不死身の健蔵


<オープニング>


 不死身の健蔵。人は彼をそう呼んだ。
 さきの大戦において数々の激戦地を転々とし、終戦まで常に最前線に立ち続けた。
 そして終戦後も、幾度となく大きな災害や事件事故に巻き込まれ、九死に一生を繰り返す人生。
 しかしそんな彼にも、終焉の時は確実に近づいていた。
「ごふっ……りん子、済まない……今年のお前の誕生日パーティは……出来そうに」
「出来るわよ」
「えっ? ……だ、誰じゃいお前さんは」
 其処に居たのは、奇妙な紋様の仮面を被った少女。
「私の事はどうでもいいの。貴方が永遠の命を手にしたいかどうか。大事なのはそれだけよ」
「……永遠の……ごほっ! ごほ! ……くれ……永遠の命を!」
「解ったわ」
 ――ヒュッ。
 少女の手が目にも留まらぬ速度で閃き、次の瞬間には血にまみれた肉の塊が握られていた。
 暫し脈動を繰り返していたその肉塊は、やがて動きを止める。それは不死身と謳われた健蔵の命が、ついに失われた何よりの証左でもあった筈なのだが――。
「力が……湧き出してくるようじゃ」
「良かったわね。おめでとう、健蔵さん」
 むくりと起き上がる健蔵。
 少女は仮面から微かに覗く口を歪め、彼に賛辞を贈った。

「良く来てくれたわっ」
 軽く手を挙げ、能力者達を出迎えたのは柳瀬・莉緒(中学生運命予報士・bn0025)。
「実はね、ちょっと奇妙な事件なのよ。似たような話を聞いてるかも知れないけど……奇妙な仮面を被ったリリスが、一人住まいのお年寄りを殺して、リビングデッドにしてしまうの」
 詳細や関連性は現時点で不明だが、とにかくリリスとリビングデッドは退治しなくては。
 現場である老人宅への地図を広げつつ、莉緒はそう告げた。

「リリスの戦闘能力は、これまであなた達が戦ってきたリリスと変わりないわ。魅了には気をつけなきゃいけないけど……それと、健蔵さん――今回殺害された老人のリビングデッドの他にも、なんだか古代エジプト風の衣装を纏った老人のリビングデッドが3体居るわ」
 敵は全部で5体。
 いずれも意識はあり言葉は通じるが、説得は不可能だ。退治するしかない。
「場所は純日本風の家屋。平屋建てだけど、小さいお庭もあるわね」
 屋内は居間、台所、寝室の3部屋。いずれも物や家具が並んでおり、どこで戦うにせよ近接戦闘を強いられる事になりそうだ。
 庭は各部屋の2倍程度の広さがあり戦いには向いているが、敵がわざわざそこに来てくれるかどうかは解らない。
「そうそう、リリスを含め、今回の敵は皆逃げずに最後まで向かってくるみたい。だから、その意味では戦いやすいかも?」
 窮鼠猫を噛むのたとえもある。あくまで油断は禁物だが。
「はっ、何故か何も言う暇が無かったですぅ」
 能力者の中には、志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)の姿もある。

「戦力的にはこっちが圧倒してるんだから、油断しなければ大丈夫よ。落ち着いて、敵を退治してきてね」
 こうして、能力者達は現場へと急行するのだった。

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参加者
九鬼・桜花(剣姫無双・b00036)
伊集院・輝(デルヴィッシュ・b00950)
刈谷・紫郎(見通す者・b05699)
草壁・志津乃(白鳥奏歌・b16462)
真田・幸奈(お茶目な言霊使い・b20804)
サーシャ・ロマノヴァ(童姿の白き魔女・b49614)
草薙・神威(高校生魔剣士・b52378)
山中・氷華璃(雪ノ舞・b73310)
NPC:志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)




<リプレイ>


 閑静な住宅地の一角に、健蔵の自宅はあった。
「とにかく、お年寄りを粗末に扱うリリスはお仕置きしないといけませんの」
「敬老の精神をたたき込んでやりますぅ」
 密かに家の敷地へ接近しつつ、自ずと士気を高める真田・幸奈(お茶目な言霊使い・b20804)。
 そして、キャラに合わない台詞を吐いているのは志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)。
「弱ったおじいちゃん達の心の隙間に付け込むって、なんて言うか嫌な性格してるよね」
 山中・氷華璃(雪ノ舞・b73310)は純粋な彼女らしく、素直な感想。
 リリスにすれば、独り寂しく晩年を迎えた老人を口車に乗せるのは容易なのだろう。
「あぁ、目的は一体何なのだろうか……リリスに尋ねても返答は期待出来ないだろうが」
 軽く溜息を洩らす伊集院・輝(デルヴィッシュ・b00950)。
 複数のリリスが似たような出で立ちで起こしている一連の事件。偶然とは考えにくい。
「……」
 一方で刈谷・紫郎(見通す者・b05699)は、雑念を振り払う様にイヤホンから流れる旋律に身を委ねる。
 間もなく始まる戦いへの集中力を高める為だ。
「私には健蔵さんの生涯の方が興味深いですね。健蔵さんの生涯を読み物にしたら……」
「ビッグビジネスの予感がしますねぇ」
 サーシャ・ロマノヴァ(童姿の白き魔女・b49614)は、謎多きリリスより健蔵の一生に興味がある様子。
 確かに、これまでの彼の人生は莉緒の説明を聞いただけでもかなり壮絶な物だったと予想される。涼子も金の匂いに反応するが、出発前に説明された以上の情報は持っていない。
「とにかく、これ以上の悲劇を防がなくては。そろそろ分れましょう」
「あぁ、命の流れを歪める者を、放ってはおけない……!」
 草壁・志津乃(白鳥奏歌・b16462)の言葉に頷き、能力者達は3つの班に分れる。家の狭さを考慮すれば、その方が効率的だろう。
 庭からの班に属する草薙・神威(高校生魔剣士・b52378)も愛刀「黒覇」の柄に手を添えいつでも戦える体勢を整える。
「可愛いリリス美味しそうね〜♪ 涼子ちゃん エジプトってどんなイメージある〜?」
「え、ラクダとピラミッドくらいしかぁ……後は人間をやめた人がカイロに住んでる位ですかねぇ」
 一方、マイペースな九鬼・桜花(剣姫無双・b00036)は戦闘を直前に控えていようと緊張とは無縁らしい。涼子にまともな返答を期待したわけではないだろうが、これ以上時間を無駄にしても仕方ないので、そろそろ敷地内へ入るとしよう。


 ――がちゃ。
「開いてますねぇ……お邪魔しますぅ」
「あっ」
 扉を開けるなり、玄関には座り込んでいる老人が1人。
「何者じゃ貴様等は! いや、我々の崇高な目的を邪魔しようとする不届き者じゃな!」
「凄い元気ですね」
「さすが永遠の命、と言うかもう死んでると言うかぁ」
 志津乃は多少呆れながらも、涼子と自分へヤドリギの祝福をもたらす。
「表口の相手は今の所1体のみ。手早く行きましょう」
 鞘から「戦雷の聖剣」を抜き放つサーシャ。他のルートから入った仲間達に聞こえるよう、敵の数を叫ぶのも忘れない。
 涼子もヨーヨーとアームブレードを構える。
「カーッ!!」
 1対3も何のその。杖を振り上げ殴りかかってくる老人。
 ――キィン!
 サーシャが難なくこれを受け流す間に、涼子の蹴りが老人の脇腹へとクリーンヒット。
 そして、体勢を崩した彼の顔面にサーシャの拳がぶち当たる。
「この餓鬼どもめぇっ!! わしを本気にさせてしまったようじゃな!」
「ふっ……貴方はもう死んでいる」
「なにぃ? わしは永遠の命を……いのチガブァッ!!」
 詠唱停止プログラムが彼の一切の行動を封じ、彼の肉体は跡形も無く掻き消えてゆく。
「消えましたね……さぁ、行きましょう」
 志津乃の言葉に頷き、3人は玄関から廊下を進んでゆく。

「開いているようだ」
「入ってこいと言わんばかりか」
 勝手口も鍵は掛かって居らず、紫郎、輝、氷華璃の順番で中へ入ってゆく。
 すると――。
「む、何者か!?」
 台所には、やはり椅子に腰掛けた老人が1人。待っていましたとばかりに腰を上げる。
「勝手口もまずは1体! 押し切っちゃお!」
「よし、行くぞ伊集院君」
「解った」
 紫郎の「グラン・クロワ」が黒炎を帯び、輝のクロストリガーが老人の心臓をマークする。
 ――ザシュッ!
「それがどうしたっ、痛くも痒くもないわ!」
 深々と袈裟斬りにされながら、怯む素振りもなく包丁を振り上げる老人。
 ――ガガガッ!!
「わしは永久の命を得たのだ! 永久のぉぉーっ!!」
 降り注ぐ無数の弾丸が、彼の腕や身体を貫いてゆく。包丁を持った腕が床に転がり、蒸発するように消えてゆく。
 そして老人本体も、絶叫を上げながら霧散した。
「さぁ、私達も行こっ」
 台所を抜けた3人も、居間に通じると思しき廊下を突き進んでゆく。

「表と勝手口に1体ずつ……と言う事はアレで――」
「庭に3体目です!」
 家の中から聞こえてきた仲間の声を聞く限り、庭先に座っている老人が3体目という計算になる。神威が仲間達へと告げながら、幸奈と共に間合いを詰める。
「締め切っちゃって不健康な事。ここからじゃ中の様子は全然解らないわね〜」
 雨戸やカーテンが閉まっており、庭から敵の情報を得ることは出来そうにない。桜花は軽く肩を竦めて言うと、仲間の援護をすべく後衛の位置取りへ。
「くせ者め! 中へは1歩も入らせんぞ!」
「援護しますの!」
「はぁっ!」
 幸奈の水刃が空を裂き、神威の突進を援護する。
「つぇいっ!!」
 老人が振るったのはゲートボールのスティック。
 ――ガキィンッ!
 神威は刀身でこれを受け止め、そのまま横薙ぎに切り払う。その間にも数発の手裏剣が老人の身体に突き刺さった。
「神聖なる我らが悲願、邪魔はさせぬぅっ!!」
 皮肉な事だが、かりそめとは言え新たな命を得て、また何らかの目的を得たらしい老人達は、全く年齢を感じさせない体力と気力に満ちあふれている様に見えた。


「見付けたよリリス――とおじいちゃん!」
 最初に居間に辿り着いたのは、氷華璃達の班。早速皆に状況を伝える。
 居間に居たのは、褐色の肌を持ち仮面を被ったリリス。そして、刀を手にした健蔵の2人。
「何の用? 招かれざるお客さん」
「君、名前は?」
 素っ気なく言い放つリリスへ、逆に問い掛ける紫郎。
「あはっ……剣を手にしてなければロマンチックなムードなのにね。私はファティカ。あなた達が何者かは興味が無いけど、邪魔はさせないよ」
「その仮面は王への忠誠の証か……?」
 更に問い掛ける輝。
「質問ばっかりだね、そんなに私の事が気になる?」
 仮面を頭の上に持ち上げ、くすりと笑みを浮かべるリリス。リリスのご多分に漏れず、整った容姿の美少女だ。
「いや……理由がどうあれ、命を奪う輩に遠慮はしない」
 対峙する両者。健蔵は目を閉じたまま、今だ動こうとはしない。
「私達も混ぜろですぅ」
 と、反対側の廊下からやってきたのは涼子達。
「其のマァトの羽であと何人の方を騙す予定ですか?」
 サーシャの問い掛けに、少し眼を見開いたリリス。
「騙すなんて人聞きが悪いなぁ。おじいちゃん達の意志が第一よ。ね?」
 しかし、しれっとそう言い放つ。
「誰の為に、何の為にこんな事を?」
「質問コーナーはここまで。どうせここで死んじゃうあなた達に喋っても無意味でしょ」
 志津乃の質問を遮り、立ち上がるリリス。健蔵もゆっくりと腰を上げる。
「ここで戦いましょ。わざわざ相手の有利な場所で戦う必要は無いもの」
「うむ……りん子と同世代の子供達を斬るのはしのびないが……これも偉大なる王の為」
 能力者達の思惑には乗らないと言い放ち、リリスはサーベルを、健蔵は刀を抜き放つ。
 居間の広さを考えると、健蔵とリリスの他に2人も入れば戦うには一杯一杯だろう。混戦の幕は切って落とされた。

「さぁさぁ、皆さんご一緒に♪」
 情熱的なダンスパフォーマンスで敵を踊りに誘う氷華璃。
「……踊りは好きだけど、遠慮しておく」
 ぴくりと微かに反応したリリスだが、今回は2体とも踊り出す事は無かった。
「援護を頼む」
 紫郎が双剣に黒炎を纏わせ距離を詰めると同時に、志津乃の手からは無数の茨が敵へと伸びる。
「なんのっ、温いわ!」
 ――キィンッ!
 2体は見事な剣捌きで茨を退けると、健蔵はその上で紫郎の一撃も切っ先で受け流す。
「行くぞ」
 ――ガガガッ!!
「ぬうっ! 小賢しいっ!」
 輝のクロストリガーによって降り注ぐ弾丸。さすがの健蔵も数発を浴びて微かに表情を歪ませるが、お返しとばかりに鋭い横薙ぎ一閃。
 ――ガキッ!
 志津乃は「雪月」を巧みに振るってこれを防ぐ。
「色男さん、私達の仲間にならない?」
 一方のリリスは、紫郎へ妖艶なウィンクを飛ばす。
「そうはさせませんよ」
 間髪入れずサーシャによって、リリスの誘惑を吹き飛ばすような清らかな風が吹く。
「むむぅ……ここからじゃ攻撃出来ませんねぇ。こっちですよぅ!」
 庭への誘導は困難と見た涼子は、外の仲間達へそう報せる。
 本来ならば一気に力押ししたい所だが、限られた空間での戦闘はそれを許さない。能力者達にとっては、些か焦れるような戦いが続く。


 ――ばきばきっ。
 3歩進んで2歩下がるような戦況が続く中、派手な破壊音と共に庭側の雨戸が破壊された。
「皆様お待たせしましたの。……あなたがリリスですのね、ご老人の心臓を集めて何を企んでますの!?」
 びしっとリリスを指さす幸奈。
「あーあ、他人の家を壊しちゃって」
「どうせ、変な王様とか復活させて悪巧みに使おうと考えてるに決まってますの。そんなことは、涼子さんがさせませんの!」
「仕方ないですぅ……どうやら私も奥義を出さねばならん様ですぅ」
 膨大なエネルギーの風が巻き起こり、涼子の身体を覆う。
「……まぁ射程外なんですけどねぇ」
「だったら幸奈がやっつけてやりますの!」
 結局自分で水刃手裏剣を放つ幸奈。
「ぬっ!?」
 1つ2つと刀ではじき飛ばした健蔵だが、3つめが肩口へ突き刺さる。
「自然の摂理に従ってもらうんだから覚悟してね」
 桜花の手から放たれた茨が、爆発的に広がって健蔵の手足に絡みつく。
「派手にパーッと、凍て付いて宜しく♪」
「一気に押し切るぞ」
 氷華璃が激しい吹雪を巻き起こすと同時に、輝のクロストリガーが次々に弾丸を撃ち出す。
 前衛の紫郎と志津乃も、これに呼応して苛烈な攻勢に出る。
「老いたりとは言え不死身の健蔵! 遅れは取らぬわぁっ!」
 ――ギャリッ!
 強く締め付けられながらも、激しく鍔迫り合いをする健蔵と輝。
「今だ、草壁さん」
「健蔵さん、お覚悟を」
 この隙に死角を突いた志津乃。氷の吐息が健蔵の腕を凍て付かせる。
「歪んだままの存在でいて、それで満足なのか……!」
「ほざけっ!! わしは永遠の命を得たのだあぁっ!」
 更には、縁側から黒影剣を繰り出す神威。
 さしもの健蔵も、集中攻撃の前に満身創痍となる。
「っ……思った以上にやるわね……でも、私達の目的を妨害する事は出来ない」
 リリスは多少憎々しげながら、どこか達観した様な口調でそう言うと、再び仮面を被り直す。
「健蔵さん、庭で戦いましょう。あなた達も異論はないでしょう?」
「おうーっ! 最後まで存分に戦ってくれるわ!」
 能力者達にとっても、断る理由のない提案。
 一同は庭へと戦いの場を移す。

「覚悟は出来てますの? お年寄りを粗末に扱うやつは、ガツンとやっつけてやりますの!」
「でも、この程度じゃ君達の神もきっと大した事ないね」
「うるさい! 必ず近いうちに……」
 幸奈の手裏剣が、憎々しげに言うリリスの蛇を数匹切断し、氷華璃による吹雪の竜巻が吹き荒れる。
「健蔵さん……覚悟!」
「参ります!」
「かかって来い!」
 一方、紫郎と志津乃は手負いの健蔵へと斬り掛かる。
 ――ガキィンッ!!
 一瞬の内に、三者の刃が激しく交錯して火花を散らす。
 ――ザシュッ。
「……このわしが……破れるとはな……りん子……ぐふっ」
 倒れ伏す健蔵。
 彼の身体も、見る見るうちに霧散してゆく。
「残らない死体……健蔵さんの不死身伝説には相応しい結末かもしれませんね。では涼子さん、私達も行きましょう」
「おっけーですぅ!」
 無数の文字列を纏ったサーシャの拳と、涼子の弧状の蹴りがリリスを襲う。
「くっ……そんな物っ!」
 サーシャのデモンストランダムを受けて表情を歪めるリリス。だが、涼子の蹴りは寸での所で回避する。
「うげっ!? 往生際の悪い奴ですぅ」
 エネルギーの風が宙に散り、がくりと膝をつく涼子。
「お前はっ! ……命を弄んで……!」
「ふっ、それは違うわ。私はおじいさん達に命を与えて上げたのよ」
「黙れっ!」
 怒りと共に剣を黒炎に包む神威。
「九鬼さん、私の事は構わずトドメをぉ」
「そう? じゃあ……ファティカちゃん。おねえさんが引導を渡してあげる♪」
「やれるものならね!」
 ――ヒュッ!!
 踊るような剣捌きでリリスのサーベルが振るわれ、神威の「黒覇」と桜花の「九鬼一文字」が迎え撃つように閃く。
「……ぐっ、王……よ……」
 前のめりに倒れるリリス。
 数匹の蛇たちは暫くのたうつ様に暴れていたが、それも間もなく動かなくなった。


「この写真の方がりん子さんでしょうか?」
 サーシャが居間の写真立てを手に取る。
 そこには健蔵と、幼い少女が笑顔で写されている。
「そうみたいですねぇ……」
 言いながら涼子が手に取ったのは、奥さんの物と思しき仏壇に備えられた一通の手紙。差出人の名は、ひらがなで「りんこ」と書かれている。
 文面は間もなく行われる誕生日パーティへの誘いだったが、その願いが叶う事は無い。
 ただ、健蔵の命は終焉を迎えたが、彼は不死身の伝説の中で永久に生き続けるのかも知れない。
「しかし逃げないリリスか。嫌な予感がするな」
 戦況の不利を感じても、逃走を図らず向かってくるリリス。退治自体はしやすくとも、紫郎の言葉は重い。
「奇妙な紋様の仮面と古代エジプト風の衣装に何か関係があるのでしょうか?」
 跡形も無く掻き消えてしまった老人達。その服装やリリスの仮面を思い出しつつ、呟く神威。
「ええ、これで一件落着……とは言えそうにないわね」
 桜花はリリスの服装や言動等をメモに取っていた。
 何か裏があるのは間違い無いだろう。
「少しでも手がかりがあれば手を打てるのだろうが……」
「あんまり手がかりになりそうな事は喋ってくれなかったね」
 輝や氷華璃もそう口にするが、暫くは様子を見るしかなさそうだ。
「では、そろそろ参りましょうか。どうか安らかに……」
 志津乃は健蔵達の冥福を祈りつつ、皆へ促す。
 任務も達成した以上、長居は無用だ。

 失われた命を取り戻すことは出来なくとも、新たな悲劇の連鎖をひとつ断ち切った事は間違い無い。
 かくて9人は、凱旋の途につくのであった。


マスター:小茄 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2010/01/31
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