春だ! 花見だ! 毒虫だ!?


<オープニング>


「大変です! 桜の木の下に妖獣が現れました! それも8匹も!」
 運命予報士は、集まった能力者達に興奮気味に告げた。
 場所はとある公園。まだ5分咲きの桜の木の下。日が沈むと、そこに、大量8匹もの妖獣が姿を現すのだという。
 しかも妖獣はすべて身体中を毒針で覆われていて、なかには猛毒を持つものまでいるらしい。
 これは一刻も早く倒さなくては……!
「……で、その妖獣の詳しい形態は!?」
 詰め寄る能力者達を、運命予報士はゴクリと唾を飲み込んで見つめ返した。
 そして、ビッと3本の指を立て説明を開始した。
「敵は、三毛猫のような体色の毛虫です。長い糸で木の枝からぶら下がるようにして現れます。頭部にはまるで猫の髭のような長い毛が数本生えていて、これに刺されると忽ち毒に冒されてしまいます。更に……」
 頭の上に、ぴょこんと両手をあてる運命予報士。
「ご丁寧に、一部、猫の耳のように盛り上がった毛があります」
 三毛猫そっくりの毛虫。略して三毛虫。
「もしかして……」
 嫌な予感を感じ、恐る恐る尋ねる能力者に、運命予報士は予感を肯定するように頷いた。
「鳴きます。「にゃー」と」
 ……………。
「いや、しかし、形態はどうあれ毒を持った敵が8匹ともなれば、こちらも相当な覚悟を持って……」
「ちなみに、大きさは5cmくらいです」
 ……………。
 
 能力者達は脱力した。
 教室に駆け込んだ時の切迫した雰囲気は、一体何だったのだ、と。 
 そんな能力者達に、運命予報士は、笑顔で紙袋を手渡した。
「まぁ、皆さんにとっては取るに足らない相手かもしれませんが、本格的花見シーズンになって一般人が刺されでもしたら笑い事では済まされませんからね。昼間は気の早い花見客が陣取っているかもしれませんが、妖獣の現れる頃には誰もいないでしょうから」
 紙袋の中には、数本のペットボトルと花見団子、そしてビニールシートが入っていた。

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参加者
風見・玲樹(痛快ぼっちゃま・b00256)
屍枕・胡蝶(蟲愛ずる姫君・b00530)
森山・樹里(碧風の旋律・b10514)
遠野・由香里(紫紺の癒し手・b15424)
神風・忍(彷徨いし追憶者・b19646)
姫宮・覇月(覇者のみぞ知る月・b20803)
陽桜祇・柚流(子猫は星海に踊る夢を見る・b21357)
地蔵河原・咲左衛門(夢はでっかくメジャーへだぜっ・b21665)



<リプレイ>

●決戦の地に集いし者達
 春うらら。
 風はそよそよ。
 ぽっかり浮かぶ白い雲。

 こぢんまりとしたその公園には、穏やかな陽気も手伝って、多くの人達が集まっていた。
 そしてその中には、弁当やジュース、ハンディカラオケを持った8人の花見客……もとい、能力者達の姿もあった。
「依頼後は夜桜見物か……いいな夜桜……。……はっ!? は、初依頼だ。気を引き締めていかねばっ!」
 神風・忍(彷徨いし追憶者・b19646)にとって、これは、初めての依頼だった。
 風に流れる淡いピンクの花弁に幾分和まされてはいるものの、やはりまだかなり緊張気味である。
 そんな忍の肩を、姫宮・覇月(覇者のみぞ知る月・b20803)が励ますようにポンと叩く。
「大丈夫! そんなに強くないみたいだし、早く倒してみんなで仲良くお花見しようね!」
 でも手は抜かないよと笑う覇月に、忍もつられて笑顔を見せる。
「さてと、問題の桜は……あの木かな?」
 森山・樹里(碧風の旋律・b10514)が、付き合い始めたばかりの恋人、風見・玲樹(痛快ぼっちゃま・b00256)と手を繋いだまま、1本の木を指差した。
 まだ5分咲きのその桜の木の下には、2組ほどの親子がビニールシートを広げていたが、どちらも、そろそろ帰路につく準備をしていた。能力者達は付近を散策しつつ、彼らが立ち去るのを待った。そして、彼らと入れ違うように木の下へ駆け寄り、花見の……失敬、妖獣退治の準備とばかり、シートを広げ、さっさと場所を確保した。
 さて、あとは日が暮れるのを待つだけだ。

●史上最強の敵、現る!
 春とはいえ、夕方になればまだ肌寒い。
 公園に来ていた人々も、黄昏迫る頃には皆いなくなっていた。
 今いる人間は、傘やレインコートで武装した8人の花見……いや、能力者達のみ。
「放置しておいては一般の人との遭遇して騒ぎになれば被害が拡大してしまいます。……それに、蟲を繰るものとして放っておけません」
 深く、黒い瞳で桜の木を見据え、屍枕・胡蝶(蟲愛ずる姫君・b00530)が己の決意を口にする。
「毛虫には毛虫なりの事情があるとは思うんだが、ここは心を鬼にして、ちゃちゃっと退治してみようかね」
 しかし、その猫に似た鳴き声は、もしかしたら作詞の題材になるのではと、地蔵河原・咲左衛門(夢はでっかくメジャーへだぜっ・b21665)は、これから現れるであろう敵にどこか期待を抱いていた。
「ねこけむしか〜♪ これが妖獣じゃなかったら、お持ち帰りくらいしたいとこなんだけどねぇ。とりあえず、平和なお花見の為っ! 頑張って駆除しよーう!」
 陽桜祇・柚流(子猫は星海に踊る夢を見る・b21357)が、えいえいおーっと鬨の声をあげ、イグニッションカードを掲げれば、皆もそれに倣い、戦闘態勢を整えた。
 ちなみに、猫は大好きだが虫は大嫌いという玲樹は、鳴き声に惑わされないようにと、ご丁寧に耳栓まで持参していた。

 イグニッションしたまま様子を伺うこと数十分……淡い紫色を帯びていた空は、次第に紺色へと変化していったが、淡い光をたたえる桜の木には、いまだ変化が見られない。
「現れませんね……」
 レインコートをすっぽり被った遠野・由香里(紫紺の癒し手・b15424)が、舞い落ちる花弁を掴み取り、呟く。
「木、揺さぶったら落ちるかな?」
「よし、それなら任せろ!」
 小首を傾げる柚流の言葉に、颯爽とバスケットボールを取り出した咲左衛門。
「これが俺の必殺シュートだぜーっ!」
 ばぃぃ〜〜〜〜んっ!!
 衝撃に木が揺れ、淡い花弁がざわりと舞う。
 そして……。

 にゃー
 にゃー
(中略)
 にゃー
 にゃー

 細い糸にぷら〜んとぶら下がり、8匹の毛虫妖獣が現れた。
 白、茶、黒の三色斑。頭部には耳のように盛り上がった毛と、髭にも似た長い毛。
 そして……にゃー。
 能力者達に、色んな意味で戦慄が奔った……!

●無慈悲なる惨殺
「む……虫は苦手だが、だからこそ桜見物の障害になるのは許せない! 妖獣なら尚更……。覚悟しろ毛虫共!!」
 毛虫と対峙した忍の目つきが、徐々に鋭さを増してゆく……が。
「ギャーーーーーーーーッ!!」
 いざ対峙すると、出るのはブラストヴォイスもかくやという悲鳴。半狂乱で鎖鎌を振り回し、糸を切り落とすとーーーぷちっ。
 踏み潰された三毛虫は、にゃーと鳴く間も無く消えた。
 こうして、忍の初陣は勝利に終わったのだった。

 比較的冷静に糸を切り、さっさと踏み潰す咲左衛門。
 柚流も、足下を懐中電灯で照らしながら、さくっと杖を振り下ろす。
 念のため……と、白燐蟲を呼び出す準備をしていた胡蝶だが、生憎蟲たちの出番は訪れなかった。
 ぷちっ。ぷちっ。ぷちっ。
 あっけなく消える三毛虫三兄弟。
 由香里は、極力鳴き声を聞かなかったことにしつつ、風に揺れる糸を切った。
「ごめんなさい……」
 ぽってりと地面に落ちた三毛虫は、鈍色に光る宝剣の切っ先によって潰された。
 プラプラ揺れながら鳴く三毛虫に切なげな溜息をつきながらも、バットの先で叩き落とし、そのままぷちっと潰す樹里。
 隣では、ぎっちり耳栓をした玲樹が、エレガントなバス停で三毛虫を下敷きにしていた。
「……はふ、猫っぽいなんてずるいデス」
「今までのゴーストで一番手強かったよー!」
 これでぷちっと7匹目。

「うわ〜〜〜!!!!」
 絶叫する覇月。
「聞こえない、聞こえないよ!!これは猫じゃない、猫なんかじゃないんだよ〜!!!!!」
 どうやら、大声によって三毛虫の鳴き声を聞こえないようにしているらしい。
 だがしかし、にゃー。
「聞こえない聞こえない〜〜!!!」
 ぶんぶんと首を振り、己の聴覚を否定する。その手に握られた妖刀、神屠りが細い糸を断ち切れば、地に落ちた敵は更に一声にゃーと鳴き……。
「うひぃぃ〜〜〜〜!!」
 ざんっ、と、まるで巨像でも倒すかのような勢いで振り下ろされた神屠りによって、最後の三毛虫は消え去った。

 ある意味とても辛く、厳しい戦いは、能力者達による一方的惨殺という結果で幕を閉じた。
 辺りは既に夕闇が支配し、彼ら8人の労をねぎらうかのように、一陣の風が桜の花弁を空へと舞い上げた……。
 
●戦士達の休息
 桜の木の根元には、早速青いビニールシートが広げられた。
「夜桜ってのもなかなか風流だよなぁ」
 ペットボトルを皆に手渡しながら、咲左衛門が微笑みを浮かべる。
「んー♪陽の下の桜も綺麗だけど、お月様の桜って幻想的、だよね♪」
 柚流もお菓子を広げ、月明かりに照らされた淡色に目を細める。
「腕の方はあまり自信はないのですけど……宜しければ……」
 そう言いつつ差し出された由香里自作のおにぎりは、ころんととても可愛らしく上品で、お総菜もとても美味だった。
「俺も作ってきた……もし、よければ食べてくれ」
 忍の弁当もまた、家事を得手としていると言うだけのことはあり、能力者達は嬉しそうに並べられた料理屋飲み物に下鼓を打った。
「そういえば、少々人数が足りないようですが……?」
 ふと発せられた胡蝶の問いかけに、柚流が苦笑気味に少し離れたところにある別の桜の木を指差した。
 指差した先では……。

「まじゅりんの為にお弁当を作ったの♪ 勿論、全てが高級食材さ、ぬかりはないよ♪ あ、その……僕が食べさせてあげようか?」
「お料理上手いんですねぇ……。私もこの間習った肉じゃが作って持ってきたんだけど、出すのが辛くなってきたわ」
 玲樹と樹里、二人のラブラブ結界が発動していた。
 玲樹の取り出した豪華絢爛高級食材目白押しの五段重に対し、樹里の肉じゃがは、はたしてそれを外見だけで肉じゃがだと判別できる者はいるのだろうかというような凄まじい代物で……だがしかし、二人の愛の前では、それは最高に美味しい肉じゃが以外の何物でもなかった。
 微笑みあう二人の手が、重なる。
「夜桜も綺麗だね。夜桜が散っている姿は、まるで雪でも降っているかのようだよ」
「うん、すごくロマンチックだよね」
 体を寄せ合い、携帯のカメラでパチリと記念撮影。ふたりだけの待受画面。
 ふと、玲樹が樹里の耳元に唇を寄せた。
「まじゅと桜を見に来れてよかった。毛虫は凄く怖かったけどね、この為に頑張ったから。僕と一緒にいて楽しい? 僕は楽しいよ、まじゅの事、大好きだから……」
 囁きとともに、抱き寄せられる小さな肩。
「私も不思議なんだけど、玲樹くんと居ると心が安らぐというか。一緒に居てくれるだけで幸せ感じマス」
 柔らかな微笑みを浮かべる樹里。
 その頬に、玲樹の唇が触れる。
「愛しているよ……♪」
「ありがと、玲樹くん。私も出会えた事に感謝してるよ」
 返答とともに、今度は樹里が玲樹の頬に口付ける。
 ひらひらと舞う花弁は、まるで二人に照れているかのように、淡く色付いていた。

 さて、お弁当を食べ終えた6人の能力者改め花見客達は、自称賑やかし担当の覇月を筆頭に、歌うわ一発芸は披露するわ、まだ咲ききっていない桜の下でよくもこれだけ盛り上がれるものだと言うほどに盛り上がっていた。
 おしとやかな由香里までも、大きく声をあげて笑い出す始末。
「よーし、次は俺が一曲披露するぞ!」
「サックー! 待ってましたーっ!」
 咲左衛門が、右目でパチリとウィンクし、得意のギターを披露する。
 お菓子を頬張りながら、拍手喝采の柚流。
 忍も、のんびり夜桜を見上げながら、戦いの疲れを癒してゆく。
 その宴席の傍らに、木の根元に小石を積み上げる胡蝶の姿があった。
「……願わくば古き肉体を捨て……来世では新生し良き友になれること願います……」
 蟲を愛する彼女は、依頼であったとはいえ三毛虫を手にかけてしまったことに対し、やはり心を痛めずにはいられなかった。
 そっと祈りの言葉を捧げ、立ち上がる。
 するとその墓標の上に、誰かがはらりと水のようなものを振りかけた。
 胡蝶が驚いて振り返ると、そこにはペットボトルを持った咲左衛門が立っていた。
「ほら、お前らも飲めよ。今日の桜は一段と綺麗だぜ?」
 紡がれた言葉は、おそらく自らの手で引導を渡した三毛虫達に向けて発せられたものだろう。
 その様子に、 由香里と忍が近寄り、静かに目を閉じる。
 柚流と覇月も、暫し騒ぐことを止め、加わった。

 夜風そよそよ。
 桜の花弁はらはら。
 まるい月は淡い金色。

 五分咲きの桜の木の下で、彼らは遅くまで幻想的な時間を共有したのだった……。


マスター:大神鷹緒 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/04/09
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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