<リプレイ>
● かつてはシャトルバスも出ていた様だが、能力者達がパークに到達するまでにはかなりの時間を要することになった。 彼らが侵入口に選んだ裏門には、朱色に塗られた大きな門がそびえ立っており、中々壮観だ。 「(テーマパークと言うから遊園地みたいな所かと思ったんだが……)」 幾人かは、フェリシア・ヴィトレイ(きまぐれな野良猫・b54696)と同じ感想を抱いたかも知れない。このパークには、ジェットコースター等の大型アトラクションは無く、比較的地味だ。 それでも開園当初はそこそこの賑わいを見せたそうだが、2年目からは急速に来園者が減り、間もなく倒産したのだとか。 「ありふれたシチュエーションとはいえ趣がありますね」 逆土・あやめ(黎雲瀟瀟・b56666)が言う様に、朝もやに包まれたテーマパークの景色は幻想的で、ここが平成の日本ではない様な錯覚すら覚える。 「ちょっと寒いのです」 少し強い風が吹いて、小さく身震いする露木・水無月(清風明月・b43410)。 かつて人で賑わった場所が静謐に支配されている光景は、体感温度を下げる寒々しさがある。 「不法占拠はイケナイネ! 速やかに昇天するヨロシ」 この地に流れ着いたリリスの出自は不明だが、蕭・天河(中華風ピロシキ娘娘・b53167)は正真正銘の大陸生まれの大陸育ち。 この戦場に彼女が立つことは、かえって自然に思える程だ。 「天河、なんか似合うわね」 速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)もそんな印象を、笑みを交えつつ口にする。 この後に控えるのは楽な戦いではないが、信頼する仲間と共に挑む戦い。めぐるに緊張は無いようだ。 「数が多いですけど、順番に、確実に倒していきましょうっ」 「あぁ、全部退治できればいいが……」 龍答院・ユーセルディンガー(首切り包丁・b41180)が改めて皆へ呼びかけ、神咲・司(灯火を求める氷牙・b45887)はそれに頷きながらも、やや厳しい表情で門の向こうを眺める。 そこは生ける者を楽しませる為の場所ではなく、死者達の砦と化しているのだ。 「みんな、頑張ろうねー」 「「おーっ!」」 デューテ・ハルトマン(出来損ないのホムンクルス・b61163)の音頭に応え、気合いを入れ直す一同。 「んー……眠い」 その円陣の端に居て、物憂げな表情を浮かべているのは彩水音・流我(暗夜幽迷・b71535)。先ほどから殆ど口を開くこともなく、といって緊張して硬くなっているワケでも無い。 良く見ると、メモ帳に仲間の名前と特徴を書き込んでいる様だ。極度に人の顔を覚える事が苦手な彼の、地道な努力と言った所だろう。 さて、一行はそれぞれの覚悟を胸に、門をくぐる。
● 「えーと、お邪魔します」 裏門から敷地の中へ入った能力者達。 出迎える者はなく、案内板が所々に佇立しているばかり。 「このまま道なりみたいなのです」 水無月は、裏門からホールまでを指で辿りつつ皆へ報告。 渡り廊下を通って行く形になりそうだ。 「……」 四方に気を配りつつ、ゆっくりと歩みを進める一行。 渡り廊下は真っ直ぐで視界も開けており、奇襲を受ける心配は少なそうだ。 ただ、余りの静けさが不気味にも思える。
――。 暫く渡り廊下を歩いた一行は、1つ目の建物に行き当たった。 かつて雑伎団によるショーが行われていたらしい、ショーホールだ。 「開けます」 内部の様子を窺ってから、司がゆっくりと扉に手を掛ける。 ――バンッ! 勢いよく扉を開け、ホール内に雪崩れ込む能力者達。 「……」 かつては華麗な雑伎の数々が演じられ、このパークの目玉でもあったであろうホール。 今は静寂があるのみ。 「静か……ですね」 「ここには居ないのかな」 声を抑えながら、言葉を交わすあやめとデューテ。 能力者達はあくまで警戒を緩めることは無く、ホール内を歩む。 特に遮蔽物などもなく、不意打ちを心配する必要はないが――。 ――ジャーン! ジャーン! ホールに響き渡る銅鑼の音。 続いて一段高くなっているステージ上に、ぼんやりと浮かぶ青白い影。 「パッ……」 「パンダ……」 そこに居たのはパンダだった。 厳密に言うと、余り可愛らしくない着ぐるみを纏ったパンダ男だ。 「1体だけか」 流我がごく小さく呟く。確かに後続は居ないようだ。 「だったら、さっさと片付けてしまいましょう」 「ですね。さっきゅん」 ユーセルディンガーと水無月、そして彼のサキュバス・ドールが一斉にパンダへ攻撃を仕掛ける。 ――ガァン! ヒュッ! 「夢幻泡影」から放たれた弾丸と「Rhinoceros」の一閃がパンダの活動を停止させるまでに、ものの数秒も要さなかった。 「これで終わり――っ?!」 言い掛けたデューテの第六感が、微かな気配を捉えた。 食堂に通じる渡り廊下への扉、その向こう側に気配の元は居た。 「待つヨロシ!」 天河の声が響くが早いか、おだんご頭のその人影は走り去っていった。 急いで追うかどうか顔を見合わせた一同だったが、あくまで目的は地縛霊の殲滅。不要な危険は避けることになった。 引き続き、一行は警戒しながら進んでゆく。
● テーマパークながら、ここの食事は極めて本格的な中華料理だったらしい。 ラーメンや饅頭と言ったリーズナブルな物から、点心などのバイキング、そして高級中華懐石と、予算に合わせた食事を楽しむシステムだったらしく、巨大な建物の中には趣の異なった店が幾つも入っている。 「わ、美味しそうなのです」 「あー、私もお腹空いてきたわ」 ケースの中に展示されている大きなあんまんを見て思わず呟く水無月。めぐるはフカヒレの姿煮に目を奪われる。 「ワタシの料理世界一ヨ!」 「!?」 回転テーブルの上に、いつから居たのか小太りの中年男。コック帽を被り、片手には中華鍋、片手にはおたまを持っている。 「また一体だけ?」 フェリシアは油断なく周囲を見回すが、やはり料理人以外の姿は見えない。 「先手必勝っ、いけぇ!」 「コック……あ、沈黙させるような人じゃないんですね。なら勝てるかも」 罠の危険は無いと判断した一行。司とあやめは、一気に距離を詰めて攻撃を仕掛ける。 ――ビュッ!! 最上段から振るわれた「grandus_yor」が、料理人の身体を袈裟懸けに斬りつける。 「はぁっ!」 ――ズンッ。 更には凝縮された怨念を「柳傘」に纏わせ、料理人の腹部を突くあやめ。 相当なダメージを与えたには違いないが料理人はまだ倒れない。 「中華三千年の妙技を見るがイイヨ!」 巨大な中華鍋を華麗に操る料理人。 それまで何も入っていなかった筈の鍋に、ご飯と細かく刻まれた肉や野菜が踊り出す。 香ばしいかおりと、食欲をそそる刺激的な音が響く。 炒飯を食べればその店の腕が解ると言う。一見簡単に見えて、極めて奥の深い中華料理である。 「……攻撃して良いんですよね?」 「いや、何か来る!」 これまで以上に大きなモーションで鍋が振られ、炒飯が宙を舞う。 ――ババッ! 「きゃっ!?」 「熱っ!」 鍋から零れた熱々の炒飯が、能力者達に降り注ぐ。 「ふふっ、見たカ? 中華三千年の妙技」 「零してる時点で妙技じゃないヨ」 「さっさと片付けちゃおう!」 「来るヨロシ、厨房じゃ負けないネ」 「ここ厨房じゃないし!」 瀕死だった上に奥の手も使い果たした料理人は、そのまま呆気なく倒された。
● 食堂を抜けた能力者達は、再び渡り廊下を歩んで最後の建物へ。 宮殿を模しただけのことはあり、さすがに豪華だ。 「結局ここで戦う事になるのですね。開けます」 水無月の手によって扉が開かれる。 宮殿内はこれまでの建物と異なり、かなり障害物が多い。能力者達は死角をカバーし合う様に、3人単位の3チームに分れて進む。 展示品や建具など、どこから敵が出てきても不思議はない。張り詰めた緊張感の中、足音を殺しながらジリジリと進む一行。 やがて彼らは、謁見の間へと辿り着いた。 宮殿の中にあっては非常に広く、開けている空間だ。 「よく来たアルネ。このネズミども!」 見れば、豪華な玉座にチャイナドレスの女が悠然と腰掛けている。 「常に奇襲の恐怖を与えながら、敵を自陣奥深くまでおびき寄せ……心身共に疲労の極みに達したところを叩く。これぞ中華三千年の兵法アルヨ! 恐れ入ったカ!?」 勝ち誇った表情で、何やら騒いでいる。 「言ってる事は正論?」 「でも疲労の極みって程疲れてないよね」 ぼそぼそと言い合う能力者達。 「『アルヨ』、ですと……! この似非チャイナリリスめ!」 「似非とは失敬な! 正真正銘の中華的圧倒的美少女アル!」 あやめのツッコミに、尚更うさん臭く言い返してくるリリス。 「どこから持ってきたんだろ? あのチャイナ服」 「季節的にその服装は寒くないのでしょうか?」 ユーセルディンガーの疑問に頷きながら、リリスに尋ねる水無月。 「心頭滅却すれば火もまた涼シ、アルヨ」 「それ日本の言葉ネ」 「だ、黙れアル! 野郎ども、やっちまえアル!」 リリスの声に応えて、わらわらと姿を現す地縛霊達。 戦力を逐次投入せず一気にぶつけて来た辺りは、少しは知恵が回るようだ。 謁見の間において、ゴーストと能力者の決戦の幕が切って落とされた。
「剣に宿る影の力……はぁっ!」 司の双剣が黒炎に包まれ、その殺傷力を高める。 「ここなら自由に動けそうですね」 ユーセルディンガーも、体内の気を目覚めさせ戦闘態勢に入る。 「行くヨ、八卦迷宮陣!」 香炉を片手に、緩やかに舞う様な動きを見せる天河。 彼女によって乱された気が迷路を形作り、パンダ達の出足を封じる。 「急急如律令! 霊符の力をもちて魔を滅す!!」 続けざま、水無月の手から放たれた符が足止めを逃れたパンダの額に張り付く。 ――バッ! そして次の瞬間、符に籠められていた「呪」の力が弾け、瞬時にパンダの身体を崩壊させた。 「くっ……な、中々やるアルネ。でもまだまだアル!」 と言いながらもリリスは玉座を降り、その影に隠れている。 それでも、彼女の命令に従って、飛刀でジャグリングをする者、自転車を逆立ちで運転する者等、アクロバティックな地縛霊達が能力者に迫る。 ――ヒュッ! ヒュッ! しかしパフォーマンスに見とれていると、その合間から刀が鋭く飛んでくる。 どこまでがパフォーマンスで、どこからが攻撃か見分けが付かない分、意外と厄介だ。 「っと……気は抜けないな」 フェリシアは魔道書でこれを弾き、すぐさま魔方陣を展開。 「させませんよ」 あやめはフェリシアへの射線を消しながら、ジャグリングの地縛霊へ接近。 ――シャッ! 呪いの力を込めた突きは、ここでも地縛霊を痛烈に貫いた。 「何やってるアルか! さっさと叩きのめすアル!」 リリスは難なく蹴散らされる地縛霊達に苛立ちながら、ジリジリと距離を取る。 ――ヒュヒュッ! 仮面をつけた地縛霊が舞い踊りながら次々に面を取り、投げつけてくる。 しかし流我は次々に飛来する面を「暗夜幽明」で受け止め、黒炎を燃え上がらせる。 「なんのっ……めぐるちゃん、行くよっ!」 「OK、援護するわ!」 こちらも同じく数発の面を受けながら、デューテは怯まず距離を詰める。 二振りのアームブレードが炎を纏い、面の地縛霊を切り裂く。と同時に、めぐるの放った白燐蟲達が乱舞。 炎に包まれた地縛霊は、そのまま倒れ伏す。 「皆、さっきゅん、次はそのパンダを!」 「この一撃でっ!!」 「食らうと痛いですよ、これは!」 水無月の狙いに合わせ、同時攻撃を仕掛ける司とユーセルディンガー。 狙い澄ました強撃がパンダを捉え、その衝撃によって内部から破壊してゆく。
3人単位で無駄なく各個撃破を繰り返す能力者達の前に、地縛霊達は為す術もなく数を減らす。 謁見の間に数多く陣取っていた地縛霊も、これであと2体を残すのみ。 「な、なるほどネ。お前達、思ったより強いアルナ。それは認めてやるアル」 すぐにでも逃げ出せる位置取りをしながら、尚も負け惜しみを口にするリリス。 よほど用心深いのか、単に臆病なだけなのか、能力者達の射程内にすら入ってこない。 「良く口の回るリリスネ。でも今は……」 天河は呆れながらも、香炉によって増幅された気を手負いのパンダへ放つ。 「あやめ、トドメを」 「ええ、行きます!」 フェリシアか炎弾を放ってあやめの接近を援護し、間合いに飛び込んだあやめは再び「柳傘」をパンダへたたき込む。 「これでラストだよ! 流我ちゃん!」 「……幽明別つ」 残るは剣を手にした雑伎団の地縛霊。デューテは流我と共に左右からの挟撃を掛ける。 ――ザシュッ。 三条の光が煌めき、切断された地縛霊はバラバラと崩れ落ちて跡形も無くなった。 「で、三千年の兵法はこういう時どうするの? ……あれ?」 地縛霊達を殲滅し終え、残すはリリスのみ。めぐるは皮肉っぽく其方を見遣るが――。 「三十六計逃げるにしかず、ネ」 そこには、既にリリスの姿は無かった。
● 「これで完了ネ」 除霊建築学に基づき、天河がパークの汚れた気を祓う。 「お疲れ様でした。やっぱり大変でしたね」 ユーセルディンガーは安堵の表情。 戦闘自体は終始能力者達の有利だったが、常に神経を張り巡らせていた事で、かなりの疲労感がのしかかる。 しかし地縛霊も残らず殲滅し、リリスが逃走した今、このパークにもう危険はないだろう。 「今の疲れた僕の身体には甘いものが必要なのです。近くにおいしいお店ないかなぁ」 水無月も、糖分を求めてガイドマップをぱらぱらと捲る。 「お疲れさまー」 「お疲れデューテ。緊張が解けたら私もお腹すいてきたわ」 デューテとハイタッチを交わすめぐる。 「今回はお化け屋敷もジェットコースターとかが無いテーマパークで良かったね」 「なっ、別に……有ってもどうって事無いわよ」 けれど、フェリシアの言葉には軽く狼狽えつつ返す。 まだ完全に苦手を克服した訳では無さそうだ。 「そういえば、めぐるさんは、お化けとか苦手らしいけど大丈夫だったのだろうか……」 「平気よ! って言うか、ゴーストが怖くて能力者は勤まらないでしょ」 続く司の疑問にも、必要以上にムキになってそう言い返す。 「やはり、簡単には変われないものですね……」 それぞれに任務終了の開放感を満喫している仲間達を遠目に、呟く流我。 共に戦った仲間の顔と名前を覚える事が出来ない自分に、多少の落胆を覚えているのだろう。 「ほら流我、早く行きましょ」 「やっぱり、行くなら中華料理ですかね」 「何となくこの店が良さそうネ」 「皆さん、帰るまでが依頼ですよ」 とは言え、戦いを終えた能力者達はすっかり学生の表情に戻り、連れだって出口へ歩き出す。
かくして、新たな悲劇が起る事を防いだ能力者達は、凱旋の途についたのだった。
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参加者:8人
作成日:2009/11/30
得票数:楽しい14
知的1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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