マッシュルームハンティング・リローデッド


<オープニング>


「おじいちゃん、このキノコは食べられる?」
「どれどれ……こりゃダメじゃ。食べたら笑いが止まらなくなってしまう毒キノコじゃよ」
 この日、少年は祖父と共に、山へキノコ狩りに来ていた。
「あっ、おじいちゃん! 木の上にお猿さんが居るよ!」
「そりゃ居るさ。熊だって居るくらいじゃから――うん?」
 老人は落ち着き払ってそちらを見遣るが……どうもそこにいるのは、見慣れたニホンザルとは様子が違う。
 ――キキーッ!!
 老人がその違和感の元を察知するより早く、猿は飛んだ。
 跳躍したと言う意味ではなく、コウモリのような黒く大きな羽を広げ、文字通り飛んだのだ。
 ――バッ!
「う、うわあっ?! お、おじいちゃーん!!」
 そして猿は、飛び掛かった勢いで少年を掻っ攫い、そのまま彼方へと消え去った。

「良く来てくれたわ」
 軽く手を挙げて能力者達を迎えるのは、柳瀬・莉緒(中学生運命予報士・bn0025)。
「今回はね、とある山に出没する猿の妖獣を退治して欲しいの」
「山……ですかぁ……」
 余り覇気の無い様子で繰り返すのは、志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)。
「秋と言えば食欲の秋だけど、その山ではキノコが良く採れるのよ。これからのシーズン、キノコ狩りに訪れる人も増えるでしょうから、下手をすればケンタさんやお爺さんを始め、多数の犠牲者を出す事にもなりかねないわ」
 人的被害が出る前に、その猿妖獣を倒す必要があると言う事だ。

「で、肝心の猿妖獣なんだけど……普通の猿と違って、背中に大きな黒い羽根を持っているわ。ただ、数メートル浮く程度だから、気にせず普段と同じように戦って大丈夫よ」
 鋭い爪と牙を持ったその猿妖獣が、全部で3匹、山中に居るのだと言う。
 能力者達が山に入れば、向こうから襲いかかってくる筈なので、索敵等は余り気を遣わなくて良さそうだ。
「正直言って、あなた達からすれば大した敵では無いわ。はぐれたりして独りの所を狙われたりしない限り、苦戦する要素は無い筈よ」
「絶対にはぐれるなよ、危ないから絶対にはぐれるなよ! って奴ですねぇ?」
「……」
 山の中という事で、足場や視界は必ずしも良くはない。それでも、戦闘になれば恐れる様な相手では無いと言うのが莉緒の見立てだ。
 はぐれたりしない限りは。

「で……さっきも言ったように、山の中には食べられるキノコが一杯生えてるわ。せっかくだし、妖獣退治のついでにキノコ狩りでもしてきたらどうかしら?」
 この山では、誰でも自由にキノコ狩りを楽しむ事が出来る。
 また、山のふもとには小川が流れており、バーベキュー等を楽しむ事も出来そうだ。
「ただし、自分達が食べる量以上のキノコは採らないのがマナーよ。採ったキノコは責任を持って食べること。ゴミは持ち帰る。そんな所かしらね」
 キノコ図鑑を手渡しながら、注意事項を告げる莉緒。

「それじゃ、行ってらっしゃい。危ないから変なキノコは食べちゃダメよ」
 こうして、「フリ」なのか注意なのか解らない莉緒の一言に送られた能力者は、現地へと出発するのだった。

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参加者
島宮・火蓮(リトルウィッチ・b01973)
神谷・響介(煉刃・b02415)
西条院・水菜(退魔の姫巫女・b38359)
真和・茂理(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)
玖珂守・いつき(闇櫃のダークロード・b50763)
バーナード・ルイス(静かなる剣・b57773)
ヴァスカ・ハスクリー(アンスズの翼猫・b67897)
ギンヤ・マルディーニ(トレクアリスタ・b70345)
NPC:志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)




<リプレイ>


「結構な山道だね」
 この日、真和・茂理(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)を初めとする能力者一行は、この山に巣食う妖獣を退治すべく、鎌倉から遠路はるばるやってきていた。
 山育ちの茂理にとってはさほど苦にならないが、それでも道のりは決して平坦な物ではない。
「ええ、これは良い運動になるわ」
 島宮・火蓮(リトルウィッチ・b01973)も足下に注意を払いつつ相づちを打つ。
 急な斜面やてこぼこした足場も多く、生い茂る木々によって視界も狭い。気候が良い事と、また時間も早い為、明るいのが救いか。
「向こうから接触してくるって話だったが……どこから来るやら」
 前後左右は勿論、上方にも注意を払いつつバーナード・ルイス(静かなる剣・b57773)。
 能力者達は後衛を中央に、その周囲を前衛で守る輪形陣を敷いているが、足場や木々の関係上、完璧な陣形を形成することは不可能だ。
「(ま、こっちも強そうなみんなが居るし大丈夫でしょ!)」
 とは言え、能力者の殆どはヴァスカ・ハスクリー(アンスズの翼猫・b67897)と同じく、殆ど不安は感じていない。
 元々敵はさほど強力な妖獣ではなく、まして味方には腕利きの能力者が大勢居るのだから。
「トリュフですかぁ?! それは高く売れそうですねぇ」
「うん、イタリアのトスカーナ産のが有名だけど、中国でだって採れるんだし」
 志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)とギンヤ・マルディーニ(トレクアリスタ・b70345)の様に、幻と呼ばれるキノコに思いを馳せる者や――
「(食べたら巨大化するという伝説のキノコ伝説のキノコ……猿妖獣を片付けて、オレはその先の伝説を垣間見る!)」
 玖珂守・いつき(闇櫃のダークロード・b50763)の様に、幻どころか架空に近いキノコに情熱を注ぐ者。
「秋の風情があっていいもんだな……荷物は重いが」
 そして、神谷・響介(煉刃・b02415)の様に、大量の食材を持参した者も居る。
 もしもキノコが余り取れなくても、十分満腹になれそうだ。
「(これからこの山を訪れる多くの方々が、安心して茸狩りが出来るようにしないといけませんね)」
 そうは言いながらも根本には、西条院・水菜(退魔の姫巫女・b38359)が考えるように、一般人の安全とゴーストの退治と言う使命があるのだから、余り気を抜きすぎてもいけない。
 ほどほどの緊張感を維持しながら、一行は更に山の奥へと進んでゆく。


「どうやらここまでの様ですぅ……私の屍を超えてゆけですぅ」
「俺と比べたら遥かに楽だろ……この荷物見ろよ」
 運動不足がたたってフラフラの涼子に、響介は自分が背負う荷物を指さしてみせる。
 山の中を歩く事数十分、未だ妖獣の気配は無い。
「2人とも、早く来ないとはぐれちまうぞ。……んっ?」
 やや遅れがちになる2人へ、手招きしながら言ういつきだったが――
 その視界の端には、赤い傘に白い斑点を持つ、お目当てのキノコの姿。
「こ、これが伝説のキノコなのか!?」
「自分で言ってるそばから……確かにはぐれないといけないような気はしなくもないが……いや、やっぱり駄目だろう。目印だけつけて、後でまた来れば……」
 求めていたキノコに飛びつくいつきに、今度は響介が正論でいさめる番。
「いやいや神谷さん、キノコ採りの世界にはこういう言葉がありますぅ。『キノコとの出会いは一期一会と心得るべし』今見たからと言って、後からもう一度見つけられると言う保証はないですよぅ」
「そんな言葉があるのか」
「今作ったんですけどねぇ」
「なぁ、皆はどこだ?」
 そんな遣り取りをしているうちに、いつしか仲間の姿は見えなくなっていた。
「しょうがねぇ、バーナードに借りたブザーに頼るか」
「ちょっと待つですぅ。そんな大ごとにしなくても、すぐに追えばきっと追いつきますよぅ」
「しかし、追いつく前に敵と遭ったら大変だぞ」
「これを食べればオレも巨大に……?」
「これだけ歩いて遭えないんだから、そう簡単には遭えないですよぅ。もしばったり出くわしたとしても、3対3でイーブンじゃないですかぁ」
「そういう問題か?」
「いやいやいや冷静に考えるとこれ、どうみても毒キノコじゃね」
 そんな遣り取りを交わしている間に、頭上に忍び寄るのは黒い3つの影。
 ――がささっ!
「「げえっ!?」」
 物音に顔を向けた3人が目にしたのは、黒い羽根を広げて樹上から急降下してくる猿妖獣の姿。
「こりゃやべぇですね……」
 ブザーのボタンを押す涼子。けたたましいアラームが静かな山中に響く。
「お前らの好きにはさせないぜっ! 玖珂守!」
「解った。仲間が来るまで粘るぞ!」
 ――バッ!
 響介の腕から、闘気の鎖が伸びる。と同時に、いつきも光槍を猿目掛け投げつける。
 ――キキィィッ!!
 しかし不利な体勢からのとっさの反撃であった事もあり、タイマンチェーンは僅かに猿の横を通過し、光の槍は羽根の端を僅かに傷つけたにとどまる。
 そして猿の鋭い爪が、容赦なく降り注ぐ。
 ――キィンッ!
 緋焔煉刃でこの一撃を受け止める響介。
 いつきも月華の漆黒を振るって猿の攻撃を退ける。
「いたた……見るからに凶悪な猿どもですぅ」
 僅かに傷ついた腕を庇いつつ、地面に降り立った猿妖獣を見据える涼子。
 仲間が駆けつけるまで、粘るしかない。


 ――ビーッビーッ……!
「ブザー!?」
「あっ、後ろの3人が居ない」
 少し離れた場所を歩いていた本隊の耳に、ブザーの音が届く。
 ヴァスカが周囲を見回して、ついさっきまでそこを歩いていた3人が居ない事に気付く。
「戻って合流しましょう」
 ギンヤの言葉に頷き、一行はきびすを返す。

「一匹ずついくぞ!」
「落ちろっ!」
 再びいつきの光槍が猿を貫き、最上段から振り下ろされた響介の斬馬刀が、強烈な衝撃を猿妖獣へたたき込む。
「こ、こいつはやばいですぅ……援軍はまだですかぁ」
 しかし敵もさるもの。最も弱い涼子を集中攻撃し、体力を削ってゆく。守りに徹するが、いささかピンチだ。
 ――キィッ!
「危ない!」
 立て直す間を与えずに、涼子へ飛び掛かる妖獣。どう猛な牙が目一杯剥かれる。
 ――ボッ!
 しかしその牙が突き立てられるより早く、燃え盛る火球が猿を直撃した。
「猿が空を飛ぶな! ……魔女の私が箒で飛べないってのに」
 そこにいたのは、駆けつけた火蓮。
 その後ろには6人の能力者達。
「イッツ、ショータイムっ!」
 ヴァスカの情熱的なダンスパフォーマンスが、猿たちをも巻き込んでゆく。
「キノコ採取の邪魔はさせないよ!」
 その隙を逃すことなく、瞬時に猿の間合いへ飛び込んだ茂理。
 弧状の蹴りがその顔面を捉える。
「サクっといくよ! ブラッドスティール!」
 ギンヤの指が手負いの猿を指す。
 みるみるうち、傷口から大量の血液が抜き取られてゆく。
「風よ……蹴散らせッ!」
 バーナードの紅蓮が振り上げられ、手負いの猿の足下から猛烈な上昇気流が生まれる。
 ――キィッ!! キキーッ!!
 次々に討ち果たされてゆく仲間を目にして、最後の一体は怒りの雄叫びを上げる。
 そして最後の反撃とばかり、捨て身の突進を行う。
「痛みに狂いし哀れなるものよ……その呪縛から今解き放ちます!」
 迎え撃つのは水菜。印を結び、呪言を唱える。
 ――ギャアァッ!
 狂乱の猿妖獣が牙を剥き、彼女に飛び掛かろうとした刹那――発現した呪の力がその存在を消滅させた。


「ねぇ、これって舞茸じゃないかな」
「ええ、サルノコシカケの仲間ね。さっきの猿達は腰掛けるどころか地に足がついてない感じだったけど」
「これは食べられるか?」
「ハナイグチね、それも食べられるわよ」
 無事妖獣達を退治した一行は、早速キノコ採取を始めた。
 茂理は早々とお目当ての舞茸を発見し、バーナードは火蓮に指導を受けながら群生していたキノコをかごに入れてゆく。
「火蓮さんはキノコに詳しいんだね。白トリュフがどの辺に生えてるか解らない?」
「茸の知識は魔女学の必須科目よ。……近縁種が見つかったって言う報告はあるけど、白トリュフは聞かないわね」
「そっかぁ……でもトリュフ自体はあるんだよね、ドングリの生えてる木を探してみるよ」
 ギンヤは再びトリュフの捜索を開始。
「志筑、これ食う? 大きくなるかもしれないぞ」
 いつきは結局、先ほどのキノコをゲットしたが、余りに現実離れしたその姿から自分で食べるのは躊躇われる様子。
「大きくなるキノコが必要なのは島宮さんだと思いますぅ」
 涼子も火蓮を密かに指さすが――。
「聞こえてるわよ」
「?!」
「しかし、図鑑にも載ってないキノコを良く見つけるよね……」
 ヴァスカはそんな遣り取りを他所に、友達から借りた図鑑と首っ引きで食べられるキノコを集めてゆく。
「これだけ取れれば十分かな?」
「鶏肉とか鮭とか、他の食材もあるしな。西条院が準備して待ってるだろうし、そろそろ行こうぜ」
 一足先に下山し準備をしているであろう水菜のもとへ、一行は向かう事にした。

「わ、凄い量ですね。こんなに採れたんですか?」
 山盛りにされたキノコを見て、思わず目を丸くする水菜。
「よーし、それじゃ早速作ろうか」
「あ、僕も手伝えることがあったら」
「俺も手伝おう。だが、手先には余り期待しないでくれ」
「では、まずは食材を切りましょう」
 普段から結社で厨房に立っている茂理を初めとして、サバイバル術に長けたバーナード、ヴェスカーが水菜と共に食材を捌いてゆく。
「じゃあ私はスープを担当するわ。魔女の鍋に何でも放り込んで頂戴!」
「な、何でもって……」
「もちろん食べられるものだけよ。イモリでもイボガエルでもどんとこいよ」
 火蓮はどこから取り出したのか、大鍋を用いて文字通り魔女のスープを作り始める。
「なんだよ。この食べたらでっかくなりそうなキノコとか1UPされそうなキノコとか。この色は食えないだろっ」
「……やっぱりダメか」
 いつきが摂ってきたキノコを食べようと言う猛者はおらず、結局調理はしない事になった。
「結局トリュフは摂れたですかぁ?」
「えへへ、ほら」
「おおっ!?」
 ギンヤが見せたのは、1つのトリュフ。いわゆる黒トリュフだが、日本ではまだまだ希少種。見つけられただけでもかなりの幸運だ。
「これだけしかないから、バターで焼いたり、摺り下ろして香り付けにね」
「ですねぇ、松茸は残念ながら見つかりませんでしたし……売れるほどはないですねぇ」
 キノコで一山当てようと言う計画は、脆くも崩れ去った。


「出来たよー! キノコと鶏肉と豆腐の炒め物」
「おおーっ!!」
 さすが茂理の作った中華風の料理は、見た目からして一同の食欲を刺激する物だった。
「私も完成です。こちらは和風で」
 水菜が作ったのは、キノコに挽肉を詰め醤油とみりんで焼いた一品。
 こちらも香ばしい匂いが食欲をそそる。
「出来たわ。名付けてキノコスープ魔女風」
 更には火蓮の手によるスープも仕上がった。
 紫色の煙を上げ、ぼこぼこと煮え立つ漆黒のスープ。
「……これは……」
「あー……見た目が胡散臭いって? 大丈夫、煮込めば毒くらい吹き飛ぶんじゃないの。男は度胸、何でも試してみるものさ」
 そう言いながら、自分は片手間に作っていたキノコの塩焼きを皿に盛っている。
「ヴァスカさん、私がよそってあげましょうかぁ」
「い、いや良いよ! 自分でやるから」
 皆敬遠しあって、中々魔女のスープに手を付けようとしない。
「旨い! 凄いなこりゃ。プロ並だ」
「この肉詰めも良い味付けだな」
「これがトリュフか、初めて見たぜ」
 結局、他の料理から食べる一同だが、いずれも絶妙な味に大喝采。
 空腹も手伝って、大量にあったキノコも瞬く間に無くなってゆく。
「じ、じゃあ……少し貰おうかな」
「僕も……」
「最悪死んだとしても、1UPキノコあるしな」
 後は魔女のスープを残すのみ。おそるおそる器に分ける一同。
「騙されたと思って食べてみてよ。本当に美味しいんだから♪」
 火蓮の言葉に後押しされ、スプーンを口へ運ぶ。
「「っ!?」」
 この時、8人に電撃走る。
「う、美味い?!」
「でしょ。私が作ったんだから当然じゃない」
 グロテスクな見た目に反して、食材の旨みがスープの中で渾然一体となり、複雑ながらも一体感のある魅惑の味を形作っていた。
 こうなってしまえば、全ての料理が皆のお腹の中へ収まるまでにさほどの時間は要さない。

「ゴミの片付けも完了だよ」
「よし、それじゃ帰るか」
 美しい紅葉に秋の味覚を満喫した一同は、心地よい疲労感と共に山を後にする。
 かくして、その山は静けさと平和を取り戻したのだった。


マスター:小茄 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/10/31
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冒険結果:成功!
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