エコー全開! じいちゃん、全壊!


<オープニング>


 近所でも有名なカラオケ爺さん、それが高山廣之進(こうのしん)、御年77歳のお達者さんだ。カラオケボックスに足繁く通っていたのも先日までの話、ついに昨年末、自宅を改造してカラオケルームを設置し、防音完璧の無敵の砦にて日々、爆発的なエコー&シンギングを楽しんでいる。
 ここに悲喜劇というものがあるとすればそれは、廣之進がもうどうやっても直せないほどの音痴という事実だろうか。リズム感皆無、よれるもたるは当たり前、声裏返るテンポはズレる、挙げ句の果てには歌詞を創作する。しかも止せばいいのになんだか英語混じりの歌が好きで、「うぉんちゅー!」とか鬼気迫る絶叫を行うのである。……いいじゃないか、本人、それで楽しいのだから。
 とんだ道楽爺さんと思われる向きもあろうが、廣之進がカラオケに没頭するようになったのは、長年連れ添った伴侶を喪ってからなのだ。都会に引っ越していった息子も娘も、一年に一度だって顔を見せようとしない。目に入れても痛くないほど大事に思っている孫たちも、とんと電話もよこさない。「うぉんちゅー!」のシャウトは、本当は廣之進の心の声なのだ。
 いま、廣之進はマイクを握りしめたままリノリウムの床に突っ伏し、カラオケルームにて最後の刻を迎えようとしている。長年患っていた肝硬変だ。いつか来るとは思っていた。老人の両眼より、はらはらと涙が流れていた。
「……せっかく、最新の通信カラオケも引いたのに……孫の好きなマンガの曲もいっぱい……あるのに……」
「あらおじいちゃん、気の毒ね?」
 顔を上げた廣之進は、不思議な姿を目にした。声は若い女だ。しかし鳥のような仮面を被り、トーガのような衣装を着て金の装身具を身につけている。古代エジプト博の会場より来たかのよう。
「天のお迎えは、あんたのような姿をしとったのか……」
「ノンノン、そうじゃないわ。むしろおじいちゃんの助けよ。もうちょっと生きたいでしょう?」
「無論じゃ。せめて息子と娘、孫たちに別れを告げたい。あと、新曲も歌いたいし……」
「いいわよ。心臓くれたら叶えてあげる♪」
「おお、生かしてくれるなら心臓でもなんでも……心臓?」
 それは無理じゃろ、と廣之進は言った。
 無理じゃなかった。
 起き上がった廣之進は、いささか具合が悪そうに咳き込んでいたが、マイクを握って立つと晴れ晴れとした表情であった。
「よし、もう一曲いこう!」
「その意気よ」
 リリスはカラオケマシンのリモコンを持ちあげて入力を開始した。

「♪ぱんぱーぱんぱんぱん ぱぱらぱぱんぱーん。伴奏が無くてマイクだけ握ってると虚しい〜♪」
 謎のオリジナルソングを歌いながら、舞子・みつえ(中学生運命予報士・bn0230)がやってきた。
「みんな集まったね? さて今回の依頼は、カラオケ大好きリビングデッドとの戦いだよ」
 決して下手ではないが、かといって歌が上手なわけでもないみつえなのである。
「このリビングデッドはね、リリスにそそのかされて不死の体になっちゃったご老人なんだよ。リリスはシャーマンズゴーストのような仮面を被っていて、ご老人から心臓を奪い取りリビングデッドにしてしまうのさ。駆けつけて、リリスとそしてリビングデッドとなった老人を倒してほしいんだ」
 マイクを握ったままのみつえだが、別にアンプに接続されているわけでもないので音量は普通だ。
 対象となる老人は高山廣之進といい、ひとり暮らしの家を改造して、一室に豪華なカラオケ設備を作ってしまったほどのカラオケ好きだ。彼の『再生』はこのカラオケルームにて行われるという。
「結構広い部屋なんだよ。ほら、カラオケボックスで『パーティルーム』ってあるよね? 軽く二十人くらいは入れそうな感じ。本当は廣之進さん、ここに息子と娘、およびその家族を集めてカラオケパーティがしたかったみたいなんだよね」
 しかしその願いは叶わず、老人はカラオケ機の前で息絶え、リリスによって忌まわしき姿へと変貌を遂げてしまっている。残念ながらどれだけ急ごうと、老人の変身直後にしか間に合わないだろう。
「恐ろしいことになる前に、屍者廣之進さんとリリス、そして、リリスが喚び出す不気味なリビングデッドたちを倒さなければならないよ」
 リリスが使役するリビングデッドは五体。いずれも老人であるという。いずれも古代エジプト人のような装身具をつけて現れる。
「連れられたリビングデッドの力は弱いけど、猛毒の毒爪を生やしているね。リリスは彼らの間を跳び回って、シャンシャンとタンバリンを鳴らして彼らの体力や状態異常を回復させるはず。最初に片付けるべきはリリスかなあ……」
 けれど、とみつえはマイクの尻を上げ小指を立てた。興が乗ってきたのか無意味にシャウトする。
「最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も恐ろしィマギィーッ! ……はぁはぁ、なのはやっぱり廣之進さんなんだ。彼の武器は、その声!」
 マイクを握った廣之進は、破壊的なほどの音痴を武器として攻撃してくる。歌うたび、半径二十メートルの範囲にいる人々は、電気プラグを押しつけられたような痛みを感じることだろう。痛いばかりでなく、文字通り痺れる(麻痺する)のでたまらない。
「精神的に『来る』ほどの美声(!?)なので、耳栓をしても気休め程度の効果しかないよ。他のリビングデッドたちは耳が遠いのか効果がないみたい。リリスも平気な雰囲気だね」  
 呑気にカラオケを楽しむどころか、恐ろしい歌声に耐えつつ力を振り絞る戦いになりそうなのだ。
「結構危険な任務だよね。でも、シャーマンズゴースト風仮面リリスの暗躍を看過することはできないはず。みんなの活躍を祈ってるよ!」
 あと、とみつえは言った。
「終わったらカラオケ行かない? え、この戦いを乗り越えたら、たぶん当分カラオケなんて見るのもイヤになりそう、だって?」

マスターからのコメントを見る

参加者
柊・夏実(平和を求める不屈の空手家・b09116)
葛城・浪漫(赤鼻のピノキオ・b17113)
鏡・翔一(雪風の太刀・b17265)
風浦・小夜(昧爽・b20314)
烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)
柊・小雪(月長石・b27572)
キノン・スプリング(金髪金眼の異邦人・b42880)
比良坂・銀夜(闇守の蜘蛛・b46598)
柳生・狼華(心壊レシ修羅ノ王・b62835)
柳谷・凪(お気楽アーパー娘・b69015)



<リプレイ>

●Break on through
 防音完備といえどそれは、隣近所に音が伝播しないというだけの話だ。家に入り問題の部屋に近づくにつれ、洩れ出ずる声は大きくなってゆく。
 ……それが美声なら、いいのだが。
(「好きこそものの上手なれ、と言う言葉がありますが……。何と言うか」)
 柊・小雪(月長石・b27572)は苦笑いするほかなかった。超人的に音痴、国民的アニメ作品のガキ大将が、リアルに存在すればこんな歌声になるのではなかろうか。
「嘆いていても状況は待ってくれませんから、早い所、あちらに送り返してあげましょう」
 小雪をはじめ一行は、カラオケルームの前に立つのだった。
(「願い通りにはいかなかった会場……ですか」)
 風浦・小夜(昧爽・b20314)は扉に手を触れた。この部屋にいるのは高山廣之進ではなく、『彼であった者』にすぎない。間に合わなかったという事実に、肌寒い後悔が心を流れかけるもそれは一瞬、小夜は気持ちを振り払うようにイグニッションを終えている。
(「全力でお相手を致そう」)
 扉を開ける。
(「それが私の出来る事」)
 
●Take It As It Comes
 ドアの内側は奇怪な光景であった。
 床には血溜まり。今なお点々と、真っ赤な雫を垂らしつつ背を向け、液晶大画面を凝視している老人が、件のリビングデッドに相違ない。
「誰!」
 きっと振り向いたリリスは、シャーマンズゴーストに酷似した仮面を被っていた。エジプト風の装いも異様だ。
 リビングデッドは動かない。マイクを片手に、大画面を見つめているだけだ。
 間奏がやんで歌詞が画面に出る。恐怖の喉、震えるときが来た。強いて表記するとこんな感じだ!
 UBOWOAAAAAAAAAAA!
「聞きしに勝る下手さなのね!」
 烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)は目眩がした。音がブチ割れている! 音程が異次元に突入している! メジロも知っているスタンダードナンバーだけにとりわけ厳しい。黒ずんだ黄土色で塗り込めた様な歌声ではないか。
 キノン・スプリング(金髪金眼の異邦人・b42880)は普段静かな場所で生活しているだけに、この爆音に圧倒されそう。消し飛びそうな意識を支えるように、抜き身のナイフ手に前に出る。
「高速演算プログラム」
 脳裏に溢れだす、強烈な数字の渦、それは脳と神経に強烈な作用をもたらす。刹那、キノンの瞳は数字に埋まった。最適化……完了。
「妨害する気ね!」
 リリスは飛び退くと反対側のドアを開け放つ。そこからわらわらと、エジプト衣装の老人たちが出てきた。いずれも亡者だ。
「邪魔して悪いなジーサン、そんかわり最後までカラオケのリサイタルに付き合うぜ!」
 葛城・浪漫(赤鼻のピノキオ・b17113)も颯爽、キノンと並び前に出た。燃えるような紅髪振り乱し、眩しい白い歯で不敵な笑み。一挙一足がすべて決まっている。これぞ伊達男の本領!
 そのとき廣之進が振り向いた。死相の出た……いや、すでに死んだ顔の口元を微かに動かす。
「から……おけ……ぱーてぃー……?」
「ああ、パーティータイムの幕開けだ!」
 浪漫の返事に気をよくしたか、老人は物凄い笑みを見せたのだ!
「ようこそわしのパーティHEEー! UGOAA!」
 伴奏に乗せたつもりらしいがこれは歌なのか!? 耳をつんざく! しかも、痺れる!
 確実にダメージこそ受けたものの、麻痺は回避した柳生・狼華(心壊レシ修羅ノ王・b62835)だ。苦笑いを禁じ得ない。たしかに、パワフルではある。
「……このヴォーカルのバックでギター弾きたくないな」
 だがパワフルさでは狼華も負けぬ。桜色の刀身持つ剣、払って躍り投げつける――黒い蟲の塊を!
「望まない形にせよ、魂の輪廻から外れたのは事実。……悲しく狂ったその輪廻、私が断ち斬ってあげる」
 黒蟲は黒い翼の如く拡散し、亡者たちを怯ませる。これに合わせ、
「あぅぅ、廣之進ちんがリビングデッドになっちゃったんだよぅ……。はにゃぁ、もう少し早く運命予報がきてくれればなのに」
 柳谷・凪(お気楽アーパー娘・b69015)が同時攻撃! ゆったりした口調なれど、凪の動きは蜂のように俊敏だ。目にも止まらぬ早業で、飛び込み放つは広範囲対象の震脚、半円の鋭利な波動が、亡者三体を吹き飛ばした。
「最近、老人の想いを利用するリリスが増えているようだな」
 これは何か大きな事件の『先触れ』だろうか? 鏡・翔一(雪風の太刀・b17265)は懸念するも、今は思考することよりも、眼前の許されざる状況を解決するが先決、心を定め自己強化を終える。数字の浮かんだ瞳のまま、リリスの位置それに老人たちの位置を、手早く翔一は確認した。
 比良坂・銀夜(闇守の蜘蛛・b46598)の手に、朱く点滅するオトリ弾、上手投げでリリスに投ず。
「任務、開始だ」
 残念ながら命中せず弾はリリスの足元で砕けている。同時に銀夜は問う。
「貴様の主は老人の心臓で何をする気だ?」
「ご想像にお任せするわ」
 リリスは媚笑するような声で答えた。そこに畳みかける声、
「てめぇ、何を企んでやがる!?」
 最後に部屋へ飛び込んで来た柊・夏実(平和を求める不屈の空手家・b09116)だ。彼女も老人の歌声を浴びてはいたが、幸い四肢いずれも動く。
「人の弱みにつけこむ奴ぁ許しておけねぇ!」
 気合い凝縮龍撃砲! これが夏実の怒りの表明! リビングデッドを二体、巻き込んで打ち据え、リリスにも一撃する。
 小夜は床に手を付いたまま動けない。全身が痺れているのだ。頭の中をあの歌声が反響している。
「そんな歌じゃ痺れないもん!」
 と強く出るも、メジロも四肢が硬直しているのは否めなかった。

●ハートに火をつけて
 能力者および屍者たちの乱入で、いささか混乱気味の場ではあるが、廣之進老人はむしろ上機嫌な様子で喉をふるうのだった。……まさか本当にカラオケパーティだと思っているのではあるまいな?
「うぉんちゅー!」
 腐った蜜柑をぎゅうぎゅうに詰め放置した段ボール箱のように、澱みきった歌声が襲いかかる。
 負けない、と、気炎上げる彼は翔一、心意気を……見せる!
「うぉんちゅー!」
 なんと翔一、老人の調子はずれまくり歌唱に絶妙の間合いでコーラスを入れたのだ。孫のような気持ちで。彼は舞って仲間を癒す。
 これで麻痺が消えたとはいえ負ったダメージは軽くない。凪は両耳を押さえてたじろいだ。
「あぅぅ……廣之進ちん、熱唱なんだよぅ」
「凪、大丈夫?」
「大丈夫だよお姉ちゃん! 一緒に元凶をぶっ倒すんだよー!」
 健気にうなずく凪。よし、と右肩を大きく回す狼華。無敵の姉妹は呼吸も同じ、炸裂! 連携の同時攻撃!
「蟲よ……、食事の時間よ。沢山食べて来なさい」
 狼華が黒燐弾を放つと、
「リリスに食らわせるんだよー!」
 凪が追うように、震脚にて仮面リリスを中心とした範囲に一撃する!
「ジーサンや、俺とカラオケ対決でもしようじゃないか」
 浪漫は一瞬だけチェーンソーをマイクのように見立て、リズムに乗せてかく歌う。
「フリッカーじゃなくても、戦闘中歌ってもいいじゃん『アイニ〜ヂュ〜!』」
 振り抜く! 雑魚老人デッドの合間から、浪漫は仮面リリスに切りかかる!
「嬢ちゃんは我が学園のアイドル、マンゴーさんとキャラが被るんでねぇ……早々に退場してもらおうじゃねぇか!!」
 リリスは吹き飛んで、カラオケマシンに後頭部から激突した。
 この衝撃でますます、カラオケのボリュームが、上がる!
「これは酷い」 
 小雪の頭は耳鳴りで割れそうだ。後衛位置であろうと無関係、恐ろしい爆音だ。
「音が……歪んでいますね」
 と苦しみつつも小雪は、ダメージが蓄積している小夜に、ギンギンパワーを与えるのだった。
「どうしてお兄ちゃんとかじゃなくてお爺ちゃんばっかり選ぶのかな?」
 メジロがリリスに問うた。リリスは仮面の奥から、嘲笑うような声で返答するだけだった。
「我らが目的達成のため……それ以上は秘密よ」
 銀夜はこの爆音にも負けず、リリスへの挑発をかけた。
「ふん、主人とは名ばかり。表沙汰に出来ん企みをするばかりの小物か」
 銀夜の狙いは、間違ってはいない。
「何を!」
 リリスはカラオケ機から背を起こして向かってくる。そこを精確に、銀夜はオトリ弾で打ち抜くことに成功したのである。
「殺す! 殺す殺す殺す! マギィー!」
 リリスのハートに火がついた模様、冷静さを失って銀夜につかみかかろうとするも、これを迎撃するのが、小夜とキノンのコンビネーション。
「キノンさん、行けますか?」
「はい。風浦さん、合わせていきましょう」
 左側面から小夜、リノリウムの床を綺麗に滑走、その姿勢から、
「リズムを刻むのは貴女だけが得意な訳じゃない」
 上方めがけ逆流する滝のように、グラインドアッパーを与うれば、右からはキノン、
「あなたの動き、そろそろ慣れてきました」
 輝ける雷、ライトニングヴァイパーで黄金の猛襲だ。
 天井に打ち上げられ、激突するなり電光浴びて、もはやリリスは虫の息。
「諸悪の根源は……断つ!」
 そこに夏実の龍撃砲が飛ぶ。衝撃波はデッドを押しのけ壁に叩きつけ、リリスの顔面を捉えた。
 くぐもった声を上げてリリスは受け身を取れず落下する。起き上がろうと腕に力を込めるも、次の瞬間には崩れ落ち消滅をはじめていた。
 しかし楽観はできなかった。リリスにかかりすぎたきらいがあるかもしれない。雑魚とはいえ五体ものリビングデッドが絶えず押し寄せ、それに上乗せして恐ろしい『美声』が飛ぶのだ。全体攻撃となる歌声は、着実にメンバーの気力と体力を蝕んでいった。
 老人の歌は若向けのアニメソングへと変化している。といっても、これを聞いても原曲を思い出せるかどうかはすこぶる怪しいのだが。
「おじいちゃん、歌が下手なのね。音程やテンポもおかしいけど、歌詞をちゃんと歌えないのが、一番ダメなのね!」
 メジロの言う通りだ。老人は言葉足らずになるたび、おかしな歌詞を付け足しているのだ。メジロはすでに軸足を老人に向け、クレセントファングを与えている。どれだけダメージを受けようが、握ったマイクを離さぬデッド廣之進は、ある意味凄い。
「効くね〜、その歌声……イテテ」
 浪漫は一旦後退して自身を回復させた。
「まさに心からの叫びといったところだな……」
 翔一の果たす役割は大きかった。常に赦しの舞、あるいは祖霊降臨を用い、味方を回復させてチームを支えんとする。このまま保つだろうか。
「この世の名残の歌でしょうか……やはり酷い」
 遅れず小雪も、ギンギンパワーで順番に仲間を回復させている。既に耳は騒音に覆わ、自分の声すら壁を隔てた向こう側から届くような気持ちするが、負けない。
 キノンと小夜が再度連携をかけ、狼華と凪の姉妹も遅れじと続く。
「老人よ、そんな悲しいばかりの声では相手に届かんよ」
 この声が届いているが不明なれど、銀夜ははっきりと告げた。
「自分の為に歌う歌では、誰も呼び戻す事は出来んさ」
 だが銀夜は魔眼で追い打ちを狙うも、「ぷりーーーずぅぅ! YEAH−!」なる老人のシャウトで麻痺してしまった。
 いや、麻痺したのは彼だけではない。
「ちっ……」
 夏実は小指すら動かせぬほどの強烈な麻痺を負い、凪も再度硬直に陥ったが、
「後ろへは絶対に行かせないっ!!」
 すぐさま狼華が妹の盾となる。亡者がつかみかかってくるが姉は、強し。ケルベロスベビーのマトラも飛び出して勇敢に吼えたてた。
「夏実ちゃん!? すまねぇ!」
 浪漫がフォローに走ったが一歩、及ばず。夏実は敵三体から集中攻撃を浴びて床に倒れている。
「ジーサン、あんたの孫くらいの女の子いじめてどうすんだー!」
 恥ずかしくないのか! 思わず浪漫は叫んでいた。
「わ、わし……」
 瞬間、廣之進が声を詰まらせた。
「高山殿、次は我々が歌う番だ」
 翔一はこの機をとらえ、舞うことで仲間を解放する。
「歌って、くれるのか!?」
 老人はマイクを通さず地声で言った。
「ああ。貴方への鎮魂歌、聞いて貰おう」
「聞きたいものじゃ……」
 リビングデッドは溜息するように言った。もしかしたら彼は、自分が歌うだけではなく、来訪者と一緒に歌いたかったのかもしれない。
 そして、キノン、
「さようなら、高山さん」
 彼女の放った雷光が、老人を粉砕したのだ。
「聞いたぞ歌を……さんきゅーぐばーーい!」
 老人は粉々になりながら、どこか嬉しそうな表情をしていた。その顔のまま消滅する。
(「奏でていた廣之進さんのメロディ……彼にとって心地よいものだったのでしょうか」)
 そうだとしたら――小夜は思った。
 そうだとしたら、私は少しだけ、嬉しい。
 小夜が雑魚デッドをクレセントファングで切り裂く。
 音楽は終わっていた。
(「爺さん、あんたが孫を愛していた事、俺は絶対に忘れんよ。安らかに眠るといい」)
 銀夜の脳裏には、廣之進の最後の表情が焼き付いていた。
 急に静かになったカラオケボックスに、小雪のスケッチが躍る。
「あと少し」
 小雪に描き生み出されたリビングデッド絵はディフォルメタッチなれど、その獰猛さはオリジナルに勝るとも劣らない。
「残りのおじいちゃんたちも、そろそろお休みの時間なのね!」
 メジロが気流を操作して、天井近くに一体を吹き上げてしまう。
 残った屍者が一掃されるまで、さほどの時間は必要ではなかった。
「出来る事なら、もう少し歌わせてあげたかったが……」
 敵の消滅した部屋に、翔一は一礼した。
 それではせめて老人の分まで歌うとしよう。場所を移して。

●The End
 駅前にある普通のカラオケボックス。その小綺麗な一室にて。
「はぅぅ、後味の悪い依頼だったにゃぁ……廣之進ちん、可哀想だったよぅ」
 だから、と凪はマイクを手にし、もう一本を狼華にも渡す。
「レクイエムを歌うんだよぅ。お姉ちゃんもー」
「ふふ、望むところよ。しっとりと歌い上げましょうか」
 姉妹の歌声が、鈴の音のように空間を満たした。
「柳生姉妹は本当に歌が上手いね。プロでもやっていけるんじゃないの?」
 銀夜は、惜しげもなく拍子を送るのだった。
「それではお恥ずかしながら、二番手、参ります」
 小雪がマイクを持ちあげた。美しいバラードのイントロが聞こえてくる。
「これぞまさに口直し、いや耳直し? なのね!」
 小雪の美声に身を預けつつ、メジロは内線で人数分のドリンクを注文してくれる。
「中和される気分だ……」
 翔一は背を伸ばし、液晶リモコンで何を歌うか検討中だ。
「へっへっへ♪ カラオケ久しぶりだねぇ♪」
 浪漫は携帯メールを終え、会心の笑みを見せた。みつえに連絡した。すぐに来るそうだ。

 同じ頃、夏実は高山家に残って老人の冥福を祈っていた。
「……歌声は心の叫び、か。気持ちは解る気がするぜ」
 リリスは消滅し、何も残さなかった。だが夏実は直感的に知っている。
 そう遠くない将来、『何か』が起こるだろう、と。


マスター:桂木京介 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/02/10
得票数:楽しい12  せつない8 
冒険結果:成功!
重傷者:柊・夏実(平和を求める不屈の空手家・b09116) 
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。