One of the Mass-Produced GAME


<オープニング>


 怒声。そして、何かを叩きつける音。
 ガシャンと無機質な音を立てて、キーボードが砕け散る。
「畜生、畜生!! どうしてなんだよ……!!」
 画面からはただ明かりが漏れる。無情なただ一つのメッセージ。
 言葉は飾り立てられているが。結論はただ一つのメッセージ。
 会社への不採用。ただそれだけ。
 息も荒く画面を見つめるが、結果は変わらない。
 男は疲れたようにその場にうずくまった。
 その時。
「貴方を。救いましょう」
 不意に、声が聞こえた。
「だ、誰だ!?」
 驚きの声と共に振り返れば、そこには修道女の姿をした女と、フードを被った謎の取り巻き。
「何だ、お前らは!? どうやって入ってきた!?」
 混乱から、矢継ぎ早に質問する男。それを意に介さず、修道女は彼の元へ顔を近づけ。
 ただ、微笑んだ。
 それだけで、男は口を噤む。
 彼女の美しさ? 否。確かに彼女は美しい部類に入るだろう。だが、それだけではない何かがそこにはあった。
「やはり、貴方は気付いていないのですね……自身の力に」
 朗々とした言葉に息を呑む。この部屋の主は確かに彼だったが、すでに場は彼女に支配されている。
「気付いてください、貴方の力に」
 彼女に名を与えるならば。
 それは、聖女の二つ名がふさわしい。
 男はそれを感ずる。きっと、彼女は自分を救いにきた聖女なのだと。
「その力の使い道は数多に」
 だが、続く言葉は聖女とかけ離れていた。
「一つ、貴方を認めなかった人への罰」
 ぞくりと、男の体が震える。
 罰? 誰に罰を与えるというのだろうか。
 後ろに少しだけ目をやれば、憎き光が漏れていた。
「使ってみたいと思いませんか? その力」
 唾を呑む音が嫌に響いた。怪しすぎる提案。どこかおかしい。
 それでも、そんなことを考える余地すらなく。
 彼はすでに頷いていた。
 一層、微笑む聖女。男はそれだけで十分だと思えてしまった。
「私の名は―――アリス」
 堕ちた聖女は、その名を明かす。
「どうか私にその力、お与えください」
 慈悲の仮面を被り、忠誠を強要する。
 それでも、彼はその『真実』に辿り着かない。
 それほどに―――彼女は聖女であった。

 聖女、アリス。
 高篠・紗希(高校生運命予報士・bn0217)はその名を呟き。
「彼女が現れました」
 そう、集まった能力者たちに告げた。
 何故と問えば、過去に聞き、できれば二度と聞きたくなかったであろうワードが返ってくる。
『ゲーム』と。
 去年の暮に起こった大事件の一つ。銀誓館学園からも幾人かの犠牲すら出した忌まわしい儀式。
 それが再び開かれようと言うらしい。
 そんなことは絶対に阻止しなければならない。
 急きたくなる気持ちを殺し、あるべき敵と場所を問う。老練な貴種ヴァンパイアと残留思念の呪いが張り巡らされたあの館のあるべき場所を。
 しかし、返ってくる答えは違っていた。
「敵は、つい最近アリスによって見出されて貴種ヴァンパイアとなった日本人です」
 すなわち、能力者になったばかり。
 場所の情報は。
「吸血鬼たちによる立ち退き事件があったことは記憶に新しいかと」
 場所は、そこの内の一つ。運命予報士の目からたまたま掻い潜られて、成立してしまった空き家。
 前回の時との大きな差異のある今回の儀式。
「聖女アリス。彼女の手腕は恐ろしいものです……」
 新たに見出されたゲームの手法。彼女はさらにその手順を極限まで効率化させた。場所の確保、素材の確保、それらすべてをマニュアル化したのだ。
 場所の確保は、すでに終わりの段階を迎えているようだ。
 後はゲームの本質のみを残して、それに適合する素材を選べばいい。そして、素材などは……意外と転がっていたものらしい。
「今回のゲーム、前回とは勝手が違うものと思ってください」
 前回の情報は割愛しますが、と紗希は続ける。
 今回の駒は、貴種ヴァンパイアが個人的に恨みを持つ人間。そして、貴種ヴァンパイアがこの駒を『時間を掛けてなぶり殺しにする』ことで儀式が完成するらしい。
「ただどうにも、この『時間を掛けてなぶり殺し』という点が今回の儀式の肝のようでして」
 一早く駆けつけて、その儀式が成立する前に貴種ヴァンパイアを倒してしまえば、儀式の阻止と同時に一般人を救出することまでできるだろう。
 しかし、そんなことは確実に見抜かれている。アリスも、いや『吸血鬼株式会社』も馬鹿ではない。
「吸血株式会社に属するサキュバスと妖獣の群れが護衛として、儀式実行中の空家への進路を阻むでしょう」
 すなわち、儀式の阻止にはサキュバスと妖獣の群れを蹴散らす必要があるらしい。
「それでは、敵戦力についてご説明します」
 サキュバス・ドールが1体。それに妖獣が6体。
 妖獣の内訳は、竜型が3でキメラ型が3となっている。
 竜型はかなりタフであることが最大の特徴だろうか。キメラ型は毒や麻痺といったこちらの状態を冒してくるような攻撃を多く持っているらしい。
 また貴種ヴァンパイアの家に向かう途中の道におり、その道はそれなりに狭い。横幅は3人並べる程度らしい。
 予測される敵配置は、竜型3体が最前面に。その後方にキメラ型、サキュバス・ドールがいる。
 そして、これらの敵を倒したら速やかに貴種ヴァンパイアのいる空家へと侵入してほしい。ただし、ここから先は間に合いさえすれば余裕だろう。
「貴種ヴァンパイアですが。まぁ、皆様の実力でしたらまったく問題ないかと」
 その状況になれば一人しかいないだろうし、まして数日前程度に能力者へとなった者だ。銀誓館学園の生徒の敵ではないだろう。
 ただし。原初の吸血鬼は、並外れた戦闘能力を持つ。それこそ、相当な数の能力者で相手しないと勝てないほどに。もちろん、この依頼に集まる程度の人数では太刀打ちできないだろう。
「ですから、もしものときは逃げてください」
 原初の吸血鬼が生まれたら。逃げるしかない。
 その情報を持ち帰った方がまだ有意義なのだ。
「非常に危険な任務ですが、どうかよろしくお願いします」
 最後に一礼し、紗希は能力者たちを見送った。

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参加者
霜月・神無(氷雪のカメリア・b04161)
渕埼・寅靖(人虎・b20320)
セオドア・エフェメローズ(鮮血の貴公子・b47033)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
八十神・静流(ひとかけらの奈落・b54471)
渡良瀬・戒杜(闇染の月光蝶・b57326)
フィーナ・レッドスプライト(最古のまじゅちゅし見習い・b61192)
未崎・風音(幻想と希望の描き手・b61522)



<リプレイ>

●舞台裏・始動
 さぁ、ゲームを始めましょう、と。聖女は呟く。昏き闇に堕ちた彼女は、それでも穏やかに微笑む。それが本質であるように。
 ただ、空を仰ぐ。そこには煌々とした星と月があるだけ。彼らは今宵のただ唯一の観客だ。暗闇に相応しい狂気の公演の。
 銀誓館学園と聖女アリスの策。どちらの力が上か。その結果は神のみぞ知る。

●舞台表・想い
「やはり、待ち伏せか……」
 塀を影にして、渕埼・寅靖(人虎・b20320)が覗き込むと、その先には常識を逸したモノの姿があった。
(「しかし、なかなか厄介な立地だ」)
 再び塀に身を隠し、思案する。目的の空家は一直線となった裏路地の先にある。
 彼の提案から、可能な限り横道を行くようにした。それでも彼我の距離はまだ10m以上ある。だが言い換えれば、そこまで詰めることができたとも言えるだろうか。直進ルートで行けば、格好の的にされかねていなかった。
 最小限の出血で最大限の結果を。こちらが来ることを聖女アリスは読んでいる。
「全くもって忌々しい限りですね」
 思わず霜月・神無(氷雪のカメリア・b04161)が心境をこぼす。まさか、こんな手法があるとは。
「出来たて貴種と生贄を使い、お手軽に原初を作りましょう、か」
 八十神・静流(ひとかけらの奈落・b54471)の表情が嫌悪に歪む。
 舞台の根源は、効率化。状況はそれを示唆していた。
「まるで事務作業みたいだね」
 セオドア・エフェメローズ(鮮血の貴公子・b47033)は己の種の在り方を思う。ヴァンパイア。誇り高き種族の一。聖女アリスは彼女の主に忠誠を誓っているのだろうか。これも忠誠の一つの形と言えば、そうなのかもしれない。どちらにせよ、彼女の考えは彼女にしか分からないだろう。
 ともあれ、これが二回目のゲーム。
「昨年は敵味方共に命懸けになりましたのに」
 去年の出来事を、未崎・風音(幻想と希望の描き手・b61522)は思い出す。彼女自身が参加したわけではない。だが、その結果の中には惨憺たるものも含まれていたと聞く。
「確かに今回は勝手が違うね」
 セオドアが答え、また同じく寅靖とフィーナ・レッドスプライト(最古のまじゅちゅし見習い・b61192)も頷いた。三人は今回のゲームが二度目だ。中でも今回の依頼に臨むにあたって、寅靖の想いは二人より強い。
 在りし過去の結果を振り返れば。これが奪われた命のための、せめてもの報いになるだろうから。
 前回の強大な敵に対して今回、相手はまだ戦力足りえない敵に、妖獣とサキュバス。今回はこちらの出血の方が大きいかもしれない。
 だが、だからと言って。見ぬふりはできない。
「原初の吸血鬼の大量生産なんて……何としても儀式を阻止しなくては」
 文月・風華(暁天の巫女・b50869)が決意を顕わにする。あちらにとって今は戦力にならなくとも、短期間で数十人の能力者に類する力を持つ者が現れるのだ。
 もし、彼らがその力をより善いことに使えば問題はないのかもしれない。だが、さすがにそう思うには楽観が過ぎる。
「能力者の力をくだらない復讐なんかに使うなんて」
 フィーナの言うように己の力を身勝手な復讐などという良からぬことに使うような相手だ。すでに、まともなはずがない。
「だから、人は好きじゃない」
 渡良瀬・戒杜(闇染の月光蝶・b57326)が露骨に嫌悪感を浮かべて吐き捨てる。
「ですが、正しい道を諭すことができるのもまた私たち人なのですよ……」
 風華がそう言えば、彼も沈黙する。そうなのかもしれないという気持ちと、人など信じられるかという思いがせめぎ合う。
 いや、今は良い。傍観するような自分がその懊悩を心の奥へしまう。迷いがあって全力を出すのは難しい。今は、原初の吸血鬼という存在の誕生を阻止することだけ考えれば良い。
 諭すことさえできれば。風華はそう言ったが、そう簡単にできるとは思えなかった。今回の事件の背後に見え隠れする影が、きっとその不安の正体で。
「聖女、アリス。きっと今回の真の敵は、アイツだ」
 呟いた寅靖が一歩を踏み出す。そして、一言。
 行こう、と。
 それだけで全員が同じく一歩を踏み出した。

●舞台表・死闘
 曲がり角から不意を突いて飛び出す。彼我の距離は一足で間合いに入れるか瀬戸際ほど。急な出現に妖獣たちは、その動きについていけていないかに見えた。
 それでも鈍重な竜型はまだしも、キメラはすでに臨戦態勢を取りかけていた。その間、コンマ一秒にも満たない。
 しかし、その瞬間より彼らの方が刹那は速い。
 周囲に糸が無尽に奔る。キメラはその場から素早く飛び退り、これを避ける。敵の運の良さもあったか。
 対して、竜型はそうも行かない。すでにキメラの間合いにも踏みこめていること確認した寅靖の土蜘蛛の檻に一体が捕らわれる。
 直後、竜の周囲へ茨が群生する。逃れようともがくも糸で動けなくなった一体を含めて計二体が絡め取られた。
 同時に竜へ七星の光が降り注ぐ。神無の茨の領域に合わせて、風音が己の妖力を解放する。二連続で逃れた竜の一体だったが、さすがにこれは避けられず。体が石へと化していく。
 かなり命中力に欠ける大技の連発。とは言え、竜型にとってこれは苦手な攻撃だったのか。さらに敵の動きが定まりきっていなかったためか、竜型三体ともの動きが完全に止まる。ぎりぎりと茨が締め上げ、石の呪いが竜の生命を蝕んでいく。
 そこへ。
「先手必勝!」
 風華の青龍の力を込めた拳が、糸に絡められた竜型を抉る。身を捻じるも的確な一撃が捉えた。
 静流と戒杜は逡巡する。
 路地から飛び出した瞬間は固まっているも同然であった。そして敵を掻き回しているが故に味方に怪我はない。ならば。
「今のうちに間合いを整えましょう」
 静流はまだ良いが、戒杜は使役の零に攻撃面は任せている。もしかすると、竜型の火炎弾一撃で致命傷になりかねない。
 戒杜は零が敵めがけて突進しているのを確認すると、静流の言葉に頷き、全力で間合いを遠ざける。
 刹那の間は終わる。完全に虚を突かれた形であっても、そんなことなどは関係ないとばかりに、キメラ型三体がすぐさま毒霧を撒き散らす。
 距離を取った二人以外が霧に包まれ、ほぼ全員が毒に侵される。
 合間にサキュバスが石化した竜へ祈りをささげるが、変化は無し。
「うぅっ、けほけほっ……鬱陶しい毒ですわね!」
 禍々しい霧の奥から一条の雷弾が飛ぶ。霧を薙ぎ払い、キメラを撃ち据えると轟音が轟いた。さしものキメラ型も攻撃が精一杯だったのか回避がままならず直撃。体をひきつらせ、硬直している。
「もう一発いかがかな?」
 さらにセオドアの手元からも魔雷が煌めく。同じキメラ型を完全に捉えた。
 眩い閃光が消える。
「さすがに強敵と言うわけか……」
 まだ、倒れない。並の妖獣なら一撃ではまだしも二撃目の直撃で完全に落ちるレベルだったはず。敵の強さを肌で感じる。
 だが、初撃の流れは完全にこちらが掴んでいた。
 竜型三体の動きは現状封じれている。
「兵は迅速を尊ぶ。早めに終わらせますよ」
 神無が手を掲げる。ビキビキと音を立てて巨大な植物が一瞬で生長すると巨大な槍を作った。そのまま勢いを付けて投げ落す。深い傷を負ったキメラは避けるもそれ以外は全員を捉えた。
 妖狐の本来の姿を隠すことなく耳と尻尾で妖力を制御した風音が、その九尾でキメラを次々に穿つ。
「あら、まだまだ行けましたのに。もう終わりですの?」
 二度目に至る頃、強力に類する妖獣であったろうキメラも、三度もの強力すぎる一撃を前に消滅。
「耐えてください、ね」
 毒が全員へ蔓延している状況を払拭するべく、戒杜が舞う。全員とまではいかないが、それでも毒と傷は癒える。
 セオドアは再び雷光をキメラへ飛ばす。身を翻し、直撃は避けたようだが空気の抵抗さえをも無視して迸る電流すべてから逃れることはできなかった。
「そこをどけっ!」
 寅靖が二刀の宝剣で竜を首元から切り裂く。
 一太刀目、浅い。いや、深いのかもしれないが、致命には至らない。二太刀目も刺さるが、これもまた竜を危機に脅かすほどではない。
 糸に縛られた竜と目が合う。ぷつりと、糸が切れた。さすがに、長くは持たなかったか。
 それでも、不退転の構えで意志を貫く。
 ゴゥと炎の塊が、寅靖を叩いた。丹田から組み上げた気を練り、宝剣に纏わせて受ける。
「ぐぅっ……!」
 炎を押さえ、半身ほどずらし直撃は避けた。それでも、じりじりと肌が焼け、地面に叩きつけられる。立て続けに三度も直撃すれば危ないか。
 秒の間もなく体を起こし、他の竜に目をやるとまだ大丈夫なようだ。
「さて……もっと激しくいきますよ〜」
 風華はわずかに距離を取って、虎紋覚醒で己の気を高める。
 しかし、それを待ってたと言わんばかりにキメラが強力な毒霧を一帯に散布する。力を解放していた風音と風華に特殊な猛毒が襲いかかる。
 思わず、膝をついた風華にもう一体のキメラが別の毒液を吐きかける。
「くぅっ……」
 べちゃりと全身に被る毒は、一気に風華の生命を奪っていく。
「不味いですね……」
 慈愛を以って、静流が舞うも風華の毒は消えなかった。
 せめてもの救いは、風音の毒だけは払えたことか。もとより強力すぎる毒だった。一度に二人がこの毒にかかったら、攻撃の手が緩み、一気に負の螺旋へ落ちかねていきかねないほどに。
 その状況を見て静流はぞっとする。
 あっという間に優位な状況が押し戻され始めていた。
 前衛がやや少ない。まだ余力ある寅靖も今は動けぬ二体の竜の攻撃を受けていたら、分からなかっただろう。
 もし。もしも初手と方針がしくじっていたら。強力な攻撃と猛毒で、前衛を瞬く間に抜かれて、撤退を余儀なくされていただろう。
「フィーナさん……!」
 戒杜の指示が飛ぶのと、彼女が己の役割を理解して前に飛び出すのは同時だった。
 びきりと音が鳴る。サキュバスの祈りで竜の石が割れ始めていた。風華と立ち位置を替えなければ不味い。体力はほぼ全快に近い。回復よりも、今は。
 石化の解けた竜へマントを翻す。ダメージは心もとない。気を引ければ、十分か。
 小さなフィーナの体をすっぽりと覆いかねないほどの顎が迫る。
「……つぅっ!」
 腕を一本の牙が貫通する。だが、箒で顎が完全に閉じるのを押さえこみ、死の空間から抜け出した。
「どうします?」
 神無が状況を問う。
「当初の予定通りで」
「あぁ、それが良い」
 風音の言葉に寅靖が同意すると、一斉に竜の動きを封じにかかる。
「すみません、一旦後退しますね」
 その間に、風華とフィーナは体勢を整える。キメラが毒を吐いてくるも、静流と戒杜の舞ですぐさま癒す。
 その間もセオドアは雷弾でキメラを絶え間なく攻撃し続ける。
 竜の一体が三人の攻撃を掻い潜り一撃を繰り出すが、寅靖は悠々と耐える。
 幾度か前に立つ寅靖、風華、フィーナが竜を攻撃する。倒れる気配はまったくないのが恐ろしいが、動きはほとんど封じ込めている。その間にじわりじわりと、残る全員でキメラを削っていく。
 作戦そのものに抜かりはない。竜をしっかり抑え、厄介なキメラから倒していく。キメラの強力な毒も、戒杜と静流の舞の前にすぐ無力化される。
 静流の慈愛の舞、それに風音の幻楼七星光が尽きる頃、何とかセオドアの雷の魔弾が一体まで減らしたキメラに止めを刺す。
 戒杜が時計を見れば、二分経つほどの時間。まだ竜は一体も倒れていない。
 何としてもここは押し通らねばなるまい。だが、全員の総火力を以ってして、ようやく傷つけていた一体を倒すに至る。
「こいつ、どれだけタフなんだ……!」
 セオドアが思わずこぼす。雷の魔弾は残り三発。他の仲間も技が尽きかけている。
「そろそろ、行った方が良いかな」
 戒杜が幾度かの攻防の後にそう呟く。そろそろ目的とした三分になる。
 体力の高い二人。ちょうど回復の終わったフィーナと、竜の火炎放射を回避したセオドアの二人か。
「ここは私たちに任せて先へ!」
 風華が叫び、竜へと蹴りを叩き込む。二人は頷くと先へ駆けだす。
 それを目にした竜がその口から炎を奔らせる。だが、直前で念動剣がねじ込まれ暴発。セオドアの傍で爆発するだけに終わる。
「あら、私たちの存在を無視されては困りますね」
 風音が不敵に笑みを浮かべ、竜へ対する。
「少しでも、万全に。必ず止めてきてください」
 神無が先の爆炎でわずかに火傷したセオドアを癒す。
 前へ駆ければ、その先をふさぐようにサキュバスが立つ。思わず歩みを止めかける二人の前へ影が奔る。紅蓮の炎が一刀の元に、サキュバスを断ちきった。
「約束、したんだ」
 今度は必ず止めると。
 振り返り、寅靖は竜へと視線を向ける。
「行ってくれ。ここは、俺たちだけで何とかする」
 その背はどこか大きく見えた。
「さぁ、行ってください!」
 静流の言葉が最後のひと押し。
 二人はさらに前へ駆ける。竜の咆哮と、六人の激闘の声を背に。
 
●舞台表・幕引き
「お前が……お前が、俺を落とさなければ、こんなことにはならなかったんだからな……」
 猿轡を噛まされ、椅子に縛りつけられた初老の男性の体の至る所から血が流れていた。
 男が最後に向けての一太刀を口元に突きたてようとレイピアを振りかぶる。
 もう少し。もう少し。いや、もっともっと痛めつけよう。
 恨みは次第に狂気へ変わる。
 口元から腹部へ。きっと痛いだろう。
 酷薄な笑みを浮かべ、そのままに振り下ろす。
「……?」
 振り下ろす。いや、振り下ろせない。
「ふぅ、間一髪ですわねっ」
「な、な……?」
 少女が剣の刃を指でつまんで止めている。それだけで動かなかった。
「どう? ワタクシみたいな小娘に止められちゃうなんて。どんな気持ち?」
 少女、フィーナが見下ろすように笑みを浮かべる。はるか年下の相手。だが、その威圧感は自分のそれより数段上だと一瞬で悟る。それでもわずかに残った歪んだプライドがそれを打ち消す。
「だ、誰だ、おま―――」
 その言葉を言い終わらないうちに、少年の拳が横殴りに男を叩きつけていた。
「狂気を恐れてきた僕に、自ら狂おうとする君は判らない。例え、同族であっても」
「あ、ぐ、うぁ……」
「だから。今はお終いにしてあげる」
 強力な雷が、男を穿つ。
 それで終わり。
 幕引きは実にあっけなかった。

「終わった……」
 貴種ヴァンパイアを止めた。後は。
 二人が、そう思った直後。
 竜の断末魔と思えるおぞましい遠吠えが聞こえてきた。


マスター:屍衰 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/08/04
得票数:楽しい1  カッコいい16  知的1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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