お兄ちゃん、大好き


<オープニング>


 ねえお兄ちゃん。
 私ね、お兄ちゃんの事が大好きなの。
 優しそうな所が好き。綺麗な髪も、頭が良さそうなのも好き。
 その素敵なお顔が好きだし、背が高い所も好き。すらりとした身体も、もちろん好きよ。
 綺麗な瞳が好き。硬くて手応えのある身体も好きで、赤く淀んだ血も好きだわ。
 耳に心地よい呻きが好き。恐怖に震える表情も好き。
 でも、何よりも好きなのは……断末魔の悲鳴。

「地縛霊を退治して欲しい」
 王子・団十郎(高校生運命予報士・bn0019)は、いつものように集まった能力者達に告げる。
「今回の地縛霊は、ある高校の、校舎の1つをテリトリーとした、小学生くらいの少女の地縛霊だ。何故高校にそんな少女現れるのかは分からないが……すでに被害者も少なからず出ているようだな」
 このまま放置すれば、さらに被害者が増えるだろう。悪くすれば、世界結界に影響を与える事にもなりかねない。
「制服は用意してあるから、皆にはこれを着て潜入して欲しい。実際に転校させるのは無理だが、生徒の顏を全て覚えているような者もいないだろうし、放課後に校内に立ち入るくらいならバレはしないだろう。その地縛霊が現れるのも、放課後だけだからな」
 放課後、1人で遅くまで教室に居残っていると、突然教室の中に少女が現れる。少女はその生徒を『お兄ちゃん』と呼んで近づいて来るが、最終的には残虐の限りを尽くして殺してしまうらしい。
「少女以外には、学生服の地縛霊が3体付き従っている。これも、少女は『お兄ちゃん』と呼んでいるらしいな」
 通常攻撃しかして来ない『お兄ちゃん』が前面に出て能力者と対峙し、それを少女が回復や強化の能力によって援護する、というのが基本的な相手の行動パターンらしい。
「さて、ここからが厄介な所だが……」
 難しい顏をして団十郎は続ける。
「皆以外にも、生徒はいるからな、もしかすると、1人で居残っている生徒がいるかもしれない。仮に誰かを囮にして地縛霊をおびき出す、という作戦を取った所で、そちらの方に地縛霊が行ってしまう可能性もある」
 地縛霊がテリトリーとしている校舎は3階建て、各階は教室が8つ有り、全て授業を行うクラスの教室。校舎の形は上から見ると長方形で、階段は両端に1つずつの計2つ……と言った所だ。
「どういう対処を取るかは皆に任せる。居残り生徒を無理矢理帰すか、1人では無くしてしまうか、全て見張るか……いろいろ解決法は有るだろうな」
 どの方法にも一長一短は有るだろうから気をつけてくれ、と団十郎は言って皆を見回す。

「どういった経緯でこの少女が地縛霊となったのかは分からない。だが、確かに言える事は、今この地縛霊を倒さない限り、死者は増える一方という事だ。生徒達を守って、そして依頼を成功させて欲しい」
 説明をそう締めくくり、彼は能力者達を送り出した。

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参加者
遠野・優雨(闇纏う紅星・b00094)
姉川・雪声(勁雪・b00688)
森月・糺(紺青の氷輪・b01909)
真神・九郎(中学生魔弾術士・b02643)
三國・又兵衛(マタタビ中毒者・b07213)
御言・ユサ(それでも僕は霊媒師・b07294)
愛時・魔王(猪突猛進当たって砕ける・b07773)
有麻・炯士(真白の月詠い・b14749)
夜重・曼殊沙華(無垢なる無色の天上華・b16337)




<リプレイ>

●校舎捜索
「ほら、授業終わったんだから早く帰ろうな」
「は、はい……」
 三階の教室に一人残っていて本を読んでいたその生徒は、姉川・雪声(勁雪・b00688)の纏う王者の如き威風に気圧されて、無理矢理退去させられる。その背を見送って、御言・ユサ(それでも僕は霊媒師・b07294)は感心したような声を上げる。
「やっぱり、こう言う時に王者の風って役に立つよね」
 そう、幸運と言うべきか、それともこう言う依頼と知って集まったのか。今回の依頼には、3人もの青龍拳士が参加している。彼らの本業能力『王者の風』はこう言う時に無類の効果を発揮する。
 現に今の生徒も、ユサの説得に渋っていたのだが、一発である。
 そう言う意味では、丁度メガリスの力によってイグニッションせずとも本業能力を使えるようになったのも僥倖だ。せっかくイグニッションすると手配した制服がカードにしまわれてしまうので、どうにも不自然さが目立っただろう。世界結界がなんとかしただろうが、なんとかしてもらわないに越した事は無い。
「三階は、全員帰したか?」
「ええ、1人で残っている生徒はここの生徒だけでしたし、2人以上で残っている生徒も念のため帰して……調べ漏れは無い筈です」
 遠野・優雨(闇纏う紅星・b00094)が答え、頷く。
「あとは、他の階の人に連絡して……それから、生徒が教室に帰って来ないかも気をつけないと」

「ああ、優雨か。二階の生徒は全員帰したぞ」
 幼なじみからの携帯連絡を受けて、森月・糺(紺青の氷輪・b01909)は頷く。
「見落としは無い……無いよな?」
 念のため、と電話から一旦顏を離して、仲間に尋ねる。
「ウヒョヒョヒャヒャヒャ、多分大丈夫じゃないかなぁ〜?」
 三國・又兵衛(マタタビ中毒者・b07213)の答えにしばし沈黙すると、糺はもう1人に向き直る。
「無いよな?」
「あっ……うん、全部の教室キチンと確認したよ。生徒さんはもう大丈夫だね」
 初めて銀誓館以外の制服に袖を通した事で少し浮かれていた有麻・炯士(真白の月詠い・b14749)は、問いに気を引き締め直してしっかりと頷く。
「無視かい!?」
「いや、別にそう言う訳では無いんだが」
 又兵衛の叫びにちょっと目を反らす糺。又兵衛が真面目に仕事をしているのは分かっているし、ちゃんと作戦のまとめなどを行って頑張っているのも知っているが、いきなり奇妙な笑い声を出されると、ちょっと困る。
「まあ、それは置いておく事としようか。そろそろメールが来る頃だろうし……」
 言った又兵衛の携帯が、丁度鳴り響く。
「……言った途端だね」
 そのメールを開いて集まる場所を確認すると、彼らは一階へと駆ける。

「地縛霊は?」
「まだ出て来ていないな」
 三階の3人が合流すると、一階班の真神・九郎(中学生魔弾術士・b02643)は頷く。教室の中には、囮役の愛時・魔王(猪突猛進当たって砕ける・b07773)が一人。それを、後ろの扉から九郎が覗き込んでいる。
「それにしても、何で高校に小学生の地縛霊がいるんだろうな……」
 地縛霊の出現を待ちながら、九郎は小さく呟いた。
「さてな……オレには兄弟ってモンがいねぇから分からないが、人を傷つけてるあたり、歪んだ愛情ってヤツかねぇ?」
 雪声は答えて首を捻る。
「どんな事情が有るにせよ、これ以上被害を出す訳には行かないけどね……」
 言ったユサは、ふと前の扉の方を見つめる。
 そこに待機しているのは、夜重・曼殊沙華(無垢なる無色の天上華・b16337)。間もなく二階の3人が合流する。
「女の子。寂しい、だったの、かな……?」
「どうだろうな……こんな所に縛られた、理由も分からないしな」
 曼殊沙華のたどたどしい呟きに、糺は首を捻る。
「だが、そうだな……人恋しいのかもしれないな」
「うん……そう、だね……」
 その答えに頷いて、そして続ける。
「でも、殺す、を……楽しむ……駄目、とても……」
「いや全く、容赦する訳にはいかないよね」
 炯士も頷き、教室内を覗き込んだ。
 ふと、空気が変わる。
『……お兄ちゃん』
「やあ、来たか」
 いつの間にか部屋の中にいた少女に、魔王は声をかける。
『会いたかったよ、お兄ちゃん』
「俺もだよ……お兄ちゃんに、君の名前を聞く栄誉を与えてもらえるかな?」
 微笑んで問いかける魔王に、少女はにっこりと笑う。
『あかね、って言うの。お兄ちゃんも……一緒に遊ぼ?」
 そうして、少女を守るように現れる地縛霊。
「……うん。遊んであげたい所だけど……こんな所で留まってたら、本当の理想のお兄ちゃんに会えないよ」
 それを見ながら、魔王は少し寂しげに笑い、カードを取り出す。
「だから、開放してあげよう……イグニッション!」

●お兄ちゃんと一緒
 戦闘開始と同時に、前後の扉からも能力者達がなだれ込んで来る。それを見て、少女は地縛霊の影に隠れた。
「行くぞ……!」
 先陣を切ったのは糺だ。龍の咆哮の如き衝撃波が、地縛霊ごと少女を狙う。
『お兄ちゃん、お姉ちゃん……私と遊んでくれないの?』
 それは、地縛霊をこそ傷つけるが、少女には回避される。少女の手から輝きが生まれ、地縛霊の一体を包み込んだ。
『お兄ちゃん達……やっつけちゃえ!』
 地縛霊達は、声に応じるかのように腕を振り上げ……だが、その腕が振り下ろされる前に、膝をつく。
「おいた、が……過ぎる……の。お仕置き……」
 それを為したのは、曼殊沙華の符。禍々しき呪いが、地縛霊の力を削ぐ。
「眠れ……!」
 次いで、さらなる符が飛ぶ。放ったのは優雨、もたらすは眠り。光に包まれていた地縛霊から、その光が消えて行く。
「君たち、邪魔だね。早く、眠って、ね……」
 笑みと共に炯士が紡ぐのも、眠りの歌。また一体、地縛霊が眠りに倒れる。
 いつまで寝ているかは分からない。だが、彼らが倒れた事で、その影に隠れていた少女が姿を現す。
『あ……」
「悪いけどこれ以上好きにさせるわけにはいかないんでね?」
 守りを失い、怯えた表情を浮かべる少女へ、九郎の箒から炎の魔弾が放たれる。
『お兄ちゃん……私を守って?』
 炎に包まれ、しかし少女は微笑んだまま、まだ立っている地縛霊に声をかける。それに答え、少女を守るように進み出る地縛霊。そこへ横から飛び込むのは雪声。
「姉川雪声、推して参るっ!」
 放たれし力は水。強烈なエネルギーが地縛霊を殴り飛ばし、また1枚少女の壁を奪う。そこへ、魔王の炎の呪縛が飛んだ。これは弾かれ……だが、さらに炯士の眠りの歌が飛べば、またも膝を付く。
 能力者達が今回の作戦に臨むに当たってとった作戦は、少女への集中攻撃。行動不能系のアビリティと吹き飛ばしによって地縛霊を退かし、先に少女を撃破してから残った地縛霊を掃討すると言うものだ。
 安らかな眠りと呪縛は、彼らの壁としての機能と、少女の齎した強化の力を奪う。この作戦を取られた時点で、少女の戦術は半ば崩壊したと言っていい。
『もう……お兄ちゃんってば……私がついていないと、ダメなのね』
 だが、少女は微笑む。それを理解していないのか、していてなお、なのか。
 眠りから醒めた地縛霊が、腕を振るって雪声に叩き付ける。
「ぐっ……」
 強烈な一撃に揺らぐ雪声。だがそこに二枚の治癒符が飛べば、あっさりと傷が癒えて行く。
「お返し……だっ!」
 反撃の爆水掌。腕によって防御されるが、腕ごと打ち砕くかのような苛烈さで地縛霊の身体を揺るがす。
「悪い子にはお仕置きしないとね!」
 そこへ放たれるのは、魔弾の射手によって増幅された、雑霊の塊。放ったのはユサで、それは癒しの歌を広げる少女を捕らえる。
『ん……お兄ちゃん達、意地悪だね……私をいじめて、そんなに楽しいの?』
 少女の身体が、大きく揺らぐ。元々、彼女はそれほど丈夫ではない。それを補う壁を奪われた彼女に、能力者の猛攻を耐え切れる理由など、有りはしなかった。
「ここには……君のお兄ちゃんはいない……!」
 不死鳥の如き炎を纏って魔王の拳が少女に叩き付けられれば、その身体が赤く燃え上がる。
「知ってるかね〜? 妹がお兄ちゃんって呼ぶ時は、何か企んでる時だってっ!」
 又兵衛が長槍を振るえば、今度は雷が少女を貫く。
『……企んでないよ』
 もう、ほとんど力を失い、それでも少女は笑みを絶やさない。彼女の紡ぐ癒しの歌に突き動かされるかのように、地縛霊は腕を振り上げ、襲いかかって来る。
「糺さん!」
「大丈夫だ、優雨」
 腕が、糺に叩き込まれる。慌てて治癒の力を振るおうとする優雨に、彼は背中越しに僅かに頷き押しとどめる。反撃として放たれた龍顎の一撃は地縛霊を揺るがし、彼の意志に応えて次いで放たれた優雨の符は、再びそれを眠りにつかせる。
「君を守らせる訳にはいかないね〜」
 又兵衛の雷が、別の地縛霊を打ち据える。強烈なそれは地縛霊に大きな一撃を与え、足を止めた。
「もう……お休み……な。これから……は、いい、夢……を……」
 無表情の中に、どこか寂しそうに。曼殊沙華の水刃は、地縛霊を容赦なく切り裂く。
「さっくりと成仏してくれなっ!」
「容赦はしないよ?」
 そして、九郎が、炯士が、炎を重ねた。少女の身体が、燃え上がる。
『あれ……?』
 燃え盛る大火に、少女の身体は耐え切れない。立っていられなかったのか、ふらり、と横倒しになる。そんな自分の足を、そして身体を、少女は不思議そうに見つめる。
『身体が動かないや……眠いのかな?』
 消え行く身体をみながら少女は……やはり、微笑んだ。
『それなら……お昼寝しちゃお。そうしたら、きっとお兄ちゃんが寝ている私を見つけてくれるから』
 そうして、少女は身体を床に横たえ……。
 そのまま、目覚める事無く、消えて行った。

●そして平穏へ
 それから、残りの地縛霊を倒すには、さほど時間はかからなかった。全て片付けると、少々散らかってしまった教室を片付けて行く。
「お兄ちゃん、かぁ」
 燃え尽きた少女がいた場所を見下ろし、魔王はどこか寂しげに呟いた。
「……もうちょっと、呼ばれていたかったかもな」
「お兄ちゃん!」
 それを聞いた又兵衛が笑って言うと、魔王は頭を軽く押さえる。
「……いや、そうじゃないんだが」
「そうか? まあ、なんだ、疲れたろ。皆、家来い、ご馳走するぞ」
 また奇妙な笑い声を上げて皆に言う又兵衛。
「その前に、学園に報告に戻らないとな」
「そうだね、それじゃ、先生か何かに見つかって厄介な事にならないうちに帰ろうか」
 そんな彼を見ながら苦笑し、九郎が言うと、ユサも頷く。
「明日……から、また……何事も、無いの……ように……」
 去り際に曼殊沙華は振り向いて、小さく呟いた。
「どうか、その……平穏……続きます、ように……それ、とても……幸せ、で……大事の、こと……」
 自分達が守った平和が長く続くように、祈りを込めて。


マスター:一二三四五六 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2007/03/18
得票数:カッコいい10  知的1  せつない9 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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