雛桜


<オープニング>


「皆さん、お花見とかお雛様とか、興味ありませんかー?」
 その言葉から、話に入った運命予報士に、能力者たちは怪訝な視線を向けた。
「もちろん、依頼のお話です。ある公民館の倉庫に、ねずみのリビングデッドが現れたんですよ。もうすぐひな祭りでしょう? お雛様を出すために、一般の方が倉庫に入ってしまいますからー、そうして被害が出てしまう前に、退治して欲しいんです」
 今のところ被害はないんですけどね、と微笑んで、予報士は話を続ける。
「倉庫はそれなりに広いですから、戦うのに困ることはないですよ。倉庫に入ってしまえば外からは見えませんから、人目を気にする必要もありません。ねずみのリビングデッドは五匹、纏ってちょろちょろしていますから、さくっと退治をお願いします。物音を聞きつけて出てくるでしょうから、探す必要もないでしょうね。噛み付いて攻撃してきますが、大丈夫、油断しなければ、皆さんならまず負けませんよ」
 さらりと流すように説明をする様子から、そう手強い相手でないことがわかる。
「皆さんはボランティアの一環として倉庫のお掃除をすることになっています。遊具や機材、本などが乱雑に置かれた倉庫の整理をして、掃除を済ませ、七段飾りのお雛様を倉庫から公民館に運び込んで飾り付けるまでが、お仕事になります。仕事が終われば、あとはゆっくりとお花見などいかがでしょう?」
 公民館のそばには、早咲きの桜が並んでいるそうだ。外はまだ少し、寒いかもしれないけれど、お花見客もいない穴場であるから、桜の木の下にシートでも敷いて、皆だけで綺麗に咲いた桜をゆっくりと楽しむこともできる。
「公民館の方が、暖かいお茶や桜餅を用意してくださっています。一生懸命お仕事した後のご褒美、みたいなものですねー。私も一緒に頂きたいところですけど、こればかりは」
 ふーと肩を落として、運命予報士の彼女は、ぽん、と高瀬・綾乃(高校生白燐蟲使い・bn0006)の肩を叩いた。
「そういうわけで、私の分まで楽しんできてくださいねー」
「え、あ、あの……はい……」
 にっこりと微笑まれて、綾乃はこくこくと首を縦に振る。
「あ、あの……そういうこと、ですので……み、皆さんも、ご一緒にいかがでしょうか……?」
 何だか流されてしまったような気もするけれど、始めから行くつもりであったからよしとしよう。
「皆さんにはさくっと片付く仕事かもしれませんが、一般の方ではゴーストに対処できませんから、よろしくお願いしますねー」
 遠慮がちに誘いをかけて微笑む綾乃の後ろで、運命予報士はそう言ってひらひらと手を振った。

マスターからのコメントを見る

参加者
甲賀・零壱(メランポス・b01147)
綿貫・美空(和狸・b01208)
街田・良(幽霊せせり・b02167)
神庭・朝日(おてんば市松・b04619)
桜月・雛乃(迦陵頻伽・b05767)
ジングル・ヤドリギ(血塗れしクリスマスロイド・b06651)
狗乃・狼(彩葬の靴音・b13904)
皇・晶貴(高校生符術士・b14627)
乾・舞夢(肉じゃが求道者・b18048)

NPC:高瀬・綾乃(高校生白燐蟲使い・bn0006)




<リプレイ>

●あおぞら
 倉庫に入って幾らもしない内に、彼らはそれと顔をつき合わせていた。
 鼠のリビングデッドが五匹、ちょろちょろと駆けていくのを、彼らは円陣を組んで追い詰めていく。
「まずは、眠って頂きます…!」
 赤白カラーリングのベースギターにかけた手にぎゅっと力を込め、ジングル・ヤドリギ(血塗れしクリスマスロイド・b06651)は眠りを誘う静かな歌を奏でた。
「ねずみさんは…一気に、退治なの」
 動きの鈍くなった奴らに対し、桜月・雛乃(迦陵頻伽・b05767)は幼い指をキーボードに乗せ、衝撃を与える歌を紡ぐ。
「ちゃちゃっとやっつけて、お祭りを楽しまなきゃね。何と言っても、女の子のお祭りだから!」
 皇・晶貴(高校生符術士・b14627)は声を弾ませ笑顔で仲間に目配せした。
「早く片付けて一足先に春の空気を味わいに行こうか♪」
 地色の紫に蝶の柄が入った術扇を手に、街田・良(幽霊せせり・b02167)は目配せに微笑を返して、狗乃・狼(彩葬の靴音・b13904)と目を合わせ、頷き合う。
「蟲にもご馳走だ…敵を食ってしまってくれ」
 静かに告げる狼の声を皮切りに、綾乃も合わせて四人分の白燐蟲の波が鼠達を飲み込んだ。

「今お掃除とか準備で立ち入り禁止なんだよ? もうすぐ公民館にお雛様飾るから楽しみにしててねっ」
 見張り役を務める乾・舞夢(肉じゃが求道者・b18048)は大声で呼びかけ、やってくる人を牽制していた。
 同じく見張りに徹している甲賀・零壱(メランポス・b01147)は、倉庫の屋根に上るのは諦めて舞夢の隣で辺りを見回している。
「御重、だったか。作って来たのだろう?」
 自分が相手だと退屈だろうか、と心の中で考えながら、零壱は唐突に話を振る。
「うんっ、人数が多いから大き目の五段のお重にしたんだよっ」
 お雛様もお花見も楽しみだよね、と舞夢は無邪気に笑って返した。
 お重のことで会話を弾ませる二人の耳に、扉が開かれる音が届く。
「鼠退治、終わったよっ!」
 大きく扉を開け放した綿貫・美空(和狸・b01208)が元気に報告する。
 鼠は四人分の白燐蟲に喰われ、呆気なく退治されていた。
「朝日たちの出番はないくらい、あっという間じゃ」
 美空の後ろからひょこっと顔を出した神庭・朝日(おてんば市松・b04619)が、そう続けて笑う。
「次はお掃除だね! 皆でがんばろっ♪」
 ジャージ姿に三角巾を巻いて、美空はぐっと雑巾を握り締めて、仲間の顔を見回し声をかけた。
「うむ、頑張るぞよ」
 大きく頷く朝日の手には、小さいプラスチック製のファンシーなバケツが握られていて、何だか微笑ましくなった。

●きらり
 戦闘時に注意したおかげで、倉庫に被害はほとんどない。
「僕の部屋よりは全然綺麗綺麗」
 ぐるりと倉庫内を見回し、ふふ、と笑う良の部屋がどうなっているのか――想像はしないほうがいいのかも知れない。
 重そうな物の持ち運びは男性陣が進んで買って出て、整理と掃除に取り掛かる。
「こっちの荷物持ってー!」
「は、はいっ…」
 美空と綾乃は力を合わせて荷物を動かし、埃だらけの棚などを拭いていった。
 床を走り雑巾がけをする晶貴の後ろを、朝日が同じように拭きながらぱたぱたと付いて回っている。
 晶貴は時折振り返り、微笑みを浮かべながら、彼女がついてこれるように速度を落とした。
 押し込まれていただけの物たちが分類ごとに整理され、機材は丁寧に並べられて、本がずらりと棚に収まる。
 力を合わせて取り組めば、掃除は短い時間で完了し、乱雑だった倉庫は見違えるほど綺麗になった。
「…コレが、あのおひなさまの入った箱…!」
 倉庫の中から雛人形を公民館へと運ぶため、飾りの入った箱を運び出しながら、ジングルはわくわくと楽しげな表情で、腕に抱えた箱を見つめている。
「他の可愛い女の子たちのためにも、慎重に運ばないとね」
 女の子たちの夢と憧れが詰まった箱を、美空はそうっと抱える。
「ちゃんとした雛祭りなんて初めてだなぁ。うちは平飾りだから、七段飾りなんてデパートでしか見たことないわ」
 記憶を辿りながら呟く晶貴が、抱えた箱が少し重くて眉を寄せたのに気付き、零壱は彼女が抱えた荷物を代わりに持ち、軽い物の運び出しを頼む。
「ボクは人形は飾ってなくて、雛祭りってひなあられの記憶しかないのだ」
 貧乏は敵だと涙する美空の言葉に、晶貴はうんうんと頷いた。
「うちの平飾りは一年中和箪笥の上にいたような…って、お雛様をいつまでも飾っておくと、お嫁に行き遅れるって言われてたっけ? …わたしダメじゃん」
 はっ、と思い出し、肩を落としてしまった晶貴を、雛乃がちょっぴりおろおろと見つめている。
 箱は次々に運び込まれ、ジングルと良の手によって土台である雛壇が組み立てられた。
「飾りつけは任せる」
 毛氈を敷いて整え、そもそもこれは女のイベントごとのようだしと、零壱は後ろに退いた。
「お雛様って色々飾り方があるんだけどね。これは基本的な七段飾りだから、一段目は向かって左にお内裏様、右にお雛様を飾るんだよ」
 飾り付けの知識がある良が、昔は逆だったんだけど、と続けながら、手袋をつけて箱から人形を取り出す。
「わぁ、すっごーいっ!」
「ご本で読んだことはあったけれど…実際のお人形はとてもお綺麗、なのです…!」
 舞夢のはしゃぐ声に、ほんのり頬を朱に染めたジングルの感嘆の声が続く。
「女雛はやっぱり皆の憧れじゃな。綾乃が女雛なら、隣に並びたい者が大勢で困るじゃろうのう」
 一人に絞れるかや? と朝日ににこにこ問われ、綾乃は慌てて否定を返し、照れて頬を染めたりとあたふたしている。
「でも、手届くかなっ?」
 その様子を見て楽しげに笑いながら、舞夢は雛壇の上段に目を移した。
「心配しなくても大丈夫だよ」
 人形を一旦箱に戻して、良はほらね、と舞夢を肩に乗せて立ち上がった。
 零壱も無言で雛乃を担ぎ上げる。
「お手伝い、させて…くれるの…? …ありがとなの」
 楽しみにしていた飾り付けができて雛乃はどこか嬉しそうだ。
「これなら、届きますでしょうか…?」
 ツリーのてっぺんに、その家の子供がお星様を飾るように。朝日を肩車してジングルは少々自信なさげに問う。
「流石おのこじゃな!」
 ジングルの肩の上で朝日は感心と喜びの声を上げた。上段を飾るのは初めてだから、喜びもひとしおだ。
 その声を聞き、ジングルは更に頬を赤くしてはにかむ。雛祭りは女の子が主役だから、役に立てると嬉しいと、微笑んだ。
「…なんか、クリスマスの飾りつけみたいやな」
 その様子を見守っていた狼は、ジングルの優しさに微笑みを零し呟いた。
「狼さんも、肩車する?」
「っ…いや、俺はいい」
 悪戯っぽい笑顔で尋ねた良に、狼は後ろ頭を掻きながら複雑そうな表情で言葉を返した。
「しかし、ヤドリギ君も可愛く見えるのは何故だろう…ボク負けてるかもっ!」
「えっ…いや、そんな、オレはそんなことっ…」
 真っ赤になって慌てて否定するジングルに、美空はまた小さく笑う。
「五人囃子はどう並べるの? お道具はどこに置いたらいいのかな?」
 戦力外の自分にちょっぴり申し訳なさそうにしながら、晶貴は良の指示に従って人形や飾りを並べていく。
 上の段から飾り始め、二段目に三人官女、三段目に五人囃子が並び、四段目に左大臣と右大臣、五段目に笑い、泣き、怒り顔の従者が着座する。
 六、七段目の細々とした嫁入り道具もバランスよく飾られて、公民館の玄関は急に華やかになった。
 雛乃は亡くなった兄に貰った白い兎のぬいぐるみを抱きしめ、雛飾りを眺めながら物思いにふける。
 お雛様がとても綺麗なこと、お雛様も箱から出られてきっと喜んでること。心の中で兄に報告しながら、桜もきっとあと少ししたら満開になる、と思う。
「お手伝い、ありがとうね」
 公民館の人が飾られた雛人形を目に、嬉しそうに笑って仕事を終えた彼らを労う。
「こちらこそ、ありがとう!」
 桜餅を受け取って、美空は満面の笑顔を返した。
 心からの感謝をされるとちょっぴり照れくさくなるけれど、心がほわんと温くなった気がした。

●ひらり、さくら
 風に撫でられ、さわさわと木々が優しく囁きあう。
「…本当に、桃色なんだな」
 話には聞いたことがあった、心のどこかでそんなものは、と思っていたけども、まさかここまでとは。
 実際に目にするのは初めてな零壱は、淡い桃色を付け咲き誇る木々を見上げて、驚きと感慨に浸った。
 のんびり桜を眺め、美空は沢山の草花に可愛い狸など、住んでいた田舎を思い出す。
「桜きれいだねー、綾乃先輩は桜好き?」
 桃色の天井を見上げて笑う舞夢に、綾乃は笑顔で頷き返した。
 狼の敷いた大きなシートの上には、三色菱餅や引千切を始め皆で持ち寄った様々な物が集まった。
「みんなどんどん食べてねっ」
 舞夢は色とりどりのおかずや俵結びのいっぱい詰まった、お手製お重を皆に振舞う。
 俵結びは定番の鰹節の他に、桜の花の塩漬けを刻んで混ぜ込んだ物もあり、口に運ぶとほのかに春を感じられた。
「ボク、甘い卵焼き大好きっ♪」
 お重のふわふわであまーい卵焼きに手を伸ばし、美空は笑顔でもぐもぐと箸を進める。ネギ入りのしっかり焼いた物も美味しそうだ。
 きちっと正座して手を合わせた狼も、晶貴の煮物や舞夢のほたての照り焼きなどに手をつけた。
「最近コンビニ生活やったし、なんか嬉しいな」
 もくもくと口に運びながら、狼は自然と頬を緩ませた。
「良のはちらし寿司、か?」
 良の作ってきたちらし寿司を前に、いつも器用で感心する、と狼は零した。
「うん、雛祭りだからねー」
 ありがとー、と言葉を返しながら、良はてきぱきと料理を取り分けている。
「どれもこれも美味しそうで目移りするのう♪」
 朝日は遠慮せずにちらし寿司を頂き、お重の中のわかさぎのから揚げや、蒸した大粒あさり、しいたけの肉詰めなどに手を伸ばして、口に運んでいた。
「ほらほら、急いで食べてるからこんなとこつけて…」
 くすりと笑って、良は朝日の口元を拭ってやる。
 綾乃ちゃんも、と良が自然に頬に手を伸ばして笑うと、綾乃も頬を赤らめ照れ笑いを浮かべた。
「綾乃先輩。これもおいしいんだよ? 食べてみてっ」
 舞夢に勧められて菊花かぶの酢の物に箸を付けた綾乃は、お上手なんですねと驚嘆している。
 こちらもどうぞ、と晶貴の勧めた里芋の煮っ転がしも、よく味が染みて柔らかく箸が進んだ。
「桜餅もおいしいっ」
 他の人のお弁当にも手を伸ばす幸せそうな舞夢の笑顔につられて、隣の綾乃も微笑む。
 お弁当では何が好きだとか、会話を弾ませお弁当をつつく美空は、悪戯めいた笑みを浮かべてぷにぷにと綾乃の頬をつつく。
「ほら、花より団子っていうから…」
 美空の言葉に複雑な乙女心を刺激され、綾乃はちょっぴり自信なさげにしつつ一生懸命否定する。
「冗談、ごめんっ♪」
 笑ってじゃれあいながら、桜の香りと共に甘味やお弁当を味わう。
「美空のロールケーキは、倫太と一緒に作ったのか?」
「一人で作らないとなーって思うんだけど、手伝って貰って作ったよっ」
 苺たっぷりのそれを口に運びながら問う狼に、美空は頷きながら倫太に羨望の眼差しを向け、クッキーをさくりと口にした。
 甘党の狼は沢山並んだ甘味にどこか嬉しそうな表情で、朝日の持ってきた雛あられを摘む。
「雛乃ちゃんもおいでよ」
 桜の樹のそばにちょこんと座り、少し離れて楽しげな皆の様子を眺めていた雛乃に良が声をかけた。
「皆さまで、だと…楽しい、ですよ…♪」
 良の言葉に狼が大きく頷いて、ジングルがほんのり赤面しながら微笑む。
 雛乃は遠慮がちにシートへ移り、皆で食べようと持ってきていたお菓子をそっと差し出した。
 今日の為の綺麗な和菓子と干菓子、思い切って渡すことができずにいたけれど、声をかけてくれた皆に力を貰って、雛乃も輪に加わる。
「いい気持ちっ、お昼寝日和かも…」
 頬を撫でる風にくすぐったそうに笑い、青空を仰いだ舞夢の漆黒の瞳に、木の上でうたた寝している零壱の姿が映る。
 幹に背を預け、ぼんやりと舞い散る花弁を見つめていると、飛びつきたくなって無性に体がうずうずした。
 ふわり風と遊ぶ桜は形が少し星に似ていて、散る花弁は流星群のようだ、と、ジングルは桜の樹を見上げて思う。
「願いや祈りを心で唱えながら胸の前で両手を開いて、最初に手中に入ってきた花びらをお守りにすると、花びらがその命をかけて叶えてくれるそうだ」
 花弁を眺め、ふと思い出して言う狼の言葉に、ジングルはすごい、ときらきら瞳を輝かせる。
 願いはあるか、との狼の問いに、綾乃は皆の笑顔です、と照れ笑う。
「雛乃ちゃんは苗字が桜だし、特に効きそうだねっ♪」
 そう言う美空の笑顔に、雛乃はきゅう、とぬいぐるみを抱きしめて、どこか嬉しそうな瞳で花弁を追った。
「せっかくですゆえ、綾乃さんたち、皆さんもご一緒に…その…」
 真っ赤になって、ジングルは相手の表情を伺いながらおどおどと声をかけた。
 笑顔で頷き、綾乃も皆と共に花弁キャッチのゲームに混ざった。
「競争じゃな、良には負けぬぞ!」
 びしっと良に人差し指を突きつけて、朝日も元気に桜の木の下へ飛び出して行く。
 ひらりはらり、踊るように散る花弁を、皆はなんとか掴もうと、地面を蹴って空に跳んだ。
 良はその様子をはやしたて、舞夢は楽しげに雛乃は静かにそれを眺める。
 願いは自分の手で掴まなくちゃと、ジングルは皆の手伝いをしながら花弁に手を伸ばし、宙を舞う花弁をそっと掌に閉じ込めて皆の願いが叶いますようにと祈った。
「こうしてはしゃぐなんて本当に久しぶりかも」
 自然と笑い声が零れ晶貴は掴んだ花弁をどうしようと見つめる。
 俺は桜の押花に、と呟いた狼の言葉に、今日の記念にと同じ考えを抱く雛乃は頷き、
「いいことが…起きますように、なの…」
 と掴んだ花弁をそうっと小さな手で包んだ。
「見て見てセンパイっ♪」
 倫太に見せようとして、美空の手から溢れた桜が風に運ばれていく。
 倫太は心地良さそうな笑顔で、花弁を追う美空を見つめた。
 ジングルと歌い、狼と桜を眺め、したいことが多くて困ると急がしそうな朝日の髪に、綺麗な桜をさしてやり良はコップに浮かぶ花弁に目を落とした。
「風流だね〜♪」
 ゆらゆら揺れるそれを眺めながら、良は笑む。
「…また、見ることができるだろうか?」
 花弁を指先に、零壱は小さく呟いた。
 きっとな、と呟きを重ね、狼は来年の春もここの皆が笑って過ごせているようにと、大切な願いを込めた花弁を撫で、大事にしようと強く思った。
 見上げる桜は見慣れているけれど、独りで見る桜とは何だか違って見える。
 この世界が穏やかであることを願い、零壱は舞い散る桜の様を目に焼き付けた。
 柔風は緩やかに花の香を運び、ふわりひらり、青空に桃色が舞う。
 今日は何だか、いい夢が見られそうだ。


マスター:月白彩乃 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2007/03/08
得票数:楽しい5  ハートフル18  ロマンティック6 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。