≪大神の棲み処≫雪童遊戯


<オープニング>


「一緒に遊ぼう、ねぇ遊ぼう?」
 カワウソを模したらしいお面を付けた男の子はそう告げると、かじかんだ手を9人の男女に差し出した。
 対し、男女は動きを止める。
 表情は一様に、厳しさを滲ませていた。
 おかしいのだ。この場に、このような少年がいることが。
 雪の積もる、痛いほどの寒気が全てを覆う――ここは廃村。
「1人ぼっちじゃつまらないんだ」
 そう、少年は1人。
 おかしい。不自然だ。なぜこんな場所に、幼子が1人でいる?
 手を取ってもらえないと判断したのか、男の子は手を引っ込めて、
「雪玉投げよう、皆で投げよう」
 その手のひらに突如として雪玉を作り出した。
「決まり、だね」
 フゲ・ジーニ(永遠に続く幸せの迷宮回廊・b07584)がイグニッションカードを取り出し、他のメンバーもそれにならう。
 普通ではない。この相手は――地縛霊だ。
「ね? 遊ぼう。一緒に、みんなで」
 遠くから、雪を踏みしめ駆け近づく何かの足音が聞こえる。
 ゴーストはこの少年だけではないようだ。
「ほら、いくよ?」
 少年がおもむろに雪玉を転がした。
 それは刹那の間に十数倍にふくれあがり、こちらをひきつぶさんと迫ってくる!
「ッ! そんなに言うなら遊んであげるよ……。いくよ、みんな!」
 かろうじて巻き込まれるのを回避した能力者達は、フゲの号令の元に駆け出した。

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参加者
フゲ・ジーニ(永遠に続く幸せの迷宮回廊・b07584)
楢芝鳥・俊哉(図書室の主・b20054)
瀬崎間・亮(こいくまんごー・b21102)
ジンク・ネームレス(ボールライトニング・b46260)
シャイナ・クラスト(朝焼けに舞う舞闘家・b58067)
メルニア・ジェラジフィエル(原初の水と叡智の守護御魂・b59755)
霖・琳(幻想蜘蛛・b63785)
スペック・ランドルイーヴン(デストロイヤー・b64890)
NPC:高嶺・静兎(中学生白虎拳士・bn0231)




<リプレイ>


 イグニッション。
 その言葉を鍵に、あるべき力を取り戻した能力者達は、倒すべき敵と対峙した。
 カワウソの仮面を被り、邪気など微塵も見せず、かじかんだ両手を差し出す幼子と、だ。
 ただ遊び相手を求める幼子に、
「雪遊びは嫌いじゃないし……、折角だから遊んであげたい気持ちはあるけど……」
「生きた人だったら雪合戦でも何でもやってあげたいところだけどね……」
 フゲ・ジーニ(永遠に続く幸せの迷宮回廊・b07584)と楢芝鳥・俊哉(図書室の主・b20054)が悔いを滲ませる言葉を漏らすが、
「悪いけど……地縛霊の存在そのものが嘘なんだ。同情は出来ないな」
 ジンク・ネームレス(ボールライトニング・b46260)は断じる。
 眼前の正体は、強すぎる負の感情が生み出した危険な虚像。
 生者と交わることかなわぬ存在。
 情けは救いとはならない。彼の存在を救えるのはただ1つ、滅するのみ。
 瀬崎間・亮(こいくまんごー・b21102)は冷たい空気を肺に吸い込むと、熱い言葉を吐きだした。
「シャズナ、頼む!」
 一対の念導剣を周囲に浮かせ、さらに4つのリフレクトコアを形成。
 守りを固める主の前へ出るシャズナこと、真シャーマンズゴースト・シャドウを追い抜き、霖・琳(幻想蜘蛛・b63785)が展開したサイコフィールドに背を押されるように4人と1匹が前へ駆ける。
 それを、雪玉を構えて迎える幼子の地縛霊。
「さぁ、僕と一緒に遊ぼうか……最適化、開始」
 俊哉の呟きが、彼の瞳に無数のプログラムを走らせる。
 全ての惑いを払い、成すべきを最短の手順にて実行するための式が起動し、正面より高速で飛来した雪玉を際どく避ける。
 チッ、と耳元で掠めた音。冷え切った耳に走る痛み。
「おー坊主、元気だなぁ」
 駆けるというよりは速歩、素手で接近したメルニア・ジェラジフィエル(原初の水と叡智の守護御魂・b59755)は、その間にライカンスロープを発動し、己の力を高める。
「うん。お姉さん、遊んでくれるの?」
 頷きながら雪玉を形成する幼子に、メルニアは眼を細めて頷き、
「同じ雪国生まれのよしみだ。ここは一つ……感覚が無くなる程の冷めた熱をぶちこんでやるぜ!」
 獰猛な笑みで吠えたメルニアの背後より二条の光槍が駆けた。
 フゲと亮、リフレクトコアにより強化された二撃を少年は、きゃっ、と悲鳴を上げて避けた。
 だが回避は完全ではなく、続く俊哉のデモンストランダムの回避に遅れる。
 螺旋状のプログラムを纏った一撃を辛うじて避けるも、投げた雪玉はあさっての方向に飛んでいき、わずかに固まった幼子の眼前をメルニアの右の剣が薙ぐ。
 少年が慌てた様子でそれに反応すると、左の剣が上段から幼子を捉えた。
 ガキンッ、と硬質な手応えに阻まれるも、幼子は驚いた様子でメルニアを見る。
「痛いか? お前の遊びはもっと痛いだろ? そら遊ぼうぜ、お互いな」
 幼子が、ハッと横手へ振り向いた。
「遅い」
 スペック・ランドルイーヴン(デストロイヤー・b64890)が、旋剣の構えよりヘヴィクラッシュを叩き込む。
 幼子がかざした右腕を押し込み、刃はその身を捉え浅く抉った。
「ずるい!」
 幼子は叫びスペックを振り払うと、次々と雪玉を作り出し投げてきた。
 狙いが甘いモノばかりだが、その勢いは投擲でなく、射撃の域だ。
 風切り音と共に感じる痛み。スペックは両腕を交差し、隙間から敵の動きを覗く。と、幼子を数発の光弾が襲い攻撃を中断させた。
「数には数、ですわ」
 高嶺・静兎のクロストリガーだ。
 その発生源へと視線を向けた幼子が、嬉しそうな笑い声を漏らす。
 雪と光の差こそあれ、球の応酬。それが楽しくてたまらないという風な幼子が、ふと小首を傾げた。
「遊ぼ! 遊ぼ! あ、吹雪がくるかな」
 途端、猛烈な吹雪が顕現し、自然でない凍気が周囲を包む。
「子供と遊んでいる暇は無い」
 それを意志で堪え、冷たく返したスペックは、施されたシャイナ・クラスト(朝焼けに舞う舞闘家・b58067)の祖霊降臨の効果を確かめるように刃を一降りすると、雪上を蹴った。
 
「お前らの相手は、俺がやろう」
 虎紋をその身に浮かべたジンクの前には、3体の珍獣。
 開戦よりわずかに遅れて駆けつけた、それはカマクラを背負った犬という妖獣たちだった。
 立ちはだかるジンクを無視して、幼子の元へ駆け寄ろうとする妖獣。ジンクは小さく白い息を漏らすと、
「破ッ」
 ヨーヨーを一閃し、震脚を叩き込んだ。
 放射状に飛ぶ雪と共に、2体が押し戻される。だが低姿勢で耐えた1体が残った。
 ヨーヨーを引き戻すジンクへ飛びかかる妖獣は、しかし横からの体当たりに姿勢を崩した。
「ナイスだよ、閃!」
 主フゲの声に、嬉しげな声を返すのは閃こと、真モーラットピュア。
 シャイナにも手を振るのは、開戦直後彼女に施されたヤドリギの祝福へのお礼だろう。
 打たれた妖獣は、低く唸り声を上げながら立ち上がる――より速く、ジンクがその身に触れた。
 途端、膨大な闘気が破裂し妖獣が悲鳴を上げる。
 白虎絶命拳。名にふさわしき絶技を、しかし妖獣は自らが作り出した餅を食べることで際どく耐えた。
 そうしてる間に初撃で吹き飛ばした2匹が駆けつけてくる。
 身構えたジンクが左の1頭にヨーヨーを叩き込むと、右の1頭は琳の宝剣に爪を止められ、さらに琳の背より伸びた蜘蛛の足に背を貫かれた。
 慌てた様子で距離をとる3体と、改めて対峙する2人と1匹。
「お前はここで待ってろよ」
「向こうには行かせない」
 琳とジンクは呼気を合わせると、共に駆けた。


「見えた。身に秘める雷、役割は蛇、進みし先の敵を食らえ」
 左右へ動き続けていた俊哉が動きを止めて右手をかざす。
 手のひらから放たれるのは生体電流を収束した電撃ビーム。
 真っ直ぐに抜けた閃光が幼子と、その刹那に一直線に並んでいた妖獣を巻き込んだ。
「すっごい、すごいねー!?」
「ほら、こっちも行くよー!」
 はしゃぐ幼子に、フゲは笑顔で言う。
 嗜虐ではない。幼子が楽しみたいというならば、せめて気持ちくらいはとの配慮だ。
 遊びのための一投が、殺しの一撃になってしまう幼子の雪玉。
 滅びのための一撃を、遊びの一投に演じて放つ光槍。
「フゲさん……」
「まあ、なんだよね、心と現実との割り切りは大事! てなわけで静兎、合わせるよ!」
「了解、ですわ!」
 光槍を軸に、無数の光弾が幼子へ殺到し炸裂する。
 それでクロストリガーを撃ち尽くした静兎は前へ。
 幼子は初めの頃と態度を変えない。だが傷だらけになったカワウソの仮面といい蓄積されたダメージは相当のものだろう。
 回復役の妖獣は抑えられ、そもそもその身が回復を受け付けない状態にされているのだから。
「みんな強いね!」
「そっちもすげえ!キミは雪玉作りのプロだな! だけど、こりゃ俺たちの勝ちだなぁ」
 幼子の歓声に応じつつ、光槍を撃ち放つ亮。
 手を抜く気はない。ただ、無言で打ち倒すことは選べなかった。
「そら、こっちだ!!」
 メルニアのフロストファングを、幼子は雪玉で受け止める。
「キレーだよね。ね?」
 氷爪に見惚れた様子の幼子は、次の瞬間問い掛けながら横手を見た。そこに居たのは、3度目のヘヴィクラッシュを放とうとしていたスペック。
「黙れ。貴様と話すことなど無い」
 構わず振るった一撃は、しかし幼子が瞬時に精製した氷の手甲を止められた。
 さらに幼子の足が、作っていた雪玉を蹴り上げた。直撃だ、
 衝撃と同時に、体が固まる感覚は魔氷。加えて、
「抜けた……!?」
「チッ!」
 対妖獣班から聞こえる声と、近づく足音。
 向こうの防衛線を抜けた1体が、スペックにその強靱な爪を叩きつけた。
「まずいわね」
 シャイナが祖霊降臨を発動しスペックを癒すが、完治にはほど遠い。
「シャズナ!」
 非常時に際し、亮が叫んだ。
 応じてシャーマンズゴーストが前線に飛び出し、その口内より炎をはき出す。
 雪で出来た白の世界を照らす紅蓮。
 途端、幼子の態度が激変した。
「ダメェー!!」
 咲き出された言葉は必死で、しかしとてつもなく冷たいものだった。
 幼子が招く吹雪を越える絶対の凍気が、柱となって天へと登る。
 ほんの数秒で氷雪柱が掻き消えると、そこには超魔氷状態となり、しかも深刻なダメージを負ったシャーマンズゴーストが佇んでいた。
 前衛陣と、後衛の光槍による総攻撃が幼子へ成されるが、その幼子が招いた吹雪に俊哉と静兎が捕まった。
「仕方ないわね……」
 それが己の危機を招くとしても、状況を打開にするにはこれが最善。
 シャイナは心を落ち着かせると、舞った。状態異常を解除する、魔氷を溶かすための赦しの舞を。それは、幼子の逆鱗に触れる行為。
「ダメダメダメー!!」
 案の定、幼子は怒り狂う。
 雪を溶かす悪であるシャイナのみを眼中に収め、それを氷に閉じ込めようと駆け出そうとして――四方から致命の一撃を受けた。
「……あ、れ」
 シャイナの判断は間違いではなかった。
 魔氷が解除されたメンバーが一斉に攻撃を仕掛けたのだ。
 俊哉のデモンストランダムによるプログラムが幼子の力を封じ込め、スペックのヘヴィクラッシュがアンチヒールを引き起こし、静兎の雷光剣が腰に食い込み、メルニアのフロストファングは胴を穿っていた。
「楽しんでくれたかな?」
 亮と、
「悪いけど遊びの時間はもうおしまい」
 フゲが光槍を放つ。
 4人が得物を引き抜いた刹那に、一撃は腹部を打ち抜き、一撃は頭部を直撃。
 カワウソの面が割れ、表情が露わになる。
 笑っていた。だが、泣いていた。
「寂しいという思いに縛られて更に孤独を増していく……そんな負の連鎖から解き放ってあげるわ。罪にその手を染めてしまう前に……おやすみなさい」
 シャイナが目を伏せると同時、幼子は糸が切れたように崩れ落ち掻き消えた。

「向こうは、終わったみたいだな」
 琳が呟き、構えた紅蓮撃を妖獣へ振り下ろす。
 最悪、シャイナに向いた幼子の意識を引きつけようとしていた一撃で、妖獣が霧散する。
 その一方で、ジンクが震脚から連携し、白虎絶命拳で1体を屠っていた。
 駆け寄ってくる仲間達の足音を聞きながら、やや複雑な心境を抱き、
「寂しいからって、嘘は許されない」
 己の言葉で、己を正す。
 残す敵は妖獣1体。
 この嘘を壊せば、ここの嘘は終わるのだ。


「んー、やっぱり新しい武器は慣れないね」
 思いっきり伸びをした後、ぼやきながら俊哉はひとしきりレイピアを弄ぶと、武装を解除した。
 他の面々も、それぞれに武装を解除し、
「今回も頑張ってくれてありがとうな、シャズナ!」
 亮が自身の使役ゴーストと別れを惜しみつつ解除する頃には、辺りは最初に訪れた時と何ら変わりない様相となっていた。
 あるのは廃村と雪。聞こえるのは風の音。
 幼子の笑い声など聞こえるはずもない。
 まるで、夢であったかのように。
「……少し時間、貰うわね」
 シャイナはそう断ると、舞い始める。
 この地の穢れを清め、地縛霊の冥福の為に。
「何が悲しくて坊主がこうなっちまったかは……突っ込むだけ野暮か。でも……救われたと信じたいのですよ」
 言葉を零すメルニアの横で、ジンクはただ最後にお面が落ちた場所を見ていた。
「何があったのか知らないけど、俺はお前のことを忘れない。……だから、迷わず逝け」
 視線を空へ上げる。
 空は悲しいほどに青く澄んでいた。

「さてと、沢山雪があると遊びたくなる気持ちも分かるよね。折角だし雪達磨作って帰らない? 誰が一番大きく出来るか競争しようよ」
 舞が終わるやフゲが皆に提案すると、琳は少し不満げな視線を向けてきた。
「寒いなら無理は……あ」
 寒いのが嫌いな琳に配慮して取り下げようとすると、琳は僅かに横に動き自分の背後を指さした。
 そこには、小さな雪だるまが1つ。
 フゲがとてとてと近づくと歓声を上げた。
「小さいの可愛いや♪」
「せめて、これくらいはな」
「良いですわね。でも1つじゃ少し寂しいですわね」
 静兎は呟くと、自分も雪だるまを作り始める。
 さすがにでかいのを作るわけにはいかない。
 だが最終的に小さな雪だるまが十数体完成し、その場に居並ぶことになった。
 特に頑張ったジンクが、最後に大きめな1つを真ん中に置き一息。
「これで、少しはマシになるかな」
 呟く。自身が抱えた罪悪感が、少し薄らいだのを感じながら。
「でも良いなあ、こう言う素朴な雰囲気の所。廃村じゃなかったら、こう言う所でシャズナと老後を過ごしたいね。家に掘り炬燵とかあってさー……とかいってたら寒さがきつくなってきたな。帰ろ帰ろ」
 亮がぶるっと震えて歩き出し、皆もそれに続いて歩き出す。
「……?」
 ふと、最後尾にいたスペックは振り返った。
 声が聞こえた気がしたが……風の音だろう。
「……次は、遊んでくれる仲間のいるところに生まれてくることだ」
 ただ何となくそういうべきだと思い口にして、白い吐息を1つ残すと、スペックは皆の後を追うのだった。


マスター:皇弾 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/01/08
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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