思い出の牢獄


<オープニング>


●栃木県某所
 かつて昆虫の森と呼ばれる場所があった。
 そこには夏になると、カブトムシやクワガタ、セミなどが現れ、子供達だけでなく大人達まで夢中になって、昆虫採集をしていたようだ。
 しかし、都市開発計画によって森が切り開かれ、沢山の木々が薙ぎ倒されてしまったため、いつの頃からか昆虫達を見かける事が無くなった。
 それから、しばらくして……。
 この場所で関係者と思しきゴーストが確認された。

「みんな、集まった? それじゃ、話を始めるね」
 運命予報士、長谷川・千春(高校生運命予報士・bn0018)。
 今回の依頼は彼女の口から語られる。

 ゴーストが確認されたのは、かつて昆虫の森と呼ばれた場所。
 この森には珍しい昆虫がいっぱいいたらしいんだけど、大規模な工事が始まったせいで、全然採れなくなっちゃったみたい。
 ……とは言え、色々なトラブルがあったせいで、工事自体も中止しちゃったみたいなんだけど……。
 ただし、森もすっかり変わり果てちゃったから、工事が中止されてから何も経っているのに、昆虫達が戻って来る気配が無いわ。
 その代わり、リビングデッドと化した作業員は、未だに作業を続けているみたい。
 リビングデッド達は安全ヘルメットを頭に被り、チェーンソーと化した両手を振り回して襲い掛かってくるわ。
 恐らく私達を木か何かと勘違いしているのかも知れないわね。
 それと、まだ森のある場所が特殊空間と化していて、麦藁帽子に半袖、短パン姿のオヤジが虫取り網と虫籠を持って留まっているわ。
 特殊空間の中は、昆虫でいっぱい。
 地縛霊は夢中になって昆虫を採っているから、私達が攻撃を仕掛けてこない限り、気づく事が無いかも。
 ただし、これはすべて幻。
 地縛霊にもそれを分からせてあげて。

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参加者
九椚・斑鳩(翼持つ草・b14490)
八坂・茴香(穿ツ終ノ雷咆・b16991)
夕凪・朔哉(兎月の宵闇・b20365)
ミラノ・グリフ(鋏角衆・b28438)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
佐保・恭哉(マクガフィン・b36536)
柊・刹那(冥府の使者・b40917)
多比羅・惣一郎(凍てつく業火・b43715)
フェイス・フィオーカ(メイジウィズライト・b46124)
涼風・ユエル(真月を駆ける者・b47845)
椿・徳次朗(水つ早・b54518)
伏木・優斗(霧の谷のましろとら・b62618)



<リプレイ>

●思い出の地へ
「今回の……、地縛霊さんは……特殊空間の中で……夢中で……昆虫採集……しているだけ……ですか……? 特に……害は無さそう……ですし……そっとしておいも……良いような気も……してしまうのですが……、幻の中で……永遠に……それを……続けるのは……、見ていて……こう……辛いものを……感じます……。祓う事が……救いになるのなら……、そうして……差し上げましょうか」
 仲間達に声をかけながら、八坂・茴香(穿ツ終ノ雷咆・b16991)がゴーストの確認された場所にむかう。
 ゴーストが確認された場所はほとんどの木が薙ぎ倒されており、今では見る影すら残っていない。
「こういった話はよく聞くけど何だか残念だな」
 ゆっくりと辺りを見回しながら、ミラノ・グリフ(鋏角衆・b28438)が溜息を漏らす。
 かつて、この森があった場所には沢山の昆虫がいたらしく、いまでは見る事さえ出来ない珍しい種類の昆虫もいたようだ。
「……仕方がないとは言え、他にやり方もあっただろうに……。森を切り開いていくのはあまり好きになれないな……。工事が中止したっていうなら、尚更だ」
 険しい表情を浮かべながら、夕凪・朔哉(兎月の宵闇・b20365)が口を開く。
 だが、関係者達からすれば自分の土地を整地して、建物を建てようとしただけなので、森がどう変化したところで関係が無かった。
 その上、森を元通りにするためには莫大な費用が掛かるため、何もせずにそのまま放置しているようだ。
「より暮らしやすくする為の都市化も悪くはないと思うが……、やはりその中に自然は残しておくべきだな……。その一方で動物や植物の生活の場が失われていくのはやはり忍びない……」
 何処か寂しそうな表情を浮かべ、柊・刹那(冥府の使者・b40917)が呟いた。
 まだ森があった頃は鳥のさえずりが聞こえ、小川の流れる音が心地良く響いていたらしく、子供達は時間を忘れて虫取りに励んでいたようだ。
「……今は都市開発で見る影もありませんしね。もう見られないのは残念ですね」
 かつて森のあった場所を眺め、伊藤・洋角(百貨全用・b31191)が溜息を漏らす。
 洋角も子供の頃によく虫を捕っていたため、その事と重ね合わせて寂しさを感じていた。
「俺は小さい時でも虫取りはした事ねぇかも……。でも、大人も夢中になるほどだったんだから、相当楽しい所だったのか……。自然がなくなって人工物になっていくのは、しょうがねぇけどやっぱ嫌だと思っちまうんだよな……」
 地縛霊の気持ちを考えながら、椿・徳次朗(水つ早・b54518)が変わり果てた景色を眺める。
 おそらく地縛霊にとってここは思い出の場所であり、何よりも変え難い宝物であったのだろう。
「今じゃ、一匹で途方もない値段がつく虫もいるみたいだし、今頃ここが残っていたら凄い宝の山になってたんだろうなぁ」
 当時の写真と昆虫図鑑を見比べ、涼風・ユエル(真月を駆ける者・b47845)が残念そうに呟いた。
 写真にはクワガタやカブトムシも写っており、売ればそれなりの金になったはずである。
「……とは言え、この手の昆虫は自然の中で見るより、お店の片隅で見かける印象が強いな。でも、僕達よりも年配の人達には野山に分け入って楽しく昆虫採集した思い出が沢山あるのかも知れないね」
 ユエルから受け取った写真を眺め、佐保・恭哉(マクガフィン・b36536)が答えを返す。
 辛うじてわずかに残った森が、当時の雰囲気を残しているだけだった。
「……昔はもっと広かったんだろうね」
 何とはなしに故郷を思い出しながら、多比羅・惣一郎(凍てつく業火・b43715)がゆっくりと目を閉じる。
 いまでは小鳥のさえずりさえ聞こえず、小動物達の気配すら感じる事は出来ないが、ほんのりと花の香りが漂ってきたおかげで気持ちが落ち着いた。
「何だか、ほのぼのとしちゃうけど、ゴーストの巣窟になっている以上、倒さないといけないのよね」
 自分自身に言い聞かせながら、九椚・斑鳩(翼持つ草・b14490)が地縛霊の確認された場所に視線を送る。
 一瞬、子供達の笑い声が聞こえてきたように思えたが、周りには誰もいないのでおそらく気のせいだろう。
「これが大人でなく子どもだったら、少しためらったかも知れないね。けれど既に現世の者でない。これが歪められたあるまじき姿ならば、私はその虚像を消し去るまでだ。常しえの世に安寧を。世界結界の修復こそが私の命題なのだから……」
 ただならぬ気配を感じ取り、フェイス・フィオーカ(メイジウィズライト・b46124)がイグニッションをした。
 彼らの背後にはリビングデッドと化した作業員達が立っており、チェーンソーと化した両手を構え、殺気だった様子でフェイス達を睨んでいる。
「それじゃ、ここは任せましたよ」
 仲間達に声をかけながら、伏木・優斗(霧の谷のましろとら・b62618)が特殊空間内に飛び込んだ。
 それと同時に優斗達のまわりが緑に囲まれ、小鳥達のさえずりが聞こえてきた。

●意地でも工事を終わらせるために
「死んでもなお、工事の続きか……、ご苦労な事だな。だが……、俺らはこの状況を黙って見ているわけにはいかないんでな……」
 リビングデッド達の行方を阻み、刹那が旋剣の構えを発動させる。
 それと同時にリビングデッド達が唸り声を響かせ、激しくチェーンソーを回転させた。
「両手にチェーンソーとは、また……ゴツイですね、騒音とか辛そうです。その前に、箸とか持てませんよね……。でも、死んでいるからいいのか。まあ、木と間違って切られないよう気をつけませんとね」
 苦笑いを浮かべながら、洋角が暴走黒燐弾を撃ち込んだ。
 その途端、リビングデッド達がムッとした表情を浮かべ、『俺達は虫が大嫌いなんだっ! ……たく! 気持ち悪い!』と言ってチェーンソーを振り回す。
「なんでゴーストになっているのか知らないけど……もう、お前らの切るモノなんてないぞ……」
 不機嫌な表情を浮かべ、朔哉が呪殺符を投げつける。
 それと同時にリビングデッドがチェーンソーを振り上げ、『あるだろうが、ここによっ!』と叫んで襲いかかってきた。
「わっ、そんなものを振り回したら、危ないじゃない! 当たったら、どうするのよっ!」
 ハッとした表情を浮かべ、ユエルがリビングデッド達の攻撃を避ける。
 しかし、リビングデッドは卑下た笑みを浮かべ、『おらおら、早く避けねぇとバラバラになるぞ』と叫ぶ。
「俺らは木じゃねぇっつーの……」
 リビングデッド達の攻撃を避けながら、徳次朗がライカンスロープを発動させる。
 それでも、リビングデッド達は距離を縮め、『このままバラバラにしてやらぁ!』と言ってチェーンソーを振り下ろす。
「ちっ……、チェーンソーは敵に使われると面倒だな……っ」
 チェーンソーをナイフで受け止め、徳次朗が霧影爆水掌を叩き込む。
 その一撃を喰らってリビングデッドが吹っ飛び、ブクブクと泡を吹いて動かなくなった。
「それじゃあ、いってみようか……」
 忍獣気身法を発動させながら、ミラノが少しずつ間合いを詰めていく。
 それに合わせてリビングデッド達も距離を縮め、力任せにチェーンソーを振り下ろした。
「これ以上、自然を破壊する事は許しませんよ」
 リビングデッド達の死角に回り込み、洋角が再び暴走黒燐弾を撃ち込んだ。
 それと同時に刹那も暴走黒燐弾を放ち、リビングデッド達を挟み撃ちにする。
「みんなまとめて蹴り飛ばすよっ!」
 リビングデッドの懐に潜り込み、ユエルがグラインドスピンを叩き込む。
 そのため、リビングデッド達の数が一気に減っていき、チェーンソーの音と共にギチギチと歯軋りが響く。
「随分と怒っているようだけど、森はもっと怒っているよ!」
 リビングデッド達を射程範囲内に捉え、ミラノが暴れ独楽を放っていく。
 次の瞬間、リビングデッド達が唸り声を響かせ、一斉に襲いかかってきた。
「いけ……」
 ギリギリまでリビングデッド達を引きつけ、朔哉がバットストームを発動させる。
 それと同時に無数の吸血コウモリが出現し、リビングデッド達の血を吸い尽くす。
「……ひとまず終わりっと。でも、この人達。ここまでして切らないとダメだったのかな。もっと他の道があったと思うのになぁ……」
 リビングデッド達に視線を送り、ユエルが深い溜息をつく。
 もしかすると、リビングデッド達は工事を終わらせる事よりも、チェーンソーで何かをバラバラにする事に悦びを感じていたようだ。
「その意地を通した結果がこれだ。ある意味、大自然の報復だな」
 何処か遠くを見つめながら、刹那がボソリと呟いた。
 おそらく、リビングデッド達は作業中の事故に遭い、命を失ってしまったのだろう。
 それが彼らを迷わせゴーストにしたのなら、もっとも恐ろしいのは自然そのものかもしれない。

●思い出を取り戻すために
「どうやら、虫取りに夢中のようですね」
 自らの気配を殺しながら、惣一郎が忍獣気身法を発動させる。
 地縛霊は麦藁帽子に半袖、短パン姿のオヤジで、虫取り網と虫籠を持って夢中で昆虫を採っていた。
「……それにして、なにこの虫だらけの空間。口の中に入ってきそうで、とっても嫌なんですけど」
 警戒した様子で後ろに下がり、斑鳩が霧影分身術を発動させる。
 特殊空間の中は沢山の虫で溢れており、異様な雰囲気が漂っていた。
「あ、あの……。わたしは……虫じゃ……ありませんよ……」
 地縛霊の振り下ろした網に捕まり、茴香が困った様子で汗を流す。
 しかし、地縛霊はまったくその事に気づいておらず、『逃げないように翅をもいでおかなきゃ』と言って服をビリビリと破る。
 どうやら、心が完全に子供と化しているらしく、大人的な考えが出来なくなっているようだ。
「まさか、私達を蝶かトンボにでも、勘違いしているのかな」
 すぐやま光の槍を撃ち込み、フェイスが茴香を助け出す。
 そのため、地縛霊が顔を真っ赤にして、『僕の蝶を返してよっ!』と抗議した。
「悲しい事ですが、もう夏休みは終わってしまったんですよ。あなたの夏休みも、森も、昆虫採集もおわり、です。それに蝶の翅をもぐ事は、その命すら奪う事なのですよ」
 優しく地縛霊に語りかけながら、恭哉がケルベロスオメガのクーンに合図を送る。
 それでも、地縛霊が納得しようとしなかったため、クーンが背後に回ってレッドファイアを吐きかけた。
 それと同時にまわりにいた虫達が一斉に飛び立ち、恭哉達に襲いかかっていく。
「いや〜。なんか、ぷちぷちと虫が当たる感じが気持ち悪い〜。ホントに、これ幻なの?」
 全身に鳥肌を立たせながら、斑鳩がじんわりと瞳を潤ませる。
 まわりにいる虫達は特殊空間が作り出した幻である事を理解しているつもりだが、感触までリアルに感じる事が出来るせいでほとんど身動きが取れない。
「終わらない昆虫採集が本当に楽しいのかが分からない限り良く分からない事ですが……、せめてこの手で終わらせてあげましょう」
 泣きじゃくる地縛霊を見つめ、優斗が虎紋覚醒を発動させた。
 地縛霊からすれば、優斗達は楽園を破壊しにやってきた悪党かも知れないが、世界を本来あるべき姿に戻す事が出来るのなら、それを甘んじて受けるつもりでいるようだ。
「そ、そうですね……。こんな……、えっちな事を……する子には……お仕置きです……」
 恥ずかしそうに頬を染めながら、茴香が服を引っ張って極小のTバックを隠す。
 それと同時に地縛霊がボロボロと涙を流し、『認めないっ! この世界が偽りなんて、絶対に認めないからな!』と叫んで襲いかかってきた。
「あなたの知っている森は、もうないのよ。あなたの好きな虫達も、本当はもういないのだから……」
 恐怖を振り払うようにして間合いを詰め、斑鳩が暴れ独楽を炸裂させる。
 次の瞬間、まわりにいた虫達が肉片と化し、ボトボトと地面に落ちていく。
 その様を見て地縛霊がパニックに陥り、『やめろ! やめてくれ!』と悲鳴をあげた。
「現実を受け入れてください。例え、それが認め難い現実だとしても……」
 仲間達と連携を取りながら、優斗がミストファインダーを発動させる。
 だが、地縛霊にはそのつもりが無いらしく、『僕にとってはこれが現実だ!』と叫んで襲いかかってきた。
「……仕方がありませんね」
 クーンと連携を取りながら、恭哉が茨の領域を発動させる。
 次の瞬間、地縛霊の身体に茨が巻きつき、クーンの放ったレッドファイアの餌食になった。
「来たれ始まりの刻印よ、今ここに!」
 地縛霊の悲鳴が響く中、フェイスがアークヘリオンを発動させる。
 それと同時に始まりを意味する刻印を出現し、地縛霊を巻き込んで大爆発を起こす。
 フェイスは地縛霊が消滅する姿を黙って見届け、どこか寂しげな表情を浮かべた。
「物事は変わっていくものだけど、これは、寂しいな……」
 まわりの景色を見回した後、惣一郎が深い溜息を漏らす。
 特殊空間の中に比べて、まわりの景色はまるで墓場。
 そのため、地縛霊があの世界に留まろうとした気持ちが、嫌というほど理解できた。


マスター:ゆうきつかさ 紹介ページ
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参加者:12人
作成日:2010/06/04
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