式の鳥籠


<オープニング>


 桜が散り、そして緑が一層山々に美しく生い茂る頃。
 GWの慌ただしさも一息つき、日光にも静寂が戻りつつある。
「……おや?」
 帽子のつばを上げ、老人が顔を上げた。
 古い竹垣の向こうに見える庭には、葉桜が見えていた。冬が楽しみな椿の木、手入れされなくなって大分経つのであろうか……雑草が生い茂っていた。
「ここ、何か建ってなかったかしら」
「……そうだったかな」
 前を歩いていた老人が足を止め、振り返る。帽子を持ったまま、後ろの老女は首をかしげた。
 雀のお宿……。
 確か、昔話が伝わっていたんだ。
 村の畑を襲う獣の被害に悩まされていた庄屋の所に、白い雀がやってきたという。庄屋が竹で出来た籠を作ってエサをやると、それ以来畑を守ってくれるようになったと……。
「白い雀が『棲んでいるんだ』と言っていた家があったような」
「建て壊しになったんじゃないかね。それか、もう少し向こうだった気がするよ」
 老女にそう答えると、再び歩き出した。
 白い雀が棲むという。
 見えないお屋敷の縁側から、白い着物を着た若い女がじっとこちらを見ていた。その振り袖には美しい羽が描かれており、まるで本当の羽根のように輝いている。
『妾の鳥籠、どこにある?』
 鳥籠はどこへ?
 女はつぶやきながら、すうっと縁側から奥の部屋へと向かう。その周囲を、パタパタと元気のよい足音が囲む。
 駆け回る童もまた、白い着物を身につけていた。
 鳥籠を探して、女と童は家を歩き続ける……。

 小さな雀が描かれた扇子を開き、扇・清四郎はすうっと目を細めた。
 古来、白い獣は神の使いと言われていたそうな。扇は呟くと、こちらを見据えた。
「闇纏いはヒトに効果があるものだけど、家自体が認識されなくなった……そんな事件が多発しているのは、もう聞いているかな?」
 周囲の人々から、その家は突然見えなくなった。
 そこには最初から家などなかったかのように、である。
「最初は宮崎で起きていたけど、ここ最近他の地方でも起こるようになった。今回の事件は、日光だ。むろん事件が酷似している為、双方無関係とは言えないだろうね」
 ヒトから見えなくなったこの家は、古い日本邸宅であるという。昔は立派であったろう庭と、年期を感じさせる家。
 この家は、能力者の目には見える。
 ただ、一般人には見えないだけ。
「この家には結界のようなものが張ってあって、この結界に大きなダメージを与えて破壊しなければ中に入る事は出来ない。中に入ると特殊空間に連れ込まれ、そうなると中に居る地縛霊を倒さなければ出る事が出来なくなる。……つまり、何があっても倒さなければならないという事」
 その上、時間が経過する度にゴーストが増えていくのである。待っていても体力を回復する余裕などなく、不利になろうと体力の限界が来ようと倒すしかないのである。
「特殊空間内は、この邸宅の縁側に沿った二部屋だ。十畳二部屋で襖で仕切られているんだけど、特殊空間に入った時は開かれているね。縁側の方も空いているけど、特殊空間では雪の降る冬の景色が広がっている。ここで戦っていると、時間が経過するごとに庭先から白い着物を着た女の子が四人飛んで舞い降りて来る」
 地縛霊の主は、白い着物の女『白雀』である。
 白雀は振り袖から羽根を全体に放つ『白刃の舞』、それと単体に対して麻痺効果のある射撃攻撃を行う。
 戦闘開始時点でそこに居る童は、四人。
 童は白い着物を着た少女の姿をしており、それぞれ二体ずつ違った力を持っている。二人は全体に癒しの鳴き声を放つ『癒しの囀り』、残り二体は舞うように周りながら周囲を切り裂く『刃の羽根』を行う。
「時間が経つと、同じように四体……そしてまた時間が経過して四体。長引いた時、それだけ不利になる。追加が来た時どう対処するか、そして誰から片付けるか考えておいた方がいい」
 もし次々やってくるゴーストを倒しきれず、増援ばかりが増えてしまったら。もし、味方の大半が倒されてしまって残りのゴーストを倒すのが不可能な状況に陥ったら。
 そうすると、もう二度と戻って来る事は出来ないかもしれない。
 そうならないように、どうか全力で向かってくれ。
 扇は祈るように、目を伏せた。

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参加者
久世・洋介(白燐蟲使い・b08285)
古谷・唯(薊・b19041)
羽崎・セピア(ノウェム・b27555)
アリシア・クリストファ(コレクター・b30952)
ネフティス・ヘリオポリス(熱雷の巨人と流砂の花嫁・b31266)
春日・吏月(雪桜・b32755)
姫酉・信乃丞(宵闇月天心・b32865)
出雲・さらら(淡桃雪・b65574)



<リプレイ>

 のどかな日光の山々に目を細め、アリシア・クリストファ(コレクター・b30952)はそっと側に佇むケルベロスに手を添えた。
 時間が許すのであれば、この日光の美しい景色を観賞していたいものである。
「見えない民家、ね」
 付近の人々はここを『空き地』と呼んでいた。つまり周囲の人々には、この屋敷事態見えていないのは確かであった。
 しかし、アリシアの目には古びた民家がはっきりと見えている。
 指示を待つようにこちらを見上げるリューイを撫でてあやすと、アリシアは久世・洋介(白燐蟲使い・b08285)のほうに視線を向けた。
 鳥籠を手にした洋介は、民家の前に立って手をかざす。
「人には見えない雀のお宿……鳥籠はここですよ、入れてもらえませんか?」
 そう呟いてみる。
 しかしやはり反応はなく、ここから先にゆくには結界を破壊するしかなさそうであった。しかも一度入れば、再び出るには地縛霊を倒すしかないというように扇からは聞いていた。
 同じような事件は各地で起きており、その中には原初の吸血鬼であるアレキサンドラも目撃されていると羽崎・セピア(ノウェム・b27555)は聞いている。
「原初の吸血鬼が消えた民家もあるって聞いているし、この事件には何かがあるんだろうね」
「そうですね、地縛霊に招き入れられたら結界を壊さなくても入れるとか、いろいろ考えてはみましたが……まあ返事はないようですけれど」
 洋介は手にした鳥籠を見下ろし、小さくため息をついた。洋介とてその吸血鬼に関する報告をきちんと把握している訳ではないが、セピアの聞いた話によればアレキサンドラもきちんと結界を壊して入ったようである。
 ゆるりと扇子を仰ぎ、姫酉・信乃丞(宵闇月天心・b32865)はふむと小さく息をつく。
 洋介とアリシアの側に立ち、信乃丞も同じように屋敷を見上げてみた。
「事件そのものを、人の目から隠してしまうには世界結界でも絡んでいるのかのう。それとも、わしらの想像できぬ力が絡んでおるのじゃろうか。できれば、原初とかそのようなものでなければよいが」
 ともあれ、ここでその原初の吸血鬼の話をしていてもらちがあかない。
 信乃丞はそれ以上の雑談をやめ、セピアに声をかけた。
 セピアはヘッドホンの位置を直し、ちらりと振り返る。イグニッションを済ませる者、自己の力を集中して高めておく者、それぞれ準備が終わるのをセピアは待って声をかけた。
「それじゃあ、もうそろそろいいかな。もちろん、手加減はなしでね」
 皆、結界のある屋敷の前に立つと、セピアの声に続いて力を放った。セピアの吹き付けた吐息、そして洋介の炎。リューイも結界のほうへと牙を突き立て、総力を挙げた攻撃で屋敷を取り囲んでいた結界が崩壊していく。
 厚く阻んでいた壁であるが、全員の力を集中させれば破壊するのもあっという間であった。
 屋敷を囲んでいた結界を破壊した後、気づくと八名と二体はぽつんと座敷に降り立っていた。十畳間二つ付きの部屋の間にある襖は開け放たれ、左側は景色のよい庭が広がっている。
 庭には真白の雪が降り積もり、なおもしんしんと降り続けている。
 そこは冷たい、冬の庭。
「籠の……鳥」
 か細い声で、春日・吏月(雪桜・b32755)がそう呟いた。
 座敷の向こうに座った、白い着物の女に吏月は目を奪われていた。美しい庭と、無機質なまでに整えられた和室。
 それはきっと牢獄なのであろうと、吏月は感じていた。彼女はこの屋敷の中で、何を思っていたのだろうか?
 彼女はそれでもなお、鳥籠を……。
「いくぞ!」
 セピアの声で、吏月ははっと意識を戻した。
 籠にとらわれた白い小鳥を、解き放つためにきたのだから。

 ゆっくりと立ち上がった白雀が袖を振り上げると、羽の描かれた振り袖の前で洋介の放った炎が爆ぜた。
 ゆるりと視線を落とし、女は周囲を見回す。
 子雀たちの鳴き声は、雀のそれと似ている。ちゅんちゅん、と庭でさえずる雀のような鳴き声をあげ、童たちはわっとこちらに駆け寄ってきた。
 迎え撃ったのは両脇に控えるリューイと、ネフティス・ヘリオポリス(熱雷の巨人と流砂の花嫁・b31266)を守るように立ったセト、そして彼らと共に真っ先に突っ込んだ古谷・唯(薊・b19041)であった。
「セト、あなたは唯さんに付いてそこを突破して!」
 ネフティスの声を聞き、セトは巨体を揺らして唯に続く。奥の間に入った所で待ち構えた童たちは、唯やセトの懐にすうっと入り込み、刃をかざす。
「相手にしていられないのよ!」
 童たちの刃が体をかすめるが、唯は気にせず深紅のかぎ爪を一発たたき込み、白雀へと接近した。その側にセトがあるのを把握しつつ、童たちを後ろの仲間へと任せる。
「さあ、お手合わせ願いますか」
 唯の言葉に、ざわざわと女の着物についた羽がざわめく。宣言の後唯が繰り出したかぎ爪を、女は白い振り袖を振り上げすうっと添えた。
 まるで舞うような仕草で、白雀はその一撃を風に流す。
 ゆるり、ゆらゆら。
 その動きは力こそ無いが、返し手で放った羽は前に立った唯の体を硬直させた。それでも彼女の視線の先は、どこかここには無い気がした。
『妾の鳥籠……どこにやった?』
「あんたの相手は……ここだ!」
 唯の叫びと気合いも請け負ったように、セトが渾身の力で白雀を殴りつけた。か細いその体は、セトの拳を受けてたよりなげに傾ぐ。
 同時に唯を縛り付けていた痺れも切れ、体が軽くなっていた。
「……じゃ、第二ラウンドいこうか」
 ゆらりと体を起こした白雀は、周囲の戦いを把握したのかそうでないのか。ここで両手をかざすように挙げた。
 鳥が羽を広げるように、白雀の両手の羽根も大きく開く。
 それは鋭く小さな刃を生み出し、セト、そして唯だけでなく後方にいた吏月たちの体も串刺しにしたのであった。

 子雀に混じる縁側近く、出雲・さらら(淡桃雪・b65574)はちょこんと彼女たちに混じるようにしてしっかりと立っていた。
 片手にスノーフレークをしっかりと握りしめ、駆け回る子雀たちを視線で追う。
 唯たちと交代に前に出たのは、さららであった。初手から攻撃につとめたセピアと吏月が吹雪を放つと、さららは子雀の殲滅に当たる。
「せめて、降り積もる雪に埋もれて逝けるように……」
 吏月はさららの少し後ろに立ち、白い庭を視界に入れつつ吹雪を放った。彼女と同時に、セピアも吹雪を部屋に巻き起こした。
 この地縛霊が作った空間から見える、雪化粧。
 そこから巻き起こったかのようなすさまじい吹雪が、二間の和室を包み込んでいく。
 子雀たちは雪の中、ちゅんちゅんと跳ねてらの体を切り裂いた。かろうじて受け止めた腕の傷を見下ろしつつ、さららはそっと子雀たちを見やる。
「雀さん達は、ずっとこの家を守っているんですか?」
 この空間の中で、この古い屋敷の中で、ずっとずっと……。
 子雀たちを見返すさららは、少し悲しそうに目を潤ませているように見えた。澄んだ目は子雀たちを捕らえていたが、逃がす事もない。
 ふ、とやんだ吹雪の合間にセピアが踊りに切り替えると、くるりと子雀が背を向けたのが見えた。……かかった。
「そいつだ!」
 向こうにいた子雀が、囀りをあげる。
 そこ目がけて、さららが大きな槍を放った。彼女の頭上から生み出された槍が、風を切って子雀の体を畳みごと貫く。
 体を解放されてそれでもまだ声をあげようとする子雀に、立て続けにネフティスの弾丸が被弾した。
 度重なる攻撃で、子雀の体がすうっと風に溶けて消えていく。
 攻撃はそれではやまず、ネフティスとさららは次の童へと攻撃を転じた。気になるのは、白雀のほう……。
「セト……」
 あの白雀の攻撃は、自分の体を大きく傷つけていた。
 おそらくそれは、アリシアも。彼女は口にはしないが、白雀のあの攻撃を止めさせねば二人とも共倒れである。
「セトをお願いします、唯さん」
 自分が倒れても、まだセトが動けるかぎりは戦える。
 それは自分の信じたセトを、信じているという事だった。

 囀りが止むのと、白雀が再び刃を放ったのは同じ頃であった。
 それは一端は耐えたアリシアとネフティスの体力を、またも危機に陥れる事となった。彼女たちに残されたのは、ほんのごく僅かな力のみである。
 即座にアリシアの傷の手当てを行った洋介は、これがどういう事か分かっていた。
「あなたの体力では、白雀の攻撃に二度は耐えられない」
「全体攻撃を行う白雀への攻撃が鈍っている以上、それは仕方ない事ね。でも増援が来るなら、童ばかり相手にしていても仕方ないわよ?」
 アリシアは毅然とした様子でそう言うと、弾丸を白雀へと放った。弾丸が白雀の体を毒で蝕んでいく……だがこれもいつまで保つかわからない。
 自分はリューイが居るから立っていられる。
 それは自分も、そして同じ使役と命を共にするネフティスとて分かっている事であろう。攻撃を食らえば先に倒れるのは、リューイではなく自分だと。
「一回くらいは何とか踏ん張ってみるわ。どの道、その次に倒れる時まで雀も童も残っていたら、撤退が迫っているという事でしょう?」
 これは自分を省みぬのではなく。
 倒れてもリューイが居るという安心感と、そして倒さねばここから出られないという覚悟。
「なあに、後ろはわしが支えておる、残りも殲滅するのじゃ」
 洋介達に、信乃丞が叫んだ。
 あの白雀の刃が仲間を傷つけてしまった分、少しでも信乃丞が舞う事によって癒していく。何としても、あの白雀を倒すために、だ。
 だが、ここで縁側の近くに居たさららが声を放つ。
「また四羽、来ました」
 白い子雀は雪の中、屋敷に舞い降りる。
 彼らは後方に居た洋介達と、白雀に攻撃すべく前進したセトや唯、そして吏月達を分断した。さららは落ち着いて先ほどの子雀へ槍を放つと、その残り頭数を数える。
 これで五体……だか、残りは次のセピアの攻撃で消えるだろう。
 迫るなりさららに刃を振りかざした子雀は、その体を切り刻む。もう一羽は背を向けるようにして、後ろの吏月を餌食にする。
 それでも後方の仲間のためにもここを動く訳にいかない、とさららは理解していた。
「無理するでないぞ、治癒はわしが付いておる」
 信乃丞がやんわりとした声で言ってやると、さららはこくりとうなずいた。さらら、そして唯達を支えている吏月へも祖霊の力を借りて治癒を行う信乃丞。
 仲間がけがをしてないか、それを把握するので手一杯であった。
 静かにネフティスは、セトを見つめる。信乃丞の手を煩わせる事のないよう後ろに下がったまま、セトの動きを見ていた。
「セト、まだ……いけますね?」
 ネフティスの問いかけに、セトは答えるように腕を振り上げる。そっとネフティスは自分の傷に手をやり、それから白雀を見据えた。
 一瞬子雀の影に隠れた白雀の体は、ゆるりと舞ったように見えた。
 その影から白雀が再び現れたとき、刃は彼女の体を切り裂いていた。体が崩れそうになるのを、何とかネフティスはこらえる。
 だがアリシアはそれに耐える事はできなかった。
 小さくうめき声を上げて倒れたアリシアに気づきながら、ネフティスは手をかざした。視界から外れたアリシアは……。
「リューイ、ファイアブレスを……!」
 声かけると、アリシアは再び体を起こして弾丸を放った。
 二人の弾丸が、子雀たちの間をすり抜けて白雀を貫く。舞い上がる吹雪は、外から吹き付けるものではなく、仲間ものだろう。
 唯は二つの弾丸があけた穴がふさがらぬうちに、とかぎ爪を光らせて飛びかかった。
「散々嬲られたお返しを……させてもらうよ!」
 ゼロ距離から、唯は力を白雀へと放った。かぎ爪から放たれたエネルギーは白雀の体を包み込み、崩壊させていく。
 近づいた吏月が思わず両手を差し出すと、彼女はふうっとその腕に溶け込むようにして消えていった。そっと唯が、吏月の手に自分の手を重ねて下げる。
 白雀が消え去るという事は、ここが消えるという事。
 ネフティスの手当をしようと体を起こした洋介は、状況に気づいて手を止める。時空は再び、あの春の屋敷へ……。
 ゆらいだ景色から吹雪は消え去り、十人はぽつんと屋敷に座り込んでいた。
 はらり、と葉が舞い込んでネフティスの頬に張り付く。それをそっと手に取り、それからネフティスは洋介の手元へと視線を落とした。
「鳥籠、まだ……」
 彼女に言われて、洋介は傍らを見下ろした。
 そこには、彼が持ち込んだ鳥籠が残されていた。
「彼女は鳥籠を、持っていけませんでしたね」
「持っていかなかったのかもしれない」
 洋介はそう言い、鳥籠を引き寄せた。

 のどかな屋敷の庭が見える一室に、ぽつんと忘れ去られたようにそれは置かれていた。
 セピアに呼ばれてやってきた洋介は、その前に腰を落とすと、まじまじと見つめる。古びた竹でできた鳥籠は、大事に磨かれてきたのかつやつやと輝いている。
 なるほど、伝承は本当だったのかもしれないね。
 洋介はそう思うと、うっすらと笑みを浮かべた。何よりも彼らはこの鳥籠のように大事にされて来て、そして消える事ができたのだから。
 触れようとしたセピアを制止し、首を振る。
「これが何か関係しているかもしれないよ?」
「いや、何もありませんよ。彼女も鳥籠という言葉にも何も反応はありませんでしたし、これが鍵であるとは考えられません」
 洋介が言うと、アリシアがひょいと後ろからのぞき込んだ。
「そうね、アレキサンドラが消えたのは結界の中。だったら何かあったとすれば、あの結界の中だったんじゃないかしら。これは単なる忘れ物、よ」
 忘れ物……ね。
 セピアは手を引っ込めると、屋敷をぐるりと見回した。
 縁側に寄り添うようにして座ったセトに寄り添うネフティスが、ちらりとこちらを見返す。洋介の言っていたことを聞いていたのか、ふと満足げに笑って息をついた。
「これで彼女は……自由になれたのですね」
「そう、ですね」
 吏月はそらを見上げ、言葉を返した。
 ただ、あの白い雪の降る庭でじっと佇んでいたあの白い雀が気になっていたから。すると、彼女気持ちを察したように、信乃丞がそっと横に立った。
 庭をじっと見つめる信乃丞の視線は、あの雪景色をみているような気がする。
「あるいは、ここはあの白雀にとっても安住の地であったのかもしれんぞ。こうして鳥籠が大切にされておったのじゃ、さぞ大事にされたのじゃろうて」
「ですが……」
「むろん、毎日同じ景色を見つめておらねばならぬ苦しみはよう分かっておる」
 信乃丞はそれ以上言わず、ぽんと吏月の肩を叩いた。
 うららかな春の日差しの中、唯が大きく伸びをする。その横をスタスタとアリシアが通り過ぎると、唯は慌てて駆けだした。
 一歩、二歩と歩いて何かを思いついたようにふと唯が足を止める。
 振り返ったそこには、先ほどと変わらぬ古びた民家がちゃんとあった。


マスター:立川司郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/05/20
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冒険結果:成功!
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