<Halloween 2009>You are the Princes!


<オープニング>


 夕焼け色に染まる商店街の裏通り。そこを歩いていたのは、かぼちゃパンツのかわいい王子様だった。
 ちょっと長すぎるマントを引きずって、お菓子を入れるかごを持った王子様だった。
「へへ、一つ、二つ、三つ……こんなにもらっちゃった!」
 かごの中にあるお菓子を数えて、にこにこ笑う王子様姿の少年。なんとも微笑ましいハロウィンの光景。
 しかし、その後ろに立ちはだかる影が一つ。
「いかんなぁ王子!」
「え?」
 突然声を掛けられて、少年が振り向く。てらてらと不気味に光る巨大な鞭が、ひゅんっと空気を切った。
「王子たる者が菓子の数を数えるなんて! 卑しく下賤、王子にふさわしくない行為には教育が必要だぁ!」
 少年が最後に見たのは、優雅に毛先でカールした金髪と鼻ヒゲ、そしてかぼちゃパンツだった。

「というわけで、今回退治してほしいのは、王子の地縛霊だ」
 王子・団十郎(運命予報士・bn0019)がそう言った途端、全員の視線が彼に集中した。
「……いや、決して俺が王子だからというわけではないぞ。うん」
 すっと視線をそらす団十郎。

「地縛霊が現れたのは、とある商店街の裏通りだ。その商店街では子どもを対象にした、小さなハロウィンイベントを行なうのだが……ちょうど仮装した少年が裏通りを通り、地縛霊の被害に会ってしまう未来が見えた」
 真面目な顔に戻り、団十郎が説明を始める。
「今から行けば、誰も通りかからないうちに辿りつくことができるはずだ。どうか子どもたちに被害が出る前に、地縛霊を退治してほしい」
 能力者たちが頷くのを確認し、団十郎は……なぜか次の言葉を言い淀む。やがて小さくため息をついて口を開く。
「地縛霊の姿は王子。それも紫色のかぼちゃパンツにカールした金髪と鼻ヒゲ、斜めにかぶった小さな王冠だ」
「すっごく王子だ!?」
 思わずちょっと引く一同。
「地縛霊は、その裏通りを王子の姿をした者がある行動をすると現れる。仮装で平気だが、全員が王子の格好をしなければいけないらしい」
「女子もですか?」
「ああ、女子もだ」
 ちなみに王子っぽければ、服装の国籍などは問わないらしい。かぼちゃパンツでもアラビアンナイトでも、王子っぽければ大丈夫。あと、イグニッション後の姿は王子じゃなくても大丈夫。
「しなければならない行動は、王子らしい行動をすること。もしくは王子らしくない行動をすることだ」
「え、どっちでもいいの?」
「ああ。王子らしくない行動をすると、お仕置きと称して襲いかかってくる。そして王子らしければ、ライバルと称して襲いかかってくる」
 どちらにしても襲いかかってくるとは、難儀な地縛霊である。
「戦闘が始まると、さらに三体の地縛霊が現れる。こちらはかぼちゃパンツの、小さな男の子の王子だ。えいっとかそんな感じで体当りしてくる」
 可愛いけれどダメージは入るから、決して腕を広げてキャッチしないように、と団十郎は苦笑しながら言う。
「そして肝心の鼻ヒゲ王子だが……まず、手に持った鞭を振りまわして近くの敵全員に攻撃してくる」
「鞭!?」
「お仕置き用だそうだ」
 この外見と相まって鞭とか嫌すぎる。
「それと、ウィンクと投げキッスで視界内にマヒ攻撃を。あとは寒いセリフをささやいて、近接している敵の一体に大ダメージと超魔氷を与える攻撃がある」
 色んな意味で戦いづらい敵になることだろう。うん。

「しかし、疲れる敵だとは思うが……さっきも言った通り、商店街ではちょっとしたハロウィンイベントが行われている。仮装している子どもに、小さなプレゼントを渡すという企画だ」
 ハロウィンイベントと言っても、ほとんどがお爺ちゃんお婆ちゃんが運営しているお店。お惣菜屋さんでかぼちゃコロッケをもらえたり、和菓子屋さんでかぼちゃを使ったジャックオーランタンやコウモリの形の和菓子をもらえたり、お花屋さんでお化けの形のポプリをもらえたり、そんなちょっとしたプレゼントだ。
「高校生くらいでも子どもで大丈夫だと思う。地縛霊を退治した後に、ちょっと歩いてくるのもいいんじゃないか?」
 そう言って、団十郎は能力者たちに商店街の地図を渡した。

「いろいろと怪しげな地縛霊だが、しっかり倒してイベントも楽しんできてくれ。では、よろしく頼む」
 そう言って、団十郎は能力者たちを送り出し……
「しかし、王子か……」
 こっそり、ため息をついた。

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参加者
風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)
玖世・天(左道歓喜・b01364)
鷺宮・陸(姫神の翠葉・b01563)
織原・聖(疾風の紅き翼・b25302)
ユエ・レイン(夜に舞う黒白の翼・b27417)
ハジメ・キリヤ(白宵・b32973)
御心・大和(高校生黒燐蟲使い・b55059)
月城・廉(追い求めしもの・b61604)



<リプレイ>

●王子らしさとは何だろう?
 ハロウィンにちょっぴり浮き立つ商店街の、裏通り。そこに揃うは、総勢八人の王子たち。
「王子。と言われた所で良くわからん。その上、王子っぽいと言われるとなぁ。困る」
 頭にターバンを巻き、腰には作り物の短剣。玖世・天(左道歓喜・b01364)の、ゆったりしたズボンに包まれた静かな歩みは、まさしく王子。
「奇怪な相手だが、ゴーストはゴースト……だが、王子かぁ」
 ……もふもふとパンを歩き食いさえしていなければ。
「じゃあ、早速買ってきたおやつでも……あ、この菓子、期間限定なのか。……ん、美味しい」
 おとぎ話のような王子の姿で、月城・廉(追い求めしもの・b61604)がお菓子を頬張る。美味しいものも食べられて、地縛霊も呼び出せて一石二鳥、と微笑む顔は、なんだかあまりに庶民的。
「はやくお菓子もらいに行きたいな〜。モルモのお土産にしたいし」
 童話に出てきそうな王子の姿で、白いスラックスに包まれた足を揺らして言うのはユエ・レイン(夜に舞う黒白の翼・b27417)。こんな台詞は王子っぽくないからというチョイスだが、結構真意がこもっている。
「お菓子に心躍る昂揚感は、僕にも覚えが有るや。子供達が笑い零れる優しい時間、護りたいね」
 そんなユエを見守って、鷺宮・陸(姫神の翠葉・b01563)がそっと呟く。
「……でも、此の格好は如何なの」
 打って変わって冷たい声で放たれたのは、自分に対してか、それとも地縛霊に対してか。ちなみに彼の格好は、ゴシック風の王子服。白と黒に施されたフリルが、凛とした可愛らしさを演出する。
「とりあえず、服装だけは王子っぽくしてみたけど……ここは……」
 その隣で、御心・大和(高校生黒燐蟲使い・b55059)がちょっと考えてから、道の中央に進み出る。
 そして、言った。
「ふははははーこの街は俺様のものだー」
 きらびやかな洋服の上に羽織ったマントをひるがえす。だけどその台詞はむしろ悪の帝王。
「……しかし、王子ってよりはRPGとかでふんぞり返ってる王様を想像したのオレだけか?」
 そんな彼を尻目に、ハジメ・キリヤ(白宵・b32973)が腕を組む。ヴァンパイアの王子をイメージした漆黒のマントが揺れた。
「……まあそれはともかく、王子ってのは『それ』である以前に紳士らしい行動をすべきだよな。男として」
 その言葉は、まさしく王子らしく。
「そうそう、人に迷惑をかけるのは王子として失格だから、逆に成敗しないと!」
 織原・聖(疾風の紅き翼・b25302)が、足首まで膨らんだズボンにベスト、アラビアンナイト風の衣装で、通りの中央に躍り出る。
「私とどっちが王子にふさわしいか、勝負だよっ。鼻ひげ王子っ!」
 そしてその隣に、おとぎ話に出てくるような王子が、マントをひるがえして現れる。
「白馬にまたがって登場したい気分だねぇ!」
 小道具の剣を取り出し、空高く掲げて。風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)は宣言する!
「愛しのプリンセスを、この玲樹王子が助けに参った! さあ悪者どもよ、立ち向かってくるがいい!」
 ちなみに彼は独り身。プリンセスとなる恋人はどこにいるんだ、とかツッコんじゃダメ!
 そして、彼らの声に応えるかのように。
『ふ、その程度で王子を名乗るとは……』
 金色の巻き毛、そして鼻ひげ。紫色のかぼちゃパンツ。遂に地縛霊が現れ……固まった。
 ちょっと整理しよう。宣戦布告する玲樹と聖。さらに悪の帝王っぽく高笑いする大和。王子っぽい台詞を呟くハジメ。割と普通に立ってる陸。お菓子を楽しみにしてるユエ。お菓子とかパンとか食べてる廉と天。
 各人フリーダムすぎて、地縛霊の想定範囲を超えたらしい。
『……私が真の王子とは何たるか教育してあげよう!』
 あ。どっちにも対応できる台詞で来た。
「ま、僕は女だけどっ。王子は女子供に手を上げたりするのっ?」
「あと、自分の意見を人に押し付けるのは王子らしくないんじゃないかぁ?」
「お前の行動を『王子』として認めるわけにはいかねーな。ちびっ子襲っといて王子気取りとは恐れ入るぜ」
『うるさーい!』
 総ツッコミを受けて、苛立たしげに鞭をビシィ、と鳴らす鼻ひげ王子。さらにちいさな王子たちが、ちょこんと三人姿を現す。
「さあ、僕の剣を受けるがいい!」
 玲樹の声を合図に、ようやく戦闘が始まった。

●投げキッスなんかに負けないで!
「万緑の戒律、我が声に応えよ」
 陸の声と共に、鼻ひげ王子を中心に茨が広がる。
『ぬお!?』
 ちび王子二人を道連れに、いきなり絡めとられる王子。
「Coming a dense fog!」
 さらにハジメが呼び出す魔蝕の霧が、王子たちの力を奪っていく。
「もう、王子っぽくするのは終わりで良いんだよな……なら、全力で行く……!」
 廉が前線へと飛び出し、旋剣の構えで自らを強化する。さらに並んで、玲樹も大鎌を頭上で旋回させる。
「もっと化け物らしく、形容しがたい形なら良いんだが。子供に見えると、やり辛いな」
 ちび王子たちに近づきながら、天が呟く。その体を、虎の紋が覆う。
「行くよ、モルモ!」
「もきゅっ!」
 真モーラットピュアのモルモを送り出し、ユエが魔方陣を描いて攻撃力を高める。
「陸くん、奏甲を!」
「有り難うです!」
 回復手でもある陸に、大和が黒燐奏甲を施す。
「覚悟はできたのかなっ、王子様っ♪」
 全員が強化を終えたのを確かめ、聖も狼のオーラをまとった。
 一人動いたちび王子の体当たりは、天のライフルに難なく受け止められる。
『うおーっ! 私こそが一番、王子様ー!』
 ぶちりと茨を千切り落とし、鼻ひげ王子が立ち上がる。
「くっ!」
「うわっ!?」
 振り回された巨大な鞭が、玲樹と聖、廉を連続して打ち据えた。
「くっ……まだ、行ける!」
 廉が仕返しとばかりに黒影剣を叩きつける。その傷を、モルモがすぐになめて癒す。
 茨に捕らわれたちび王子たちを巻き込むように、玲樹と大和が連続して暴走黒燐弾を叩き込む。さらに聖が、鼻ひげ王子に鋭い蹴りを放つ。
「お前らが先触れだ。鼻髭の為に三途の渡しを確保しておけ……」
 天のが放ったクロストリガーが、勢い良くちび王子の一体に命中する。小さな体が、ふわりと薄れて消えていく。
 さらに陸が、再び茨の領域を放つ。だが流石に、鼻ひげ王子はそれを避けた。
 ハジメが広げた魔蝕の霧も、鼻ひげ王子には避けられる。
「ちょっとしびれてて!」
 ユエが放った雷の魔弾が、正面から鼻ひげ王子に命中する。けれどマヒを与えるには至らなかった。
 ちび王子の一人が、茨を振りほどいて玲樹に体当たりを仕掛ける。
「っ、と!」
 大鎌で受け流し、傷を軽く留める。けれどその間に、鼻ひげ王子が動き出していた。
『王子様、な私の愛を……』
 腰をひねり、人差し指と中指を唇に当て。
『プレゼント♪』
 放たれる投げキッスに、思わず一同が凍りつく。マヒ効果つきで。
「もきゅっ!」
 難を逃れたモルモが、主人に向かって必死に祈りを捧げる。
「ありがとう、モルモ! この王子め、しびれちゃえ!」
 回復したユエが放った雷の魔弾は、しかし鼻ひげ王子に受け止められた。
「Remove pain……治るっつても痛いんだぜ?」
 ミストファインダーで傷を癒しつつ、ハジメが鼻ひげ王子を睨む。
「くっ……」
 玲樹が旋剣の構えを取って、自らの傷を癒していく。けれどマヒしてしまった前衛に、ちび王子たちが襲い掛かる。体当たりを受け止めきれず、天と聖がよろめいた。
「くっ……止まれっ!」
 陸が放った茨は、何とか二人のちび王子を巻き込んだ。
 だが、鼻ひげ王子がさらに聖に迫る。顔をしかめる聖の耳に、鼻ひげ王子は囁いた。
『もっと、トレヴィアーンに私と踊ってみないか?』
「くぁっ!?」
 気色悪さを伴った攻撃に、大ダメージを食らって凍りつく聖。
「聖さん、交代!」
 大和が急いで聖の前に立ちながら、黒燐奏甲を施す。
「うん……ごめん!」
 何とかマヒから脱し、下がりながらライカンスロープで体力を回復する聖。その傷を、モルモが懸命になめる。
「Trick or Treat♪」
 さらに陸が、天にヤドリギの祝福を掛ける。
「負けないよ!」
「うん……」
 玲樹が、続いて廉が、黒影剣で斬りかかる。
「……斬った分回復するの、こいつのエネルギーが来てるイメージになって……正直、イヤだ」
 気持ちは分からないでもない。
『この私の魅力で王子パワーに目覚めないとは……もっと激しく!?』
 必死の形相で投げキッスを放つ鼻ひげ王子。けれど、その一撃は軽々と避けられた。
「虐められたいのか?」
 軽く攻撃をかわしたハジメがニヤリと笑い、結晶輪を構える。
「ホラ、お返しだっ」
 レンズに向かって与えられた一撃が、鼻ひげ王子に良い音たてて突き刺さる。
「いいかげんに、しろ!」
 ユエの放った雷の魔弾が、正面から鼻ひげ王子にぶつかり……動きを止めた!
「今だ!」
 大和がちび王子まで巻き込み、暴走黒燐弾を放つ。
「お前の相手は、俺だ」
 茨を振りほどいたちび王子の前に、天が立ちふさがる。体当たりを受けながらも、天はフロストファングの一撃を返した。
「悪霊ならぬ髭退散!」
 天輪を構えて飛び出し、陸が退魔呪言突きを放つ。
 さらに回復した聖が、鼻ひげ王子へと飛びかかる!
「疾風の紅翼牙っ! 王子バージョンアターック!!」
 神速のクレセントファングが、王子へと食い込んだ!
『ごぶはぁっ! この私が、王子力で敗れると、はぁぁあぁ!』
 最後は少女漫画のように口元に手を当てて、鼻ひげ王子は消えていく。
「……キャラ濃いな、髭」
 思わずぼそりと呟く陸だった。

 あとはただ、ちび王子たちを相手するだけだった。
「これで……」
「終わりに!」
 大和の暴走黒燐弾と廉の黒影剣が、ちび王子の一人を打ち倒す。
 そして。
「僕こそ真の王子!」
 くわえた薔薇が散るのもいとわず放たれた玲樹の黒影剣が、最後のちび王子を斬り裂いた。
「王子ごっこもここまでっ。大人しく眠ってねっ♪」
 聖の言葉に送られて、ちび王子は消えていった。

●戦いの後はとりっくおあとりーとっ!
「「「トリックオアトリート!」」」
 玲樹と陸、ユエ。三人の声が、小さな洋菓子屋に唱和する。
「あ、でも僕は19歳だし……」
「若い子が遠慮なんかしないの! 仮装してるんだから子ども子ども!」
「あ、ありがとうございますっ」
 気の良さそうなお姉さんにバンバンと肩を叩かれて、バブル水鉄砲を構えたまま、玲樹が目を白黒させる。
「やっぱり結構照れるなぁ……けど、美味しそう……」
 慣れない言葉に顔を赤くしながら陸が渡されたのは、食用かぼちゃのランタンにいっぱいに入ったお菓子。
「わぁ……たっぷりだな! あとでモルモとわけて食べようっと!」
 色とりどりのお菓子に、ユエが嬉しそうに頬をほころばせる。
「今日は楽しんでおいで!」
「「「ありがとうございましたーっ!」」」
 威勢のいいお姉さんに見送られて、三人は大きなかぼちゃのランタンを手に洋菓子屋を後にするのだった。

「「トリックオアトリートっ!」」
「はいはい、お菓子ですよう。どれがほしい?」
 はにかみながら言った大和に微笑んで、和菓子屋のおばあちゃんがずらりと和菓子を並べる。
「おばーちゃん、ぼくこれ!」
「あ、わたしこれー!」
 隣で子どもたちが、思い思いに好きなお菓子を手にとっていく。
(「ちゃんと子供に見てくれるかどうか、不安だったけど……」)
「やっぱりイベント事は、楽しい笑顔があふれているのがいいよね」
「本当にねぇ」
 大和の言葉に、おばあちゃんと天が微笑んで頷く。
「和菓子ならあいつへの土産にも丁度良いか。久しぶりに抹茶でも点ててもらおう」
 呟いて、天がかぼちゃランタンの形の和菓子を注文し、財布を取り出そうとする。
「いいのいいの、今日ははろうぃんなんだから」
「……ですが」
「あげるために作ったお菓子なんだから。それより、言ってもらわなきゃ」
 おばあちゃんがにこっと笑う。大和が気付いて、にやりと天を見る。
 天は、思わず天井を仰いだ。
「……とりっく、おあ、とりーと」

「トリックオアトリート! あ、ありがとうございますー」
 頭蓋骨型のお菓子入れを手に、お菓子を集めて回るハジメ。
「……ここは、何だろう?」
 何だか暗くて怪しげな店に、ハジメがそっと首を突っ込む。
「いらっしゃーいボウヤぁ?」
「わぁっ!?」
 ぬっと顔を出したのは、白塗りの顔に牙を生やした男。
「おや、ボウヤも吸血鬼の仮装かな?」
「そうだな。おっさんも似合ってるぜ」
「ふ。伯爵閣下と呼びたまえ」
 ニヤリと笑い、吸血鬼姿のおっさんはひょいと傍らから何かを取って、ハジメに手渡した。見ればジャックオーランタンの形の、怪しげな貯金箱。
「吸血鬼同士の友情を記念して。ハッピーハロウィン!」
「ありがとう! ハッピーハロウィン!」
 貯金箱を掲げて、ハジメが応える。愉快な吸血鬼は、ニヤリと笑ってハジメを見送った。

「色々あって迷うが……」
 廉がたどり着いたのは、美味しそうな匂いを漂わせるお惣菜屋。
「……なんだか凄くおいしそうだ!」
「おや。ハロウィンのお客さんかな?」
 廉が上げた声に応えて、店のおばちゃんが声を掛ける。
「ちょうどよかった。コロッケ、今揚がるところだよ……ほれっ!」
 鍋からひょいと取り上げられるコロッケに、廉は目を輝かせた。
「揚げたてサービス! ほら、持ってきな!」
 特別だよ、と袋に二つコロッケをつめて。
「わぁ……ありがとう!」
「いいえ。それより、何か言うことがあるんじゃない?」
 差し上げた袋を手に、にっこりと笑うおばちゃん。つられて、廉もにっこり笑った。
「うん。トリックオアトリート」
 渡された袋は、ほかほかだった。

「うん、美味しいね!」
 仲間たちと合流し、もらったお菓子やお惣菜を食べながら、聖が商店街を歩く。
 そこに通りかかる、一団の子供たち。
「こんなにもらっちゃった!」
「ぼくももらったよー! これ、焼き立てなんだ!」
 口々に話す子どもたちに、聖が顔をほころばせる。
「みんなー! もっとお菓子、ほしい?」
「くれるのー!?」
「「とりっくおあとりーと!」」
「それじゃ、お菓子あげちゃうよー!」
 さっと周りに集まる子どもたちに、聖はにっこり笑ってお菓子を配る。
「ありがとー!」
「お姉ちゃん、ありがとねー!」
 お菓子を受け取ると、子どもたちは駆けて行く。
 けれど一人の女の子は、そこに残った。
「あのね、これお母さんと作ったの。あげるね」
 不器用に包まれた小さな袋が、聖の前に差し出される。
「わっ、いいの?」
「うん。でもちゃんと言わなきゃあげないよ」
 女の子が、にっこり笑って首を傾げる。
 聖も、女の子と一緒に笑って。そして大きな声で言った。
「トリックオアトリート!」

 小さな商店街の小さな行事。そこに笑顔が溢れるのも、能力者たちが悲劇を止めたから。
 楽しみの余韻と充実感を胸に、能力者たちは商店街を後にした。


マスター:旅望かなた 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/11/05
得票数:楽しい4  ハートフル11 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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