工場のガードマンは歯車に乗って


<オープニング>


「機械っぽい地縛霊って、いるものなのね」
 集まった残留思念が実体化した存在である地縛霊が、なぜか機械っぽい。
 迎え入れた琴崎・結歌(高校生運命予報士・bn0261)の表情には、珍しいのもいるものね、と言う感情がはっきりと見て取れた。
 
 結歌の話によれば、過去に何らかの人型機械を作ろうと日夜努力を重ね、挫折して潰れた工場跡に強力な残留思念が確認されたようである。
 工場のある場所を考えると、これから先も人が何らかの目的を持ってやってくるような場所ではない。
 だがそれは『絶対に誰も来ない』という確定情報ではないため、この残留思念がいずれ実体化した時に被害者が出ないとも限らないのだ。
 もしかしたら何らかの条件が重なることで、大惨事になる可能性もあるだろう。
 みすみす強力な地縛霊になるのを見過ごす事もない。ならば対処が容易な今の内に倒してしまおう――ということで、能力者達に声がかかったらしい。
「現れる地縛霊は3体、そのどれもが人間っぽいけど、機械っぽくも見えるわね」
 騎士風の鎧を身にまとい、歯車を一輪車のように乗りこなす、右手に騎兵槍を構えた騎士型。
 両肩に大きなバズーカを抱え、射撃戦を得意とする砲撃型。
 硬い装甲に身を包み、他の2体を援護するように動く支援型。
 形状が人間のように見えるだけで、実際にはその姿は本当に機械のようにも見えるのだと結歌は言う。
「彼等の攻撃方法はシンプルよ。砲撃型が攻撃を担当して、支援型が他2体を援護。騎士型はその2体に攻撃を仕掛ける者を優先して排除する傾向があるわね」
 先に砲撃型や支援型へと攻撃を仕掛ければ騎士型の攻撃を受ける可能性が高く、かといって騎士型を抑えて他2体を攻撃しようにも、優先する傾向のせいで足止めも難しいようだ。
 どのように各地縛霊を捌くかが、勝利を掴む上で最も重要になるだろう。
 戦場となる工場跡は潰れた影響で作業機械は全て撤去されており、30m四方の工場跡の内部には身を隠せるようなところも、不安定な足場もない。
 互いに遠慮なく攻撃を撃ち合う事の出来る立地と考えると良いだろう。
「連携を重視したような地縛霊達だけど、連携で言えばあなた達が最も得意とするところよね。だから勝てる……そう信じているわ」
 3体ともが強力であることは間違いないが、集まった能力者達には決して倒せない相手ではないはず。
 勝利の吉報を信じ、結歌は静かに彼等を見送った。

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参加者
渕埼・寅靖(人虎・b20320)
舞園・彩音(戦場の歌姫・b24404)
刹楽伎・纏(ロスト・b41949)
ユウキ・スタンッア(は落ち着いてとよく言われます・b43530)
月村・斎(閑人・b45672)
白神・楓(月光の黒騎士・b46213)
伊東・尚人(理の修行者・b52741)
闇憑・氷影(天魔波旬・b54588)
清澄・ソウヒ(月夜に咲く華・b65426)
小鳥遊・陽太(おひさまといっしょ・b66965)



<リプレイ>

●歯車の残された工場で
 すでに長い間放置され、誰も寄り付かなくなった廃工場。
 見渡せば歯車や機械のパーツがちらほら転がっているものの、工場で使われていたであろう機械などは一切残されてはいなかった。
 それでも建造物として見れば、この廃工場は再利用する事も可能そうな状態を保っている。ここに人が訪れる事があるとすれば、そういった再利用や再開発関係だろうか。
 ならばこそ、この場に留まり続ける残留思念を放っておくわけにはいかない。
「機械の兵隊の地縛霊ですか。一体どういう機械を作ろうとしたんでしょうかね……?」
 現れるであろう地縛霊の特徴を思い返し、清澄・ソウヒ(月夜に咲く華・b65426)が言う。
 騎士型、砲撃型、援護型――。
 それぞれが人の形をしてはいるものの、機械のような外見を持っている。騎士型は歯車を一輪車として乗り回すというのだから、およそ機械というより『人間』のような雰囲気があるが。
「機械っぽい地縛霊は確かに珍しいよね。ボクも色々戦ってきたけど今回が初めてかな」
「考えてみればかなりキツイ見た目の連中だな、機械ぽく、人間ぽい外見が……。まあ、思いっきり人間ぽいよりは戦いやすいか?」
 その珍しい外見を想像しているのであろう闇憑・氷影(天魔波旬・b54588)の言葉に、月村・斎(閑人・b45672)は逆に戦いやすそうだと感じているようだ。
 そして今回、彼等は大きく散開した陣形を取って地縛霊の攻撃に対処しようという作戦を立てている。
「みなさん、こんな感じでどうですか?」
 舞園・彩音(戦場の歌姫・b24404)の言葉に床を見れば、床に点在するマーキングが確認できた。
 砲撃型によるショルダーカノンでの攻撃を受けないようにするため、田の字になるような陣形で備えるらしい。
 しかし田の字の点は9つ。
 中央にはユウキ・スタンッア(は落ち着いてとよく言われます・b43530)に加えて援護として訪れた月原・鋭司(誓風盟月・b60746)がある程度離れて待機しており、彼女の使役するケルベロスオメガの『クローセル』は氷影の近くに位置を取っている。
「ひなはここで良いんですよね?」
 が、小鳥遊・陽太(おひさまといっしょ・b66965)の立つべき位置を誰も把握していなかったのである。
 彼女にそう尋ねられて『良いのではないか』と少し歯切れの悪い返答を他の仲間達が返したところで、陽太は斎の近くへと陣取るのだった。
 陣形面で多少の不備はあったものの、一応これで態勢は整っただろうか。
「まぁ危険な芽は速めに潰しておけっていうし、被害が出てないうちに片付けようぜ」
「ほっとくのは物騒やし、早々に除去せんとなぁ!」
 それを確認した刹楽伎・纏(ロスト・b41949)が促すと、ユウキもやる気十分とばかりに声をあげる。
 後は詠唱銀を振り撒けば地縛霊達が実体化し、襲い掛かってくる事だろう。相手はそれぞれのフォローを得意とした構成であり、戦うにおいての油断は禁物。
「敵は連携を得意としています。ならばこちらも得意とする連携で対抗するまでです」
 最後に伊東・尚人(理の修行者・b52741)がそう仲間に告げたところで、ユウキの手により振り撒かれる詠唱銀。
 地縛霊達は工場の最奥に支援型、その前に砲撃型が陣取ると、纏のほぼ目の前と言って良い位置に騎士型が立つ形で姿を現した。
 いきなり中央に現れて陣形を乱すような攻撃をされない陣形ではあるが、最初の攻撃目標となる支援型が最後尾にいる点が戦況にどう影響するのか。
 いや、それすらも彼等にとっては不利と呼べる状況ではないようだ。それは相手の出現位置に合わせて、陣形の変更を視野に入れていたのだから当然とも言えるだろう。
 相手の場所がわかった以上、それに対応した陣形を取れば良いだけの話である。
「精巧な機構ほど、歯車一つで壊れるものだ」
「後の禍根ごと跡形もなく終らせてしまおうか」
 自信たっぷりに言う渕埼・寅靖(人虎・b20320)と白神・楓(月光の黒騎士・b46213)の言葉に誰もが頷くと、地縛霊達も侵入者を排除しようと武器を構えて。
「ひながんがんやっつけちゃいますよ! おー!」
 元気よく陽太がそう言ったところで、能力者達と地縛霊との戦いが始まっていく。

●その姿は、組織の歯車
 地縛霊達の最後尾に位置する支援型が、最初の攻撃目標。最初から支援型に接近して攻撃を仕掛けられる位置にいるのは寅靖と纏、そして斎と陽太のみである。
 入り口側に立つ氷影や尚人、楓がそれぞれの役割の為に動き、陣形を整える事――能力者達が最初にやるべき事は、決まっていた。
 まずは前衛を担当する者の後ろに騎士が来る形になるようにと、動き出したのは氷影である。
「少し支援型には遠いね……ここは移動しかないか」
 もっとも後ろにいた事で支援型から一番遠い位置に立つ事となった氷影がまっすぐ直進すれば、同じく後ろにいた尚人も彼と同様に動く。
 可能な限り他の地点に立っていた仲間と距離を開けるように位置を取りたいところではあったものの、いかんせん初期配置で開いておいた間隔が狭すぎた点は否めない。
 警戒している砲撃型のショックバズーカの攻撃が飛ぶ可能性も高いが、この陣形はアブソープミサイルの射程でもある。どちらが来るか、ここは運が左右するところだと言えよう。
「これで俺に攻撃が飛べば……な」
 一気に支援型に距離を詰めた寅靖が紅蓮撃を叩き込むと、陽太の呪いの魔眼がほぼ同時に飛んだ。
 騎士型の習性を考えれば、これで攻撃を受ける可能性が高くなったのはこの2人となる。
 ガラガラ……!
 音を立てて回転する歯車。騎士が一輪車のように乗り回すその音が向かった先は、近接攻撃を仕掛けた寅靖だった。
 後ろを突かれた形となった寅靖のダメージは決して低いものではないが、耐えられない程のものではない。
 そして彼の周辺に全ての地縛霊が立つ形となった事で、続いて動いた回復役のソウヒに生じるもう1つの選択肢。
「良い位置です、いきますよ!」
 そう、3体ともが悪夢爆弾の範囲に存在していたのだ。例え全部の地縛霊を眠らせることが出来なくても、1体くらいは眠らせられれば――!
 訪れた好機を見逃さなかった彼女が放つソレは、運良く支援型と砲撃型の2体を眠りにつかせる結果をもたらす。
 すぐに起きる可能性も無いとは言えないが、攻撃することで無理に起こす必要がないのも事実。この隙にと楓が最後尾から移動を行い、騎士型の抑えのために纏が距離を詰めていく。
「てめぇの相手は俺たちだよ。他のやつよりまず自分の心配しろよ」
 キョロキョロと見渡して状況判断に務めようとする騎士型に、そう言いながら獣撃拳を叩き込む纏。
 さらに後衛を担当するユウキが適度に後退すると、彼女の代わりを務めるようにクローセルが前に出て。
「私の子守唄、聴いてください……」
 唯一、眠りについていなかった騎士型も彩音のサイレントヴォイスで眠りについていった。
 未だに動きを見せない砲撃型が僅かに動いて行動の兆候を見せるが、攻撃を仕掛ける気配はない。どうやらまだ眠っているようである。
「……しかし色気のない敵だな。できれば絶世の美女ゴーストとかと戦いたいもんだ」
 眠りこけた姿を見ても、こんな見た目の地縛霊に色気など感じられるはずもなく。自身の欲望を素直に吐露した斎のダークハンドが支援型へと飛んでその目を覚まさせれば、鋭司の治癒符がただ1人ダメージを受けている寅靖の傷を癒していく。
『気合ヲ入レンカーイ!』
 目が覚めた直後の支援型が他の2体を起こそうと気合を注入し、運良く2体とも目を覚ますが、能力者達はすでに次の陣形を完成させかけていた。
 そしていかに防御に長けているという支援型であっても、防げなければその防御力にも意味はないのである。
「ここは押し切るところです、いきますよ!」
 陽太の一言に皆が頷き、集中攻撃を行おうとする彼らの目が支援型に向いた。
 口火を切った氷影の黒影剣に続き、紅蓮撃の反動から立ち直った寅靖が再び紅蓮撃を叩き込めば、尚人もその後を追って身体を沈めこませる。
「まずは基点となる存在を抑える」
 その言葉の通りに龍顎拳で支援型を殴り飛ばすと、大地につながれた鎖が断ち切られると共に消え行く支援型。
 ほとんどダメージらしいダメージを受けずに当初の目標を倒しきった彼等は、その勢いのままに次の目標である砲撃型を捉える。
「撃ちあいになっちゃいますのですよ」
 だが陽太が呪いの魔眼で砲撃型を貫いたところで、騎士型の一輪車が激しく大地を駆け抜けていった。
 氷影から陽太へと、槍を構えて一気に突撃する騎士型の攻撃――。しかし避けにくいだけの突撃には、全力を込めた騎兵槍ほどの威力はなかったらしい。
「援護は任せて、攻撃に集中を!」
「ありがとうなのですよ! 巫女さんの回復はよく効くのです!」
 慈愛の舞を舞ったソウヒがその傷を軽く塞いで援護に回ると、纏と楓が次いで砲撃型に狙いを定める。
「厄介な敵は、速く退場してもらいたいもんだよね」
「この一撃でスクラップに戻してやるよ…!」
 直線状に並んだ格好の地縛霊達をどちらも貫く纏の牙道砲が道を開き、楓の紅蓮撃が砲撃型の装甲の最も脆い部分を捉えた。
 バギィンッ!
 耳に届いたのは、金属が砕けるような音。予想以上のダメージを相手に与えた証拠である。
 内部からピシピシとヒビ割れていく砲撃型の装甲が目に付いたかと思えば、そのまま砕けるようにして砲撃型も消え去っていった。
「このまま一気に決めるで、クローセル!」
 押せ押せムードに乗り、ユウキもクロストリガーを用いてクローセルのレッドファイアと同時に騎士型を穿つ。
「そよ風のハミングです♪」
 突撃によるダメージを残す氷影達を彩音の浄化の風が癒すと、斎の黒影剣が騎士型に深い斬り傷を残す。
「あばよ……壊れな産廃野郎が」
 そう言った斎の言葉は、このまま倒されるであろう騎士型に届いたのだろう。
 終始において地縛霊達を制した能力者達の連携の前に、地縛霊達は連携する事も出来ずに倒される運命を辿る――。

●歯車の破壊は全ての崩壊へ
 連携を得意とする3体の地縛霊ではあったが、それ以上に連携を得意とする能力者達にとっては倒せない敵ではなかった。
 個々の能力では彼等を上回っていたであろう地縛霊達も、倍以上の数を有した戦力による連携の前には崩れ去る運命だったのである。
「やれやれ……終わったな」
「大変でしたねぇ! でもやりがいはあったのです!」
 軽くため息をついた寅靖がイグニッションを解除する一方で、陽太は満足そうな表情を見せていた。
 それでも完全に地縛霊として実体化する前だったがゆえに、難なく捌けた事は言うまでも無い。
「夢半ばという事だったようですが、犠牲者が出る前に運命の糸が繋がってよかったですね……」
 もしもソウヒの言うように、完全に実体化して被害が出てからの勝負だったならば、敗北していた可能性も高いだろう。
「常日頃自分達が行っている事とはいえ連携の力というのは恐ろしいものですね。改めてその力を実感させていただきました」
 加えて連携という、通常は能力者達が行うであろう戦略をとった地縛霊達は、尚人にとって改めて自分達の強さを知るきっかけになったようでもある。
 ともあれ、勝利を収めた事は事実。
 この工場も何時かはまた別の業者が利用し、活気を取り戻していくはずだ。
 それがどういう物を作り上げるかはわからないが、今回のようになる事はもう無いと信じたい。
「人型機械……要はアンドロイドね。まあ、夢があって良いよね。美女型とか美女型とか」
 まだ美女型アンドロイドに夢を馳せている斎の様子に、誰もが苦笑いを浮かべたのは秘密。
 だがそんな夢を作り上げる場所として、再び使われるようになってほしいと言う想いは誰もが同じであるようだ。
「片付けも心配いらなそうだし、帰ろっか」
 戦闘の痕跡が多少は残っているものの、廃工場という現場を考えれば別におかしい傷ではない。
 そう判断した纏の言葉に誰もが頷き、能力者達はゆっくりと廃工場を後にしていく。
「機械にも人にも、どっちにも成れんかってんなぁ……まぁ、ゆっくりお休みやぁ」
 ユウキのその言葉と共に閉じられる、工場の重い扉。
 ガードマンという歯車を失った工場は、次の役目を迎えるその時を、静かに待ち続ける事だろう――。


マスター:真神流星 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/07/08
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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