アフターバレンタイン殺人事件(未遂希望)


<オープニング>


 某学校の屋上は、修羅場中。
 今年のバレンタインは土曜日だったわけで、平日になり学校が始まってやっと、色々な情報が出そろった感じか。
 そしたらまぁ、喧嘩の火種は出てくるわけで。
「バレンタインにかこつけて、人の男にコナかけて雌豚がぁあああ!」
「最近倦怠期だって、うだうだするぐらいならユウ君だって新しい恋に行った方がいいよぅ」
「ユウ様は、私が一番だと言って下さいました」
「ユウ君、僕との愛は嘘だったの?」
「いやぁ……」
 沢山のラブラブしいチョコを抱えて、ユウ君は頭を掻きながら至福の笑みです、このやろう。
『そうやって笑ってられるのも今の内だよ……』
 刹那、低い低い声が響いたかと思うと、屋上に集まる男女計5人が次々に鎖鎌で斬り殺されていく。
『だって、そのチョコには毒薬が忍ばせてあって、死んじゃうんだからね』
 ……命を狩った涼しげな瞳の青年の口元には、吐いたような赤の水。

「……何マタぐらいかかってたら、犯人特定が難しくなるのかな? あ、名無しで下駄箱につっこんどきゃいいのか?」
『バレンタインチョコでの毒殺方法』などという物騒な事を真剣に考えているのは、星崎・千鳥(中学生運命予報士・bn0223)である。
「あぁ、今回は地縛霊退治だよ」
 端には無理矢理つなげた感満載だが、千鳥は至極当たり前だという顔で話し始める。
 場所はある学校の屋上。
 そこに1体の地縛霊が現われるらしい。
「きっかけはバレンタインチョコ絡みの修羅場。ほっとくと5人の犠牲者が出る予定」
 言葉だけ聞くとありがちな男女の痴話喧嘩だが、地縛霊絡みとあらば放置しておくわけにもいくまい。
「呼び出す方法は、バレンタインチョコ絡みで修羅場を演じてくれればいいよ」
 2股3股かけたとか、そう言う奴をやればいいらしい。
「地縛霊の特殊空間には喧嘩してる人だけが連れ込まれるから、8人で頑張ってね」
 7股とかやり過ぎだろ? と言われれば千鳥は軽く肩を竦める。
「自由度は高いよ? 例えば……」
 千鳥は黒板に『主人公』『恋人』『コナかけてきた奴』『そいつの元彼』『恋人のお父さん』『元彼が復縁した別の彼女』『主人公の血の繋がらない双子の姉』……と、現実感のない設定を含め綴っていく。
「とまぁ、恋愛絡みで喧嘩してくれればいいよ」
 例に挙げた物にあまりこだわらず配役のアイデアはご自由に。
 ただ誰を『主人公』にするのか、痴話喧嘩をするという点は押さえておこう。
「敵の攻撃方法は、2つ」
 千鳥はぴっと2本の指を立てて続ける。
「周囲に呪いの言葉をまき散らして、じわじわ命を吸い取るのと、腕に下げた鎖鎌で一人に斬りかかる攻撃」
 前者は侵食の効果、しかも広範囲対象とは非常にやっかいだ。
 対策を練らねばと唸る能力者に千鳥は続ける。
「お芝居続行すれば、敵はそちらに気を取られるから弱くなるよ」
 具体的には前者の侵食つき広範囲攻撃が出なくなる。
 鎖鎌の攻撃だけなら、能力者8人で容易く蹴散らす事が可能だろう。
「あ、戦いながらだし、台詞だけで充分だよ。あとは……」
 考え込む予報士に、皆の視線が集中する。
「……チョコ食べて『ど、毒が』とか苦しむと、すごく喜ぶよ」
 オチが毒殺だと喜ぶらしい。
 だからどうだと言われればそれまでだが。

 学校の制服を配り、千鳥は締めくくりに入る。
「銀誓館と一緒で小中高校一環の学校だから、潜入は簡単。ま、地縛霊を倒して被害者5人の事件を未然に防いでよ」
 ……予報で視えた彼らの修羅場がどうなるか、それはまた別の話だしね、と千鳥は肩を竦めた。

マスター:一縷野望 紹介ページ
 バレンタインって男が貰うんだっけ女が貰うんだっけ?
 とか、忘れかけた一縷野・望(いちるの・のぞみ)です、よろしくお願いします。

 ネタばっかり続いてますが……これは時節柄今出しとかないとなぁと思いたって出しました、まる。
 リプレイは呼び出しの芝居がメインになると思います。
 どうぞお好きなように演じて下さい。

>地縛霊を呼び出すには
「バレンタインチョコレート」という単語を入れて修羅場を演じる。
 特殊空間には修羅場に関わっていた人が引きずり込まれる。

>地縛霊 キョウジロウ君
 白ランの美形、口から血みたいなのを吐いてる。

>攻撃方法
1.『あのチョコレートを食べなければ良かった……』
 20m全周ダメージ小+侵食

2.『せめて道連れに!』
 近接単体ダメージ中

※1の攻撃は、全員で修羅場芝居を続行すれば行われません(台詞のみでOK)

 以上。
 皆様の修羅場をお待ちしております。

参加者
黒霧・ちはや(二次元こそ至高・b30709)
尭矧・彩晴(ベリルユピテル・b38169)
スヴェトラーナ・ルネヴァ(虹を纏う蛇・b57288)
太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・b59223)
舞城・笑弥(剣で脅すより笑顔で脅かせ・b59830)
七陸・暁(死屍越え行かば・b62247)
フィー・リージア(暖かい氷の風・b69264)
ユベール・ミツヅリ(虚数世界の申し子・b73583)



<リプレイ>

●虚構:トライアングル・ラブ
 2月某日。
 まだ冷たい風が吹き抜ける学舎の屋上に、1人の少年が所在なげに佇む。
 眼鏡越しの瞳は麗しの翡翠。
 風に煽られる銀糸の隙間から覗くは真白の襟足。
 そは甘美な毒か、それとも……。

「お兄ちゃん」
 フィー・リージア(暖かい氷の風・b69264)は兄によく似た銀の髪を揺らしながら、屋上へと現われる。
 胸には小さな手で一所懸命作ったチョコレートを携えて。
「フィー、そんなに走ったら」
 だめだよと、兄の尭矧・彩晴(ベリルユピテル・b38169)が病弱な妹をたしなめたが――遅かった。
「バレンタインのチョ……けほっ」
 タタタッ、こてっ☆
 可愛らしく転んだ。
 けほけほっ、どばしゃあああああ!
 コンクリート血染め。
「え?」
 彩晴、引いた。
「けほっ……大丈……ぶ、だよ……げほっけぼぼぼぼっ」
 うああ、まだ出てるまだ吐血ってるよ! 全然大丈夫じゃないよ!
「毎年、けほっ……私のチョコを楽しみにしてくれ……げほっげほっ」
 血まみれリボンが絡む箱を差し出すフィーを見下ろし、彩晴はふるふると首を振る。
「そんな血まみれのチョコは食べたないわ!」
 果たして鬼畜男の演技か本音か? 普段の訛りで全力拒否。
「……チョコにも入れたから、けほっ、ちょっとぐらい血がついても味は変わらないよ」
 チョコに血を入れたのか。
 俺を殺す気か。
 そんな心のぼやきを口にしようとした刹那、ぴしゃり血だまりを踏みしめる足音。
「あぁ、彩晴様!」
 フィーとの間に割っては入ったのは、艶やかな漆黒髪に高貴な笑みを称えた舞城・笑弥(剣で脅すより笑顔で脅かせ・b59830)。
「初めてお会いした時からずっとずっとお慕い申し上げておりました!」
「……光栄だね」
 内心『ホント誰コイツ』だが、取りあえず金持ってそうだし笑って受け流す。
「ところで、いつ逢ったっけ?」
「婚約用のお写真でそのご尊顔を拝見して以来」
 逢ってないし。
「毎日のように彩晴様の事を見ておりましたわ」
 柱の影から、教室の隅っこから(キャンパスはおろか、学年すら違います)家に仕掛けたカメラから。
「監視されてる気配は、気のせいじゃなかったんだ」
「他にも……」
 毎日百回携帯電話をワン切りしたり。
 近寄る女を見かけたら当家の黒服に排除させたり。
「ちょっと積極的に、深夜にドアを泥靴で蹴ってわたしの痕跡を刻んだり、その他にも……」
 嬉々として並べ立てられる行為はどう考えても犯罪級。だって笑弥はヤンデレストーカー令嬢ですもの!
「わ、私の手術が中止になったのも……」
「ええ、手を回しましたわ」
 あっさり肯定。
「お、お兄ちゃん! ヒドイよ!!」
「え、俺?」
 血の池に倒れながらのフィーの怨念篭る声に後ずさると、ふわんと柔らかな感触が彼を包み込む。
「ハル君……お姉ちゃん、振られちゃった……」
 きゅぅ。
 海老茶の瞳に涙をためて彼を背中から抱きしめるのは、太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・b59223)。
 隣に住む優しいお姉さんの彼女だけは『ハル君』って呼ぶ、そんな特別扱いってちょっといいよね。
「貴女、暁だけでなく彩晴にまで! 何て人!」
 彩晴の兄、七陸・暁(死屍越え行かば・b62247)の腕に体を密着させていたスヴェトラーナ・ルネヴァ(虹を纏う蛇・b57288)は、綺麗な形の眉根を寄せて睨みつける。
「誤解されても仕方ないですよね。ハル君の『お姉ちゃん』やめられなかった私が悪いんだもの」
 そう言いながらも絡みつく腕はお姉ちゃんを超えた密着度です。
「何が『お姉ちゃん』よ! 私が彩晴の恋人だった時も、貴女の影がちらついていて……だから私達は……!」
 スヴェトラーナは当時の事を思い出し、胸が煮えたぎらせる。
「兄貴、何やってんだよ」
 髪をかきあげて溜息混じりのジト目の先には俯く暁。

『チョコ、用意してたんだ……これ、私の前で割っちゃって?』
『そういうことはできない』
『そうすれば私……暁君のコト、嫌いになる……から』

 フィーの吐血音と笑弥の犯罪告白(自覚なし)が響く中、そんな千枝と暁の会話を耳ざとく聞いていた彩晴、自分の事は棚上げだ。
「ふぅ」
 フェイドアウト狙いの暁だが、無理と悟ると自爆覚悟で弟を引きずり下ろしにかかる。
「恋愛感情なしの付き合いは、不幸でしかない。お前もそう思いませんか、彩晴?」
 うわ言い切ったよ、兄。
「確かにそうだけど」
 と、傍らの2人とついでに背後のお姉ちゃんを見る弟も大概だ。
「ダメな『お姉ちゃん』でゴメンね」
 湿り出す背中に向けて「兄貴じゃなくて俺だったら良かったのにな」と自動的な殺し文句。
 息するように口説くよ、この男。
「ハル君……」
「ヤダ!」
 千枝と彩晴を引きはがすように間に割って入ったのは、黒霧・ちはや(二次元こそ至高・b30709)だ。
「サイ兄ぃをたぶらかさないでっ」
 鳶色ツインテ、幼なじみ。
 キッと反対隣の娘さんを睨みつけると頬を膨らませて続ける。
「……あの夕暮れ時、約束したじゃんか。ボクをお嫁さんにしてくれるって」
 しかもボクっ子、更に幼い頃の約束――3種ならぬ4種の神器をひっさげて、ちはや参戦!
「え? そんな約束したっけ? ……ッ、あ」
 慌てて口元に手をあてる彩晴に、眼鏡越しの鋭い眼差しを向けるのはちはやの弟のユベール・ミツヅリ(虚数世界の申し子・b73583)だ。
「ほら、やっぱり覚えてない! お姉さんの事、どうでもいいんだよ!」
「ユ、ユベール君……そんな事無いよね?! サイ兄ぃ」
「もちろん、ちはやは大切な幼なじみ(と書いてルビは『ひと』)だよ!」
 爽やかな笑顔でたらし込みつつ、生意気な弟にはガン飛ばし。

 ――この男、どこまでも修羅道を歩むつもりらしい。

●虚構:三角どころの話じゃねぇよ
 真紅の絨毯の上で、8人男女の喧噪舞台はなおも続く――。
「彩晴様に触れて良い女は、わたしだけなんだからぁっ!!」
「お……お兄ちゃん」
 笑弥がヒステリックに叫べば、血まみれのフィーがゆらりと立ち上がり彩晴へと倒れ込む。
「お医者様に言われたの。私、先が永くないかもしれない、って……」
 でた必殺技『命のタイムリミット』!
「フィー……」
「げほっ……だ、だから、私のチョコにして」
 抱き留めた所を再びチョップで割ってはいるのはちはやだ。
「サイ兄ぃが、優しいのはよく分かってるよ」
 ……断れないんだよね? 本当はボクのしか受け取りたくないんだよね?!
 質問という名の強制に、彩晴は曖昧に頷く。
「けほっ……げぼっっ、ん……こほっごぼぼ……」
 だくだくだく。
 足下で赤い絨毯の面積を更に広げるフィーを無視して、ちはやは腕を掴み縋る瞳で続けた。
「受け取ると心が傷つく人がいるんだよ」
 あー、フィーが傷ついてますね……心より身体だけど。
「彩晴様に近寄らないで下さる!? この下賤の女」
 笑弥が振りかぶった掌が、ぺちぃーん!
「くっ」
 何故か暁にクリティカルヒット。
「あ、暁君!」
「大丈夫ですよ」
 頬を腫らした暁をそっと支える千枝に、スヴェトラーナは呆れた視線を注ぐ。
「本当、節操ないわね!」
 矛先が兄に逸れた。
 とりあえず倒れた妹を抱き起こしてこの場をごまかそうかなー、なんて逃げを打とうとしていた、が。
「彩晴様! チョコレートですわ」
 無理だった。
 笑弥に襟首掴まれて差し出されるは、チョコレート。
 受け取らないと殺しますわよ? って顔とメッセージカードに書いてある。
「ヤダ、受け取らないでよぅ」
「お姉さん」
 感情のままに涙ぐむ姉を、ユベールがそっと抱き留める。
「だから言ったのに。彩晴兄さんは止めた方が良いって」
「だって……だってぇ……」
 自分より高い姉の背をさすりながら、少年は優しく甘やかに囁き始める。
「僕がずっと一緒にいるから、彩晴兄さんのことは忘れよう」
「あああ、ガキっぽく姉弟で宜しくやってるのがお似合いだね」
 鬱陶しさがじわじわと、だから思わず幼なじみ姉弟に吐き捨てた。
「お姉さんを馬鹿にするな!! お姉さんは僕が守るんだ! お前なんかには絶対渡さない!」
「ユベール君」
 きゅん。
 ちはやの乙女心が弟さんに点滅開始「ダメ、弟になんて!」とか言ったってもう止まらない。
「彩晴ったら相変わらず派手ね。私には冷たい癖に」
 スヴェトラーナは髪をかきあげて、元恋人向けて嘲りをぶつける。
「だってスヴェナ先輩……凄ぇ綺麗過ぎて」
 逆に怖かった、そんな台詞を呑み込んで見つめれば、強気に唇を閉ざすスヴェトラーナが頬を染める。
 ……まだ口説くか。
「な、何よ……い、今の私には暁が」
 未練に痛む胸を押さえながら、スヴェトラーナは今彼の暁へと、手にしたシックな包みをそっと押しつける。
「ねえ暁、好きなのは私一人よね?」
「もちろんですよ……千枝、ごめん」
「ううん、いいんです」
 でもってお姉さんは彩晴を後ろからぎゅむー!
「彩晴、義理よ、義・理」
 妬けたのか元カノからチョコがぐいぐい。
『そのチョコ……毒入りなんだよ?』
「入ってるわけないでしょ?! 暁すぐ食べて!」
「お兄ちゃん、フィーのチョコ……ストロベリーソース」
「いや、それ血だろ?!」
 どんよりと暗がりに堕ちる屋上舞台――。
『食べて死ねば……いいんだ……』
 陰鬱な声――。
「そんな物より、愛情たっぷりのわたしのチョコを是非、召し上がれ」
 彩晴の口につっこむ勢いで差し出される笑弥のチョコは、なんか白く粉吹いてるよ!
「なんや、この粉?!」
『……毒だよ毒』
「まぁ失礼ですわね! ちょっと動きを封じてお持ち帰りするためのお薬でしてよ!」
 痺れ薬かよ!
「誰よりも優しくて綺麗で素敵な僕のお姉さん」
「ユベール君、ダメ……ボク達姉弟なんだよ?」
「関係ないよ」
「いや、あるだろ」
 そうつっこむ彩晴も、実の妹フィーに期待を持たせる色ボケなわけだが。
「……クッ」
 不意に、暁がたたらを踏んで倒れかける。
「けほっ……このチョコレート……まさ、か」
「ふ、ふふ、ふふふ」
 スヴェトラーナの勝ち誇った笑み。
 どさっ!
 前のめりに地縛霊の足下に倒れる暁。
『わぁい、毒入……』
「この毒婦!」
「毒婦? 結構だわ、それも貴方達兄弟のせいよ!」
「俺は関係ないだろ!」
 彩晴、ここに来て責任逃れ。
『………………』

 ところでキミ達。
 出てるよ、地縛霊。

●地縛霊だけは現実で
 白い学生服を着た彼が憂鬱な顔をしているのは、きっと地縛霊だからだ。相手してもらえなかったからなわけ、ない。
『チョコ、食べなきゃ良かったんだ……』
「ごちゃごちゃと、本当に嫌気がさした!」
 やっと台詞が言えたよって思ったら、温厚な暁が切れて吼えた声に可哀想なぐらい顔色を失う地縛霊。
 暁は地面にバス停を突き刺すと寄っかかるようにして立ち上がる。
 ところで。
 銀誓館の能力者は優秀です。地縛霊が現われたのをちゃんと認識してました。
 うん、しっかり自己強化済み。
 ぶぅうん!
 力任せのバス停で殴られた地縛霊を待ち受けるのは、スヴェトラーナ。
「貴方を殺して私も死ぬわ……!」
 彩晴の腰に『虹を纏う蛇』を突き立てる……素振りで体内の白燐蟲を身に纏う。
「私にはヤマブキがいるの。ごめんね、ハル君」
 千枝は傍らのケットシー・ワンダラーとあわせて油断した地縛霊に攻撃開始。
「けほっ……兄妹だけど愛してくれるって、言ったじゃない!」
「兄弟愛を勝手に誤解したのはお前だろ?」
 涙のたまった瞳でサイテーな兄を睨むフィーは、こきゅっと首を左に向けると地縛霊に冷たい吐息を吹き付けた。
『あ』
 氷に蝕まれる地縛霊にぷすっと突き刺さるのは破魔矢。
「彩晴様、愛してます! ずぅっと一緒ですわよね?」
 狂気の笑みで「ねぇ」と同意を強要するヤンデレストーカー令嬢は、地縛霊より絶対怖い。
「でも、でもやっぱりボクはサイ兄ぃが、好き!」
 弟を振り払って、ちはやは音がするぐらいぐっと拳を握り込む。
「サイ兄ぃのバカー! ヘタレー! 甲斐性なしー! 優柔不断ー!」
 どごおっぉおおん!
 地縛霊の頬にクリーンヒット。
『なんで……ボクを殴るんだよぅ』
「やっ」
 当然の抗議と共にちはやに鎖鎌が浴びせられる。
「お姉さん!」
 振り捨てられても速攻で回復するユベールの弟心がいじましい。
 ぜーぜーはーはー。
 ぜーぜーはーはー。
 髪振り乱し息を切らし、8人の男女の間に飛び交う火花。
 全ての起点は――。
「けほっ……」
 盛大に吐血し、ふらふらと膝を揺らすこの男、尭矧彩晴に他ならない。
『ほぉら、やっぱりチョコは毒入りだー』
 えへらぁ。
 満面の笑みで足の鎖を鳴らす地縛霊キョウジロウ君……の背後の7人を見通して、彩晴は叫ぶ。
「お前ら、色々勝手に言い腐って……けほっ」
 地縛霊、スルー。
「勝手やったのは、お兄ちゃんだよ」
 血入りチョコを押しつけた、妹フィー。
「私のものにならないからよ」
 思いっきり兄を毒殺した、元カノのスヴェトラーナ。
「結婚式の日取り決めなくてはいけませんわねぇ」
 手段を選ばぬヤンデレ令嬢、婚約者笑弥。
「未来のお嫁さんいるのにデレデレしちゃってっ!」
 思い込みが激しすぎる、幼なじみちはや。
「僕は貴方が嫌いです、大嫌いです」
 ちはやをこの場に連れてきた病的シスコンの、ユベール。
「お姉ちゃんは……味方だよ?」
 彩晴とのズルズルが破局の原因の、隣のお姉さん千枝。
「本当にお前は我が家の恥だよ、彩晴」
 今カノも元カノも実は弟にゾッコンでイイ面の皮の、兄暁。
 ……なんかもう容疑者しかいないんだけど、一応聞いておこう。

 犯人は、誰?

「俺は……俺はなぁ…………」
 天球儀が抱く砂時計――『TIME-LIMIT』は自分で追い込んだからもうそこまで迫っている。
 ――そんな殊勝な事を思うわけもなし。
「2次元至上主義なんだああああああ!!!」
 うわ。
 ここに来てそのオチかよ!!
 この場の誰もが思った。
「さっさと根の国還れーー!」
 満面の笑みの彩晴は渾身の力でもって、地縛霊を鎚で叩き払った。
 きらーん☆
 キョウジロウ君は、この世界から消し飛んだ。
 そして。
 演技を忘れた一同に、彩晴はちょっとだけフルボッコにされた。
 気持ちはすごくわかります。

●アフター殺人事件
「皆さんお疲れ様でした」
 暁の持参したお茶を手に、和やかムードで演技を労いあう面々。
「酷い事言ってしまいすみませんでした」
「ええよ、面白かったし」
「ホントの恋はまだ知らないけど、それらしく見えてたら嬉しいな」
「迫真の演技だったわよ」
 ウインクしつつスヴェトラーナは、皆にチョコをプレゼント。
 疲れた後の甘いものは最高ですよね。
「食べた、わね?」
 くす。
 冷たい笑みと共に低い声で言われ、ちはやが「え、毒?」と喉をつまらせる。
「嘘よ」
 わき起こる笑い声の中、ふと小さく呟く笑弥。
「……演技なら、愛してるも言えるのに、ね」
 うん、頑張れ女の子。

 ――。
 あ、蛇足ながら。
 毒殺犯は全員ってコトでひとつ。


マスター:一縷野望 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/02/26
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