火水未済


<オープニング>


「よいしょ、よいしょ」
 愛知県某所の夜。山の中にある狐を祭った神社の一角に異形の集団を引き連れたちっこい妖狐が一人。
「このまどかさまにかかればこんな作戦お茶の子さいさいよっ!」
 独り言が多いのだろう、誰にともなく呟くと、連れていた地縛霊達に見張りを指示して地面に文様を描く。
「こうして、こうして……これでよし!」
 彼女ががりがりと地面に書いたのは何か意味があるであろう形。
「ちょっといびつだけど大丈夫よね、うん」
 だが、下手だった。致命的ってほどでもないが。
「見てなさい銀誓館! ここからわたしたちの逆襲が始まるのよ!」
 見られちゃダメだろう。

「という未来が見えた」
 速攻でした。鍛冶野・アラン(運命予報士・bn0063)の前にはとっくに話を聞いて能力者達が集まっていた。
「さて、ミス洪の話は皆も聞いているかね? 先程の未来は彼女の得た情報によって運命の糸がつながったものだ。妖狐達が全国の稲荷神社を使った情報ネットワークを作ろうとしているらしい。今回は一般人が巻き込まれる事は無いが、そのままにしておくと妖狐達が活動しやすい状況を生み出してしまう。そうなる前に何とかしてもらいたい」
「なるほど」
「彼らの伴っている戦力は概ね少ないようだ。我々にゴースト事件として感知されなようにしていたみたいだがね。……既に我々には露見してしまっているわけだが。それはともかく彼らの活動する場所のリストは上がっているので、君達には愛知県の方へ行ってもらいたい。当該の場所で待ち伏せをして妖狐を始めとする一派を撃破してもらいたい。周りに一般人はいないのでその部分は気をつける必要はないだろう」
「それでゴーストの方は?」
「男性型地縛霊一体に、ニワトリ型妖獣が五体。地縛霊の方は震脚に似た衝撃波を、妖獣の方は地獄の叫びに似た攻撃を武器としている。妖狐は主にアヤカシの群れを使う。ただ、妖狐は不利だと考える逃げる算段を始める可能性もあるので、一考が必要かもしれない」
 アランはそう言って資料をしまう。
「この依頼は一般人に被害が直接出るようなものではない、だが敵対組織の手数が増えるのは阻止しなければいけない。この儀式が完了してしまうとネットワークを破壊する事は出来ないので、確実に阻止してもらいたい。それでは諸君らの健闘を祈る」

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参加者
烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)
白崎・彩佳(杜のホワイトワルツ・b49553)
奈月・幸太(白南風・b49631)
八逆・敏夫(兄嫁はマンゴー・b56154)
アリス・ワイズマン(龍の忍者見習い・b57734)
斎藤・斎(雨が降るから虹も出る・b66610)
須知・源二郎(中学生科学人間・b72706)
白木・祢琥魅(ひなたぼっこ道免許皆伝・b73244)
NPC:麦畑・知代子(ブラウニー・bn0137)




<リプレイ>

●闇夜に紛れるは
 人里や道路から離れた山の中、遠く聞こえるのは車の音のみ。近くにあるのは仲間たちの身動ぎのもののみ。妖狐……まどかが文様を描くとされる場所を中心にぐるりと円を描くように息を潜める。
「みぃ……まどかちゃんとってもかわいいにゃ……できれば友達になりたいにゃ」
 白木・祢琥魅(ひなたぼっこ道免許皆伝・b73244)が猫のように茂みに潜みながらつぶやく。
(「……かわいい、ね」)
 八逆・敏夫(兄嫁はマンゴー・b56154)は離れたところから聞こえる囁きに今回の事件の全容を思う。
(「子供のお使いといえば微笑ましいが内容が最悪だな。……本人は悪事と思っていないのかも知らんが」)
「力も経験も不足しているのはお互い様ですが、彼女が尾を濡らさないように引き止められればいいですね」
 子供扱いしているのが自分だけではないと、敏夫は祢琥魅と反対側から聞こえる奈月・幸太(白南風・b49631)の声から知る。
「(……どういう事なの? 尾を濡らすって)」
「(六十四卦にそういう意味の卦があるんですよ、火水未済というものなんですけど)」
 声をひそめて麦畑・知代子(ブラウニー・bn0137)と話をする幸太。
「(幼い狐が……って)」
「(ああ、なるほどね)」
 理解したように知代子は頷く。
(「小さくても神様のお家に落描きはしたらだめなのね」)
 烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)は脳裏にそんな言葉を浮かべて息を殺す。
(「……来マシたね」)
 アリス・ワイズマン(龍の忍者見習い・b57734)が石段の方から吐息と明かりが見えたのに気づく。さっと手を上げて皆に知らせる。
「よいしょ、よいしょ」
 懐中電灯の光と思わしき光が上下に動き石段を照らす。小さな女の子の声らしきものが静かな境内に響く。
「ふぅ……。ながい階段よね! なんでこんなところに作ったのかしら!」
 後ろのゴーストにでも聞かせようとしたのか大きな声で愚痴をこぼす。
「まあいいわ。さっさと終わらせましょ! このまどかさまにかかればこんな作戦お茶の子さいさいよっ!」」
 とてとてと歩いて能力者達の隠れる場所のその中心にまで来る。
「ここがいいわね、アンタ達わたしが書き終わるまで……」
「そこまでよ! うっかり妖狐め……覚悟なさい!」
 だがまどかがいざゴーストたちを動かそうとした瞬間、妖獣達を襲うように茨が伸び同時に声が響く。
「だれ!? あとわたしはうっかりじゃないわ!」
 まどかが誰何の声を上げれば隠れていた能力者達が身を表す。
「お前さんに感謝してるもんでさあ」
 須知・源二郎(中学生科学人間・b72706)の言葉にまどかは眉をひそめる。
「わたしは知らない人にありがとうって言われる筋合いはないわ! 名乗りなさい!」
「……銀誓館学園」
「えっ!? そんなはずはないわ! 今回は一般人巻き込まないようにしたもの!」
 言葉を返すともに斎藤・斎(雨が降るから虹も出る・b66610)が闇を禁じ周りを光に染める。
「あなたがどう思おうとも私たちはここにいる、ここで叩き潰してあげるわ!」
 白崎・彩佳(杜のホワイトワルツ・b49553)が啖呵を切って戦いは始まった。

●境内は戦場となり
 まどかたちの態勢が整う前にメジロとアリス、源二郎に祢琥魅が一斉に地縛霊へと駆け寄り一気に攻撃を叩き込む。月のような弧を描く三つの軌跡は地縛霊の胴体に綺麗に突き刺さる。
「きれいな攻撃だけど、当たっただけではこのゴーストは倒れないわ!」
 まどかが勝ち誇ったように笑い声を上げる。
「……邪魔だにゃ」
 だが祢琥魅が冷たさを帯びた言葉とともに地縛霊に触れると、一拍遅れて地縛霊の体の内側から数々の亀裂が生じる。
「ちょ、ちょっと! いきなり倒れちゃダメ! 応援するから頑張りなさい!」
 まどかは慌ててアヤカシの群れを呼び能力者達を牽制しながら戦力の立て直しを図る。それに答えるとでも言うのか地縛霊は足に力を入れその場に衝撃波を発生させる。先程まで近接していた4人は強かにダメージを受けると共に吹き飛ばされる。
「これくらい、しか、できないけど。みんな、頑張って」
 斎も相対するようにアヤカシの群れを呼び仲間たちを賦活する。ただ地縛霊の攻撃力は高く、今は動けないが妖獣達の攻撃も加われば押し切られてしまうだろう。そうはさせまいと知代子が剣先で地縛霊を描いてその絵をそのまま相手へとぶつける。
「このまま仕留めます」
 誰もいなくなった地縛霊の周りに幸太が踏み込み蛇鞭を目にも止まらない速度で振る。遅れて地縛霊の体を打つ音が響く。
「ネーサンも頼む!」
 敏夫がシャーマンズゴーストに頼む。
「………?」
「あ、すいません行ってくださいお願いします。アイロンも考えておきますから」
 首をかしげたネーサンに言い直すと彼女は地縛霊に走りよっていく。そのまま体当たりで地縛霊に止めを刺す。
「くっ、なんてこと!」
「言ったでしょ、たたき潰してあげるって」
 早くも最も力のあると思われる地縛霊を倒されまどかがほぞを噛む。その彼女に近づきながらメジロが話しかける。
「こういう事ができるのは、誰かから送られてきた情報のおかげなのね」
「なんのことよ!」
 メジロの言葉に覚えがないと言うようにアヤカシの群れに攻撃をさせながら問いただす。
「場所が分かれは、来るまでずっと待ってればいいだけだもん」
 束縛から逃れたニワトリの妖獣達が泣き叫ぶ中、能力者達はまどかへと言葉を向ける。
「あなたがまどかさんですね……? 他の神社でも他の仲間達が次々と阻止シテいます。その発端はまどかという妖狐の文曲サンへの誤送信メールから」
 まどかはアリスの言葉に一旦驚いたような表情を見せてすぐに怒りの表情を浮かべる。
「な、何よ! それ!? ……あ、分かったわ、わたしを混乱させるための策ね! そうに違いないわ!」
 ぶんぶんと首を横に振ってまどかはアリスの言葉を否定する。
「メールで他の妖狐さん達に連絡したのがキミなら絶対逃げちゃ駄目にゃ……ボク達がここにいるのは文曲さんに来たメールに書いてあったからだにゃ、それを他の妖狐さんが知ったらどんな目にあわせられるかわからないにゃ……」
「例え同名の別人でも怪しいモノです……」
「ふ、ふん! そんな手にはのらないわっ! どうしても止めたければここでわたしをたおすことね!」
 祢琥魅とアリスの言葉に耳を貸さずに戦う構えを見せるまどか。
「手荒な真似はしたくなかったですが、仕方ありません」
 幸太は地縛霊を倒したその位置からさらに踏み込んでまどかの正面に立つ。その瞬間にふただび見えない一撃が生じる。それに重ねるように知代子のスピードスケッチが彼女に向かい彼女に膝をつかせる。
「い、いやっ! こんなところで負けるわけにはいかないの!」
 だが何を彼女をそうさせるのか、崩れかけた体を意志の力で以てまどかは再び立ち上がる。そしてじりじりと能力者達から離れようと足を動かそうとする。
「ここは通せません。……あなたの、ためにも」
 ひそかに動いていた斎がまどかの視線の先にいた。彼女がその事に気づいた瞬間まどかの体を大きな衝撃が襲い、今度こそ地に伏せる。来訪者といえども能力者であるのでこれ以上なにもしなければ動けないままだろう。
「そっちは終わったですかい?」
 近くにいた妖獣を蹴り飛ばしていた源二郎がまどかの付近を見ずに聞く。半分は確認が入っているようだ。
「ああ、そうらしい。あとは妖獣だけだ」
 周りの戦況を見ながらヘブンズパッションをばらまいていた敏夫がまどかの方と反対側から返す。その後残った妖獣達の掃討戦に移るのであった。

●火水未済 或いは終りは始まり
 戦闘があっさり終わったあと、一同は倒れたまどかのところに集まる。戦闘不能であるものの意識自体はしっかりしているらしく、集まった者たちを見上げている。
「あなたたちは勝ったのよ、好きなようにすればいいわ」
 口ぶりこそ高慢な言い方だが瞳の奥には怯えが見える。
(「誉められたい一心でやったのかねえ……」)
 敏夫は幼い目の前の妖狐にそんな印象を持つ。
「まどかさん、ですね? どじっ狐というお噂、文曲さんからかねがね」
「文曲ったらそんなことを言ってたの!? 文曲の言う事信じちゃだめよ、どういう嘘ついているのかわかんないんだから!」
 力いっぱいに声を上げて斎の言葉を否定するまどか。それでも知った名前を聞いて少し警戒の色が薄れる。
「やっぱりあなたが文曲さんの言っていた『まどか』さんなんですね」
 幸太がまどかの様子を見て確信に至る、他の仲間達も同じく。
「それで……携帯持ってる?」
「持ってるわ、まさかわたしがさっきのメールを出したなんて言わないでしょうね」
 知代子から促されるように懐から携帯を取り出して画面をみながら操作する。
「………! ………………えぃっ」
「今、消したわね」
 彩佳の容赦ない突っ込みが入る。
「あ、足がつかないように情報を隠すのは普通でしょ!?」
 でもシールとか可愛らしいキャラクターのストラップとか見る限り私物ではないだろうか。
「た、ただ確認のメールを送っただけよ」
「私物の携帯でさらにアドレスを間違えて?」
 情報漏えいもいいところである。彩香の突っ込みが冴えまどかはぐうの音もでない。
「おかげ様で、また妖狐さんたちと、運命の糸が繋がった、みたいです」
 邪気のない笑顔を見せる斎からまどかは目を逸らした。その彼女と視線を合わせるようにアリスは腰を下ろす。
「文曲さんはまどかさんの名前を親しみを込めて呼んだ。その子を死なせてしまえば、きっとボク達は仲間を悲しまセル事になります。そんな事は絶対にしたくない……どうか降伏シテ下さい、お願いです!」
「文曲さんや武曲さん達も楽しそうに暮らしているのにゃ、まどかちゃんも銀誓館にこないかにゃ?」
「帰ればおしおき、待っていますよ、きっと」
 三人からの声にまどかの瞳がゆらぐ、瞳だけではなく手にも震えが現れていた。その手をアリスがとる。
「どうか一緒に来て下サイ。ボクが誓ったHEROの誓いにかけて、悪い様には絶対にしまセンから」
 アリスとまどかの間で視線が交差する。
「……仕方ないわね、捕虜になってあげるわよ」
 そっぽを向いて返すまどかを見て説得を試みていた者たちに安堵の表情が浮かぶ。周りを警戒していたメジロが戻り終わったのを確認する。
「よっと。……それじゃ帰ろうぜ」
 敏夫が意識があっても満足に動けないまどかを背負い上げる。石段を下りながら祢琥魅が背負われたまどかに話しかける。
「痛かったかにゃ? でもまどかちゃんが生きてて良かったのにゃ……気になったらボクとお友達になって欲しいにゃ。……まどかちゃん?」
 返事がないと向き直すとまどかは敏夫の背で寝息を立てていた。だらしなくよだれまで垂らしている。おそらくいろいろな疲れが一気に押し寄せてきたのだろう。
「初めての依頼だったけど上手くいけたでやんすかね」
 源二郎は愛用のバンダナを撫でながら初めての仕事が終わった余韻に浸る。
「……この大陸の妖狐って連中とは長い付き合いになりそうな気がするぜ」
 けれどもさらに追うように浮かぶのは未だすべての見えぬ妖狐の動向。このままで終わることはないだろうとの予感を胸に彼は石段を降りるのであった。


マスター:西灰三 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/27
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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