ワタシノアカチャン……


<オープニング>


「モモちゃん、ソリ滑り楽しいね〜」
 縷々は、女の子に大人気のお世話が出来る赤ちゃん人形をクリスマスプレゼントで買ってもらい、とてもご機嫌だった。
 モモちゃんと名前を付けたその人形。一緒に買ってもらったグッズでお世話すれば、ちょっとお姉ちゃんになった気になれる。一緒にソリで遊べば、まるで妹が出来たみたいでとても楽しかった。
 お昼のサイレンが鳴る。
 ママがご飯を作って待っているはずだ。そろそろ公園で遊ぶのをやめ、帰らなければ。
「モモちゃん、ご飯の時間ですよ〜」
 縷々はモモちゃんを大事に、まるで新生児を扱うように抱き、近所の公園から出ようとした時……、
「返して……」
「えっ?」
 後ろから聞こえた声に、縷々は振り向く。そして氷のように固まった。
「……私の赤ちゃん……」
 血走った目で自分を見下ろす女。体はぎこちなく曲がっていて血だらけだ。ぽたぽたと指先から血を落としながら縷々へと手を伸ばす。
「……私の赤ちゃん返してよーっ!」
 眼球が抜け落ちそうなほど目を見開き、顎が外れるんじゃないかというくらい口を開け、女は叫んだ。
「いやだーっ! ママーっ助けてっ!」
 縷々は女の地縛霊に腕をつかまれると、この空間から消え去った……。
 
「待ってた」
 氷雨・千空(中学生運命予報士・bn0274)は能力者たちを見るなりそう言った。
「事態は急を要する。このままでは女の子が地縛霊に殺される。救出と殲滅が今回の任務」
 千空はそう言うと、すぐに地図を広げ、一つの公園にまるをつけた。ここが現場らしい。
「相手は女の地縛霊。この公園の前に特殊空間を持っている。そして目的に沿った相手が来ると引きずり込んでじわじわと殺してゆく。今回縷々という女の子が運悪く地縛霊の特殊空間に引き込まれてしまった」
 今はまだ無事のようだが、相手のテリトリー内にいる以上殺されるのも時間の問題である。
「まずは特殊空間内への進入方法について説明するから」
 千空の話だと、その条件は少々特殊だという。
「条件って言うのは、まず赤ちゃんを抱いているというのが条件。女の地縛霊はどうやら赤ちゃんに何か特別な思いがあるようだ」
「えっ? それって……」
 能力者の一人が声を上げる。
 赤ちゃんが条件だなんて、進入するのに一般人が必要だといっているようなものである。そもそも危険だとわかっている戦闘現場に赤ちゃん連れてゆくなんて、能力者としてどうなのか。
「その点なら心配ない」
「だが……」
 能力者の一人がそう言いかけたとき……
 ポンポンポーン。
 千空がとっても可愛いベビードレスを着た赤ちゃんの人形を、人数分机の上に並べた。
「…………ハ?」
 あっけに取られる能力者たち。
「好きなの持っていって。これで十分出現条件一つ満たせるから」
「へ? これで?」
 千空と人形を交互に見やる能力者たち。
「うん。いい加減っちゃあいい加減だよね。でもおかげで余計な心配なく入り込めるから万々歳じゃない?」
 まぁ、確かに。赤ちゃんを特殊空間に連れて行くなんて考えただけでも恐ろしい。そもそも連れて行く赤ちゃんを探す問題のほうが深刻か……。
「で、これを抱いて入るんだけど……新生児の抱き方をしなくちゃなんないんだよね。普通に抱えるだけじゃダメらしい」 
 そう言いながら、千空は人形の一つを手に持ち、新生児の抱き方を説明する。
 なるほど新生児は首が据わっていないから、首を支えるようにするわけね。
「赤ちゃんと抱き方、この条件を満たし、更に大事にしてますという雰囲気をかもし出しながら、公園前を歩いていればいい。別に一人じゃなくちゃいけないわけじゃないから、皆でこの人形もって一斉にご招待されちゃってくれ」
 了解。
 でもそれって……側から見ればずいぶん異様な光景じゃないですか?
 男女関係なく、大人数が赤ちゃん人形をまるで本物の赤ちゃんのように扱いながら公園前を歩くなんてさぁ……。小学生ならまだなんとかなりそうだけど、高校生くらいになると……。
 しかしそれをしなければ、縷々を助けることは出来ないのだ。文句は言ってられない。
「で、地縛霊の能力についてだけど、ボスの女は血まみれで、少し体が歪な状態で現れる。まるで何か事故があったかのような姿でね。近距離一体に力任せに殴りつける母親の鉄槌はかなり強力で、体力の低いものには危険だ。しかもブレイクと超猛毒の能力がある」
 そのほかに、女のリビングデッドが二体現れるという。全員つかみかかるだけの単純なものだが、超猛毒の力を秘めているので侮れない。
「進入後、それらのゴーストから縷々を守らなくちゃなんない。特殊空間内だから攻撃に巻き込まれないよう注意してくれ」
 その特殊空間の様子であるが、半径20m程度の広さで、薄暗いが戦闘には支障の無いし、行動を阻害するようなものも何もない。その中で縷々は必死に女の魔の手から逃げ回っている。まずは確保し、地縛霊からできるだけ離れて守る必要がある。
「で、具体的な守る方法だけど……基本、ゴーストたちは赤ちゃん人形を持っている相手には攻撃してこないので、縷々とその側にいる人は必ず人形を持たせること。ただし全員が持っていれば反撃受けることなく終わるってわけでもないんだよね、これが。赤ちゃんを持ったものが攻撃を仕掛ければ、赤ちゃんを粗末にするものとみなして攻撃してくる。例外として回復に従事している場合大丈夫。だから戦闘する人は邪魔な人形を放棄して、回復専門は縷々の側にいるのがいいかもしれない」
 これが戦略としては妥当なものだろう。

「むざむざ見殺しにするわけにはいかない。必ず親の元に返してあげられるよう頼むよ。色々厄介だけど……吉報待ってる」
 千空はそう告げ、能力者たちを見送った。

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参加者
木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)
九堂・今日介(炎の後継・b24557)
七瀬・瞳亜(パパラチアの魔女・b25292)
暗都・魎夜(真っ赤に燃え滾る血潮・b42300)
在原・悠月(エピクロスの可能無限・b51460)
冬月・火憐(夢見心地・b53299)
ウルリケ・シュヴァルツ(蝙蝠円舞曲・b69278)
雲乃井・甘夏(衛生益虫・b71766)
風霧・來那(目指す先は今何処に・b71827)




<リプレイ>

 目的の場所に辿り着いた能力者たちは、公園の物陰になりそうな場所で、袋の中から一斉に例のブツを取り出す。
 そう、今回のゴースト討伐のキーアイテムとなる、その名も……ベビードレスが可愛らしい、女の子に人気のお世話人形計九体だ!
「それにしても特殊空間へ入る方法がなんというか……」
 風霧・來那(目指す先は今何処に・b71827)が微妙に引きつった笑みを浮かべると、在原・悠月(エピクロスの可能無限・b51460)はほのかに染まった頬を隠すように顔を伏せた。
「なんと申しますか……恥ずかしいです」
 特殊空間進入条件が、人形を新生児のように抱っこしながら愛でるという……側から見れば「ちょっと、アナタ大丈夫?」である。
「そんなこと考えちゃダメです、恥ずかしがったら負けです!」
 冬月・火憐(夢見心地・b53299)は人形の一つを抱き上げ、言った。
「赤ちゃんを抱くのは得意です。こう見えて、蜘蛛童たちの世話をしていたんですよ、わたし」
 雲乃井・甘夏(衛生益虫・b71766)は人形を頭からむんずとつかみ上げ、自信満々に言い放ったものの、一向に抱く気配はあらず。
 まさか、そのまま行くつもりではありますまい?
「え? 頭掴んじゃダメ?」
 視線がおかしいことを感じて、甘夏は火憐と自分の抱き方と見比べると、同じように抱きなおす。
「……蜘蛛ちゃんたちとは大分勝手が違いますねぇ?」
「再度確認しますが、こう首を支えて、こうですよ?」
 ウルリケ・シュヴァルツ(蝙蝠円舞曲・b69278)は人形を抱えると、丁寧に首元に手を添え、抱き方を再確認。
「赤ちゃんは首が据わっていませんから、縦抱きにするのは危険なのです」
「え? じゃあもしかして、コレも……ダメなのか?」
 ウルリケの言葉に、九堂・今日介(炎の後継・b24557)は自身の背中を指差した。
 彼の背中に装着されたものはおんぶ紐。背中に背負うタイプのものだ。
 しかし進入までは横抱きで行い、突入後その人形を差し込めば、両手も空くし邪魔にもならないので、決して無駄だった……というわけでもなさそうだ。
 全員上手に抱くと、早速特殊空間へ向かうべく行動開始。
「あまり、のんびり、している場合じゃ、ないですけれど」
 いつか本当に赤ちゃんを抱く日を思い浮かべながら人形をゆっくり揺らし、大事に抱えて、言葉はかけずとも優しい目で人形をあやしながら、木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)は歩き始める。火燐も続いて、
「ラグくんいい子ですねー♪ よしよし、うちのラグくんが一番可愛いですよー」
「女の子と言うのはこの様な事をして母性を養っているのかしら。でも少し楽しいですわ」
 子供の頃からお人形遊びなどしたことのない七瀬・瞳亜(パパラチアの魔女・b25292)にとって、これはとても新鮮なものだった。微笑を浮かべながら抱く人形の背中をポンポンと軽く叩き、身体を揺らす。ここにくるまで実際の親子を事前に観察し、それを実践しているのだ。ぶっつけ本番のわりにはなかなか堂に入ったあやしっぷり。
「は〜い、アシダカさぁん♪ ママでちゅよ〜♪」
 使役の名前を呼びかけ、ちっちゃい頃は可愛かったな〜と思い出しながら人形に話しかける甘夏。土蜘蛛の世話を得意としている彼女にとって、愛情を注ぐという行為は人形であろうとも自然と行えた。
「いっそのこと、これは将来子供を持った時への先行投資……そう思っておこうよ」
 上手にあやす彼女らの背を見つめながら來那はそう言うと、教えられたとおりに人形を抱き、半ばヤケになりながら特殊空間へと向かう。あやし方は皆の言葉をそのまま復唱するだけだが、ようはあやせばいいのである。
「よしよし、良い子だ♪ お兄ちゃんと一緒にお出かけだぜ!」
 暗都・魎夜(真っ赤に燃え滾る血潮・b42300)は朗らかな様子で人形をあやす。
「いないいないばぁ〜!」
 段々演技にも熱がこもり出す魎夜。変な顔を近づけて本気であやしだす。
「びゃ、びゃくやちゃん、かわいいでちゅねー」
 最初のうち、悠月は羞恥の方が先行し、どうも言葉がつっかえ気味だったものの、
「はい、びゃくやちゃん、ミルクでちゅよー」
 皆と一緒にあやしているうちに赤ちゃん言葉も様になってゆく。おんぶ紐を装備したまま、今日介も続いた。
「ゼルくんは、おにいちゃんが好きでちゅね〜」
 今日介は自分もこんな風にあやしてもらったのかなと亡き母親を思い出す。自然と穏やかな表情が浮かんだ。
 最後にウルリケが優しく微笑みかけながら、人形をあやす。
 全員で公園前を横切ろうとしたとき、どこからともなく声が響き渡る。
 はっと気がつけば、目の前に歪んだ女の地縛霊がいた。髪の隙間から憎々しげな目で能力者たちを睨みつけている。
「……奪ったのは貴方? 貴女なの?」
 目を見開き、血に濡れた手を伸ばしてくる地縛霊。進入前に多少勘違い等はあったものの、それをフォローしあえたため、能力者たち全員特殊空間内へと引きずられた。
 次に目に飛び込んだのは薄暗い空間。次いで地縛霊と腐敗が進んだ女たちが縷々を取り囲んでいるところだった。縷々は泣き震えながら、モモちゃんを手にぺたんと座り込んでいる。
「ワタシノアカチャン……」
「カエシテ……」
 ゴーストにモモちゃんを寄越せと言われて、手放さないでいる時間など限度がある。縷々が震えながらモモちゃんを差し出そうとした。瞬間、ウルリケが叫ぶのと、今日介が人形をおんぶ紐に押し込めながら飛び出すのは同時だった。
「モモちゃんを放しては駄目よ!」
 今日介のスラッシュロンドがゴーストたちに等しく炸裂。更に魎夜もスラッシュロンドを浴びせながら、ゴーストの注意を引くように言った。
「通りすがりの男子中学生がここから先は行かせないぜ」
 小夜は今日介の後ろに立つと、あえてゴーストたちに見せるように人形を下に置いた。そのすきにウルリケが地縛霊の横を回り込みながら縷々へと向かい、抱き上げ、すぐに後方へと退く。
「私が護ってあげるから、あなたはこの子をしっかり護ってね」
 縷々の手にモモちゃんをしっかりと抱かせると、自身もしっかりと人形を持ち、優しく微笑んだ。
 ゴーストたちは、攻撃を仕掛け、人形を放棄する能力者たちへ、一斉に敵意をあらわにする。
「ガえジてェぇ!」
 発狂めいた叫び声が響き渡る。その声に縷々はびくりと体を震わせ悲鳴を上げた。
「大丈夫、ですから。モモちゃん、離さないで、くださいね」
「モモちゃんも怖かったって……縷々ちゃんが護ってあげようね?」
 小夜と甘夏は優しく声をかけ、ウルリケはぎゅっと抱きしめて視界を遮り、安心させることを優先する。
「縷々ちゃんは保護出来たみたいですわね、では手加減せずに参らせて頂きますわ」
 瞳亜は炎の魔弾を発射。リビングデッドの一体に炸裂し、魔炎を巻き上げる。
「赤ちゃん返してよぉぉぉぉ!」
 地縛霊は顎が外れそうなほど大きな口を開けて叫びながら、母親の鉄槌を今日介へと振り下ろす。予報士には聞いていたが、その一撃は強烈なものだった。猛毒も受け堪らずよろける今日介。他のリビングデッドも、手近なものへと襲い掛かってきた。
「大丈夫、ですよ。すぐに、治しますから」
 小夜は傷の深い今日介へ、白燐奏甲ですぐさまフォロー。
「入谷さん。いきますよ」
 悠月は使役の入谷を前へと向かわせると、同時に攻撃を仕掛ける。リビングデッドの脇腹に入谷の刀が閃くと同時に、雑霊弾。
「なるべく弱っているものから確実に……」
「雷の魔弾で打ち抜くね!」
 甘夏の三角巾と來那の魔弾が、競うように放たれる。三角巾に胸元を引き裂かれ呻いているところに、高圧の電流が直撃したものだから、リビングデッドも絶叫を上げずにはいられない。火憐はもう一体のリビングデッドに退魔呪言突きを食らわせると、軽やかな動きで間合いを取る。
「私より……早く赤ちゃんを……!」
 地縛霊は小夜を殴りつける。小夜は超猛毒を受けながらも、相手の攻撃を分散させるよう陽動し、ひたすら白燐奏甲と祖霊降臨を織り交ぜながら回復に努める。
「あんなに赤ちゃんに執着するなんて生前に何があったんでしょうか」
 火憐は向かってくるリビングデッドに攻撃を加えながら呟くと、甘夏はアシダカの援護射撃を行いながら答える。
「きっと、すごく……可哀想なことがあったんだと思います」
「だから尚更、あんたみたいに悲しむ親を出さないためにも、負けるわけにはいかねぇ!縷々が傷ついてそんな悲しみが増えるなんてさせないぜ!」
 小さな縷々と死んだ妹が重なったのか、魎夜は剣を強く握り締めるとその悲しみを全て乗せ黒影剣。振り下ろされる漆黒の刃が、リビングデッドの頭を捉える。そのまま真っ二つに叩き切り、まずは一人。入谷と悠月はすぐに目標を残ったリビングデッドへとシフト。リズムよく攻撃を叩き込み、瞳亜が雷の魔弾で着実にダメージを与えてゆく。
 痛みにうめくリビングデッドが、牙をむきながらつかみかかる。
 縷々を庇いながらウルリケは赦しの舞を発動。だが全員の完治までとはいかない。母親の執着心と同様、猛毒の力もしつこく能力者たちを苦しめる。
「ちょっと回復に回った方がいいかな……?」
 攻撃を一旦取りやめ、來那は浄化の風を呼び込む。
「穢れを吹き飛ばす風……これで……!」
 清らかな光の粒を含んだ風が召還され、猛毒の力をさらいながら辺り一帯を流れてゆく。
「……早く救急車呼んで……!」
 地縛霊がさらに目を見開きながら殴りかかってくる。その目はまさに鬼気迫る、鬼と化した母親の目だった。
 今日介は後ろへとぬけさせないように踏ん張りながら攻撃を受止め、お返しにクレセントファングを腹にめり込ませる。
「どうして逃げるのよ……どうして……!」
 歪に曲がる腹を押さえながら、落ちている赤ちゃん人形へと手を伸ばす地縛霊。呼応したかのように、リビングデッドが泣き叫びながら瞳亜へとつかみかかる。
「母親なら赤ん坊に対して慈しむ事は当然だと思いますけど、それも度を過ぎて地縛霊になってしまうのは論外ですわ」
 振り払うと、瞳亜は至近距離で炎の魔弾を発動させる。
「子供に危害を加え様とする事など絶対に許せませんの、燃え尽きるが良いですわ」
 生まれたばかりの鮮烈な炎を腹に受け、一気に燃え上がる。リビングデッドはのた打ち回りながら断末魔の叫び声を上げ、消し炭と化した。
 地縛霊一体となり、攻撃を全員で集中させる。
「人殺し……! 私の赤ちゃん返して!」
 お返しとばかりに母親の鉄槌が振り下ろされる。骨が吹き飛ぶほどのダメージを受ける入谷。
「どういう事情かは存じ上げませんが……」
 悠月は素早くゴースト治癒を発動。甘夏はアシダカの援護を行いながら叫ぶ。
「その子を手にかけたら……アナタと同じ苦しみを味わう人が出ますっ!」
 だぶん、いや少なくても、この地縛霊は自分の子供を悲しいほど、切ないほど、思いすぎているのだ。
「可哀想だと感じます。だからこそ、悲しい過去の思い、今断ち切って眠っていただきます」
 ウルリケは地縛霊の思いは受止めつつも、その感情に一切巻き込まれることなく冷静に言った。そして赦しの舞を使用。清浄なる光が辺りに降り注ぎ、毒の力を鎮めてゆく。
「お願いだから……赤ちゃんだけでも返して……!」
 能力者の攻撃を何度も受けているうちに、地縛霊は見開かれた目から血を垂れ流していた。かなりダメージが溜まっているのだろう。あと一息だ。
「人殺しぃぃ! どうして逃げるのよぉぉ!」
 その手を固く組むと、再び鉄槌を振り下ろす地縛霊。小夜に防具が砕けるほどの衝撃が襲い掛かる。
「赤ちゃんを、抱きたかった、強い思い、叶えてあげたくは、ありますけれど」
 後衛メンバーの援護射撃を利用しながら、小夜は白燐奏甲をかけつつ間合いを取る。
「もうここはあなたのいていい世界ではないですよ」
「その思い……子供のトコロへ還すために」
 火憐は退魔呪言突きを叩き込み、今日介は間合いを詰めクレセントファング。
「いゃぁぁぁぁ! 車がっ……!」
 地縛霊が悲鳴とも絶叫ともとれる声を上げる。
 悠月は辺りに漂う霊の気を集め、凝縮させる。真っ白に輝いた光は悠月の手から離れると、弾丸のように空を切り、衝撃が弾ける。
 地縛霊は倒れても、尚も人形へと激しい執着を見せる。手を伸ばし、のろのろと這いながら、まるで本当に自分の子供だとでもいうように求めていた。
「あ……赤ちゃん……私の……赤ちゃ……」
 虚しくも辿り着くことなく、地縛霊は溶けて消えてゆく。
 同時に薄暗い闇は一瞬にして消え去り、あるのは平和な住宅街と、のどかな公園の風景だけ……。
 眩しい光が目蓋を撫で、縷々はゆっくりと目を開く。目を瞬かせ、縷々はひたすら辺りを見回す。見知った風景に見知らぬお兄さんとお姉さんたち。
「こんなところで、寝ていちゃ、だめ、ですよ」
 小夜は優しく笑いかけながら、縷々に言った。
「えっ? 寝て……?」
 縷々は不思議そうに呟くと、自分が見た出来事を呟きながら再び辺りを見回す。
「真っ赤な怖いおばちゃんがいて……モモちゃん取られそうになって……それで……」
「きっと悪い夢でも見ていたのでしょう」
 甘夏はにっこり笑うと、頬に残っている涙をそっと拭ってあげた。
「大丈夫、縷々ちゃんがこれからもいい子で居るって言うならもうこんな怖い夢見ないようにしてあげる」
 來那はそう言いながら頭を撫でて、おまじないをかけてあげた。
「あー、でもモモちゃん取られなくて良かった」
 恐怖から遠ざかった現実に、少しずつ縷々の心も癒されていったのだろう。縷々は嬉しそうに抱きしめながら答えと、目に入ったものにすぐに興味を示し、
「お兄ちゃんも、モモちゃんのお友達大事にしてるんだね」
 一瞬、何を言われているのかわからなかった今日介。しかし周りの皆が笑っている様子にはっと思い出し、慌てて背中のブツを取ろうとするも、そういえばどうやって外すんだったっけと付け慣れぬ物に悪戦苦闘。
「いや、ち、違うんだ。ねぇ?」
「……や、変な人、なんて、言わない、ですよ」
 助けを求める視線を受け、小夜くすくす笑いながら下ろすのを手伝ってあげる。
「ほら、もうお昼だ。モモちゃんと一緒に家へ帰りな。お母さんが待ってるぜ」
「モモちゃん大事にね」
 魎夜がそう促すと縷々は元気良く頷き、そしてウルリケの言葉に大きく手を振りながら帰って行った。
 縷々が見えなくなると、能力者たちはその場所に人形を供え、手を合わせた。
「我が子を想う気持ちだけは本物だったかも知れませんの、来世ではお幸せになって下さいね」
 瞳亜は小さく呟く。
 いつかの自分たちも、母となり父となる日が来る。その時、もしかしたら、地縛霊の異常な執着する気持ちが少しだけわかるかもしれない。
 能力者たちは悲しみの消えた公園をそっとあとにした。


マスター:那珂川未来 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2009/12/29
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