正直一個もメリーじゃない僕たちはクリスマス爆発しろと願いつつ全力でパイ投げを敢行することにしました


   



<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。
 冬休みを目前としたクリスマスイヴの日は、様々なパーティーが開かれているようです。

 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口をきいた事が無い人とでも、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。

 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみましょう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。


『パイ投げ』
 黒板にはその文字がでかでかと書かれていた。チョークの粉をはたき落とし、沈黙を挟むこと数秒。やおらはっとした表情になった古本・亮親(中学生運命予報士・bn0258)が視線を能力者たちの方に向ける。
「――おっぱいのことじゃないよ?」
「当たり前だろう、何を言ってるんだお前は」
「真顔で返すのも大概だと思いますけどね?」
 冷静に正す凍条・直哉(荒野の鷹・bn0195)に淡々と夕星・空子(琥珀の槌・bn0206)が言い添える。
「そもそも何故パイ投げなんだ」
「あはーん、クリスマスにパイ投げは若者の間で流行ってるんだヨ?」
 見たことないほど綺麗な目である。何となくいらっとする能力者たち。
 ともあれ。
「体育館借りたんで、折角だからバカ騒ぎしよう」
 と言うのが亮親の主張であった。季節柄仕方ないのだが、あっちもこっちもラブラブモード全開でフラストレーションがたまっているらしい。相当。
「ルールは簡単。俺のチームと直哉のチームに分かれて」
「分かれて?」
「延々投げ続けます。時間いっぱい」
 ルールですらない。
「言うなればストレス発散だなあ。そりゃもう全身全霊全力渾身の。他にはまあ憎いあいつにぶつけたり、お礼参りも兼ねてみたり……ははっ、もちろん意中のあの娘にわざとぶつけていぢめてみたりするのもありだぜ? でもその場合爆発すればいいと思う畜生」
「……直視するのもためらわれるような醜い嫉妬が混ざってませんか、亮親さん」
「考えすぎだぜ空子? 俺はただ、俺より美形な野郎全員等しくパイまみれになればいいって真摯に願ってる」
 嫌な願いである。
「ともあれ気力と体力と時間の余ってる若人たちが大暴れする場所は必要じゃない! 細かいことは気にするなよ!」
 呵々と笑う亮親――ジャージ姿で。
「まあ、クリスマスに皆で騒いで楽しむこと自体は何も悪くはないな」
 直哉が首肯する――ジャージ姿で。
『…………』
 そう、両者とも教室に入ってきた時点で既にジャージ姿であった。それはもうやる気満々で。
 負けず嫌い×2である。それが例え、あってないようなルールであっても、勝敗の付き方すら定かでない代物であっても、戦う相手が居ればもはやそこは一つの戦場なのだ。

 ――お前を負かす。

 声にならない声をその場にいた全員が聞いた。

「まあ、そういうわけですので」
 汚れても構わない格好でいらしてくださいねと微笑をたたえ、空子はこう結んだ。
「『全力で』楽しんでくださいませ?」

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参加者
NPC:古本・亮親(中学生運命予報士・bn0258)




<リプレイ>

●メリーなんていらねえ冬の2009
 体育館内部は異様な熱気に包まれていた。
 パイ投げという、およそこの聖なる日にふさわしくない催しではあったが、それぞれの人間模様と情熱が、燃え上がらんばかりに渦を巻いているのは確かであった。

「正義と愛と! 気合いのあたーっく!」
「ひゃっ」
 当てずっぽうな連続投げであった。【派遣部】Aチーム、全のパイに被弾したのは【派遣部】Bチーム、華夜をかばうように動いた千絵子であった。身体を張って守ると宣言した通りの被害に、しかし後悔の色は少しも見当たらない。のみならずきっちり反撃のパイを当てていく。
「必殺! ラブラブアタック(改)〜っ♪」
 そんな千絵子の反撃に合わせるように華夜もパイを投げる――とんでもない必殺技名付きである。目を白黒させる千絵子の傍ら、Bチーム大将こと燎もまたパイを構えていた。標的はただ一人、Aチーム大将にして兄たるハルこと遼そのひとである。
 あわよくば2時間傍観者に徹せないかしらと中々に甘いことを考えていた遼は微弱な闘気に目を細める。
「ハル、覚悟っ!」
 へちょっ。
「……手加減とかじゃないから!」
 いやわざとだろうこれ。
「良い度胸だ。さて、反撃開始オッケー?」
 素敵な笑顔の背後に何か怖いものが見えてますよお兄さん。
 手加減しつつも全力で投げつけ始めた遼の真横を有斗が投げたパイが飛んでいく。とりあえずやる気なさそうな燎に向かって投げたは良いが、大きく的を外れ、二人の方へ。
「あれ?」
「ちょっと待て華夜何故俺の後ろに隠れへぷちっ」
 間違えたと有斗が声を上げるのと、あらかじめ示し合わせていたとしか思えない早さで二人が悼哉の背中に回り込んだのは同時であった。悼哉の文句はさっくりとパイの中に消える。
「……恨」
 むぞ、という語尾は全のパイ乱舞の一枚の中にやっぱり消えていったという。あれ盾以前に俺もしかして狙われてないか? と軽く悩み始めた悼哉をしっかり遮蔽物にしながら、千絵子と華夜は視線を合わせる。
「一緒に言って良いですか?」
 無論と微笑んだ華夜と共に、飛んでったパイは、Aチームのど真ん中へ。

「日々の仕返しはしないとな……!」
 そんな【派遣部】パイ投げの只中、勇は一人違うところで気を吐いていた。狙うは別件でさんざ『お世話』になっている修一郎である。
「まさか戮屠とパイ投げをやることになるとはなあ」
 気だるげな雰囲気に苦笑を交え、修一郎は戮屠を見やる。
「これが私の愛だっ! さあ、その甘さにむせび泣くが良いっ!」
 恋人に向ける台詞としてはちょっとどうなのかな、的なかけ声と共に戮屠はぎゅんぎゅんパイを投げてくる。
「次はカーブだっ!」
「やだな戮屠パイ投げでそんなものが出来」
 急激に曲がるパイ。
「……ちょっと待って何、変化パイ投げ?」
 紙皿をはがしながら呻く。一体何をやってくれるのかと苦笑しながら――
「勇? お前いつの間に巻き込まれてたんだ?」
 すぐ真後ろで何故か、今にもパイをお前にたたきつけてやるぜヒャッハーというポーズのままパイの直撃を食らって硬直している勇に怪訝な声をかけた。

 一方こちら【蒼魔藤】。
「皆さんには恨みはないのですが、クリスマスには恨みがあるので全力でお相手させていただくのですよ」
 ゴーグルに着いたクリームを親指でぐいぐい拭いながらそれなりに悲しい台詞を吐いたのは奈月である。
「クリスマスは修羅場なんです! そう、締め切りから解放された私に不可能なことなどっ!!」
 鬼気迫る表情で咆吼するのは冬の超大型同人誌即売会の原稿をこの時期(クリスマス)までやっていた智秋である。
「応援に来ました……その眼鏡をクリームから守るのはたぶんきっと大事なことです」
「眼鏡なのか」
 長身に加え、首謀者の一人と言うことでそれなりに被弾率が上がっている直哉の横、それはもう真顔で言うのは夏輝である。ご丁寧に眼鏡拭きまで持参している徹底ぶり。
「凍条、同じ結社員とはいえ現在は敵! いやなんか心情的にドロッとした部分で常に敵のような気もしなくもないがアレだ銀誓館イケメン撲滅隊ぎゃああああっ」
 気合いその他なんか色々混ざった口上をのたまって躍り掛かってきた夏野にパイを直に叩きつけることも忘れない。
「古本、俺の遺志を……」
「待て、その撲滅なんたらのくだりを詳しく!」
 青春劇を即興でやり始めた二人のことはそっとしておいてあげてください。
「あれ甘いものは?」
 そもそもパイの意味を取り違え、ちょっと間違えて来てしまった戒一郎は愕然とする。てっきり食せるものかと思いきやとんでもない、体育館内は既にパイの巷と化している。縦横無尽に飛び回るパイの一切れがへろっと戒一郎の足下に落ちてきたのはその時だ。
「三秒ルール!」
 我天啓を得たりと拾い上げ口に運ぶ。
『………………』
 それなりに見知った顔と目があった――レンズ越しに。2メートルの長身を器用に動かし襲い来るパイをかわしながら、ビデオカメラを回していたのは戒璃である。
「撮ったの?」
「バッチリ」
 一瞬の真空状態の後、証拠隠滅を図るべくパイを装備した戒一郎と映像を死守するべく逃げ回る戒璃の姿が目撃されたという。

●今までに投げたり食らったりしたパイの数を覚えているというのか
 さて、【ててもと】の四人もまた楽しく(?)パイを投げつけ合っていた。
「黙示録を思い出すね……こう白燐奏甲! っ、て……」
 悲しいかな羽織が放ったのは白燐奏甲ではなくパイである。味方に。身に染みついた習性って恐ろしいにゃあと極々自然に全てを騙そうとする羽織。
「それパイだか――ら!」
 思い切りパイを押しつけられて真っ白になりながら刀が吠える。ところが、何故かお返しをしたのは羽織ではなくアガートであった。
「なあ甚兵衛に柊よ、この場にふさわしくねェ奴がいるよなぁ」
 ぎょっとするアガートをひたと見据え、くつくつと妙に不穏に笑い、パイを持ちながらじりじりと近付くのは一驥である。然り然りと頷く刀と羽織。
 相応しくないという単語は、一応身に覚えはあった。何しろアガートは婚約者持ち。万が一周りに知られたらきっと集中砲火を、
「ここに婚約者持ちの裏切り者がござるよ!!」
「何吹聴してんだ柊ぃぃぃ!!」
「おめでとうアガートさん!!」
 早速浴び始めるアガート。刀の声と共にゼロ距離から羽織がパイを投げれば、それを皮切りに同じチームの人間にまで投げつけられる大惨事に発展。
「このパイを餞別代わりにくれてやるから幸せになりやがれ!!」
 真っ白になったアガートにとどめを刺、もとい祝福してくれるわと飛びかかる一驥。負けて溜まるかとカウンターを放つアガート。諸々巻き込んだ大乱戦に、羽織は終始笑いが止まらなかったという。

 いくら同じチームだからといって油断できないのはどうやらどこも同じようであった。否、気の置けない仲間同士だからこそ、余計に無礼講モードが発生しやすいのかも知れない。【破音のワルツ】がまさにその状態であった。
「よーしおめーら行ぶっ」
 鬨の声を上げようとした矢先に襲いかかってきたパイの直撃を食らう欅――敵から味方から。
「わーい手が滑ったですよー」
 言いさした欅に右手のパイを叩きつけたのは杜松である。びっくりするほど綺麗な目。
「だから落ち着ぶふっ」
「あんれ、欅さんだったか、ごめんだべ良ぐ見えねがったからあ」
 眼鏡が汚れるのを厭い、裸眼で参加した亜里砂がびっくりしたように声を出す。まさかの同士討ち二回目だがこれはまあ事故である。事故だと良いな。
「とりあえずふばふっ」
 自陣営からの三回目のパイ入りました。どさくさ紛れに欅に背後からパイをぶつけたのは雷之丞。
「ふっふっ……同じチームと思わせておいて欅を背後から」
『いっせーの、せっ!』
「へぷんっ」
 その顔に、奇数チームが一斉に投げたパイの一つがクリーンヒット。盛大にひっくり返った標的に、音頭をとったミラーが呵々と笑って諸手を挙げる。
「ジャストミばふっ」
 負けじと反撃したのは偶数チーム、アレックスであった。超至近距離から、何故か既に真っ白な状態で。
「そう、クリームを被っておけばどれだけ近付いてもまずばれない距離も近いから当てやすぎにゃあああ!!」
 当てやすいってことは当てられやすいってことでもあるわけで、しかも2メートルの長身はいかな銀誓館でも相当目立つ。しかしそこはそれ、不屈の闘志で立ち上がったアレックス。ぐいぐいパイを落とすその眼前で、ベルティーユが艶然と微笑む。
「お姉さんからの愛情パイを受け取ってーん!」
 右ストレートパイに吹っ飛ばされるアレックス。
「ぶれーこーいっきまーすっ!」
 踊るように飛び出したのは楓だ。そのハイテンションたるや既に敵味方の区別など無いに等しく、ついでにやっぱり欅のお顔にパイをお届けしている。この団長愛されすぎである。
「当てていきますよっ!!」
「何故俺が盾にぐあっ」
 ブーメランよろしくパイを投げていた彼方を盾に実もどんどんパイを投げていく。目標は略だが、いかんせんパイは投げづらい。明後日の方向へと飛んでいく。
「お前ら何もふっ」
『メリークリスマスっ!!』
 場外も場外からやっぱり欅めがけて叩きこまれるパイ2つ。
「俺、ケヤッキの的としての才能は神懸かってると思う!」
 荒ぶるポーズ一号こと十夜が言い放った。
「来年もよろしくねっ☆」
 きらっと素敵な笑顔でちっとも悪びれず荒ぶるポーズ二号こと勘三郎も言い放つ――とりあえず両者共に使命感に駆られての行動であった。どんな。
 あちこち総出のちょっと素敵な愛の効果で、本来敬うべき団長さんが前が見えねえとか呟きだしたのにみんなそろそろ気付いてあげてください。

●聖夜の素敵なパイ投げ〜僕たちはいかにして云々〜
「俺たち虎本舗は負けないぜ――倒す!」
 吠えるは護率いる、虎の代紋を背負った黄色いウィンドブレーカー、【解決屋「虎本舗」】。
「いくぜみんな、思い切り暴れてやろうぜ!」
 返すはエイゼン率いる黒地のスーツ、胸元に鴉のエンブレムを象らせた【夕陽に舞う鴉】。
 ひゅっと空気を裂いて投じられたパイを軸をずらしてかわし、護が投擲体勢をとる。動きに合わせるように姿勢低く走ったのは昴志郎であった。小柄な身体を存分にいかして敵陣へと斬り込み、アッパーを放つようにパイを突き上げる。
「皆をパイまみれにしちゃうんだよっ!」
 相対するように斬り込んだのは凪である。アッパーを紙一重でかわし逆に高低差をいかして昴志郎にパイを叩きつける。押しつけられたパイと情報からの衝撃に昴志郎の膝がかくんと折れた。
「いかん、続けっ!」
 虎の咆吼にも似た護の声にまず貴徳が反応した。確実を期すために顔より胴体を狙い打っていく。長身という点で目に付いたのはレイジであった。投げる。
「突撃あるのみ、だっ!」
 負けるかと吠えレイジもまた投げ返す。空中でぶつかり合い四散するパイ。
「そう簡単に当」
「南雲先輩シールド!!」
「ぷはっ!?」
 いきなり引っ張られた上にシールド呼ばわりされ、しかも見事にパイが直撃する。なにをしやがると睨み付ければ、引っ張った張本人の秀一郎はキリッとした表情で、
「何のことかよく分かりません!」
「てめえあとで覚えてろ!?」
「さあ桐条先輩突撃してください俺はここで見ています!」
「オレに突撃させたいんだったらお前も特攻しろっ!」
 応戦しながら司が悲鳴を上げる。無茶ぶり甚だしい。
「よそ見している場合ではございませんよっ!」
 ととっと駆け込んできたのは夢緒であった。左手で顔をかばいつつ的中距離まで間を詰めた少女は、そのまま司にパイをぶつける。無論黙ってやられるほど可愛らしい性格だった覚えはない。
 反撃のパイを構えるや、すっと影が一つ割り込んできた。
「こういうのは拙者の役割でやんす〜」
「紫紺様!」
 間延びする声と共に身体を張って割り込んできたのは紫紺であった。ややカウンター気味にはなったパイはかわされ、逆に司の一撃をもろに食らう。
「ウィリアム様参りますよ!」
「了解、援護する!」
 すわ集中砲火というところに、やや後方にいたリオンとウィリアムの援護がさらに割り込んだ。紫紺と夢緒の退避する時間を稼ぐようにどんどんと投げていく。
「攻撃こそ最大の防御……先に謝っとく味方に当たったらごめん!」
『団長おおおお!!』
 仁王立ち戦法を繰り返していたエイゼンに異変が起こったのはその頃である――サングラスにパイがべっとり着いたせいで視界がふさがれるというのは彼にとっては誤算であった。
「あらあらエイゼンさん、右手の方に投げてくださいな」
 遮二無二パイを投げ始めたエイゼンに、雪姫が呑気な笑みをたたえながら指示を出す。一方で恐ろしく的確にパイを迎撃するのも忘れない。
「わわっ、エイゼンだんちょ〜、こっちに投げちゃダメぇ〜!」
 その右手の方向に居たのは味方のベルメルであった。へろっとした口調に焦りを滲ませ回避行動をとるベルメルに、あらあらと雪姫が笑う。くすくすとした微笑みが何か無性に恐ろしいのは気のせいなのだろうか。
「爆発しなさい! 爆発しなさい!」
 基本的に攻撃しないつもりでは居たのだが、最早そんな悠長なことをいっている余裕もなかった。なんちゃらが爆発だと言わんばかりに爆発を連呼して応戦するのは那由他である。雪姫の背後に隠れているのはそこが安全圏だからだと本能で理解しているからかも知れない。
「猫さらいは俺の敵!! 突撃っ!」
 ぷんすかと頭のてっぺんから湯気を出しているのは流火であった。狙うは護ただ一人。
「援護おねがいなのっ」
『了解っ!』
 頷く仲間達に助けられ、両手にパイを持って流火が突進を仕掛ける。吸い込まれるようにパイは護の顔面へ。
 だが当たらなかった。ぱしっと小気味よい音と共にパイを叩き落とされる。
「もふれないのが残念だ!」
「うにゃあああ!!」
 反撃のパイの中に流火が沈んでいく。
 結局、この戦いに決着は付かなかった。
 だが終わる頃にはお互いがお互いの健闘をたたえ、固く握手を交わしたという。

 この日枕ではなくパイを投げるべく参戦したのは【枕投げ部】。
「クリスマスだからっていちゃこらしやがってー!」
 私だって恋人欲しいんだと吠えてパイを投げるのは夢亜である。
「もっと強くなりたいっ!」
 こちらは遥日であった。その標的は直哉である。時間差で投げたパイは一発目はかわされ、二発目は肩口に当たって終わる。が、反撃に投じられたパイをかわすことができたので痛み分けというところだろうか。
「運動会では非常にお世話になりましたーっ!!」
 そこに弓矢がさらにパイを投げつけた。一瞬反応が遅れた直哉が腕を上げて顔をかばう。顔面直撃は果たせなかったが、一応少しすっきりした弓矢であった。
「レインさんたまにはもふらせてくれたっていいじゃないですかーっ!!」
『やっぱりモフりたかったの!?』
 愛すべきモーラットの名と欲望を絶叫する氷雨に部員総出のツッコミが入る。どういうことなの。
「古本先輩、ちょっとよろしいですか?」
 おっとり声をかけたのは笑弥である。全く何も考えず振り向いた亮親の顔に、ストレートにパイを叩きつける笑弥。
「……何で?」
「面白いかな、なんて……」
 ある意味もっとも正しい理屈ではあった。

「大人げなくパイぶつけたらあああ!!」
 実際大人げない咆吼を上げるは【育成鍛錬養成所】のけろ子である。迫力が違いすぎる。
「けろ子先輩、ここはしっかりと威厳ってヤツを叩き込んでやりましょう!」
 おおむねに多様なテンションで基が追従する。
「あの超ド級黄緑ツインテール目掛けて!」
「あれっ何か目立ってますか!?」
 リカがびっくりした顔になる――黄緑で目立つなという方が無理な話である。
『覚悟ーっ!!』
「きゃあああっ!?」
「ぶっ」
 既に現段階で威厳なぞ木っ端微塵と化している大人げなさを発揮して投げられた二つのパイをリカがとっさに避ける。避ければ別の人間に当たる。
「……ふ、っふ……!」
 正直乗り気じゃないとかぶつぶつ言って屈んでいた陸に当たるのはごく自然であった、かもしれない。ともあれ直撃したことで闘争心に火が着いたらしい。パイを両手に立ち上がり投げ返す。
「危ない!!」
「ぶはっ!?」
 一声叫んで基がけろ子を盾にする。顔面に直撃するけろ子。じっとりした沈黙の後、基はにっこりと笑って見せた
「美白になって良」
 最後まで言葉は続かなかった。結局諸々巻き込んで、盛大な仲間割れへと発展したとか。

 いわくハードボイルド。探偵たるもの常に鋭敏な行動が求められるのだ、それが例えパイであろうと。
 そんなこと考えて突っ立ってりゃ当たり前に良い的である。かくて【しわよせ探偵事務所】の双麻は既に真っ白であった。そんな状態でなおトレードマークの山高帽を外してないのは賞賛に値するが。
「えーいっ!」
 そんな双麻の背後についてちょこまか動いているのはミントである。本人は頑張っているのだが何しろ小学一年生、ついでに運動神経もあまりよろしい方ではなかった。
 へちょっと投げては倍返しというパターンに陥るミントを身体を張って守っているのが双麻である。おかげでミント自身の被弾率は格段に少ない。
「所長はん覚悟したってや!」
 ミントに投げ返す代わりに双麻に投げ返しているのが馨である。こんな小さな子供に投げ返すほど非道にはなれないようであった。
「独り身の悲しさを受け取れぇー!!」
 涙混じりの全力投球はノーマである。このパイ投げの主旨を正しく体現している、もの悲しい台詞であった。だがそれがいい。

●さらに投げるものたち
 やけっぱちの戦いは佳境へとさしかかっていく。
「あ」
 結社【全力疾走】の一人、紫は焦っていた。純粋に手元が狂っただけである。あるのだが、亮親にその言い訳が通じるかは苦しいところであった。ぺりぺりと紙皿を剥がし何かを叫ぼうとした亮親に対し、
「……」
 すっと割って入り、無言で挑発したのは琳である。同学年の挑発に対し、亮親が片眉をつり上げる。一触即発の空気の直後、亮親が全力で投げ始めた。それをかわし、ガードし、余裕すら見せつけて琳は回避していく。
 詩紅が発見したのは威である。背後から他の結社員にぶつけようとしているのを見つけ、逆にぶつけ返す。抵抗する素振りを見せたのはほぼ無視であった。たちまち威がパイまみれになっていく。
「男も女も関係ねえええ!」
 くわっと吠えたストレートが狙うのは時雨であった。
「どういうことなの!?」
 その闘志が1秒後にはツッコミへと変じている。投げつけたパイをむしゃむしゃ食べ始められてはそりゃあツッコミに回らざるを得ないのだが。
「しかも両手を使ってないのにバク宙とか何事!?」
「メリークリスマスよストレート君!」
「いやもうクリスマスの問題じゃないよねそれ!?」
 そんな比較的いつもの光景が繰り広げられる中、
『このイケメンがー!!』
 サクマと凶識のコンビネーションが炸裂していた。直哉に。
「何故俺は先程から容姿が理由で攻撃されてるんだ!?」
 そもそも俺はイケメンの範疇なのかと至極真っ当な疑問を口にする直哉に情け容赦なくパイを投げていくサクマ。
 べしゃっ。
「……誰だ今私にパイを投げたのは」
 大きく逸れたパイは氷雨にヒットしていた。ぺろりとクリームをなめ、どこか凄絶な表情を浮かべる氷雨。その後の展開はかなり一方的であったという。
「クリスマスばくはつ!」
 かけ声一閃、叫ぶのは【Metamorphose】の陣。かけ声だけなら勇ましいのだが、両手でもってパイを食べていては全部台無しでは無かろうか。というかすっかりおやつタイムである。
「なんでおやつタイム突入してんだよ!」
 真剣にパイ投げしてるのが馬鹿みてーじゃねーかと激高し、カシヲが手元のパイを陣に叩きつけた。
「食ってんじゃねーよ!」
 眉尻跳ね上げ、夏鷹もまた陣に投げつけ始める。
「俺をMとしっての狼藉かーっ!」
 自慢にもならないことを高らかに言い始めた陣。やにわ始まった仲間割れというかじゃれ合いというかに、華が苦笑する。
「パイ投げって、楽しいですね」
 こんなのもたまにはありかも知れない。

「玲斗ーっ」
「おわっ!?」
 日向の一撃に玲斗がたちまち真っ白くなる。明らかに味方チームであるはずの日向からの攻撃に唖然としていると、
「さすがに弟や妹たちにパイをぶつけるのは忍びないし」
 悪びれもせず言い放つ。良し決めたこいつパイまみれにしよう、そう誓った玲斗を何故か指さしているのは玲霞であった。
「おい玲霞なんで」
「よーし皆、一気にいくわよー」
『はーい!』
 元気な返事と共にふりそそぐ大量のパイ。玲斗及び巻き添えを食う日向。
「パイ投げ自体は楽しいけど、可愛い弟妹にそんな無体な真似はできなきゃあっ!?」
 これで反撃をしない方がどうかしているというものであろう。玲斗の渾身の反撃が玲霞に直撃する。
 そして【彩樹院】チームの乱闘が幕を開けた。
「やったなーっ!」
 喜々としてパイを山盛りにし、やっぱり玲斗に攻撃したのは火煉であった。
「ふ、ふづきちゃんどうしよう、誰に投げればいいのっ!?」
「れ、玲斗に投げれば良いんじゃないかしら!」
 おろおろする鏡花に、少し動揺しながら風月が断言する。恋する乙女にも色々事情があるのだ。
「ああっ、ほのかっ!」
 ぽやっとしていたほのかに流れ弾がヒットした。びっくりして目を瞬いた後、ふっとほのかが笑みを浮かべる。
「身長差はコントロールで補えばいいのよね!」
 そして全力で投げ始めた。
「まあ、お前も隙だらけなんだがな、日向」
 水を得た魚のように玲斗にパイを投げまくっていた日向に、冷静な顔で月夜がパイを打ち込んでいく。
 時間いっぱいまでたくさん遊んで、たくさん笑って。
「すっごく楽しかった! またこんな風にみんなでやろうね!」
 満面の笑みを浮かべた優哉に、皆が頷いた。

●クリスマスは爆発しただろうか
「梓乃覚悟ーっ、て……」
 敵陣に見えるピンク頭を目印に唯はパイを投げつけた。いや投げつけようとしたのだ。
「何が『恋人たちの祭典』だ、独り身で何が悪い……!! 恋人たちが主役のクリスマスなんて滅べ、こんちくしょうっ!!」
 あれキミそんなキャラだったっけっていうかそれなんて呪詛呪言? と思わず唯が手を止めるほど梓乃は鬼気迫っていた。確かにそんな感じのコンセプトで集まったメンバーがほとんどなはずのこのパイ投げ大会だが。
「ってか唯さんお相手居るじゃん!!」
「いやそれはそ」
 遠慮の欠片もない一撃が見事にクリーンヒットしたという。嫉妬って怖い。
「ロキナの誘いならどこへでも!! なんだが微妙に空気がおかしいような」
 双牙の懸念は決して気のせいなどではない。なんとなればここはパイ投げ地獄、言い換えてファッキンクリスマスな闘志に燃える独り者達が集まる場所でもあるのだ。そんな中カップルでいりゃあそりゃ空気もおかしくなろう。
「食らうにゃ食らうにゃーっ!」
 各方面から渦巻く嫉妬も何のその、ラブラブパワー全開でロキナはパイを投げまくる――その純粋なオーラに、クリスマスという一大イベントにあぶれた連中が耐えられるだろうか。答えは否。愛って素敵。
「彼女いない歴3年のパワーを!」
 その微妙な年数が逆に生々しいと大評判な龍麻である。暗に『永遠の愛なんてねえよ』と言っている可能性も否定できないが、人好きのする笑顔の中に黒々した感情は見いだせない。襲い来る敵を直哉と共に迎撃し、さりとて女の子に反撃できないその甘さ故に最終的にはパイまみれに。
「負けませんからね? それにしても敵とは残念です」
 にこーっと笑って七月に神無は告げた。背後に竜だか虎だかとにかく恐ろしい闘気が立ち上っている。
「ホント残念ダネ敵ダナンテ」
 一個も残念がってない口調で七月が返す。知り合いだからって容赦はしない、それだけである。別段普段絶対に見れないだろうパイまみれの神無を見たいとかそんな下心はない。ないよ。
 そして決戦は始まった。始まったかに思えた。
「いつも、有り難う〜!」
 感謝の念は唐突であった。あまりに出し抜けな言葉に神無が虚を突かれる。七月の下心が思いがけず叶うのは、このほんの数秒後である。
「ナツミ、やり過ぎない程度にねー」
 恵弥の行動に亮親びっくりである。
「あんたに恨みはないんだけど【ピンク頭の知人】に恨みがあってね?」
 パイを両手にナツミが笑う。
「その知人の代わりにちょっと逝っとく?」
 そうしてナツミの気は晴れたそうである。びっくりするほど八つ当たりだこれ!
「日頃のストレスとかおもっきしぶつける感じぎゃふん」
 背後を振り返るやパイを食らうカイト。笑みを引きつらせる燐音。
「誰がカイトにこんな酷いことを!」
 手が滑って思いっきりカイトの顔に押しつけてたのはあなただった気がするのですが。良いよ何となく分かってたよ、という良くも悪くも達観した表情を浮かべるカイト。
「ははっ、僕の可愛いお姫当たるの早っ!!」
 そしていきなりの集中攻撃である。類友というか皆空気を読んだというか。
「……郷里の弟に一目会いたかった」
「カイトしっかり! 傷は浅いですわ目を開け……あ、ナイスたゆんが」
 この後半瞬で目を開けて飛び起きたカイトが、もう半瞬でさらに集中攻撃を食らったことを付記しておきたい。幸あれ。色々な意味で。
「シア、危ないよ?」
「え?」
 後ろから囁くように声をかければ、躍起になってパイを投げていた紫唖がびっくりして振り返ってきた。そこにひょいとパイを突き出す。
 結果は上々であった。当然のようにパイまみれになって立ち尽くす紫唖に、悪友たるまといはにこーっと笑う。
「なんだっけ、愛の力?」
「ひどっ……信じてたのに!!」
 あははと笑うまといに怒れば、ごめんねと耳元で囁かれた。
「直人さん覚悟っ!」
 びしっと指を指し堂々と裏切り宣言を出したのは深緋である。びっくりした直人に里子もまた指を指す。
「みんな! ここに彼女持ちが居るぞー!」
『ふざけんな−!!』
 あっという間にパイを持ったその他大勢にたかられる直人。
「俺が何をしたっ!?」
『愛ですよ!』
「愛されてる団長なら仕方ねえ!!」
 仕方ないのだろうか。
「香ーっ!」
 名を呼べば振り向くのが人の常である。かくて振り向いた香にやっぱり玲はパイを押しつけた。べちゃっ。
 見事に引っかかった香にけらけら笑っていると、とんとんと肩を叩かれた。くるっとふりかえる――べしょっ。
 やったのは唯鶴であった。こっちはこっちでひゃっひゃと笑っていると、さらに遙がほぼ同様の手口で唯鶴にパイを叩き込んだ。
「どうせ独り身よこんにゃろー!!」
 最終的に逆ギレした香に、全員仲良く大量のパイを投げつけられた。さながら暴走黒燐弾のごときパイの雨嵐であったという。
「クリスマスなんかー!!」
 叫ぶのはちはやであった。爆発しろと叫ぶ傍らで、常に性別を間違えられっぱなしのエルムがしくしくと泣きながらパイを投げつけている。
「標的はお前だー!!」
 明らかにスタイルのよさげな女性を見つけては白髏が襲いかかり、恋人たる風音はテストの点数を吹っ切るためにパイを投げては反撃を食らって前のめりに倒れていった。
 そんな中でパイだるまを標榜するシキが各方面で進んで盾になっているのは印象的であった。漢気を感じざるを得ない。最終的には響の手で完全なパイだるまにされたようではあったが。
 そしてまた、儚の頭を固定できるような至近距離でグラウがパイを投げつける。
「今日の俺はひと味違うぞ!」
「うん、なんかすっげえダメな方向にひと味違うね!」
 そしてへこむグラウ。何があったのか。
「素晴らしいイベントじゃないか、なあ亮親!」
 叫ぶ齋は喜々として野郎、否、美形ばかり目標にパイを投げ込んでいた。よく分かってる。
「凍条さん、覚悟!」
 そしてこちらでは死闘に幕が下りようとしていた。ドルミエンテと直哉の戦い――クロスカウンターで沈んだのは直哉である。まあもろにパイが入ったと言うだけなのだけれど。
「無念……」
 膝からくずおれる直哉。あこがれとも何とも着かぬ感情で、その直哉の肩を叩く真琴。
 体育館の一隅、うっかり自分は『メリー』クリスマスだよと嘯いたばかりに、集中攻撃を食らう羽目になり真っ白になっているエルアン。文は日頃のネガティブなことを忘れるようにパイを投げ続けている。さらにその傍らでは青春が無心に投げると言う単語を繰り返していた。
「いくぜ兄弟、あの青瓢箪をデコレーションしてやるんだ!」
「OK兄弟、華やかにデコって……あれ?」
 孝助とカルマートの『青瓢箪』の評に納得してしまった自分にへこんだ陽里がいたとか、何とか。
「亮親ちゃんは白いものまみれになったあられもない姿のおにゃにょこを観賞したいだけにゃ!」
「ちょっと待って何その在らぬ誤解!?」
 烈人に突っ込まれた亮親の焦りは尋常ではなかったという。そこにオレ流ゼロ距離射撃をひっさげたヴェルスの一撃がヒット。吹っ飛ぶ亮親。さらに止音の追撃がヒットした。痛烈な贈り物にもう一回吹っ飛ぶ。
「せきねんの恨みっ!!」
 そんな事を叫びながら半にパイを投げたのは露草。そのパイの直撃を食らうも、楽しそうな露草につられ、半は終始笑ったという。

 かくて、パイ投げは終了する。勝敗は結局、誰にも分からない。
「疲れた、逃げ疲れた……」
「お疲れ様」
 碧の肩をぽんと叩き、悠莉は微笑んだ。
 後片付けを初めながら、こんなクリスマスも悪くないと悠樹はこっそり微笑んだ。


マスター:赤間洋 紹介ページ
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いまいち
参加者:130人
作成日:2009/12/24
得票数:楽しい43  笑える18  泣ける1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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