<リプレイ>
● 目の前に広がる光景を、皆はどんな思いで眺めているだろうか。 どこかで見た外見の少年少女に、どこかで見たような詠唱兵器。中には自分と同じ顔、自分と同じ武器を持った者もいる。違いは自分達とは異なる、無機質な瞳と虚ろな表情、と言った所か。 「いやぁ、確りと『出会い』が待っていたとは、流石は私の占いですね」 そんな相手の様子にはお構いなく、白雪・咲夜(純汚染物質・b10190)はどことなく嬉しそうだ。 「いやいやいや! 僕の運命の人って誰なのさ!? 確かに僕は自分が好きだけど、恋人にする訳にはいかないんだ!」 そんな咲夜に真っ向から反論をぶつける風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)。自分が好きと公言する辺り、そもそも人としてどうなのかと言う事は、この際黙っておこう。 事の発端は咲夜により、この方向に玲樹の『運命の人』がいる、と言う占いがされた事にある。その相手を見届けようと、結社『Fake Fate』のメンバーと訪れた廃教会で、まさかこのような事態に出会う事は、想像だにしていなかっただろう。 「はわわ……私もいるんですねぇ〜。という事はぁ〜、私も候補の一人なんでしょうかぁ?」 やはり緊張感を全く感じさせない口調で、城島・伊万里(土蜘蛛の巫女・bn0122)が首を傾げる。伊万里が候補と言うなら、他のメンバーも全員候補と言うことになる。尤も、その中には当然『同性』も含まれる訳だが。 「でも、運命の出会いとか、憧れちゃいます、です。この7人と、1匹のうち、誰が風見さんの、運命の、人、なんでしょう、ねー」 閊え閊え話しながら、川原・世寿(慈悲と束縛の教皇・b20582)もにこにこと疑問を口にする。ここにいる人数と数が合わないが、それはおそらく自分と、自分の恋人である咲夜は自動的に除外しているのだろう。 ていうか、1匹って。 「運命の方……どなたなのでしょうね? もっぴー様でしょうか?」 「え、ええっ!? もっぴーも入ってるの!?」 その疑問に答えたのは、どこか楽しげにワクワクしている藤堂・ビアンカ(フローライト・b49235)と、不安げな表情を浮かべた川原・透(中学生雪だるま・b34179)だ。もっぴーとは、透が連れたモーラットピュアの名前である。写し身の中にもっぴーの分身もいるため、必然的に数に加えられたのだろう。 「とりあえず、最後まで残ってた人が運命の相手なのかねー?」 怖い事実を告げる楢芝鳥・俊哉(図書室の主・b20054)の言葉に、皆の間に緊張が走る。それってつまり、倒す順番によってどうとでも変えられるような……? 「玲樹の、運命の人……ん。でもゴーストである以上、破壊させて貰う……」 写し身を一瞥したフィアレス・セルシウス(フィラメント・b20813)が、静かに呟く。が、ふと疑問が浮かんだか、首を傾げる。 「? ……なら、運命のゴースト? ……玲樹、ゴーストでもいいの……です、か?」 「いや、全然。全くよくないから」 フィアレスの疑問に、コンマ2秒で否定の意思を示す玲樹。まぁ、普通はそーですよね。 「運命の人、ねぇ……まぁ、占いとかで探すものでもないだろうなー……」 この手の占いを信じない性格なのか、二海堂・悠埜(月纏・b25219)が静かに漆黒のエアシューズ『Tyche』のつま先を、トントンと地面に打ち付ける。 「とりあえず、自分ふるぼっこ大会、始めるかね」 「そうそう! 運命の人はおいといて、とりあえずゴーストを倒さなきゃ! もっぴーは渡さないよっ!」 透が決意を露にし、自身の写し身達をびしりと指差す。その言葉を合図とするように、一斉に行動を開始する能力者と写し身達。 ……あくまでもっぴーに拘るんですね、透さん。
● 多数対多数の場合のセオリー。それは真っ先に回復手を潰す事、という事は、歴戦の兵である能力者の皆なら、誰もが理解出来るだろう。 そのような思考は写し身に無いとは言え、戦闘に対する行動自体は、本人達と変わる所は無いのだ。真っ先に偽ビアンカが自身に白燐奏甲を纏わせ、偽悠埜も魔弾の射手を用い、その力を高めている。 互いに強化をしながらの移動。戦線が前へと押し上げられる中、最初に動きを見せたのは他でもない、世寿であった。 「はーい、動かないで、ください、ですよー」 手にした詠唱定規の回転動力炉が凄まじい回転を始める。と同時にもう一方の手に持った風水盤が、鈍く輝き始める――。 『………』 その直後、敵の動きに変化が見られた。偽咲夜と偽俊哉を除いた、他の7人と偽もっぴーが動きを止めたのだ。世寿の発動した八卦迷宮陣により作られた、目に見えぬ壁に押し留められ、身動きが取れないようだ。 「まずは女の子達を先に倒す、だね。写し身とは言え女の子を攻撃するのは、いささか気が引けるけど」 動きの止まった写し身達を見て、玲樹が冷静に戦況を見極め、距離を詰めていく。 写し身とは言え女の子の外見をしてるんだから、動けない今ならあんな事やこんな事も出来るんじゃないだろうか。でも本人の目の前でそういう事するのも何だかなぁ。もし本当にこの中に運命の人がいるんなら、それは心象がかなり悪くなるだろうしなぁ。やっぱり止めとこう。 ここまで思考するのに、0.7秒。その直後、玲樹が手にしたやたら豪華な黄金の装飾が施された死神の鎌が、黒いオーラを纏う。目標は――偽伊万里。 「ごめんね、このお返しはまたいずれっ!」 放たれた黒影剣が、偽伊万里の身体を捉える。咄嗟にガードを試みるが、それも打ち破る程の強烈な攻撃。 写し身は、写された本人の能力を忠実に再現すると言う。今回のメンバーで最も経験の高い玲樹の攻撃を、偽者でも経験の浅い伊万里が受けきるのは、些か困難であったようだ。その一撃で偽伊万里の姿は砕け散るようにして消滅してしまう。 ここに戦線は崩れた。多数の者が動きを止められ、最弱とは言え1体が葬られたのだ。このまま一気呵成に責め立てれば。能力者達の誰もがそう考えた時。 『……』 放たれたのは、正に鏡のように同じ行動を取った偽世寿の八卦迷宮陣。 「ふぇ、動けないですぅ〜」 「……だめ、動けない……」 「おお、確かに動けないな」 「の、呑気に言ってる場合じゃないってば!」 伊万里とフィアレス、悠埜と透も懸命にもがくが、その動きは押し留められたようだ。だが、この時点で既に差が明確となった。それは――動ける者の人数。 「何、世寿の迷宮陣は喰らい慣れてる。問題無い」 カッコよく決めたつもりの咲夜の台詞。それってつまり彼女にいつもやられてるって事じゃねーの、というツッコミは敢えて無視。恋人同士なんだから色々あるって事で。 「世寿、すまない……偽者だから構わないな?」 刹那の後。手にした二振りの独鈷杵『血狂い』『涅』が、攻撃を放った直後の偽世寿を捉えた。打ち付けられる独鈷杵。そして体の内部を駆け巡る、凄まじい衝撃。インパクトの一撃が炸裂したのだ。 「なんだか、ボクも、痛くなってきた、の、ですけど……」 世寿が痛々しげに顔を歪ませる。自分の姿をした者が攻撃を受けているのだ。その気持ちも分らなくも無い。 咲夜の攻撃は成功したが、それだけでは沈める事は不可能。しかし咲夜が即座に身体を右に倒すと、その背後から俊哉が姿を現す。 「血まみれの舞踏会、開幕と致しますかー」 手にしたレイピア『ナナユメ』が煌く。俊哉のまるで華やかな輪舞曲を舞うような、軽やかなステップ。そしてリズムに乗り放たれる、無数の斬撃。その攻撃は偽世寿のみならず、その近隣にいた写し身全てを切り裂いていく。 『……』 咲夜の一撃と俊哉の連携により、流石の偽世寿も耐えられず鏡のように砕け散る。 「うわー、すっごい複雑なんですけど」 俊哉が余裕の表情を浮かべ呟く。あまりその表情は最初から変わっていないように見えるが、内心は気にしているのだろう。 「……止め刺した方、御覚悟、です」 そんな俊哉に向け、世寿が恨みがましい視線を向ける。本物攻撃は反則ですよ? しかし。写し身達もここで反撃へと転ずる。動けないとは言え、前線深くまで食い込んでいた3人。その周囲からの集中攻撃を受ける事になったのだ。 「うおっ!? 痛たたた!」 「くっ……!」 放たれる偽悠埜の蹴り。そして偽咲夜の衝撃を伴うインパクト。範囲にいた敵からの攻撃により、多大なダメージを負ってしまう。 2体を崩したとは言え、戦線は一進一退の攻防を繰り広げていた。
● 敵陣深くで攻撃を受ける3人を救うには、かなり高度な連携が必要となる。 果たしてそれが出来るのか? 考えている余裕は無い。 「伊万里さん、いく、ですよー?」 「はぁ〜い。準備おっけーですよぅ」 ……切羽詰ったこの状況を、一気に打ち砕くような世寿と伊万里の呑気な会話。だが世寿が呼び寄せた土蜘蛛の魂と、伊万里の清らかな祈りを込めた舞は、確実に3人の失われた体力を取り戻していく。 「わたくしもいますことよ? お待ちになって、今回復して差し上げますわ!」 位置としては前衛と後衛の中間あたりを動いていたビアンカ。『時のゆりかご』と名付けた蟲籠を開けると同時に飛び出した白燐蟲が、俊哉の傷を瞬く間に癒し、その武器に白燐の力を纏わせる。 「よーし、動けるようになった! このお返しはさせてもらうよ!」 後方では伊万里の舞により自由を取り戻した透が、気合を露にする。その横で「もきゅきゅ!」と同じように気合を入れるもっぴー。 「もっぴーは前の3人をぺろへろしてあげてね。そして僕は……」 そう言うと、手にした結晶輪に意識を集中させる透。両手に持った結晶輪が鈍く光り出す。 「……どんなに似てたって偽物だってまるわかりだもん!」 放たれたのは、周囲を覆う凍てつくような吹雪。透が巻き起こした吹雪の竜巻が、範囲内に納まっていた全ての敵の体力を削り取っていく。 「なんていうかなんていうか、すっごく複雑ですわ……!」 自身の写し身が攻撃を受けている姿を見て、ビアンカが文字通り、複雑な表情を浮かべる。そりゃそーですよね。 「ん、この位置、なら……」 頃合と見たか、フィアレスが両手に抱いた詠唱ライフル『Yggdrasill』と『Omphalodes japonica』を、小脇に挟むように構える。照準は……次の目標と定めていた、偽ビアンカ。 「収束完了。ターゲットロック……フルドライブ!」 フィアレスの掌に集束した電撃が詠唱ライフルを伝い、光の流星となり放たれる。科学人間の持つ、ライトニングヴァイパーだ。 その貫通性、そして破壊力は推して知るべし。最後方にいた偽ビアンカのみならず、前にいた2人……偽俊哉と偽悠埜をも巻き込んだ一撃は、正に凄まじいものであった。俊哉のスラッシュロンド、そして透の吹雪の竜巻によるダメージの蓄積もあるが、フィアレスの一撃は一気に3体の写し身を砕いたのだ。 「さ、さぁ…次はどなたですのっ!」 自身の写し身が砕かれたのをなるべく見ないように、視線を逸らすビアンカ。やっぱり複雑な表情で。 その間にも体力を取り戻した玲樹がダークハンドでもっぴーを砕き、咲夜が透の写し身をインパクトで砕いていく。そして残るは偽フィアレス、偽咲夜、そして偽玲樹の3体。 つまり、この時点で女の子はフィアレス一人と言う事に――? 「……玲樹、わたしでもいいの……です、か?」 玲樹さんはもうすぐハタチです。対するフィアレスは現在小学6年生、つまり11歳。はい、色々と危険です。主に倫理的な意味で。 そんな会話を交わしている間に、偽フィアレスが本物と同じようにライトニングヴァイパーを放つ。が、射線にいたビアンカと世寿は、余裕を持ってこの攻撃を回避する。そして攻撃直後の隙を俊哉に突かれ、偽フィアレスも鏡のように砕け散った。 「風見さん、女の人いなくなっちゃったけど、どう思うー?」 「いや、これで僕の運命の人候補はいな……まさか、残りの人達の中に運命の人がいるとか、言わないよねっ!?」 俊哉が楽しそうに語りかけると、慌てて否定する玲樹。そう、このままいけば『運命の人』は咲夜、もしくは自分と言うことに……。 「やっぱり、もっぴー、ですか、ね?」 「それはないから」 もっぴーに拘る世寿の一言に、やはり瞬間ツッコミを入れる玲樹。この状況でも余裕である。 「こんな時にしかぼこぼこにできないからな……」 楽しそうに呟くのは悠埜だ。二度目の伊万里の舞により、ようやく足止めから解き放たれた悠埜は、借りを返すとばかりに一気に駆け出す。その標的は――偽咲夜! 「……日頃の色々、ここで晴らさせてもらう!」 日頃何をされてるかは不明だが、跳ねるようなステップで一気に距離を詰めた悠埜の右足が、三日月の弧を描く。それは日頃の何かを籠めた、悠埜渾身のクレセントファング。その強烈な一撃は、偽咲夜の身体を粉々に打ち砕く。 最後に残った運命の人、それは玲樹自身であった。そんな彼の写し身目掛けて、にやりと笑う者がいた。 「哀しき運命、せめて全力全壊の木端微塵に消し去ってやろう」 咲夜の死刑宣告。『血狂い』の回転動力炉を直接掴んだその手に、分解された詠唱兵器がそのまま装着される。その勢いを利用して、一気に振り被り――振り下ろす。 「さよなら偽者の僕。格好良くて素敵な僕は一人で十分さ」 「「却下」」 ……写し身達との戦闘は、多大な被害とちょっぴりの心の傷を残し……能力者達の勝利に終わったのだった。
● 「うわ、ほんとに鏡に足ついてるよ……キモいな」 写し身を作り出していた『ヤヌスの鏡』はあっさりと見つかり、悠埜とフィアレスによって粉々に砕かれる。 「任務完了……元々の目的と、違う気もする……けど」 そう、確かにこの一件は、これで全て終了である。 だが。 「で、結局運命の人はどこへいったのさ!」 廃教会を出ようかと言う時、運命の人が見つかると信じていた玲樹の叫びに対し、咲夜が徐にポケットから手鏡を取り出す。 「はい、運命の人ですよー」 「……」 がっくりと項垂れる玲樹。やっぱりそうか。そうなのか!? 「ほ、ほらっ、Fake Fate のみんなが『運命の友』ってことなんだよ」 慌ててフォローを入れる透。そしてくるりと後ろを振り向き。 「ねっ、城島さんもそう思うよね?」 「へ? ふぇっ? わ、私ですかぁ〜?」 唐突に振られた伊万里は慌てるも、少し諮詢した後。 「そうですねぇ〜……まだ若いんですからぁ、きっと素敵な女の子が見つかると思いますよぉ〜?」 伊万里の言葉に、途端に表情が明るくなる玲樹。へこたれてはいないようだ。 皆が明るく会話を交わす中。ビアンカは玲樹の背中を見つめ、そっと微笑む。 (「運命の人、きっと見つかりますわ……きっと」) 優しげなビアンカの微笑み。それはまるで出来の悪い兄を見守る、しっかり者の妹のようであった。
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参加者:8人
作成日:2010/05/29
得票数:楽しい16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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