≪小さな時間≫うつし世に囚われし魂


<オープニング>


 その広い公園の敷地の中には、人の侵入を拒むような林がある。
 園内の道を逸れて林へと入り込めば、その一角に見えるのは小さな祠。
 冒険心を持ってこの場所へと訪れていた【小さな時間】の面々は、この祠の前で地縛霊と対峙していた。
 刀を構えた侍、弓を持った狩人。そして、小柄な巫女。
「祠に祀られていた方々……?」
 シーナ・ドルチェ(ネミの白魔女・b67352)のその言葉に周囲を見れば、祠の片隅に切れた注連縄が転がっているのが目に留まる。どうやらこの3体の地縛霊は、祀られなくなり放置された祠に縛り付けられているらしい。
「ゴーストは見逃せないですが……」
「向こうはやる気みたいだし……喧嘩なら買っちゃおうか?」
 地縛霊の様子を見る富田・真琴(手探りの道を往くヒト・b51911)の隣では、相手がやる気だと判断した八乙女・舞華(蜘蛛切の巫女・b54352)が一歩前に踏み出ていた。
 もちろん、相手が地縛霊である以上は――。
「何処から湧いてこようが、ゴーストに見せる背中はねぇっ!!」
「申し訳ないですが、僕に撤退の二文字はないんです……」
 門丘・玄六(衝天の武雷漢・b40739)や東・御言(シュペルマスター・b58648)がそう言うように、背中を見せて逃げるわけにはいかない。
 遭遇した以上、戦って勝利する。
「祠と注連縄の関連は後に、ってことかな」
 その言葉と共に穂宮・乙樹(桜纏う戦乙女・b62156)は詠唱銃を構えた。調査などは後回し、まずは地縛霊を何とかすることが先決だ。
 さりげなく体力の低い仲間を庇うように綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)が前に出ると、相手を観察していた新城・香澄(翠の翼・b54681)も武器を構えて。
 不意の遭遇戦は、静かに幕を開いた。

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参加者
門丘・玄六(衝天の武雷漢・b40739)
富田・真琴(手探りの道を往くヒト・b51911)
八乙女・舞華(蜘蛛切の巫女・b54352)
新城・香澄(翠の翼・b54681)
東・御言(シュペルマスター・b58648)
穂宮・乙樹(桜纏う戦乙女・b62156)
綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)
シーナ・ドルチェ(ネミの白魔女・b67352)



<リプレイ>

●注連縄と祠と、地縛霊と
 眼前に立つ地縛霊と、注連縄の切れた祠。見ている限り、両者は何らかの関係がありそうではある。
「この人達は元々は、祠に祭られていた人達なのかな?」
「……切れた注連縄。歳月が封印を弱めたのかそれとも誰かが切ったのか……」
 関連が気になるのか、八乙女・舞華(蜘蛛切の巫女・b54352)と新城・香澄(翠の翼・b54681)が自身の考えを口にした。
 しかし、じっくりとその関係を調べるような時間は、今はない。
 攻撃態勢を取り様子を伺っている地縛霊が、いつ攻撃を仕掛けてくるかわからないのだ。
 注連縄と祠の関連を調べるならば、まずこの戦いを切り抜ける必要がある。それも、誰も倒れずにという制約つきで。
「彼らが何故、祠に縛り付けられているかは分かりません。でも……今の私に出来る事なら分かります。それは彼らを倒し、その呪縛から解き放つ事っ!」
 今為すべき事は地縛霊退治。シーナ・ドルチェ(ネミの白魔女・b67352)がそれをはっきりと口にすると、周囲の仲間達もしっかりと頷いた。
 すでに『小さな時間』の面々もイグニッションを済ませ、戦闘準備は完了している。
「彼らがどんな無念を秘めて、今も彷徨っているのか気になりますが……。剣を手に相対した以上は、戦いを通じて、真正面から向き合うことに致しましょう」
「やろうか……思いっきり!」
 戦う覚悟を決めて富田・真琴(手探りの道を往くヒト・b51911)がそう言えば、穂宮・乙樹(桜纏う戦乙女・b62156)は皆に行動を促して。
「よう。アンタらの無念や憤り……ありったけぶつけてこいよ。オレがこの胸に刻んで預かってやる!」
 開口一番、先手を取った門丘・玄六(衝天の武雷漢・b40739)が狩人目掛けてロケットスマッシュを叩き込んでいく。
 様子を伺っていたとは言え、ほとんど不意打ちに近い一撃を受けた狩人が毒の矢で彼に反撃を仕掛けたところで、本格的に戦いの火蓋は切って落とされた。
 出会い頭の遭遇戦。だが、誰も不安を感じてはいない。
(「信じられる仲間たちだからな、不安なんてないな」)
 感じているのは不安ではなく、仲間への信頼。綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)がその想いを乗せて祖霊降臨を玄六に施し、東・御言(シュペルマスター・b58648)がガラスの剣を抜き、言った。
「状況開始……覚悟していただきます」
 果たしてこの戦いの軍配は、どちらにあがるのか――?

●迫り来る地縛霊
 開かれた戦端。様子を伺っていた地縛霊達ではあるが、玄六の攻撃を受けた事をきっかけに一気に攻撃を仕掛ける態勢を取った。
 対して先手を取った能力者達もその攻撃に備え、まずシーナがリフレクトコアを発動する。
 ここから一気に態勢を整えて、押し切る――そう考える彼等ではあったが、地縛霊達が指を咥えて見ているわけもない。
 巫女が静かに祈りを捧げ、自身や狩人、侍に活力を与えれば、刀を鞘に収めた侍が玄六目掛けて突っ込み、勢いに任せて居合い斬りで斬りつけていく。
「貴方のお相手は私が務めさせて頂きます……いざ!」
 そんな侍に、旋剣の構えを取りながら接近戦を仕掛けにかかるのは真琴だ。近くに玄六がいる事を考えると、相手が乱撃を行うのに丁度いい間合いを取ってしまった形と言えよう。
 が、彼女等の後ろには頼もしい仲間が控えている。
「九の尾よ……彼の敵を打て!」
 制御の出来ない9本の狐尾、天妖九尾穿で香澄が狩人を穿てば、玄六の受けた傷を祖霊降臨で舞華がすぐさま癒しにかかり。
「怨恨も遺恨もまとめて全部、切り裂くっ……一閃!」
 侍への2枚目の壁として、乙樹が瞬断撃で斬り込んでいく。
 彼等はまず、狩人を最初に倒すと決めていた。だが侍を抑えずに攻撃を仕掛けて大打撃を喰らう可能性を考慮し、真琴と乙樹が壁役を買って出たのである。
「遭遇戦は初動で決まる。速やかに数を減らせばこちらの流れに引き込める」
 その言葉と共に、巫女に氷の吐息で攻撃をかける御言。速やかに数を減らす点は確かに大切ではあるが、それを重視しすぎて他の敵を疎かにするわけにはいかない。
 初動で決まる――。
 彼がそう言い最も大切にした最初の行動は、能力者側がしっかりと態勢を作り、地縛霊がそれに応戦すると言う良い流れを作り上げていた。
「一撃入魂、拳を穿つ。それだけだ……耐えてみろっ!」
 作り上げた流れを切るわけにはいかない。侍の乱撃の間合いから外れつつも、自身が受ける反動などおかまいなしにデッドエンドを叩き込む玄六。
 再び彼を狩人の毒の矢が射抜き、二重の毒が彼の身体を駆け巡っていくが、それすらも彼は気にしていないようである。
「さあ、回復は任せて好きなだけやってくれ!」
 そう。術を使えなくなる反動は、すぐさま赦しの舞を舞った悠斗や、他の仲間の援護を頼れば良いだけの事なのだ。封術だけでなく身体をめぐる毒も浄化する舞が玄六だけでなく、仲間達をも勇気づかせると、続けてシーナが攻撃に移った。
「偉大なる金枝よ、その耀きを以って彼らを討つ光を!」
 彼女の放った光の槍が閃光一閃、狩人を討つ。
 遠距離攻撃が唯一可能であった狩人を失ったことで、地縛霊達の攻撃が後衛の香澄やシーナ達へと届く可能性は、限りなく低くなったと言える。
 後は侍の攻撃を捌ききれば、攻撃手段を持たない巫女を倒す事など造作もないだろう。
『我等は、ここにいる。例えこの場で討たれたとしても、我等はここにいたのだ』
 周囲を取り囲む真琴や乙樹に乱撃で何度も斬りつけながら、侍が言った。2人の傷がそれほど深くない事に安堵する一方で、気になるのはこの言葉。
 ここにいる――?
 その言葉は、自身の存在を能力者達にアピールしているようにも聞こえる。
『放置されたこの場を見よ……妾達と共に忘れたこの場を。この場に足を踏み込んだ以上、妾達の存在を知らしめるための贄となってもらおうぞ』
 祈りを捧げながら、怨念のこもった声で言った巫女の言葉が、地縛霊達が姿を現した理由か。
 だが、その存在を知らしめるために贄となるつもりなどは、毛頭ない。
「貴方と同様、私にも譲れぬ思いがあります!」
 真琴がそう叫ぶと同時にに破魔矢で侍を射抜き、巫女には香澄が天妖九尾穿で攻撃を仕掛けていった。
「乙樹さん、真琴さんっ! 思いっきりやっちゃって〜♪」
 乱撃に傷ついた2人に声をかけながら、舞華はまず乙樹へと祖霊降臨を施す。その援護に背中を後押しされ、再び侍へと瞬断撃で斬りかかる乙樹。
 巫女の方へは御言がもう1度氷の吐息で相手を氷漬けにすると、封術から立ち直っていた玄六のデッドエンドが巫女を霧と散らす。
「後は侍だけですよ!」
 最後まで仲間達の安全を重視する悠斗が真琴へと祖霊降臨を施す一方、そう声をかけながらシーナの光の槍が侍を貫いた。
『ぐぅ……我等の存在、胸に刻みつけよ! 我等はここにいる、ここに……!』
 狂ったように乱撃で斬りつける侍の攻撃をいなし、真琴の破魔矢が、香澄の天妖九尾穿が侍に飛ぶ。
「敬う人が居なくなって悲しかったの? それなら……もう心配しなくていいよ」
「悪しき呪縛、激しい苦痛それら全てを私達が祓うわ」
 最後までその存在を刻みつけようとした侍にそう言葉を送り、舞華の破魔矢と乙樹の瞬断撃が、侍を縛り付ける鎖から解き放つ。
 消え行く間際、その言葉を受けた侍の表情が少しだけ晴れやかになったように、能力者達には見えた――。

●廃れた祠の穢れを祓って
「皆、大丈夫か?」
 最後まで残った侍の地縛霊の消滅を確認し、悠斗は周囲を見渡していく。それなりに厄介な攻撃を行う地縛霊ではあったが、幸いにも倒れている仲間はいなかった。
「ええ。皆さん、ご無事のようです」
「おかげさんでピンピンしてるぜ? ま、オレが強いってのもあるけどな」
 一応真琴が言葉でもそれに応え、自信満々に玄六がそう言えば、悠斗と真琴の2人は同時に安堵のため息を漏らす。
 ともあれ全員が無事に済んだのならば、次に彼等が行うのはこの場の調査である。
「しかし……自身の存在を知らしめるために地縛霊になる、か。色々と興味がつきない話だな」
 そう呟く悠斗が、興味深そうに注連縄と祠を交互に見れば、乙樹も頭の中で自身の考えを駆け巡らせながら、彼のように視線を移していく。
 古ぼけた祠の近くに転がる、切れた注連縄。そして放置され、ボロボロになった祠。
『我等は、ここにいる』
『妾達の存在を知らしめるための贄となってもらおうぞ』
 戦いの中でそう叫んだ侍と巫女の言葉を思い返すと、自身の存在を知らしめるために生者へと襲い掛かったというのは間違いない。
「日本の祠って、こう……神秘的ですよね」
 御言が言うように神秘的な場所であるからこそ、放置されて人の常識から外れたことで地縛霊となったのだろうか。
 ならば、倒れたとは言え能力者達にその存在を知らしめたと言う点では、彼等の想いは成就したとも言える。
 しかし残る問題が1つ。ここにいる地縛霊達は何者だったのだろうか。
 過去、この場で散った者達?
 それとも――?
 誰もが様々な憶測を脳裏によぎらせるものの、その答は誰も知ることが出来ないのである。
 永遠に答の出ることのない問題を抱えたところで、調査は終了した。
「とりあえず、綺麗にしておきましょうか」
 ならばせめて、地縛霊達が少しでも浮かばれるようにと香澄が促すと、注連縄をひとまず応急処置で修繕する面々。
「こりゃその場しのぎにしかならんな。今度きちんと修繕に来ようぜ?」
「祠の掃除とお供えは明日から日課だなぁ。忘れないって言った以上頑張らなきゃねっ!」
 また何時切れるかわからない注連縄は、玄六が言うように後日ちゃんと修繕をし、舞華は毎日掃除とお供えをすると宣言した。
 しっかりと彼等が祠を見守ってくれるのならば、地縛霊達も浮かばれるはずである。
「どうか、安らかに……」
 そんな祠に手を合わせ、静かに地縛霊達の冥福を祈るシーナ。
「さぁ、帰ろう……結社の皆が心配してるかもね?」
「そうね。帰りましょ、いつもの場所へっ」
 乙樹と真琴に促され、彼等は帰路につく。
 忘れ去られた祠で、自身の存在を生者達に知らしめるために現れ、襲い掛かってきた地縛霊達。
 その想いを受け止めて実際に戦って刃を交えた能力者達ならば、忘れる事無く彼等の存在をずっと覚えていることだろう。


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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/05/24
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