<リプレイ>
● 広大な自然公園の片隅に、問題の桜の樹はひっそりとそびえ立っていた。 つぼみはかなり膨らみつつあり、もう暫くすれば良い花見スポットにもなりそうだったが……。 「満開になっているのを想像しながらー……っていっても限度があるよねぇ」 「んー……もう少し後だったら桜も少しは咲いていたのだろうけどなー」 観堂・乃愛(微笑みの運び手・b73183)のぼやきに、枝を見上げつつ烏丸・千早(風華剣舞・b72175)が応える。 花はまだ咲いておらず、しかもこの日は冬に逆戻りしたような気温の低さ。 「へっくしょい! 大門さん、凄い格好ですねぇ」 「……まわりの目を気にしちゃダメだ!」 鼻をすすりつつ、志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)は自分より遥かに薄着――パステルカラーの春服を纏った大門・優姫(閃光のゲテモノ寿司職人・b07905)を見遣る。 「花見って俺初めてだなー! 気分だけでもと思って花持ってきたけど、無理?」 成海・雪隆(紅鴉・b63339)はそんな事を言いながら、持参した一輪のタンポポを差し出す。 「折角なら静かに花を見に来たかったですねぇ」 八蜘蛛・炯(蒼き蜘蛛・b56015)は力なく笑いつつ、雪隆から受け取ったタンポポを小瓶にさす。 イマイチ雰囲気は出ないが、ともあれ宴会騒ぎをしてみせなければゴースト達は現われないのだ。 (「宴の場に乱入するだけならまだしも、それで命を奪うとは言語道断」) と、ゴーストに対し静かな怒りを燃やす文月・昇(高校生ファイアフォックス・b30087)。 ゴーストは大抵迷惑な物と相場が決まっているが、今回の敵もご多分に漏れない。 「ニッポンのエンカイはブレイコーらしいですが……公共の場で他人様に迷惑を掛けるような事をしてはいけませんね」 サーシャ・ロマノヴァ(童姿の白き魔女・b49614)も、鉄板を用意しつつ数回頷いてみせる。 「こういう形でお花見をする事になるなんてね……まだ花が咲いていないけれどムードでカバーするよ」 隠れ里でひっそり育ってきた夜闇・亜利亜(螺旋状のアリア・b62751)にとっても、こういうタイプの花見は新鮮な経験である様子。 さて、そんなこんなでいささか奇妙な花見の宴が始まったのであった。
● 「皆さんの好きなものをお作りしますよ〜」 「じゃあ子羊の香草焼きを〜」 「ここにある食材で作れる物だけで」 熱された鉄板の上、サーシャの手によりキャベツが炒められてゆく。 「俺もお菓子と弁当、あとろしあん団子もってきたぞー! 皆食ってくれっ!!」 そちらが完成するまでの間、雪隆は持参した団子等を広げ始める。 「おぉ、花見と言えば団子ですねぇ。頂きますぅ」 「リアクション楽しみー」 「いやいや、私の鬼ツモには定評がありますからねぇ。ハズレなんて引くわけないですぅ」 ワクワクしながらガン見する優姫に軽口を叩きつつ、団子をひとつ口に運ぶ涼子。 「……よし、これだ」 千早も、持ち前の鋭敏感覚を働かせて団子をチョイス。他の皆も、各々団子を口に放り込む。 「雪隆の手作りロシアン団子ですか。全てが不味くてどれが当りか分らないなーんて……」 そんな中、団子に手を付けず様子を見る炯。全てハズレなんて、若手芸人に対するいじめ企画みたいなそんな事が有るはず――。 「えっとな……辛子とわさびと納豆とー……」 あった。まともな物がないのに気付いて、今更ながら青くなる雪隆。 「ごぶふぅっ!!?」 「うはーっ! さっすがリョーコちゃん! 期待を裏切りませんなぁ」 「戦う前からダメージとか勘弁してーっ」 納豆入りの団子(当たりの部類かも知れない)を頬張りつつ、訴える乃愛。辛子やわさびを口にした者達は、喋る事すら難しい状態だ。 「戦闘に悪影響が出なきゃいいけど……」 強靱な舌を持つ昇だけは、涼しげな表情でぼそりと呟くのだった。
「俺も食うぞ! うおお、うまそう!!」 「うん、凄く良い匂いだね」 サーシャの料理と、千早お手製の弁当で口直し。 「それじゃ、そろそろカラオケタイムといきますか」 花より団子という奴で、美味しい料理を食べれば自然とテンションも上がってゆく一同。乃愛がハンディカラオケを取り出す。 「そうだ、志筑さんにこれを」 「なんですかぁ?」 「ほら、このメンバーで唯一の今年の卒業生だから、卒業おめでとうございますってことで♪」 千早から涼子に手渡されたタスキには「本日の主役」と書かれている。 「いやー、じゃあ僭越ながら私が主役を務めさせて頂きますぅ。何歌おうかなぁ」 「リョーコちゃん、一緒にデュエットやろーよ♪ この曲なんかどう?」 「お、良いですねぇ」 「フリ教えたげるよ。手とり足とりで。うひひー♪」 優姫と涼子の2人がチョイスしたのは、80年代アイドルグループの卒業ソング。 「わ! 皆歌うのか! すげー!」 平成生まれの筈の2人だが、振り付けまでこなしながら歌い踊る。 「デュエットか、俺達もどうかな?」 「私で良ければ。選曲はお任せだ。メジャーどころなら大体わかる、はず」 乃愛と千早の同級生コンビも、あれこれとデュエット曲を選び始める。 「花のない花見だけど、桜より綺麗な花が近くにいたね〜♪」 「何を言っているんだ……」 「ひゅーひゅー!」「いよっ、おふたりさん!」 ぶっつけ本番である事を感じさせず、良いムードで歌う2人。 「次の曲は誰?」 「あ、僕だね。あまり上手じゃないかもしれないけれど大丈夫だよね?」 謙遜しながらも亜利亜は、歌唱力が要求される難しい女性曲を、ハイトーンボイスで見事に歌ってみせる。 聞き入った聴衆からは、思わず溜息が洩れる程だ。 「ここからはアニソン縛りですね、解ります」 「じゃ、歌わせて貰うね」 続く昇の選曲もまた、高音部が極めて高い過酷なアニメソング。 「チャクラエクステンション!」「シュートォー」 しかしこれも自信を持っての選曲だけあって、安定感ある歌声で熱唱。 「やはり此処は……新番組の魔法少女アニメの主題歌でしょう」 「サーシャちゃ〜〜んっ! 愛してる〜〜!」「サーシャたん萌えー!」 サーシャはヒロインの魔法少女に扮し熱唱。 何故か女性陣中心に妙な声援が飛ぶ。 いつしか、奇妙な盛り上がりを見せる花見の宴。そして、そんな彼らに忍び寄る黒い影……。 「さぁ盛り上がって参りました! 皆様、楽しんでらっしゃいますか?!」 やけに高いテンションで、サーシャの曲の間奏に割り込んだ背広の男。頭にネクタイを巻き、赤ら顔。 絵に描いたような酔っ払いサラリーマンだ。 「ふふふ……私の熱唱を邪魔をするとは良い度胸です」 ハンディマイクの電源を切るサーシャ。 宴も第二幕へと突入だ。
● 「それでは僭越ながら、私の一発芸を披露させて頂きたいと思います!」 男は縞模様のハンカチを取り出すが早いか、リビングデッド達も姿を現わす。 「タネも仕掛けも無いこの縦縞のハンケチ、これが何と……」 「はやいとこぶっ倒して花見再開だ! 行くぜ!!」 しょうもない一発芸のオチを見るより早く、距離を詰めつつ森羅呼吸法で力を蓄える雪隆。 「……早いよ。タイミング見てくれないと……風よっ!」 一方こちらも、盛り上がってきた所に水を差され不機嫌な優姫。 「鉄球剣玉妙技の真髄也。とくとご覧あれ!」 ――ゴォッ!! 彼女が強力な突風を地縛霊目掛けて放つと同時に、昇も「灼死」を振るって燃え盛る火弾を撃ち出す。 この両者の攻撃は、正確に酔っ払いを直撃。 「やったか!? ですぅ」 しかし火の粉が晴れると、そこには横縞のハンカチを手にドヤ顔を見せる酔っ払いゴーストの姿。 「なんと横縞になりましたー」 「っ!?」「く、くだらなすぎる……!」 余りに寒い一発芸を見せ付けられ、魔氷が一同を襲う。 「ふふふ……魔法少女に喧嘩を売るつもりですか?」 サーシャは高速演算プログラムを発動し、ダメージを癒すと同時に攻撃力を高める。 「僭越ながら、私の一発芸は108番までありますぞ!」 「本当、酔っ払いって迷惑ですよねぇ」 やれやれと被りを振りつつ、戯言を口走る酔っ払いとの間合いを詰める炯。 ――ザシュッ! その背から伸びた土蜘蛛の脚が、酔っ払いの腹部を貫く。 「次の余興は歌にいたしましょうか、踊りにいたしましょうかー?」 大きなダメージを受け、生気を吸収されながらも酔っ払いのテンションは落ちない。 「私に聞いているのか? いや、気のせい……ということにしよう、うん」 酔っ払いと眼が合ってしまった千早だが、素早く逸らして旋剣の構えを取る。 「悪いけれど空気を読まないゴーストはお呼びじゃないんだ」 亜利亜は清らかな風を呼び起こし、仲間を浄化する。 「これもひとつの余興? なんてね。さっさと片付けちゃいますか〜」 乃愛は軽い調子で言いながら、ダークハンドを走らせる。 能力者たちの集中攻撃を受けつつ、しかし酔っ払いもかなりの打たれ強さを見せる。これくらいのタフさが無くては、寒い宴会芸は披露出来ないのだろう。
「では、次の余興は色々なセミの鳴き声。まずはアブラゼミから」 花冷えの空の下、両者の戦いは佳境に突入しようとしていた。 酔っ払いはかなりのダメージを蓄積させながら、尚も懲りずに宴会芸を連発している。 「……えっと、凄ぇー……のかな? 俺にはよくわかんねぇけど」 「……もういい加減飽きてきたし、トドメ刺しちゃおう」 くどい宴会芸のメドレーに、雪隆、優姫は冷めた反応。 「よし、いくぞ! これで、どうだぁっ!」「燃え尽きな!」「おぼん……カッタァーーー!!」 流れるような三連撃を繰り出す3人。 「次はクマゼミブファッ!?」 ――ドオォッ!! 雪隆のつよい角兜が闘気を纏い、昇の火球、優姫の詠唱トレーが直撃すると同時に酔っ払いの顔面を打ち据える。 「……つ、次はヒグラシ……ごふっ」 尚も宴会芸を続けようとする酔っ払いだが、さすがに事切れてその場に崩れ落ちる。 「やれやれ、これで魅了された雪隆にぶん殴られる心配が消えましたね」 一息つく炯。 能力者たちの苛烈な集中攻撃の前に、酔っ払いもレパートリーのごく一部しか披露出来なかったのだろう。 能力者たちが受けたバッドステータスも、分厚い後衛の回復に阻まれ、さほどの妨げにはならなかった。 「よーし、後は雑魚掃除だけですぅ」 「涼子さん……今こそコンビネーションアタックのチャンスです!」 涼子がクレセントファングを繰り出すと同時に、サーシャの「戦雷の聖剣」が唸りをあげる。 ――ザシュッ! かなり腐敗の進行していたリビングデッドは、2人の攻撃を受けあっさりと両断された。 「さぁ、終わりにしましょう。夜闇さん」 「うん、援護するよ」 ――ゴォッ!! 亜利亜がジェットウインドを放って敵を浮き上がらせると、間をおかず炯の「蒼八咫」が紅蓮の焔を帯び、その顔面を打ち据える。 燃え上がった炎が収まると、そこにはリビングデッドの跡形も残っていなかった。 「観堂、私達も行くぞ」 「それじゃ、宴会再開といこうか」 千早と乃愛、二者のダークハンドは一直線にリビングデッドを捕捉。 ――バシィッ! いとも容易くその腐敗した体を引き裂き、霧散させたのだった。
● 戦いは終わり、静けさを取り戻した公園の片隅。 「此で安心してお花見の季節を迎える事が出来そうですね」 ふっと吐息をつきながら、イグニッションを解除するサーシャ。 「変な相手だったなーっ。宴会芸の最中に死んだ……のかな?」 「宴会芸がウケなくてショックで……かもしれません」 「何にせよ静かに眠れな……」 雪隆と炯は、そんな言葉を交わしつつ奇妙な地縛霊の冥福を祈る。 かくて再開される宴会は任務完了の開放感も手伝って、すっかり和やかな雰囲気。 「じゃ、いくよ。わざわざこのためだけに改造したんだ」 そんな中、昇が改造した灼死による剣玉芸を披露。 ――ゴツッ! 「いったぁ〜……」 しかし、高く上がった鉄球の直撃を受け、うずくまる昇。 本来は地縛霊を呼び出す際にやる予定だったのだが、後回しにして正解だったかも知れない。 「卒業しちゃって大学生だけど……またいつでも会えるよね?」 「もちろんですぅ。大学はいつでも好きな時に休めますからぁ」 「よかったぁ♪ これからもよろしくねっ☆」 優姫の問いかけに対し、間違った認識を元に答える涼子。今後が思いやられるところだ。 こうして、一同は改めて勝利を祝う宴を満喫するのだった。
「もう少ししたらこの桜の木も綺麗に咲くのかな?」 「今度は満開の時期に来たいものだな」 桜の木を見上げつつ呟く亜利亜に、千早も頷きながら応える。 やはり花見は、花を見ながら――そして寒い宴会芸抜きで楽しむに限る。
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参加者:8人
作成日:2010/03/31
得票数:楽しい17
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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