<リプレイ>
●妙な笑いの地縛霊と、妙な因縁の能力者 『かっかっか!』 『ほっほっほ!』 「……珍妙な地縛霊だな」 満面の笑みを浮かべて迫ってくる老若二人の地縛霊に、水吏・鴇(刻と想いと生を紡ぐ・b74952)が冷静に呟く。 「なんだか変な剣士だなぁ。てか、スポーツ剣士は明らかにバッターだよね。うん」 『かぁーっつ!』 鷲見崎・静琉(闇夜に舞う鷹・b73522)が言う目の前で、スポーツ剣士は元気に素振り。 「剣技にも様々な流派があるが、こんな流派は聞いたこともないな」 「随分ユニークな剣を使うな……ゴーストでもなけりゃあお互いいい酒でも……と、酒は無理か」 敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)とケインビー・ラグーネリア(中学生黒燐蟲使い・b71918)が、興味深げにそれを眺める。 「やれやれ、まさかこんなところで……でも、私達を引き込んだのが運の尽きですよ!」 シュ、と小さく音を立て、御崎・清音(夜を翔る蒼き月の翼・b51187)がヨーヨーを手に駆け出そうとした、瞬間。 「駄目よ! じいさんが相手なんて萌えないから!」 「え?」 思わずこけそうになる清音。 見れば、隣で緋上・花恋(アルテミスの幻影・b74280)が爛々と目を輝かせているではないか。 実はスポーツ剣士が素振りなんかしている横で、 (「あのスポーツ剣士、美青年だなぁ……。ハッ、もしかして、じいさんと恋人同士!?」) なんて考えていた花恋なのである。 「せめて相手は美青年か美少年にして!?」 「それもう違う話になってるッス!」 思わずびしりと突っ込みを入れる防人・一(極彩色のクマ頭・b72098)。 それを横目に眺めながら、ヴィントミューレ・シュトゥルム(ジーザスシュラウド・b22548)が油断なく箒を握る。 「二人とも、まるで剣で遊んでいるようにも見えるわね。とはいえ、こちらものんびりしているわけにもいかないわ」 「珍妙な地縛霊だな。めんどくせぇ、さっさとやっちまおうぜ?」 軽い口調の水吏・鴇(刻と想いと生を紡ぐ・b74952)に頷いて、ヴィントミューレは声を張り上げる。 「いい? 行くわよ、陣形を作って!」 応、と一同が応え、武器を手に走り出す。 「例え天が見逃しても俺たちが見逃さねぇ! 平和は乱すが正義は守るものっ! チームロハス参上! てめぇらの戦いもそこまでだっ」 二振りの長剣を手に、ニヤリと笑う秀都。 その隣でケインビーが、すらりと剣を抜く。 「名乗りぐらい上げ合いてえけど……その暇もなさそうだ」 シュ、と一度、剣を薙いで。 「――喰うぜ」 その隣を、一がすっと駆け抜けていく。 「ここで汚名返上、名誉挽回ッス!」 そして静琉が、両手の日本刀をかざして笑みを浮かべる。 「隠し芸と言った手前あれだけど、あれって居合いとかだよね。そうすると達人か……強い剣士と戦えそうでわくわくするな」 花恋がその後ろで、強く、拳を握った。 「あたしが、あのスポーツ剣士さんを改心させてみせる!」 「「「いや違うだろー!!」」」
●時限超越と運動剣技 「秀都君、鴇君、頑張って持ちこたえてくださいね!」 「そっちは任せたよ!」 「おう、時限剣士は任せた!」 剣を挙げて応える秀都と鴇に頷いて、清音はじいさん地縛霊――時限剣士へと走る。その瞳に、計算式が超高速で流れていく。 『かっかっか! まずは一つを……』 青年地縛霊――スポーツ剣士が、俊敏な動きで秀都に近づき、剣を振り上げる。 『二つに!』 「うおっ!」 バッティングの軌道を描いた剣が、秀都の腹で鈍い音を立てる。 「その構え、野球のバットスウィングと見るが、この俺の速球打てるかな?」 すぐさま立ち直った秀都が、ピッチングの構えに入る。 「見よ、時速100マイル!」 鋭く投げられるボールは――思いっきり明後日の方向へ! 「……おいおい、スポーツと戦闘を一緒にすんなよな。大人しくグラウンドで遊んでろっつーの……スポーツマン気取るんなら、スポーツマンシップに則って、人を傷つけるなんざやめて欲しいもんだなー……」 ふぅ、と溜め息をついた鴇が、悪夢爆弾を投げつける。けれどそれは、かっかと笑うスポーツ剣士を寝かせるには至らない。 「仲間は簡単にやらせねえ。……傭兵団時代の団長の務めを俺がやるのかよ……やれやれだ」 思い出に心を走らせたのかふっと笑みを浮かべ、そのまま気合を高めていくケインビー。その頬に、体に、虎の紋が浮かび上がる。 「さあ、おじいちゃん、お手合わせをお願いするよ!」 頭上で刀を旋回させながら、静琉が時限剣士のもとへと走る。 「大丈夫、私達は勝つわよ」 そう仲間達を励ましながら、ヴィントミューレが箒を振って雷の魔弾を迸らせる。 そこに生まれた隙に、一が飛び込んだ。 「欝だ……お前も欝になってしまえ……」 さきほどとは打って変わったローテンションと共に、繰り出される炎の一撃。 これが、彼の戦闘時の通常運行である。 『ほっほっほ、若いもんはいいのう』 時限剣士がほっこりと笑い――刀を、ゆっくりと振り下ろした。 数秒。 一の肩が鋭く斬れ、鮮血がしぶく。 「わ、本当に時間差で切れてる!?」 花恋が眼を丸くしながら、急いで一に祖霊の加護を呼ぶ。 「なるべく囲むようにしてください! 多少は被害が減るはずです!」 清音が仲間達に呼びかけながら、数式をまとった拳を振りかぶる。 「もしかして……実戦の経験、ないんじゃないですか?」 時限剣士の横顔に拳を叩き込みながら、ネチネチつつく。 動揺でもしてくれれば、もうけものであるが。 『若いもんはどうでもいいところにこだわるのう』 「どうでもいいんですか!?」 思わずツッコミを入れてしまう清音。 『かーっかっかっか! はぁぁ、撞球剣!』 スポーツ剣士が左手で囲いを作り、剣をその間から突きつける。 そう、それは、まるで――、 「ビリヤード!?」 『たぁーっ!』 直線状に衝撃が走り、能力者達の体を弾く。 「くっ……ならば、この球ならどーだ」 「何だ秀都、スポーツにはスポーツで勝負ってか?」 秀都の言葉に笑みを浮かべた鴇が、スポーツ剣士へと目を走らせながら、ピッチャーに出すサインを送る。 『ぐおっ!』 スポーツ剣士がのけぞる。何せ呪いの魔眼つきである。 ちなみにサインの方は見よう見まね。 「魔球メジャーボール1号ーっ!」 投球ポーズから放たれたのは、ボールではなくジェットウィンド! 『のおおおっ!』 スポーツ剣士の体が、ふわりと宙に浮かび上がる。 「随分のんびりしてるがいいのかい? 戦いは数だ、そして自分達には作戦というものがある」 そう言い放ち、挨拶代わりとばかりにケインビーが時限剣士へと魔眼を放つ。 「欝だ……どうせ自分なんか……」 膝を抱えそうな様子でぶつぶつと呟きながら、一が呪いのこもった魔眼を向ける。 『ほっほっほ、若いもんは自分を大切にせんからのう』 魔眼が十分に効いていながら、それでも笑みを浮かべる時限剣士。 剣を一閃。数秒開けて、視界にいた者達の体がざくりと切れた。傷痕が、徐々に深くなる。 「回復は、攻撃より回復が好きな回復魔のあたしに任せておいて!」 すぐさま花恋が、深くなる傷を消し去ろうと、くるりと回って舞い始める。 「ほらほら、相手はあたしだよ!」 少しでも時限剣士をひきつけようと、その視界を遮るように、静琉が黒く染まった剣を振り下ろす。 「凄いとは思いますが、まるで大道芸のような技ですし……」 やはりちくちく刺さる言葉を囁きながら、清音が再び数列を乗せた拳を振り下ろす。 『ふぉっふぉっふぉ……物事はゆっくりのんびりじゃ〜』 時限剣士が清音の言葉を撥ね退けながら、すい、と刀を横に滑らせる。 「くっ!」 突然開いた傷口を押さえようとし……マヒした体に顔を歪めたのは、秀都! 『私こそがテニスの――庭球剣!』 さらにツイストサーブの構えで打ち込まれた剣が、秀都の体を切り裂く! 「敷島九十九さん、大丈夫!?」 慌てて花恋が舞を繰り広げる。 「このままやらせはしないわ、雷よ!」 サポートを主としていたヴィントミューレが、すかさず雷の魔弾を放つ。追撃を放とうとしていたスポーツ剣士が、雷に包まれて動きを止めた。 「本能のままに切るだけしか能がないアンタ達とは次元が違う」 そう言いながら、その花恋にケインビーが黒燐奏甲を送り傷を癒す。 「欝だ……自分のせいでこんなことになるなんて……」 そもそもの原因となった自分の呟きを悔いながら、一が時限剣士を炎をまとった拳で殴りつける。静琉が両手で日本刀を構え、一直線に斬り下ろす。 「まったく……」 鴇がぼやきながら、さらに呪いの魔眼をスポーツ剣士に向けた。 『ほっほっほ、若いもんは性急でのう……』 にこりと笑った時限剣士が、花恋に向けて剣を軽く振るう。 「きゃっ!」 真っ赤に頬を染め、胸元を慌てて押さえた花恋の手がそのまま固まり――花恋は、そのままにこりと笑みを浮かべた。 「そうだったね、時限剣士さんは男の人にしか興味ないから、照れる必要なかったね♪」 「いや違うだろ!?」 慌てて突っ込みを入れた鴇の胸に、スポーツ剣士の撞球剣が炸裂! 「悪ぃ、回復頼むわ……」 そう力なく呟いた鴇の声に答え、何とかマヒから回復した秀都が、「任せとけ!」と浄化の風を吹かせる。 「ぅぅ、隠しながらだと……踊りにくい……」 さらにマヒから回復した花恋が、胸元を隠しながらくるりと舞って。 「わずかなチャンスを効率よく攻撃してこそ勝機は生まれるのよ!」 ヴィントミューレがピンチの中にも隙を伺いながら――やがて意を決して、雷の魔弾を放つ! 「この一撃で……たぁっ!」 同時に素早く清音がデモンストランダムを放つ。綺麗に刀に当たった拳が、刀を折って尚も時限剣士へと迫る。 「欝だ……欝だ欝だ!」 一の双斧が炎を吹き出し、時限剣士の頭に両側から斬りつける! 「あたしの全身全霊のこの一撃、受けてみよ!」 静琉が刀に獣のオーラをまとわせ、交差させるように左右から薙ぐ! 「敵はゴーストだろうが元々は人間だ……師匠直伝の人体解活は、魔眼による人体急所狙撃にも役立つ事を見せてやるぜ!」 ケインビーの視線が、急所を走る。呪いの魔眼が急所を穿つ。 『わ……若さ、じゃのう……』 そう一言羨ましげに呟き、時限剣士は消えていった。
「やっほー! 敷島九十九式さん、助けに来たよー♪」 花恋がウィンク、同時に土蜘蛛の祖霊が、秀都の傷を癒し力を貸す。 「お待たせしました!」 すぐさまスポーツ剣士のもとに走りこんだ清音が、その勢いのまま計算式と拳を叩きつける。 「さぁ、悪いけどあなたの出番はこれで終わりよ」 ヴィントミューレが雷を手の中で奔らせる。そのまま魔弾となったそれが、スポーツ剣士の側頭を穿つ。 「頼むぜ秀都……俺たちを勝利へ導いてくれ。エイトの絆、見せてやろうぜ……!」 鴇が呪いの魔眼を、スポーツ剣士へと投げかける。 「お待たせ! 秀都、行くぞ!」 静琉が獣の力を再び解き放ち、日本刀にそれを乗せた。鋭く、十字を描くように斬り付ける。 「さぁ、いよいよ最終魔球を見せる時だっ!」 秀都が、ボールを持ったかのように腕を振りかぶった。 それは、まるで九回裏、2−3の最終投球の如く。 「俺の正義が真っ赤に燃えるっ、お前を討ち取れとド派手に吠えるっ。くらえっ、必殺! 満塁サヨナラポーク!」 風が、吹き荒れる。 その風を乗せて、秀都は長剣を突き出した。 『ごおおおおっ!』 地縛霊が、吠える。 『お、見事……斬り落とす暇も、なかったでござる』 そう、にっこり微笑んで。 地縛霊は、消えていった。
●さよなら奇妙な残留思念 地縛霊が消えた瞬間、能力者達は元の場所へと戻っていた。 「何とか勝ったか。主人公は負けちゃいけねーんだよな。悪ぃな」 鴇がそう言って、地縛霊達を悼むかのように手を合わせる。 「何もないが手向けに鎮魂歌でも……」 俺の音痴な歌を聴け、と歌いかけた秀都は、ヴィントミューレの手によってあえなく止められた。 「それにしても、世の中にはいろいろな剣術が存在するのね。自身で編み出した独自の技、それが様々な流派を生むのかしら」 秀都の口をふさいだまま、感慨深げにヴィントミューレが、地縛霊の消えた辺りを眺める。 「……破壊のための武侠なんざ認めるか」 ケインビーの小さな呟きは、美術館の天井へと小さく反響して消えた。 「この二人の剣士って関連性なさそうだけど、親子だったのかなぁ?」 静琉が首を傾げて、地縛霊の由来へと思いを馳せる。 ふと、男子勢の視線が――一箇所へと集まった。 「ふぅ……終わったね。うん、どうしたの?」 きょろきょろと辺りを見回した花恋が、自分の見事に切れた胸元に気づく。 「え、えっと……着替えてくるね!」 慌てて駆け出し、物陰でイグニッション解除。万事解決である。 「つ、次は鎧の展示コーナーッス!」 慌てて空気を繕うかのように、一が戦闘中とは打って変わったハイテンションな声を上げる。 「そこにも怪談があるらしいんスけど、その怪談っていうのが……」 「もういい!」 思わず一を止める仲間達。 「まだまだ展示物はありますし……あまり迂闊な事を言うと、また地縛霊に引き込まれるかもしれませんよ〜」 いたずらっぽく笑みを浮かべて、清音がそんな仲間達を煽る。 和やかに、賑やかに能力者達が歩いていく、その最後尾で。 「……ん、こんなところにボールが」 ひょいと鴇が、転がっていたボールを拾い上げる。 「野球やりたくなってきたな、ここ出たらちょいと投げてくか」 そう呟いて、ボールを懐に入れ、歩き出す。 残された二振りの日本刀は――どことなく、満足しているようにも見えた。
|
|
参加者:8人
作成日:2010/10/05
得票数:楽しい8
笑える2
カッコいい1
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |