<リプレイ>
●静寂なる社 月が青白く社を照らし、広い境内は静けさを守っている。 (「……今度は妖狐さんですか……」) 参道に沿って建てられている石碑に隠れながら、小春日・なごみ(暗香疎影・b48096)は最近学園内を騒がせている来訪者の事件を思い返していた。 次から次へと大きな事件が起こり、能力者たちは気の休まる時がない。 同じく石碑の裏に隠れながら、霜降・牡丹(省エネ冷蔵娘・b53278)はふと疑問に思ったことを口にする。 「まどかちゃんとやらは、誤送信のことを黙ってるんでしょうかねー?」 メールでの誤送信で発覚したこの事件。 計画が露見したことを、大陸妖狐たちは知っているのかいないのか。 「どちらにせよ、せっかくいただいたチャンスです。有効活用させてもらいましょうか」 骨咬・まゆら(グランギニョルの娘・b43009)は霜降の疑問にそう言葉を返した。 その口元には14歳とは思えぬ浮世離れした笑みが浮かんでいる。 今はまだ謎も多いが、無影を捕えれば何かしらの情報を得られるかもしれない。 出来れば生け捕りにしたいところだ。 静かな境内に風が吹き抜けた。 かつん。 かつん。 僅かに聞こえてくる足音に、能力者たちの間に緊張が走る。 ほどなくすると、羽織姿の一人の男が現れる。 背後には振袖姿の二体の地縛霊が付き従っている。 それぞれの髪には牡丹と藤の簪がささっている。 (「無影ってロリ……いや、あの年頃ならセーフか?」) あどけなさの残る牡丹と藤の様子に、空知・凪(華蝶拳士・b43818)は思わずそんなことを考えてしまう。 「……左右につけ」 九人の能力者たちに見張られているとは知らず、無影は社殿の右に牡丹を、左に藤を配置させた。 無影、牡丹、藤が拡散したのを確認すると、山科・月子(ディープブラッド・b61466)が隠れていた物陰から音もなく姿を現した。 「――そこまでよ。儀式をさせる訳に行かないわ」 月子の合図により、能力者たちはそれぞれ隠れていた物陰から現われる。 「ニーハオ♪ お主らの計画はまるっとお見通しじゃ」 「なっ……」 突然のことに驚愕している無影をよそに、詠唱兵器を手にした凪たちは彼らを取り囲む。 清らかな香りが漂う社で、大陸妖狐との戦いが始まった。
●アヤカシの狐 「……なぜここに能力者たちが……」 「まどかさんにはありがとうございますとお伝え下さい」 動揺を隠せない無影に、上城・雪姫(雷纏銀狐・b00301)がそう言い放つ。 「……?」 疑問符を浮かべる無影だったが、まゆらの呪いの魔眼が牡丹の身体を引き裂いたことで表情を険しくする。 「牡丹!!」 「はいはーい、呼びました?」 無影の注意が牡丹へ向かっている隙に、霜降の氷の吐息が無影を包み込む。 『……』 氷に包まれた無影のもとへ向かおうとする藤。 その前に、雪の結晶に身を包んだシャムテイル・イルミナス(カシミールブルー・b64908)が立ちふさがる。 「貴女の相手は、私よ?」 『……』 気が付けば、藤の手には日本刀が握られている。 「くっ……」 素早い攻撃が繰り出され、避けそこなったシャムテイルの腕に傷が入る。 「いったい何が……」 取り囲まれ焦る無影の前に綾上・千早(殺神一劍・b02756)が立つ。 「これを見よー!」 千早の手から、プラプラと油揚げが揺れている。 「……大人しく降伏すれば幸福になれたりするんじゃないかしら、狐さん的に!」 油揚げ、あげるわよ? 千早の言葉に無影はいささか冷たい視線を送る。 「……狐が無条件で油揚げが好きだとは限らんだろう」 むしろ私は嫌いだ。 そう呟きをもらしながら、無影の頭部には狐の耳が現れ、妖力が集約された尾が千早へと伸びる。 尾獣穿を避け、千早は【殺神一劍】に闇のオーラを纏い振りかぶる。 「ぐあっ!!」 黒影剣が無影を捉えた。 分散する形となったことに、牡丹も焦りをみせる。 急いで無影のもとへ戻ろうとするが、雪姫の尾獣穿が牡丹へと伸びる。 『っ!!』 さらに月子が無影への道をふさぐ。 「せっかくの機会じゃない。ちょっと私と遊ばない?」 情欲という名の呪髪をなびかせ、月子が妖艶に微笑む。 まずはキミと遊んであげるわ……。 形の良い唇が牡丹の首筋へと噛みつくと、牡丹は高い悲鳴をあげ、苦しみに悶えた。 必死になって月子から逃れた牡丹だったが、続いて凪の龍顎拳が叩き込まれる。 「その邪念、我が拳で絶つ!」 全国六万社とも言われる稲荷社を利用し、情報ネットワークを構築しようとする今回の大陸妖狐たちの計画。 それを阻止するためにも、負けるわけにはいかない。
●牡丹と藤 無影によるアヤカシの群れが千早となごみを襲う。 痛みに耐えながら、なごみがパラライズファンガスを放つ。 すると無影の頭部に白いキノコが生える。 「後でキツネ奢ったげるから、ちょっと寝てなさいっ!!」 千早の黒影剣が無影の身体を切り裂く。 「っ……!! だ、だから油揚げは好きではないと……」 苦渋の表情を浮かべながらも、言葉を返すのはさすがというべきだろうか。 しかしすぐにそんな余裕もなくなる。 まゆらのケルベロスオメガであるダンテのレッドファイアが無影の身を包むと、叫びが境内に響き渡った。 その叫びに、藤が反応する。 あどけない少女の顔が、憤怒の形相に変わる。 長い袖が舞ったかと思うと、日本刀が閃いた。 斬られた箇所から、シャムテイルの身体に毒が回る。 牡丹も同様に、その美しい顔が怒りに染まる。 月の光を反射させながら、日本刀を閃かせる。 凪はそれを避けると、素早く連続で蹴りを放つ。 『あああ!!』 牡丹が地面に倒れこむ。 「これで終わりです」 まゆらの禍々しい怨念に満ちた瞳が、牡丹を貫く。 ……しゃらん。 牡丹の簪が揺れ、そして落ちた。 「……っ!!」 倒れる牡丹の姿に、無影が瞠目する。 「……おのれ……」 いつしか白いキノコは無影の頭から姿を消していた。 なごみたちの前に、おぼろげに揺らめく幻想的ともいえる妖楼火が出現する。 ゆらゆらと揺れる炎を目にし、なごみと霜降の身体からふっと力が抜ける。 それは牡丹を倒し、無影を包囲しようとしていた月子たちにも及ぶ。 「透子……!」 「オッケー、任せといて」 高梨・透子(風渡り・b39968)の浄化の風が、社の中を吹き抜ける。 「その力が使えるのはあなただけではありませんよ」 雪姫が放つ幻想的な炎が、無影の前に出現する。 「……っ」 力が抜けていく無影を、回復したなごみたちが包囲する。 戦況を見て、シャムテイルは藤に茨の領域を放った。 「森の戒めを受けなさい!」 魔法の茨が藤の身体を覆い尽くす。 牡丹を失い、退路をふさがれた無影はどうにかして活路を見出そうとするが、痺れた身体では手も足もでない。 そんな無影の前に、霜降がゆっくりと近づいていった。 「イロイロと、話してもらいますよー♪」 無情な冷気が無影の身体を凍てつかせる。 まるで花のように散っていく藤の姿を目にしたのを最後に、無影の意識は途絶えた。
●天香国色 「任務完了ね。皆お疲れ様」 全員が無事なことを確認して、月子はホッと息をついた。 なんとか無影の儀式を阻止することができ、九人は安堵の表情を浮かべる。 無影の処遇は、何か聞き出せるかもしれないということで話がまとまり、学園へ引き渡されることとなった。 戦いが終わり、社は静けさを取り戻す。 凪は社を騒がせたことを稲荷神へと詫びるため、社殿前へ足を向ける。 参道の端を歩く凪の鼻先を牡丹の香りがくすぐる。 本殿から左奥に広がる牡丹園の中には、なごみは佇んでいた。 牡丹の花は色によって香りが違うという。 薄紅色の牡丹が咲き誇るこの社では、清らかな香りが満ちていた。 穏やかな気持ちで、なごみはその香りを吸い込む。 (「花の色は盛者必衰の理と申しますけれど……」) 今、この瞬間の美しさを楽しみたい。 月に照らされている牡丹を前に、そんなことを思った。
今後、来訪者との戦いは一層激しさを増すだろう。 このまま大陸妖狐たちが大人しく引き下がるとも思えない。 天はどちらの味方をするものか。 彼らとの戦いにどのような決着が着くか、今はまだ想像もできない。 だが一つだけ確かなことがある。 絶対に、負けるわけにはいかない。 神聖な空気の中、能力者たちは改めて意を決したのだった。
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参加者:8人
作成日:2010/04/27
得票数:楽しい1
カッコいい17
知的1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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