愛してるぜ、蜘蛛野郎ども!!


<オープニング>


「決戦、お疲れ様。暫く休憩したい気分だけれど、敵はまだ残っている。君達にはまだ頑張って貰わないとならない」
 運命予報士は言い難そうに切り出した。
「とある廃ビルに蜘蛛が複数入り込んでいてね。多分取り残されたんだろうけれど、放って置いたら一般人に危険が及ぶ。早急に始末して欲しい」
 
 眉を潜める運命予報士。
「急なタイミングで悪いとは思うけれど……」
「私が行く」
 彼の言葉を、誰かが遮った。
「私に……いや、私達にやらせてくれ」
 壁に背を預けて立っていた、揚羽夏希であった。
 よく見れば目を腫らしている。泣いていたのだろうか。
 だがそれをあえて無視して、頷く運命予報士。
 手際よく地図を広げて見せた。
「場所はここ。三階建ての廃ビルだ。この三階に蜘蛛が潜んでる。部屋は三階部分全部を使ったフロアで、大体十メートル四方の広い場所だ」
 手描きのメモを上に置く。
「これが敵の戦力。赤い紋様がついた大きい蜘蛛が一匹。一回り小さいのが二匹」
 その戦力に一同は分析を始める。
 赤い紋様の蜘蛛と言えば数人がかりでも危ないと言われるレベルの相手である。
 とは言え、一緒についている雑魚の蜘蛛は二匹程度。
 気を抜かずに当たれば難しい相手ではない。
「分った。すぐにでも行くぞ」
 今にも駆け出しそうな夏希。
 運命予報士はその様子に肩を竦めた。
「この廃ビルの屋上はねえ、綺麗な桜が見えるんだ。それはもう絶好のスポットでね。戦闘が終わったら仲間と一緒に見に行けばいいよ。そして色んな話をしておいで」
 運命予報士は微笑んだ。
「頼んだよ」
「ああ」
 夏希は振り返って仲間達を見た。
 その瞳は炎の如く。
「愛してるぞ、皆! 思う存分暴れに行こうぜ!」

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参加者
ロキナ・ヴァルキューレ(悪戯好きな白猫・b03820)
神崎・あやめ(高校生白燐蟲使い・b04114)
海原・七海(闇色の月兎・b05396)
神沢・恭平(逆走ラフメイカー・b05548)
紅・飛麗(武侠小姐・b06022)
極道・政(日本最後の侍・b15772)
楢芝鳥・俊哉(図書室の主の幼生・b20054)
シフォン・ブロウニン(メリケンクノイチガール・b21079)
NPC:揚羽・夏希(象徴的ファイアフォックス・bn0001)




<リプレイ>

●廃墟の三匹
 ある廃ビルの三階フロアは、昼間だと言うのに薄暗い。
 その中を三匹の蜘蛛童が徘徊していた。
 突然の発光。
 神崎・あやめ(高校生白燐蟲使い・b04114)の白燐光である。
 敏感に反応した蜘蛛童達は、あやめ達闖入者に注目した。
「御免下さい。わたくし達、蜘蛛退治に参りましたの」
 逆光の中、九つの人影がそこにはあった。

「それじゃあ皆、気合入れて行くぞ!」
 その内の一人、神沢・恭平(逆走ラフメイカー・b05548)が叫ぶように歌い出した。
 ただの歌では無い。コトダマヴォイスによって心の声を凝縮した歌である。
 心の声を言語化したとすれば、さしずめ『蜘蛛童達はフロア内に散開してるみてぇだ。作戦通りにヒュプノヴォイス行くぞ!』である。
「りょーかいっ。お花見お花見ー!」
「うにゃ〜♪」
 恭平に続いて海原・七海(闇色の月兎・b05396)とロキナ・ヴァルキューレ(悪戯好きな白猫・b03820)がヒュプノヴォイスを放つ。
 滅茶苦茶緊張感に欠ける歌声が響き渡る。
 結果、三匹の蜘蛛童の内無印(小蜘蛛)の二匹を眠りにつかせる事に成功した。
 順調な滑り出しにガッツポーズするロキナ。
「にゃにゃ。成功にゃ! 攻撃に移るにゃ!」
 軽快に地面を蹴るロキナ。がしかし。
 ――べしんっ!
「ぎゃに!」
 ロキナ転倒。ふっとぶ猫耳帽子。
「コケてるしー!」
「しかも服の裾を踏んずけてー!」
 絶句する恭平と七海。
 ロキナは顔を上げるとにゃいにゃいと猫語で謝る……かと思いきや。
「ったく……ドジめ。しかも久々の相手がコレとはな」
 ドライな顔して毒気付いていた。
 ずばっと後ろを向く恭平と七海。
「打ち所悪かったのかな!?」
「いや、俺の読みだとあの帽子が取れたことで性格が入れ替わってだな……」
 まあ、あまり間違ってはいない。

 同刻。
「さ、みんな。がんばろ〜ね」
 自分にリフレクトコアをかけたシフォン・ブロウニン(メリケンクノイチガール・b21079)がのほほんと詠唱兵器を手に持つ。対するは眠りに落ちた蜘蛛童。
 一対の術扇を豪華絢爛に広げる。
 そしてシフォンは流れるような動きで構えてみせた。
「痛いの一発行くわよ〜」
 間延びしたテンションのまま放たれる光の槍。
 光は獰猛に無印の蜘蛛童へと突き刺さり、全長50センチほどの身体をいとも簡単にブチ抜いて見せた。
 目覚める間もなく消滅していく蜘蛛童。
「あらあら。手応えのないこと」
 口に扇を当ててころころと笑う。
「気ぃ抜いてんじゃねえぞ」
 と、背中合わせに立っていた極道・政(日本最後の侍・b15772)が声をかけてきた。彼は既に旋剣の構えをとっている。
「今は眠ってるが、いつ起きるか知れねぇんだ。さっさと片付けちまうぞ」
 言うや否や、政は長ドスを腹の辺りに構えて突撃した。
 狙うはもう一匹の無印蜘蛛童。
「おらぁ!」
 蜘蛛童に突き刺さる長ドス。吹き出る体液。目を覚ました蜘蛛童が悲鳴のような声を上げて暴れた。
 だが政は手を休めるどころかドスを捻って蜘蛛童の体を抉った。強まる悲鳴。
「なに恨みがましく鳴いていやがる。勘違いすんな。こりゃあ喧嘩だ!」
 ずるりと音を立てて引き抜かれる刃。
 消滅する蜘蛛童を背に、ドスを振り払う。
 散った体液が、コンクリートの地面に舞った。
「……そこを、勘違いするんじゃねぇ」

 一方、赤い蜘蛛童(大蜘蛛)を食い止めに行ったあやめ達。
「キー!」
 赤い蜘蛛童が素早くあやめに飛び掛る。
 あやめは瞬時に腕を出して身体を庇ったが、その腕には深々と蜘蛛童の牙が食い込んだ。
「あやめ!」
 揚羽・夏希(象徴的ファイアフォックス・bn0001)の叫び声が聞こえる。
 グロテスクな牙から、我が腕に猛毒が流れ込むのが分る。
 誰もが悲鳴を上げてしまいそうな光景を目にして、あやめは冷たく微笑んだ。
 蜘蛛童の顔に手を翳す。
「退いて下さる?」
「キキ!?」
 蜘蛛童にもし表情があったのなら、目を剥いて驚愕したことだろう。
 地面を二転三転する蜘蛛童。
 転がった蜘蛛童に追い討ちをかけるのは紅・飛麗(武侠小姐・b06022)達の仕事である。
 両手を突き出す飛麗。真っ赤なリボルバーガントレットが唸った。
「火拳・紅龍烈火ぁ!」
 フレイムキャノン。
 荒々しい炎が生まれ、赤い蜘蛛童を激しい抱擁が如く包み込んだ。
 更にと夏希がガトリングを構える。
「おい俊哉、行けるか!」
「うにー」
 気の抜けた炭酸飲料みたいな声で応じる楢芝鳥・俊哉(図書室の主の幼生・b20054)。
 ローテンションなノリの割りには魔弾の射手を展開済みである。やる気は充分あるらしいので侮ってはいけない。
 そして蜘蛛童に集中するフレイムキャノンと炎の魔弾。
 ごうごうと燃え上がる炎。
 キーキー言ってのた打ち回る蜘蛛童。

●非情な九人
 早くも体力の半分を持っていかれ、味方の無印蜘蛛童も倒され、赤い蜘蛛童は絶体絶命である。
 蜘蛛童は自己の生存を優先してか、じたばたしながらフロアの出口へと突っ走った。
 もし知能と発言能力があれば『ここは撤退じゃ!』とか言っていたかもしれない。
 が、しかし。
「おいおい、逃がすかよぉ」
「そうそう。キッチリ倒してお花見、たもんねー」
 一対になったチェンソー剣を振り上げる恭平。
 真っ黒いガトリングを腰だめに構える七海。
 非情な二人がここにいた。
 蜘蛛童、慌てて方向転換。
「あら〜ん。何処行くつ・も・り?」
「テメェで最後だ。覚悟ォ決めヤガレ」
 豪華絢爛な術扇を構えるシフォン。
 長ドスを肩に担いだ政。
 非情な二人パート2。
 四人から一斉に放たれる攻撃を、蜘蛛童はじったんばったんしながら必死で避けた。
 避けきれない攻撃もあったがなんとか耐え抜いた。
 そしてもう直ぐ出口と言う所まで差し掛かる。
 苦労が報われる瞬間が今そこに……。
「おっと、そこまでだ」
 目の前をマジカルロッドを構えた俊哉が塞ぐ。『キキー!?』と叫ぶ蜘蛛童。
 そして背後から声。
「どこを見ている?」
 土蜘蛛が視線を上に向けると、七本七色の念動剣がぐるぐると回っていた。更に背後には腕を組んだロキナ。
 非情な二人パート3。
 三部作完結!
「これで包囲完了!」
「だな」
 オマケにもう一作、とばかりに飛麗と夏希も合流した。
 恭平が親指を立てる。
「さあ、くれてやりな女王様!」
「おうよ!」
 夏希が炎の拳を振り上げた。
「キ、キ……キキー!!」
 九人全員の攻撃が殺到して、蜘蛛童は消滅した。
 キラキラ消えてゆく蜘蛛童を前に胸を張る飛麗。
「無敵は素敵、勝利は勝ーつ……なんちゃって♪」
 勝ち台詞だろうか。
 台詞の意味には、誰も突っ込まなかった。

●散り急ぐ花は涙か若き芽か。舞うひとひらを、餞とせん。
 戦闘を終えた一同は、屋上に上がって花見を始めた。
 都合の良いことに天気は快晴。日の照り具合も良いカンジである。
 そんな中で、夏希は桜の花を眺めていた。何かを思うような目をして。
「ナッキ先輩」
「ん、何だ?」
 七海に声だった。
 振り向く夏希。
「ほっぺにちゅーしてくださいっ」
「!?」
 解説しよう。夏希はかつて土蜘蛛戦争の最終決戦に当たり『生き残ったらほっぺにちゅーしてやる』とその場の全員に(勢いで)言ったことがあるのだ。
 数秒逡巡してから手招きする夏希。
 亜高速で飛びつく七海。

「はい皆ー。買出し班の到着よー」
 飛麗達がビニール袋を掲げてやってきた。
 袋の中には缶ジュースやら肉まんやらが詰まっている。
「はいこれはナッキちゃんの分……って、何やってるの?」
「何やってるように見える?」
 夏希は何かを諦めたような目をして飛麗を見上げた。
「わーい、ナッキ先輩大好きー!」
「にゃーい、だいすきー!」
 彼女の身体には七海とロキナが抱き付いていた。
 七海はともかく何故ロキナまで。
「揚羽おねーさんは良い人っぽいんですにゃ」
「……そう」
 本能で感じたらしい。
 さすがロキナ。猫娘。
「じゃ、私も混ぜてちょーだい♪」
「何でだ!」
 七海とロキナに抱きつかれて身動きが取れない夏希に、飛麗は背後から覆いかぶさるように抱きついた。
 頬が付く程に近づいて、飛麗は囁いた。
「ナッキちゃんは何でも一人で背負い込みすぎ。もーちょっと軽く考えても良いのよ?」
「……かもな」
 瞑目する夏希。
 と、そこへ飲み物を配り終えたシフォンがやってきた。
「夜桜も良さそうだけど、昼間の桜はやっぱり綺麗ねー」
 桜を見上げて微笑む。
「夏希ちゃん、乾杯お願いね」
「ん、私がか?」
 頷く一同。
 今回は何かと構われる夏希である。
 夏希はよしと呟くと、缶ジュースの蓋を開けた突き上げた。
「そんじゃあ、皆の無事を祝って……」
「「かんぱーい!」」

 政は乾いた目で桜を眺めていた。
 お茶を一口。
 酒も飲めない花見には興味が沸か無ぇ、と思う政(未成年の飲酒は厳禁)。
 ふと横を見る。
「うにー……」
 俊哉がいた。
 ただの俊哉ではない。頭に肉まんを乗っけた俊哉である。
「…………」
 どう突っ込んで良いか分からない政。
「うに……疲れた」
「そ、そうだな」
 二人同時にお茶を一口。
 頭上の肉まんは落ちない。
 やばい。変な奴と関わってしまった。
 政がそんな思いで天を仰いでいると、俊哉が唐突に口を開いた。
「ここから葛城山って見えますかねー?」
「……ん、多分な」
 葛城山……。
 政は次の殲滅戦のことを思った。
「派手な喧嘩になりそうだ」
「ですねー……」
 俊哉の顔を見る。
 何を考えているのか、やっぱりよく分からなかった。

 あやめ、夏希、恭平が並んでお菓子を摘んでいた。
 背後では七海が俊哉に誕生日プレゼントーとか言って団子を口に詰め込んでいる。悪乗りするシフォンと止めに入る飛麗。
 それらを無視してあやめは顔を上げた。
 視線の先には、散り際の桜。
「もう、出会いと別れの季節なのね」
「……」
「色んなものを手に入れたり、失ったりしながら私達は歩いて行く……それは素晴らしい事だと、私は思うわ」
 目を動かして、黙ったままの夏希を見る。
 あの日の後、彼女は泣いていたのだろうか。
「忘れないであげてね」
「勿論だ。一生忘れねぇよ」
 強かな目をして頷く夏希。あやめはそれを見てにこりと笑った。
「余計なお世話かもしれないけど」
「ん?」
「言葉使いが悪すぎよ。女性の嗜みを習いたくなったらいつでもいらっしゃいな」
「五月蝿えっ」
 顔を赤くして叫ぶ夏希。あやめは口に手を当てて笑った。
「なあ夏希」
 恭平が、缶ジュースを掲げて言った。
「まだ終りじゃねーが、とりあえず今日は……お疲れ」
「ああ、お疲れ」
 カツン、と缶がぶつかった。
「あー! そこだけなんだか良い雰囲気に!」
「ずるいですにゃー!」
 七海とロキナがWダイブ。
「うおぉ!?」
 押し倒される夏希。
「あらあら〜、元気だこと」
「私もまた混ざりに行こうかしら」
 彼女らを見て飛麗とシフォンがけらけらと笑う。
「う……うに……」
「凄ぇ、歳の数だけ詰め込まれてやがる」
 その後ろには、団子で頬を膨らませた俊哉と、それを覗き込んで苦笑している政。

 舞い上がる風に、桜の花弁が乗ってきた。
 それを夏希は片手で掴んで起き上がる。
 手を開いて花弁を見つめ、その後で皆の顔を見た。
「有難うな、皆。愛してるぞ」
「「こちらこそ」」
 誰かともなく、そう言った。


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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/04/07
得票数:楽しい26  カッコいい3  ハートフル7 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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