【銀の魔導師】山上キャンパスへの砲撃

<オープニング>


「シェルティラさん、シェルティラさん」
 ノートパソコンでネットサーフィンをしているシェルティラに、シェルティラよりも年上らしい女性妖狐が声をかける。
 だがディスプレイに目を向けたまま、シェルティラは応える気配がない。
「えっと、シェルティラさん?」
「うん、聞こえてる。……何かな?」
 どうやら次の言葉を待っていたらしく、3度目に名前を呼ばれたところでそう応えた。
 ディスプレイに映るのは時事関連のニュースなど、現代の出来事を取り扱っているものばかり。
 よく見ると、タスクバーには耐震偽装などの建築問題を扱っているページのタイトルもある。
「お勉強中のところ、ごめんなさい。世界結界についてはご存知ですよね?」
「うん、まぁある程度は」
「その世界結界は面倒な事も多いのですが、他組織に気取られずに作戦を遂行できたりと、使い方を考えれば利用することも出来る代物なんです」
 説明する女性妖狐は、だんだんと弱ってきていた世界結界の力が、最近になって急に強くなったのだと言う。
 しかしそのせいで、妖狐の進めている作戦に支障が出る可能性があるらしい。
「そこで、事件を起こして世界結界の力を弱体化してほしいのですよ。人々の常識を狂わせるような事件を起こせば、自ずと結界の力も弱まる事となります」
「事件……ねぇ」
 その言葉を受けるとディスプレイから目を離し、シェルティラは何かを考えるような仕草をとる。
 ほんの僅かな沈黙の時間。
「――人的被害を出す必要性は?」
「それは必要ありません。常識を狂わせる事件であれば、なんでも良いんです」
 沈黙を破ったのは、人的被害を考える発言だった。だがこの作戦において人的被害を出す必要性はないらしく、人目を引くような暴れ方をすれば良いだけだと答える女性妖狐。
「ふぅん……なら良いよ、受ける」
 必要性がないと言われてか、それ以上は何も聞かずにシェルティラは承諾した。
「作戦遂行に必要だと思い、百鬼夜行の地縛霊を用意しています。あれは使い捨てで構いませんので、それを利用してください」
「うん、わかった」
 大所帯のほうが人目を引くだろうと判断したシェルティラは、これに対してもすぐに頷いて。
「コトがコトだけに、恐らく敵対組織――銀誓館の妨害が入るでしょうが、シェルティラさんなら大丈夫ですよね」
「それは問題ないね。ところで……」
 問題ないと言い切る心中には、すでにそれを予想していたような部分も見受けられる。
 出発を促す女性妖狐を遮り、シェルティラは何かを探している様子。
「ボクの服はどこ?」
「あぁ、あれなら洗濯してますよ。その格好も可愛らしいですけどね?」
 よく見れば、シェルティラの身につけている服は何時もの白いローブではなく、先日の休暇に能力者から貰った子供服だった。
 この時代の普段着に身を包んでいる姿は、本当に年相応の子供である。
「じゃあ、着替えてくるよ」
「あ、私が手伝っちゃいますよ、うふふふ……」
 その時女性妖狐の目が妖しく光っていた事に、シェルティラは気付いていないようだった――。
 
「待っていたわ」
 この依頼に必要なのであろう資料を机の上に置いたところで、琴崎・結歌(高校生運命予報士・bn0261)は能力者達に声をかける。
 普段通りの冷静さを保とうとしている彼女だが、これから伝える内容が内容だけに、その表情はとても硬い。
「シェルティラがまた現れるようなのよ。それもちょっと、やっかいな場所にね」
 最初の出会いは龍脈で。そして次の出会いは図書館で。
 後に妖狐勢力で『神将』と呼ばれる存在だと判明したシェルティラ・シャラザードが、事件を起こそうとしているのだと結歌は言う。
 人目を引くことを最優先に行うこの作戦で狙われるのは、山の上にキャンパスを構える大学。
 といってもキャンパスだけがぽつんと山の中にあるわけではなく、近くには民家も点在している。
 このキャンパスの適当なところに背中に砲門を構えた亀妖獣が砲弾を撃ち込み、パニックを起こした学生達が避難したのを見計らってから、一気にキャンパスを破壊しにかかる作戦。
 一般人が避難してからの攻撃であるために、人的被害は最小に留められるだろう。
 だが、絶対に人的被害が出ないわけではない。
 加えて多くの学生が避難した先で状況を見つめる中でキャンパスが破壊されれば、世界結界への悪影響も大きなものとなる。
「これは絶対に見過ごすわけにはいかないわね。事件を起こす前に阻止するのは勿論だけど、可能ならシェルティラを捕らえるか――あるいは」
 そこで結歌が、口を止めた。その先に続く言葉が『殺害』である事は、想像がつく。
「今からすぐに急行すれば、山中を移動しているシェルティラの背後を突けるわ」
 背後を突いて奇襲を仕掛ける事が出来れば、百鬼夜行に一気に大打撃を与えて作戦の阻止は可能だろう。
 だが知略を好むシェルティラが、それに対して何の対策も練っていないはずがない。
「砲撃を担当する3体の亀妖獣を先頭に立たせて進軍し、その妖獣達の一群にシェルティラがいるようね。残りの百鬼夜行の地縛霊は、9体ほどの集まりを3隊に分けて後方に配置しているわよ」
 進軍を阻止するために正面から攻めてしまうと、近付いたところで亀妖獣達の砲撃の餌食となる。
 さらにシェルティラからの攻撃が飛ぶ可能性も考慮すれば、正面から真正直にぶつかると全滅は必至。
 しかし後方を突いた場合は亀妖獣とシェルティラは進軍を第一に考えて動くため、後方を守る百鬼夜行を抑える事で、ある程度は安全に攻める事が出来るようだ。
 ここは結歌の言うとおり、背後から攻め立てて行くほうが成功する確率は高いと言える。
 そして亀妖獣は一定の距離まで到達すると砲撃を開始するため、早めに倒さなければ相手の作戦が成功してしまう。
 山中が戦場である事から、木々も移動や攻撃の邪魔になる可能性が高い。全員で百鬼夜行とぶつかるよりは、半数ほどをシェルティラへの追撃に回した方が迅速に対処出来るだろう。
 加えて指揮を執るのがシェルティラである点を考慮すると、状況に合わせて陣形を変える可能性も考えられる。
「相手は知略を使って、様々な状況に対処出来る陣形を取っているわ。これを切り崩せるのは個々の能力と、連携ね」
 最善と考えられる作戦を取ったとしても、下手をすれば逆に敗北しかねない。
 だがそんな状況を覆して、シェルティラを阻止する――。
「厳しい戦いになるけど、あなた達ならやれると信じているわ。だから、頑張って頂戴」
 次に届けられる報告が吉報である事を信じ、結歌は能力者達を見送るのだった。

マスター:真神流星 紹介ページ
真神です。
シェルティラとの決戦は、智と武の凌ぎあいとなります。
かなり大変な戦いとなるでしょうが、頑張ってくださいませ。

成功条件
亀妖獣が砲撃を始める前に全て撃破する。
その上で、シェルティラを倒す。

なお途中まで女性妖狐が行軍に参加していますが、戦闘が始まる前に撤退します。
こちらはスルーしてください。

敵詳細
シェルティラ
『焼き尽くす業火の中で』参照
魔弾術士と除霊建築士の能力を使いますが、現代の能力者より強力なアビを使うようです。

亀妖獣
砲撃:20m爆発+足止め
拡散弾:20m視界内+追撃

その他大勢
地縛霊と妖獣で構成されています。
素早さはそれなりにあり、20m単体射撃と近接単体の強い攻撃を全員が有しています。

参加者
武内・恵太(フリッカーハート・b02430)
久郷・景(雲心月性・b02660)
佐原・利也(魔剣士・b02831)
八岐・龍顕(真魔剣士・b03257)
望月・香介(閑日月・b08176)
相馬・呉葉(高校生真魔弾術士・b11920)
琴月・立花(朽ちた殺神鬼・b13950)
百地・凛花(片隅の撫子・b15564)
小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)
五十海・刹那(地獄の無鉄砲・b23743)
鈴白・舜(車の下に入るときは楽・b25671)
シーリウス・ユリアン(キャットシー・b33413)
榛・彼方(陰の欠片を抱きし者・b35037)
四月朔日・悠夏(闇を纏いし光を手にせし者・b38230)
草加・修(高校生真青龍拳士・b38861)
スバル・ミストレス(自由を求める魔導師・b40526)
八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)
御蛹・真紀(蟲姫・b44782)
シャオ・クロウィン(鴉羽の民・b47283)
リミュ・フリーゼ(銀瀞華・b47303)
ミュレア・レント(宵を告げしラケシス・b47728)
知富・迅(破邪の疾風・b49508)
サーシャ・ロマノヴァ(魔女王・b49614)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
笹森・夢路(人間中退者・b52034)
金星・音子(高校生真ムカデ王・b53229)
川澄・華凛(黒の剣閃・b53304)
端山・芹(フォールスムーン・b56843)
エルフリーデ・ルーデン(見習い雷魔道士・b64048)
白眉・吹雪丸(空谷の徒・b69180)



<リプレイ>

●山中の移動
 山の中を進む百鬼夜行の一団。
 キャンパス砲撃を目論むその集団は山の頂上へと到達し――目標であるキャンパスまでは、山を下ればすぐというところまで進軍を完了していた。
「よし、追いついたな」
 後方からの追撃を仕掛けようとする26名もの能力者達の一団の中、真っ先に百鬼夜行の部隊を見つけた鈴白・舜(車の下に入るときは楽・b25671)が他の仲間へと合図を送った。
 前を進む百鬼夜行の一団の足取りは遅く、後少しでも近付けば突撃を仕掛ける事も可能な距離へと追いつく事が出来る。
 見ればシェルティラとお付の妖狐らしき女性は亀の背に乗っており、キャンパス砲撃や、それ以前に発生するであろう銀誓館の能力者達の戦いを前にしている割に、のんびりとした雰囲気を漂わせている。
 それは止められないと言う自信から来るのか。それとも――?
 そんな折、女性妖狐が亀の背から降りて消えていった。どうやらシェルティラの方も能力者達の接近を察知したようだ。
「キャンパスまでの距離は、どれほどでしょうかね?」
「大体100m……ってところじゃないかな」
 追いついた百鬼夜行の1部隊のさらに向こうに見えるシェルティラの姿から、望月・香介(閑日月・b08176)の問いに目算でそう答えたのは五十海・刹那(地獄の無鉄砲・b23743)だ。
 亀妖獣の射程を考えれば、砲撃が始まるまでには2分程度の時間があるだろう。
 それまでに後ろを守る百鬼夜行を突破し、亀妖獣を倒し、かつシェルティラを止める。厳しい戦いになるのは、誰もが理解していた。
 だがそれでも、この作戦を成功させるわけにはいかない。
「行くぞ、大陸妖狐の所為で、世界結界を少しでも傷つけさせてたまるかっ!」
「世界結界を弱めるなど、そんな事は決してさせはしませんわ!」
 草加・修(高校生真青龍拳士・b38861)と四月朔日・悠夏(闇を纏いし光を手にせし者・b38230)のその言葉が、能力者達の突撃の合図。
 絶対に止めてみせる。その強固な意志を持って、彼等は神将シェルティラに立ち向かうのだった――。

●一斉突撃!
 能力者達の取る陣形は魚燐の形。その陣形で狙うは、前面に陣取る百鬼夜行の部隊の1つの突破だ。前面の百鬼夜行の後方には、左右に展開するように他の2部隊の姿も見える。
 突撃の後は陣形を崩して3つの隊に別れ、左右の百鬼夜行に2隊を当てつつ、亀妖獣とシェルティラへの攻撃を担当する主力隊をぶつける作戦。
 この一斉突撃で、眼前の1部隊を確実に撃破する事――その結果が、この戦いの行方を左右しかねない事は誰もが十分に承知している。
「陣形は、整いましたね」
 周囲を見渡して最後の確認をした小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)の言葉に皆が頷いた時点で、彼等は一息で正面の部隊へと斬り込む事が出来るだけの距離まで進んでいた。
 百鬼夜行の部隊は先制攻撃で隊列を乱すような事がないように指示されているのか、能力者達が接近した今でも攻撃を仕掛ける素振りを見せてはいない。
 どれほどの数で攻めてきているのか、どういう陣形で攻めてくるのか。
 その『待ち』の構えは、相手の出方を伺う様子を匂わせている。だがこれは、能力者達にとっては突撃を行うのに絶好の好機でもあった。
「ほらほら、急ぎましょう兎さん達。追いかけっこで亀に負ける訳には行かないわ」
「智将に率いられた百鬼夜行とはいえ、突き崩すことはできるはずだ。行こう」
 隠された森の小道による水先案内人役を請け負った八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)と白眉・吹雪丸(空谷の徒・b69180)が、その力によって突撃のための最短ルートを作り上げる。
 道は開かれ、賽は投げられた。
「シェルティラを止めるために、行きましょう皆さん!」
 スバル・ミストレス(自由を求める魔導師・b40526)の号令により、能力者達は一斉に躍り出て、眼前の百鬼夜行の部隊へと襲い掛かっていく。
 26人もの突撃を前に、その阻止にかかる正面の百鬼夜行の数はわずかに9体。別に精鋭というわけでもない1部隊にとって、この突撃は止められるはずもないモノだった。
「やれるだけやるだけね。私に出来る役目はちゃんと果たすわ」
 先陣を切った端山・芹(フォールスムーン・b56843)が最も近い所に立っていた1体へと仕掛けると、サーシャ・ロマノヴァ(魔女王・b49614)のライトニングヴァイパーが3体の百鬼夜行を巻き込んで砲撃を担う。
「ま、知略を破るのはいつも単純なやり方さ」
 どれほどの知略を持って待ち構えていても、それ以上の力を持って突破すれば問題無いと言う金星・音子(高校生真ムカデ王・b53229)の幻楼七星光が2体を石に変えたところで、八岐・龍顕(真魔剣士・b03257)の手によってまず1体目が倒されていった。
 まだこれは、突撃のほんの序盤。
 能力者達は数を減らすことを第一に考えて、連携を捨てて手近な敵を倒す事に重きを置いている。
「これで2体目……と!」
「数が多いから、油断禁物だよっ!」
 2体目を斬り伏せた笹森・夢路(人間中退者・b52034)へと襲い掛かった百鬼夜行の1体に、突き立てられる念動剣。
 戦いに臨む数が数ゆえの乱戦の中では、エルフリーデ・ルーデン(見習い雷魔道士・b64048)が言うように僅かな油断も命取りとなるだろう。

「ふむ……やっぱり後方からの一点突破で来たんだね。数の差もあるけど……使い捨てにして良い割には、少し弱いかな」
 そんな戦いを亀の背の上から眺めていたシェルティラが、静かに大地へと降り立つ。
 攻めてきた能力者達の後方からの突撃は、どうやら予測済みだったらしい。彼等の突撃に飲まれた1部隊が攻められている状況を考えれば、百鬼夜行と能力者を対比した個々の能力は、能力者側が上と判断出来る。
「進軍よりも足を止めた方が早そうだ。……伏兵もありそうだけど、仕方ないか。亀さん達はそのまま突撃して。敵を見かけたら砲撃するんだよ」
 亀妖獣にひとまずの進軍を指示し、魔弾の射手を発動させる。
 個々の能力が能力者達に劣っている現状を考えると、伏兵の数次第では策略など意味を為しはしない。
 ならば力には力で――。
「左翼と右翼は中央の援護を。中央が瓦解させられる前に、止めるんだ」
 両翼に展開させた隊を中央の援護に回し、自身も敵を釘付けにするために動いたシェルティラ。
 しかし、時すでに遅し。両翼の部隊が遠距離攻撃で援護を仕掛けたところで、中央部隊はすでに壊滅寸前であった――。

「よし、大体は倒したな。追撃班はそのまま追撃を、右翼班は俺に続け!」
「追撃される方々は御武運を、左翼班も行きますよ!」
 魚燐の陣形の波に飲まれたせいか、正面に配置されていた百鬼夜行の部隊はほとんどが倒れ、残った2体も虫の息。
 その内の1体を倒したシーリウス・ユリアン(キャットシー・b33413)が次の役割を伝達すると、リミュ・フリーゼ(銀瀞華・b47303)が左翼班の仲間へ声をかけ、追撃班の武運を祈る。
 だが百鬼夜行の正面部隊も決して無抵抗でやられたわけではなく、加えて両翼からの攻撃を受けた事で傷の深い仲間もいる。
 それでも彼等は、前を向いて進んでいく。
 絶対にシェルティラを止め、世界結界を守る。その強固な意志と団結力が、この戦いにおいて最も強力な武器となる事は間違いない。

●左翼攻防戦
「こちらに攻撃を当てられると言う事は……そちらも射程内、という事ですね。追撃の邪魔はさせません」
 ケットシー・ワンダラーの『猫上さん』を従え、久郷・景(雲心月性・b02660)は自分達が抑えるべき左翼の部隊を見据える。
 役割を果たすためには、見据えた先の9体の百鬼夜行を抑え、倒さなければならないのだ。対する左翼班の能力者は先程の突撃と違い6人で、全員が無傷と言うわけではなかった。
「ここからが本当の勝負ですわ。この風を追い風にして、突撃なさい!」
 そんな仲間達の傷を僅かでも癒そうとしたミュレア・レント(宵を告げしラケシス・b47728)の流す浄化の風は、言葉通り彼等の追い風となるのか。
 戦力配分のバランスとしては、この左翼班が最も劣っている事は承知の上。が、だからと言ってやられるつもりも、引くつもりもない。
「私達の班は戦力としては劣っています。ですが……心が折れぬ限り、この追い風に乗って何度でも敵を抑えましょう!」
「この数なら当たり放題ね、一気に数を減らすわよ」
 吼えるサーシャのライトニングヴァイパーが密集していた百鬼夜行に飛んで道を開けば、芹のブラックヒストリーが中央部隊の最後の1体を討ち取った上で、残る敵にも均等にダメージと毒を与えていく。
 数の上でも劣っている以上、先手でどこまで相手に打撃を与えられるかが左翼班の命運を左右することは明白。
「こっちは急いでいるんだ、滅びろ!」
 他の左翼班の仲間から少し離れた位置からは、修が龍撃砲を撃ち込んでいた。相手の近接攻撃が強力であることを警戒してか、左翼班は遠距離攻撃を主体として攻める方針のようである。
 これが単なる烏合の衆相手であれば、確かに効果的な戦い方となっただろう。だがシェルティラの指揮下の百鬼夜行は、決して烏合の衆ではないのだ。

「1人ずつを集中攻撃して。数を減らせば問題ないよ」
 飛んできたその指示に、百鬼夜行の一団は周囲をぐるりと見渡した。

 その最初の攻撃目標となったのは、左翼班の中で1人だけ飛び出していた修だ。
 亀妖獣に対しての攻撃も意識していたせいか、彼は孤立したような状態だったのである。これでは、倒してくれと言っている様なものと言っても過言ではない。
 遠距離からの射撃に加えて、近くにいた1体が修を強引に殴り飛ばし、彼の体力を一気に奪っていく。
「いけない、このままでは……猫上さん!」
 慌てて猫上さんに踊りに誘うように指示を出す景ではあったが、その直前に受けた攻撃によって修は膝をついてしまう。4体の百鬼夜行が踊りに興じ始める中、先に1人を欠いた左翼班はさらに劣勢を強いられる状況に陥っていた。
 しかし劣勢は最初からわかっていた事。そしてその劣勢を覆さなければ、この戦いで勝利を収める事はできない。
 景自身が放った炎の魔弾で相手の1体を討ち取る事はできたが、相手の数はまだ能力者達よりも多い現実。さらに踊ることなく、修が倒された事で手の開いた百鬼夜行の残りの攻撃は景に飛んだ。
「数を減らす事だけを考えましょう、まだ勝機を失ったわけではありません」
 眼前で無防備に立っていた2体目をダークハンドで倒したリミュの言葉に誰もが頷き、再び始まる能力者達の攻勢。数体の相手に影響を及ぼす攻撃を重視した戦法を取っていた事も幸いし、相対する百鬼夜行の隊にも無傷で済んだ者はいないのだ。
「ここが正念場ですわよ!」
 そしてミュレアの放つ浄化の風が、彼等の背中を押して。
「合わせますよ!」
「ええ、わかっているわ」
 ライトニングヴァイパーを撃ち続けるサーシャに合わせて、ブラックヒストリーを発動した芹が瀕死の3体をしっかりと倒して流れを引き戻していく。
 残る敵は4体、その内の1体は先程猫上さんに誘われるがままに踊り続けている。
「出来れば、この流れに乗って行きたいところですが……」
 魔弾の射手に加えて猫上さんからの魔力供給で傷を癒す景だが、近接攻撃を狙い動いた百鬼夜行の攻撃の前に、彼もついに倒れてしまった。
 集中攻撃という指示が飛んでいるせいか、狙った相手を執拗に狙う傾向を見せる百鬼夜行の部隊。
 だが数人を巻き込む攻撃も、自身の傷を癒す手段も持たない攻撃一辺倒の構成に、能力者達は勝機を見出していたのである。
 もしその中の1体がそう言った攻撃を行うことが可能だったならば、左翼班は全滅していたかもしれない。
 数の差と攻撃力の不利を覆した勝利の裏には、ほんの僅かな幸運もあった。
「さぁ……此の雷を勝利の号砲としましょう」
 最後の1体を倒したサーシャが、肩で息をしながら仲間達の状態を見る。
 倒れた修と景の傷はそれなりに深いものの、命に別状はないようだ。何とか残った4人は、この後は傷を癒しながら、右翼班かシェルティラ追撃班の援護に回れば良い。
 ほんの僅かな勝利の余韻を味わい、少しだけ身体を休めて態勢を整えた後、左翼班は次の行動を開始する――。

●右翼攻略戦
 一方では右翼班も、左翼班が戦闘を始めたのとほぼ同時に次の戦闘へと突入していた。
「まったく上手い具合にばらけてるわね、これじゃやりにくいわ!」
 敵が少し広く展開している事に歯がゆさを感じながら、紫織は射線を確保するために移動しつつ、手近な百鬼夜行へと攻撃を仕掛けていく。
 左翼で戦っている能力者達が直線攻撃や範囲攻撃を得意としているのに対し、右翼班は森王の槍や幻楼七星光と言った、小規模範囲攻撃を得意とする者達で構成されているのだ。
 適度に相手がばらけている事。それはすなわち、右翼班の得意とする攻撃が効果的なダメージを与えられないことを意味する。
 しかし左翼の戦闘具合を見てシェルティラが飛ばした指示は、右翼班にとっては朗報でもあった。
「俺が前に出てひきつける、そこを狙って一気に攻撃しろ!」
 シェルティラの下した指示を逆手に取り、木々を利用しながら百鬼夜行達の前へと佐原・利也(魔剣士・b02831)が躍り出たのだ。
 そのついでに百鬼夜行の1体へと黒影剣で斬り込んだ後、利也は近くの木を背に百鬼夜行達の前を塞ぐ。
 追撃班を追うためのルート上に利也、そして回り込んだ事で互いに攻撃をしやすい位置には紫織が立っている。
 集中攻撃で一気に倒せ――。そう指示されていた百鬼夜行達ではあったが、ばらけて陣取っていたことが仇になり、どちらを集中攻撃するべきか迷う状況に陥っていた。
「本番はこれから、かな。みんな頑張ってるんだ……負ける訳にはいかないよ」
 迷う相手の隙を突くように、榛・彼方(陰の欠片を抱きし者・b35037)の吹雪の竜巻が百鬼夜行達を襲い、魔力の氷で等しくその身に氷を纏わせていく。
 これで判断を誤り、紫織と利也のどちらか片方ではなく、両方に分散して固まってくれれば儲けものであろう。9体の一斉攻撃には誰もが膝を突く可能性があるが、分散すればそれだけ倒れる可能性も低くなるのだ。
 そしてその願いが通じたのか、5体が利也へ、残る4体が紫織へと近接攻撃を仕掛けにかかった。
「今がチャンスだね、いくよ!」
 音頭を取った音子が幻楼七星光で口火を切って紫織に群がる4体に仕掛けて2体を石に変えれば、シーリウスのヴァンパイアクロスがダメージを与えて。
「やはり強力な個体も、動けなくば意味がない。これで時間を稼げるはず」
 加えて利也に群がる5体には吹雪丸の幻楼七星光が飛び、こちらも3体を石化させる。
 攻撃を一気に受けた紫織と利也のダメージも相当なものではあったが、合計5体もの百鬼夜行を石に変えた事で、耐える事も十分に可能だろう。
「ここは耐えるしかないな……」
 だが利也が旋剣の構えで耐える態勢を取る一方で、回復手段を持たない紫織は引く姿勢すらも見せずに攻撃態勢を取った。
「……刺し違えてでも倒してあげる」
 防御も回復も捨て、周囲を取り囲む百鬼夜行に森王の槍を撃ち込む紫織。ここで軽く引く事で、少しでも後を考えていたならば彼女がここで倒れることは無かっただろう。
 そんな彼女に振り下ろされる豪腕。
 集中攻撃を受けていた紫織には、その攻撃に耐えるだけの体力は残されていなかった。
「八雲、無茶だ……くそっ!」
 直後に放たれたシーリウスのヴァンパイアクロスが4体ともを屠るも、その場に崩れた紫織は動く気配を見せない。
 しかし今は倒れた彼女の状況よりも、利也に群がった残りを殲滅する事が何より大事。
「無茶するねぇ。でも、おかげで道は開けたよ!」
 耐える利也に音子が治癒符を投げ、彼方の吹雪の竜巻がさらに百鬼夜行達を分厚い氷に包んでいく。
 それに対して石化を免れ、辛うじて動く事が出来た百鬼夜行達が強引に利也を殴り飛ばすが、その反撃もここまでとなる。
 吹雪丸の放った森王の槍が2体を穿ったところで、再び利也へと投げられた音子の治癒符。
 そして利也自身も旋剣の構えで再び傷を癒した直後、彼方の手によって三度吹き荒んだ吹雪の竜巻により、残る3体も消えていった。
「終わったか……八雲の様子は?」
「なんとか無事だよ、どうする?」
 すぐさま紫織の状況を尋ねたシーリウスに音子が応え、次の行動を逆に聞く。
 このまま一気に追撃班と合流したいところではあったものの、利也の傷もかなり深い。そこで右翼班の面々は戦闘の影響が及ばないであろう場所で紫織を休ませ、利也の傷は移動しながら癒す作戦を取った。
 シェルティラと戦うためには、可能な限り態勢を立て直す必要がある事を、誰もがしっかりと理解した上での行動だった。
 左翼班の方を見れば、あちらも百鬼夜行の部隊を抑えきって勝利を収めている。
 後は前を行く追撃班を追い、一気に亀妖獣とシェルティラを打ち崩すのみだ――!

●シェルティラとの接触
 戦いは、展開していた百鬼夜行の3部隊を倒すだけで終わりではない。
 左翼班と右翼班が抑えにかかったその存在は、単なる足止めの意味合いが強く――本当のターゲットである亀妖獣は悠々と追撃する能力者達に背を向け、目標を達するために前進を続けていた。
 そして追撃班がその亀妖獣に攻撃を仕掛けるためには最大の障害、正面に立ったシェルティラ・シャラザードを突破しなければならないのである。
「勝てるか分かんねえけど全力でぶつかる。気合いれてくぜ!」
 追撃班の先頭を進む武内・恵太(フリッカーハート・b02430)の声がかかると、百鬼夜行の部隊を突破した14人の能力者達は一斉に行動を開始した。
 まずは亀妖獣の動きを抑えなければどうにもならないため、眼前のシェルティラの脇を抜け、前を進む亀妖獣へと追いつかなければならない。
 すでにシェルティラの攻撃方法の大部分は、魔弾術士と除霊建築士の扱うモノとわかっている。ただしその威力は、現代の能力者が使うそれよりも強力ではあるのだが。
「……なるほど、そういう作戦なんだね。確かにこれだと、個々の能力がモノを言う……か」
 少し考えるような仕草を取りながら、魔導書を開くシェルティラ。向こうに見える百鬼夜行達の劣勢を見れば、突破されるのは時間の問題だと予測は出来る。
 さすがに数人は倒すだろうが、あの状況では恐らくほとんどの能力者が突破に成功して合流してくるだろう。
「折角修復した世界結界を簡単に弱められちゃ堪らないからな……あの戦いで命を落としたヤツらの努力を無にしない為にも、この砲撃は絶対に阻止するぜ!」
 砲撃阻止を高らかに宣言した知富・迅(破邪の疾風・b49508)の言葉は、この場にいるほとんどの能力者が胸に抱く覚悟そのもの。
「うん、ボクを止めるという君達の覚悟はわかった。後はそれが本物かどうか……見極めさせてもらうよ」
 静かに手を掲げ、シェルティラが言う。
 その間に木々の間を潜り抜けながら、追撃班は確実にシェルティラに対しての距離を詰めていく。
 だがそんな能力者達の集団から、頭ひとつ飛びぬけるように出てきた者が1人。その正体は、亀妖獣の前へと回り込む事だけに目が向いた御蛹・真紀(蟲姫・b44782)である。
 攻撃も防御も考えず、移動する事だけを頭に入れていた事で、彼女は誰よりも前に飛び出す事が出来ていた。
「……飛び出しすぎ」
「無謀ですよ、御蛹さん!?」
 あまりにも無防備な突撃。それはシャオ・クロウィン(鴉羽の民・b47283)と琴月・立花(朽ちた殺神鬼・b13950)が言うように、無謀すぎる行動だった。
「あの時の回りくどいお姉さんか、無茶するね?」
「貴方のやろうとしている事を絶対に止めるためです、なぜこんな事をするの? 貴方なら……」
 真紀とシェルティラが交差するか否かの直前、交わされようとする会話。しかし相手の覚悟を見ると決めたシェルティラにとって、彼女の問い掛けは答えるにも値するものではない。
「ごめん、悠長に話すつもりはないよ」
 掲げた手から放たれた雷の魔弾が、シェルティラの彼女に対する回答だった。亀から降りた時に発動した魔弾の射手により威力の上がっていたその魔弾は、無防備すぎた真紀を一撃で戦闘不能な状態へと追い込んだのである。
 最初の百鬼夜行突撃戦で受けたダメージを移動しながら回復していた事を考慮すると、その威力の高さが相当なものであると改めて能力者達に知らしめる結果を、シェルティラの雷の魔弾はもたらしていた。
「さすがにハンパじゃない威力だな……お前、頭冷やせよ!」
「だがここを抜けなければ亀は止められん、一気に距離を詰めるぞ!」
 過去にその攻撃を受けて倒れ、今、目の前で再び真紀が一撃で倒された現実を見てシェルティラに『頭を冷やせ』と言う刹那。
 だがその言葉は、問答をする気はないと行動で彼女に応えたシェルティラを見る限り、届くはずはない。そして龍顕が言うように今は亀の進軍をとめる事が先決であり、シェルティラに構っている暇もないのだ。
 話しかけようとした真紀を雷の魔弾で倒した事で、懸念されていた八卦迷宮陣はまだしばらく飛ぶことは無いだろう。
「悪いけど、今はあなたに構ってる暇はないんだよっ!」
「そう言うことですの、ごめんあそばせ?」
 脇を抜けていくエルフリーデと悠夏の言葉を聞き、何かを理解したかのような仕草を取るシェルティラ。
「ボクを避けて先に前の亀さん達を、か……。でも伏兵を前に伏せてるなら、そろそろ出した方が良いと思うよ」
 続いてその口から飛び出した言葉は、能力者達の作戦における次の一手を読みきったものだった。と同時に放たれた雷の魔弾が龍顕に飛ぶ。
「ぐぅっ、さすがに! だが、まだだ!」
 なんとか耐え切った龍顕ではあったが、2度も3度も耐え切れるような一撃ではない。加えて伏兵も察知されている以上、もはや出し惜しみをせずに全力でぶつからなければ、勝てはしない――!
 
●伏兵登場!
 シェルティラに伏兵の存在を察知された丁度その頃、伏兵班の攻撃範囲には全ての亀妖獣が入り込んでいる状態となっていた。
「……砲撃が始まる前に何としても阻止しなくては、甚大な被害が出てしまいます……。気を引き締めて、油断せず参りましょう」
「みんな、行くわよ」
 木々の陰や草の影に身を潜めた状態から、文月・風華(暁天の巫女・b50869)と百地・凛花(片隅の撫子・b15564)の合図を持って姿を現した伏兵は、彼女達を含めて4名。
 いかにシェルティラから指示を受けていたとはいっても、急に現れたその伏兵に面食らったのか、亀妖獣の足も止まる。
「たった4人……? となると、正面の人達が本命ということかな」
 想定よりも遥かに少ない数の伏兵に、シェルティラも少し困惑気味の表情を見せた。だがたったの4名とは言っても――。
「その進軍、全力で止めます」
「せっかく回復させた世界結界です。妖狐の作戦を座視する訳にはいきませんからね!」
 狙いやすい位置にいた1体に向けて川澄・華凛(黒の剣閃・b53304)がダークハンドで仕掛けたところで、一気に距離を詰めた相馬・呉葉(高校生真魔弾術士・b11920)のデモンストランダムがトドメを刺す。
 伏せている間に旋剣の構えや黒燐奏甲などで攻撃力を強化していた彼女達の攻撃は、想定以上の火力を持っていたのだ。
「まずは1体、続けていきますよ」
 さらに次の亀妖獣に狙いを定めた風華の龍尾脚が叩き込まれたところで、ミストファインダー越しに放たれた凛花の瞬断撃が2匹目をも打ち倒していく。
 旋剣の構えや虎紋覚醒に黒燐奏甲を重ねた華凛と風華は、そう言った強化を施していない能力者2名の攻撃力とほとんど同じ威力を有するほどになっていたらしい。
「伏せているとは思っていたけど、凄いものだね……でもこれで、やりやすくはなったかな」
 続けざまに2体もの亀妖獣を討ち取られたにも関わらず、シェルティラは『想定内』だとも取れる発言を漏らした。
「やりやすくなった? あなたの目的は、世界結界の破壊ではないのですか?」
「そんな事は――どうでも、良いんだよね」
 奈々の問い掛けに対する返答に、周囲にいた能力者達までもがざわめく。
 ならば何故、このような大規模な行動を起こしたのか――?
「気になるところだが、まずはアイツを倒してからだな」
「砲撃手を全て潰す。これで一先ず此方が一本ですね」
 残った1匹に対しては舜の呪詛呪言が飛び、後を追った夢路のヴァンパイアクロスが一気にダメージを与えたところで、スバルの放った隕石の魔弾が亀を押しつぶすように直撃した。
 全ての亀を倒したことで、キャンパスが砲撃を受ける可能性は無くなったと言えよう。亀が抵抗する間も無く倒されたのは、その鈍足さゆえと言えるかもしれない。
 だがその砲撃を阻止した裏には、読まれていた伏兵の存在があった。追撃班に名を連ねていた能力者は近接攻撃を重視していたため、下手をすれば追いつけなかった可能性も高かったのである。
 ともあれ、これで残る敵はシェルティラただ1人。しかしここからが、本当の戦いである事は間違いない――。

●決戦、シェルティラ・シャラザード
 亀を全て倒したのとほぼ同じタイミングで、後方から百鬼夜行を抑えていた能力者達も合流し、膨れ上がるシェルティラ追撃班。
 後ろには伏兵班が陣取っており、シェルティラは前後を挟まれる形で逃げ場を失っていた。
「やりやすくなったと言うのは、一体……どういう意味ですか?」
 先程の発言の真意を改めて問う悠夏。先程の真紀への対応を見れば、答えは攻撃として返ってくる可能性が高かったが……。
「この作戦はね、本当のところはどうでも良いんだ。ボクは君達の力と覚悟を見たかっただけだしね。だから……攻めやすかったと思うけど?」
 言われてみれば、山という地形は防御には適しているものの、攻勢をかけたり進軍するにはやや不利な地形である。まして百鬼夜行と能力者達の力量の差を考えると、最初から止められる事を判断に入れて動いていたというのも頷けるだろう。
 そういった戦術を取った裏には、そう言った理由があったようだ。
「かと言って変な戦術で来れば駄目だっただろうけど、ここまでは合格だよ。じゃあ、次はボクが相手をするね。キミ達の覚悟が本物かどうか、見極めさせてもらうよ……!」
 魔導書を構え、攻撃態勢を取るシェルティラ。
 対する能力者達も、一斉に構えなおす。先程の戦闘で4人を欠いた、26人での戦い。だが例えこれほどの数で囲んだとしても、桁違いの強さを持つシェルティラが相手であれば苦戦は必至。
 だがシェルティラを逃がすつもりも、このまま敗北するつもりもない。
「援護は任せて! 絶対に勝とうよ!」
 元気良く言うエルフリーデの言葉に皆が頷き、始まる一斉攻撃。シェルティラの言動や行動に誰もが思うところはあるが、それは全力で後に考えれば良いだけの事。
「ほんとに戦うことになっちゃいましたね……でも、やるからには全力ですっ!」
「氷の吐息、今度こそ喰らって貰うぜ!」
 左右から挟みこむように打ち込まれた奈々の獣撃拳と恵太の氷の吐息がその華奢な身体に襲い掛かり、獣撃拳を避けた直後に氷の吐息が直撃する。
 遠く後方からは華凛や風華達、伏兵班からの攻撃だけでなく、抑え班からも一気に飛び交う援護攻撃に、能力者達の全力が注がれている事は間違いない。
「なるほど、聞いていた通りの攻撃方法だね……これが銀誓館の強さってことか……」
 いくらかの攻撃は受けているものの、品定めをするように観察しているその姿には、まだまだ余裕がありそうな気配があった。
 しかし能力者達の攻撃はまだまだ続く。
「君の魔弾の力は解っているが、僕も同じ魔弾だ。君には劣っているけど簡単にやられるつもりはないっ!」
「……抉れ、影刃」
 放たれたスバルの隕石の魔弾の援護を受け、シャオが黒影剣を持って斬り込んで行く。さらに囲むかのように迅がクレセントファングを叩き込むと、悠夏も黒影剣を用いてシェルティラを包囲する。
 もしもシェルティラが逃亡を図った場合を考え、それを防ぐために能力者達は包囲するような攻撃態勢を取った。ここに香介や龍顕までもが加わり攻撃を仕掛けた事で、その包囲態勢は整ったと言えよう。
 ――が。
「逃げはしないけど……的が増えて助かったよ」
 その包囲陣形が仇となり、足元に向けて放たれた炎の魔弾は囲んでいた7名全てへと直撃したのである。いかに援護が飛んだとしても、このままでは誰もが2発目に耐えられるような状態ではない。
 否、1人は膝を突いて倒れかけているところをなんとか耐えていた。
「大人が寝るのは、子供を寝かしつけた後、だ……!」
 負けるわけには行かないという強い意志を持って、再び立ち上がる龍顕。
 そんな彼を援護するべく放たれた舜の呪詛呪言がシェルティラに飛ぶも、その一撃は難なくかわされて。
「頑張って、でも無理しないでっ!」
「風よ、我が身を用いて破邪を成せ……」
 7人の身体を焼く魔力の炎をエルフリーデの慈愛の舞と迅の浄化サイクロンがしっかりと消火したところで、再び集中的に飛び交う火線がシェルティラを襲う。
 さしものシェルティラも、あまりに多く飛び交う攻撃を避け続けるのは至難の業だった。ここで攻め立てる能力者の数がもしもこの半分だったなら、悠々と抜けられていた可能性も高かったが。
「何としてもお前を止める、守らなきゃいけないのは人や建物だけじゃない!」
 さらに刹那の氷の吐息を受けたところで、さすがにダメージが蓄積したのか、疲労の色も見て取れる。
「さすがにこの数の相手はきついね……でも、まだっ」
 再び放たれた炎の魔弾に、奈々や刹那、シャオに加えて、先程強引に立ち上がった龍顕までもがその場に崩れ落ちた。
 だが4人を倒されても、能力者達の苛烈な攻撃は止まる気配を見せないでいる。それはすでにかなりの数の攻撃を当てているはずなのに、傷だらけになりながらも攻撃を行うシェルティラの姿を見ての焦りも混じっているようだ。
「すみませんが、ここは全力ですよ」
「無事に全てを終わらせて、大切な人に会いたいですからね」
 その言葉と共に香介のさよならの指先が、立花の氷の吐息がシェルティラの体力を削って。
「なるほど、この強さなら……でも、まだまだ遠い……」
「俺達は一人じゃ何も出来ない。けど力を合わせこうして大きな力を生み出す仲間ってヤツさ、クセぇけどな」
「そろそろ止まってください、先日の図書館の時のように、あなたとはまだ会話が出来るはずです」
 ふと、そんな謎めいた言葉をシェルティラが口にすると同時に撃ち込まれた恵太の氷の吐息と、夢路のヴァンパイアクロスがその身体を貫いた。
「かっ……ふ……! お見事……その強さの源は、しっかりと見せてもらったよ……」
 体中に魔力の氷を纏わりつかせたまま、口からわずかに血を吐きつつ、ゆっくりと片膝を突くシェルティラ。
 誰もが殺す気など、なかった。
 けれども、崩れ落ちたシェルティラは静かにその呼吸を止めて――。
「や、やりすぎましたか……だけど……」
 全力での攻撃を続けた事が殺害という結果をもたらした事に、夢路はそっと胸で十字を切った。だがそうしなければ、能力者達の被害はもっと甚大だった可能性もある。
 しかし次の瞬間、目の前のシェルティラの体から白い霧のようなモノが現れたかと思うと、その死体は溶けるように消えていった。

「……終わった、の?」
「そうみたい、だけど……」
 倒したはずの相手の死体が溶けるように消え失せた現象に、悠夏もエルフリーデも困惑の表情を浮かべていた。
 最後の攻撃を叩き込んだ恵太や夢路の手には、今も手応えがしっかりと残っている。
 多数の怪我人を出しながらも、何とかシェルティラの行おうとしていた砲撃作戦を阻止することは出来た。
 その口振りからは止められる事を前提に考えていたとしか思えないが、守るべきモノはしっかりと守りきった。
 だが――。

 妖狐に手を貸しているはずの神将が、その作戦をどうでも良いと言い放ってまで能力者達と刃を交えたのは何故か?
 そして倒したはずなのに、その死体が解けてなくなったのはどういう事か?

 シェルティラの行動する理由も、そして死体が消えたという事についても謎のまま。
 確かな事は、砲撃を阻止することが出来た事だけ。
 再び戦うかもしれない――。
 そんな思いを胸に、能力者達は怪我をした仲間に肩を貸し、ゆっくりと撤退していくのだった。


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いまいち
参加者:30人
作成日:2010/07/15
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冒険結果:成功!
重傷者:久郷・景(雲心月性・b02660)  八岐・龍顕(真魔剣士・b03257)  小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)  五十海・刹那(地獄の無鉄砲・b23743)  草加・修(高校生真青龍拳士・b38861)  八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)  御蛹・真紀(蟲姫・b44782)  シャオ・クロウィン(鴉羽の民・b47283) 
死亡者:なし
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