<リプレイ>
● 朝方僅かにパラついた雨もすっかり上がり、ギラつくような太陽が照りつける。気温湿度ともに高く、勉強をするのにこれ程不適当な日も無いだろう。 休日でもあるこんな日は、エアコンの効いた部屋でゆったり過ごすか、さもなければ海やプール等で遊ぶのが正しい過ごし方かも知れない。 「あっちーなもう、マジでだりぃなー」 「超フケてぇー」 余り真面目とは言えない高校生3人組もそう考えていたようで、散々愚痴を零しながら、重い足取りで校舎へと歩いてくる。
一方、能力者達は裏門側から密かに校内へと侵入しようとしていた。 「男子校ってのは警備が緩いのかね? それともこの学校がたまたまか」 事前に聞いては居たが、黒船・ロミオ(土噛みし拳・b32759)も拍子抜けする程簡単に敷地内へ入ることが出来た。 良く言えば生徒の自主性を重んじた自由な校風。悪く言えば野放しがこの学校の方針なのだろう。 「平和であるべき学び舎に不穏の芽があると言うなら……摘まないといけませんね」 外から見る限り、何の変哲も無い高校の景色。それを目の当たりにしたアリーセ・エルンスト(ソライロノカゼ・b33163)は決意を新たにする様に心中で呟く。 「しかしこの時期に熱血先生とかダブルで暑苦しいぜ」 これに続く三井寺・雅之(風炎の光彩・b60830)は、照りつける日差しに顔をしかめつつ溜息を零す。じっとしていても汗が滲む様な蒸し暑さだ。 「来てるだけでも、褒めてやれよ」 この暑い中、補習に出てくるだけでも優秀な方だ。神崎・真希(優しき路傍の石・b75013)は自身の価値観からそう判断してぼやく。 「補習授業の雰囲気、楽しみです」 こちらは正真正銘の優等生、池田・クラレット(護界召喚師・b45628)。彼女が補習授業を受ける機会はこれまでも、これからも有りそうに無い。 「でも、いくら態度が悪くても、命を奪われちゃうのは無いよね」 不真面目な生徒達であっても、ゴーストに命を奪われて良い道理は無い。 教師を目指す獅子谷・銀子(ライオンハート・b08195)にとっては、特にその想いは強いのだろう。 「男の子がいっぱい、男の子がいっぱい、楽しみだなー♪」 「なんだか、とってもドキドキ致しますの。男子校というと、男の子同士であんなことやこんなことをしているって聞きますの」 他方、緋上・花恋(アルテミスの幻影・b74280)と真田・幸奈(お茶目な言霊使い・b20804)の2人は「男子校」と言う響きに過剰反応。なにやら幻想の中を浮遊している様子。 「そんなわけないでしょ……多分。それより急ぎましょ、先に教室に入られたら厄介だわ」 額の汗を拭いつつ、ぼそりと突っ込みを入れるのは速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)。 一行は旧校舎の2階へと急ぐ。
● 旧校舎の一階は、今は部活動に使われているらしかった。廊下にはボールやラケット、その他私物等が所狭しと放置されている。 「女の子が入ってはいけない聖域……でも、任務ですので、必死の覚悟で侵入致しますの。ね、めぐるちゃん」 「えっ、まぁ……そうね」 いかにも男子校らしい(?)光景を目の当たりにしてテンション上がりっぱなしの幸奈に、若干圧倒されつつ答えるめぐる。 「どうどう? 似合ってるかな? おかしくない? あ、襟が曲がってるよ?」 「うん、大丈夫……あ、有難う」 「ボクも変なところないかな?」 「ええ、大丈夫……だぜ?」 廊下を足早に移動しつつ、花恋、クラレットとお互いの変装を確認して直し合う。 身長等のどうしようもない問題はあるにせよ、一応制服を着こなせては居る様だ。 「み、皆さん。もうちょっと、ゆっくり歩いてくださいですの」 厚底のブーツを履いて身長を高く見せると言う芸の細かさを見せた幸奈も、必死に皆の後を追って階段を上る。 「今日は暑いからやめにしようぜー」 「クーラー入れてよクーラー」 「何を贅沢なこと言っとるんだ、全く」 能力者たちが2−A教室の前について程なくして、問題の生徒3人と教師がやってきた。 「ん、何だね君たちは?」 「俺ら、先輩に、ここで演劇の練習だって、呼ばれたっす」 「ふむ……部活か」 「ほらー、空いてないって言うし中止にしようぜー」 「新校舎を使われてはいかがですか?」 「あちらなら、クーラーもありますし」 口々に言う能力者達。極力声を低くして、女子である事を隠そうと言う努力も怠らない。 「そうだそうだ、新校舎でやろうぜー」 3人の高校生達は、とかくこの暑い中補習を受けたくないと言う一心らしく、能力者たちの姿や嘘を不審に思うような心の余裕は無い様だ。 「……仕方ない、そうするか」 教師の方も演劇部の近くで授業をするのを躊躇ったのか、あっさりとその教室を使うことを諦めた。 「これで余計な心配はしなくて済むか」 去って行く4人を見送り、一先ず息をつく雅之。 一般人の危険さえ無くなれば、後はゴーストを退治するばかりだ。 「黒髪の子×……いや、逆に……」 「花恋さん、始めましょう?」 「あっ、うん。そうだね」 眼を輝かせ理解困難な独り言を呟いている花恋の肩を叩き、教室の中へ入るよう促すアリーセ。 「準備出来たら知らせてね」 教師役の銀子を残し、先に教室内へと入る8人。 ゴーストを呼び出す為には、不真面目な授業風景を演出してみせなければならないのだ。
● 「神崎さん、これをね……」 「あ、あぁ、肩車な……他に誰か、いないのか? いや……やるけど」 花恋は、チョークの粉をたっぷり付けた黒板消しを片手に、真希へと何やら相談。 伝統的悪戯の1つである黒板消し落としを仕掛けるために、肩車を要請しており、真希は照れ捲りながらもこれを快諾。 「きゃ、落ちる、落ちる、怖いよぅ……」 「ととっ……前が見えない」 危なっかしくフラついていた2人だったが、なんとか黒板消しを仕掛ける事が出来た様子。 「幸奈も描く? はい、チョーク」 その間にもめぐると幸奈は、黒板一杯に落書き。他の面々も、それぞれ授業に備えて準備完了。 「きーんこーんかーんこーん♪」 合図のチャイムが響き、授業の時間がやってきた。 ――がらがらっ。 「わっ!?」 考え得る最高のタイミングで、銀子の頭に落下する黒板消し。チョークの粉が良い感じに舞い上がる。 「黒板消しって……小学生のイタズラやったの誰?」 黒板消しを拾い上げ、教室内を見回す銀子。 「あはは、先生白髪みたーい」 「……授業始めますっ。710年、平城遷都の所から」 気丈に教壇へ上がった銀子は、黒板の落書きを消し、日本史の教科書を開く。 「えー、平城京は中国の長安という都を真似て……」 「せぃんとくーん!」「お腹空いたー、鹿せんべい食べたいでーす」 板書する銀子の後ろから、とかくやかましい生徒達の騒ぐ声。 「ちょっと皆さん、静かに……って!?」 耐えかねて振り向いた教師銀子の目に映った物は……。 最前列で机の上に足を投げ出し、携帯を弄るアリーセ。 「アリーセさん、ちゃんと授業をっ」 「歴史嫌いですし」 「嫌いって……こら、雅之くんにめぐるさんっ」 「折り方に少し工夫を加えるだけで、思ったより飛ぶようになるんだ」 「へぇ、凄い! じゃあどっちが遠くまで飛ばせるか勝負よ!」 雅之とめぐるは、教室の後ろで紙飛行機を折っては飛ばしてその飛距離を競っている。 「……そ、それにロミオさん! 何を食べてるんですかっ」 「見ての通り、焼きそばパンだが」 「そう言う事ではなくてっ」 一見真面目に授業を聞いているかの様に見えたロミオも、良く見れば堂々と総菜パンをかじっている。 「この卵焼き、とっても美味しいですの」 「なんかこうしてると、遠足に来たみたいだ。しかも、腹一杯になったら眠くなってきたな」 「そ、そこの3人も、そんなに堂々と食べてないでっ」 幸奈や真希はと言えば、クラレットが作ってきた豪華な弁当を、ビニールシートの上で食べて居る始末。 もはや、授業中の教室とは呼べない光景がそこかしこで繰り広げられていた。 「みんなっ、授業を「ちゃんと聞きなさいっ!!」」 必死の思いで訴えた銀子の声に、被さる様に響く別の声。 「授業を真面目に受けないような生徒は、死んで当然だわ!」 現れたのは、細身で整った容姿をしているが、眼光は鋭く極めて冷たい女教師風の地縛霊。 次いで、金属バットやチェーン、メリケンサック等を身につけたいかにも……と言う感じの男子生徒が4人。 能力者たちも演技を中断し、イグニッション。戦闘開始だ。
● 「夜じゃなくて良かったですの」 人気の無い旧校舎、昼でなければさぞかし不気味だったことだろう。陽のあるうちに戦えた事に安堵しつつ、幸奈は旋律を紡ぐ。と言って、彼女の口から音が発されることは無い。 音無き歌声は、聞く者の神経を強制的に沈静化し眠りへと誘うのだ。 「アナタ達! 目を覚ましなさい!」 崩れ落ちた2体の地縛霊へ、ヒステリックな声で言う教師。だが無論、すぐに目を覚ますことは無い。 ――ガタンッ。 「ここから先へは行かせんぞ」 「我らを倒さぬ限りはな」 眠りに落ちなかった生徒の眼前へ、机と椅子が転がる。振り向く地縛霊へ、ロミオはザイドを構えて軽く挑発。アリーセはロードブレイザーに黒燐蟲を纏わせ仁王立ち。 行く手を遮られた地縛霊は、怒りに呻きながら猛然と襲い掛かってくる。 「ウォォォッ!」 ――キィン! 金属がぶつかり合って火花を散らすが、得物の扱いにおいてロミオと不良学生では雲泥の差があった。 ――ゴォォッ! 燃え盛る紅蓮の炎は、深々と地縛霊を切り裂き魔炎に包み込む。 「そう易々と見逃す訳にもいかないのですっ!」 ――ババッ! 追い討ちを掛けるように、クラレットの手から放たれる魔法の茨。 更に地縛霊らの動きを封殺するが、さすがに教師は巧みにこれを避ける。 「教師に逆らうなんて、アナタ達のような不良生徒は死ねばいいのよ!」 ――ビュッ! 「つっ……校内暴力反対、ってな!」 スナップの効いたビンタを辛うじて受け止めた真希は、怯むことなく反撃のインパクトを繰り出す。 「ぐうっ!! よくも教師にっ……何をしているの! さっさとコイツらをっ」 衝撃に表情を歪ませながら、自らの生徒に激しく檄を飛ばす。 だが、その生徒達は動きを制限され、満足に教師の指示に従える状態ではない。その上―― 「まだ私の授業中。邪魔しないでよね」 銀子の手が振り下ろされるが早いか、炎に包まれた隕石が地縛霊達目掛けて落下。大爆発を起こし激しい炎が彼らを飲み込む。 「行くわよ雅之」 「教室は勉強するところだぜ。暴れるんじゃねぇ」 めぐるの意思に従って黒燐蟲達が雅之の「The fearless of bravery」に纏い、斬撃の鋭さを増す。 「回復は回復するのが大好きな回復魔のあたしに任せてね!」 能力者の戦いを一層磐石な物にするのは、花恋の厚い支援。 彼女の呼びかけに応えた祖霊らが、真希の傷を癒し攻撃力を高める。 「くうっ……どうして先生の言う事が聞けないの……!」 瀕死の生徒地縛霊達、そして能力者達。教師はその両方に対して、激怒している様子。 「賑やか過ぎるのも考え様ですね?」 「お覚悟ですの」 ――シュッ! クラレットが放った森王の槍が、不良生徒達の中で炸裂する。時を同じくして幸奈の放つ水刃手裏剣は、寸分の狂いも無く生徒1人の脳天を貫いた。 これで1人が倒れ、3人は瀕死の状態だ。 「無念は汲む、だから今は静かに……逝け」 「もう一度、いくよっ」 アリーセの黒燐蟲が乱舞し、銀子の魔弾が炸裂するに至って、不良生徒達の思念は跡形も無く掻き消える。 「よくもっ……よくも私に逆らったわね! この出来損ないのクソガキどもっ!!」 金切り声を上げ、怒りのままにビンタを連発する教師。もはや、教師にあるまじき言動を連発している。 「体罰は……悪いとは言わんが! ヒステリーで殴るものではないっ」 逆にロミオは、ダメージも物ともせずに冷静な反撃を見舞う。 「速坂さん!」 「OK、花恋っ」 花恋とめぐるは、仲間の攻撃を援けるべく赦しの舞と浄化の風を用いる。 「よし、さっさと片付けちまおうぜ」 「……死んでまで、説教してんじゃねぇぞ!」 左右から同時に間合いをつめる雅之と真希。紅蓮の炎を帯びた宝剣が教師の胴を切り払い、長剣は破壊的な衝撃を伴って心の臓を打ち据えた。 「グッ……! コンナ……バカナ……」 教師はがくりと膝を折ってそのまま教室の中央に倒れると、やがて跡形も無く消えうせた。
● 夕焼けに染まる校舎を後に、帰途へつく一行。 「や、そんな大げさな……でも、そうね……ゴッドウィンドは取って置きの必殺技って感じかしら」 と、シルフィードの先輩とおだてられて照れつつ、アリーセとゴッドウィンド談義に花を咲かせるめぐる。 「速坂にはサポートに回ってもらう事が多いよな」 「ええ、まだまだって感じだけどね。花恋を見習わなきゃ」 雅之の言葉に頷きつつ、話を振ってみると……。 「あの地縛霊さんには悪いけど、目の保養になったなあ〜♪」 当の花恋は、男子高校生達を思い出して余韻に浸っている様子。 美形の男子なら、銀誓館にも山ほど居る気がするが……男子校と言う響きが重要なのかも知れない。 「ねぇ皆。折角準備してきたんだし、帰り道に授業しようか」 と、教科書片手にやる気満々の銀子。 「補習授業はもう沢山!」
こうして能力者たちは、平穏を取り戻した高校を後にするのだった。
|
|
参加者:8人
作成日:2010/06/30
得票数:楽しい15
カッコいい1
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |