<リプレイ>
全盛期は栄えていたであろうこのリゾートホテルも、バブルが弾け、栄華の夢のようにその華やかさが失われた。それから幾月の年月が過ぎたのだろう。ここに集まった若者たちは、その当時の様子も知ることなく、ただ廃墟と化した建物を険しい目つきで見上げている。 「栄枯盛衰は世の常、ですか」 水無月・セツナ(小学生白燐蟲使い・b34895)は巨大な廃墟を眼前にし、無意識に小さな言葉を吐いた。その巨大さは彼女の範疇を越え、当時いかに栄華を極めていたかというのがわかる。 だが、いま彼女の目に写るのは、バブルの象徴としてではなく、ゴーストタウンに近い場所としてのホテル。これだけ大きく、権力・財力の存在した場所だ。はびこる思念も、普通ではないだろう。 強大な思念が集積し、異様さだけが漂う廃墟に、能力者達は足を踏み入れた。 「かつてはすごいリゾートホテルだったんでしょうね」 廃ホテルに立ち入り、静かに入口を見据える緑川・奏真(高校生魔弾術士・b38407)。 エントランスは想像通りの荒れようで、フロアにはほこりがたまり、歩くごとに足跡がついていく。周りを見わたせば、ソファーやテーブルはボロボロになって転がっており、破壊されたモニュメントのようなものがロビーの中央にあって目を引いた。 「そうですね。当時はすごく華やかな場所だったんじゃないでしょうか」 日前・葉里(花影のリムセ・b31570)は栄華の面影から、視線を螺旋状の階段へと移した。 不況時代に育ち、バブル時代を知らぬ若者達に、かつての栄華を想像することは難しい。廃墟とはいえ、ここが高級ホテルであったということは彼らにも想像できるが、ここに大勢の人が押し寄せ、賑わっていたということまでは思い描くことはできなかった。 頭にあるのは、その栄華にすがり、増幅した思念を破壊することだけ。 自分達にしかできないことをするために、葉里は慎重に階段をのぼっていく。 吹き抜けになったロビー、豪華な階段、ほこりだらけとはいえ高級そうな絨毯……階段をあがるにつれ、欲望を具現化したようなこの場所に恐怖を感じるようになる。財力や権力、一体どれだけ大きな思念がここにあるというのだ。 目的である十三階の会場に到着したころには、能力者達の口数はほとんどなかった。 近づくにつれ、感じるようになる異様な感覚。 彼らの表情が、一層険しくなる。 「ふふっ……今日も楽しい一日が過ごせそうだな」 そんな中で氷蜜・ノア(サディスティックリビドー・b49252)は、凛とした微小を口元に浮かべていた。ここに存在するゴーストは一筋縄ではいかない相手だが、その分楽しめる……彼女の冷静な笑みは、どこか怖さも含んでいた。 「どんな相手だろうが倒すまでだ……フン。いくぞ」 吉師・鴇継(剣狼・b57118)が会場のドアを開け、中へと入っていく。 中はがらんとしており、最奥の中央に壇上があるだけの殺風景な場所だった。 「配置につきましょうか」 美咲・牡丹(緋牡丹・b05183)は辺りを見回し、だいたいの距離を把握すると、仲間の後方へと位置した。見た感じ、おそらくは結婚式などに使われていたのであろうこの会場。比較的広い場所だが、障害となるようなものはない。 戦いやすい環境だが、それは相手も同じ。牡丹は正面に位置する仲間と、左側に位置する仲間両方に支援が届く場所を確保し、戦いに備えた。 「さあ、今回はがんばりますよ〜」 そう明るい声でやる気を見せていた波多野・のぞみ(真紅と漆黒の淑女・b16535)だが、イグニッションし、詠唱兵器を構えると、平静な表情で身構えた。 蔭宮・頼夜(隠曉行脚・b06816)も思うことを心に封印し、冷静さを保っている。 「みんな、準備はいいか?」 「私は大丈夫です……」 頼夜が配置を確認すると、仲間は首肯し、今泉・晶(小雪の精・b59574)も緊張した声で答えた。 まだゴーストの存在はない。 敵が強大とはいえ、まだ残留思念である。有利な環境で戦いを開始できるのは能力者達のアドバンテージだ。態勢を整え、おのおのの配置につくと、華坂瀬・蒼衣(穢喰いの魔人・b01426)が詠唱銀を取り出した。 「さて……始めようか」 能力者達は、再び小さく首を縦に振った。 蒼衣の振りまく詠唱銀が周囲に散らばると、途端に妖気が何倍にも膨れ上がった。 同時にゴーストとして実体化し、周囲に何体もの異形が唸りながら出現する。 そして、中央にはライオンのような妖獣と人型が現れた。地縛霊の姿は、豪華な衣装とアクセサリーを身に付けているものの、異常なまでに太った醜悪な姿。どんな未練を残してここに縛り付けられているのかは一目瞭然だった。 当時の面影を残さぬ戦場で、かつての栄華にすがる地縛霊のむなしき叫びが響く。
「まずはおまえからだ」 現れたばっかりの妖獣に、先制した頼夜がクロストリガーを撃ち込んだ。 ターゲットは、豚。運命予報士によれば、広範囲の火力を失われる嘔吐を吐き出してくるという、もっとも厄介な妖獣のひとつ。頼夜の放った弾雨に続き、奏真の炎の魔弾が飛ぶ。 「丸焼きにしてあげます」 手の中で増幅した炎が豚型に向かって撃ち出され、命中と同時に爆炎が周囲に飛び散った。 轟々たる音を立てて燃えあがる紅き焔は、豚型の悲鳴すら呑み込んでいく。その間、ケットシーのシュガーは魅惑的な踊りでゴーストの動きを崩していった。 牡丹もダンシングワールドを展開し、自身の気迫を高める。そして……その幻想的なダンスが奇跡を呼び起こす。 「チャンスだ!」 刀を手に蒼衣が千載一遇の好機を逃すまいと斬りかかった。 ターゲットは……ライオン型。 これだけ敵が入れば、確率的にある程度の敵の動きを崩すことができるが、それが思ってもみない方向へと働いた。アツく、激しいダンスが、能力者が警戒していた、もう一体の妖獣から戦力を奪い取る。 「行きましょう、糸唯さん。続きます……!」 とはいえ、大勢いる妖獣のうち、たった一体でしかない。葉里は機会をものにし、有利に展開を運ぶため、ケルベロスの糸唯と共に攻撃を集中させていく。彼女の放った雷の魔弾はライオン型の動きを止めるにはいたらないが、それでも糸唯のレッドファイアとの連携は大きなダメージとなったようで、もがくように踊るライオン型は絶叫にも似た咆哮を吐き出す。無論、その声に力はない。 「こ、ここで私が外すわけには……」 晶が呪詛呪言でさらに力を搾り取り、続けて弱ったライオン型へ蒼衣が斬撃を決めた。胴に大きな傷口を刻まれ、苦しむライオン型に鴇継がクロストリガーを撃ち込む。 「フン……これでとどめだ」 激しい銃弾の乱射は、体を穴だらけにし、踊る力すら奪い去ってライオン型の姿を消滅させた。 一方、のぞみとノアは優先すべきもう一体の豚型を攻めている。 「吐くくらいなら、さっさとくたばれっつーの」 バットストームが豚型と周りにいる馬型と熊型、さらに地縛霊を巻き込んでいった。 吸血コウモリの群れに紛れ、のぞみが豚型と熊型の間合いへと飛び込む。 「まずはあなたが冥土に帰りなさい!」 蝶のように舞い、蜂のようにレイピアを突き刺す……輪舞曲を踊るようになめらかな動きで、次々と相手にスラッシュロンドを決めていくのぞみ。蜘蛛童のネメアも糸を吐き出し、動きを止めようとしている。 だが、致命傷を負わせることはできず、豚型を倒すまでには至らない。 そして、豚型が口を開き……。
戦いはしばらく膠着状態が続いた。 豚型が嘔吐でのぞみの力を失わせるも、支援に駆けつけたソープ・エンジュによってすぐに回復。牡丹や穂乃村・翠も回復支援で仲間をサポートしていく。その後、すぐに豚型は倒されたが、今度は馬型に捕まり、タイマンを挑むことに。 「しばらく耐えてくれ!」 銃弾をばら撒く頼夜が叫ぶ。 できるならエンチャントでブーストをかけたいところだが、それが命取りとなりうる可能性がある。その害悪である狐型を狙い撃ち、葉里も雷の魔弾を向けていく。 「この妖獣を倒せば、なんとか……」 狐型の声は、晶の有する呪詛呪言と同等の力を持つ。下手に強化ができないため、戦いが長引く原因ともなっていた。回復は十分に玉数は揃っているため、大きな怪我は誰も負っていないが、火力の底上げができないのがもどかしい。 「ちっ……さっきからうるせーんだよ。マジ耳障りだ」 だが、幸いにも威力自体は低いようで、早々に倒し、膠着状態を脱したい。ノアはバットストームを放ちながら狐型にネメアをけしかけた。 「邪魔だ、消えろ!」 ネメアの強靭な顎が狐型を捉え、そこへ蒼衣が斬り込んだ。 抜刀一閃、その鮮やかな太刀筋が狐型の首を切り落とす。 「これで邪魔者がいなくなりましたね」 ミストファインダーで強化したセツナは、白燐奏甲を解禁した。白燐蟲の燐光が、仲間の詠唱兵器に破壊力を与えていく。茨を操って支援していた白河・アイリス(高校生呪言士・bn0084)も祝福で神秘重視の者に力を分け与える。 「いいタイミングか」 合間を縫って鴇継は、転機と見てクロストリガーの照準を地縛霊に向けた。地縛霊はまだ強化していない。ここで自己強化を誘発できればチャンスだ。 次々と妖獣が撃破され、やはりゴースト側も苦しいはず。目論見通り、銃弾を受けた地縛霊は、ここで自己強化を行った。 「これが効けば……楽になるはず……効いて、下さい! 呪詛呪言!」 それを逃さず、祝福を受けた晶は地縛霊へ呪詛呪言を唱えた。 呪文が力を得た地縛霊へ災を呼び、体を硬直させる。 「今のうちに片付けたいですね」 奏真はシュガーから魔力供給を受けると、馬形へと炎の魔弾を放った。 「波多野さん、がんばって!」 牡丹はヘブンズパッションで怒り状態ののぞみの興奮を沈めた。落ち着きを取り戻したのぞみは、冷静に状況を把握すると、炎に包まれている馬型へレイピアの一刺。まるでユニコーンのような姿の馬型の頭部を貫き、とどめを刺した。
地縛霊の動きが止まったことで、被ダメージが減り、能力者の勢いが増す。 中央はほぼ無力となり、その隙に左右の残党を狩りに出る。蒼衣がヘビ型によって締め上げられるも、ソープや翠がいるため、火力を落とすことなく状態異常を回復させることができる。 「シロちゃん、力を貸してあげて」 「この程度なら、まだ全然いける」 牡丹は白燐蟲を蒼衣に与え、傷を埋め、刀に力を与える。そして、彼を取り囲むヘビ型とサソリ型を、暴れ独楽で巻き込んで反撃。 「糸唯さん、援護しますよ!」 葉里は糸唯と共に蒼衣を援護射撃。雷の魔弾はサソリ型を捉え、電撃が動きを鈍くさせる。そして、そこへブラックセイバーが飛んでヘビ型もろとも切り刻み、それが致命傷となった。 「地縛霊はまだマヒしてるみたいですね……」 晶は地縛霊がまだ動かないことを確認すると、ヘビ型へ呪詛呪言を向けた。この一撃で倒れることはなかったが、それでもかなりのダメージは負っているはず。鋭い毒牙を能力者達に向けるヘビ型であったが……。 「そうはさせん!」 頼夜のクロストリガーが、毒液よりも早く飛んだ。 何発もの弾丸を受け、耐えきれずにヘビ型は吹き飛んだ。 「これで残るは……」 右側が片付き、残るは熊型のみ。 強靭な腕力で高い破壊力をもつが、その分精度は低い。 「さて、そろそろお仕舞いにしようか?」 能力者達は慎重にさばきながら攻撃を叩き込んでいく。 ノアはガンナイフで熊型を狙い、ネメアも近づいていく。ガンナイフの銃弾が撃ち込まれ、鴇継もそれに続いて最後のクロストリガーを放った。 「これで削りとってやる」 「加勢します」 すでに回復の手が必要ない状況になり、セツナも攻撃に加わった。瞬断撃を遠距離から放ち、ツキノワグマのような胸元の文様の部分を破壊する。 「さあ、ココからは本気よ」 胸元を抑えて苦しむクマ型へ、ラジカルフォーミュラで自己強化したのぞみが鋭い一刺を繰り出していく。そして、奏真が炎の魔弾を撃ち込み……。 「これは耐えれますか」 魔弾がぶつかると同時に、クマ型が炎に包まれていく。 劫火に焼かれるが如く、全身をあぶられ、もがくクマ型。額の赤い文様が光り、最後に強烈な一撃をのぞみに放つが、それをひらりとかわす。同時に魔炎で力尽きたのか、バタリと床に崩れ落ちた。 「さて、のこるは……」 いまだ動けぬ地縛霊のみ。 能力者達は傷を癒しつつ、ゆっくりと地縛霊を取り囲み、詠唱兵器を押し当てた。
静かな廃墟に、断末魔の声が響く。 無論、その声が外部に漏れることはない。 かつて栄華を誇った場所も、今はただの殺風景な廃墟。 来るときは異様な空気に包まれていたが、いまはもう何もない。 能力者達はそんな過去の遺物を暫し眺めると、戦場だった場所を後にした。
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参加者:10人
作成日:2010/03/01
得票数:楽しい6
カッコいい4
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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