今時ブルマは無いと思うけど」 速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)も難色を示しながら、一応受け取る。 「そろそろあきらかに犯罪臭がするけれど」 一方、これもアヤの為……と考えてかどうかは不明だが、まんざらでも無さそうに受け取る九鬼・桜花(剣姫無双・b00036)。 「そろそろ始まるみたいだね。皆で気合入れるよーっ」 そうこうしている内に、間もなく最初の競技が始まる様子。デューテ・ハルトマン(出来損ないのホムンクルス・b61163)の呼びかけで、円陣を組む一同。 「みんなで一緒に、頑張ろうね! ほらアヤさんも」 「は、はい」 後藤・つかさ(菫青のアルビレオ・b30488)に手招きされて、アヤも円陣に加わる。 「皆の力を合わせて優勝するんだよ! ファイトー!」 「「おーっ!」」「おーですの♪」「いっぱーつ!」 黒依・しろ(食う寝る遊ぶ・b49029)の音頭に合わせ、バラバラに喚声を上げる一同。 いよいよ運動会が始まる。
● 「玉を数個まとめて、両手で持ちカゴの真上に向けて投げる。こんな風に!」 「玉を集めて大きな塊にするの。それを頭の位置まで持ってきて、籠より少し上めがけて押し出す!」 競技が始まるとすぐに、勇人とつかさが皆へレクチャーしながら手本を見せる。 「なるほど、1個1個狙って投げるより一杯入るね!」 2人のアドバイスを聞いて、これに倣うデューテ。 あっという間に白の玉がかごの中に増えてゆく。 「さぁ、アヤさんも」 「は、はい」 ファルチェは数個の玉を拾い集めると、アヤへ手渡す。 アヤはぎこちない様子で、それでも2人のアドバイスを元に玉を投げる――が、かごの高さまで届かない。 「みろよ、全然届いてないぜ!」「あはは! 仲間の足引っ張ってるだけだな!」 途端に、紅組側から罵声が上がる。 「うるさい、喰うぞこらー!」 それを上回る大音声で怒鳴りつけ、黙らせるしろ。 「やっぱり私、拾う側に……」 「まだまだこれからですの。さぁ、よぉく狙って一緒に投げましょうですの」 意気消沈したアヤを励ます幸奈。 そんな2人の傍に、次々に玉が転がってくる。 「また外れちゃった、結構難しいわね」 桜花の投げた玉がかごを外れ――というよりわざと外し、アヤの近くへと転がしているのだ。 「さぁ、投げて投げて♪」 「ううっ……お願い、入って!」 今度は距離は十分だが、やや右に逸れている。これもハズレか。 ――ぼこっ。 と思いきや、幸奈の投げた玉とぶつかり合い、上手い具合に軌道修正。 「は、入った」 「上手い! その調子だよっ。どんどん入れていこうっ!」 「はい!」 これでコツを掴んだのか、アヤはつかさの言葉に元気よく応え、また玉を投じてゆく。 「(やるわね幸奈……)」 アヤの球道を読み切ってなければ出来ない芸当。さすが忍びだと感心するめぐるだが…… 「なんか悔しいですの……」 狙ってやったワケではなかった。 ともかくアヤがコツを掴んだ事もあって、どんどんかごの中の玉は増えてゆく。このペースなら玉入れの勝利はほぼ確定したと言って良さそうだ。 ――ヒュッ。 そんな時、赤玉の1つがアヤの顔面目掛け凄まじい勢いで飛んできた。 流れ弾というよりは、狙って投げつけた様な球威。布製とは言え、直撃すれば痛いに違いない。 ――ぼすっ。 だが、それはすんでの所で桜花にたたき落とされる。 「ならもう一度!」 しかし紅組の男子は再び玉を拾い上げ、振りかぶる。 「ご、ごめんなさーい!?」 今度は、マサトがぶつかってこれを妨害。玉は明後日の方向へ飛んでいった。 ――パーン! パーン! 「それまでーっ!」 空砲が鳴り響き、ここで時間切れ。 「それでは、両チームの玉を数えます。いーち、にー、さーん……」 カウントを待つまでもなく、白組の勝利は明らかだった。
● 「「いちにっ、いちにっ」」 「しろさん、幸奈さん、頑張ってー!」 2つめの競技は二人三脚。先頭のしろ・幸奈ペアが慎重にコースを走る。紅組も卒のない走りで、両者は抜きつ抜かれつ、デッドヒートを演じている。 「良い調子だよー! 頑張って!」 「(ちょっとドキドキします……でも、ここでリードを取れればアヤさんも走りやすくなると思うのです)」 2番手はつかさ、マサトペア。 ちょっと気恥ずかしい様子のマサトだが、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。 やがて、最終コーナーを回ったしろ・幸奈がラストスパートを掛けてやってくる。 「出来るだけ有利な形で次に回したいね。行こう! いちに、いちにっ」 ゆっくり、ペースを掴むように歩み出すつかさ・マサトペア。しろ・幸奈ペアからそれぞれバトンが手渡される。 つかさ、マサトとも運動を得意とするだけあって、かなりのハイペース。じわじわと紅組ペアからリードを奪ってゆく危なげない走り。 「2人とも良い感じね。わたし達も息を合わせていきましょ♪」 「ああ」 次に控えるのは桜花・勇人ペア。 男の子ならドキドキが止まらない様な過剰な密着具合にも、勇人は冷静そのもの。 幼女じゃないからなのか、根っからクールなのかは不明だが。 「頼んだよ!」 「お願いします!」 結局、つかさ・マサトペアの活躍によって奪ったリードはそのままに、バトンは桜花・勇人ペアに渡る。 受け取る側は下から手を出すと言う基本をしっかり踏まえ、スムースなバトンリレー。 「1.2.1.2♪」 リズム感に優れた桜花と、やはり運動能力に長ける勇人のペアも、危なげない走りを見せる。 いや、桜花の胸の揺れ具合が危ないと言えば危ないが。 「き、緊張してきました」 「落ち着いて深呼吸を……さぁ、もうすぐ2人が戻って来ますの」 さぁ、次はいよいよアヤとファルチェ。 最終コーナーを回った桜花・勇人は、一定のリードを守りながらやってくる。 「ゆっくり息を吸って、吐いて、深呼吸ですの」 「すーはーすーはー……」 リードを奪っている事はもちろん良い事だが、もし自分の所でヘマをしたら……そんなプレッシャーは大きい。 勇人のアドバイスを思い出しながら、バトンの受け渡しに集中するアヤ。 ――どんっ。 「あっ!」 まさにバトンが受け渡されようと言う瞬間、紅組のペアがアヤの背を突き飛ばす。 その衝撃でアヤは、バトンを取り落としてしまった。 こういう仕掛けはファルチェも予想済みの事だったが、受け渡しのタイミングを狙われては防ぐ事は至難。 「見ろよ、落としてやんの!」 指さし笑いながら、さっさと先を行く紅組ペア。 「ご、ごめんなさい……」 「大丈夫ですの。さぁ、いちに、いちに」 笑顔のファルチェに励まされたアヤはバトンを拾い上げ、再スタートを切る。 焦るアヤは、中々かけ声に合わせて足を動かすことが出来ない。だが、そこは巧くファルチェの方が合わせて足を運ぶ。 リードを広げられることなく、逆に猛烈な追い上げを見せながら最終コーナーへ入る2人。 「さぁ、もう少しですの。いっちに、いっちに!」 「はいっ!」 結局、アヤ・ファルチェペアは序盤のビハインドを大分リカバリーし、僅差の状態でアンカーのデューテ・めぐるペアにバトンを回す事が出来た。 「さぁ、行くわよ!」 「皆からのバトン……トップでゴールに届けられるよう頑張るよ!」 アンカーを任された2人は運動神経も良く、また気心の知れた仲と言う事もあって息の合った足運び。 「2人とも、頑張ってー!」 アヤも祈るような気持ちで、必死に声を張り上げ応援する。 「いちにっ! いちにっ!」 その応援が届いたのか、デューテ・めぐるペアは最後の直線で猛烈な追い上げ。 ついには紅組ペアを抜き去り、ゴールテープを切った。 「やったー! ……でも、ごめんなさい。ミスしちゃって」 「ドンマイですの」 「そうそう、少しくらい波乱がないと面白くないしね」 「ありがとう! 最後の競技も頑張りましょう」 「おーっ!」 申し訳なさそうに言うアヤだが、皆の笑顔と勝利が彼女を励ます。 次は最終競技、棒倒しだ。
● 「食べた食べた! アヤさんはあんなちょっとで大丈夫?」 「私もお腹いっぱいですよ」 確かに運動会と言えばお弁当タイム。棒倒しの前に、一同はお弁当を食べて腹ごしらえ。 しろ程ではないにせよ、アヤもしっかり英気を養ったようだ。 さて、2勝を上げながらも点数は僅差の両組。最後の棒倒しが勝敗を握る。 「アドバイスは、ひとまず当たれ!」 「それってアドバイスと言えるのかな……?」 「皆、そろそろ始まるみたいよ」 見れば、紅組は中学生とは思えないような体格の者ばかり。 「つ、強そう」 「潰されたって諦めなければ大丈夫! 最後まで頑張った人に、栄光は与えられるものなのです」 「今度こそ優勝を勝ち取ります!」 「わたし達がついてるから、アヤさんは紅組の棒を倒す事だけ考えて」 「解りました!」 攻撃部隊はアヤを中心に編成されている。 確かにアヤが棒を倒せれば最高の結果だが、敵に狙われやすい諸刃の剣でもある。大胆な試みが吉と出るか凶と出るか。 「幸奈達はしっかり棒を守りましょうですの」 「ええ、指一本触れませんの」 「さぁ、始まりますの……じゃなくて、始まるわよ」 ――ぱぁん! 銃声が響き、戦いが始まる。 攻撃部隊はやや迂回気味に紅組の棒へ、紅組からも勢いよく白組の棒目掛けて突進してくる者達が居る。 「アヤさんいこー! 突撃だーっ!!」 「お、おーっ!」 ――どかっ! ばきっ! しろとマサトは、目の前に立ちふさがる紅組を次から次へグラインドアッパーで吹き飛ばしてゆく。 しかし雲霞の如く襲いかかってくる紅組。アヤ目掛け捨て身の攻撃だ。 「おらっ!」 堅い守りを強引にかいくぐって、アヤへ伸ばされる手。 ――バシッ。 だが、すんでの所でそれを払い除けたのは勇人。 「やらないか?」 「うほっ、邪魔な男……どけっ!」 「いいのかい、ホイホイ付いて来ちまっても? 俺は雑魚でも構わずインパクトしちまう男なんだぜ」 ――ドゴォッ! 勇人のパイルバンカーは痛烈な一撃を見舞い、憐れな衛兵は瞬殺されてしまった。
その頃、白組の棒にも無数の敵が押し寄せていた。 「来ないでくださいですの! 次から次に、キリがありませんの」 ――バシィッ! 幸奈の手から放たれた衝撃派が、敵を吹き飛ばす。 「しばらく、そこで大人しくしてて下さいですの。……デューテさん!」 ファルチェも必死に、魔法の茨で攻め手の動きを封じる。 「大丈夫、触れさせないよっ!」 「アヤ達は大丈夫かしら……っと!」 デューテとめぐるもまた、背後から忍び寄っていた敵をジェットウインドで足止め。 ひたすら白組の棒を死守しながら、攻撃部隊が敵の棒を倒してくれるのを待つ。
「どいてよっ!」 つかさの花軍が、また敵を1人屠る。 攻撃部隊はジワジワと、しかし確実に敵の棒に迫ってゆく。 ――バッ! 「今がチャンスよ!」 「今です! アヤさん!」 桜花による茨の領域が、再び数人の敵を封じる。間を置かず、マサトの震脚が敵を吹き飛ばし道を切り開く。 紅組の守備隊はいずれも能力者達と対峙しており、棒の守りは極めて薄い。 「は、はいっ!」 棒目掛け、猛然とダッシュするアヤ。 ――がっ。 「うぎゃっ!?」 だが、転がっていた石に足を引っかけて派手に転倒。 「ぎゃはは! だっせー!」 「後ろにでもすっこんでな!」 一斉に巻き起こる嘲笑と罵声の渦。 「め、眼鏡眼鏡……」 おまけに眼鏡を落として、あたふたと地面を探している。 ――ガシャッ。 「おっと、わりぃわりぃ。踏んじゃったよ」 その上、落ちていた眼鏡を踏ん付けて壊されてしまう。 「ううっ……」 とっさに蹲り、耳を塞ぐアヤ。 「アヤさん、悪口なんて勝って全部吹き飛ばしてしまえばいいのです!」 「棒はすぐ目の前にあるから!」 しろの炎の蔦と、つかさの気迫の鎖が残っていた敵を拘束する。 アヤは仲間の声に励まされて何とか立ち上がる。 「ビシっとキメちゃいなさい♪」 「アヤさん、そこだ!」 「お願い! 倒れてーっ!」 ――どかっ! 渾身の力を籠めた体当たり。 棒はグラリと傾き―― ――ズシーン! そして倒れた。 白組の完全勝利である。 「こ、こうなったらあいつだけでも道連れに」 「おいおい、どこに行く気だ?」 「ここまで手加減してた分容赦無くいくとしますか♪」 最後の悪あがきを試みようとする衛兵達だが、もはや無駄な努力。 ルール無用の戦いとなれば、能力者達の敵では無いのだ。
● 「ばんざーい! ばんざーい!」 グラウンドで胴上げされるアヤ。 「ほんとにありがとう。こんなに運動会が楽しいと思ったのは初めてです!」 興奮冷めやらぬ様子で、皆と抱擁やハイタッチを交わす。 「運動が苦手な幸奈でも、一生懸命やれば何とかなっちゃいますの。だからアヤさんも、苦手だとか気にしちゃいけないですの」 「ええ、仲間と協力したら優勝だって出来ちゃうんです。だから僕は運動会って大好きなんです」 幸奈とマサトの言葉に、大きく頷くアヤ。 一生懸命頑張る事。仲間達と力を合わせる事。勝敗に関わらず、そこには運動会の醍醐味が有るはずだ。 「この機会に、コンタクトデビューはどうだろうか?」 「コンタクトですか?」 眼鏡が壊れてしまった為、今は素顔のアヤを見て提案する勇人。 良く見ればかなりの美少女だ。 「もっとお洒落な眼鏡にするとかね。アヤちゃんは可愛いんだから、もっと自信を持って♪」 「……あ、ありがとう」
こうして、一足先にアヤの夢を後にする能力者達。 運動会という苦手を克服したことで、アヤは少し前向きになれた様だ。もう同じ悪夢に囚われる心配も無いだろう。 優勝カップを抱え、手を振る彼女を見て、能力者達はそう確信した。
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参加者:8人
作成日:2009/11/07
得票数:ハートフル20
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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