梅雨に降る雪


<オープニング>


「雨ってやだねー……」
 梅雨入り時のこの季節。晴れた天気が長続きせず、雨がよく降るこの時期に傘は欠かせないアイテムだろう。
 足がずぶ濡れになりそうな程の激しい雨の中、幼い少女が『雨は嫌い』とばかりに家路を急いでいた。
 しかし――。
「あれ、雪が降ってる〜……?」
 夏を目前に控えたこの時期に、ありえない光景が目に留まる。
 通りかかった公園の中で、雨ではなく雪が降っている場所があるのだ。
 幼い少女にとって、この時期に見られるはずもない雪はとても興味を惹くものと言える。
 そしてその興味に背中を押され、雪の降りしきる場所へと歩いていった。
「ほんとに雪が降ってる……どうしてかなぁ?」
 首をかしげながらも、少女はゆっくりと近付いていき――。
「え、ここどこ?」
 はっと気がついて周囲を見渡すと、何時の間にか公園の中には雪が深く降り積もっていた。
 肌に触れる雪の冷たさは、本物と同じ感触。
「さ、さむい……」
 だが衣替えを済ませて薄着だった少女にとって、この雪の冷たさは遊ぼうと言う気持ちすら持つことの出来ない冷たさである。
『ねぇ、あそぼ……?』
 そんな少女に、ふいにかけられる声。
 振り向いた先には、同じくらいの年齢の少女が立っていた。
 
「今回はちょっと、急いで行ってもらわなければならないわ」
 訪れた能力者達に、琴崎・結歌(高校生運命予報士・bn0261)はあまり時間がない事を最初に伝える。
 結歌が地図で指し示した公園に、少女の地縛霊が現れたらしい。現れただけならば倒せば良いだけの話なのだが、現時点で女の子が1人、その地縛霊の特殊空間に囚われている。
 今のところ少女に直接の危害は及んでいないが、特殊空間の極寒の中で体力も相当に奪われてしまっている。彼女の命の火が消えるまでの時間は、ほとんどない。
「特殊空間に入る方法は簡単よ。この公園で雪が降っている場所に足を踏み入れれば良いだけ」
 入るだけならば、その方法は確かに簡単だろう。だが、問題が1つだけある。
 それは、特殊空間のどこに飛ばされるかがランダムであると言う事。
 特殊空間となっている公園は30m四方の広さを持っているが、入り込んだ時点でどこに立つかは誰にもわからないらしい。
 さすがに10人もの能力者が入り込めば、誰か1人くらいは少女の近くへと飛ばされるだろう。
 だが少女は寒さで体力がほとんど奪われているため、その場から動けないようだ。彼女の安全を考えるならば、誰か1人は付きっ切りで保護する必要がある。
 もしもこの少女の近くに飛ばされたのが攻撃を担当する者だったならば、攻撃力がマイナスになる点は否めない。
 飛ばされた後に誰がどう立ち回るかを考える必要がある。
「地縛霊は吹雪を思わせる攻撃を得意としているみたいね……加えて、雪の妖精のような地縛霊も現れるのよ」
 結歌によれば、少女の地縛霊は公園の中心から動かずに吹雪を吹き荒れさせるだけの攻撃を仕掛けるようだ。
 それだけならばある程度は楽なのだが、雪の妖精の地縛霊が縦横無尽に動き回るらしい。
 この雪の妖精をどう抑えるかも、少女を救うための重要な鍵となるだろう。
 

「女の子の体力を考えると、時間が本当に無いわね。急いで助けてあげて頂戴」
 そう伝えた後、結歌は少しだけ付け加える。
「それと……この女の子は寒さで体力を奪われてるだけじゃなく、とても怖い思いをしているわ。だから……助け出した後のケアも、可能ならお願いするわ」

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参加者
柴・朔太郎(真白燐蟲使い・b01919)
カイン・バクスター(リジェネレーター・b38889)
カイン・シュナウザー(ゴーストチェイサー・b39021)
天薙・風音(風を求める翼・b40038)
刹楽伎・纏(ロスト・b41949)
リーナ・ファルメール(中学生真雪女・b46977)
睦月・誡(高校生真霊媒士・b48547)
エルアン・ファスニックモア(愛鍵・b61226)
穂宮・乙樹(桜纏う戦乙女・b62156)
川澄・華恋(中学生月のエアライダー・b68502)



<リプレイ>

●雪の降る公園へ
 夏を目前に控えた暑い空気の中、10人の能力者達はただひたすらに走り、目的地である公園へと辿り着いていた。
 彼等の目に映るのは、特殊空間の入り口となっている、この時期にはありえない『雪』の降る場所。
「この雪は地縛霊の子の心の表れなのかな。だとしたら、ボク達が溶かしてあげなきゃ!」
 それは川澄・華恋(中学生月のエアライダー・b68502)が言うように、地縛霊となった少女の心の中を現しているのだろうか。
 しかし、あまりに時期はずれ過ぎる雪には季節感も何もあったものではない。
「梅雨に雪、か。今は暑くてジメジメしててダレる季節だから雪は気持ちいいかもしれないけど、適度がちょうど良い、よ」
「それに見る分には綺麗だけど、迷惑をかけるのはお断りね」
 適度が良いと言うエルアン・ファスニックモア(愛鍵・b61226)に続き、穂宮・乙樹(桜纏う戦乙女・b62156)が言う。
 確かにこれだけ蒸し暑ければ、冷たい雪の感触は心地良いものであろう。だがこの雪を作り出しているのは地縛霊であり――。
「時間が無い、急ぎましょう!」
 カイン・バクスター(リジェネレーター・b38889)が早めの突入を促す程に、状況は切羽詰っている。
 そう、この特殊空間の中には地縛霊だけではなく、囚われた一般人の少女までもがいるのだから。
「そうですね。早くこの毛布を届けてあげたいですし」
 助けるべき少女にかけてあげたい毛布を、リーナ・ファルメール(中学生真雪女・b46977)はぎゅっと握り締めて。
「いつまでも時期を無視して居座られても困るから、きっちり除雪させてもらおうか」
 その言葉と共に突入した柴・朔太郎(真白燐蟲使い・b01919)を先頭に、能力者達は次々と特殊空間へ身を投じていくのだった。

「もうすぐ暑くなるってんのに吹雪かよ……」
 特殊空間の中に入るなり、刹楽伎・纏(ロスト・b41949)の口から飛び出したのはこの言葉である。
 吹き荒ぶ吹雪は先ほどまでの暑さを一気に吹き飛ばし、逆に厳しい寒さを感じさせるような極寒の地。
「暑いこの季節、涼むのには丁度いいかな?」
 などとカイン・シュナウザー(ゴーストチェイサー・b39021)が冗談めいて言うものの、この寒さは涼めるようなレベルでは決してない。
 こんなところに何時から少女が閉じ込められているかは定かではないが、この吹雪の中では本当に一刻を争う状況であることは間違いないはずだ。
「本当に降ってる……ゆっくり見ていたいところですが今は……!」
 激しい吹雪が吹き荒ぶ銀世界の中、バクスターが目を凝らして少女を探す。他の仲間も先に少女を探し続ける中、雪に軽く埋もれるようにして――少女は、倒れていた。
 この寒さの中で、少女の体力はもう限界に近くなっているようだ。すぐにでも救助しなければ、少女の命は消えてしまう。
「少女、いや、幼女! さあ、私の愛で助けに参りま……」
「今の私に出来ることを、頑張りますです」
 なにやら危ない事を口走ってる睦月・誡(高校生真霊媒士・b48547)を制し、少女の保護を買って出ていた天薙・風音(風を求める翼・b40038)が自身の取るべき道を見据える。
 少女の近くにはリーナの姿があり、彼女が安全圏まで連れて行くのを後から追って交代する事が風音の役目。
(「あの女の子だけは絶対に助けます。たとえ、この身が傷つこうとも」)
 確固たる想いを胸に秘め、風音が走る。そんな彼女を倒れさせないようにと、制された誠を皮切りに他の仲間達も援護の態勢に入っていった。

●雪と遊ぶ少女の霊
「クッ、こんな幼女や少女に手をあげるなんてできない! 脚とか刃物は問題ないですが」
「今は雪じゃなくって雨の季節だ、よ。勘違いは良くない、な」
 手をあげられない、と言うもののクレセントファングでしっかり妖精に攻撃を仕掛ける誠。隣にはエルアンが陣取り、勘違いを指摘しながら黒燐奏甲を自身に施していく。
「最初から全力で、絶対やらせないよ!」
 さらには華恋が別の方向から妖精を囲みつつインフィニティエアの風を纏う一方で、風音は一直線に少女の方へと走るが、最も遠くに飛ばされていたせいか接近することもままならないでいた。
 早く、早く――!
 彼女が焦るのも無理はない。先にリーナが保護して少女の安全が確保できたとしても、攻撃を担当するリーナがそのまま保護を続けるわけにもいかないのだ。
「女の子は大丈夫です、皆さんは攻撃を!」
 そして地縛霊達が行動するよりも早く、リーナは少女を抱えて特殊空間の端まで辿り着いていた。持ってきていた毛布で少女を包み、ひとまずの暖をとらせて。
 最大の懸念であった地縛霊の攻撃は、彼女達が陣取った特殊空間の端まで届くことはない。
 後は縦横無尽に移動すると言う雪の妖精を倒せば、救出という目的の第一段階は果たしたと言えよう。
 そうなれば、彼等に残された課題はひとつ。
 少女の体力面を考慮し、迅速に地縛霊を撃破して特殊空間から脱出することである。そのためには、保護役の風音が素早くリーナと役割交代をする必要があった。
『何、何なの? 私達が遊ぶ邪魔をしにきたの?』
 対する地縛霊の少女は、いきなり乱入してきた能力者達の振る舞いに不機嫌そうな表情を浮かべている。
『ここにいる人全員、凍らせちゃおうよ! 私達の遊びの邪魔は許さないんだから!』
 雪の妖精がその言葉と共に、三方を囲む包囲を抜けようとしたその時、妖精の行く手を阻むように放たれた白燐侵食弾がその出鼻を挫く。
「悪いけど、手早く仕留めさせてもらうよ。みんなが風邪引いちゃ困るんでね!」
 それを放った主である朔太郎がそう言うと、別方では乙樹がミストファインダーを発動して援護の態勢を取っている。
 雪の妖精が周りを見れば、自身を囲む3人に加えて周囲にも4人が立っている状態。『許さない』とは言ったものの、気がつけばほとんど出来上がっている包囲網に、その足が止まった。
『も、もぉ何よ、こんなにいるとかありえないし!』
 ならば目の前の1人だけでも凍らせようと、冷たい氷を纏った体でエルアンに抱きつく妖精ではあったが、防がれてしまえば氷漬けにすることなど出来はしない。
 逆にそれは無防備な隙を作り出す結果を生んだだけで。
「いきますよ? カイン先輩!!」
「そうだね。さて、ちょっとだけ相手してもらっていいかな?」
 ややこしい事に『カイン』と言う名を持つバクスターとシュナウザーの2人が息を合わせ、バクスターはダークハンドで妖精へと仕掛け、シュナウザーはタイマンチェーンの鎖を地縛霊の少女へと投げる。
 言うなればダブルカインか。いやどうでも良いが。
『そんな鎖、いらないよ。あなた達全員、私の雪だるまにしてあげるんだから』
 その鎖を難なくかわし、『雪だるまにする』という宣言の通りに地縛霊の少女は吹雪を吹き荒れさせていく。
 猛烈な吹雪に見舞われながら、助けるべき少女が影響を受けていないかと誰もが気にするが、リーナの位置取りが完璧だったせいか攻撃を受けている様子はない。
「わかったわかった、俺が遊んでやるよ」
 そして吹雪が止んだ直後に、獣撃拳を妖精に叩き込む纏。3発目となるこの攻撃でフラフラになっているところを見ると、妖精はそれほど体力があるわけではないようだ。
 この分ならば、少女を救出しての特殊空間からの脱出するまでに時間はかからないだろう。
「代わります、後はお願いしますです!」
 ようやく少女のところまで到達し、風音はすぐさまリーナとの交代を申し出た。毛布に包まれた少女はそれでも寒いのか、身体の震えが一向に止まる気配を見せてはいない。
 夏服のままで、このような場所に連れて来られたのだから当然とも言える。
「寒かったですよね……」
 毛布があるから大丈夫、というわけにもいかない状況に、風音は自身も毛布の中に入って少女をぎゅっと抱きしめた。少しでも暖を取れるよう、人肌でも暖めようとしているらしい。
 さらには先ほど買っておいた缶ココアを取り出すと、震える少女に手渡し、飲ませて。
「後は、お願いします」
 そんな風音に白燐装甲を施し、リーナが立つ。ふと戦いの様子に目を向ければ、妖精はエルアンの呪いの魔眼でその身を散らしていた。
 一方では少女の地縛霊も誠のクレセントファングを受けたところで、華恋の震脚にわずかながらも吹き飛ばされている。
 加えて朔太郎の白燐侵食弾が襲い掛かると、ミストファインダーのレンズごしに構える乙樹。
「遠い距離からでも届く斬撃よ……その鎖を切るっ」
 瞬断撃の鋭い斬撃が地縛霊の少女を斬り、追い討ちをかけるのはダブルカインだ。
「お前の相手は自分達だ!」
「本当は女の子じゃなく、かき氷が食べたいけど!」
 真面目に攻撃するバクスターの隣で、シュナウザーは生気吸収を用いて一気に地縛霊の少女の体力を奪っていく。
 カキ氷については、その辺にある雪にシロップでもかければきっと大丈夫。
『シロップはお兄さんの血かな♪』
 等と思っていたら、物騒な発言が地縛霊の少女の口から飛び出した。すでに集中攻撃でぼろぼろにはなっているものの、『遊ぶ』という感覚はこの時であっても失われていないようだ。
 しかし少女の遊びの時間は、もう終わっている。
「季節はずれの雪は、そろそろおしまいにしようぜ」
 静かにそう言うと同時に、纏の獣撃拳が地縛霊を討ったのだ。
『夏なんて嫌い……私、雪が大好きなんだよ』
 全てを白く染め上げる真っ白い雪が、この地縛霊の少女はとても大好きだったのだろう。最期の時まで楽しそうにしながら、その身体を霧と散らせていった。
「梅雨に降る雪は、雨に混じって消えるもんだよ。……お休み」
 最後にそう言った朔太郎の言葉は、地縛霊の少女に届いたのだろうか。
 否、きっと届いている。
 その証拠に、ずっと降っていた雪が……止んだ。

●雪解け、そして
 冷たい雪の降る特殊空間が消滅し、元の蒸し暑い現実世界の空気が能力者達の肌に纏わりつく。
「もう、大丈夫ですよ」
 少女をぎゅっと抱きしめていた風音が優しくそう言った頃には、少女もわずかながら元気を取り戻していた。
 身体を包み込む毛布と、暖かい飲み物がその元気の源となったことは言うまでもない。
「女の子は無事?」
 そんな中、朔太郎が心配そうに駆け寄る。後ろを見れば、他の仲間達の姿もあった。
 抱きしめているせいで傍目には動いてないようにも思えたのだが、ゆっくりとした仕草でココアを飲む少女の姿に誰もが胸を撫で下ろして。
「良く頑張った、な。寒かっただ、ろ?」
「悪い夢だったんだよ、それももう終わったよ」
 エルアンと纏が少女にそう声をかけると、リーナはポットを持ち出してカップに温かい飲み物を注いでいく。
「ココアとコーンスープで迷いましたが、コーンスープのほうが良さそうですね」
 すでに飲み干しかけていたココアを察してか、そのカップからはコーンスープの湯気が立つ。
「おねえちゃん達、ありがとう……」
 まだ震えてはいるものの、コーンスープを大事そうに持ちながら柔らかい笑顔でそう応えた少女に『どういたしまして』と返す能力者達。
 そしてしばらくの間、様子を見ながら軽く少女を交えて会話をする彼等だったが、気がつけば少女は静かに寝息を立て始めていた。
 悪い夢だ――。
 纏がそう言ったように、目が覚めればあれは夢だったんだと少女は思うことだろう。
「この子、送っていったほうがよくないかな?」
 寝息を立てている少女を見て、華恋が言った。
 よく見ればカバンに住所と名前が書かれており、公園からもすぐ近くに少女の家があるようだ。
「そうですね……それじゃ、送っていきましょうか」
「私もついていくわ、心配だしね」
 華恋の言葉に風音と乙樹が頷き、乙樹に背負われて少女が家まで送られていく。
 はずだったのだが、途中で――。
「ハァハァ、穂宮さぁ〜ん♪」
 誰かこの男を止めてくれ。少女の介抱を我慢していた誠が、怪しすぎる息遣いで乙樹に飛び掛ったのだ。
 しかし乙樹に睨みつけられた上、朔太郎とシュナウザー、バクスターのダブルカインに遠慮なくゲンコツを貰えば断念せざるをえない。
「やれやれ……あぁ、これ持っていくといいんだZE♪ 甘いものは体力が低下してる時にいいから♪」
 最後にシュナウザーからお菓子を食べさせてあげると良いよと手渡され、3人は少女を連れて公園を後にした。
「しかし、寒かった……。熱いコーヒーの一杯も飲みたいとこだよ」
「避暑というには、ちょっと寒すぎましたねぇ……」
 特殊空間の寒さを思い出し、今になって震える朔太郎とバクスターの2人。
 季節を感じさせない、夏を目前にしたこの時期に降る雪にさすがの能力者も寒かったようである。
 夏前に、降る雪。
 地縛霊となった少女の冷たい心を現したような世界は、迫る夏の暑さに溶けたようにも見えた。
 これは夏が本格的に訪れる少し前に起こった、涼しいというより、寒いお話――。


マスター:真神流星 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/06/27
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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