深き山にてケモノと躍れ


<オープニング>


「はぁ、はぁ、は……」
 そこは、深い緑色に覆われた山の中だった。
 ――否。
 いまこの時期は紅葉で、十分な彩があると言うことも出来るかもしれない。
「あ、く……」
 だが無論、そんな言葉遊び――或いは風景――を楽しむことが出来るのは、楽しく山を歩く、余裕のある者だけである。
 余裕のある人間だけが、無駄を楽しめるのだろう……。
「っ、はぁ、はぁ……」
 今、そんな山道を、必死に走る女性がいた。
 走る顔に余裕はない。
 少なくとも、紅葉を見て微笑むだけの余力は無さそうだ。
 ――何故なら。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオン!』
「っ、嫌、なんでこんなことに……!!」
 彼女は、巨大な狼の群れに、追われていたのだから。
 生きる為の意志は女性に多大な力を与えたが……人間には等しく限界がある。
 故に、やがて――。
『アアアアッ!!』
「や……!?」
 追い付かれ、逃走劇も幕を閉じた。
 響くのは――無念の悲鳴。

 ……彼女が紅葉を楽しむことは、二度と無かった……。

「さて、これでみんな集まったかな。急に呼び出してすまないね」
 その日、瀬之口・フィオン(運命予報士・bn0092)は能力者たちを教室に呼び出して、いつものように微笑を以って言葉を始めた。
「実は――北関東のとある山中で、これから事件が起こりそうでね」
 場所は大体この辺だよ、と、地図を広げて目的地の大雑把な場所を示して彼は言う。
 起こる事件とは――妖獣による人間の襲撃。
 被害者は登山に来ていた一人の女性で、このままだと永遠に下山は出来ないと云う……。
「……勿論、救援に急げば助けることが出来る。命を救うために、君達の力を貸して欲しいんだ」
 あまり人の訪れないマイナーな山なので、これまでに事件は起きていなかった。
 その故、能力者たち以外に、自発的に女性を助けにいく者は皆無なのだそうだ。
「――成る程、痛ましい事件だ」
「……そうだね」
「ところで、フィオンよ」
「……なんだい」
「その女性は――俺より年上か?」
「それ、事件解決に必要あるの、」
「無論だ!」
「……そう。もう否定するのも面倒だから言っちゃうけど、二十代半ばくらいだね」
「……そうか。ご苦労フィオン。俺も参加するから心配するな」
「……うん」
「うむ」
 と、そこで事件の詳細を――妙な方向に――暴くのがクリストフ・ギーツェン(黄昏の騎士・bn0194)であった。彼を呼んだ覚えが無いフィオンとしては、どうやってこの場所を突き止めたのかが不思議で仕方ない。
 ――もうどうしようもないが。

「……気を取り直していこうか。敵は全部で七体。少し多いね。うち、五体が巨大な、全長二メートルほどの狼型妖獣で、二体が鳥型の妖獣だ。狼の方は麻痺の効果を持った牙の攻撃をしてくるものが三体、特殊攻撃能力はないがその分だけ攻撃力が高いのが二体いる。どちらが手強いのかは意見が分かれるかもね―――ただ、どの固体も非常に俊敏だ。自己回復も持っている」
「ハ……狼か!」
「正直、急に横や背後から奇襲されてもおかしくない。柔軟な体勢を心掛けるべきだろうね」
 フィオンの敵に対する説明に、クリストフが犬歯を露にして笑った。
 四本足のケモノ相手に、平坦でない山で戦うのは非常な困難だ。
 しかも、運動性に優れた狼型の妖獣である。
 こちらの予測を超えた運動をしてきても驚嘆には値しない。
 ……なればこそ一人の人狼騎士として、強敵との戦闘に心が躍るのだろう。
「素晴らしい。久々に血が滾る……残る二体は?」
「うん。鳥は、木に留まって狼の回復を行うみたいだね……片方は範囲回復、片方は強力な単体回復を保有している。優先順位をつける必要はあるかもしれない」
 また、女性はハイキングコースを必死で下っているとの情報もフィオンは話した。
 素直にハイキングコースを登って行けば、合流は比較的容易だろう。
 ただ、マイナーな山故にコースも決して広くないし、平坦でもない。
 戦いながら後退することは可能なので、戦いにくい場合は場所を変えるのも手だろう。
 ……後退ばかりしていると戦闘は不利になるので、見極めも必要だろうが。

「さて、それはそれとして……この山の近くの町、小さいながら温泉が有名でね。女性を無事に助け、敵も倒したら、帰りに温泉で疲れを取ってきても良いんじゃないかな?」
「……大自然の中の、温泉か」
 フィオンは一転して微笑みを作り、そんなことも話した。
 対するクリストフは、眼を細めてその言葉に小さく頷く。
 自然の中で生きてきた人狼としては、心が休まるイメージを連想したのかもしれない。
 他の能力者たちも、同様に悪くない表情を浮かべる。きっと、良い心地だろう……。
「……改めて云うけど、これは危険な任務だ。どうか十分に気をつけて」
 最後に、運命予報士は真面目な表情で能力者たちを激励した。
 どうか無事に、と。
 敵を倒し、女性を救い。
 温泉を楽しみ、また、皆で笑って学園に帰還できるように、と――。
「心配するなフィオン。俺達、銀誓館の能力者は、決して負けぬ……そうだろう?」
 激励を受け取った能力者達は、そう笑うクリストフを肯定し、同じく微笑む。
 ――最善の未来を、掴み取れると信じて。

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参加者
主神・砂夜(黄昏の騎士に恋する者・b17967)
空天馬・遥華(射手宮の翔・b22402)
前川・愛瑠人(藍星の導・b47089)
エルヴィン・ケーニッヒ(ドゥンケルハイト・b49861)
安心院・ヒナタ(金曜日に降る雨・b51011)
アリエッタ・ギベルティ(モルトヴィヴァーチェ・b52519)
澤田・和暁(誤字腐リン・b65114)
天野・柚琉(天月流水練忍者・b69581)
NPC:クリストフ・ギーツェン(黄昏の騎士・bn0194)




<リプレイ>

●――進攻開始
 そうして、能力者達は目的地へと急ぎ向かった。
 既に今、彼等が踏む大地は、都会と真逆のソレである。
「……成程ね、予想以上に面倒な場所だな、此処は」
 落ち葉をざ、と踏み、嘆息するのは前川・愛瑠人(藍星の導・b47089)。
 確かに――道は険しい。
 歩くだけならまだしも、戦場にするのは常人の行いではなかろう。
「やれやれ……」
「まぁ、良い方向に考えよう。女性に感謝され、苦労を温泉で癒すと考えれば、な?」
「ふ、得難き思考だエルヴィン……!」
 と、そんな彼の両隣。
 上質な、大人びた微笑をするのが――エルヴィン・ケーニッヒ(ドゥンケルハイト・b49861)とクリストフ・ギーツェン(黄昏の騎士・bn0194)。
「特に、クリストフに女性のエスコートをさせねば任務は失敗だからな……?」
「分かってくれるか和暁!」
 ニヒルに肩を竦めるのが、澤田・和暁(誤字腐リン・b65114)である。
 銀誓館の紳士たちは、今日も元気だった。
 と、中々に個性多様な最前列だが――。
「「……ん」」
 呟き、視線を向けるのは同時。
 見ればそこには、比較的開けた、平坦な場所。
 ……戦闘を展開するには、悪くない。
 そう。
 彼等は眉根を寄せ、微笑し、声を上げていても――胸に抱く想いは同じだ。
「それじゃ、お願いできる?」
「ええ。どうか気をつけてね、皆……」
 見つけた場を『戦場』に決定した能力者達は、そこにサポートとして来て貰った村上・麻紀(医学生魔剣士・b23448)を残し、再び進む。女性をここまで連れてくれば、彼女がその後の避難を引き継いでくれる――そんな算段だ。
「うん。さ……急ぎましょう! まだ目標の女の人は、先にいるんだから!」
 サポートを頼んだ主神・砂夜(黄昏の騎士に恋する者・b17967)の号令で、皆は再び動き出す。
 山道は未だ険しい。
「ともあれ、全力を尽くしましょう……被害者が出なければ、それは、とても有り難い事ですから」
「ええ。紅葉を楽しみにいらっしゃったのに、命を落とすなんて……あってはなりませんもの!」
 そんな心中を代弁するが如く、想いを吐くのは、安心院・ヒナタ(金曜日に降る雨・b51011)であり、迷い無く言葉を続けるアリエッタ・ギベルティ(モルトヴィヴァーチェ・b52519)である。

 ……雪のように澄み切った信念。
 戦場においてソレを保持することは、戦士の資質だ。

「まったく。オレの知ってる狼は、誇り高いコ達ばっかりだったんだけどなぁ……」
 呟く天野・柚琉(天月流水練忍者・b69581)の瞳は、爛、と輝いて。
「……それは間違っていない。だからこそ、俺達は此度の敵に負けられぬのだ」
「成程ね?」
 涼やかに、しかし獣性を秘めたクリストフの返答に口の端を歪め、ピッチを上げる。
 恐怖は無い。
 誰も。
 何処にも。
「頼もしいわね……さ、急ぎましょうか! もう目標との接触も、近いわよ!」
 そう、後悔はいつだって遅すぎる。
 空天馬・遥華(射手宮の翔・b22402)は頷いて、先程の開けた場所を何度も思い返す。
(「周囲の空気が……変わった? 気のせいだと――思う方が、拙いのかもね」)
 戦闘開始は近い、と。
 踏破した距離と、自身の感覚によって、強く感じていたからだ。

●地の利は獣にあり
 そして、更に暫しの時が経過した後のこと。
「……皆さん、どうやら単調な登山は終わりのようですよ」
 最初に異常に気付いたのは、絶えず音に気を配り続けていたエルヴィンだった。
「戦場としては……此処は、拙いですね」
「同感だ」
 さ、とアリエッタが周囲を見回す。
 確かに此処は、道が険しすぎる。
 クリストフも頷き、彼女の言葉を肯定した。
 ――そして瞬間。
『オオオオオォォォン!!』
「や、ぁ……!?」
 今度こそ、来た。
 狼の方向と前進。
 女性の悲鳴と――逃走が!
「来た……!」

 ――そこからの行動は、見事なものであった。

「お姉さん、こっち! もう大丈夫だからっ」
「え……?」
「――早く逃げて! 追いつかれる!」
「……あ!」
 まずは女性へ、大きく手を振り遥華が叫ぶ。
 声を掛けられて女性は一瞬戸惑うが、そこに愛瑠人が続く。
「っ!」
 敵意の無い姿勢は、女性に伝わってくれたようだ。
 今は生き延びるのが肝心だと、女性は能力者たちの間を抜け、再び走る。
「「――イグニッション」」
 同時、響く言葉は起動のソレ。
 最早女性に振り返らず、真っ先に身を躍らせたのは和暁とヒナタだ!
「……行かせるものですか!」
「美人の付き人は、お前等みたいな獣じゃ荷が重いぜ?」
『!?』
 追って来るのは、確かに狼と――空を翔る鳥だ
 その鼻先へ――魔蝕の霧とヒュプノヴォイスが叩き込まれる!
 反撃に狼の一体がヒナタへ襲い掛かるが、
『――』
「……助かります、ヒミコ」
 彼の相棒たるサキュバス・ドール、ヒミコが割って入り、致命傷を避ける。
 そして、
「次は……私たちが撤退するよ!」
 砂夜の号令で、能力者たちも退く。
 実を言えばこの撤退の段階が上手くいかない場合――しかもその難易度は高かった――女性は負傷し、能力者達も各個撃破される可能性があったのだが……。
「……仮にだって姿は狼なんだから、さ?」
『グ、』
「……恥を知れよ獣。女性一人に五体掛かりは、大仰過ぎるだろ」
 彼等は、その段階を抜けた。
 青龍刀で敵の牙を受け流し、笑う柚琉の言葉には確かな自信がある。
『オオオオオオオオオオオ!!』

 勿論。
 撤退戦の厳しさは、そんな能力者達自身が、最も熟知していたのだが――。

●最悪戦場
『――アアッ!』
「っ」
 こうして、撤退戦は始まった。
 その様を一言で表せば――苦戦、である。
「……ああもう、駄目、流石に手を焼くわね!」
 眉根を寄せながらギンギンパワーZで味方の回復を強化を行う砂夜の言葉は、正しい。
 実の所、彼女は回復に掛かりきりだ。
『……!』
 とにかく――行動の速度が、全てにおいて違う。
 悪路で相対している狼は、こちらの攻撃をよく回避し、すぐに距離を詰めてくる。
 自己回復をしても、すぐに。
「クリストフさん、狼を頼む!」
「承知した――柚琉、合わせられるか!」
「勿論。山育ちを舐めないでね?」
 ペースを握られたら、即座に負ける。
 直感で悟った前衛は、完全に背を向けず、適切なタイミングで逆襲する――クリストフと柚琉の奮戦は貴重なものであり、同時に負傷も多かった。
「「――ふっ!」」
 鋭い呼気と共に繰り出される連携に、狼がたたらを踏む。
『『……オーン!!』』
 ソレを癒すのが、鳥型妖獣だ。
 空を翔る彼等には、更に上質な運動性能が保証されていた――。
「見えた……アルト、思い切りやっちゃって!」
「ああ!」
 そして、その鳥を牽制するのが――愛瑠人、エルヴィンの二人。
 遥華も牽制射撃で援護するが、狼の麻痺攻撃を浄化の風で打ち消す任も忘れられない!
「ったく、煩わしい的だ。さっさと落ちろ……!」
 愛瑠人のフレイムキャノンと、連携したエルヴィンの瞬断撃――ミストファインダーで射程は延ばしてある――の二撃は鳥を襲い、ダメージを重ねていく!
(「まだです。もう少しだけ、耐えて下さい……!」)
 祈るようにヒュプノヴォイスを歌うアリエッタが見るのは、依然として強い敵の猛攻だ。
 もしも能力者達の集団戦の力量が、もう少し低かったら。
 女性は逃がせても、おそらく――半数以上が倒れていたに違いない。
 開けた戦闘場所を指定する判断が、より柔軟であったら、撤退戦の距離も縮まっていただろうが――それも評価は分かれる所だろう。実際、今回能力者達が麻紀を配置した広場は、結果的に少々遠いものの、広さに関してはトップクラスであったのだから。
『ガアアアアア!!』
「残念ですが既に、僕の霧は貴方達を蝕んでいます……聞こえているかどうかは分かりませんが」
『アアアアアアア!』
「ハ、元気だなケモノ共! 眠れー♪ 眠れー♪」
 全体的な打撃力は引き続き、ヒナタと和暁。
「もう少しだけ……お待ち下さいね?」
『『!?』』
 そしてアリエッタが、軽減させている。
 皆が、回避に努め。
 仲間を、庇う。
 ――そのの攻守のバランスは、本当に高い水準にあった。
 だが。
『……アアアアアア!』
「ッ、シャイセ!」
「クリストフ!?」
 それでも徐々に、能力者達の不利が濃厚になってくる。
 敵は、強い。
 このままでは、負ける。
 未だ女性は戦闘から離れた位置を走っているが――いつまで続くか。
 ――そんな時だ。
「来た……みんな、無事!?」

 こちらを案ずる女性の声が、前方から聞こえたのは。

●返す刃は疾く速く――
「……間に合ったか!」
「ええ。被害者の人はこのまま引き受けるわ……!」
 ソレは、言うまでも無く麻紀だった。
 既に先行していた女性は、緊張状態ながらも彼女の後ろに居る。どうやら会話を成立させ、共に下山することについて同意を引き出したようだ。その対話力は流石である。
「御願い! 私たちは反撃に移りましょう!」

 ……導眠符を鳥に放ちつつ、砂夜が叫ぶ。

「漸く、こっちのペースで闘れるワケだ……なぁ?」
「ああ!」
 止まった鳥に即座に放たれるのは、連携も完璧になりつつあるエルヴィンと愛瑠人。
 鳥は回避出来ず、食らう姿勢。
 おそらくは――すぐに単体回復で、持ち直そうとしたのかもしれない。
 だが。
「――暢気だな。お前は此処で、終わりだよ」
『ガッ!?』
 鋭く、奥義級の瞬断撃が直撃する。
 一瞬の間をおき、インパクトで弾け飛んだ鳥は――。
 地面に落ちて、動かなくなった。
『!』
 そこでやっと、ケモノは悟ったのかもしれない。
 ずっと能力者達が火力を集中させていた意味を。
『ガ、』
「一気に攻めるわよ!」
 全ては――もう遅い。
 回復の要を潰された敵群が広場を疾駆し始めるのと、遥華の声に続く逆襲は、ほぼ同時!
「信じた甲斐が、ありましたね……」
「まぁ、集団戦の面白いところだよな?」
 視線を交わすヒナタと和暁が、小さく笑い、即座に連携。
 叫ぶ言葉は、
「ヒミコ、やっちゃってください!」
「眠りには飽きたか? 次は――踊って貰うぜ!」
 攻撃の意思。
 傷付き、高度の著しく下がったもう片方の鳥は速やかに無力化され、奥義級のダンシングワールドは狼一体のテンポを狂わせる。
「誇り高き騎士の戦いに、毒とは些か無粋な気もしますが……ご容赦を」
「何を言う。君の高潔は俺達全員が知るところだ。誇れよアリエッタ!」
 クリストフはアリエッタの真面目に微笑を浮かべ、彼女の地獄の叫びで運動を制限された一体へ、全力のフロストファングを見舞う!
 狼はよろめき、慌てて自己回復を試みるが――。
「させないっ!」
「助かる、砂夜!」
 砂夜の呪殺符が見事にその身を蝕み、数を減らした。
 最早、今までの苦戦が嘘のように、能力者達は狼を狩って行く。
「しっかし俺、両手にそれぞれギターマシンガンって結構無茶」
「集中しろ和暁それ以上は言うな!」
 和暁は此処に来て雑念まみれだが、その攻撃は正確だ。
「大分やり易くなったね……」
 一体の狼をターゲットに定め、他狼の参入による乱戦化をひたすら水刃手裏剣で防いでいた柚琉も――動く。

 ケモノと踊るのは、そろそろ終わりにしよう。

「ほら、早く楽になっちゃいな?」
『ガ、アアア!?』
 刃を振り切った体勢から、その勢いを殺さず彼女が放つのは龍尾脚。
 想定外の動きに、正面の狼は回避できず――無力化された。
 残るは、一体。
(「此処は……駄目、一気に行く!」)
 向かうのは遥華。
 浄化の風を使うことも考えたが――一時撤退の上、再び女性を追われるのも厄介と判断。
 負傷の身に助走を付け。
『グ、』
 行く。
 先に放たれたカウンター気味の狼の牙で、負傷は重傷に切り替わる寸前だが――。
「……私達の、勝ちよ!」
『アアアアアアアアアアアアアアア!?』
 クレセントファングの反撃が、遂に最後の敵を、沈ませる。
 ――長い山中の攻防は、ここに漸く幕を下ろした。

●水と空の祝福を
 さて、こうして能力者達は激闘を終えた。
 女性に対するアフターフォローも――結論から言えば、既に考えてあった『言い訳』を話して事なきを得た。
「どうも、凶暴な狼がいてね。有志の巡回があったのは幸運だった」
「獣は山岳レスキューの方が駆除に向かいました……もう大丈夫です」
「あ、有難う……私、もう、駄目かと……本当に有難う御座いました!」
 語るエルヴィンとヒナタの言葉に頷き、女性は何度も礼を言っていた。
 もう、彼女が命を落とす未来は無い。
 ――救えたのだ。
 一人の、命を。
「ふ……麗しい女性を救えたこと、最高の誉れですよ」
(「クリストフ……!」)
 あと、実は女性をエスコートできなかったことをちょっぴりだけ残念がっていたクリストフが和暁に慰められていたが、まあそれは別の話である……。

 ――そして向かうは、温泉だ!

「しっかし温泉はやっぱりいいねぇ……あ、化粧品忘れた」
「静かな山に戻せて良かったねー……んー、自然の中の温泉、さいこー!」
 選ばれたのは山の中の秘湯。
 一般人も全く来ないそこで、背伸びしつつにごり湯を楽しむ。
 和暁と柚琉が口々に呟き、見上げる空には、小鳥の囀りしか、ない。
「ヒミコ、お疲れ様でした」
『……♪』
 貸切状態ということでヒミコを労えたのは幸運だった、とヒナタ。
 穏やかな空気が、流れる。
「柳腰美人はいないか……」
「分かるぞ、エルヴィン」
「いっそ帰り、別の温泉にでも……水着ではなく、温泉美人はタオルではないか?」
「分かるぞ、エルヴィン!」
 エルヴィンとクリストフのテンションが何気に高かったが!
「彼氏以外の男子のこういう姿見るのって新鮮〜♪  アルトは何だか女の子みたいね?」
「はは……女性と間違えないでくれよ、クリストフさん 」
「ふ……」
 楽しげに話すのは、遥華と愛瑠人だが――。
「案ずるな愛瑠人。むしろお前の美形具合は……強敵だな?」
「「うわー、そっちなんだ……」」
「うむ」
 ここでもクリストフがひどい。
 これはひどい!
「でもまあ、無事に終わって良かったねー? 温泉も気持ち良いし♪」
「……まさしく。美女の趣も見られて、俺は満足だよ、砂夜」
 勿論、砂夜に笑いかける彼の顔は、安堵を含んだ戦士のそれであったのだが……。
「受験勉強は順調ですか、クリストフさん?」
「ありがとうアリエッタ。少々、古典と漢文に苦戦しているが概ね順調だ……女子大に男が入学出来ない事実には愕然としたが、まあ、これも神の与えた試練だろう」
「「それは無理だよ!」」
 重い任務を終えて、会話も軽快に進んでいく。
 良いことですね、と、アリエッタは笑う。
 みんな、一息つけて、共に戦ったこの時間が悪くない想い出になってくれれば――。
 それ以上のことはないと、彼女は静かに想うのだ。

 ――見上げた先には、青い空。
 その青は尊い命を救った能力者達を賞賛するように、澄み切っていた……。


マスター:緋翊 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/12/01
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