地下よりの呻き


<オープニング>


 街の地下にある身近なダンジョン、下水道。
 身近であっても、あまりその様子は知られていない。
 だからこそ「白いワニ」のような都市伝説も生まれるわけで……。
 下水道事業の業者だろうか。
 マンホールから下水に入り、何やらカメラでチェックをしている。
「これは補修が必要だな」
 ひび割れや溜まった砂の量などを調べている男へ近づく影があった。
 ぴちゃ。
 奇妙な音が背後に聞こえる。
 そんな音も聞こえてはいるが、下水管のチェックに余念がない男。
 それが、異形とも知らずに……。 

「え、えっと……ゴーストがあらわれました……」
 栗栖・優樹(小学生運命予報士・bn0182)が能力者達の前に広げたのは、大きな地図だった。とある小さな街のものだが、ところどころに丸でチェックが付けてある。
「え、えっと……ここがマンホールのばしょです……」
 どうやら、今回の戦場は下水道のようだ。
 彼が言うには、この下水道で作業中の男が、妖獣に襲われるという未来視を見たという。現在、実害はないのだが、先に手を打っておく必要がある。そのために、ここへ能力者達が集まったというわけだ。
「え、えっと……このようじゅうだけじゃないんです……」
 不運にも、ゴーストは妖獣だけではない。
 下水道は世界結界の影響から逃れるために、ゴーストが格好の住処にしている。リビングデッドや妖獣はもちろん、小さなここに集まった残留思念が積もりに積もり、とんでもないものが出現しているという。
「とってもおっきなゴーストなんです……」
 この手のゴーストを能力者の間ではクラウドガイストと呼んでいるが、それが下水道の奥に存在しているという。
 妖獣もそうであるが、この集積した思念から出現した地縛霊を倒すのが今回の依頼である。
「え、えっと……げすいどうのルートはこんなかんじです……」
 優樹が地図に付けられた印を線で繋いでいく。
 いくつか分岐点はあるものの、そんなに複雑ではなく、最初のマンホールからほぼ直進でクラウドガイスト型地縛霊が存在する場所にたどり着く。中継ポンプ場近くの比較的大型下水管に巣食っており、そこまでたどり着く前に数匹のリビングデッドと妖獣がいる。
 リビングデッドは腐敗型で大した強さはないが、妖獣は白いワニのような姿で、なかなかの攻撃力を持つ。リビングデッドをなぎ倒しつつ、妖獣を見つけ出し、これを撃破してほしい。
 どれだけ戦力を残してクラウドガイスト型と戦えるか……ここが焦点になりそうだ。
 下水道は横に三人が並んで戦えるくらいの広さであり、それ以外には特異な点はない。もちろん、中は暗いので光源が必要となるのは言うまでもないだろう。
 なお、クラウドガイスト型だが、毒ガスを噴出しての範囲攻撃、及び自身の周囲にいる者をマヒさせる攻撃をしてくる。このマヒ攻撃はエンチャントした者だけに効果が及ぶようだ。交戦に当たっては、十分留意するように。
「え、えっと……たいへんなところですけど……おねがいします……」
 もちろん、下水道での汚れはイグニッションを解くことで綺麗さっぱりになる。
 それよりも、強敵が巣食っているということが、優樹にとって不安なのである。深く頭を下げると、戦場へ赴く能力者達の背中をじっと見守るのだった。

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参加者
天皇・藍華(白獣邪鬼華・b17830)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
空廼・夏夜(黄昏の誓約・b31376)
沙更女・粗目(蛇の心臓・b40178)
御桜・八重(花手毬・b40444)
日比野・紅芭(天衣無縫・b46618)
黒祀・鷹(黒鷹・b51209)
時渡・つかさ(そこにあるのは純粋な願いだけ・b64658)
綾川・紗耶(青き薔薇の守護を受けし者・b64932)
キリエ・ジョヴァンナ(レヴィアタンを統べる者・b68137)



<リプレイ>

 我々が生活する地上のすぐ真下にあるというのに、驚異があったとしても気づきにくい場所。
 それが、地下下水道。
 驚異とはすなわち、ゴースト。下水道は世界結界の影響を受けるようになった腐敗リビングデッドがたどり着く場所であり、行き場を失った残留思念が集積する場所でもある。
 多数の残留思念が積りに積もった結果、能力者達が侵入した下水道に巨大な脅威が生まれた。
 クラウドガイスト。
 ゴーストタウン等、各所で報告がなされているボス格のゴーストであり、並の地縛霊よりも遥かに力を持つ存在である。能力者達は奥へ進むたびに増幅していく、瘴気ともいうべきおぞましい雰囲気を感じながら、ここに巣食うゴースト達を探した。
「思ったより汚くない場所だね。動きやすくてよかったー」
 御桜・八重(花手毬・b40444)が呼び出した白燐蟲の淡い燐光が、下水道の内部を照らし出す。
 予想以上にきれいな下水道だった。これも管理をしている業者の努力によるものだろう。天皇・藍華(白獣邪鬼華・b17830)も白燐蟲を操り、視界を確保する。これで、わずらわしい光源対策も万全だ。
 周囲が明るくなると同時に、下水へ呻き声が響いた。
 侵入者を殺そうと這い出てくる亡者……リビングデッドだ。
 明かりに引き寄せられて近づいてくるリビングデッド達へ向けて、すぐに空廼・夏夜(黄昏の誓約・b31376)が黒燐蟲の群れを飛ばす。
「おー出てくる出てくる。そこかしこからわさわさと……ゴッキーみたいだね」
 人に害をなす存在をきれいにするのが、我々の役目である。
 テリトリーを侵す者を排除しようと現れたリビングデッドへ黒燐蟲が襲いかかり、逃れた方を白燐蟲が追撃。亡者を喰らおうと白黒の蟲達が飛び交う中へ、漫画原稿が混ざった。
「ほとんどが野良リビングデッドなのでございましょうか」
 パラノイアペーパーを放ちながら、沙更女・粗目(蛇の心臓・b40178)がバラバラに出てくるリビングデッドを見て思う。まったくと言っていいほど統率がなく、体も腐敗が進み、非常に脆い。
 思念を得ることができず、力を貯めることができなかったのだろう。
 亡者の悲鳴と能力者達の撃ち出す弾幕が下水道を覆う中、撃ち漏らしたリビングデッドを日比野・紅芭(天衣無縫・b46618)が、光の槍で確実に仕留めていく。
「まだ気を抜くことはできませんが、これなら少しは力を温存できそうです」
「ここで無駄な力を使いたくはないですからね」
 黒祀・鷹(黒鷹・b51209)も傷ついたリビングデッドを独鈷杵で狙い撃った。ケルベロスオメガも主の攻撃に合わせて、ブラックセイバーを飛ばす。鋭い刃に切り刻まれていくリビングデッドを、綾川・紗耶(青き薔薇の守護を受けし者・b64932)も兄の悠斗と共に光の槍で攻撃し、とどめを刺した。
「一通り片付いたようですわね。これで残りのリビングデッドは……」
「六、七、八体……まだ二体が残ってますね」
 紗耶と共に伊藤・洋角(百貨全用・b31191)が倒したリビングデッドを数えていると、後方より足音が聞こえてきた。
「どうやら、後ろから来たみたいだね」
 隊列の中央よりキリエ・ジョヴァンナ(レヴィアタンを統べる者・b68137)が周囲をチェックしていると、ケットシーの知らせによって後方に二つの人影と……その足元に、もう二つの小さな影を発見した。
「これで全部のようですね。まとめて片付けましょう」
「駄犬、しっかり抑えるんだよ」
 亡者の足元にうごめく背の低い存在……それは、白いワニであった。能力者達はすぐに隊列を整え、残党狩りが始る。洋角の放つ呪いの魔眼とキリエの水刃手裏剣がリビングデッドを瞬殺し、時渡・つかさ(そこにあるのは純粋な願いだけ・b64658)は蛇鞭で白いワニを打ち付けようとした。
「なまじ特殊な能力を持っているより厄介だね、このワニは……」
 だが、ケットシーと紗耶に噛み付いてくる白いワニの破壊力は侮りがたく、このままでは危ないと判断したつかさは、ヤドリギの祝福で回復支援に回る。
「都市伝説は、伝説であるからこそ、でございます、よ?」
 粗目のパラノイアペーパーにホラー描写が増した。
 白いワニをモチーフにした作品は数多くあるが、「都市伝説」であるからこそであって、そこに実物が存在してはならない。すみやかに消去するべく、原稿が下水道に舞い散った。
 夏夜の撃ち出した黒燐蟲が原稿に切り裂かれる白いワニへ喰い付き、鷹とケルベロスオメガも攻撃を集中させる。その間、鉄太と悠斗は傷ついた仲間を回復、サポートに慌ただしかった。八重も白燐奏甲で前衛の傷の回復と強化を施していく。
 ケルベロスオメガの吐き出した炎によって燃え上がるワニへ、紅芭と紗耶の放った光の槍が突き刺さる。的確な集中攻撃によって、一体が脆くも崩れ去った。
「そんなに硬くはないようだね。一気に片付けるよ!」
 すかさず、藍華がガトリングガンを最後の一体へと向ける。そして、ケルベロスオメガも主の詠唱兵器が火を噴くと同時にレッドファイアを放った。全身が炎に包まれながらも大きく口を開き、その顎で食いちぎろうとする白いワニへ、洋角が呪いの魔眼を向けた。全身に走る痛みと能力者達の攻撃によって悲痛な呻き声を出す獲物へ、魔力供給を受けたキリエが狙いを定める。
 暗闇を切り裂く水流の刃が、その呻きを消し去った。
「大きな怪我をした人はいないみたいだね」
 つかさが仲間の状態をチェックした。
 幸い、ひどい怪我をしている者はいない。
 しばらく休めば大丈夫だろう。
 リビングデッドも妖獣も、さほどに強敵ではなかったが……それだけ、残留思念が弱かった、あるいは足りなかったということだろうか。ここはどうやらそういったモノが流れ着く場所のようだが、では、その思念はいずこへ……。
 能力者達の背筋に緊張が走る。

 しばらく休憩をとり、万全の体勢を築いた能力者達は、クラウドガイストが存在するという中継ポンプ室近くの下水管へと向かう。
「分岐点はありますが、ほぼこのまま、まっすぐの場所ですね」
 鷹が地図のコピーを開き、進路を確認した。
 別段、迷う要素もなく、能力者達は隊列を構築し、前へと進む。
 下水の横幅が進に連れて少しずつ広くなってくる。同時に、生きた心地のしない空気が漂ってきた。奥に見える青白いものが、どんどん近づいてくる。そして、幾多の小さな声……生者を憎み、逃れることのできない苦痛を訴える、おぞましい呻きがだんだんと大きくなってきた。
「こ、これが……」
 能力者達の前に現れたのは、大量の思念を集積したガス状の存在。ガスの中には、無数の苦悶に満ちた表情が浮かび、地面には数え切れないほどの鎖が繋がっている。どれだけの残留思念が集まったゴーストなのだろうか!
「なかなかの大物だね。早く帰りたいし、スタイリッシュにいくよー!」
 体を壊死させる瘴気そのものといったゴーストに臆することもなく、夏夜がすぐさまそのガス状の体にインパクトを叩き込んでいく。ダッシュと共に打ち込まれた強烈な一撃が、幾多の顔を歪ませた。粗目のスピードスケッチに続き、鷹が呪いの魔眼を放っていくが……実体が希薄なこの存在に、どれだけ効いているのかというのはわからない。
「駄犬は前で踊っていろ」
 キリエはケットシーを前に送り出すと、水刃手裏剣を構えた。
「青き薔薇よ、我らに加護を」
 紗耶は悠斗とヤドリギの祝福を結び、おのおのの力を高める。
 ケルベロスオメガの炎と手裏剣を受け、無数の呻きをあげながらもどんどん迫ってくるクラウドガイストは、能力者達を取り込もうとガスを周囲に放出した。幸い、タイミング的に包まれたのは夏夜だけで、回復はすぐに間に合う状態だったが、これから戦いが長引くにつれ、どうなっていくかわからない。
「厳しい戦いになりそうですが……」
 治癒符を手にした洋角が横目で仲間を見た。
 だから、頼りになる応援があるじゃないか……鉄太はエンチャントして万全の状態で待機しているし、悠斗もいる。戦う仲間の背中を支える力があるから大丈夫だと、洋角は自分に言い聞かせた。八重もすぐにヒーリングファンガスを投げて夏夜の傷を埋める。
(「壁役は大変だけどがんばって!」)
 強化支援無しで戦わなければならない状況だが、一緒に添えられる言葉が何よりの強化であった。
「それじゃ、前を頼んだよ」
 藍華はケルベロスオメガを前衛へ送り込み、自身は攻撃が及ばない最後列へと回って自身を強化する。つかさもミストファインダーで攻撃態勢を整えた。
「長期戦は間違いなく不利だね」
「即効で終わらせたいところです」
 紅芭はすぐに攻撃の構えをとり、光の槍を手にした。
 使役ゴーストを使い、最前列の能力者を最小限にした攻撃特化フォーメーション。回復役も十分だが、壁を突破されると非常に脆いという弱点もある。最初からクライマックス、一気に畳み掛けたいところだ。
 夏夜とケルベロス達の攻撃を受け、低い呻きを発するクラウドガイストへ光が飛ぶ。
 戦いは最初から激しい火花が散った。
 能力者達は出し惜しみもせず、最大火力を叩き込み、クラウドガイストも猛毒を含むガスで反撃していく。猛毒を受けようが、能力者達はすぐにサポート達によって回復し、大きな被害は出ない。状況は火力によるぶつかり合いといった様相となってきた。
「どちらが先に倒れるか、だね」
 夏夜はクラウドガイストの猛攻を防ぎながら、隙を見てインパクトを決めていく。
 クラウドガイストの攻撃は二発で防具が吹き飛ぶほどの威力。徐々に回復も間に合わなくなってきている。自分でこれだけだから、使役ゴーストはさらに厳しいだろう。
 手数も多くない。短期で決めなければ……焦りが夏夜の顔に浮かぶ。
「厳しいところですね……」
 呪いの魔眼でクラウドガイストを睨む鷹も、なかなか有効打とならない自分の攻撃に苛立っている。相手の力を上回ることができるか……ただ、自分を信じ、ありったけの能力を撃ち込んでいく。
 反対に紅芭や紗耶の攻撃は、確実にクラウドガイストを傷つけていた。
「聖なる光よ。闇を切り裂き不浄なるものへ裁きを!」
 光の槍によって貫かれ、いつくかの顔、いくつかの鎖が消えている。力は衰えずとも、ガス状の体は徐々に弱まっていた。地面に繋がる鎖の数は、一目でわかるほどの数になっている。その数、あと六本!
「その恨み……ここで断ち切ります!」
 紅芭の放った光の槍によって、さらに一本の鎖が途切れる。同時にものすごい苦痛の声が轟いた。少しずつだが、確実に押してきている。
「もう少し! 回復は十分間に合うから、がんばって!」
 八重はヒーリングファンガスで前衛の仲間の傷を癒しながら、状況を確認した。
 予想以上にケルベロスオメガがクラウドガイストの攻撃に耐性があり、ここぞという時にふんばってくれるおかげで、回復の手が回りやすい。洋角とかぶらないように注意すれば、うまく凌げそうだ。
「なんとかいけそうですね」
 毒ガスによって自分も傷ついてはいるが、藍華やサポート達によってなんとか耐えれるくらいだ。洋角も治癒符で前衛を援護する。粗目とケルベロスの攻撃によって鎖の数は、あと三本までに減っていた。楽観はできないが、仲間の士気も支えていく。
「大人しく消えてなくなってよね」
 つかさは瞬断撃を飛ばし、クラウドガイストの本体を破壊していった。かなり全体の濃度も薄くなり、浮かぶ顔の数も少ない。呻き続ける声も、弱々しくなっている。ここぞというところで、キリエの一撃が飛んだ。威力は他の仲間に劣るものの、ひたすら水刃手裏剣で……だが確実にキリエはクラウドガイストの力を削いでいた。
「もう一本だけだね」
 その一撃がさらに一本の鎖を破壊した。
 地面に繋がるのは、残り一本の鎖のみ。
「ちゃっちゃと倒して帰るんだー!」
 そして、とどめを刺したのは夏夜の重い一撃だった。
 すべての鎖が解け、クラウドガイストは霧散するように消えていく……下水道に呻き声を響かせながら。
「……ふぅ。終わったようですね」
 緊張の糸が途切れ、洋角の顔にようやく笑顔が戻る。
 誰一人欠けることなく終えたことに安息しつつ、仲間をねぎらう洋角。
 ここにはもう用はない。早く出て……銭湯に行きたい。誰しも、一風呂浴びたいといった表情だった。出口付近では、イグニッションを解いた八重がケットシーの鼻に服の袖を近づけている。
「ねえ、臭わない?」
「あまり汚れなかったし、特に気にすることもないね」
 とりわけ汚い下水ではなかったため、汚れ自体もわずかなものだった。つかさはイグニッションカードの便利さにしみじみしつつ、下水を後にした。
 ここを整備してくれる方々に感謝し、他の能力者達も地上へと出る。
 新鮮な空気は、なんておいしいのだろう……深呼吸しながら鷹が思う。
 クラウドガイストは人の負の感情が流れ着き、溜まったことで生まれたゴーストなのだろう。
 それに幕を引くのも我々「人」が為すべきことです……鷹はマンホールから視線を外すと、仲間達の背中を追った。


マスター:えりあす 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/03/22
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冒険結果:成功!
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