虚空領域 ─インフェルノ・ノイズ─


<オープニング>


 東京・渋谷。

 呼吸さえも忘れそうな雑踏と、数多の感情が溢れ、交差する街。
 夜闇の中、光を、そして闇を生まんと街を照らす巨大オーロラビジョンに、その日ひとつの映像が流れた。
 担当者等はいずれも『上からの指示』で流したと口々に語るそれは、結局、誰からの指示だったのか解らないという。

 ──最悪の最悪(タルタロス)。
 そう自らを名乗る彼等による謎の映像は、渋谷の壊滅を目的とした銀誓館学園への犯行予告であった。

 窓から滲むように届く黄昏を受けながら、手にした文庫本を読んでいた藤沢・灯姫(小学生運命予報士・bn0253)は、能力者等の気配に顔を上げ微笑した。
 座っていた机の上から跳ねるように降りると、手短に礼を述べながら、集まった仲間を静かに見渡す。
「彼等が、動き出したわ」
 ナイトメアビーストの力を持つ一群『最悪の最悪(タルタロス)』。
「そう名乗る集団が渋谷のスクランブル交差点で流した映像の事は、もう知ってる人もいるわよね」
 彼等の目的。
 それは、渋谷の全域で彼等と同じ力『ナイトメアビースト』を生み出す事にあった。
 そして大胆にも、彼等は銀誓館学園の名を出し、その目的を予告してきたのだ。
「それならこっそりやればいいのに……本当、バカよね。……でも」
 ──だからこそ、強い。
 彼等にとっては、この戦いもひとつの遊戯やもしれない。
 されど、あえて表舞台での戦いに持ち込んだのは、それだけ彼等が力のある者達である事を示していた。
「さすがに、このまま放っておくワケにもいかないしね。だからあなた達には、彼等の誘いに乗ったと見せかけて、その目的を突き止め……倒して欲しいの」
 メンバーの数は、8。
 いずれも特殊な能力を持つ者達だ。
 故に、こちらも8つのチームを編成し、夜の渋谷へと一気に──攻め込む。

「あなた達に向かって貰うのは、井の頭通り方面の『シブヤ西武A館』よ」
 建物内にある催事場フロア。
 普段ならば季節に応じた商品を販売している場所だが、改装工事のため先日より立ち入り禁止区域となっていた。
「最悪の最悪(タルタロス)メンバーの名前は、山田二十五郎。長身で、細身ながらも鍛えられた体躯の男よ」
 それはまさに、孤高の黒狼。
 その男が、刑務所の受刑者だったナイトメアビースト10人を従え、催事場フロアに潜んでいる。
「発動時の見た目は違うけど……二十五郎を含めて、ナイトメアビーストはみんな、ナイトメア適合者と同等のアビリティを使えるわ。
 そして、二十五郎だけはもうひとつ……ヘリオンの光の十字架に相当する能力も持ってるの」
 それはまるで、業火の十字架。
 漆黒の炎を纏う十字架が現れ、視界内に豪炎を放つ。
 そうして残されるのは、虚無。ただそれのみ。
「それと……二十五郎だけ、本業能力として特別な力が使えるわ」
 最悪の最悪(タルタロス)にだけ与えられた、力。
 悪夢からひとつだけ何かを具現化する事ができるその力で二十五郎が生み出すのは、見えない盾──『インビジブルイージス』。
 その盾は、戦闘中に一度でも受けた攻撃アビリティであれば全て、次からの攻撃を回避させる力を持つ。
「絶対ってワケじゃないけど……かなりの高確率で回避されると思っていいわ。そう、彼に『二度目』はないのよ」
 一度でも傷つけば、全てを拒む壁。
 それにどう相対するかが、鍵となる。
「でも、『一度目』はあるんですよね?」
 それまで一言も発さず、ただ黙って聞いていた蓮見・双良(おひさま執事・bn0235)が静かに微笑する。
「させませんよ……絶対に。止めて、みせます」
 誓うように告げる言葉に、灯姫も満足げに頷いた。
「いい? あれは彼等からの宣戦布告」
 少女は意志を湛えた眸で能力者等を見渡すと、小さく胸で拳を握り、勝ち気な笑みを浮かべる。
「売られた喧嘩は、買うだけよ。……あなた達の力、見せつけてきて」
 凛とした声が、戦いの始まりを告げた。

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参加者
シャンフォン・チュン(黒衣の魔焔使い・b18843)
片瀬・美雪(夢見る純情女傑・b19815)
御門・日月(風招きの娘・b25260)
空廼・嵐(自由騎士・b39057)
フィル・プルーフ(響葬曲・b43146)
御剣・章(顕現せよ天翔龍の煌虹翼・b48387)
ヘイゼル・ローレンベルグ(静寂なる風の流れ・b54104)
アリス・ワイズマン(龍の忍者見習い・b57734)
エリーゼ・マルファッティ(エリーゼの為に・b70884)
九重・八千代(伝説かもしれない腹ペコ・b73971)
NPC:蓮見・双良(おひさま執事・bn0235)




<リプレイ>


 濁った夜。
 造りモノの宝石のような光で満たされたその水面に浮かぶ、月光。
「霞の夢、か……良く言ったものだな」
 硝子越しに届く光は、決して届く事のない──穢れを知らぬ、無垢な祈り。
 少年はそれに背を向けると、眼前の扉を一瞥する。
 浮かぶは、微笑。
「さぁ……弔いの詩を謳おうか」


 最後にエリーゼ・マルファッティ(エリーゼの為に・b70884)が、御門・日月(風招きの娘・b25260)へと蟲の加護を与えた瞬間だった。
 眼前の二枚の扉が、まるで招き入れるかのようにゆっくりと開く。
 壁一面の窓。
 その向こう側には、夜へと滲む錆びた鉄のような、紅の月。
「わざわざお出迎えとは、ご丁寧な事だな」
 僅かな間さえ惜しむかのように、空廼・嵐(自由騎士・b39057)が半ばまで開きかけた扉を開け放った。
 壁にぶつかり、激しい音が辺りへと響く。
「ブヘアッ!!」
「……ん?」
 右から潰れたヒキガエルのような声。
「どうしたネー?」
 続けて、シャンフォン・チュン(黒衣の魔焔使い・b18843)も左側の扉も開け放った。
「プグァッ!!」
 左から首を絞めたアヒルのような声。
「今、何か……」
「…………気のせいヨー」
 無かった事にしたぜ!
 そんな事より、入口付近には2体の敵がいるはず──。
「ッ……そこか!」
 微かに動く影を捉え、2人同時に技を放った。Blue Raisingを介して伝わる確かな手応えに嵐が笑みを零すと、向かいからは拉げた男の声が漏れた。続けて、荷が崩れ落ちるような振動が床を伝う。
「蟲さん、行って。明るく、照らすの」
 エリーゼの白燐蟲が雪のように辺りを舞えば、
「「あ」」
 左右の扉の裏、その足元にはそれぞれ1人の男が横たわっていた。
 扉の傍にしゃがみ込み、その隙間から覗き込んだヘイゼル・ローレンベルグ(静寂なる風の流れ・b54104)が至って平坦な口調で告げる。
「囚人服の……おじさん」
 つまり、ナイトメアビーストさんだ!
「何でこんな所に……」
「あぁ!!」
 呟くフィル・プルーフ(響葬曲・b43146)の傍ら、片瀬・美雪(夢見る純情女傑・b19815)がぽん、と掌を叩く。
「扉、手動で開けてたんだ!!」
 さっきゆっくり開いたヤツな!
「あ、あれ……手動だったの……?」
 思わず蹌踉めく日月の向かい、ナイトメアビースト達からも驚愕の声があがる。
「何ィィィィ!?」
「我等、二十五郎様に選ばれし者の中でも、そつのなさでは1・2を争う2人が……!」
 ──ああ、馬鹿かもしれない。
 そんな思いが過ぎる御剣・章(顕現せよ天翔龍の煌虹翼・b48387)。
「もきゅ〜?」
「あっ、ダメなのです……!」
 九重・八千代(伝説かもしれない腹ペコ・b73971)の腕から抜け出したモーラットが、片方の男に近づいた。
「もきゅ〜〜♪」
 楽しそうにつんつんと身体を突いたその時、
「グゥ……まだまだ、だァ……!」
 事切れていたかと思った男が立ち上がり、薄く笑いながらモーラットを掴み上げると、
「こいつの命が惜しくば、その場で大人しくしろォォォォォォォォォォォォォォ!」
 大人げなかった。
「……えーっと」
 美雪も言葉に詰まる。
「もきゅ〜〜〜っっ」
 泣き叫ぶモーラット。
「離して欲しいのです〜っ!」
「もきゅきゅ〜〜っっ」
 必死で足掻くが、男の逞しい腕はふわもこの身体をしっかと捕らえて離さない。
 アリス・ワイズマン(龍の忍者見習い・b57734)も、卑屈な笑みを浮かべる男へと獲物を突きつけた。
「幼気なモーラットを人質……じゃなくてモラ質にするなんテ、卑怯極まりありマセン!」
「その子、可哀想。メイも、離してって、言ってる」
 エリーの声に、その傍らの相棒・メイも頷くかのようにぱたぱたと腕を振り回す。
 その声に、月光を背に瓦礫の山の頂きへ腰を下ろしていた男が音無く立ち上がった。
「よせ……見苦しいぞ」
「二十五郎様……! ですがしかし──」
「彼等の言う通りだ。それとも、我等はそんな卑怯な手段を使わなければ勝てないとでも言うつもりか?」
「もっ……申し訳ありません」
 鋭利な刃物のような瞳に見据えられた男は小さく身体を戦慄かせると、舌打ちをしながらモーラットを解放した。真っ直ぐに八千代の腕の中へと戻るモーラットに、二十五郎は微かな笑みを浮かべる。
「配下が失礼をした。……改めて。我等タルタロスの陣へようこそ」


 上辺だけかもしれないが、まだ理性や彼等なりの義を重んじる様子に、フィルも恭しく頭を下げた。
「此度はとても賑やかな招待状をありがとうございました。ご要望通り、作戦を止めるため銀誓館より参りました」
「フッ……お前達なら来るだろうと思っていた」
 まだ成人前だろうか。
 どこか若さの滲む眦を満足げに細める二十五郎に、フィルは怯まず問いかける。
「ですが、何故……わざわざ犯行予告などを?」
「大胆だよね。ん……まぁ、僕もそのくらい派手な方が好きだけど」
 ヘイゼルの視線を流しながら、少年は一歩、歩を進める。
「我等『タルタロス』の……ッ、力をもってすれば……目的を果たす事など、ッ容易い事。……多少の余興は、あった方が……ッッいいだろう?」
「その妙なお名前は、どなたがお付けに? メンバーの長であるミッドナイト様でしょうか?」
 フィルの問いには、嘲笑を含んだ答え。
「フッ……そういう考えにしか至れないとは……クッ、銀誓館とは……さも浅はかな者達の集まりだった、か? ……ッッ」
「では、『タルタロス』とはなんだ? どうやってタルタロスとなった!?」
 嵐が吼えるも、二十五郎は涼やかな視線で一瞥する。
 進む歩みは、止まらぬまま。
「俺達は皆、『世界に選ばれし者』……ッッ……世界の『声』が、聞こえただけだ。特別な者にしか届かない……ッ夢幻なる調べが、な……クッ」
「おーい、山田ー」
 黙って聞いていたシャンフォンが、口を開いた。
「ッ! その名を、呼ぶな……ッ……グゥッ!」
「「二十五郎様ッ……!!」」
 それまでの冷めた声音に突如熱を混じらせ怒りを露わにする二十五郎に、シャンフォンが続ける。
「とりあえず、さっさとそこから降りてくるネー」
 瓦礫の山で足を踏み外し、落下を必死で堪えている二十五郎へと、どこか憐憫を含んだ視線が向けられる。
 ぶっちゃけ、落ちる寸前である。
 ってか、3m近くはあるな、山。
 ──ダメだどうしようやっぱり馬鹿だ。
 美雪は深い溜息をひとつ漏らすと、呆れ果てながら声を荒げた。
「いいからさっさと降りてきなよ! あと、世界って何? 黒い馬じゃなくて?」
「黒い……ッ馬?」
「そうだよ! 馬鹿で臆病なくせに偉そうで、調子に乗りやすい黒馬だよ!」
「あー……」
 ああ昔夢の中で会った時そんなだったなぁ。
 ……と、双良の脳裏で記憶の邂逅。思わず懐かしさと共に心中で賛同するも、二十五郎本人は表情のひとつも変えずに、瓦礫の山の途中で、指2本で辛うじてぶら下がっていた。
「フッ……何の事やら解らんな」
 言いながらもプルプルと震える手に、日月がどこか宥めるように声掛ける。
「カッコつけてないで、降りておいでよ。さっきから滑って落ちそうだし──」
「女ァァァァァァァァァァ!」
「なっ、何よ!」
 モラ質男が咆えた。
 日月は咄嗟に身を屈めて構えるも、
「受験を控えた二十五郎様に、何たる言葉をォォォォォ!!!!」
「「「受験生!?」」」
 能力者達から驚きの声が複数あがる。
「クッ……ええい、煩い! お前も余計な事を喋るな!! ……うぐッ」
「二十五郎様ァァァァ!」
「……えっと」
 端で聞いていた蓮見・双良(おひさま執事・bn0235)が、仲間へと口を開いた。
「そろそろあれ、攻撃しても良いですか?」


 突如、爆音と爆風が辺りに広がった。
「な、何だ!?」
 背後で響く音。
 が、まだ瓦礫の山(しかも崩れそう)を這い上がってる途中の二十五郎には、何が起こったのか知る術がない。
 どうにか地上1mの所で体勢を整え振り向くと、静まった煙の中には横たわる配下の男達の姿があった。
「貴様……不意打ちとは卑怯な……!」
「申し訳ありません。お話、長そうだったので……。あ、ご安心下さい。寝て頂いただけですから」
 悪夢ですけど、と人好きのする笑みを浮かべながら双良は襟元を指先で緩めた。
「今がChanceデス!」
 飛び出すアリスに、仲間も呼応し地を蹴った。散開し陣を整える能力者等に薄笑いを向けながら、二十五郎も獲物を構える。
「フッ……余興程度になればいいがな……往け!」
「ウオァァァァ嘶け! ブラック・ヒュドラー!」
 そう咆えるモラ質男が、巨大な黒蛇を放った。剥き出しの牙が真っ直ぐにアリスをその進路上に捉える。
「挑戦に応え、銀の誓いの使徒、Alice=Wiseman! HERO見習いとしてお相手致しマス!」
 アリスは半身、立ち位置をずらしてそれを躱すと、手にした魔導書から雷神を解き放った。光雷に貫かれたモラ質男はそのまま膝を付いて崩れ落ちた。
「アナタ達の力、どれ程のものか──って、え? 終わりデスカ?」
「はわ────っ!」
「ってアレ? 九重サン!?」
 背後からの珍妙な叫声にアリスが振り向けば、何故か床に顔から突っ伏している八千代とモーラットの姿があった。
「一体どうして……?」
「今、もら質男が放った攻撃……顔面で食らってた……」
 淡々と、ヘイゼル。
「蟲さん、もう、手遅れ、みたい」
 ジ・エンドだ。
 喚びかけた蟲を留まらせるエリーゼの様子に、ヘイゼルは投げ出されている八千代の足首をひっぱって、ずるずると後方へと引きずっていく。
「き、気を付けないとだね……!」
 顔を引き締めながら内なる気を喚び起こす美雪の左右では、章の剣舞とフィルの弾丸が次々とナイトメアビースト達の体力を削ってゆく。
 二十五郎の顔に僅かに焦りが浮かぶも、すぐに笑みへと変わった。
「フッ……我等が力、見せてやろう。──聖域(サンクチュアリ)展開!」
「「「「イエッサー! スペシャルグレートスーパーパワフルミラージュマックスイケイケ二十五郎様ァァァァ!!!!」」」」
「……ッて、その名前は変えろと言っただろおおおおおおおッ!」
 少年の訴えはよそに、むさ苦しい男達の叫びと共にピンク色の靄がナイトメアビースト達を包み、その傷を癒してゆく。
 なんかちょっといかがわしい。
「あれって、もしかして……」
「サイコフィールド……だね」
「……早く片付けちゃいましょう」
 口籠もる日月に、ヘイゼルは淡々と頷き、双良が項垂れた。
「十字架、来る」
 エリーゼの深紅の瞳が見開かれ、仲間へと咄嗟に告げる。
「世界を造る咎よ! 業よ! 我が戒めの十字となりて……全て、喰らえ……ッ!!」
「みんな……避けろッ!」
 轟音と共に放たれた昏き炎が章の叫びもろとも飲み込み、フロア全体へと降り注いだ。貫くような業火が、皮膚を、肉を裂く。
「メイ、行って。ぺろぺろ、治して」
 思わず片膝をついた章へとメイが駆け寄り、その傷を癒す。ヘイゼルもまた蟲の癒しを与えながら、視線で二十五郎を捉えた。
「……一体何が目的なの?」
「フッ……そうだな。愚かな社会への警告、とでも言っておこうか?」
「警告!? じゃあ、渋谷を壊滅させて、新たなナイトメアビーストを生み出して……そしてその後は?」
 日月の問いに、失笑とも取れる笑みを漏らす。
「……本当におめでたい奴等だな。聞かれたからと言って、そう簡単にベラベラと馬鹿正直に答える馬鹿がどこにいる?」
 確かに一理ある。
 むしろ、そういう考えがあるなら、ここまでの『答え』も『偽り』だと考えて良いだろう。
 そこまで馬鹿でもないのだろうかと思い直す傍ら、章は煽るように啖呵を切った。
「なら、お前は愉快犯だな」
「なんだと……!?」
 二十五郎の瞳に、怒りが浮かぶ。
「そうだろう? 誰にでも胸張って主張できない目的なら……それはただの愉快犯だ!」
「ほう……面白い。そこまで言うなら、お前達の『矜恃』──見せてみろ!」
「言われなくても見せてやるネー!」
 シャンフォンが放ったパラノイアペーパーは二十五郎もろとも巻き込み、全てを紙吹雪の海へと誘った。二十五郎から僅かな声が漏れる。
「まだだ──往け!!」
「「「「スペシャルグレートスーパーパワフルミラージュマックスイケイケ二十五郎様ァァァァ!!!!」」」」
「……ッて、だからそれは叫ぶなあああッ! あと攻撃をしろおおお!!」
「今」
 エリーゼの声に合わせ、剣舞と弾丸が屈強な男達の肉を削ぐ傍ら、嵐が、アリスが、的確にとどめを刺す。
 日月の脚が、弓なりの弧を描いて最後の男の腹を抉った。蹴り出された身体はそのまま激しい音を立てて壁へとぶつかると、マネキンの海へと無言で沈む。
「弱ッ」
「ラストひとりネー!」
「フッ……『インビジブルイージス』があれば、お前達の攻撃なぞかすりもせん! この俺に2度目という文字は──ない!!」
「でも、1回目はあるよね?」
「え?」
 訪れる静寂。
 構わず美雪が続ける。
「あるよね?」
「え、いや、その……」
 二十五郎の額を一筋の汗が伝う。じゃり、と一歩、後ずさる。
「つまりは、全部この一撃で仕留めればいいんだよね?」
「うッ……!」
 二十五郎が急に左目を掌で押さえ、苦しみ始める。
「こ……この痛みは……! もしやあの時の封印が解かれ始めて──!?」
「じゃあ、みんな行くヨー」
 だってそれも嘘なんでしょ?
 と、誰も聞いちゃいねぇ。
「ま、待──」
「お前の顔も見飽きたぜ──紅蓮撃ッ!!」
 嵐が!
「行くヨー。フレイムキャノン!」
 シャンフォンが!
「鉄拳制裁よ!」
「リラ……私達も参りましょう」
「未来はけして消えはしない……ボクは盾を越え、貴方達の記憶をそこに連レテ行って見せましょう──雷迅の術ッ!」
 仲間達の全ての奥義が、二十五郎の身体へと奔る。
「グッ……ま、まだ俺には取り戻さねばならない記憶が──」
「同じ技でも一度に同時なら──どうなるかな?」
「や……待って! 待って下さい!」
 美雪と章が、白き虎の気を指先へと凝縮させる。
「話せばきっと──!!」
「これが俺の全力……一閃ッ!!」
「白虎絶命拳!!」
 瞬間。
 二十五郎の劈くような声が、フロアへと轟く。
「決まった……?」
「フフ……まだまだ──」
 砂埃の中、動く影を見留めたエリーゼが奥義を発動させる。
「最後に、教えて」
 エリーゼが静かに問う。
「……やっぱり、25人、兄弟、なの?」
 一瞬の沈黙。
「フッ……そう、だ」

 ガンッ!

 瓦礫の一角にあったタライが、良い音で響いた。


「結局、タルタロスって何だったんだろうね」
 疲れただけだったような気がしないでもない。
「ってか、これで良かったのか?」
 難しい質問だ。
 だが、ひとつだけ。
 彼等能力者達の誰しもがはっきりと言える事があった。
「……二十五郎、かわいそう、な、人」
 色んな意味で最悪だった、最悪の最悪(タルタロス)──。
 けれど振り返るな少年少女よ!
 明日も強く──生きろ!


マスター:西宮チヒロ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/02/13
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