死は金になる


<オープニング>


「都市伝説探検たーい!」
 工事現場風のヘルメットに不格好なリュック、けれど変にハンサムな眼鏡の青年が、軍手をはめた拳を突き上げる。
「わー……ぱちぱちぱち」
 棒読みしているような気乗りしない様子で、三つ編みの女の子が声を上げた。彼女の服装は青年とほぼ同じである。
「マリ子クン、今日も参加者はマリ子君だけかー」
「ていうか先月に、みんなやめちゃいましたよ、部長……」
「そうか……」
 この怪しい二人は、どっかの大学のサークル『都市伝説探検隊部』のメンバーである。『隊』と『部』がくっついている無理矢理具合はどうしたものだろう。
「それはそうとして今夜は、某診療所跡に来ているわけだー」
 部長はヤケクソのような明るい声で言った。
 二人がいるのは廃墟である。北関東の某県、かつて、とある医師が診療所を営んでいた場所だ。ところがこの医師、信じられないほどの悪徳医師で、不要な治療を強いるわ非合法な薬品は使うわ、あげくは延命治療と称し、とうに亡くなった患者をいつまでも生きていることにして入院費を取るわという悪の限りを尽くしていたという。「患者が死んだ? なら、そこからどうやって儲けるかだな」と豪語していたという伝承も残っている。
「その悪行もやがて露呈して医師は訴訟の山を前にして首を吊り、関係者も次々と謎の死を遂げた……という話なのだ。その後この場所は廃屋となり、夜な夜な医師や患者の霊が現れるようになったという……たしかに儲かったかもしれないが、これは金に執着しすぎた者の哀れな末路だな。どうだ、聞くだに恐ろしい話だろう、マリ子君?」
 ここで部長は絶句する。振り返った彼は、マリ子が廃墟の手術台に組み伏せられ、喉に刃物を当てられていることに気づいたのだ。マリ子にのしかかっているのは、紫色の顔をした白衣の男だ。
「マリ子君……!?」
 刃物は、よく見るとメスではないか。これを握った男は薄ら笑いを浮かべていた。
「コイツの死も、金になるかな」
「部長っ! に、逃げて下さ……」
 マリ子の喉笛が裂かれ、生温かい血が飛び散った。
「マリ子君っ!」
「部長、私、部長のことが……」
 しかし彼女の言葉はここで潰える。ありえない方向にマリ子の首は折れたのである。
 その上からゆらりと立ち上がった医師が、まだ薄笑いを浮かべているのを、部長は見た。

「病院や診療所という場所は場所柄か、怪談話が絶えないよね……」
 と言いながら暗がりより、桃色の白衣(ナース服?)着た舞子・みつえ(中学生運命予報士・bn0230)が現れる。無意味に懐中電灯を自分の顔の下から照射してみたりして怖い感じを演出しているものの、桃色衣装のせいもあり、コミカルな印象しか与えていなかった。
「今日の依頼は、かつて診療所があったという場所に潜む地縛霊のお話」
 定番といえば定番だが、あなどれない事件だ。
 まず、みつえは冒頭の未来視を語った。
「この変な大学生が地縛霊に襲われるのは、ちょっとだけ未来の話、つまり、まだ実現していない未来なんだよ。でも、このままこの場所を放置しておくと、いずれ現実になっちゃうんだね」
 それより迅く診療所に立ち入り、地縛霊を退治することが使命だ。
「地縛霊は午前零時過ぎの深夜にしか出ないみたいだから、薄気味悪いけど夜中の廃墟……それも、元々は診療所だったところに忍び込む必要があるんだよ」
 買い手がつかず不動産屋も放置している物件のようなので、戸口も壊れていて入り込むのは容易だ。必ず灯りを手にして入ってほしい。
「進入するのは、かつて入口だった戸口になるだろうね。受付の前を通って待合を抜け、診療室に向かうことになるかな。最奥部が手術室だよ」
 地縛霊は、強欲で執着心の強い人間だったらしく、『金銭』や『儲け』という言葉に異常に反応するらしい。
「ぱっと思いつかないけど、やたら景気の良い話とか、『金がうなってる!』とか『もうかりまっか』『ぼちぼちでんな』とか言っていると、出てきて襲いかかってくるみたいだよ。俗っぽくてちょっとアレだけど、そんな感じで誘き出してみようよ」
 診療所は二階建て、地縛霊が出るのはその一階部分で、これは大ざっぱに分類して、待合、診療室、手術室という構造になる。すべて一続きになっているが、それぞれドアで区切られているのだ。一番広くて戦いやすいのは待合のようだ。手術室だと、敵も味方も接触戦を強いられることになりかねない。診療室はその中間となる。楽に戦うなら待合だが、待合まで必ず霊が出てくるかどうかはわからない。
「いっそのことドア全部ひっぺがして一続きにする……? 乱暴すぎるかな」
 出てくる敵は、三種類だ。
「まずは、白衣を着た医師らしき地縛霊。紫色の肌をしていて、目だけ赤く光っていて不気味だよ。金銭欲が強くて、『これは金になる』『ならない』などと独り言をずっと言っているみたい。感じ悪いねー」
 医師の地縛霊はメスを扱う。近場の相手の喉を切ろうとするだろう。距離があればダーツみたいに投げて攻撃してくるが、同時に三本、三人の相手を標的に放つことができるようで厄介だ。それ以外にも、近接する相手に聴診器を押し当て、そこから生気を吸い取ることもできるらしい。
「ナースみたいな地縛霊もいて、甲高い声で『マネー、マネー』とわめきながら注射を刺してくるようだよ。この注射、強い毒性がある上、打たれると麻痺もするみたいなんだ。やめてほしいよね! ところがゴーストに注射すると体力を回復したり状態異常を治すんだって」
 ここで、ナース、という言葉に憧れを感じる人には残念なお知らせ。
「ナースはしわしわのお婆さんだよ」
 外見年齢とは無関係に敏捷らしい。
「他に、カサカサに乾燥したミイラみたいなリビングデッドが六体、入院患者の服を着ているよ。老若男女いるみたいだけど、全部同じようにカサカサだから区別がつかないね」
 カサカサデッドは「先生〜」「タスケテー」というようなことを叫びながら飛びかかってくるがもはや知性は消失しており、会話などはできない。ひっかき攻撃程度しかできないので敵としては弱い部類に入るだろう。
「リビングデッドは不幸な目に遭った人々のなれの果てみたいなんだけど、助ける方法はないし、むしろ倒すことが救済だと考えてすみやかに掃討してほしいんだ」
「それなりに歯ごたえのある相手だし、簡単な任務とはいえないけれど、わりと正統派の依頼なんで、まだこなした依頼が少ない人や、戦闘経験を積んでおきたい人にもお勧めだよ。もちろん、ベテランが自分の技を錆びさせないよう挑戦するのも歓迎」
 というわけで、幅広い参加を募っているのだ。これまで依頼に参加したことがない人も、挑戦してみるといいだろう。
「きっちりと作戦を組んで挑めば、必ずこなせると思っているよ。仲間同士の協力も忘れないでね。それじゃ、がんばって!」

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参加者
アーバイン・シュッツバルト(エッジランナー・b00437)
篠森・沙耶(破砕の紅風・b17288)
渕埼・寅靖(人虎・b20320)
霧立・遙(静嵐・b40949)
皆月・弥生(夜叉公主・b43022)
不知火・キバ(将来の夢は骨付きお肉・b59815)
葛城・翔(ヘタレライダー・b60246)
水沢・みなと(終焉の碧・b73782)
爆宮・凪(爆狐・b74068)




<リプレイ>

●一
 灰色のシルエットが、夜の闇に溶けゆくかのよう。
 例の診療所跡だ。往時はともかく、現在では不気味な廃墟以外の何物でもない。これでは都市伝説が生まれるのも無理はないだろう。その舞台を探検に来る者があるのも不思議ではないところだ。
(「でも、その『探検』が『怪談』になったらいやよね……」)
 篠森・沙耶(破砕の紅風・b17288)は深呼吸した。依頼に挑むこの緊張感、呼吸のかすかな昂ぶりも、音もなく肌が粟立つ感覚も……久しぶりに味わうものだ。
「起動完了。入るか」
 壊れかけの錠前は、渕埼・寅靖(人虎・b20320)が半分の力も出さずとも簡単に砕けてしまう。
 無人ゆえ遠慮は無用だ。各人たちどころに能力(ちから)を解放し、診療所内に立ち入った。
「夜の廃墟って独特の雰囲気があってドキドキするにゃ」
 するり猫のような身のこなしで、葛城・翔(ヘタレライダー・b60246)は内部に滑り込み左右を見回す。水沢・みなと(終焉の碧・b73782)は同意しつつも、
「……まぁ、自分の家でも夜は怖いんだけどね、私は……」
 と首をすくめた。
 うっすらと消毒液の匂いがする。受付には埃が積もり、赤黒く錆びた担架が立てかけてあった。『生活習慣病に注意!』と書かれたポスターが貼られているが、リアルな表情でもがき苦しむマスコットキャラ(?)が載っており大変恐ろしい。
(「今日はみんながいるから、ちょっと心強いな」)
 壁のポスターから目を逸らせつつみなとは思う。
 接触が悪いのか、なかなか懐中電灯が点灯せず、不知火・キバ(将来の夢は骨付きお肉・b59815)は震えてしまった。
「うー……ぶぶるぶぶるダゾ……」
 ようやく光がついてほっとする。実は夜中の病院は二度目とはいえ、やっぱり落ち着かぬキバである。あちこちの暗がりから、何かが『ぬっ』と出てきそうだ。だけどキバは、この依頼を選んだことを後悔していない。
(「ここで辛い目にあったやつらの魂を何とか助けてやりたいんダゾー!」)
 勇気があれば怖くなんかない……はず。
 逆にこの状況を楽しんでいるのが爆宮・凪(爆狐・b74068)だ。
「……くくっ」
 思わず笑みこぼれてしまう。にゃ? と振り返る翔に向かって片手拝みして、
「いや爆悪い、なんかこういう雰囲気って爆楽しくってさっ!」
 凪はあまりに無邪気で、仲間たちも釣られて笑んでしまうのである。凪が手にしているのは、人魂を模した奇妙なランプだ。
(「銀誓館って爆色々あるんだな、こんな爆おもしれぇランプまで置いてあったぜっ!」)
 ゆらーりと揺らす。その光を見つめながら、皆月・弥生(夜叉公主・b43022)は思った。
(「こうしてみるとまるで肝試しみたいね」)
 ここを使っていた悪徳医師は、不要な治療や非合法薬品で儲け、脱税にも手を染めていたという。それを思い出して、
(「もっとも、私からすればゴーストより生きている人間のほうが余程怖いけれど……」)
 弥生は溜息をつくのだった。
 霧立・遙(静嵐・b40949)の姿は、闇の中の白い花のようだ。その花は、美しくも凛然と咲く。
「手際よく参りましょう。話題には、お互い気をつけたいものですね」
 遙は無言で太刀を鞘走らせ、眼前の扉に斬りつけた。
 暫し沈黙が流れたのち、斜めに切り下げられたドアが外側に倒れる。
 アーバイン・シュッツバルト(エッジランナー・b00437)は耳を澄ませ、この音に反応する者がないことを確かめている。
「霧立様、お見事です。ならば私たちも」
 アーバインも、他のドアにブラックボックスを向けた。
「ひゃっはー! なんかワルになった気分にゃ!」
 さっそく翔も上機嫌、手近なドアに蹴りを入れるのだ。

 待合室。
 やがて作業が片付くと沙耶が声をかける。
「作業ご苦労様。今日この場にいる人たちに給付金が支払われるんだけど揃ったかな?」
 彼女が現場監督という設定らしい。沙耶のように可憐な工事現場監督が現実にいるかどうかはさておき、皆喜んだ様子で合わせている。
「これで国の家族に仕送りができます」
 アーバインが真っ先に並ぶ。
 寅靖がスポンサー役だ。分厚い中身の入った封筒を配りながら、
「あとはここを地均しして転売するだけだな。タダ同然の土地も私の手で大金に化ける……」
 と、腹黒い口調で口元を歪めた。
「かねかねー! せーぎはかねダゾー! いひっひー!」
 キバもノリノリだ。揉み手をしてくねくね、パンパンに膨らんだ封筒を目の前に小躍りする。
「転売で土地が数十倍で売れる……宝くじに当たったようなものですね」
 遙は手元の封筒の中身をそっと見ながら告げた。
「すげー儲け話! 俺は爆べんきょーさせてもらうなっ!」
 と凪も興奮気味に、ペンを走らせメモを取るのだ。
「儲け話……ええと」
 弥生は話題に困り、率直に近況を語った。
「卒業して仕事に就いたのだけど、命がけの仕事だからか、報酬が学園にいた頃やってたアルバイトよりずっと高額で驚いた、とかその位かしらね」
 ここで沙耶は再度声を上げた。
「この場にいないともらえませんよ。給付金欲しい人は今ここにいる人だけですよ〜」
「大量の給付金! 金がうなってる!」
 と言って振り向いた翔は、封筒をもらうため並んでいる列の後ろに、忽然と白衣の男が加わっていることに気づいた。
「私にもよこせ、給付金」
 紫色の顔をした医師だ。
「……なにこの、ちゃっかり具合……」
 呆れ半分感心半分でみなとが言う。つまり、地縛霊出現!
「くれてやる」
 その時、声と共に地縛霊の足元に封筒が叩きつけられた。
「これは……騙したなッ!」
 地縛霊は目を向く。悪人演技が気に入ったらしく、寅靖は居丈高な口調で応えるのである。
「貧乏人は私を卑怯と言うが、正義とは即ち金なのだよ!」
 封筒から中身が四散している。『正義の一億万円』と書かれたオモチャの札が舞っていた。

●二
「こうなればお前らを殺して臓器売買で儲ける……」
 地縛霊は後転して着地し、両手にメスを光らせる。
 みなとのケルベロスが、威嚇するような唸り声を上げた。医師の傍らに老嬢ナースが現れ、
「マネー、マネー」
 ぐふぐふと笑ったのだ。
「ナースのばっちゃん、爆略してなっちゃん! マネーマネーって先生の真似真似じゃダメだぜっ」
 そこをぴしゃりと凪が指摘する。勢いに飲まれたか、
「マ、マネ……」
 なっちゃん(爆略)は口ごもった。
 敵はこれだけではない。奥からもわらわら、リビングデッドが姿を見せはじめた。だがゴーストたちは戸惑ったことだろう。
 扉という扉が破壊され障害物もことごとく撤去され、診療所内すべての部屋が一続きになっていたからだ! これぞ彼らの作戦、敵の発想を遙かに凌駕した大胆な策。変貌を遂げた診療所に勝手がわからず、ゴーストは機先を制される結果となった。
「こんな真似をして修理費がどれだけかかると思っているんだ。金が……」
「マネー!」
 医師、ナース揃って慌てるその正面から、
「金、金、金と……鬱陶しい。静かになってもらう」
 弥生が肌に虎の紋様浮かせ位置取りを終えるや、雷光、アーバインの方角より蛇の如く奔る。
「守銭奴は死んでも治らない、か。病膏肓に入るとはまさにこのことだな」
 敵を前にしたアーバインに平常の慇懃な物腰はない。ナースを巻き込み亡者たちも灼く。
「マネェェ!」
 老嬢ナースが目を吊り上げ、数メートルに達しようという跳躍を見せるも、
「どんなに早く動いても逃がさねぇ!」
 それ以上の反応で翔がこれを捕捉した。注射器攻撃を紙一重でかわし、
「外れだ! 欲に目がくらんでるせいだな!」
 逆襲は三日月の刃、ナースを来た方向に跳ね返す。
 足元に転がってきた注射器を、寅靖は爪先で蹴り返し、
「生憎と注射は看護士泣かせでね、半端な針は通らんよ」
 行く手に鋭い一瞥を向けた。
「先生〜、私ノ腎臓、ドコデスカ〜」
「点滴ガ多スギマスー」
 気の毒な言葉を呟きながら亡者たちが迫り来る。だが寅靖は土蜘蛛の檻を降ろし大半を封じ込めてしまう。
「時は金なり――無駄な手間は省くに限る」
「金……」
 目の色を変える愚かな医師含め大半の敵向けて、凪が小妖怪の幻影をお見舞いした。
「元気に爆遊んでこーぜっアヤカシの群れっ!」
 どっと溢れるアヤカシは、敵に被害を、味方に力を与える。医師はこれにのけぞりつつもメスを大量に飛ばしてきた。一本がみなとの方角に飛ぶ。だがこれを、ケルベロスの逞しい体が身を以て防いでいた。
「……ごめんね。痛かったよね」
 みなとは瞳を伏せ、自身は念動剣を放ち、頼もしきケルベロスには亡者の掃討を命じた。
 機先を制した能力者たちは、続く攻防を優位に進める。ある程度は反撃もあるが優勢は変わらない。決定的な瞬間が訪れたのは数十秒後だ。
 遙の二の腕から、うっすら朱いものが流れている。メスが掠ったのだ。だがこの程度、彼女の動きを鈍らせるに及ばぬこと遠い。
「隙ありです」
 霧のファインダーで増強した射程距離、これで着実に刃をナースに浴びせる。機を一にして中距離から、キバが鋭い視線を飛ばした。
「これだけ整理するともう病院みたいじゃないゾー! でもやっぱり注射は怖いゾ!」
 キバの狙いは正確、老嬢ナースに毒付きのダメージを負わせていた。ナースはバランスを崩した。「マネッ!」とか叫んで落ちてくる姿を、綺麗にキャッチするのは真紅のチャイナドレス、彼女は。
「標的捕捉、行くよ!」
 そう、彼女は沙耶!
「必ず殺すと書いてぇ、ひっさーーつっ!」
 急接近、手にした斧を彗星の如く振り抜く!
「一刀両断っ、インパクトォォォオ!」
 技名叫ぶが沙耶の流儀だ。その格闘センスはなんら鈍っちゃいない、振り上げた斧が老ナースを、見てて気持ちが良いくらい縦裂きの一刀両断にしている。
「マ……ネ……」
 かくて老ナースは、注射の威力を見せることすらできず消滅したのである。

●三
「臓器を、金をよこせ……」
 地縛霊医師はナースの消滅に眉ひとつ動かさず、再度メスを三方に放った。
「痛たた……メスはこういう使い方をするものじゃないんダゾー!」
 キバは脛にこれを受け、凪も首筋を朱に染める結果となる。だが怯まない。
「医療器具を誤った使い方する奴には爆オシオキだぜっ! 医療器具も爆怒ってるはずだからなっ!」
 凪の声が空間に異変を引き起こす。戸棚から注射器やカテーテルが、床からも聴診器が、それにメスも、ふわりと浮いて寄り集まったのである。ただ集まったのではない。ありえない方向から次々と尖った刃を生やしている!
「使ってきた道具達に爆潰れろっジャンクプレスっ!」
 強烈すぎるオシオキ! 医師は棘の塊に挟まれ呻いた。
 これを嚆矢に五連携、寅靖、沙耶、アーバイン、弥生が次々と攻撃を決める。
「欲望の報い、受けてもらう」
 寅靖のコートが翻る。一気に距離を詰めて両刀、紅蓮の尾を曳いて斬りつけ、これに、
「燃えよ炎弾、フレイムキャノンッ!」
 沙耶の火焔球が効果を添えて、
「共に滅せよ」
 アーバインのライトニングヴァイパー、亡者を薙ぎ倒し医師も巻き込み、
「黒燐よ、喰らい尽くせ!」
 弥生が投じた蟲の塊、爆発しリビングデッド集団に致命的な打撃を与えた。
 さらにみなとのケルベロスがアイアンチャージで、リビングデッドの残りを一体とする。
「先生……痛イ、痛イデス……」
 一体きりとなった亡者は老婆だ。手を合わせ哀れっぽい声で泣いた。彼らも犠牲者、それを思い翔は胸を詰まらせたが、この一撃がむしろ救いになる、それを心に刻みながら、
「あんた達を救ってやる。だから今は大人しく倒れてろ!」
 一瞬の軌跡、円月状の斬撃でこれを粉砕したのである。
「……あと一息だよ……」
 みなとがコンビネーションに成功する。翔の攻撃が止むより早く、アヤカシの群れを召喚して癒しと攻撃を行う。彼女の瞳には哀しい色があった。
(「……酷い話だよね……」)
 みなとが育った山里には、巡回の医師が月に一度しか来ない。しかしその医師は常に献身的にその任にあたり、決して私利私欲に走るようなことはなかった。悪徳医師を狂わせたのは何なのだろうか。
 遙の刀身が刹那、闇に輝いたように見えた。しかし医師がそれを認識したときにはもう、剣は鞘に収まっている。居合い斬りの要領、抜く手も見せぬとはまさにこのこと。
「何をした……」
 と言った医師の首がぐらりと傾く。
「何を? 強いて言えば」
 一瞬遅れて遙の剣が切れ味を見せたというわけだ。
「斬りました。この地に残る怨念を」
 遙は口を真一文字に閉ざした。終焉は近い。
「世間では、地獄のサンタもかねしだい、って言うけど……ん? なんかちがうゾ? ともかく、かねで買えないものだってあるんだゾ! それを覚えておくべきだゾー!」
 キバが鋭い視線を向ける。魔眼の力が医師を貫く。
 地縛霊は叫びを上げて崩壊していった。
「たとえば心、正義の心は買えないんダゾ! へへ、オイラ良いこといったゾ?」
 キバが手を挙げたので、これを翔はパンと叩いて、
「完全勝利! これでまた一つ強くなった気がするにゃ!」
 グッと拳を握りしめるのだった。

●四
 遙は太刀を丁寧に拭い、布でくるんだ。そして黙祷する。一同も倣った。
 この病院で無念の死を遂げた人たち、その魂を鎮めるために。
(「大事なのは金じゃなくて、金で得られる色々なものなのよ」)
 弥生も真紅の眼を閉じている。
(「あの医師も、道を誤る前は人の命を救う事に喜びを感じただろうか? 真に恐るべきは、己の心に棲む魔物かもしれない――」)
 寅靖はふと思うのだった。この『魔物』ばかりは、いかな能力者とてどうすることもできない。
 黙祷が終わると、翔は肩をすくめて苦笑いした。
「しかし、あんな大人にはなりたくないにゃ」
「爆同感だぜっ!」
 凪は赤い頭で深く頷くのである。
「心が爆貧しい大人ってやつだなっ! 儲け話も爆良いけれど、あそこまで行っちゃダメだっ!」
 肝に爆銘じておきたいところだ。
「うまい話には裏がある。変な儲け話には引っかからないようにしましょうね」
 沙耶が言うと、
「……うん、一見うまい話って、夜の病院より怖いかも……」
 みなとがこくりと頷く。臓器売買とか、聞くだにぞっとするではないか。
「それにしてもこれ、面白いですね」
 アーバインが床から、『正義の一億万円』札を拾い上げた。謎単位『億万』が良い。
「実は芸が細かいわ」
 弥生が告げた。札はちゃんと細部まで描かれており、肖像画はモーラットである。
「まあ、もらってくれ。換金はできないが記念品くらいにはなる。使い方は、束ねて人の頬をはたくとかだな」
 寅靖がまた悪人演技になってニヤリとする。
 灰色の建物から出て、キバは再度、身を震わせた。
「うーこわかったゾー! ぶるぶる」
 でも、と破顔一笑して言う。
「これでここでずっと苦しいおもいをしてた奴らの魂が少しはすくわれたならオイラとってもうれしーゾーー!!」


マスター:桂木京介 紹介ページ
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参加者:9人
作成日:2010/04/09
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