<リプレイ>
● 「大人しく渡さないと、痛い目に遭うことになるぞ……リベレイション!」 「それはこっちのセリフだよ! イグニッション!」 昼下がりの公園の片隅で、戦闘態勢を取り対峙する2つの集団。 互いに殺し合うことが目的ではないとは言え、真剣勝負。命を賭した戦いに違いはない。 ――にも関わらず絵面から余り緊張感が感じられないのは、両者共に若く、小柄で、可愛らしいと言って差し支えのない外見の持ち主が多いせいだろう。 それもその筈、「幻桜の灰」の面々は全員が小学生。対する騎士甲冑の集団も、そこまで幼くは無いようだが、やはり若く小柄な女の子が多い集団。 「ひ、引っかかったなですー! 銀はあげませんです!」 「くっ……このような詰まらぬ罠を!」 山崎・ましろ(凍れる花冠・b45247)と緑髪の少女(カリンと呼ばれていたので、以下カリン)は、同時に段ボールを脱する。 「その、詰まらぬ罠に……見事にかかっていたみたいですけれど」 「うむ。まさかこんな罠にかかる人達がいるとは……」 別に悪気はないようで、ほわほわと呟く澤村・渚(白燐遣い・b31062)に、呆れながら頷くアンリェイナ・ファラフ(小学生花嫁・b70094)。 「ええ……本当に引っかかる人もいたんですね。なんというか、えとその」 「残念な頭じゃのぅ。最近のスズメでもかような罠にはかからぬかもしれぬ」 更には万木・沙耶(獄狗の巫女・b23472)が言い掛けて飲み込んだ言葉を、ユラ・セレスト(パラヤーナ・b58838)が容赦なく口にする。 「黙れ! お前達、子供だからといって私を侮辱する事は許さぬぞ! それをよこせっ!」 ――ひゅっ。 カリンは本気で怒りながら、ましろの持つ詠唱銀に手を伸ばす。 必死に逃れようとするましろだが、カリンの手はましろを捉え―― ――ぱしっ。 「貰った!」 つかみ取ったそれを頭上に掲げるカリン。 一同の視線がそこに集中する。 「……もふもふによる撹乱か。余の方がもっともふもふじゃぞ」 口を開いたのは、ましろを援護するためにいち早く前へ出たマグ・パラベラム(橙眼白狼・b41287)。 カリンの手中にあったのは、なぜか愛らしい兎のぬいぐるみ。 それは水瀬・雪白(六華繚乱・b46715)が相手の気を惹くために投げ込んだぬいぐるみ。偶然、詠唱銀の代わりにカリンの手に収まってしまったようだ。 「詠唱銀は!」 「無事なのです」 速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)の問い掛けに対し、詠唱銀の入った袋を少し挙げて答えるましろ。 「か、かわい……じゃなくて、変わり身の術か」 ゴンザを投げ返し、ぐっと悔しげな表情のカリン。 「ご、ごめんね! 狙ったわけじゃないんだけど」 紐をたぐり寄せて、ゴンザを回収する雪白。彼自身、こうなるとは予想していなかった。 「詠唱銀を多量に集め、何が目的なのか存じませんが、ここはひとまず一戦交えるところなのでしょうね。……宜しくお手合わせを」 そんな相手へ、リラローズ・マグスレード(紅き月下に舞う薔薇小姫・b52012)は恭しくスカートの裾を持ち上げて一礼。 「貴方達、詠唱銀を賭けた勝負です。勝った方には詠唱銀プラス美味しいお菓子を提供です」 「それは魅力的な話だが……姑息な奸計ばかり弄する卑劣な奴らだ。皆、油断するな」 アンリェイナの言葉には微かに口元を緩めるが、すぐさま表情を引き締めて仲間達へ告げるカリン。 「致し方ないですわね。手早く片付けて、詠唱銀を頂くとしましょう」 「なんだかガキばっかりだな……まぁいいか」 酷い言われようだが、カリンは突撃槍を手に身構え、他の騎士(仮称)達もジワジワと距離を詰める。 図らずも「幻桜の灰」によって罠にはめられた騎士達は、少し警戒を強めた様だが、ましろはこの間に仲間との合流を果たすことが出来た。 ここからは、正面切っての戦いとなる。
● 「余より小さい者はおらぬか……されど、必要とあれば皆の盾となろう」 マグは自分より小柄な相手が居なかったことを少し残念に思いながらも、僅かに浮き足立つ騎士達へ先制攻撃を仕掛ける。 ――ヒュッ! その小柄な体躯が目にも止まらぬ速度で跳躍し、カリンの首筋目掛け飛び掛かる。 「くっ、速い!」 しかし敵もさる者、すんでの所で腕を出し、この一撃を受け止める。 「夫人のフッサーラな素敵毛皮の魅了をくらえです! 実物大モラぬいも投げちゃうです」 間髪入れず、ましろはケットシー・ワンダラーの玉泉華夫人に指示し、踊りへの誘いを仕掛ける。 ビロードの艶とカシミアの手触り(ましろ談)を誇る夫人が華麗なステップを踏み、ましろの投げた等身大のモーラットぬいぐるみが宙を舞う。 「私も援護するのじゃ」 ユラも持参したぬいぐるみを投げてこれを支援。 「まぁ可愛らしい……わたくしも久しぶりに踊りたく――」「二度も同じ手に掛かるか!」 ――ばしっ。 「モラー!!」 あわれ、モラぐるみとユラの縫いぐるみはカリンの突撃槍によって弾き返され、地面に転がる。 夫人の誘いも、騎士達には通じなかった様だ。 「澤村様、万木様」 「ええ、解ってますわ」 「ケンさんもお願いします」 もふもふ作戦が功を奏さなかった以上、ある程度本気で行かざるを得ない。 リラローズの光槍、沙耶の獅咆、ケルベロスオメガのケンによる炎が一斉にカリンへ襲いかかる。 ――ゴォッ!! 「ぐっ……卑怯なだけでは無いようだな……」 「カリン!」「やらせるか!」 直撃は巧く凌ぎながらも、相応のダメージを負ったカリンが表情を歪める。騎士達は仲間を助けるべく、一斉に前へ。 「カリンさん、今助けます!」 桃色の髪をした少女(以下ミーナ)が、仲間達を白いもやのようなもので包み込み、カリンの傷をも癒してゆく。 「今です」 しかし、この機を見計らったかの様に、渚の叫びが空を振わせた。 「っ!?」 地獄の底より響くかの如きその声が、騎士達を襲う。 それはただの大音声ではなく、呪いを帯びた呪詛の叫び。 「っ……これは……毒、ですか」 「ザック! おのれ……またしても!」 狙い通りの展開に「幻桜の灰」の面々はしてやったりの表情。そして騎士達はほぞを噛む。 「だが、ここからだ」 「シャーロット、援護するわよ」 実戦経験の豊富さと言う点で「幻桜の灰」が一手上回るが、騎士達もまだ諦めては居ない。 ――ヒュッ! 銀髪の少女(シャーロット)と、赤毛の少女(カテリーナ)が同時に槍を振う。 白いもやは2人の姿をそのまま投影し、マグ目掛けて槍を振り下ろした。 ――ザッ! 「む……これは厄介な攻撃じゃな」 マグは2人の攻撃を受け止めるべく構えたが、それらはすり抜けるようにして、マグの身体に痛みの刻印を刻む。 「浄化を!」 めぐるによって浄化の風が吹き抜けるが、刻印を完全に消すことは出来ず、従ってマグの傷を癒すことも出来ない。 「可愛い女の子達に攻撃するのはあまり気がのらないけど……」 「致し方有りませんわ」 攻撃は最大の防御。雪白とアンリェイナは、引き続きカリンへの集中攻撃を行う。 「(なるべく痛くありませんように!)」 雪白の手より、無数の植物を束ねて形成された巨大な槍が放たれると同時に、アンリェイナは呪いを籠めた漆黒の弾丸を撃ち出す。 ――バシィッ!! 「うわあっ!?」 雪白の願いに反して(?)この攻撃は正確にカリンを捉え、かなりのダメージを負わせる事に成功した。 「大丈夫か、カリン! てめぇら、1人狙いとはきたねぇぞ!」 「戦場ではクールでなければならぬぞ」 「黙れ!」 小学生の様な理論を口走る黒髪の少年(ジーク)。マグの正論にも耳を貸す様子はない。 だが、騎士達はカリンを守るべく陣形を崩して一斉に前へ。彼女を守りつつ、一気に詠唱銀の奪取によって戦況の逆転を図ろうと言うつもりらしい。 「よーし、次は桃色の髪の子に集中攻撃なのです!」 ましろは前に出てきたミーナへの集中攻撃を指示しつつ、吹雪の竜巻を呼び起こす。 「マグ、援護するぞ」 「参りますわ」 マグが飛び掛かるのに呼応し、ユラとリラローズが波状攻撃を仕掛ける。 「ミーナ危ない!」 「ひええーっ!?」 桃髪の少女は、突如として烈火の如く降り注ぐ攻撃に慌てふためくばかり。為す術もなく噛みつかれ、森王の槍の破片を受け、光の槍に貫かれた。 「ううっ……もうだめです」 ミーナはそのまま、バタリと倒れ伏す。 「まずいですね……」 「まずいわねぇ」 ダメージの大きいカリンと、戦闘不能のミーナを庇う様に構えつつ、口々に言い合う騎士達。 元々彼らの目的は詠唱銀の奪取であり、長時間の戦闘を前提とはしていない。それ故ミーナが戦闘不能になった今、満足に体力を回復する手段も無いのだろう。 「ここは一旦退くか」 「素直に退かせてくれるとも思えませんが」 この上は、被害を最小限に抑えて撤退したいと言うのが騎士達の思惑。しかし、この状況からの撤退は容易ではない。 「アンリェイナ、もうお帰りの相談みたいよ? 余程門限が厳しいのね」 「……あらお菓子がお嫌いですの? 変ってますわね、その年からダイエットは身体に悪いですわ」 撤退の気配を臭わせる騎士達を見て、めぐるとアンリェイナは足止め狙いの挑発。 「くっ……勘違いするな。我々はいつまでもベビーシッターをしていられる程ヒマではないのだ」 「そうだそうだ! そっちこそお家に帰った方が良いんじゃないか? おチビちゃん達」 「お主達とて大して変わらんではないか」 「なん……だと?」 以下、暫く苛烈な口撃の応酬が続く事となった――。 ――。 「バーカ!」 「バカって言った方がバーカ!」 「ね、ねぇ、ちょっと待ってよ。ボク達は君らと戦いたい訳じゃあないんだ」 「罠にかけてしまってごめんなさい。貴方がたと普通に会ってお話しするのは、とても難しそうでしたから」 ヒートアップしかけた口げんかを中断させ、雪白とリラローズが穏やかな調子で言葉を紡ぐ。 「……そう言うことであれば、我々も戦いが目的ではない」 カリン達も顔を見合わせ、少し態度を軟化させる。 「闘わなくて済むのなら、それが一番なのですが……あの、紅茶お好きですか?」 「……」 このまま消耗戦を続ければ、全滅の危険もある。カリンは暫し考えてから、突撃槍を収めた。
● 「とっても甘いです」 「傷の方も、心配なさそうです」 段ボールを広げて敷物代わりに横たわり、ユラの手渡した飴を舐めるミーナ。 リラローズの手当を受けるが、傷の方もさほど深いものではなかったようだ。 「それで、先ほどまで戦っていた相手の手当をした揚句、茶と菓子まで振る舞う真意を聞かせて貰おうか」 ティーカップを傾けつつ、ズバリ尋ねる銀髪の少女。 「同い年くらいの人たちと戦うのは辛いですから……こんなことの後ですけど、少しでも仲良くしてもらえたら嬉しいです」 沙耶は自分の気持ちをそのまま伝えながら、持参した羊羹を皆の前へ並べる。 「うん。関係ないってつっぱねるんじゃなくて、理由を話して欲しいな。協力できることはきっとあると思うから」 続いて、兎のぬいぐるみを差し出しながら尋ねる雪白。 「ええ、大人しく事情を話せば美味しいお菓子の店を紹介しますわ」 更にはアンリェイナが苺ケーキ、シュークリーム、クッキーと次々に並べて籠絡に掛かる。 「悪いがそれは出来ない。例え命を落とす事になろうと、我々の目的について語ることは出来ない」 だが、これに対してはすぐさまカリンが言い放つ。 「私達を手懐けて情報を得ようというのなら、それは無駄な努力でしてよ?」 「そうだそうだ、殺すなら殺せ! その前にこのケーキは貰うけどな!」 澄ました表情でカップを傾けるカテリーナと、ケーキを口に詰め込むジーク。 「いや、確かに話も聞きたいが……何よりもっと仲良くしたいのじゃ」 「ええ。敵味方は関係無く、今はお腹いっぱいになるまで頂きましょう」 緊迫しそうになる空気を和ませるように告げるユラ。渚はお手製のサンドイッチを広げ、新たに振る舞う。 「……む、南瓜のタルトに栗のケーキか。ケーキは好きか? 余は大好きだぞ!」 「私も好き」 マグの問い掛けに、短く答えるシャーロット。 多少の緊張感を残しながらも、昼下がりのお茶会はその後も暫く続くのだった。
● 「……さて、茶と菓子、ミーナの手当てについては礼を言おう。お前達の要求は何だ?」 大量に並べられていたお菓子も綺麗さっぱり無くなった所で、そう切り出すカリン。 「皆さんで学園にいらっしゃると言うのはいかがでしょうか?」 提案する渚。 情報はなかなか聞き出せそうにないが、ひとまず捕虜にしておけば、交渉などで有利になる事も考えられる。 「つまり私達に、捕虜になれという事ですのね?」 「おいおい、俺たちはまだ負けた訳じゃねぇぞ! なんだったら最後の1人までもごもがが!」 「それも難しいな。我々は目的達成の為なら命も惜しまぬ。ここで全員が捕虜にされるくらいならば……」 何か言い掛けたジークの口を塞ぎ、カリンは冷静にそう告げる。 「えーと、では……怪我をされているミーナさんだけ、私達に任せて頂くと言うのはどうでしょう?」 宥めるように、新たな提案を出す沙耶。 「うんうん、無理して動かない方がいいのです」 回収したモラぐるみをミーナに抱かせつつ、頷くましろ。 「……解った。その条件を飲もう」 1人を捕虜として差し出す代りに、5人を帰還させる。カリンはリーダーとしてその条件を受け入れた。 無論、手放しに信用した訳ではないだろうが「幻桜の灰」の面々の人柄に触れて、ミーナを預けても大丈夫と判断したのかも知れない。 「必ず迎えに来るからな」 「お菓子で買収されたら承知しませんわよ」 「されませんよぅ……」 残るミーナと軽く別れの言葉を交わすと、騎士達はきびすを返す。 「……貸しとは思わぬぞ」 最後にカリンはそう言うと、その場を立ち去った。 「やれやれ、一筋縄じゃいかないみたいね。もふもふの魅力にも屈しないなんて」 なぜか夫人とケンさんの手触りを満喫しつつ、溜息をつくめぐる。 詠唱銀を守りきることは出来たが、彼らの目的を聞き出すことは出来なかった。 「いつかは友達になれたら良いがのぅ」 「さぁ、日もかげって来ましたし、寒くなる前にミーナさんをご案内しましょう」 「よしなに……です」
いつかは戦い抜きで、彼らと和やかな茶会を楽しめる日が来ることを祈りつつ、「幻桜の灰」の面々は公園を後にするのだった。
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参加者:8人
作成日:2009/11/26
得票数:楽しい15
知的2
せつない2
えっち1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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