おいしかぐや


<オープニング>


「うん。これで、全員だよね?」
 集まった面々の顔を見回すと、確認するように少年は言った。
「みんなを呼んだのは、おいらが強力な残留思念の存在を察知したからなんだ」
 かって一人の老人が家具屋を構えていたその場所は、今では焼けた建物の名残が幾つか転がっているだけの空き地になっていると言う。
「思念の時点でわかるほど強力な思念だったからね、厄介なことになる前にみんなに何とかして欲しくて呼んだんだよ」
 つまり、集まった面々で現場に赴き、残留思念に詠唱銀を振りまき、誕生したゴーストを退治してきて欲しい、とそう言うことであるらしい。
「詠唱銀を撒いて誕生するゴーストは、老人の地縛霊と翼のない雀妖獣」
 数で言うなら、妖獣五体に地縛霊が一体。
「地縛霊は、虚空から召喚した家具をけしかけてて攻撃する技が得意なんだけど……」
 コミックマスターのスピードスケッチに似たこの技には超魔炎が付与されているとのこと。
「他にも、木馬や揺りかごなんかを一時的に具現化して直線範囲の相手を攻撃する技も持っているんだ」
 こちらはナイトメア適合者のナイトメアランページの家具版と言ったところか。もちろんこれにも超魔炎が付与されているのだが。
「雀妖獣達も近接攻撃しかできないけど、その嘴でつつかれた人は炎に包まれちゃうことになるかも」
 妖獣達は地縛霊の強さと比べるならただの雑魚でしかないが、地縛霊を囲うように出現する為、初撃を地縛霊に喰らわせようとする能力者にとっては厄介な壁となるだろう。
「ゴースト達の知能は低いし、現場は人も来ない町外れだから戦いに専念してくれればいいんだけどね」
 その分強敵であるということなのだろう。
「気をつけて、無理は禁物だよ」
 釘を刺す予報士の少年に能力者達は頷くと、教室を後にした。

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参加者
防人・雷(月下に佇む天狼の王・b22355)
サラ・モラトリアス(日陰の眠り姫・b36309)
ネイ・マーブル(闇のパープルアイ・b37157)
氷柱・六花(高校生雪女・b45346)
琴吹・紗枝(青空駆ける春一番・b49528)
神原・マキ(深山育ちの鬼げんこつ・b54363)
黒月・紅夜(黒影赤刃・b54679)
成海・雪隆(紅鴉・b63339)



<リプレイ>

●焼け跡にて
「はわ、老人の地縛霊と雀妖獣の退治ですか」
 サラ・モラトリアス(日陰の眠り姫・b36309)は思わず周囲を見回した。ネイ・マーブル(闇のパープルアイ・b37157)が心中で評した「昔話に出てくるような取り合わせ」のイメージとはかけ離れた光景が広がっていたのだ。勿論、残留思念のある場所なのだから仕方ないのかもしれない。
(「新年早々厄介な相手みたいだなぁ……」)
(「雀に羽根がないのは家具店に何か関係あんのかなぁ?」)
 黒月・紅夜(黒影赤刃・b54679)が胸中でぼやき、成海・雪隆(紅鴉・b63339)は首を傾げる。目の前に広がる光景に家具店の名残はほとんど無く、炭化した柱の残骸が所々で空に向けて控えめな自己主張をしているぐらいだった。もちろん、立っている残骸が全てという訳ではないが。
「これも、足を取られたら危ないですよね」
 転がっていた黒い塊を拾うと、氷柱・六花(高校生雪女・b45346)は空き地の片隅へと置いた。
「むぅ」
 琴吹・紗枝(青空駆ける春一番・b49528)が小さく唸る。
(「思念で判るほど、なのかぁ……」)
 運命予報士の説明を思い起こしつつ目を向ける先には灰や炭、燃え残った家屋の一部らしい物が残っていた。
(「何があったんだろうね、ここで。建物が焼けてるって辺りがなーんか気になるんだけどなぁ」)
 だが、焼け残った名残も胸中の疑問には答えてはくれない。
(「こんな所に残留思念が凝り固まっていたんだな……」)
 神原・マキ(深山育ちの鬼げんこつ・b54363)は巡らせた視線を足元に止めるとすっと屈み込んで家具の一部だったらしい板きれを拾い上げる。煤に汚れた板に彫り込まれていたのは、包装紙に包まれたあめ玉やチョコレート。子供向けの家具だったのか。
「今でさえ強力な残留思念を放置して手の付けれねぇモンになっちまう前に確りと散らしておかねぇとな……」
「だな」
 薄汚れた板をそっと邪魔にならない場所に移すと、防人・雷(月下に佇む天狼の王・b22355)の声にマキは頷く。人気のない町だとしても放置すればいずれ犠牲者が出るかもしれない。そう理由を補足したのはネイだが、能力者達のすべき事は決まっていた。
「皆さん頑張りましょうね」
「ですねぇ、ここでしっかり退治しておきましょぉ」
 激励に同意の言葉が返り。
(「まぁとりあえず、このまま放ってはおけないんだし……」)
(「何はともあれ……」)
 幾人かの巡らせた視線が、仲間のそれとぶつかって。
(「頑張ろっか!」)
(「気引き締めてかねぇとな!」)
 布陣を終えた能力者達はイグニッションカードを手に叫んだ。
「防人さん、出現するゴーストには気をつけて!」
「おぅ」
 片手を上げて応じながら雷は思念の上に詠唱銀を振りかける。
「火事に縛られたその想い俺たちがきっちり断ち切ってやるぜ」
「チチチッ」
「天狼よ……目覚めろ」
 光のオーラを身に纏い、仲間達の元へと飛びずさるように後退しつつも向けた視線は生まれ出でたゴースト達に向けられていた。こうして戦いは幕を開けたのだ。

●家具は燃えて
「さーて……おじいちゃんも色々言いたい事はあるだろうけど、とっちめさせてもらうから覚悟、だよー!」
 紗枝は文字列を浮かび上がらせた瞳をゴースト達へと向け、口を開く。同時にマキが前へ飛びつつ深呼吸を行い。
「来い」
 自己強化を終えて目を見開き、視界にゴースト達を捉えつつ、耳に聞こえる風切り音は紅夜の長剣が唸り声。ライカンスロープにラジカルフォーミュラ、森羅呼吸法と旋剣の構え。
「オォォ」
 自己強化を並べ、迎え撃つ構えを見せた能力者達に虚ろな視線を向けつつ、老人の形をしたものは手をかざす。呼び出されたのは木の温かみ溢れる一竿のタンス。一瞬そう見えた四角い物体は急に燃え上がると炎を纏ったまま雷へと飛びかかる。
(「やはり強敵ですね」)
 けしかけられたタンスはかざしたナイフに軌道をそらされ、威力を大きく削がれては居たが、狙った相手が悪かった故なのだ。同じモノが六花に向けられていれば、どうなっていたか。
「氷雪よ、我が身を守る鎧となれ……」
「皆様に護りの障壁をですよぅ」
 六花は雪だるまの鎧を身に纏いつつ前方を見据え、サラも幻夢のバリアを展開して仲間達を包み込む。ゴースト達の攻撃はまだ終わらないのだ。
「銀撒く前にやれりゃいいのに、上手くいかないもんだぜ」
「チチッ」
 雪隆が祖霊降臨で自己強化をする間も雀妖獣達は体勢を低くし、飛びかかる準備を整えていて。
「先制攻撃ですぅ!」
 ネイの先制攻撃はギリギリのタイミングで間に合った。巻き起こった上昇気流は翼のない妖獣一体を持ち上げ、翼のない身では味わえない高さを一瞬だけ堪能させた後、地面へと放逐する。
「ヂュッ」
 苦痛の悲鳴か怒りの咆哮か、一声鳴いたのを合図とするかのように妖獣達は反撃に出た。まるで熱された金属であるかのように赤く変色した嘴を突き込み、能力者達はそれを時にはかわし、時には手にした詠唱兵器で受けとめる。
「熱ッ」
 まぁ、全てが全て防げる訳ではないようだったが、地縛霊の攻撃でない分マシと思うべきか。
「月の牙よ……禍を断て!」
 攻撃に態勢を崩した妖獣の胴へと蹴撃による三日月が刻まれて。
「紅夜センパイ」
「任せとけ」
 跳躍しつつマキが向けた声に、回転動力炉を掴みながら紅夜は答えた。
「あなた方の炎と私の氷……、どちらが上か見せてあげますわ!」
 六花の巻き起こした竜巻が吹雪を纏い荒れ狂う中で、具現化した炎を宿す双爪は白の中で赤く。獣が獲物を捉えるかのように叩きつけられた双爪に燃え上がった雀妖獣が、仲間の拳に貫かれ、崩れ落ちる様を紗枝は見ていた。
「まずは一体、だね」
 丁度紅夜の反対側から螺旋状のプログラムを纏った拳を突き込みながら。確かに、敵の数は減っていた、ただし、幾人かの能力者は代償をおって。
「来ますよぉ!」
 ネイの警告に幾人かの能力者が反応した時、地縛霊は代償を負った能力者の一人へと視線を向けていた。
「くっ、よりによって」
 デッドエンドの反動を受けたままの紅夜に向けて燃えさかる揺りかごが疾走する。あがった悲鳴が一つであったのは、範囲攻撃を警戒し布陣した賜物。
「赦し払い清め給え」
 すかさずサラが赦しの舞を踊り、技の反動が舞に込められた祈りに消えるが、身を包む炎を消すには至らない。
「これで、どうだぁっ!」
 もっとも、雪隆を含めた二度にわたる舞ですら消すことが出来ぬほど強固な炎ではなかったようだが。
「チチッ」
 妖獣が再度鳴き、数を減じた妖獣達は再び反撃に移った。突如割り込んだ上昇気流に一体が足を止められたものの、残る妖獣達は立ちふさがるの能力者達をついばむべく飛びかかり、詠唱兵器の刃とぶつかった嘴が甲高いを立てる。
「次はこちらの番だ」
 二振りのナイフで嘴を受けとめた雷はそのまま身体を横に流して地を蹴り、素早いフットワークで妖獣達を翻弄すると、上昇気流に傷つけられた妖獣を狙い、二度目のクレセントファングを放った。
「オォォ」
 妖獣の口から悲鳴が上がり、つられるように地縛霊の視線は能力者達を撫でつつ動く。
「家具は投げるもんじゃねぇぞ……っ!」
 一応抗議してみたが地縛霊は雪隆の声に耳を貸すこともなく、呼びだした勉強机をけしかける。マキの反応速度を凌駕する瞬発力。別段瞬発力に特化していないというのであれば、地縛霊の実力が相当なものなのであろう。
「ねりゃぁ〜〜!」
 マキは気合いと共に地を蹴り、振り上げた両腕の獣爪に炎を宿す。
「砕け散れぇぇー!」
 だからこそ、妖獣を早く片付ける必要があるのだ。
「わり、ちと下がる。すぐ戻るかんな」
「いま癒して差し上げますわ!」
 マキの紅蓮撃に乗じて消耗した味方が後退し、六花の符も仲間を癒すべく放たれて。
「ん、終わりだよ」
 紗枝の繰り出した拳は恐ろしく綺麗に妖獣の身体を貫いていた。至高の一撃に乗った詠唱停止プログラムが機能する間もなく、トドメを刺された妖獣は倒れ伏し、消滅して行く。それが二体目の妖獣の最後だった。

●執念
「土蜘蛛様の御加護をですよぅ」
「大丈夫か? 頑張れ!」
 サラの呼びだした土蜘蛛の魂が、家具に傷つけられた仲間の傷を癒し、雪隆の舞は技の反動と身体を焦がす炎を消して行く。
「チチッ」
「させないよぅ!」
 数を減らしつつも、一矢報いようとする妖獣の一体が上昇気流に足元を掬い上げられ、横を抜けた二体の雀妖獣は赤熱した嘴の贄を求めて灰混じりの砂を蹴る。
「むぅ、しつこいなぁ」
 繰り出された嘴から身体を傾けつつ身をかわして紗枝は唸った。妖獣は妖獣で眼前の敵を倒そうと必死なのだろうが。
「喰らってやる義理はないな」
 ポツリともらし、雷は行くぞと仲間達へ声をかける。連携で攻撃をしかけるのに拒否する理由はなく。
「琴吹さん、もう少し右へ、そこは危険です!」
「ぁ、そう?」
 別方向からかけられた六花の声にも応じつつ、集中攻撃に三度目の断末魔が上がった。
「オォォ」
「くっ」
 地縛霊が燃え上がる木馬を疾駆させたのは四人の連携が三体目の妖獣を倒した直後。それでも二人ほど木馬に蹂躙されたが、流石にこれは仕方ない。三人が二人で済んだのだ、アドバイスは功を奏したと言えるだろう。
「ここが頑張りどころなのですよぉ」
「このまま霊も倒して、皆無傷で帰ろうな!」
 サラ達二人がかりの赦しの舞が炎を消して、雀の復讐が再び始まり。
「一旦下がったほうがいいんじゃないか? 少しくらいなら持ちこたえるんで回復してきなって」
 傷が癒え、前線に復帰した紅夜は回転動力炉を掴みながら木馬に轢かれた仲間へと声をかける。残された妖獣は二体、内一体はネイが起こした上昇気流に弄ばれ、空中に浮いていた。確かにこの状況であれば再び前衛が一人欠けたとしても戦況には響かないだろう。
「いや、この程度であれば」
 何ら問題ないと雷は首を横に振り、光のオーラを身に纏う。
「でしたらせめてこれを」
「これで打ち止めだよ!」
 六花の手から符が飛び、詠唱兵器のパーツを纏った腕に殴られ怯む妖獣へと紗枝は最後のデモンストランダムを叩き込む。
「オオォ」
「また来ますよぉ!」
 その二撃で妖獣が倒れたかを確認する間もなく、燃える木馬が戦場を駆けた。戦場に再び炎が咲いた。
「燃えろぉぉ」
 そう、能力者を糧としてではなく、能力者の手にした詠唱兵器へと。命中精度の低い範囲攻撃を連発したことが失敗だったか。何度も放たれれば回避されても仕方はない。回避の為低くした体勢から一転跳躍し、躍りかかるように振り下ろした一撃が、妖獣の頭を叩きつぶす。
「もう一息ですよぉ」
 仲間に祖霊降臨を施しながらサラが言う通り、妖獣は一体しか残っておらず、残る一体も倒れるのはもはや時間の問題だった。
「そろそろお終いだぜ」
 数秒後、最後の妖獣を獣のような姿勢から放った衝撃波で吹き飛ばした雪隆は老人の地縛霊へ目を向け言った。幾ら強力な地縛霊とは言え、八人の誰一人欠けることなく立ち向かうことが出来るのだ。
「疾き風を纏いて響け……天狼の咆哮よ!」
 十字架型の模様が老人の身体に放たれ、連続して弾丸を撃ち込む音が轟く。
「ボク達も行くよ」
 地面を蹴った紗枝が素早いフットワークで地縛霊を翻弄し、紅蓮撃に燃え上がった地縛霊の身体へと三日月を刻み込む。
「オォォ」
 連続で身に叩きつけられた攻撃に蹌踉めきつつも、老いし家具屋の姿をとどめたそれは虚空から家具を呼び出し、応戦した。
「ボクだって負けませんよぉ!」
 ネイの起こした清らかな風が、燃える家具によって受けた炎をかき消し。
「治癒符でしたらまだまだありますわ」
 六花が符によって傷を癒す。地縛霊には能力者達と違って傷を癒す術がなく、壁の役割を果たしていた妖獣達ももはや存在しない。
「オォォ」
 傷つき、追い込まれながら虚ろな目は何を見ているのか。三度目のクロストリガーに踊る老人は、皮肉にも身を焦がす炎に最後の力を焼き尽くされ、糸が切れたように崩れ落ちると光の粒と化して霧散して行く。
「こンな場所で迷ってねぇで逝っちまいな……縛るモンはもうねぇンだからよ」
 雷は地縛霊の最期を見届けると、冥福を祈りつつ呟いて背を向けた。戦いは終わったのだ。

●祈りを餞に
「はぅ、皆様お疲れさまでしたよぅ。皆さんご無事でよかったですよぅ」
 労いの言葉を口にしながらサラは安堵の息をつく。強敵ではあったが、あくまで力を最大限に発揮できればの話。三重の対策を備えた能力者達が相手では相手が悪かったのかもしれない。
「これだけ炎まみれで攻撃してきたって事は、死んだ時の火事がそれだけ苦しかったって事かな……」
 雪隆の地面に落とした視線が転がっていた木片に止まる。
(「雀もきっとその時の火事で焼けちゃったんだよな……」)
 半ば炭と化した木片は何も答えない。
「はぅぅ、よほど無念だったのでしょうねぇ……」
「んー」
 しんみりしつつ俯くサラの横で、紗枝は唸り。
(「ここで何があったかは気になるけど……まぁ気にしても仕方ない、かぁ」)
 とりあえず疲れたし帰ろうっと、と踵を返す。確かに、何があったかを知る術は残されていないのだ。割り切るのも手かも知れなかった。
「皆まとめて、ちゃんと上に行けたかな。……今度こそゆっくり休めるといいな」
 雪隆は空を仰ぎ、ネイの供えた線香の煙がたなびく向こうに飛翔するカラスの姿を見た。
「さ、じゃあ帰ろっか」
 もはやこの場に留まる理由はない、促されるように能力者達は帰路へとつく。想いの解き放たれたこの地を後にして。
 


マスター:聖山葵 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/01/09
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