獅子の声


<オープニング>


 山の中で男と目が合った獅子のたてがみは、地面につくほど長かった。
 そのたてがみは、男が逃げ出すと重力に逆らって持ち上がり、大きな声で吠えた獅子が放つ衝撃波によって揺れた。
 衝撃波は一度に広範囲へと広がり、逃げていた男の命も奪う。
 獅子は、衝撃波で受けた傷をペロリとなめてから、男へ近づいた。


「お待ちしておりました」
 神奈・瑞香(中学生運命予報士・bn0246)は、おじぎをして能力者たちを出迎えた。
「今回の依頼は、山に現れた妖獣退治です。このままにしておけば、一人の男性が妖獣に殺されてしまいます。皆さんには、そんなことが起きてしまう前に妖獣を倒してほしいのです」
 瑞香は、視た出来事を元に語り出した。

「妖獣は、山頂付近にいる、地面につくほど長いたてがみを持った獅子です。
 この妖獣は、近くに誰かがいることを知れば、向こうから姿を現してくれますが、たてがみを持ち上げて吠えたとき、周囲二十メートル全てを傷つける衝撃波を放ちます。しかも、この衝撃波は、妖獣自身も傷つけてしまうため、妖獣は自分の身を守るためか、とても高い体力を持っています。場合によっては戦闘が長びく可能性もあります。
 皆さんが行く時は、山に誰かがいることはありませんので、戦闘に集中できると思いますが、くれぐれも油断しないように気をつけてください」
 瑞香は、能力者ひとり一人の顔を見つめた。

「皆さん、どうかお気をつけて。帰りをお待ちしております」

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参加者
火御守・和司(剣樹の継者・b11316)
覚羅・葵(不断の誓いは確かな不屈の刃へ・b27583)
東雲・梓真(眠れる森・b29203)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
黒祀・鷹(黒鷹・b51209)
久瑠瀬・璃美(疾風迅雷ノ幼皇帝・b51595)
河田・ジロー(高校生魔弾術士・b56049)
黒菱・涅雅(アンリミテッドアンビション・b62200)



<リプレイ>


「東雲さんの隠された森の小路は便利ですよねぇ」
 先頭で木々や草花をしならせて路を作る東雲・梓真(眠れる森・b29203)を前に、伊藤・洋角(百貨全用・b31191)は朗らかに言った。
 山頂まで登るために、歩くペースを考えながら歩いているが、まっすぐに進む路の上では、疲れない。
 にこにこと、笑みをたやさない洋角に、梓真はほほえみながら振り返った。
「そういってもらえると、嬉しいよ。敵の近くまで、迅速に動きたいからね。あとは、妖獣が気づいてくれれば、申し分ないのだが……」
 梓真は、視線を山頂へ戻した。
 妖獣は、能力者たちに気づかなければ、襲いかかってこない。
 不安と期待が入り混じる中、彼らは山を登っている。
 火御守・和司(剣樹の継者・b11316)は、前を向いていたスパイクシューズの先を横に傾けると、カバンをいくつも持っている久瑠瀬・璃美(疾風迅雷ノ幼皇帝・b51595)に手を差し出した。
「荷物をそんなに持っていたら重いだろう。持ってやる」
「平気なのですよ、ちゃんと持てるのです」
 笑顔で返す璃美に、和司は、さあ、と、もう一度手を差しのばした。
「遠慮はいらない」
 璃美は和司を見上げると、再び大きな手に視線を向けた。
 髪に結んである赤いリボンを上下させながら迷っていた璃美は、肩に提げていた二つのカバンを手渡した。
「それでは……お願いするのです。ありがとうございますですよ」
「ああ。……ん? 思ったより重さがあるな」
 ずっしりと感じた重さに、和司はつぶやいた。
 しかし、和司はあえて中身を聞かない。
 背中に登山道具をいれたリュックだけは手放さなかった璃美は笑顔を向ける。
 山頂は、斜面がゆるやかになって、少しばかり進んだ先にあった。
 だが、妖獣と出会わなかった彼らは、山頂で足を一度止めると、息を整えた。
 わずかながらも落胆の色が見え隠れする仲間に、覚羅・葵(不断の誓いは確かな不屈の刃へ・b27583)は明るい声をかけた。
「もう少し、歩き回って、妖獣に自分たちのことを気づいてもらいましょう。山頂付近ですから、範囲も広くありませんし、まだ余裕ですよ。東雲さん、いいですか?」
「もちろんだよ」
 梓真は笑顔でうなずくと、隠された森の小路を使ったまま山を下り始めた。


 どこにいるかわからない妖獣に、黒菱・涅雅(アンリミテッドアンビション・b62200)は不意打ちを受けないように警戒しながら歩いていた。
 河田・ジロー(高校生魔弾術士・b56049)もせわしなく目を動かしているが、妖獣の気配はどこにもない。
 だが、必ず妖獣と出会えるはずだ。
 今は、山頂から少し降りた場所から、一周をまわって妖獣と出会おうとしているのだ。
 涅雅は、歩く距離がのびるほど、警戒心を強める。
 ふと、黒祀・鷹(黒鷹・b51209)がある一点を見つめた。
 登山靴の向きを変える鷹の異変に気づいた仲間が、同じ方を向くと、長いたてがみを持った獅子――妖獣が、遠くの木の間から見えていた。
「皆さん、お出でなさったのですよ!」
 璃美が声をあげると、洋角たちはイグニッションを唱えだした。
「そのようですね」
 鷹はイグニッションカードを光らせると、使役ゴースト、ケルベロスベビーの封を解いた。


 向かってくる妖獣を前に、梓真はヤドリギの祝福を洋角へ飛ばすと、葵が、その間を駆け抜けて妖獣へ向かった。
 目指す先は、左後ろだ。
「ペアを組んでください!」
 魔弾の射手をかけながら、ジローが声をかけた。
 能力者たちが、あらかじめ決めておいた二人一組の陣形を取る中で、妖獣は葵を切りつける。
 璃美は、立ち止まった妖獣の左前へ移動し、涅雅は右後ろへ回って旋剣の構えを、洋角は右前にまわってジローの後ろに立ち、自分に黒燐奏甲をかけた。
 同じく後方へと位置づいた鷹も、涅雅の武器に黒燐奏甲をかけて、側で主を見上げている使役ゴースト、ケルベロスベビーに指示を出す。
「陣形が崩れそうな場所を補いように動いてください」
 小さな獣が駆け出すと、和司は璃美の前に立ち、妖獣に向かって容赦のない奥義黒影剣を斬りつけた。
 そして、梓真が敵を逃がさないような位置取りとして、葵の後ろにつくと、妖獣の四方を固めた陣形が完成する。
 前衛の四人に囲まれた妖獣は、逃げ出すことができない。
「これでも喰らえっ!」
 葵は奥義呪いの魔眼を向けた。
 するどいまなざしには、被害が出る前に妖獣を倒し、山に平和を取り戻すのだという意志がある。そして、苦痛にさいなまれている妖獣を解放するために、刃を下ろさないということも。
 ジローは短い刃と長い刃の日本刀を手に攻撃をしかけ、二本の刃が妖獣の前右足を切り裂いた。
 そこに、璃美のジェットウインドが立ち上った。
 旋回する風に吹き上げられた妖獣は、一気に落下してくる。
 地面に叩きつけられた妖獣は、起き上がると、まるで先ほどの旋風が残っているかのようにたてがみを持ち上げて、大きく吠えた。
 妖獣と能力者にいくつもの傷が浮かぶ。
 しかし、とっさのガードが効いた葵と洋角は、能力者の中でも一際、浅い傷ですんだ。
 そして、傷が浅かったもう一人、涅雅は、ガードをしていた手をほどいて、奥義フェニックスブロウを斬りつけた。
 洋角は呪いの魔眼を妖獣に向ける。
「その長いたてがみを踏んで立ち上がらないようにしたら、どうなるんでしょうね」
 洋角は、笑みを浮かべたまま、ふわりと地面に落ちるたてがみを目にして言った。
 鷹は、傷の深い葵へ歩みより、黒燐奏甲をかける。
 すると、その正面から和司の黒影剣が上から下へと降りた。
「全員、気を抜くなよ……」
 油断をしない限り、有利に立てると、和司は仲間に奮起をうながす。
 妖獣は、体を傷だらけにしながら、何度も吠えた。
 葵と涅雅は連携を意識して、絶え間なく後方から攻撃を続け、ジローの奥義黒影剣、璃美の奥義サンダージャベリン、和司の黒影剣が妖獣を襲う。
 妖獣の攻撃を受けながらも戦えるのは、梓真のヤドリギの祝福、洋角の治癒符、鷹の黒燐奏甲、鷹の使役ゴーストの支えがあるからだ。仲間の攻撃の手が休まないように、彼らは後方から支援をしていた。
「久瑠瀬さんは、俺が癒すよ」
 回復先が重ならないよう、声をかけながら、梓真はヤドリギの祝福を飛ばした。
 一般人の命がかかっている。
 無意味な犠牲が起きないよう、なんとしても仲間とともに妖獣を倒すのだと、梓真の描くマークは仲間を癒し続ける。
「あるべき所へ逝けっ!」
 その梓真を攻撃から守るかのように、葵の奥義黒影剣が舞った。
 ジローも、葵の斜め前から黒影剣をふるい落とす。
 璃美は最後のサンダージャベリンを飛ばした。
「私の風と雷は、すばやく、そして激しくお前を切り裂き! 貫くのですよ」
 手持ちの技が着実に減らされていくが、それは妖獣の体力も同じだろう。
 どちらが先に窮地においやられるか。
 妖獣は、和司に深手の傷を負わせた。
 涅雅がフェニックスブロウを全力で叩きこむと、洋角が和司へ治癒符を飛ばす。
「こちらの回復は、おまかせください」
 対極にいる和司の元へ行けなかった鷹は、洋角の言葉を耳にして、涅雅を黒燐奏甲で癒す。
「和司お兄さん! 交代なのですよ!!」
 和司の傷具合に、璃美は後ろから声をかけた。
 だが、和司は首を横に振って、旋剣の構えを取った。
「まだ、大丈夫だ」
 まだ、体力の限界は来ていない。
 斬馬刀を頭上で旋回させて、傷の回復を狙う和司に、梓真のヤドリギの祝福が飛んで行く。
「大丈夫かい? しっかり援護させてもらうよ」
 葵とジローの黒影剣が双方から妖獣に襲いかかり、璃美のジェットウインドが吹き荒れ、妖獣の吠える声が全てを切り裂いた。
 それでも、洋角の治癒符と鷹の黒燐奏甲が、仲間を癒す。
「……しぶとい敵ですね。それでも、自分を傷つけてまでも戦うとは……なかなか、よい座興でしたよ」
 鷹は言った。
「獲物を仕留めようと、自分の身を傷つけるまでの執念は、ある意味、敬服するぜ。だが、そろそろ苦痛から解放してやらないとな。燃えつきろ……レクイエムはてめえの咆哮だ」
 涅雅のフェニックスブロウが、声をあげて妖獣に向かう。
 そこに、和司の黒影剣が振り落とされた。


「おつかれさま」
 妖獣が消えると、梓真は仲間に笑みを向けた。
 誰一人も倒れなかった結果に、自然と顔が笑んだのだ。
 イグニッションを解いた葵は、妖獣が消えた場所で目をつむったまま、空を仰いだ。
「痛みはなくなっただろ……。ゆっくり、安らかに眠ってくれ」
 葵は冥福を祈る。
 そして、顔を戻して目を開けた。
 一段落がつくと、璃美は和司にあずけていたカバンをもらい、弁当をふるまい始めた。
 すると、和司はその手を止めて、一度登った山頂を指さした。
「頂上まですぐだ。せっかくなのだから、そこで景色を楽しみながら食べるのもいいだろう」
「景色をながめながらのそれも、いいですよね」
 洋角が名案だとうなずくと、和司は口を笑ませて、弁当のしまったカバンを持ち上げた。
 念のためにと、鷹や洋角、涅雅、璃美、葵、梓真が明かりを持ってきているため、帰りが遅くなっても、問題はない。
「山の中でのお弁当は、格別においしいものですからね。久瑠瀬さんのお弁当、楽しみです」
 鷹にほほえまれた璃美は、ふと思った。
 全員年上の男性に囲まれたら、こんなにふわふわした感覚になるのかと。
「これが、紅一点ならではなのですか?」
「行きますよ、久瑠瀬さん」
 ジローに背中を押され、璃美は歩き出す。
 涅雅が先へ行けと、あごでうながされると、璃美は足を早めた。
 山頂が近づく。
 そこには、やわらかな山の声があるだろう。


マスター:あやる 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/22
得票数:楽しい2  カッコいい12  知的1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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