世界にひとつだけの〜Ud af hjerte


<オープニング>


 貴方の願いは、この世界にたったひとつ、貴方だけのもの。
 貴方の祈りは、世界中探しても貴方にしか紡げない、貴方だけのもの。
 そんな貴方の前にあるのは、銀細工用の粘土と、多種多様のビーズや石、色付けのための道具。
 どんな想いを、どのような形で表現するかは、すべて貴方次第。
 北欧発祥のリンクスを真似て、貴方だけの想いを籠めてみませんか?

「想像力に勝るものは無いって感じだねー」
 イベントの案内チラシを読み終えた君へ、井伏・恭賀が口を開いた。
「去年もやってたやつ、ね」
「リンクスというのは?」
 偶然居合わせた高城・万里が納得する傍ら、神谷・轟が疑問を投げかける。
「えーと、チャームみたいなものだね。作り手によって意味もデザインも全然違うんだ。だから企画者さんも、人それぞれのリンクスでオリジナルアクセサリーを作ってみようって、思ったみたいだよ〜」
 無数の想いを、色や柄、形に宿らせたリンクス。
 予め用意されたリンクス(レプリカ)を組み合わせて、アクセサリーや小物にするも良し。
 銀細工で好きな形に創り、自分なりの表現をとことん籠めるも良し。自由度の高いイベントだ。
 予め用意されたリンクス――と聞いて、例えばどんなものがあるのかと、君は恭賀に問う。
 すると恭賀は、視線をぐるりと斜め上へ動かし、思いつく限りのものを話し出した。

 ワクワクする毎日を願う子には、南の島を連想させるビビットカラーの『トロピカル』を。
 可憐なあの人へは、ロゼを思わせる愛らしい花が散った『ロゼフローラ』。
 輝かしい未来を願い、アドリア海の水面を思わせる『マーレ』の青を添えて。
 新たな旅立ちや新生活へ臨む人へ、王が飾った銀の『クラウン』で栄光を願い。
 金と銀を重ねた『トライアングル』の煌きは、紡いできた絆を確かめる。

 今のはあくまで一例だね、と付け加えることも忘れない。
「後はホラ、私は恋愛って燃えるものだと思うから赤で揃える! とか、落ち着いて勉強できるよう寒色で『ノート』型にしてみよう、とか……守りたい人がいるから『盾』の形を作るとか……そんな感じ」
 各自が持つ色やモチーフへのイメージ、または連想できる言葉でチャームを模っていく。
 そして、出来上がったチャームは、紐を通してネックレスやストラップにするもよし。
 チャームのみを作って、お守りに入れるのも良いだろう。
 考える君の傍で、納得するように唸った轟が口角を上げる。
「……なかなか思いつかない場合は、難しいだろうな」
「うーん、そういう時は誰かに相談すればいいんじゃないかー? 俺も手伝えるし」
 そこまで話すと、恭賀はチラシの下部を指差した。
「迷惑行為は当然駄目だよ〜。あ、あと一般人も参加してるから……その辺も気をつけてね」
 最後だけ囁くようにこっそりと告げる。
「俺も参加するんだー。君たちはどうする?」
 尋ねられ黙り込んだ君へ、まだ時間もあるからゆっくり考えてよ、と恭賀は微笑む。
「参考に聞くけど何作る、の?」
 万里からの質問に、恭賀は迷いもなく『カエル』っぽい何かを作ると宣言した。
 ――能力者さんが、必ずここへ帰ってきてくれますように。
 そんな願いを籠めるのだと、気恥ずかしそうに頬を掻きながら。
 そこで恭賀は、ぽん、と手を叩き思い出したように話を続ける。
「作った後はラッピングだね。ラッピング用品も揃えてるんだって」
「……あたし、ラッピング下手なのよ、ね」
「なに、せっかくの機会だ。練習してみるのも良い」
「そうだよ。俺も教えてあげられるからさ」
 得意そうな仲間を頼ったり、本を読みながら練習したりと、ラッピング時の過ごし方も様々だ。
 君は再びチラシへ目を遣り、参加するか否かを考え出す。

 人と人、世界と人とを繋ぐ愛の証――リンクス。
 無数に存在する色や模様、飾りを手に、貴方はどんな想いを綴りますか?

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参加者
NPC:井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)




<リプレイ>

●Ud af hjerte
 溶ける雪のように美しくしんしんと降り注ぐ心が、数え切れない温かさを抱え会場にひしめいていた。
 リンクス作りの会場は、人々が持ち寄った期待や興奮をも暖房の力へと変え、気紛れに若者達を見守る。
 ピンセットで丁寧に仕上げる戒璃は、ふと『霧隠れ』の面々を見遣り、無事進捗しているかを確かめた。
 はらりと今にも舞いそうな花弁を紡ぐのは漣花だ。そこへ留まった蝶と愛らしいひよこを寄せれば、優しい自然の風を感じられそうで。視線に気づいた漣花が、気恥ずかしそうに意味を音へ変える。
「鳥さんは、いつか。飛べますように、とか、そんな感じで」
「想い籠められとって、綺麗やね」
 ゆるりと笑んだ戒璃の傍ら、弥琴は感歎の声をあげて。
「霧崎先輩のもパパのも……小さな世界みたい」
 自然の息吹を感じる漣花のリンクス。そして、歯車を原動力とした蒼と漆黒の絶妙なバランスがセンスを思わせる、戒璃のリンクス。
「この色の組み合わせ好きなんは、果てしない世界を想わせるからな」
 どちらも、創り手の世界が篭められたものだ。
 だからこそ弥琴も、自らの世界があげる産声を確かめるべく、色の無い雫を鎖に繋ぐ。
 名を呼ばれると言っても、さつきに呼ばれた音はまた違う音を奏でて聞こえ、和奈はゆっくり振り向く。周りに散らばる喧騒さえ、視線を交える二人の間では無と化した。
「うん、決めた」
「思いついちゃった」
 時間が動き出すのもまた同時。重なる言葉に、さつきも和奈も堪えきれず笑いを零した。
 自然の息吹きを彩るのは、彼らだけではない。
 美琴の脳裏に浮かんだのは、桜の花。重ねるのは若草と桜の彩りだった。
 ――自分が決めたことだから、とあの子は言うのだけれど。
 その時の表情を思い出す。笑っていた。優しい笑顔のはずなのに、胸が詰まるような感覚を美琴は覚えたのだ。だから、いつか来る日には渡そうと、そう手の平に祈りを包みこむ。
 用意された道を行くのも、新たに作りあげるのも、年齢を問わず当人を悩ますものだ。
 作家と跡継ぎという異なる道の岐路に立たされた者も、ここにはいる。どんな道へ兄が進もうと、応援する気持ちに偽りは無い。そんな紗耶の眼差しへ応えるに、自分では力不足だと万里が苦笑する。その上で万里が差し出したのは、花咲かす前の蕾。
 一方、悠斗は轟へと相談を寄せていた。
「何をしてそこまででかくなったんだ」
 と尋ねれば、お決まりとも言える「よく寝て、よく食って、よく走るといい」という答えが返る。モチーフ化は難しそうだが、頑張ってみようと悠斗は決意を固めた。
 静かに決意を固める少年がいれば、静かに想いを馳せる少女も存在する。レインの指先は、誰よりも穏やかな人の心へ触れるように、優しくリンクスを繋ぐ。
 いつまでも幸せに、そして道の先が照らされるように。
 仄かにでも願いが力になるのであれば、レインは祈らずにいられなかった。
 そうやって、唇を結び秘めた心を具現化する者の近く、互いに秘める楽しさを味わう二人がいる。出来てからの楽しみにと伏せ合った秘密は、違う物を創っているのに共有しているかのようで、篠も諷治も顔を綻ばせずにいられない。覗き込もうとすれば遮られるそんな仕草さえ、温かく思えた。
「出来た!」
 黙々と作業していた篠が、耳に心地よく響く声で嬉しさを表す。思わず零れたものだからこそ、いやそれでなくても、諷治の願いは同じだ。
 ――この笑顔を、ずっと傍で。

 赤が好きだと先刻言っていた。だから、彼が選ぶのも赤一色かもしれないと縫は考えていた。
 しかし轟が縫の手へ転がしたのは、乳白色にワインレッドが差し込んだ、女性らしい優しいデザインのリンクスで。
「これを一目見て、似合うかと思ってな」
 直感で動いた轟に、縫は瞳を輝かせて喜びを露にした。
 別の場所で、嬉々たる感情を懐くのは、やみぴとコノハも同じだ。対になる存在を共有し、やみぴとコノハは分かち合うべく翼を手にした。
 試しに二つをくっつけてみれば、白と黒が心なしか恥ずかしそうに身を寄せ合う――それはまるで、二人の創り手のように。
 そして、穏やかな流れの中、突然届いたのは。
「美術28点が何だってんだ!」
 そう握り締めたのは拳。燃やしたのは瞳。繰言のように決意を呟く朋也の横から、嬉々としたリズムが響く。
「ともにゃ〜、みてぇ〜」
 創り手に似せた犬――いや、小さな狼のチャームがチョコの前でお座りしていた。一方、朋也の前には黒猫っぽい何かが横たわっていて。
「こんな……はずでは」
 歪さなら、満点だ。
 そしてここにも、歪なネーミングセンスなら、もしかしたら満点かもしれない人材がいる。
「おもいうでわ」
「なるほど、重いと想いをかけてるのかー」
「そう、なんですか?」
「ええ」
 誠が、リンクスの名付けを万里に頼んだ結果だった。そして不意に諷は、万里へ耳打ちする。
「どう包めば、そこの誰かさんが、衝撃受けるか伝授して頂きたい、です……!」
「ほら、そこの誰かさんって猫だから、チャームをビニールで包んで、焼き魚の身の中に……」
「えっ」
「何か内緒話してるー。何々? 何を話してるんだー?」
 弾む声たちはすぐに止むことも無く。
 賑やかさから離れた席では、それさえ届かないかのように二人だけの優しい空間を形作る、耀一郎とひさ乃が向かい合う。
 照明の光を浴びて煌く翼は、羽ばたける未来を齎す。そんな翼を指先でつつく温かさを、耀一郎はちらりと見遣る。少々不格好な翼を前に葛藤するひさ乃に、くすぐったさを覚えずにいられない。
 ――またひとつ、増えるね。
 溢れそうな幸せを、唇いっぱいに刷く。
 増えるんだ、また。俺の宝物が。
 その頃、『桜ノート』の面々は、一つのテーブルについていた。桜と月の組み合わせは儚くも美しいと感じて、歌帆が瞳を眇める。桜は歌帆にとって大切な花だ。友達になるきっかけもくれた花だからと、歌帆は思い出の映像を、瞼の裏へ再生していく。
 一方で八重は、桜色のビーズと、鈴をつけた蒼のリンクス『リトル・ベル』を紡いでいた。銀細工用の粘土で次に結い上げたのは、お気に入りの髪留めを模した桜の花弁で。
「ルシアさん、こんなイメージなんだけど……」
「大丈夫。思ったままを作ればいいんですよ」
 経験を頼りにルシアが二人を手伝い、時折自らの手元を見遣る。
 シャラリ――。
 チェーンを滑る音が、心地よく耳朶を打つ。前で戦うことの多いストレリチアへ、天からの加護が絶えなく降り注がれるように林は祈った。相手を思い遣る心はストレリチアも同じで、穏やかで温かな眼差しを思い出し、完成したチョーカーをそっと抱きしめる。
 見守ってくださる貴方は、きっと知らないでしょう。
 どんなに私が、安心していたか。

●素敵な贈り物を
「これ、お互いのに入れませんか?」
 静かな青と夕空を思わせる紫を摘む佑に、律がふと思いついて口を開いた。すると響佑は、ぱっと表情に花を咲かせ、「俺も使いたいわ〜」とはしゃぐ。
「えーと、意味を調べてみます」
「ん? 深く考えんでもええやんなぁ。俺とりっちゃんの目と同じ色やで!」
 名を思わせるように律儀に意味を調べようとした友人は、その笑みに押し切られつつも、喜びを唇へ刷いた。
 高三といえば進路に悩む時期でもある。
 スバルは銀色のトンボを手に、悩みの中で改めて実感した大切な人たちの存在を、皆への感謝を咥内でのみ呟く。そして、頑張りましょうね、とつつけば応えるようにトンボは光を帯びて見えた。
 光を纏ったチャームを前にしていたのは、『波射瑠挽歌亞』のメンバーもだった。
 仲間を窺いながら、葵は幾つものチャームを見つめ、唸る。徐に誰へ贈るのか周りへ尋ねれば、一矢が迷わず口を開いた。
「器用ではないが、妹への贈り物として、作ろうかと思う」
 魔を退ける銀で家族の無事を祈る彼の顔つきは、兄の顔そのものだ。
 ――嵐堂さんも不器用なのか。……となると、手本にするのは。
 リンクス創りに集中し始めた一矢の言葉を聞き、綜多は逡巡した後、葵へ視線を移す。すると、葵が轟へ何事か相談を持ちかけているのに気づいて。
「……お前ならどれが良いと思う?」
 渡す相手のイメージを聞き、轟は静かにサングラスを押し上げた。
「わかりやすく盾と剣はどうだ? 深く考える必要が無く感じられる意味や想いも、有り難いからな」
「直球で来たか」
 シンプルかつ単純なモチーフを選んだ轟に、様子を見ていた一矢が呟く。まあな、と今度は轟が口角を上げた。彼らのやり取りを眺め、綜多はふと指先に触れたリンクスを寄せる。自分のイメージで良いのだと考えれば、選ぶのも造作ない。
 戦いに向かう者の助けになればと、綜多は剣を手にした。
 直球勝負とは言うが、実際にはその『直球勝負』の一歩手前で手間取っている者もいる。龍麻も、その一人だ。
 南瓜の馬車を模したチャームを箱へ入れながら、どう渡せば良いのか悩む龍麻が、大きな溜息を吐く。決めてなかったのか、と目を丸くした恭賀に、龍麻は盛大に頭を抱えて。
「うわーん、それが一番の悩みなんだよー!」
「あはは、ぶっつけ本番だね。当たって砕けろー」
「砕けたら駄目だってー!」
 これからの行動への不安を口にする若者が、会場の片隅で頭を抱える。

 光に透かした飾りに世界の煌きが集っているようで、エンジュはうっとり目を細めていた。傍らには、笑みを浮かべるセティがいる。色も鼓動も互いに秘めたまま、ふとエンジュはセティの手元を見遣る。そして見比べた自身の手元に、統一性が無いと気落ちする。
「きっと、どこかで繋がってる……よね」
「要は心の持ち様なんじゃないかな?」
 降った言葉に、エンジュはきょとんと目を丸くさせる。次の瞬間には、冬の晴れ間のような笑顔を浮かべて。
 そう、冬の空を覆う冷たさは時に、希望の光を地上へ齎す。能力者とて変わらない。闇に潜む悪意と戦うからこそ、平穏の大切さを知るのだ。
 戦いと日常の両方を行き来するからこそ、切実な祈りを寄せたくて、雹が一つ一つ紐を通す。表と裏で生きるからこそ偏らずに歩めるよう、天秤を通し、雹はそっと瞼を伏せた。
 そして日常は、ここにもある。
 家を模ったチャームは、帰るべき場所を、その温かさを刹那と香夜へ染みこませていった。
「これからも、ずっと、一緒……です」
 いつまでも。香夜のふにゃりと和らいだ笑顔に、刹那が静かに頷く。互いの瞳に、絆の証が色濃く映された。
 一方、恭賀へ迷いを打ち明けた景蒔は、やがて嬉しかった思い出を語りだす。抑揚をつけて語る景蒔の声は、その時の喜びを顕著に物語っていて。
「感謝の気持ちに性別は関係ないっすよね!」
「そうだよ〜、頑張ってねー」
 春の幸福を招くリンクスを手にした景蒔へ、恭賀も心から笑った。
 未来への気合を漂わす空気の向こう、今ここに立つ存在に見惚れるのは、龍樹だ。
 淑女と優しさ。互いに互いが選んだ意味を確認し、龍樹と舞雪は目を細めた。思わず舞雪が零したのは、笑みだけでなく。
「龍樹さんにぴったりで……ふふ、渡すのが楽しみですわ」
 嗚呼、と恍惚と感動の呼気を孕んだのは龍樹だ。
 ――淑女、か。まさに舞雪のような女性ってことだな。
 春待ちの雪のように溶ける、痺れるような甘さを、龍樹はゆっくり噛み締めた。

●平穏の時間
 デザインに悩む機会は、誰にでもあるものだ。寅靖もまた、気難しく唸っていて。
「ええと、俺個人のイメージで良いのなら、琥珀色の物とか」
 センスに自信が無いと溜息を吐いた寅靖は、いちるの一言に目を瞬かせる。
「琥珀、か」
「意味で決めるのもありですけど、その色に惹かれたっていうのも……」
 素敵な縁ですよ。
 そう微笑まれては頭を掻かずにいられず、寅靖は目的の色を探し、視線を彷徨わせた。
 同じように、完成品の想像ができず悩む少女がいる。
 どんな形を作ろうかと眉をひそめ考える華音亜に、澪は対になる太陽と月を提案した。絆を繋ぐリンクスだからこそ、互いの絆を確かめられる存在を。まるで世界を二人で回すかのような、大きくも温かい光を、ぎこちなく紡いでいく。
 別の場所では、南瓜をかぶったニッセの銀細工を創りながら、もう一工夫したいのだとアンナは恭賀へ告げていた。すると恭賀は、月の傍らにバラと、今し方アンナが作った銀細工を寄せる。そして、お日様みたいな人なんだよね、と確認した後。
「なら、お月様の力も借りればもっと幸運になれるよ〜、きっと」
「バラ……」
「うん、なんか君のイメージで。あ、苦手だったらゴメンね」
 思いがけないモチーフをどう思ったのかは、本人のみぞ知る――。
「アガート、順調?」
 しゅるりとリボンを巻く音を耳にし、沙夜が尋ねた。
「無論な。俺がこういうの好きなのは知ってるだろ?」
 背から伝わる存在感は、ずっとそこにあるままだ。顔も、何を作っているのかも見られない。だからこそ今この時間を長く感じ、そして時折寄せられる重みがどれだけ愛おしいものかを、改めて実感する。
 完成なかなか先へ進めない翼を気に留め、氷辻が覗き込む。陽菜も同じく気になったのか、つられるように意識を移して。
「翼、上手く作れてないなら、いつでも手とり足とり手伝うからな」
「な、陽菜、大丈夫だ……多分っ」
 楽しげに笑う陽菜へ、やや焦りを帯びた声で翼は答える。私だけ頼るわけにはいかない。そう懸命に自分へ言い聞かせて。
「あんまり力を入れずにね。楽しんでやってみるといいわ」
 氷辻からの適切な助言に、翼の表情が微かに和らいだ。
 突如響いた亮の「すげえ」という声に、『Raw Ore』の仲間達が目をしばたたく。
「ヤグのコレ、Raw Oreイメージしてるよな! いっくんのもだ……!」
 忙しなく意識を移す亮に、仲間達が小さく笑う。亮からの興味を寄せられた勢は、集めたリンクスを摘みあげて。
「ジンはスターライト。セマはハウス。ヤグはミルクティー。そんで俺はゼブラ」
 関心に応じるように、ひとつひとつを説明した。いずれもリンクスの本を確認しながら選んだ物のため、勢の声に迷いや躊躇いは無い。
「俺シャズナの事で頭いっぱいで、皆でお揃いってイメージが眼中になかったデス……」
「それだけ愛情が深いってコトだもの。奥様もきっと喜んでくれるハズだよ」
 はにかんで頬を掻いた亮へ、ジングルが口の端に笑みを象り告げた。そんなジングル自身は、蜘蛛に随分と時間をかけている。
 明るい橙の瞳をくるりと回し、千破屋はやがて四色の硝子を選び出す。
「これでよし!」
 胸を張った千破屋につられるように、仲間達が覗き込んだ。千破屋が込めたのは、真っ直ぐでシンプルなたった一つの願い。
 ――どうか皆で、これからも。

●世界にひとつだけの
 一寸真面目な話。
 開口一番、竜彦は確かにそう発した。耳だけ傾けたヒソクはチェーンを通し、財布や鞄に付けやすいサイズにチャームを調節していて。
「今僕が此処にいるのはキミのお陰だ」
 ヒソクの手が止まる。
「キミとなら一緒に歩いてくのも悪くないって思った……だから」
 一拍だけ、彼女が振り向く間を生んだ。
「ありがとう。これからも宜しく」
 言の葉が幸福を結い上げる一方では、薄紅と銀の濃さを手に寄せ、テーオドリヒが轟を呼び止めていた。
 贈りたい相手が戦友と聞き、片眉を上げた轟は、尽力しよう、と短く応じる。先ほど誰かが使っているのを見た。そう告げ彼が差し出したのは、ストラップを入れるに丁度良いサイズの紙袋。柄もイラストも無い、質素な茶色の紙袋で。そして封を留めるシールは、四葉のクローバーだった。
 すっかり冷え切ったチャームへ唇を寄せてから、曲織は思い出したように頬を赤らめる。橙の縮緬柄包装紙を巻く指先にまで、覚えた熱が伝わっていく。
「気に入って下さるといいな」
 紫のリボンで結んだ包みを見つめ、曲織はくすぐったそうに顔を綻ばせる。

「ひょっとして器用な方か?」
 小物を作る轟の姿が意外で、暈人は問わずにいられない。羨ましげな声に、しかし轟は首を横へ振る。
「武骨な手だからこそ、こういうものに触れたい気持ちはある」
 そこに僅かながら本音を垣間見た気がして、暈人は「そうか」と短い相槌を返すだけだった。
 ラッピングに励む人々の起こす音が、幾つもの曲を奏で、時間を飾る。
 門出を祝うアルジェントマーレに想いを馳せていた撫子は、寄り添いあうプラチナブーケから視線を外し、予報士へラッピングの相談を持ちかけていた。袋の大きさが大きさゆえ、見栄えが気になったのだ。眉を八の字に下げた撫子へ、恭賀は小ぶりな水草のバスケットを持ってきて、
「コレに入れて、わしゃわしゃと飾りでなんとかなるよ〜」
 と気楽な声で微笑んだ。
 プレゼントを渡すのは、当日になってから。
 だからこそ、急く感情は押し留めたまま、当日を今か今かと待ち望む良と小織がリボンを結う。相手が安らげることのできる、そして相手の帰るべき場所でありたいと少女は瞳へ願いを刻み、良の手を掬いあげた。彼女がそこへ、触れるだけの口付けを添える。
 すると落ち着かない様子で、良の目が手を辿り、やがて少女と視線を重ねた。

 時間は過ぎる。運命の輪も、人と人との関わりも、水が流れるかのように巡りゆく。
 けれど、絶えないものはある。どれだけ巡り過ぎようと、変わらないものは確かにここにあった。
 まるでそれを確かめるかのように、若者達は想いを生み、編み上げる。

 世界中探し回っても此処にしかない、たったひとつのリンクスを――。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:62人
作成日:2010/02/13
得票数:楽しい3  笑える1  ハートフル17  ロマンティック1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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