大海原より来たるモノ


<オープニング>


 学園祭も終わり、銀誓館学園も夏休みの季節となりました。
 夏休みは、海にプールにカキ氷、そして夏休みの宿題や自由研究など、やる事がたくさんあります。
 しかし、忘れてはならないのは、学校行事の臨海学校でしょう。
 銀誓館学園では、長崎県の白浜キャンプ場で、8月18日〜20日の3日間、臨海学校が行われます。
 臨海学校の3日目には、ハウステンボス見学も予定されているようです。
 この臨海学校で、普段の授業では得られない様々な体験を楽しんでみましょう。
 なお、臨海学校が行われる長崎県の海岸では、最近、幽霊船の噂が飛び交っているようです。

「今年の臨海学校は長崎のキャンプ場で行われるわ」
 と、この暑さにも関わらず白衣姿の柳瀬・莉緒(中学生運命予報士・bn0025)。
「ただし、今回の臨海学校も一筋縄ではいかないみたい。お盆過ぎの8月19日、長崎沖の海上で『海の残留思念が一斉にゴースト化する』事件が起きるわ」
 長崎沖は吸血鬼艦隊と影の城が沈んだ場所でもあり、何かの関連があるかもしれないが、ともかく今はこのゴーストを迎撃する必要があると莉緒は言う。
「この海のゴーストは『幽霊船の形を取り、その上に、船員の地縛霊やリビングデッド』が乗って陸へ向かってくるみたいね」
 地縛霊は『海難事故で死亡した漁師や船長』の様な姿をしており、彼らが海外からの不法入国者のリビングデッドを船に乗せている様だ。
 幽霊船自体には攻撃力は無く、乗っている地縛霊とリビングデッドを倒せば楽に倒す事が出来るだろう。
「あまり沖で戦うと、倒した後で泳いで戻るのが難しくなるから、ある程度陸に近づいてから撃破するのが良いかもね」

 さて、その幽霊船だが、船長地縛霊が1体。不法入国者のリビングデッドが10体という編成の様だ。
「船長は船長風で、力と俊敏な動きを兼ね合わせ、左腕のフックと水中銃を使いこなす手強い相手よ。リビングデッドの方は、さほど戦闘能力は高くないけれど、数が多い点が厄介ね」
「泳ぐだけでも疲れるのに、その上戦闘とはハードですぅ」
 やれやれと肩を竦める志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)。
「まぁ、ボート等を使う手もあるけど……泳ぐ覚悟はしておいた方が良いわね」
 幽霊船に乗り込んでしまえば、足場も広さも戦うには十分だろう。戦力的に見れば能力者達の有利は間違い無い。きっちり討ち果たし、上陸を阻止したい所だ。
 また幽霊船自体は、先述の通り乗組員達を退治してしまえば後は一方的に攻撃し退治出来る。

「今回の事件の背後には、吸血鬼株式会社の存在があるみたい……リビングデッド化されたボートピープルを日本に連れてきたのも、吸血鬼株式会社の手配であったようだし、事件の場所が長崎であるのも、何か意味があるんじゃないかしら」
 彼らが何を企んでいるにせよ、能力者達の手で阻止してしまえば良い話でもある。
「厄介事はきっちり終わらせて、臨海学校を楽しまなきゃよね!」
 そう言うと、莉緒は能力者達を送り出すのだった。

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参加者
要・耕治(涵蓄淵邃の徒・b00625)
真田・幸奈(お茶目な言霊使い・b20804)
野村・さやか(ミュージックイズマイライフ・b27031)
チヒロ・フェイタルシアーズ(アステリズム・b56018)
緒方・凪(ホワイトライズ・b57126)
敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)
西澤・華那(トランクィライザー・b61219)
アカネ・テト(風と羅針盤・b74635)
NPC:志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)




<リプレイ>

●いざ出航
 今年もやってきた臨海学校の季節。
 その遠泳の最中に、こっそりと授業を抜け出す者たちがいた。
「ったく、臨海学校に来てまでゴースト退治は勘弁してくれ。つーか、あれか? これが試練というもんか?」
 正義の為には労を厭わない敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)だが、せっかくの臨海学校を中断されるのはぞっとしない様子。
「ようし、ならば修行相手になってもらおうじゃないかっ。俺の正義に燃える新必殺技、受けてもらうぜっ」
 それでも、すぐさま気持ちを入れ替えるのは忘れない。
「この学校は海にまつわるゴースト退治のついでに臨海学校をやるという噂はかねがね聞いていましたけど、本当だったんですね……」
 遠く水平線を見遣るのは西澤・華那(トランクィライザー・b61219)。
「この時期の臨海学校。そして、ゴースト退治は」
 すっかり恒例行事という認識は、なにも緒方・凪(ホワイトライズ・b57126)に限ったことではなさそうだ。
「船上戦は未経験……この機会に確りとデータを取っておかないとね……」
 潮の流れ等、細かな調査もぬかりない要・耕治(涵蓄淵邃の徒・b00625)。こうした状況での戦いはレアである為、データ収集の用意も万全の様子。
「沈んだままの影の城と、何か関係があるのでしょうか。原因が何にしろ、ゴーストさんは退治しちゃわないといけませんのね」
 少し思案しかけつつ、目の前の敵に意識を戻す真田・幸奈(お茶目な言霊使い・b20804)。
「死せる船と乗組員には在るべき場所にお還り頂きましょう。もうこの世の何処にも、彼らを受け入れる港はないのですから」
 守るべきものを守るため、覚悟を新たにするアカネ・テト(風と羅針盤・b74635)。
「ちゃちゃっと退治しちゃって思いっきり泳がなくちゃ♪」
 泳ぐ事が大好きな野村・さやか(ミュージックイズマイライフ・b27031)にとって、ここ長崎の海で泳ぐ時間は貴重なもの。ゴーストと戯れて過ごすには惜しい。
「勿論、臨海学校も楽しまないと……ね? 行きましょ、リザ」
 頷いたチヒロ・フェイタルシアーズ(アステリズム・b56018)はパートナーのサキュバスドール、リザと共にボートへ乗り込み、一同もそれに続く。
「いざ出航ですぅ」
 志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)を含む9人の能力者を乗せたボートは、砂浜を離れ標的であるゴーストシップへと向かうのだった。

●幽霊船のもてなし
「ひぃふぅ……せめてモーターボートなら楽だったのにぃ」
「さぁ、涼子さん。砂浜できゃっきゃっうふふするために頑張りましょうですの! 因みに、幸奈はきゃっきゃっうふふする相手がおりませんけれど」
 オールをやる気なさげに動かす涼子のぼやきと、対照的にハイテンションで励ます幸奈。
「おい、見ろよっ」
 水平線の彼方にぼんやりと見え始めたのは、一隻の船。
 破れた帆と折れかけたマスト、いかにも幽霊船と言った様子で、見る見るうちに接近してくる。
「よし、乗り込もう」
 ロープ片手に立ち上がる凪。カウボーイよろしく頭上で数回転させると、幽霊船へ引っ掛ける。
 手繰り寄せるようにしてゴムボートを幽霊船に横付けすれば、9人は一斉に乗り込んでゆく。

「例え天が見逃しても不法入国は見逃さねぇ! 平和は乱すが正義は守るものっ、敷島九十九式・秀都参上! てめぇらの悪事もここまでだっ」
 高らかに名乗りを上げる秀都。
「なかなか勇ましいお客さんじゃねぇか……我が船は乗船希望者を拒まない、ただし……死人に限るがな!」
 船上に展開した能力者達の前には、10余名のゴースト船員。ボス格である船長が高らかに来客を出迎えた。
「今回の幸奈はいつもより気合い入ってますの!」
 前に進み出て、霧影分身術を用いる幸奈。
「さぁ、始めましょうか……せっかくの臨海学校の邪魔をする船幽霊退治を……」
「悪いケド……この先へ行かせるワケにはいかないの。貴方達の船旅もココまで、よ」
 リフレクトコアを展開しつつ言い放つ華那とチヒロ。
「がっはっは! 中々面白い事を言うお嬢ちゃん達だ。野郎ども、パーティの始まりだ!」
「「おーっ!!」」
 気勢を上げて押し寄せるリビングデッド達。
「船上パーティって言うなら、豪華な料理のひとつも出しやがれですぅ」
 虎紋覚醒を発動しつつ、敵前で身構える涼子。
「薙ぎ払え――!」
「いきます」
「ターゲットを肉眼で確認。サンダージャベリンの射出準備開始……」
 凪、アカネ、耕治、それぞれ手に輝くのは紫電の槍。
 投じられたそれは甲板に突き刺さるなり膨大なエネルギーを解き放ち、荒れ狂う電撃が辺り一面を駆け巡る。
「いくぜっ」
 苛烈な電撃により敵陣形が崩れたのを見て取るや、秀都は亀鶏兎鮫を振るいながら船長目掛けて一気に間合いを詰める。
「野郎ども! 根性見せろ!」
 ――バシュッ!
 しかし敵もさるもの、船長は自らの腕の様に軽々と水中銃を操り、秀都目掛けて引き金を引く。
「っ……」
 辛うじてこれを回避した秀都だが、矢は僅かに肩口を掠める。
「「おおーっ!!」」
 そして船長の激励に勢いづいたリビングデッドらは、一斉に能力者たちへ襲い掛かった。
 素手や木材等、原始的な攻撃方法ではあるものの、如何せん数に物を言わせて押し寄せるものだから、前衛の能力者たちもジワジワと体力を削られる事は避けられない。
「みんな、がんばって!」
 そんなタイミングで、さやかが響かせるのは癒しの歌声。
 見る見るうちに、小さな傷は跡形も無く完治してゆく。

●倒れる者達
「よし、もう一度だ」
「はい」「了解だよ」
 凪の声に応じ、再びアカネと耕治がサンダージャベリンを投じる。
 ――バシィィッ!!
「はっはっは! この程度の雷がなんだ! 野郎ども締まってかかれぃ!」
「「おーっ!」」
 既に命亡きゴーストらに恐怖心は無く、荒れ狂う電雷の嵐を躊躇い無く突き進んでくる。
 しかしそれでも、彼らの体力が大幅に削られている事は疑いない事実だ。
「少しの間で結構ですので大人しくしてて下さいね」
 敵の突進に対応し、華那が放つのは茨の領域。
 魔法の茨は見る見るうちに数体のリビングデッドを絡め取り行動の自由を奪う。
「今よ!」
「わかりましたの」「合点承知ですぅ」
 チヒロの背後に輝くのは、清浄なる裁きの光。
 その光がリビングデッドらを焼いてゆくのに呼応して、幸奈と涼子、リザの3人は各々最寄のリビングデッドの間合いに飛び込んでゆく。
 ある者の顔面には弧状の蹴りが打ち込まれ、ある者には鳩尾へと炸裂する爆水掌、またある者は精気を奪われ、手負いのリビングデッドらは次々に崩れ落ちてゆく。
「ちぃっ! 不甲斐ない奴らだ」
 次第に討ち減らされてゆくリビングデッドに、顔を歪める船長。
「くらえっ」
 ――ゴォッ!
 そんな一瞬の隙を突くように、秀都の手から放たれる突風。
「ぐっ! ……へへ、こんなそよ風じゃ俺は倒せねぇぜ。そらよっ!!」
 ――ヒュッ!
 お返しとばかりに振るわれるのは、船長の左腕。
 鋭い鍵爪が秀都を深く傷つける。
「大丈夫!? ファイトだよっ」
 それでも能力者たちの布陣は堅く、さやかはヘブンズパッションを放って秀都をすぐさま窮地より救い出す。

「船長さん。幸奈がお相手致しますの!」
 翻弄するような軽いフットワークで、船長の周囲を回る幸奈。
「全く小賢しい連中だぜ、ちったぁ大人しくしてやがれっ!」
 ――バッ!
 痺れを切らしたように、能力者目掛けて投網を投げつける船長。
「ふぎゃっ!?」
「がんばって、あとちょっとだからっ」
 投じられたネットは涼子やリザら前衛の動きを妨げるが、すぐさま赦しの舞で対処するアカネ。さやかも再び癒しの歌声で仲間の体力を回復させる。
 リビングデッドらは瞬く間に数を減らし、もはや数体が辛うじて動いている程度だ。
「行っけえぇぇ―――ッ!!」
 そんなリビングデッドらに引導を渡すのは、チヒロの放つ光の十字架。
 もはや虫の息となっていたリビングデッドらは、次々にその光に浄化されてゆく。
「残っているのはあなただけですよ!」
「俺は必ずこの航海を成し遂げる……誰にも邪魔はさせねぇよ!」
 華那の投じた光の槍が船長の足を貫くが、それでも彼は諦める素振りを見せない。
「潮時だよ、フック船長。ネバーランドに還るといい」
「ぬかせっ!」
 ――ギィン!!
 凪のサンダーピラーと、船長のフックが激しく交錯し火花を散らす。
「敵総大将を確認。対ボス戦戦闘プログラムに変更……」
 耕治の手に揺らめく蒼い雷弾。
 時空を歪めるほどに凝縮された雷弾は、一直線に船長へと向かう。
 ――バシィッ!!
「みんな、もう一息だっ」
 ジェットウインドで船長の動きをけん制しつつ、皆に声を掛ける秀都。
 戦いは最終局面へと突入してゆく。

●轟沈
「みんな、もう一息よ」
 得物の念動剣を躍らせつつ、仲間を鼓舞するチヒロ。
 幽霊船の乗員はもはや、船長ただ独りとなっていた。
「前衛を援護します。皆さん!」
「OK、いくよっ」
 華那が放つ光の槍に合わせ、要による蒼の魔弾、アカネのサンダージャベリン、さやかのキーボードマシンガンが咆哮を上げる。
「くっ……な、なんのこれしきっ!」
 苛烈な弾幕が展開され、さしもの船長もよろめき後退る。
「お覚悟ですの!」
 立ち直る隙を与えず、近接戦闘を仕掛ける幸奈と涼子。
「お、おのれっ……陸を目の前に……こんな所で沈むわけにはぁっ!」
 息もつかせない波状攻撃の前に、がくりと膝をつく船長。
 しかし、その思念は未だ健在。水中銃を構えて抵抗の意思を見せる。
「俺の正義が真っ白に燃えるっ、不法入国を正せと無駄に吠えるっ」
 秀都の体を、荒れ狂う暴風が包み込む。
「必殺! パスポートは忘れずにっ」
 ――ゴォォォッ!!
「グワアァァァ――」
 烈風と化した秀都の突進を受け、断末魔の叫びを上げる船長。
 日本上陸と言う彼らの目論みは、ここに潰えた。
「後は、これを海の藻屑に還すだけですね……」
 抵抗力を失った幽霊船を沈めるのは造作も無いこと、能力者たちはすぐさまその破壊に取り掛かる。

「さて、肉体疲労を増長する遠泳を再開しようか……」
「ふぇー……ヘリか何かの迎えが欲しいくらいですぅ」
 沈み消え行く幽霊船の舳先に立ち、ぼやく耕治と涼子。
「早くしないと乗り遅れるぞ」
「おおっ!?」
 と、ロープを手繰り寄せる凪。
 行きに乗ってきたゴムボートは彼の機転により無事残っていた。
「陸はどっちですの?」
「あっちよ、ほら。折角だし泳いで帰ろうかしら」
 沖の方向を見回す幸奈の肩を叩き、反対側を指差すチヒロ。さほど遠くない場所に陸が見える。
「あたしもボートじゃなくて泳いで帰るね♪」
 結局、さやかを含め多数は泳いでゆく事にした様だ。
「皆若いですねぇ……ん、緒方さんどうかしましたかぁ?」
「懐中時計が秒針を刻む音が聞こえないかと思ってね」
「時計ワニはフック船長じゃなくても御免こうむりたいですぅ……」
 無事任務を完了し、ゴーストらの上陸を阻止した一行。
 彼らは中断された臨海学校を再開すべく、かくて帰還の途についたのだった。


マスター:小茄 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/08/19
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冒険結果:成功!
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