夜を歩くモノ


<オープニング>


 午前を過ぎてようやく残業を終え、帰路に着いた男は、寒々しい空気に身を震わせながら歩いていた。冬の寒さだけでなく、説明しがたい理由で寒さを感じていたのだ。急ぎ足で歩く男の前に、男女取り混ぜ10人程度の集団の姿が見えてくる。人の姿に一瞬ほっとした男は、次の瞬間息を呑んだ。
 街灯の下でくるりと振り向き、男に気付いたのはリビングデッドの集団だったのだ。光に映し出されたその肌は明らかに腐敗し、一部には骨も見える。腐臭を漂わせたリビングデッド達は、男を襲うべく次々向きを変え、走り出した。
 逃げようとした男は、あっと言う間にリビングデッドに囲まれる。ほどなくして、アスファルトには暖かな血と息絶えた男の身体が残された。リビングデッド達は次の獲物を探すべく、移動を始める。
 そんな深夜の惨劇を隠すかのように、月は雲に隠されていた。
 
「みんな、急ぎの仕事のお願いだよ!」
 長谷川・千春(高校生運命予報士・bn0018)は能力者達を前に、きっぱりとそう言った。
「この前の吸血鬼艦隊との戦いで、討ち漏らした原初の吸血鬼の一部がね、九州の地方都市に現れたんだよ。目的は解らないけど、体内からゴーストの群れを解き放って、町を破壊しようとしてるんだ。今回はみんなに、町の破壊に向かったゴーストの迎撃を頼みたいんだよ」
 千春はそう言うと、能力者たちを見回した。
 
「相手はリビングデッド10体なんだ」
 男女入り混じり、リーダー格となるリビングデッドが1体いるが、現時点ではどのリビングデッドがリーダー格かは解らないと千春は言う。
「ただ、リーダー格のリビングデッドを守るようにして他のリビングデッドは戦うから、戦闘中にリーダー格の判別はつくと思うんだよ」
 リビングデッドが使う能力はそれぞれが手に持ったナイフで、魔氷を宿した近接攻撃と、武器を構える事で回復と攻撃力を引き上げる物。もちろん、能力を使わない近接攻撃も行ってくる。動きも素早いのだと千春は続けた。
「大変な相手かもしれないけど、大丈夫、きっと何とかなるよ!」
 千春は能力者たちに笑顔を向け、きっぱりとそう言った。

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参加者
蒼穹・克(全てを包む蒼空の様に・b05986)
天皇・藍華(白獣邪鬼華・b17830)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
静家・秋吉(永遠の守り手・b35169)
シャレル・マリア(紅暁の娘・b37076)
紫之宮・真(高校生土蜘蛛の巫女・b54552)
度会・静佳(君影草・b61276)
黒鉄・榊(布術闘士・b61612)
御社・燕馬(無免許断罪人・b61800)
志方・綾(白なる雪を紡ぐ者・b71775)



<リプレイ>

●歩くモノ
 現地に向かった能力者の内、数名はある戦いに思いを馳せていた。今回能力者達が相手取るリビングデッドは、原初の吸血鬼に関わるモノだからだ。
 並んだ能力者達の後ろを歩く天皇・藍華(白獣邪鬼華・b17830)は、常に周囲へ警戒の視線を向けている。どうやら、意識しての警戒ではないらしい。
 紫之宮・真(高校生土蜘蛛の巫女・b54552)は自らの使役ゴースト、真モーラットピュアに立ち位置の指示を出す。真の行動に気付いた藍華は、彼と同様に自らの使役ゴースト、ケルベロスオメガに立ち位置の指示を出した。
 九州へ足を運ぶのは何度目だろうと、志方・綾(白なる雪を紡ぐ者・b71775)は考える。
「何を考えてるかは知らないけど、街や人を蹂躙するつもりなら許さないよ」
 表情をきりりと引き締めて呟くシャレル・マリア(紅暁の娘・b37076)は、人狼騎士として、原初の吸血鬼のこの行いを許す事は出来ないと考えている。
「ゴーストの殲滅こそが犠牲者への餞別。必ず、スパイシーに打ち倒しましょう」
 そう呟くのは蒼穹・克(全てを包む蒼空の様に・b05986)。スパイシーの出所に疑問を抱く者も多いだろうが、そこはそれ。多分カレーから来ているのだと思われる。
 黒鉄・榊(布術闘士・b61612)は小さく息を吐いた。リビングデッド達により、既にその命を落とした者を思っての事だろう。騒がしいのを好まない榊は、リビングデッド達をさっさと止めようと心に決める。榊の隣には、藍華のケルベロスオメガが歩いていた。
 先日の戦いの後始末としても、すっきり片付けたいと御社・燕馬(無免許断罪人・b61800)は考える。
「これ以上、何も知らない一般の方が被害にあう前に、絶対に止めなくてはなりませんわ」
 九州に足を運ぶのは4度目となる、度会・静佳(君影草・b61276)。今度こそ、原初の吸血鬼に関わる戦いを終わりにしようと、気を引き締めている。静佳の隣には真の真モーラットピュアがいた。
「……リビングデッドに縁がありますねぇ」
 肩をすくめるようにして呟く、伊藤・洋角(百貨全用・b31191)。出来るだけ早急に撃破、後顧の憂いを絶ちたいと考え、この場に臨む。
 大鎌を手にした静家・秋吉(永遠の守り手・b35169)は被害を拡大させない為にも、全力で挑もうと気合を入れていた。
 前衛が緩やかな弧を描くように並び、後衛はその後ろに立つ。能力者達は初めからほぼ陣形を整え、リビングデッド達との距離を詰める。
 原初の吸血鬼に関わるこの戦いを、出来うる限り最小の被害で。そして、1体も逃さずに戦いを終えようと能力者達は臨んでいる。藍華は周囲の地を白燐蟲の光で照らし、燕馬もまた暗闇の存在を呪い否定する事で明かりを灯す本業能力を使い、光源の確保を行う。戦場の準備が整ったところで、戦いの火蓋は切って落とされた。

●開戦
 距離を詰める能力者達に対し、先に攻撃を掛けたのはリビングデッド達の方であった。能力者達の姿に気付いたリビングデッド達は立ち位置の関係上、彼らに最も狙いやすかったシャレルと秋吉を対象に定め、攻撃を掛ける。最も、一丸となって立つリビングデッドは6体が前に立ち、4体は後方に立っていた。その為、実際にこの時攻撃を仕掛けてきたのは、6体のみ。2人が一度に総攻撃を受けずに済んだのは、運がよかったと言えよう。
 武器に氷を具現化し、リビングデッドは次々に向かってくる。2人に放たれた3度ずつの攻撃は、その全てを避ける事が適わず、一気に深い傷と魔氷のダメージを与えた。
「さぁ、凍り付きましょう」
 他者を癒す術を持たない綾は、そう呟きながら、氷雪に満ちた竜巻を起こす。綾の攻撃にタイミングを合わせ、洋角は自らの武器へ黒燐蟲を纏わせ、攻撃力を引き上げる。
「夜も更けた。もう、永眠する時間だぞ」
 2振りの日本刀、呪言刀『斬神』と鉛刀『鈍』を振るう燕馬は、そう言いながらもっとも手近な位置にいたリビングデッドへ切りつけた。
 続けて後方に立つ真が古の時代に在った土蜘蛛の魂を呼び寄せ、シャレルが持つ長剣に宿らせる。シャレルの攻撃力は増し、受けた傷は幾分癒された。真にあわせて行動を開始した真モーラットピュアは秋吉の元へ行き、傷を負った彼を癒す。真の行動にあわせるように、静佳は超常的な力を消し去る、アビリティの霧を生み出した。
 シャレルは負った傷を癒し、攻撃力を上げる為に、狼のオーラを纏う。
 藍華は裂帛の気合と共に白燐蟲を解き放ち、彼女の攻撃と共に、ケルベロスオメガが背中に搭載されたブラックセイバーでリビングデッド達を傷つけて回る。
「撃ち貫け……!」
 藍華の攻撃タイミングにあわせ、自然のエネルギーを体内に取り込み、衝撃波として放つ榊。
 克は自らの体内に眠る「気」を、爆発的に覚醒させる。
「戦いに集中しないとな。……よし、行こう!」
 克と同時に動いた秋吉は、小さく呟く。そうして心を無にし、大自然の息吹を感じながら深呼吸をする事で、己の肉体を大幅に強化した。

 一度目の能力者達の攻撃を受けたリビングデッドの内、深い傷を負ったのは1体のみ。その1体は後ろにいた、傷の浅い1体と位置を変わり、構えを取る事で受けた傷を癒す。再び6体並んだリビングデッド達はナイフに氷を具現化し、手近な能力者や使役ゴーストへ攻撃を掛けた。
 今回狙われたのは静佳と榊、そしてケルベロスオメガ。しかしリビングデッドの攻撃威力は、シャレルと秋吉が最初に受けた物に比べ、減退した物が明らかに多い。静佳の使った魔蝕の霧の効果が出ているのだろう。
 能力者達は敵を塀へ追い詰め、逃げ道を塞ぐように陣形を整える作戦を取っている。後衛に着いた者はリビングデッドを己の攻撃範囲内に収める為に、攻撃を諦めて移動する場面もあった。彼らが移動を行う際は、様子を見るのみで攻撃出来ず。移動の際に回復や強化を選ぶ事もあったが、仕方がない事とは言え、なす術がなく歯がゆい思いをする事もあった模様。
 攻撃を掛ける位置を調整し、吹き飛ばし効果があるアビリティも使用する能力者達。彼らは攻撃を繰り返しながら、リビングデッド集団の逃げ道を塀で塞ぐ陣形を整え、本格的な殲滅行動に移行した。

 リビングデッド達は、立ち位置を交代しながら受けた傷を癒し、回復しては前に出て能力者達を攻撃する。だが、1体だけ。どれだけ傷が浅くとも、前に出てこないリビングデッドがいた。
 リビングデッドの動きを注意深く確認していた燕馬は、いち早く前に出てこないリーダー格のリビングデッドに気付く。
「そこを、動くなッ!」
 呪いの言葉を放ち、リーダーと思わしきリビングデッドへ傷と麻痺を与える燕馬。
「染みいる冷たさは如何ですか?」
 リビングデッドへそう声をかけた綾は、何度目かになる氷雪に満ちた竜巻を起こし、敵を傷つける。洋角は黒燐蟲の群れで出来た弾丸を放ち、リビングデッド達の中心で爆発させた。燕馬と同時のタイミングで攻撃を行った綾と洋角は、リーダー格のリビングデッドを狙うまでの攻撃は出来ない。しかし、続けて攻撃を掛ける能力者達は、判別したリーダー格と思われる個体への集中攻撃を開始した。
 真はリビングデッド達からの攻撃で魔氷のダメージが蓄積された能力者達を癒すべく、清らかな祈りを込め、神聖な舞を踊る。真モーラットピュアはリビングデッド達の下で火花を散らし、数体へダメージを与えた。
 前方に大きな霧のレンズを出現させている静佳は、麻痺で動けずにいるリビングデッドへ、日本刀に似て反りの軽い片刃の硝子刀を振るう。
「逃がさないよッ!!」
 リーダー格のリビングデッドへ近づく為には、邪魔になるリビングデッド。気合の入った声色で言いきり、シャレルはスライディングで敵に接近し、低い姿勢から全身の力を振り絞ったアッパーを放つ。
 何度か攻撃を受け、浅い傷をそのままにしている克の武器へ、藍華が白燐蟲を纏わせて傷を癒し攻撃威力を引き上げる。ケルベロスオメガはリーダー格のリビングデッドへ炎を飛ばし、更に傷を深めた。榊は青龍の力を拳に込めて、手近なリビングデッドへ攻撃し、連携の効果を得る。
「この闇の手から、逃れられると思うなよ!」
 大鎌を振るう秋吉は、自らの足元から腕の形をした影を、弱りつつあるリーダー格のリビングデッドへと伸ばす。
「甘いですね」
 大地を踏みしめる極基本的な動作を使い、呼気により練り上げられた気によって、周囲に強烈な衝撃波を放つ克。その攻撃は克の傍に位置取っていたリビングデッド、3体を吹き飛ばした。

●夜に消える
 能力者達の攻撃で深く傷を負ったリビングデッドのリーダーは麻痺が解けたらしく、ナイフを手に構えて自らが受けた傷を癒す。リビングデッドはここまでの能力者達の攻撃で、その数を既に半数まで減らしていた。受けた傷を癒さんと、前衛でナイフを構える個体は3。攻撃を行う為にナイフを構えたリビングデッド1体は洋角に狙いを定め、ナイフに氷を具現化して襲い掛かった。
 攻撃の可能性を読み、身構えていた洋角。彼は湊洋江と銘のついた飾り気のない長剣と銘のない長剣、それに髪手の銘を持つ呪髪を使う事で、リビングデッドが振るったナイフの起動を逸らしてガードする。
 
「冷たくしてさしあげますよ」
 綾は美しく冷ややかな手向けの花、氷華葬を飛ばす。その攻撃対象はリーダー格のリビングデッドだ。燕馬も麻痺の解けたリーダー格のリビングデッドへ、続けて呪いの言葉を放ち、深い傷と麻痺を与える。先ほどは敵の攻撃を受け流した洋角は、、威力を増した武器を振るい、眼前のリビングデッドを切り伏せた。
 真は魔を打ち滅ぼす聖なる矢を作り出して飛ばし、真モーラットピュアは最も手近なリビングデッドへ攻撃を掛ける。静佳が眼前の大きな霧のレンズを通して行った攻撃は、リーダー格のリビングデッドを倒し切るに充分な威力を備え。その偽りの命を終わらせる。
 残るは雑魚と呼ぶに相応しい、リビングデッド3体。
「原初の吸血鬼の置き土産なんかに、負ける人狼騎士じゃないんだぞー!」
 三日月の軌跡を描く超高速の蹴りを放ち、1体を倒したシャレルは、リビングデッドの使う攻撃に複雑な表情を浮かべている。敵の攻撃がクルースニクの使う、アビリティの一つに酷似していたからだ。羨ましくなんかないと呟くシャレルの言葉には、その本心が充分に現れていた。
 藍華はケルベロスオメガへ白燐蟲を纏わせて攻撃力を引き上げ、ケルベロスオメガは眼前のリビングデッドへ鋭い牙を立てて傷を深める。榊は激しく回転しながら攻撃を受けたばかりのリビングデッドに向かって突撃し、連続の蹴りを放って倒す。
「黒き炎を纏いし剣の切れ味、試してみるか!?」
 そう言って闇のオーラを纏いながら、最後の1体となるリビングデッドへ切りつける秋吉。同じタイミングで克は激しく回転しながら残り1体へ向かって突撃し、連続の蹴りを放つ。2人のタイミングがあった攻撃を受け、最後のリビングデッドもアスファルトに倒れ伏した。

「これで全員倒したかな」
 リビングデッドが折り重なり、動かない様子に視線を向け、榊は言う。残る死体に視線を向けた燕馬は、この多さを考えると埋葬は出来ないだろうと判断する。
「……これが、選択の結果」
 葛藤はあれど、追先ほど命を落とした者も含めて、どうする事もできない。この出来事を引き起こした選択を思い、燕馬は己の胸の内に深く刻む。
「守る事が出来ず、ごめんなさい……。どうか、安らかに……」
 目を伏せるようにして、綾は呟く。真は深く息を吐き、少しは憂いが晴れたでしょうかと小さな声で零す。能力者達が駆けつける前にその命を落とした者へ、シャレルは静かに黙祷を捧げた。
 能力者達の怪我の状態を確認し、必要に応じた治療を行う静佳。洋角は他の依頼を受け、同様に戦っているはずの能力者達の成功を祈る。
 空には厚く雲がかかり、月の姿も見えないこの夜。彼らは仕事を終えた地を後にし、元来た道をたどる様にして、帰路に着いた。


マスター:月草 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/01/27
得票数:カッコいい17  知的2  せつない1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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