<リプレイ>
● ――どこまでも広がる白い雲の浮かぶ青い空と日の光にきらめく青い海。 照りつけるような強い日差しだが、海の匂いが運ぶ潮風のお陰で涼しくさえある――絵に描いたような夏の海がそこにあった。 「すごいな、もう陸地が見えないぞ!」 クルーザーの手すりから身を乗り出し、水着の上にフード付きパーカーを羽織った少女――ゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)がはしゃいだ声をあげる。初めて見る海は、とても大きく美しい――クルーザーの上を所狭しと歩き回るゲルヒルデに、綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)の声が届いた。 「みんな、バーバキューが焼けたよー」 「これは美味しそうだな」 悠斗の前、網の上に並ぶよく焼けた食材に星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)が笑みをこぼす。 牛肉から始まって玉ねぎやピーマン、とうもろこしといった様々な野菜から、悠斗お手製のスペアリブやカキやサザエといった新鮮な海産物が目の前に所狭しと並んでいた。目に鮮やかなだけではなく、焼けた食材の匂いが食欲を誘う。 そこに切り揃えた追加の食材を満面の笑みで阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)が運んできた。 「ふふふ、まだまだあるのじゃ」 「陸でやるのと違う気分になれるなー、これ。船の上でってのもなかなかいいな。あ、これ美味しい……」 六桐・匳(青藍月輪・b66454)もスペアリブを一口味わって口元を綻ばせる。事前の仕込を頑張った悠斗もその感想に嬉しそうに笑みをこぼした。 「何かタレとかあるかな?」 「はい、ありますよ」 「僕のお薦めはこれですよ! 秘伝のタレ!」 優輝の問いかけにいくつかのタレを指し示そうとした白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)に、九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)がグイ、とタレを差し出した。それに優輝は「ありがとう」と礼を返す。 「私も、それをいただいてみていいですか?」 「どうぞどうぞ」 「んぐっ!?」 友紀も宿禰から秘伝のタレを受け取り――いきなり隣であがった呻き声に目を丸くした。 「ど、どうしました!? 星野くん」 「か、から、い……何だ、これ」 「特製の激辛タレですよ」 辛い、と言うよりも舌が痛い。その刺激にむせる優輝に宿禰が胸を張って答えた。友紀はそんな優輝に苦笑しながら、水を手渡す。 「これからの戦いに備えて食事は大事です」 「警戒せず楽しむ、か……一種、無の境地ですねぇ」 焼きトウモロコシを美味しそうに齧りながら言うキング・シュライバー(お菓子好き人狼・b65723)にしみじみと高遠・深哲(予言・b00053)が呟いた。 深哲と悠斗は事前に近海で起こっているという行方不明事件についての情報収集は行っていたが、結局今回の幽霊船との詳しい関係性は見出せなかった。だからこそ、深哲の警戒心は根深い。 「高遠様、今はクルージングを楽しんで思いっきり油断してあげましょう」 「ええ、そうですね……」 艶やかに微笑みそう語る白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)に深哲は苦笑した。深哲の服装はTシャツに七分丈パンツという軽装だが、水着は水遊びの予定を装うため程度で荷物の中に入れてはいても出してもいない。 「太陽の下で食べるバーベキューは上手いよな〜」 「この、サザエはどう食べるのだ?」 「それはですね……」 心の底からバーベキューを楽しんでいる仲間達の姿に、深哲は苦笑を濃くする。あれも一つの境地ですね、と深哲はどこか諦め顔でこぼした。 「僕はデッキチェアで昼寝するとしましょう……起きていては警戒しかねません」 その生真面目な言葉に、仲間達が顔を見合わせ――同時に吹き出した。 ● バーベキューを終えた後、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。 昼をいくらか過ぎても夏の日差しは一行として弱まらない。海では陸地と違い影が出来るような要因は雲ぐらいなものだが、その雲も今は見受けられない。 「たまに釣りをしているが、九州での釣りは初めてだな」 「上手く釣れっかなぁ……」 優輝が手慣れた仕種でルアー釣りをしている横で、飴を舐めつつ匳が釣り糸を垂らしている。それを眺めながら、友紀と宿禰がクッキーを摘みながら談笑していた。 ――ちなみに、その飴やクッキーはキングの持ち込んだお菓子である。 「ぜひこの機会にお菓子の素晴らしさに目覚めるべきです!」 キリッ、とキングはそんな事を言っていた。かなりの量のお菓子を持ち込んでるらしく、他の仲間達にもお裾分けしていた。 「これで、かいがいしく世話してくれる、執事かいもうとがいれば完璧ね♪」 デッキチェアの上で白いセパレートの水着に包まれた体を横たえ、ジュースを飲みながら琴音がのんびりとこぼす。その隣では深哲が静かに目を閉じて微睡を楽しんでいたが――その眠りが、不意の声で破られた。 「あ、あれ!?」 異変に最初に気付いたのは、飽きもせず海を眺めていたゲルヒルデだ。どこまでも広がる海しかなかったその光景に、ユラリと揺れる一つの黒い染み――いや、一隻の船影が姿を現したのだ。 「あれか……!」 バーベキューの後片付けを終えた悠斗は、身を乗り出し目を凝らすとその船の姿を確認した。 船首に飾られた波飛沫を思わせる髪と髭を持つ老人の船首像。四本のマストに張られた風にたなびく帆。見事な三層ほどの船尾楼甲板。そして、左舷と右舷に見えるいくつものオール――事前に調べておいた悠斗の目から見れば、その節操の無さはすぐに見て取れた。 「オールがあるのに、船の形状はガレオン船なんだね……でたらめだな。船の外観からだと年代特定は難しいな」 「むぅ、これから日光浴しようと思ったんじゃが」 サンオイルをテーブルの上に置いて、ビキニ水着の上にパーカーを着込みながら残念そうに読魅が眉根を寄せる。そうする間にも周囲には霧が立ちこみ始め、幽霊船は波を掻き分け彼等の乗るクルーザーへと接近していた。 「準備はいいですか?」 「ええ、大丈夫ですわ」 年下の女性陣を背後に守るようにして友紀が小声で問い掛け、それに琴音がしっかりと荷物を確保する。そして、他の仲間達も無言でうなずき――ついに、幽霊船との接触を果たした。
● ダダダダダンッ! と横付けされた幽霊船からクルーザーの甲板にいくつもの人影が降り立った。 薄汚れたバンダナにシャツ、汚らしいズボン無骨なブーツ。そして、手には斧やカトラスなどの思い思いの武器を持つ――絵に描いたような海賊達だ。 「な、何だこいつら……?」 腰を抜かした演技をしつつ匳が、近場にいた海賊の一人を見上げた。その右の頬にヒトデをめり込ませた顔の半分が腐敗したリビングデッドを、匳は怯えた演技のまま冷静に観察する。 (「さて、一体何モンやらな……」) 「貴様ら、一体何者だ!」 その匳の内心を代弁するようにゲルヒルデが言えば、海賊リビングデッドの一体がそのカトラスの切っ先をゲルヒルデの喉元へと突きつけた。 『見てわからねえか? お嬢ちゃん――俺達は、海賊さ』 「……ッ」 それにゲルヒルデが怯える演技をして息を飲んで友紀の背中に隠れる。友紀がゲルヒルデを庇う様にすれば、海賊リビングデッド達が腹を抱えて爆笑する。 『笑いすぎだろ、片目が落ちたぞ? お前』 『ああ、ピンポン球でも詰めとくか』 『そこは義眼って言っとけよ、締まらねぇ』 ケタケタ笑い合う海賊リビングデッドへ宿禰が怯えたように問い掛けた。 「も、目的は何ですか…?」 『海賊の目的って言ったら、アレだ。悪い事って、相場が決まっている』 宿禰へ海賊リビングデッドの内の一体が、殊更斧を見せ付けるように肩に担ぎ吐き捨てる。 『いいか? お前等には二つの選択肢がある。生きてその足であの船に連れ込まれるか、今ここで殺されてオレ達の手であの船に担ぎこまれるか、だ――優しいだろう? 選ばせてやるよ』 (「……この海賊達、行方不明になった者のなれの果てではないよな?」) ゲルヒルデが、表情は演技したまま内心で眉をひそめた。 どうやら、海賊リビングデッドは見る限り全員が日本人のようだ。その海賊の格好も日本人体型の彼等では、どこか仮装をしているような違和感がある――ありていに言ってしまえば、似合っていない。 『さあ、どうする? こっちは、どっちでもいいんだぜ?』 「お願いですから乱暴しないで下さい……」 「抵抗しないから、なにもしないで」 バックを抱きしめながらキングと琴音がそういえば、海賊リビングデッド達が低い笑みをこぼした。それを見た深哲が、海賊リビングデッドの武器へと目をやりつつ静かに言う。 「……此処は大人しく従いましょう」 『ふふん、なかなかにお利口だ』 満足げに一体の海賊リビングデッドが言い捨て、その右手を上げた。すると、幽霊船の甲板より一枚の板がクルーザーへと渡される。 『では、十人様――優雅な海賊クルージングへご案内だ』
● (「うまくいったのじゃ」) うまく連行されたのじゃ、と幽霊船の甲板へと降り立った読魅が心の中で喝采を叫んだ。 こちらを一般人だと思っているからか、海賊リビングデッドは能力者達を拘束する事も無ければ、荷物を確認する事さえしない。その態度を見れば、こちらがどんな抵抗をしたとしても簡単に対応できる、という余裕が滲み出ていた。 (「メガリス『さまよえる舵輪』と『竜宮の玉手箱』が関与している可能性があるのじゃ……」) 読魅はそう思い、チラリと舵輪を探して確認のために船首付近へと視線を向ける。だが、そこには思い描いたものはない。ただ、船首へと飾られた老人の船首像があるぐらいだ。 『何をやっている! さっさと歩け!!』 「あうっ」 「大丈夫か?」 それを見た海賊リビングデッドに乱暴に押され、読魅がよろめく。それを優輝が抱き止めた。 甲板の上には、二十体近い海賊姿のリビングデッドが一箇所に集められた能力者達を品定めするように囲んでいる。 (「かなりの数ですわね」) その数の多さに内心で緊張を高めながら、怯えた演技で琴音が問い掛けた。 「ねぇ、あなたたちなんなの、私たちをどうするつもりなの?」 『それを決める方が、これから来られる――我等の船長がな』 「――――」 顎で船尾楼甲板の扉を指し示す海賊リビングデッドの言葉に、周囲を伺っていた匳が目を細める。そして、他の能力者達も小さく息を飲んだ。
――幽霊船への進入には成功した。 しかし、この幽霊船の謎はまだ一つとして解けてはいない。これからが本番なのだと、能力者達はその感覚を総動員してその扉が開くのを待った……。
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参加者:10人
作成日:2010/08/05
得票数:楽しい27
カッコいい1
知的21
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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