今年もシングルベル


<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。
 冬休みを目前としたクリスマスイヴの日は、様々なパーティーが開かれているようです。
 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口をきいた事が無い人とでも、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。
 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみましょう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。

『お前、まだ恋人いねーのかよ』

 そんな煽り文句の書いてあるパンフレットがあった。殺意が湧くことこの上ない。
 だが、少し待って欲しい。その下をよく読んでみると。

『そんな馬鹿にされている紳士、淑女の皆様に。今宵、素敵なパーティーをご用意いたしました』

 端的に言えば、独り身の皆様へ贈るパーティーらしい。鍋やらローストチキンやらケーキやら。食事は豪勢に用意されているとのこと。
 もちろん、別に自分で何かを持ってくるのも手だろう。特に、その辺りの注意事項はない。
 後はそこで呪詛を呟くなり、何なりとご自由にお過ごしくださいということである。随分と投げやりな企画だなんていってはいけない、きっと。
 多分、企画者もあまりの切なさに心が折れかけたのだろう。

 そして、一番、下の方にとても小さく。
『ただし、恋人持ちの方は要注意。嫉妬の嵐に揉まれても当方は一切、関知いたしませんので悪しからず』
 そういうことらしい。

 後、今宵とか書いてあるくせに、何故か日時は夕方からだったりする。
 もう、何かぐだぐだである。

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<リプレイ>

 日は天頂から傾き、次第に地平線の彼方へと沈み行く頃。
 それはまるで、その場にいる者たちの状況を想起しているかのようで―――。


「恋人がなんだっつーんだよ!」
「色男が何だ! 長身が何だ! 男は中身ってもんだそうだろ!?」
 敬介と春夜の壮絶な絶叫から始まった。そんな執念は醜い、とか言っては駄目だ。きっと。
 まだ、まだ。来年が……! そんな超絶ポジティブシンキングを誰か。
「独り身だっていいじゃない! ……あれ、おかしいな、去年も同じセリフを言ったような? あれ?」
 駄目だ、一歩も進んでない。一言一句去年と違いないその一言を叫ぶ玲樹に進歩の二文字はなかったようだ。
「わーい♪ 独り身で参加だーい! これでフルボッコにされる恐れはないぞー♪」
 龍麻とか壊れてた。もう訳分からん方向にポジティブシンキング。
 直後に、その言葉の意味を悟って項垂れる。アップダウンの激しさは精神的な不安定さを物語っているのだろうか。そんな彼にはきっと人の愛が必要に違いない。
 唐突に敬介が窓を開けて心の底からシャウトする。
「っていうかカップル呪われろ!! 滅べぇええええええええ!!」
 ここに詠唱銀を振りまいたらやばいんじゃね?
 そんな気がする。
 だが、叫び声を上げる以外にも怒りを溜めているものとかはいる。
 窓から外を眺めれば、いちゃいちゃいちゃいちゃ。
 いつまで経っても減る気はしない。それどころか年を追うごとに増えているのは気のせいだろうか。
「そういうお祭じゃないって何度言えば解るの」
 ぼそりと鈴夏の言葉が零れた。
 そう、本当は凄い人の誕生日のはずなのだ。それこそ生まれた年が暦に用いられるほどに。
 なのに。なのに。
「つーか、俺を祝えよ! 俺の誕生日だっつーの!! ゴルァァ!!!」
 テーブルを激しく叩きながらの春夜の叫びはまぁどうでも良い。いや、本人にとっては重大なのだろうが、それはそれ。
 ハァと鈴夏は溜め息を漏らす。それだけが悲しかった。いや、本当に心底から悲しがっているかどうかは分からないのだが。

「フッ、クリスマスか」
 ニヒルな笑みを浮かべる昴琉。その姿は孤高を愛する男の素晴らしい形に見えなくもないのだが。如何せん場所が悪すぎる。
「別にね、独り身で寂しいなんて事はないですしね」
 英士の言葉とかツンデレ以外の何物でもないようにしか聞こえない。
「なぜか独り身には肩身の狭い季節だな」
「そうだ、あまりにもカップル向けの企画ばっかりで」
 友人同士ということで思考も似通っていたのか。何だかんだと言ってもお互いに寂しいのだ。ただ、その寂しさを紛らわす手段というのが、寂しい男同士で食事するというもので、さらに寂しさに拍車をかけるその厳然たる事実だけが寂しい。
 要約すると寂しいのだ。独り身というのは。
「シングルベルを楽しもう」
「えぇい、もう食うしかないだろう、これは」
 おぉ、これはひどい。

 ガラリと教室の扉が開く。入ってきたのは男女のペア。
 ギラリと嫉妬の眼差しが飛ぶ。
「おぉー、これは独り身万歳です」
 広がる食事の山にスバルと流桜がにこりと微笑んだ。花より団子。そんな言葉に鋭い視線は消え去る。
 彼らは同志だ。
 そんな周りとは別にサッと目を伏せて、弥琴の後ろに隠れる欅。
「あ、南先輩も月篠先輩もこんにちは」
 だが、そんな彼に気付かない弥琴は二人に挨拶をかます。
 欅の盾は早々に機能しなくなった。
 さらに。
「げ」
「あら、ご挨拶ね」
 その横にはメイド姿の真燐が。嫌な予感しかなかった。
「お姉さん張り切っちゃうわ」
 そんな声を上げる彼女の声が冥土への旅路にならないことをひっそりと祈る欅である。
「あ、風邪を引かないようにね」
「有り難う御座います、ご主人様」
 寒そうな姿の真燐へ弥琴がレースのマフラーを返せば、極上の微笑が返ってきた。


 ともあれ、恨み言を連ねる者たちも一通りは怒りが収まったのか。叫んだり呪詛を呟くのは減った。だが、それでも心に宿った怨念は消せない。
 ならば、無理やりにでもそれを上書きする。
 そのためには。
「美味い、美味い……!」
 原始的な欲求に従うのが一番かと。
 目に付いた肉を英士は片っ端から口に放り込んでいく。
 それらは全て丁寧に調理されていた。もう、涙がちょちょぎれるくらいに美味かった。
 横でケーキとか洋菓子の類を食べていた昴琉が興味を示す。主に英士の皿の上の肉に。
「よこせ!」
 一応、先輩なのだがそんなこと何のその。この世は弱肉強食なのだ。
「ちょ、俺の肉! ならばそのアップルパイを……ぶげら!?」
 問答無用の拳に弾き飛ばされた。あぁ、逆恨みと悲しみの連鎖はこんなところでも続くのか。
 スローで倒れ伏す英士。そのまま、もそもそと起き上がって。
「すいません、アップルパイ分けてください」
 孤独で鍛えられた心胆は先輩というプライドを簡単に捨て去ることを決意していた。

「あーぁ。なんだって俺がこーんなとこでこーんなもん食って……」
 春夜の目の前にはキングサイズのローストチキンが鎮座していた。ナイフで切り取ってフォークで口に運んでも。何だか、美味しくない。
 いや、味は良い。良いはずなのだが。
 心にぽっかり開いた穴を埋めるにはまだ足りないのだろうか。さらに肉に手を伸ばす。
 その横ではシャンメリーの瓶を片手に飲んだくれて(?)いる敬介の姿があった。
「俺だってさー」
 そう彼にも夢はある。クリスマスを独り身で過ごすなんて。
 そんな彼に同情して春夜も耳を傾ける。彼とは同じ穴の狢なのだから。
「ヒールでぐりぐり踏んでくれたり、『変態』とか罵ってくれる嫁さん欲しいさ」
 前言撤回。
(「駄目だこいつ……!」)
 友情にひびを入れたくなった。
「ああそうさ。巨乳の姉ちゃんバッチコ……うぐ、何をする」
「………」
 無言の威圧を以って、ローストチキンの骨でぐりぐりしてやる。友として止めねばなるまい。
 そんな時。
 メイドが横を通りかかった。
 巨乳の。
「うぉっ」
 デレッと敬介の顔が緩む。
 そして、谷間がちらり。
「ふぉおおおおお!!!」
 不気味な声を上げる敬介。付き合いきれないと春夜は諦めて、ローストチキンに再度挑みかかる。
「ご主人様、手作りのお菓子は如何ですか?」
「食べる、食べるね!」
「ちょ、ちょっと、待て……!?」
 さっとケーキに手を伸ばす敬介。遠くから欅の止めるような声が響く。
 まず一口。笑顔のまま。
「ぐふっ!?」
 敬介は白目をむいて、ひっくり返った。

「私の愛の賜物ね」
 悲しい独り身に容赦ないトドメを刺した真燐にあまり自覚はないようである。
「い、嫌だ、俺は死にたくない」
 惨劇を目の前にして、欅が逃げを決め込む。次にあの第一級劇物を口にするのは―――きっと自分なのだ。
「逃げたらおしおきですわ、ご主人様」
「流桜……エコミコ!」

 その頃。
「ほら、学生だし。俺とか欅君は今年受験だから! あ、いや、負け惜しみじゃないよ?」
「真っ当にシングルベルを楽しんでるんですね」
 流桜とスバルは普通に談笑していた。
「では、そんなるおさんにサプライズ」
 ドンとスバルが箱を取り出す。中身は手作りケーキ。
「まあ、味は何て事ない普通のケーキですが」
 一応、まともであることは保障されている。
「わざわざ有り難う」
 そう言って、流桜は取り皿に盛ってきた料理を手渡し、そのケーキを切り分けていく。
 そんな折である。くいくいと流桜の袖が引かれた。
「ん? 男は自分で取ろうな」
「あ、いや……」
 さりげない男女差別を繰り出す流桜の横には、弥琴がおろおろとしていた。
「何だ、八伏君か。可愛い後輩の君には、飲み物を持ってきてあげよう」
「あ、有難う御座います……じゃなくて」
 ちらりと奥の方へ目配せする。
「あの、助けなくて……」
「八伏さんもずずいとおひとつ」
 笑顔でスバルがケーキを勧めてくる。律儀にも弥琴はそれを受け取った。

 どうやらスバルは彼を救ってくれる気はさらさらないらしかった。
 自力で何とかしないといけない。いけないのだが。
「あの、持ってる生物兵器は遠慮したいなーとか、年越したいしー……それに卒業控えてるしー」
「大丈夫!」
 盛大な笑顔でさらりと。
「欅さんは丈夫だもの!」
 理不尽な死刑宣告が下った。
「哀より愛がほしー……! あ、あ、あ……ぎゃ、ぎゃああああああああ!!」
 彼が何をしたというのだろうか。
 結果は。
 ごろり、と。無惨な屍が一つ転がっただけだった。


 冬もさらに深まり、日の入りはすでに早い。日は橙の光を教室に届ける。
 黄昏。今年一年の終わりはそんな言葉が似合うほどに灰色で―――。


 ボーッと、周囲を眺める。去年と同じ様子の雰囲気に、カサンドラは苦笑せざるを得なかった。横には馴染みの姿がある。カイトは去年と何一つ変わってない。
「お前はいつも結婚だの何だのと言ってる割に。今年も独り身か」
「ぐ……ほら、僕みんなを愛してるからさ!」
 今時、ハーレムでも目指しているのだろうか。狂気のネジと一緒に大事なものまでふっ飛ばしちゃったかもしれない青年は、よく分からない理論で武装していた。
「口ばかりだからそうなるんだ、女を舐めて居ると痛い目を見るぞ」
 友として、忠告。浮気の果てに悲しい結末を辿るのは物語だけで良いはずで。
「そういうカサコはどうなんだよ!」
「わ、私か? 私は良いんだよ。愛だの恋だの、興味が無いからな」
 自分に回ってきたら、途端。ふんと視線をカイトから外す。
 あぁ、こんなやりとりも去年と同じか。思い出が何となく蘇った。
 お前らしいよという言葉が笑いと共に響く。
 外を見れば、カップルの姿。
 煩わしいだけ。
 そう思ってはいるのだが、周りがこれでは。
「カサコ熱でもあんのか? 顔赤いぞ?」
 少しだけ慌てるカイトにフッと余裕の笑みを返す。
「まあ、今日クリスマス位は女を演ずるのも一興かも知れん」
 別に愛の告白をしようとかそういうわけではないのだが。少しだけ火照る頬がむずかゆかった。
「付き合って貰えるかな? 友として」
「って、僕がカサンドラの誘い断るわけないだろ。今日は楽しもうぜ、勇猛可憐なお姫様」
 恭しく手を差し出すカイト。
 それに反して―――周囲の気温が下がった。
 恋人のように見えた場合、ここで意味する物は。
「……あれ? 何か、周りの空気こわくね?」
 これだから空気の読めてない人は。いまさら読んでも、一歩だけ遅い。

「聖夜を何だと思っているの?」
 くりくりとしたオレンジ色の瞳がカイトの眼前に迫っていた。ただ、目のコントラストが消えかけているのがおぞましく、一歩だけ後ずさる。
「生んで育ててくれた親や家族と過ごして下さいよ。恩も義理も忘れて他人を大切にするとか外道にすぎますよね」
 鈴夏が延々とまくし立てるように思いの丈をぶちまけていく。
「あぁ―――家族になるならなればいいじゃない。人生の墓場ですし。もう過程を吹っ飛ばしてそのまま直行して下さい。是非に」
 それは色々とまずい。描写とかそんな生々しいこともそうだけど、色々とやばい。
「ひ」
 ヤバイと。何かがヤバイと。カイトもカサンドラも直感する。特にカイトへ対する何かとてつもない負の想念がヤバイ。
「う、うわっ……!?」
 ガタン。
 音を立ててカイトは尻餅をつく。うつ伏せのままリビングデッドの如く敬介の腕が彼の足を捕らえていた。
「なんでお前だけ……」
 龍麻がしっとパワーを全開に襲い掛かる。
「ギャ、ギャハハハハハ!!」
 絶え間ないくすぐり攻撃。その開いた口へ。
「カップルはさようなら、だ」
 春夜がケーキを押し込んだ。真燐の作ったアレを。
 絶叫。そして。
 骸がさらに一つ増えて、同時に黒いオーラも立ち昇った。


 ついに宴は最悪な形を持って終局を迎える。加速した怨念はそのまま執念と化していく。


「彼女、恋人、カップル……それをどうやって求めれば良いのかなぁ」
 龍麻のか細い声は、とっくに希望の色も少ない。
「もう―――俺を裏切らない彼女を探すべきかなぁ?」
 止めろ、龍麻。そこから先に進むと、魔法使いだとか、妖精だとかになってしまう。そこまで行ったら人間を止めることとほぼ同義だ。
 しかし、フラフラと抱えていたアニメのDVDと漫画を鑑賞し始めた。もう、戻って来れそうにないかもしれない。
「思えばこの一年、クリスマスに僕はこうしてまた一人。二度あることは三度あると言うよね。って事はもしや来年も?」
 遠くから聞こえる恋人たちの喧騒が、すごく、遠い。
 ……メリークリスマス。
 チンと玲樹の響かせたグラスの音が、やけに心に痛い。


 きっと、来年こそは。来年こそは―――。
 このパーティーはカオスと、一部にそんな怨念を残しただけかもしれなかった。


マスター:屍衰 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:14人
作成日:2009/12/24
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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