D-type Romancing


<オープニング>


 濃密な恐怖が車内を支配している。
 首から先の無い女が、首だけの男を右腕に然りと抱いていた。
『寄り添いし戯れに、生と死の狭間を往く者よ』
 ぼろぼろの花嫁衣裳、そのレースの蔭で首だけの男が口を開く。
『汝、其の先に何を見る?』
 女の左腕が持ち上がり、指先が男の眼前へと差し出される。
 その薬指には、銀色に輝く指輪が嵌っていた。
 
 
「メダリオンとイグニッションカード、二つの力を融合させる事が出来るらしいんじゃ」
 皿谷・正悟(運命予報士・bn0131)は、能力者達を見回してから話を続けた。
「同じ本業ジョブの方々でメダリオンと一緒に詠唱調律車両に乗って、詠唱調律の儀式を逆回転で実行すると、メダリオンに秘められとる過去の英霊さんのおかげかは分からんが、メダリオンの力とイグニッションカードの力が融合して、イグニッションカードの力が大幅に強まるっちゅーことらしいのう」
「だから、花嫁の皆さんを教室に集めたんですのね」
 クリスティーナ・キーベルク(白夜に契りし花嫁・bn0123)が顔を上げると、正悟は一つ頷いた。
「まあ、問題は、メダリオンの英霊さんが出てくるところじゃのう。これを倒さんとならん」
 詠唱調律車両内で戦闘になるのは間違い無い。出現時は能力者と英霊が互いに一両の端と端に居る。
「英霊さんは、男の人の首を抱いた、首の無い花嫁さんじゃのう」
 女は首から上が無いので当然ながら喋れないが、男は戦う為の覚悟を問い続けてくる。
「で、女の人の攻撃方法はワンパターンなんじゃが、穢れの弾丸を視界内にぶち撒いてくるんよ」
 狭い車内ではかなり危険な攻撃となるだろう。
「そして厄介なのが、あまりにも大きな衝撃を一度に与えると、手に持った首を落としてしまうんじゃ……」
 一度床に落とした首は、黒い砂となって崩れて消える。大切な者の首が消えたら、彼女は怒りと悲しみに任せて暴走を始めてしまう。攻撃の威力は倍加し、戦況は一転するに違いない。
「長期戦は免れんじゃろうが、かといって焦って深手を負わせてしまえばこちらが確実に不利じゃ。回復しながら、着実にダメージを与える必要があるのう」
 敵は一体と考えていい。しかし、一体だからこそ気の抜けない戦いになるだろう。
「まー、でもなあ、大切な方がおらん悲しみも怒りも、皆さんなら知っとるじゃろう。大切な方が使役ゴーストだろうが人間だろうが、割とどうでもええ事じゃと思うんよ」
 想いは誰かと繋がっている。
 そして、人は想いの力で強くなれる。
「わしは、皆さんが強くなって帰ってくるのを待っとる。気いつけて行ってきんさい!」
 正悟は、能力者達全員に視線を合わせてからしっかりとそう告げた。

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参加者
ルーマ・ネイブ(誘惑の恋人・b31103)
蘇芳・沙那(鎮めの花・b31261)
白銀山・丹羽(バステトと踊れ・b32117)
フィクス・ストゥラウド(鎖された鎮魂歌・b33399)
五和・さやか(コゴエピンク危機一発・b55655)
七辻・透(ウルフズブライド・b67899)
杜若・あやめ(死せる乙女その手には水月・b68807)
アンリェイナ・ファラフ(小学生花嫁・b70094)
NPC:クリスティーナ・キーベルク(白夜に契りし花嫁・bn0123)




<リプレイ>

●彼女も同じ様に等しく
 時刻は夜。ちらつく蛍光灯が車内を照らす。
「わたくし達は、きっと、今が一番幸せなのですわ」
 クリスティーナ・キーベルク(白夜に契りし花嫁・bn0123) はメダリオンを床に落とし、仲間達へと微笑んだ。
 車内には、フランケンシュタインの花嫁という同じ運命を選び、一時ではあれども同じ戦いを選んだ者達が九名。そして、クリスティーナは視線を車両の進行方向側へと移した。
「だって、愛する人と共に歩め、共に過ごし、共に苦楽を分かち合い、共に戦えるんですもの」
 彼女の視線の先には、仲間達と共に今尚戦う使役ゴースト達の背が見える。先程から身を挺して能力者達を庇ってくれている。
 尤も、花嫁達は盾の陰で漫然と戦いを見ているだけではない。隙あらばと後方から射撃しながら趨勢を見極める事に必死なのだ。しかも、前線に立つ花嫁も居る。
『共に存在する為の手段としての戦いか? 笑止。汝、死と戯れなば死となるべし』
 背筋を撫で上げる程の恐怖が男の声に集約されていた。しかし、その男は女の腕に抱かれ、首から下が存在しない。そして女の方はというと、花嫁衣裳を身に着けてはいるものの、頭が無ければヴェールも無い。つまり、ブーケの代わりに首を持っているのである。
 英霊と呼ばれる存在だが、肉体は二人でやっと一人分。恐らくは首の無い花嫁が宿主で、首は彼女が愛した者。
 口を利けない花嫁が、再び黒い弾丸を左手から放つ。金属音、鈍くも突き刺さる音、悲鳴、呻きが一斉に上がるその様は、穢れの弾丸と呼ぶには生温い。
「この命の限り、僕は彼女とともに在りたいんだ。戦いなど、手段でも目的でも構わない」
「パートナーとは二人で一人……それをこの戦いで証明してみせる」
 フィクス・ストゥラウド(鎖された鎮魂歌・b33399)とルーマ・ネイブ(誘惑の恋人・b31103)は即座に癒しの手を伸ばした。フィクスの左手の薬指が指した先にはサキュバス、ルーマの左手の薬指が指した先にはフランケンシュタインFWの背がある。
 花嫁は、二人で一人ではない。
 二人が共に生きる道を探している、その途中を歩む者達。
「全てを尽くすことができるのが私達の悦びなのです。
 例え骸となろうとも……いつまでも共に在り続けたいのです」
 蘇芳・沙那(鎮めの花・b31261)の左手は、射抜かれまいと身を挺したケルベロスオメガの狗鬼へと向けられた。
 彼女が戦うのは、大切な者が居るからこそ強くなれると、かつて誰かに教えられたから。
「花嫁さんの力、いまここにー!
 ボクとあっぷるぱいさんの絆の力を見せますよー!」
 五和・さやか(コゴエピンク危機一発・b55655)もまた右手に拳を握り、意思の力を以ってフランケンシュタインFWの傷を癒す。
 彼女が戦うのは、大切な者との絆を真っ直ぐに信じているから。
 つまりは、同じ運命を選んでいても、戦い方や想いは各々が違うものを抱いている。
 前線で戦う使役ゴースト達の攻撃に少しずつ傷を負いながらも、首の無い花嫁は必死に腕の中の男の首を守り続けていた。
『死の淵、黄昏と戯れし花嫁達。
 生きる事が苦痛なればこそ、抗わず、身を委ねれば良いものを』
 擦り切れたドレスの袖の奥で、男が笑う。
「花嫁として試されているのならば、負けるわけには参りません」
 首を横に振りながら、杜若・あやめ(死せる乙女その手には水月・b68807)は指輪から光を放つ。肩を掠る一撃に合わせ、真シャーマンズゴースト・シャドウのスミレが三条の爪撃を重ねた。
「大切な人達を、大切な物を守る力を……より大きな力を得る為に、私達は負けられません」
 車内の空気が冷たく揺れる。アンリェイナ・ファラフ(小学生花嫁・b70094)が起こした風には吹雪が混ざり、首の無い花嫁と男の髪とを細かく切り裂いていく。
『先など無く、死は常に冷たく寄り添う棺。
 可哀想に、抗えども傍には常に在る』
 男の言葉は続く。
 女の細く白い袖に抱かれながら、澱み無く言葉を繰り返す。
「そうかも知れません」
 頷き、白銀山・丹羽(バステトと踊れ・b32117)は小さく微笑んだ。
「でも、あの子達が帰って来た時に私が怯えたままでは、笑われてしまいますから」
 丹羽は両の掌を天へと掲げた。雷の精霊の力を喚び、仲間達や使役ゴースト達の傷を少しずつ癒していく。
「その先、ね……愚問だわ。
 すべてを捨てて故郷を出てきた私には何もなかった。
 そんな私に未来をくれたのはこの子なのよ」
 七辻・透(ウルフズブライド・b67899)は、目の前で必死に自分を庇ってくれている真ケルベロスベビーの背をそっと撫でた。
「おかげで背負う物がだいぶ増えたけど、後悔していないわ。
 私はこの子がくれた物を守らなくちゃならない」
 とても小さな背を撫でるには膝を曲げなければいけない。透は立ち上がり、腕の一振りで指輪から光を投げる。
 コンスタントにダメージを与えていけば倒せる敵、そう悟ったクリスティーナの指輪が淡い煌きを投げた。男の額を狙えども、女がその首を庇い、腕へと衝撃を食い込ませる。
「……成程」
 口に指を這わせ、クリスティーナは微笑んだ。
 彼女が使役する真フランケンシュタインBが右肩を狙えども結果は同じで、肩ではなく背中へと衝撃を逃そうと女は身体を捩る。
 愛しい、守りたいという気持ちは同じ。しかし、花嫁と呼ばれる自分達は死に守られ、英霊と呼ばれる彼女は使役する死を守っている。
「お体のない大切な方をその手で守る……その姿は正しく私達と同じ」
 沙那は、袖で口を一瞬だけ押さえて一つ頷く。
 彼女もまた、自分達と等しい運命を辿っている者。
「お互いに譲れない……と?」
 不敵な笑みを口の端に浮かべ、ルーマが呟いた。

●其れでもお往きなさい
 苛烈な衝撃を与えると、腕から頭が零れ、床に落ちて消えてしまうのだとか。能力者達は、首の無い花嫁が愛する者を失った世界に嘆き憤るのを最も恐れている。
 だからこそ、長丁場を覚悟して少しずつ敵の体力を削っているのだが。
『私は死を恐れてはいない。早く私を殺せばいいものを』
 手加減されている、恐らくは向こうもそれに気付いているのだ。
「死に寄り添う者としての覚悟を、決意を、伝える為に此処に居るんだ。
 ああ……今、この瞬間も綺麗だよ、セルティ」
 フィクスが微笑みと共に光条を放てば、名を告げたサキュバスもまた口付けを送る。
「何を云われようとも決して屈する訳には参りません。
 スミレの為にも負けるわけにはいかないのです」
 首を横に振りながら攻撃しているのはあやめ。首の無い花嫁を撃つ光、その横で漆黒の翼を広げて真シャーマンズゴースト・シャドウが爪を振り被る。
「今ここで下がる訳には参りません。
 新たな力を手に入れるためにも……お行きなさい、狗鬼」
 沙那の言葉と共に、ケルベロスオメガが床を蹴った。飛び掛り、何も持っていない左腕へと噛み付いて離さない。
 しかし、花嫁はその腕を持ち上げ、牙が離れたと同時に黒い弾丸を手の中でぎりぎりと握り潰し、広範囲に渡って拡散させて投げ放つ。
「あっぷるぱいさん、痛いけど、がんばれー……!」
 身体を盾にして自分を庇う姿は、さやかが居る後方からでは背中しか見えない。叫びながら、或いは願いながら、さやかは応酬を花嫁へと見舞うべく光を撃った。さやかの呼び声に応じ、鋼鉄の足が床を踏み込み、重い一撃を花嫁の左肩へと食い込ませる。
「共に闘う大切なものを俺は見捨てたりしない……花嫁にしか出来ない戦い方もある」
 ルーマは左の薬指をそっと撫で、指先を視線の先へと向ける。小さな音と共に向かう光は、花嫁の首の断面を小さく抉った。
『徐々に痛みを増す世界……早く私を殺せばいいものを』
 男の言葉通り、能力者達や使役ゴースト達は僅かなりと傷を負っている。英霊と呼ばれる花嫁もまた身体中を浅く切り裂かれ、ドレスの肩は片側だけで吊られていた。
「ええ、あの時の心の痛みを……あのような目に合う人々を一人でもなくす為、私は戦ってます」
 アンリェイナが薙刀を片手に英霊へと向かう。
 しかし、想いとは常に無限の力を生み出してしまうもの。
 首を庇おうとするも花嫁の反応が間に合わない、もとい、アンリェイナが花嫁よりも疾く動いていた。

 ざこん。
 骨を絶つ音が響く。
 揺れる車内、腕ごと落ちていく首。

 その首と腕に手を伸ばした者が居た。

「大事な人を失うのは……」
 丹羽は身を、そして頬を床に擦り付けながら、決して長くはない人の子の腕を伸ばしていた。
「心の半分がいきなり毟り取られて無くなってしまった様な、自分の痛みも人の痛みもわからなくなって、ただ息をすることさえ苦しくて、すごく辛い……」
 男の首を、そして女の片腕を抱き、丹羽が立ち上がる。
「私達も貴女も花嫁……大切な人が先に逝ってしまう悲しみは分かりますので」
 丹羽に小さく礼をしながら、アンリェイナも頷く。
 不意に、車内の蛍光灯の明滅が止まる。
 花嫁達を乗せた電車は、ゆっくりと失速していった。

●首の先にある、見えざる片腕
 慣性に従い動く車両も、空気抵抗と僅かな傾斜でやがては止まる。
 右腕を失い、或いは蓄積した痛みによろめく様に花嫁が歩いてきた。
 男の首は何も答えない。しかし、何かを試す様な微笑ではなく、悟り切った表情へと変わっている。丹羽の腕から首を受け取るものの、失った肩から先、右腕が左腕から零れ落ちた。
 落ちていく腕を拾おうとするアンリェイナに咄嗟に視線を合わせ、男は笑う。その表情には、もういいのだという意思が込められていた。

 ――ごめんなさい。

 語り掛ける様な声が、車内に響く。
 声色は、今までに一度も聞いた事の無い程に穏やかな、或いは清らかな女性のそれ。
 ばしゅん、そんな音が鳴った。
 腕は床に落ちたと同時に、白い灰になって崩れて消える。
 各々が戦いの終わりを確信し、能力者達は首と右腕を失った花嫁の元へと歩み寄ってきた。
 半身とも言うべき大切な者の首を片腕に抱き、花嫁は真っ直ぐに向かい合う。女の身体の首から上は無いが、空想で描き出すならば、首から上にある筈の双眸は真っ直ぐに彼の目を見つめている事だろう。

 ――ありがとう。

 この声の主は、恐らくは、この花嫁のもの。
 女の身体が、後ろ側に倒れていく。
 背中が床に触れた瞬間、ぼろぼろの白いドレスごと、その身体は瞬時に白い灰へと変わった。
『見事だった、九人の花嫁達』
 最早形を成していない腕から零れ落ちた男の首もまた床へと転げ落ち、黒い灰へと変わる。
 不意に訪れる静寂の中、歩み寄る足音がばらばらに止まった。
「わたくし達は、為すべき事をしたまでですわ」
 愛する者の腕の中へと身を預け、クリスティーナは微笑む。
「二人は、風の中で、死んでも一緒になれたんだね……」
 セルティの背から両腕を前へと回し、フィクスは呟く。
 足元には、車窓からの風で灰色に混ざり合いながら夜空へと溶けていく、黒と白の灰の山が残っていた。
「羨ましくもありますけれど、でも、私達は生きていかなければ」
 膝を折り、沙那は狗鬼の身体に寄り添う。
「伴侶と共にある花嫁は、何事にも決して屈しません」
 漆黒の翼を、細い腕を撫でながら、あやめは然と頷いた。
 床に積もっていた灰は風に奪われ、徐々に消えていく。
「あっぷるぱいさんのこと、ずっと信じてますよー」
 床に座り込んださやかが隣を見上げると、フランケンシュタインFWがさやかを見つめている。
「小さな身体で……痛かったでしょう……」
 透はケルベロスベビーを抱き上げ、頭と背を丁寧に撫でてやった。
 やがて、灰は全て消え、戦闘の余韻も車内から消える。
 窓から見える月と星の少ない夜空、そして初夏の虫の音だけが静寂の中で響く。
「お疲れ様。今日はゆっくりと休め……ありがとう」
 ルーマが鋼鉄の腕と背にそっと触れると、フランケンシュタインFWは暗い車内で小さく頷いた。

 誰ともなく、床に落ちたままのメダリオンを拾い上げる。
 各々がイグニッションを解き、開いた窓や抉じ開けた扉から外へと降りる。
 見慣れた筈の鎌倉の景色が新しく見えたのは、自分達が一回り強くなったから。
 九人は、笑いながら帰路を行く。


マスター:内藤璃影 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/05/17
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冒険結果:成功!
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