ぬくもりをあなたに


<オープニング>


 暖かそうなマフラーや手袋、そして毛糸やビーズが並ぶ雑貨店。
 落ち着いた雰囲気の店の中で、ニット帽が動き回っていた。
 毛糸の棚へとやってきたニット帽の中から、小さな手が出てくる。その小さな手は毛糸を引き寄せると、はみ出ている先端を引っ張り始めた。
 するすると毛糸が出てくるのが楽しいのか、その小さな手はどんどん毛糸を引っ張り出す。
 毛糸が原型を留めなくなるほどになると、飽きたのかニット帽はビーズの棚へ移動し始めた。
 ニット帽からは、ふわふわの白い毛がはみ出ていた。

「皆、集まってくれてありがとう」
 舞風・透夜(中学生運命予報士・bn0280)は、編みかけのマフラーを置いて教室に集まった能力者達を出迎えた。
「今回の依頼は、雑貨店で悪戯をしているモーラットの捕獲だよ」
 この店、と言って、透夜は雑誌の一ページを見せる。
 紹介されている店には、豊富な種類のマフラーや手袋、そして毛糸などハンドクラフトの材料が並べられている。
「この店の二階で、モーラットが毛糸を解いたりビーズをひっくり返したりして悪戯してるんだ。だから、捕まえてきて」
 暖かいからか、モーラットはニット帽がお気に入りらしい。それを被って遊んでいるから、動くニット帽を目印にするとすぐに見つかるだろう。
「モーラットは能力者を見つけると寄ってくるからね。ただ追いかけると逃げるから、逃げたら追いかけっこして捕まえて」
 放っておいて何かの拍子に火花を出しても危ないし、と言いながら透夜はモーラット捕獲用の籠を手渡し、捕獲はすぐ終わるだろうからと言って話を続けた。
「この店、一階は服飾雑貨を販売していて、二階は毛糸や布、ビーズとかハンドクラフトの材料を販売してるんだ。結構材料は充実してるみたいだから、モーラットを捕まえた後何か作って見たらどうかな。二階の一部はハンドクラフトができるスペースになってるんだって」
 手芸教室のために作られたスペースだが、教室の無い日は買い物をした客に開放している。作り方の本も閲覧できるので、詳しくない人でもやってみてと透夜は話す。
「手作りのものってそれ一つだけしかないし、作り手の気持ちがこもってるからか何か温かい感じがするよね。誰かと一緒に作ってもきっと楽しいし、贈り物にしても喜ばれるだろうね」
 俺も今年は手作りに挑戦中、と言って透夜は編みかけのマフラーを見せる。
「いいものが作れると良いね」
 透夜はそう言って能力者達を送り出し、またマフラーの続きを編み始めた。

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参加者
武内・恵太(黒燐蟲使い・b02430)
時雨・澪(魔剣士・b02840)
眞壁・留実(ごく普通の女子高生・b06345)
佐藤・智秋(シャープエッジ・b49210)
ブリギッタ・カルミーン(箱入りヴァンピレス・b49307)
関口・リカ(みかん色片想い・b64935)
椋鳥・陸(白魔驀進中ですが何か・b65313)
禪嵩寺・琥向(憑依豹変・b70530)
風霧・來那(普通になれない魔弾術士・b71827)
花椿・蘭丸(陰湿なヤドリギ使い・b71847)



<リプレイ>


 暖房の効いた雑貨店の中。落ち着いた雰囲気の店の中に、所狭しと商品が並べられている。
 店内を見回していた武内・恵太(黒燐蟲使い・b02430)は、二階へと上がる階段を見つけた。
「二階にいるんだっけ? 上がるか」
 二階で悪さをしているモーラットを捕獲するため、能力者達はぞろぞろと階段を登っていく。
「一口に毛糸とは言っても、色々な素材や太さがあるんですね」
 モーラットを探しつつ、佐藤・智秋(シャープエッジ・b49210)はハンドクラフトの材料に目移りしていた。
 周囲にそれらしいものは見当たらない。そこで智秋は毛糸をいくつかわざと床に落としてみる。
「おっと、うっかり落としちゃいました。しかも5色同時に」
 ころころと転がる毛糸。しかしやはりそれらしいものは見当たらない。
「じゃあ、向こうも見てきましょうか」
 智秋が歩いていく。その棚の後ろ側を、ニット帽がこそこそと移動していた。
(「こういうのは初めてだから緊張するなぁ」)
 やや緊張した面持ちで毛糸の棚の前を通り過ぎていくのは風霧・來那(普通になれない魔弾術士・b71827)。急に肩を叩かれ、少し驚きながら隣を見ると禪嵩寺・琥向(憑依豹変・b70530)が立っていた。表情から僅かな不安を読み取っていたらしい。
「そっと捕まえれば逃げませんし、大丈夫です。それにすごくふわふわですよ」
「俺もモーラット捕獲は初めてだけど楽しみにしてたぜ。つっても気楽にやりすぎて取り逃したら大変だから、気を引き締めてやらないとな!」
 以前モーラット捕獲を経験したことのある琥向と、來那と同じく初挑戦の恵太の言葉に、來那の表情も少し和らいだ。


「ニット帽、好きなんでしょうか……? それとも、寒いのかな……? ……可愛いんですけどね、モーラットサンの行動って……。でも、このまま放置する訳にはいきませんから」
 時雨・澪(魔剣士・b02840)はビーズが入った小瓶がいくつか転がっているのを見つけた。小瓶を棚に戻してレジの方を向くと、眞壁・留実(ごく普通の女子高生・b06345)が手を振っているのが視界に入った。
 レジ付近を闇纏いで捜索していた留実は、ハンドクラフトのお手本として飾ってある中のニット帽が動いたことに気付いた。
 手振りで周囲にそれを伝えると、花椿・蘭丸(陰湿なヤドリギ使い・b71847)が毛糸玉を持って近寄ってきた。
(「モーラット……かわいい……」)
 毛糸を軽く振って見せると、モーラットは興味を示したのかふよふよと近付いてくる。
「かりんとう食べるかな? おいしいから食べるよね……ほ〜らかりんとうだよ〜」
(「あ! いた……どうしよう」)
 そこを通りかかった椋鳥・陸(白魔驀進中ですが何か・b65313)は、そっと近寄りしゃがみ込む。
「るーるーるー」
「むっくん……それは狐さん呼ぶ時の、です」
 陸の呼び方に、毛糸を元の通りに並べながら関口・リカ(みかん色片想い・b64935)が苦笑する。
「ちちちち」
「むっくん、それは猫さん呼ぶ時の、です」
 リカが再度教えてみても、陸の頭の中は一杯一杯で聞こえていない。
 蘭丸のかりんとうを受け取ったモーラットの隣に、來那もお菓子を差し出す。
「おいで」
 呼ぶとモーラットは手からお菓子を受け取り口に詰め込む。
 口いっぱいに甘いものを頬張り満足そうなモーラットを後ろから、ブリギッタ・カルミーン(箱入りヴァンピレス・b49307)が抱き上げる。
 ぎゅうっと抱き締め、しっかり確保する。
「これで任務達成ですね♪」
 笑みを零すと、モーラットはもきゅ? とブリギッタの顔を見上げていた。
(「……やべ、かわいいかも」)
 陸はちらちらとモーラットに視線を送る。
「もう! じれったいですねえ!」
 見かねたリカが代わりにモーラットを受け取ってばふっと陸に押し付ける。
「…………」
 陸はそっと白い毛を撫で、満足したのかリカにモーラットを返した。
 恵太が籠の口を開け、リカからモーラットを受け取った琥向が確りと籠に納める。
「おぉ〜よしよし……いいコだね〜」
 大人しく籠に納まるモーラット。恵太は蓋を閉める前にふわふわの毛に触れてみた。
「うっわーやっべー触るの久しぶりだ」
 プール地下ぶり? と久しぶりの感触を暫し楽しむ。自然と顔には笑顔が浮かんだ。
「しばらくこちらでじっとしてて下さいね。これで遊んでても構いませんから」
 智秋は購入してきた毛糸を籠の中に入れる。モーラットは喜んで解きだした。


 モーラットを捕獲し、後はハンドクラフトを楽しむ時間だ。
「物作りはあなり手先が器用でないので苦手ですが……ちょっと挑戦してみたいですね……」
 何を作ろうか、毛糸は少し難しそう、と澪は悩みながら様々な材料を見て行く。
「ビーズで小物、とか……頑張れば作れるかも……」
 悩んだ末、ビーズをいくつか選び購入した。
「ちょっと狭いですけど……少し辛抱してくださいね……? 戻ったら、広々遊べますし、お仲間沢山いますから……」
 ハンドクラフトスペースの机の下に籠を隠し、大人しくしているモーラットに声を掛ける。退屈はしていなさそうだ。
「銀粘土ってここでやれるかな?」
 恵太が店内を見回していると、智秋が少し離れた所で手招きした。
「ここにありますよ」
「本当だ。よし、やってみるか」
 シルバーアクセサリーに前から興味はあったものの、まともに買えば高い為そうそう買うことは出来ない。
 それならばいっそ自分で作ろう、と恵太は銀粘土を購入してきた。
「銀粘土ですか。折るときは空気が入らないように下の方から折ると良いですよ」
 恵太の隣で蘭丸はそうアドバイスをしながらも、恐ろしいまでのスピードでマフラーを編み上げていく。
「へー、銀粘土ってこうなってんだ? と言うか……早いな」
 手先が器用なのだろう。蘭丸の編み棒からどんどん純白のマフラーが伸びていく。
 それを見て恵太も自分の作業に集中する。
 真剣な面持ちで、細部にも拘ってコネコネと丁寧に仕上げていく。
「こまかいとこ難しいな……」
 一方留実はモーラットに持ってきたぬいぐるみを見せていた。
 毛糸をすっかり解き終えたモーラットは、目の前で留実が動かすぬいぐるみに興味津々だった。
「いい子ね。もう少し大人しくしててね。……さてと、私も何か作ろうかな? 雑貨屋さんも気になるんだけど……」
 折角なので手芸に挑戦してみようと、毛糸を購入してくる。
 作り方の本を広げ、クマのぬいぐるみを作り始めた。
「こういうのは好きなんです」
 ブリギッタも隣で楽しそうに白い毛糸を編んでいる。
 編み物は去年からやっているので、腕にもそれなりに自信がある。
 留実が立体を作るのに苦労していると、ブリギッタは手を止めてアドバイスする。
「あ、ここはこうやってですね……」
「すごい。出来てきた」
 編みぐるみのクマは少しずつ形を成してきた。
「一針一針に想いを込めるんです♪」
 ブリギッタも毛糸で編んだモーラットの内側に、ウレタン素材を詰めて仕上げていく。
「あ、また何かおかしくなっちゃった」
 留実の言葉に、今度は智秋が手助けに入る。
「えーっと、ここはこうしてっと。ゆっくりやると、逆に型崩れしちゃいます。スピーディーに」
「なるほど〜」
 智秋は毛糸で帽子を編んでいた。何色か毛糸を用意し、凝った模様が少しずつ見えてきた。
「お、模様が綺麗に出来ると嬉しいですよね」

 リカは手芸の本を広げながら、頭に疑問符をいくつも浮かべていた。
(「ちょっと文章多くて、読むのが手間ですねえ」)
 そして閃いた様に、本を持って陸の所へ行く。
「むっくん、これ作りたいです」
 慣れた手つきで膝掛けを編んでいた陸は手を止め、リカから本を受け取る。
 暫く眺めると、本を閉じて返す。
「……覚えた。布貸せ」
 リカがフェルトを差し出すと、陸はチャコペンで必要な場所に印を付けていく。
 一通り終えると、リカはそれを切って赤糸で縫い始めた。
「琥向さんもシルバーアクセですか?」
「僕これでも割と得意なんですよ」
 琥向は銀粘土をこねていく。イメージどおりの形が出来上がっていった。


 一生懸命ぬいぐるみを作っていた來那。白いそれは、モーラットの形をしていた。
「よく似てるね、それ……」
「えへへ、可愛いでしょ?」
 蘭丸の言葉に、來那はぬいぐるみを見せる。
 尻尾を付けたら出来上がり。モーラットのぬいぐるみの完成だ。
 來那はモーラットの籠を引き寄せ、モーラットにぬいぐるみを見せてみた。
「どうかな?」
 モーラットは自分そっくりのそのぬいぐるみを突いたりして遊んでいる。
 楽しげなモーラットに來那は手を伸ばすが、少しも嫌がる素振りは見せない。
 両手で触れてもふもふと撫でる。モーラットはくすぐったそうに目を閉じた。
 マフラーを編み上げた蘭丸も籠を覗き込んだ。手を差し込むとモーラットがその指を甘噛みする。
「あれ……かりんとうの砂糖、まだ付いてた?」
 暫くモーラットと戯れていると、シルバーアクセを作っていた二人もそろそろ完成したようだ。
 焼き上がり冷ました銀粘土に、恵太は仕上げの金具を付ける。
「よし、完成ー!」
 中々難しかったが、頑張った甲斐あって満足いくものが出来上がった。
「……うんっ! なかなかいい感じに出来ましたねっ!」
 琥向の手には、剣と盾をモチーフにしたペンダント。手作りとは思えないほどの完成度だった。
「……意外と、根気がいる作業、ですね……」
 澪のビーズアクセサリーも終盤に差し掛かっていた。細かい作業に少しの疲れが出てきたようだ。
「……いえいえ、僕は負けませんよ?」
 もう暫くビーズと睨めっこを続けると、ようやく完成した。
 照明の光にビーズの紅と蒼が煌く。澪は満足そうに息を吐いた。
「私も出来たよ。手伝ってくれた人ありがとう。帰りに一階で買い物して帰ろうかな」
 留実の編みぐるみのクマは少し形が歪だが、留実の表情は明るい。
 手作りはたった一つのもの。一生懸命作ったものなら愛着も沸く。
 智秋も出来上がった帽子を満足そうに眺めていた。毛糸で編まれたその帽子はとても暖かそうだ。
「楽しかったですね♪」
 ブリギッタはモーラットの籠を片手に、もう片方の手には手編みモーラットを持っている。
 大切な人に贈る予定のぬいぐるみには、自分の想いをたっぷり詰め込んだ。
「……それ、自分で使うんだよな?」
 陸はリカに恐る恐る尋ねる。リカの手には乙女使用のピンクのブックカバーが握られていた。
「え? もちろん、基せんぱいにあげるんですよ?」
 当然だというように返すリカ。どピンクなのが気になるが、自分の作品の出来も気になる。
 膝掛けを広げてみる。満足のいく仕上がりだった。
 陸もまた、これを贈り物にする予定だった。

 それぞれがそれぞれの作品を手に、ハンドクラフトスペースを出る。
 自分用に、大切な人に、お世話になった人に。想いを込めて作った作品。
 手作りならではの温もり。それはきっと、心も温めてくれる。


マスター:兎村縷々 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/11/27
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冒険結果:成功!
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