水晶の夜


<オープニング>


 深夜。
 月明かりはなく、街は静けさに包まれていた。
 ――ガシャーンッ!!
 その静寂をぶち破ったのは、ガラスが砕けて崩れ落ちる様な大きな音。
「わー、キラキラして綺麗! 皆、もっともっとやって!」
 飛び跳ねはしゃぎながら言うのは、ワンピースを纏った桃色の髪の少女。
「オッケー姉さま、アタシ達に任せて!」
「姉さま、これもやっちゃいましょ」
 ――ガシャーン! パリィン!
 そして少女の言葉に従い、店頭のショーウィンドウから止めてある車両の窓、ミラーまで手当たり次第に粉々にしてゆく女達。
 思わず見とれるような美女ばかりが10人と言う奇妙に華やかな集団だが、彼女らが闊歩した跡には、道一杯に散らばるガラス片。
 それらがまるで水晶のように、キラキラと輝いていた。

「緊急事態よ。ええまぁ、あなた達を呼ぶ時は大体緊急事態なんだけどね」
 柳瀬・莉緒(中学生運命予報士・bn0025)の話によると、吸血鬼艦隊との戦いで倒しきれなかった原初の吸血鬼のうち一部が、九州の地方都市に出没したのだと言う。
「現れた吸血鬼達は、体内からゴーストの群れを解き放って、街を破壊しようとしているわ。吸血鬼の狙いはまだ解らないけど、とにかくこれを見過ごす訳にはいかないでしょ?」
 街を我が物顔で行進しているゴースト達を、迎撃・殲滅して欲しいと莉緒は言う。

「敵の数は全部で10体。大通りをゆっくりゆっくり進んでるわ……と言うのも、彼――彼女らは、ガラスや鏡みたいなキラキラした物を壊して撒き散らしながら進んでるの」
「何か不良とか暴走族みたいね……」
 ぼそりと感想を口にするのは速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)。
「リーダーは桃色の髪をしたリリス。彼女に従っているのが4体のリリスと5体のリビングデッド。どういう訳か女性ばっかりね」
 彼女たちを出来れば殲滅。1、2体程度なら逃げられてしまっても仕方ないが、少なくともリーダーを含む大半を退治して欲しいと言う事らしい。
「これ以上街を破壊させる訳にはいかないもんね」
 戦闘により多少被害が広がる事は仕方ない。彼女たちを放置すれば際限なく被害が出てしまうのだから、それよりはマシだ。

「リリスが多いから、見とれたり口車に乗せられたり、油断したりしちゃダメよ。解った? いや、解ってるなら良いのよ……頑張ってね」
 かくて、能力者達は街を破壊するゴースト集団を迎撃するため、戦地へと赴くのだった。

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参加者
ユーリリア・イセンガルド(ラジカルディザスタ・b22726)
池田・勇人(デッドマン・b44604)
山崎・ましろ(凍れる花冠・b45247)
小鳥遊・アリサ(翼になりたい・b51367)
桐真・響(アゲート・b56476)
カメリア・ダイヤモンド(てんてん天下の超正義・b59873)
雪野・葵(雪の守護者・b62878)
彩樹・月夜(月下陣風・b68731)
NPC:速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)




<リプレイ>


 ――ガシャン! カシャーン!!
「皆、もっともっとー!」
 光を反射するありとあらゆる物が彼女たちの手で砕かれ、路上にぶちまけられる。
 桃色の髪をしたリリスは、それらの破片が煌めく都度、歓喜し手を叩く。
「姉さま、良い物見つけちゃったー」
 手下と思しき別の少女達がどこからか持ってきたのは、大きな姿見。
「んー、それ良いかも! やっちゃお!」
 少女達が鏡を高く持ち上げ、地面に叩き付けようとした……丁度その時。
「そこまでだ、お前達」
 彩樹・月夜(月下陣風・b68731)の凛と響く声が、リリス達の跳梁を制止する。
「街を破壊しまくっちゃってまぁ……」
 死体よりはガラスの方がまだマシだが、呆れ気味の小鳥遊・アリサ(翼になりたい・b51367)。
「ガラスは後片付け大変なのですよ。そりゃ、私もキラキラは嫌いじゃないですけども、こんなキラキラはごめんこうむるのです!」
 次いで、ぷんぷんと怒った様子で言うのは山崎・ましろ(凍れる花冠・b45247)。
「貴方達のキラキラの旅はここが終点なのです。覚悟するのですよー!ミ☆」
 と、流れ星的な物を飛ばしながら言い放つユーリリア・イセンガルド(ラジカルディザスタ・b22726)。
「何なのアンタ達。私のキラキラを邪魔すると、怒っちゃうよ!」
「そうだそうだ! 姉さまを怒らせると怖いんだからね!」
 負けじと言い返してくるリリス達。
「きらきら綺麗なものが好きなら、土産物屋で売ってる屑水晶でも眺めてればいいんだよっ!」
 彼女たちの脅しを物ともせず、びしっと言い返すカメリア・ダイヤモンド(てんてん天下の超正義・b59873)。
「えー、何それしょぼそう。私達なんか町ごとぜーんぶキラキラにしちゃうんだもんね! 名付けて『町中キラキラ大作戦』だよ!」
(「紳士の俺にとって今回は、色んな意味で苦戦しそうだな……」)
 内心複雑な思いの池田・勇人(デッドマン・b44604)は、リーダーと思しきリリスにゴーストチェイスの刻印を付ける。
 どういう訳か、今回男子は彼だけと言う偏りっぷりだ。
「あんなバカっぽいリリスに魅了されたくは無いわね。締まっていきましょ!」
 こちらもやや呆れ顔の速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)。浄化の風の準備は万全だ。
「これ以上暴れさせて被害を出す訳には行きません」
 普段は柔和な雪野・葵(雪の守護者・b62878)も、町を破壊する悪逆の敵を前に表情を引き締める。
「うん、年を跨いでまでの埃はすっきり掃除しちゃおうか!」
 去年から続く、一連の吸血鬼達と銀誓館の戦い。終焉へと近づけるべく身構える桐真・響(アゲート・b56476)。
 街を蹂躙する小悪魔達を前に、彼らの戦いが始まる。


「夫人は前衛の皆さんの援護をお願いしますです」
 ましろは真ケットシー・ガンナーの玉泉華夫人に指示を出しつつ、自身の身体に雪の結晶を纏わせ鎧を形成させる。
「これ以上の暴挙は私たちが必ず食い止めて見せるのですっ!」
 宣しながら前に出るユーリリアの瞳に、無数の文字列が浮かぶ。
「あははっ、なんだか本気みたいだよこの人達」
「笑っちゃいますね姉さま。ここは私達にお任せをっ」
 配下のリリスがジワジワと押し出し、リビングデッドらがそれに従う。
 戦場は見通しの良い直線道路であり、ほぼ真正面から間合いを詰めてゆく両軍。
「もっと綺麗な事をするか? 倒れ散る自分自身でな!」
「数はほぼ同じ……回復役はいるのかな」
 西洋の墓石を模したパイルバンカーを回転させつつ、前へ出る勇人。響もこれに続き、高速演算プログラムを発動させる。
「シャロムは前、あたし達は後ろで援護頑張りましょ」
「OK、実力は私達の方が上だって事を教えてやるわ!」
 真ケットシー・ガンナーのシャロムを前衛に立たせ、自らは仲間の援護に備えるアリサ。めぐるも自信ありげに言いながら、アリサの詠唱銃へ黒燐蟲を纏わせる。
「正義は必ず勝つってこと、教えて上げるよっ!」
 正義の味方、カメリアも必勝を信じて疑わない。
「進ませんぞ。これ以上はな」
「人々も傷つけさせません」
 月夜と葵も、口々に言い放つ。
「うわー、ヒーローぶってカッコつけちゃって嫌な感じ」
「私達の前に跪かせてあげましょ!」
 リビングデッド達がじわじわと動きだし、リリスらは身体中を這い回る蛇たちに臨戦態勢を取らせた。

「そんなにキラキラが好きなら、ダイヤモンドダストのキラキラを食らうといいのです!」
 ましろが言い放つと同時に、激しい吹雪が巻き起こり、突出していたリリスとリビングデッドが飲み込まれる。
 と同時に、玉泉華の放つ銃弾は、吹雪の中でよろめくリビングデッドの眉間を正確に撃ち抜く。
「さむーい! 何すんのよ!」
 震え上がりながらわめくリリス。
「おいたをする子には、お仕置きタイムなのですっ!」
 浮き足立つ敵群に向けられるユーリリアの掌。バチバチッと青白い電光が走り――。
 ――カッ!
「うぎゃああぁ!」
 集束された電流が一直線に闇を裂き、リリスやリビングデッドを貫いてゆく。
「よし、池田さん。ボク達も!」
「解った。行くぞ!」
 青白い電光の残像も消えぬうち、再び響の手から放たれるライトニングヴァイパー。勇人はその光と共にリビングデッドの間合いへ飛び込み、「Tombstone Piledriver」を振るう。
 ――グシャッ。
 墓石がリビングデッドの頭部を砕き、引導を渡す。
「くうっ……こいつら生意気っ! こっちも必殺技を見せてやるっ!」
「おーっ!」
 手負いのリリス達は、そんな前置きと共に、妖しげな動きを始める。
「スーパー脚線美アターック!」
 ミニスカートの裾を軽く摘み上げ、惜しげもなく太股を曝しながらの投げキッス。2人のシンクロっぷりもばっちりだ。
「正義の心は、金剛石より硬いから、そんなので惑わされたりしないんだよっ!」
 だが、容易く魅了をはね除けたカメリアは、電光剣を振り上げリリスへ斬り掛かる。
 能力者達は女性が多いので、一見すると誘惑には強そうだが、リリスの魅了は掛かるときは掛かってしまうものだ。
「……」
 言ってる傍から、勇人とシャロムに魅了の魔手が伸びる。
「すぐに回復しなくちゃね!」
「うん、浄化をっ!」
 けれど、アリサとめぐるが呼び起こした柔らかな風が2人を包み、瞬時に魅了をはね除ける。
 ――ダダァンッ!
 正気に戻るが早いか、制圧射撃を開始するシャロム。
「退いて下さい!」
 葵の零した吐息は空気をも凍らせ、目の前にいたリビングデッドの活動を完全に停止させた。
「後はお前達だ」
 月夜の手が挙げられた刹那、吹き荒れる突風。
「きゃー! モーレツー!?」
 これをモロに受け、大きくよろめくリリス。
「ううっ、ヤバイかも……姉さまー!」「助けてー!」
 リビングデッドは次々に崩れ落ち。自分達の傷も次第に増えてゆく。焦ったリリスは、後方のリーダーリリスへと応援を要請。
「もー、皆だらしないなぁ! しょうがない、行くよ!」
「おっけー姉さん!」
 勿体ぶりながら、動き出す桃髪のリリスと緑髪のリリス。
 傾きつつある戦況そのままに、能力者達は彼女たちを殲滅すべく、今一度詠唱兵器に力を籠める。


「食らえっ。ミラーストライクッ!」
 ――カッ!
「うわ、眩しっ……」
 リリスが姿見を立てると、能力者達の身に付けた懐中電灯の光が反射される。特に暗視ゴーグルを見付けていたカメリアは、とっさに視線を逸らして眼を守る。
「じゃあ、更にそれを返してあげるよ」
 響も持参した鏡でこれに応戦。
「何すんのよ、このこのっ!」
「眼よ、眼を狙うのよ!」
 暫し、お互いの眼を狙って光を当て合う一同。
「ねぇ、十分見えてるんだから懐中電灯を消せばいいんじゃない……?」
「――!?」
 アリサの一言で、各々懐中電灯を消す。

「夫人、皆さんと一緒に包囲なのです!」
「さあ、まだ私たちの命のキラキラは壊れていないのですよ!」
 制圧射撃を繰り返しながら、じわじわと側面へ回る玉泉華。ユーリリアは逆方向から回り込む。
「逃がしはせん!」
 包囲陣の形成に呼応し、再び間合いを詰める勇人。
「ライトニング――ヴァイパー!」
「もう一度、ダイヤモンドダストなのです!」
 猛吹雪とパルスが密集陣形を取るリリス達を飲み込んでゆくと同時に、勇人の得物が唸りを上げる。
「必殺、ミラーシールドっ!」
 ――ガシャァンッ!!
 とっさに姿見を投げだし波状攻撃を避けようとするリリスだったが、当然それは不可能だった。鏡を砕き割った墓石はそのままリリスの腹部を捉え、壊滅的な衝撃を叩き込む。
「うぎゃあーっ!!」
「リンダ!? 技名を叫ぶ暇があったら避ければ良かったと思うけど、それはそれとして……よくも姉妹をっ!」
 倒れるリリスに、残りのリリス達は激昂。
 蛇たちは怒り狂ったように激しく牙を剥き、近くに居たシャロムとカメリアへ襲いかかる。
 ――ヒュッ!
「つっ!?」
 喉元へ飛び掛かる蛇の牙を、腕で受け止めるカメリア。シャロムも肩口を掠めるように傷つけられる。
「いけぇっ! 一気にやっちゃえっ!」
「ボクとも遊んでよ、お嬢さん方?」
 更なる蛇の追撃を払い除けた響の拳には、螺旋状に流れる緑の文字列。
 ――バキッ!
「あぐっ!?」
 強烈な一撃を浴びて、よろめくリリス。
「いくよっ!」
「シャロム、トドメよ」
 カメリアの電光剣が閃き、アリサとシャロムの銃口が火を噴いた。
「ぐふっ!? ねぇ……さ……ま」
 斬撃と数発の銃弾を浴び、ついには2人目のリリスも倒れ伏す。
「ライラッ!? おのれぇっ……! お前達絶対に許さない!」
 倒れ行く妹分達に、桃髪のリリスは激しい動きの構えを見せる。
「いけーっ! 必殺のキラキラハリケーンッ!」
 くるくると回転しながら、ウィンクやら投げキッスやらを飛ばしまくるリリス。
「キラキラ……」
「あははー、キラキラなのです〜」
「やばい、綺麗かも……」
 見た目はバカっぽいが、さすが一軍のリーダー。前衛の能力者達の殆どは、目眩のような感覚を覚える。
「まずいな、めぐる」
「ええ!」
 月夜とめぐるは、すぐさま浄化の風でこれに対処する。
「蒼き氷で眠りなさい!」
「なっ……きゃあ!? さ、寒……」
 これに呼応するように、葵の吐息が3人目のリリスを包み、その身体を凍て付かせてゆく。
 戦いはもはや終盤、能力者達の包囲はほぼ完全な物になりつつあった。


「今だっ、トドメを!」
 飛び掛かる蛇の牙を受け止めつつ叫ぶ勇人。
「夫人!」
「正義のキラキラは砕けないのですよ!」
 ましろの吐息と玉泉華の銃撃に加え、ユーリリアのライトニングヴァイパーが一斉にリリスへ襲いかかる。
「ちょっ……タンマ! うぎゃぁぁ!!」
 深手を負っていた最後の妹分リリスも、断末魔の叫びと共に倒れ伏した。
「ケイト! くっ……ふふ……やってくれたわね。でも所詮彼女たちは捨て駒にすぎゃふっ!!」
「もう終わりかい? まだまだ遊ぼうよ!」
 定型句的な負け惜しみを口にしていた桃髪リリスに、容赦なく見舞われる響のデモンストランダム。
「ま、待ってよ! 台詞中に攻撃しちゃいけないって言う基本的なルールを守れないの!?」
「冷えてきたし、さっさと帰りたいの。早く倒れちゃってよ、オネーサマ!」
 抗議がましく言うリリスに、とりつく島もないアリサの言葉。ワンテンポ遅れて銃弾が降り注ぐ。
「いたっ! ア、アンタ達ぃ! 私が本気で怒るとどうなるか解ってるんでしょうね……」
 先ほどよりも一層激しい動きで構えを取るリリス。
 前衛は身構え、後衛はバッドステータスに備える。
「……あっ!? 原初の吸血鬼! ここです、助けてー!」
「えっ?!」
 彼方を指さすや、そんな事を叫びつつ手を振るリリス。そして逃走を図るが――。
「逃がしてなるものですか!」
「悪いことをして逃げようっていったって、そうはいかないんだよっ!!」
 回り込むカメリアと葵。輝く吐息と、極限まで練られた白虎の気が、リリスへ叩き込まれる。
「月夜、行くわよ!」
「解った」
 更にはめぐるの瞳に禍々しい黒光が宿り、リリスを見据えると同時に月夜の放つ突風がリリスを捉えた。
「ぐっ……私の……キラキラ大作戦がっ……む、無念」
 バタリと倒れ込んだリリスは、それきり二度と言葉を発することは無かった。


「……なんとか終わった、か」
 戦いが終わり、街には静けさが戻った。初陣を終えた月夜も、息をついて力を抜く。
「さって、掃除完了!」
「こっちの片づけ……は無理よねぇ」
 手をぽんぽんと叩きながら言う響だが、道には見渡す限りのガラス片。アリサの言う通り、これらを人手だけで片付けるのは不可能だろう。
「他の場所で戦う皆さんも、無事に原初の吸血鬼の目的を阻止出来ていると良いのですが……」
 ユーリリアの言葉に頷きながら、一同は帰り支度を始める。

 かくして一行は、キラキラにデコレートされてしまった通りを背に、凱旋の途につくのだった。


マスター:小茄 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/01/27
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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