<リプレイ>
● 「「我らにぴょろりの栄光を」」 朱鴉・詩人(紅月・b00658)を初めとする「Laboratory」の面々は、声を揃えてそう発する。 これまでのどこか混沌とした雰囲気が、途端に凛とした物に変貌した。 「しゅー……」 「……なんだったか」 「状況開始?」 かと思いきや、決め台詞が徹底出来て居なかった。 「「状況開始!」」 やっぱりどこか締まらない一同だが、ともかく戦いは始まった。
「ぴょろりを持たざる者達に負ける事は許されません」 「まぁ、参りますか……ぴょろりと、ね」 魔方陣を展開する詩人と、黒燐蟲達を舞わせる高遠・深哲(予言・b00053)が前衛として押し出す。 「なるべくう〜ちゃんは側にいてね」 「よく分かんないけど、あたしたちの大切なぴょろりは渡さないよぅ〜!」 続いて、後衛の白玖・蛍(ぽこ・b01342)は真モーラットピュアのう〜ちゃんにゴーストアーマーを纏わせ、自らの援護を指示。フィア・オルクス(氷蝶の凶夢・b20111)も同様に、自らの姿を二重に映して守備力を高める。 「ぴょろりオブびしょーねんのぴょろり、見せてやんよ!」 魔狼の闘気を纏う有田・一人(黒ノ夢・b11273)は、高らかな宣言と共に中衛の位置へ。 「(皆輝いてんなぁ。俺もノるけどさ)」 皆の様子を見て軽く笑みを浮かべたリズ・シュトラウト(白百合の剣士・b02866)は、グラットンソードを回転させて身構える。 「手毬のぴょろり、尽谷まゆこ、参りますの!」 そして、鉄球に白燐蟲を纏わせる尽谷・まゆこ(野守蟲・b30722)。そろそろぴょろりと言う文字がゲシュタルト崩壊を起こしそうだが……。 「妙な連中だが、腕は確かな様だ。こちらも全力でゆくぞ!」 「へっ、了解」 同様に距離を詰めつつ、油断無く告げる銀髪の女。彼女が片手を挙げると、騎士達(騎士甲冑を身につけているので、仮にそう呼称する)は薄いもやの様な物に包まれる。 「狙った相手が俺らだったのは不運だな」 桐崎・凍佳(黒閃・b00217)は油断無く相手の動きを見据えながら、自信の表れとも取れる同情の言葉を呟いた。
● 「ぴょろりを狙うたあ、イイ趣味イイ度胸……だが、運は悪かったな!」 「何度も言っている様に、我々の目的は詠唱銀だ。そのぴょろりとやらに興味は――っ!?」 ――ガガガガッ!! 一人の言葉に対して再び弁明しかけた銀髪の女に、無数の弾丸が降り注ぐ。 「っ……やるな」 挨拶代わりの一撃は相応の打撃を与えたようだが、ひるむ様子はない。 「さて、今のうちに食らわせておくか」 ――バッ! 凍佳の意のままに、無数の黒燐蟲が騎士達へ襲いかかる。 まだ密集状態にある敵の布陣を見切っての攻撃だ。 「来るぞ!」 「こんな物っ」 騎士達はそれぞれに素早い身のこなしを見せ、ある者は突撃槍で蟲達をなぎ払い、ある者はサーコートで払い除ける。 結果的に、ダメージと言えるほどの打撃は与えられなかった。 「そんなもんかい?」 「なに、ほんの挨拶代わりさ」 勝ち気な笑みを浮かべながら言う赤毛の男に、凍佳は涼しい表情のまま言い返す。 まだまだ両者ともに探り合いの段階。互いの手の内を読み合いながら、戦いは激化してゆく。
「失礼、まだ名乗っていませんでしたね。朱鴉詩人、とは仮の名。魂の名である我がぴょろりネームは、紅月のぴょろり」 「蛍も仮の名。ぴょろり王のうーちゃんの傍らにいることからっ、ぽこっとぴょろり! ちなみにう〜ちゃんは、ふわもこぴょろり!」 ふと思い出したように、名前を名乗る詩人と蛍。 「……レンテだ」 銀髪の女は短く答えたが、余り関わりたく無さそうなオーラがありありと出ている。 戦闘も会話も無く、さっさと詠唱銀を頂いて帰りたいと言うのが彼女の偽らざる本心なのだろう。 「ぴょろりは、いい。詠唱銀よりもよほど良い物だ」 ――ヒュッ! ガッ! 「我々の目的は詠唱銀のみだ」 詩人の繰り出す弧状の蹴りを腕で防ぎ、短く答えるレンテ。 「う〜ちゃん、凍佳君! いくよ〜!」 「了解だ」 詩人とレンテが斬り結んでいる間にも、蛍、凍佳、う〜ちゃんの3人(?)は連続攻撃を仕掛ける。 ――バッ!! 呪いの籠もった漆黒の弾丸が、再びの黒燐蟲達が、そして激しい火花が騎士達に降り注ぐ。 「ちっ! この程度!」 「い、痛いです……」 連携の取れた3人の攻撃に、さしもの騎士達も少なからずダメージを受ける。 「このままでは不利だ、敵を減らすぞ。あの綿飴みたいな奴に波状攻撃だ!」 レンテが突撃槍を振う。う〜ちゃんは明らかに間合いの外だと言うのに。 ――シャッ! 先ほどから騎士達の周囲を覆っていた白いもやが、レンテの姿を映して一気にう〜ちゃんの間合いへ飛び込む。 「きゅうっ!!」 「う〜ちゃん!? なに今のっ!」 「へっ、俺たちの間合いはお前らとは違うんだぜ。そらよっ!」 ――ヒュッ! 痛烈な一撃を受け、思わず目を回すう〜ちゃん。他の騎士達も一斉にう〜ちゃんめがけて攻撃を繰り出す。 赤毛の男が放った一撃はなんとか回避するが、まだまだ危機は脱していない。 「守れっ!」 ――キィン! 「ミストファインダーの様な物ですか。ところで、ぴょろりと詠唱銀の関係、興味ありません?」 すかさず黒燐蟲を舞わせてう〜ちゃんの傷を癒しつつ、深哲は赤毛の少女が振り下ろした槍を青竜棍で受け流す。 「え? 関係……ですか?」 「お答えしても構いませんよ? ……貴女方の目的を教えて頂けたなら」 「レティ、聞く耳持つな!」 「わ、解ってます! あなた達に教えることは何もありません!」 「それは残念」 横から仲間の口出しもあったが、赤毛の少女はきっぱりと言い放つ。 勿論深哲もこの程度で情報が聞き出せるとは思っておらず、柔和な笑みを浮かべたままその言葉を受け止めるのみ。 「簡単にはやらせないよ。なんていっても、あたしたちにはぴょろりの加護があるからねっ♪」 ――ヒュッ。 「むっ!? 邪魔をするな小娘、痛い目に遭いたいか!」 フィアの放った水刃手裏剣が、スキンヘッドの男の攻撃を中断させる。 「小娘じゃないもん! おにーさんこそ、そのツルっツルな頭は廃墟ではなく太陽の下でこそ真価を発揮すると思うの。つまり、今の貴方では、あたしたちには勝てないよっ!」 「な、なにぃっ!?」 心の中にとどめていた妄想を、思わず反射的に口にするフィア。スキンヘッドの男は、こめかみに血管を浮き出させながら怒りを露わにする。 「今度はこっちの番だ。リズ先輩!」 「よし、弱ってる相手……お前からだな」 「えっ!?」 一人、リズが同時に狙いを定めたのは、レティと呼ばれていた赤毛の少女。 「不幸だな。よりによって俺達と当たるなんて。……いや、考えようによっちゃ幸運かもな。此処でぴょろりに目覚める事ができるんだから」 「目覚めません、そんなワケの解らない物になど!」 「我が魂の名であるぴょろりネームは白百合のぴょろり。推して参る!」 一人の二丁拳銃が火を噴き、リズの双剣が猛然と振り下ろされる。 「きゃあっ!!」 苛烈な反撃をもろに受け、よろめくレティ。 「レティ、下がれ! ベルクトは前へ。密集しすぎるな!」 「は、はい〜」「解った」 レンテの指示で機敏に陣形を変える騎士達。
● 「もう大丈夫だよ、う〜ちゃん」 蛍が深紅のオーラでう〜ちゃんを包み、その傷を完治させる。 「ちっ……こいつら、ガキのくせに結構手強いぜ」 「ほんと、可愛い顔してやるわねぇ」 激しくぶつかり合う両者だったが、回復力と攻撃範囲、そして数の差が次第に戦況に影響を及ぼし始める。 「足りないな。貴様らにはぴょろりが足りていない! 我が一撃でぴょろりに目覚めさせてやろう。皆行くぞ」 「「ぴょろり!」」 微かに浮き足立ち始めた敵を見て、詩人は一斉攻撃の指示。 「狙う相手を間違えましたねぇ。哀れとは思いますが」 「まあ、同情はせざるを得ない」 深哲、凍佳はそれぞれに同情の意志を示しつつ、しかし一切の容赦なく黒燐蟲達の力を解放する。 ――ババッ!! 「はっ!」 「いくよぅ〜!」 大量の黒燐蟲達が騎士達目掛けて乱舞するのに合わせ、詩人のクレセントファングとフィアの水刃手裏剣が空を裂く。 「ぐっ!!」「うわあっ!」 極めて熾烈な猛攻が、騎士達の体力を瞬く間に削いだ。 赤毛の男、そしてスキンヘッドの男がガクリと膝を突く。 「まだまだ、パワーがぴょろりとしたまゆの攻撃受けてみると良いですの!」 「安心しな、こっちだって死なせたくないのは一緒なんだよ!」 まゆこが牙道砲を放つと共に、一人のクロストリガーが再び火を噴く。命を奪う意志がないことを伝え、戦闘不能の敵は狙いから外す2人。 ――バッ!! 「うぐっ……」 後衛に回っていた赤毛の少女も、この一撃で膝を突く。これで残るは3人。 「いたた……どうするレン、ちょっと旗色悪いみたいだけど〜」 「色を変えるしかあるまい。はぁぁっ!」 黒髪の女に短く答えると、レンテは深哲目掛け槍を繰り出す。 軌道を読んだ深哲は、青竜棍でこれを受け流しに掛かる――が。 ――ザシュッ。 「っ……お見事」 瞬間的に非物質化した槍は、棍をすり抜け深哲の肩口を深々と斬りつけた。 戦闘に支障はなく彼も笑みを絶やすことはないが、相応のダメージには違いない。 「行きます!」 「参る!」 一斉に反撃に転じる騎士達。 ――ドウッ! ベルクトと呼ばれた壮年の男が、渾身の体当たりをリズに見舞う。 「くっ!? ずいぶん頑張るじゃねぇか」 炸裂するような眩い光と共に彼方へ吹き飛ばされるリズだったが、受け身を取ってすぐさま立ち上がる。 「さて、そろそろ状況終了といこうか?」 凍佳はそんなリズに黒燐蟲達を飛ばして傷を癒し、戦況の推移を見据える。 能力者達は傷を負いながらも、いずれも軽傷。もはや大勢は決したと言えた。
● 「今、私達と貴女達は敵同士かもしれない。でも、ぴょろりの前では誰しも一つになれる。苦しくはない、私の言葉に少し耳を傾けるだけで良いのです」 引き続き、騎士達をぴょろりによって啓蒙しようと言葉を紡ぐ詩人。 「くどいぞ! その様な物に興味は――」「いや、待て」 しかしいい加減聞き飽きたと見えて、声を荒げるベルクト。しかしそれを制したレンテは、槍を下ろして能力者達に語りかける。 「なるほど、お前達の言うぴょろりとやらは、余程素晴らしいものと見える」 「ぴょろりはね、ぴょろりを心から愛してないとその力を発揮してくれないんだよう」 うんうんと頷きながら、笑顔で答える蛍。 「そのぴょろりとやらも、詠唱銀からも手を引く。この場での戦いは終わりにしないか。互いに傷つけ合うことが目的でも無いし、その点では意見は一致していると思うが」 と、休戦を申し出るレンテ。能力者達は顔を見合わせる。 「確かに、無益な戦いはぴょろりに反しますの」 殆ど口癖になりかけているまゆこだが、意味は伝わっている様子。 「ちょっと待て。諦めて逃げるなら無理に追いはしないが、ひとりふたりは置いてってもらいてーな」 「そうですね。それくらいの譲歩はして頂きたい所です」 相手のペースを一旦断ち切り、条件を告げる凍佳。深哲もこれに同意し、頷く。 「良いだろう、私が残る。文句はあるまい?」 「(上手いことリーダーっぽい人を捕まえられたみたいですの)」 リーダー格のレンテが残る事になり、能力者達としては思惑通りの展開に持ち込めたと言って良く、誰も異論を唱えることはない。 「ただし、私から情報を得ようと思っているのなら、それは期待しない方が良い」 と、釘を刺すように一言付け加えるレンテ。 確かに、彼女の口を割らせるのは至難の業に思える。 「あぁ、前らの目的とかは聞くつもりは微塵もないんで。どうせ答えるつもりがない事聞くよりも、ぴょろりについて語って洗の……ではなくて理解してもらうのが有意義だ」 そんなことは承知の上だとばかりに、そんな言葉をのたまうリズ。 「……」 「洗脳なんていってないヨ? ま、正気を保ってられるかは知らんが。……うん? 何か聞こえたか。幻聴だろ、幻聴」 「気が変わった。私ではなくレティを置いていく事にしよう。こっちへ連れてこい」 「ええーっ!!?」 リズの脅しに身の危険を感じたのか、レンテは撤収仕掛けていた仲間を身代わりにしようと手招き。手負いにもかかわらず、理不尽な展開に悲鳴を上げるレティ。 「冗談だ。さっさと行け、私の事なら心配ない。……妙な連中ではあるがな」 そう告げると仲間達をさっさと逃れさせ、改めて「Laboratory」の面々に向き直るレンテ。 「(泣くかと思ったのに、いじめ甲斐の無い捕虜だな)」 「(まぁ、後々の為に丁重に扱うことにしましょう)」 小声でそんな事を言い合う深哲とリズ。 今回は詠唱銀(とぴょろり?)を巡ってやり合った両者だが、明らかになっていない部分も多い。 「とにかく、これで一安心かな? ぴょろりの前に悪が栄えたためしなし!」 「やはりぴょろりは正義でしたの!」 あさっての方向に勝利のVサインを決める蛍と、笑顔で勝利を喜ぶまゆこ。 「皆がぴょろりを盲信してくれたら、争うこともなくて、きっと平和になるのにねっ」 フィアもすっかり普段のスローペースに戻りながら、若干うさん臭い平和の形に思いを馳せる。 「じっくりと、ぴょろりについて語りましょう。さあ、さあ、さあ!」 「……お手柔らかに願うよ」 詩人は早速、捕らえたレンテに布教開始。 「……やれやれ」 ひとまず重傷者や死者を出す事無く一件落着。いつもこの調子なら良いのだが――内心そんな事を思いつつ、凍佳は安堵の吐息を零す。
かくして騎士達の真の目的やぴょろりの実態など、幾多の謎を残しながらも、廃ビルの戦いは「Laboratory」の勝利で幕を下ろしたのであった。
|
|
参加者:8人
作成日:2009/10/29
得票数:楽しい4
笑える23
怖すぎ1
知的1
ハートフル1
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |