<リプレイ>
● 『お前ら、来る。船長が、お呼び……』 監督官リビングデッドの言葉に、高遠・深哲(予言・b00053)はあのリビングデッドの男と視線を合わせた。 「(それでは、打ち合わせ通りに)」 深哲の小声に、リビングデッドの男は事前に手渡されていた時計を見せてうなずく。 「(殲滅して、この幽霊船騒動に蹴りをつけないとな。あの人達を救う方法あればいいんだが……)」 「(何も思うところが無いわけではありません……でも、今は目の前の敵を倒す事に集中しましょう)」 今も労働に従事されているリビングデッド達を見れば、星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)と白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)がそう小さく決意を新たにした。 事情を知り、言葉を交わし、想いを理解した――今や『仲間』とも呼べるリビングデッド達に六桐・匳(青藍月輪・b66454)も心の中でこぼした。 (「……あの人達の最期を考えんのは後だ。今はやれる事をやってやる。……あの船長気取りが。首洗って待ってやがれ」) 一番前を監督官リビングデッドに、最後尾に海賊リビングデッドに挟まれ十人が船艙から甲板へと進んでいく。 青い空と海が一望できる甲板へと出れば、そこにいたのは豪勢な椅子にふんぞり返ったあの船長と十体ばかりの海賊リビングデッドだった。 『どうだ、少しはしおらしくなったか?』 (「どうだ、少しはしおらしくなったか?」) 船長の第一声は、白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)の想像と一語一句食い違う事はなかった。運命予報能力に目覚めましたかしら? と自嘲気味に苦笑するが、何の事はない。相手がわかりやすいだけだ。 昨日のように並べられた彼等の中で、阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)がうつむいたまま涙を流しながら懇願する。 「ゴメンなさい、妾が悪かったのじゃ。船長好みの女になるゆえ、船艙送りは堪忍なのじゃ」 『はっ! ガキは反省も早いな! そういうしおらしい態度なら少しは扱いを考えてやら無いでもないぞ? んん?』 その読魅の態度にはご満悦だったのだろう、満面の笑みを浮かべた船長に――読魅は顔を上げ冷めた目で、吐き捨てた。 「……とでも言うと思うたか、お遊戯海賊団のエセ船長」 『――――ッ!!』 まさに百面相、といった船長の表情の変化は、怒りから戸惑いになる。 幽霊船の速度が落ちたかと思えば、船艙からいくつもの物音が響いてきたからだ。能力者達には、それが反乱の始まりなのだとすぐにわかった。 『な、なんの騒ぎだ! よ、様子を見て来い!』 (「あ、ここでどもるんですのね……」) 予想以上の小物っぷりに呆れながら、琴音は船艙に降りていく海賊リビングデッド達を見やる。 ここまでは、計画通り――ゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)がイグニッションカードを取り出し、言い放った。 「船長、覚悟せよ……!」 「あなたには、聞きたい事がいくつもあります」 同じくイグニッションカードを構えた九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)の言葉に、船長はギリギリ……と歯軋りする。そして、怒りに燃えた表情で立ち上がれば自分が座っていて椅子を左手のフックで殴り壊せば怒鳴り散らした。 『ああ、わかった……! いくら慈悲深いオレでももう限界だ……! お前等、残らず魚の餌にしてやる――!』 「誰が慈悲深い、だ。あの人達をあんな目に合わせておいて」 こちらは静かな怒りを滲ませ、綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)が言い捨てる。 助けるべきだった人が救えなかった……今は、それを嘆くのではなく、終わらせるために。 「それに、まだどうにかなる可能性も残っています。ますます負けられない! お菓子好きに悪い人はいないのです!」 キリッと己の信条を語り、キング・シュライバー(お菓子好き人狼・b65723)がイグニッションカードを高らかに掲げ――能力者達の声が揃った。 『――イグニッションッ!!』 能力者達の手に、詠唱兵器が握られる。そして、琴音の足元に使役ゴーストである真ケットシーのテツロウが出現した。 それを見た船長が目を白黒させると、慌ててがなり散らす。 『お前達、やってしまえ!!』 『へい、船長!!』 「……救いようもねぇ。遠慮なくやれるぜ」 その姿に、匳が吐き捨てた。いっそすがすがしいまでの救えなさに、ヨーヨーを握るその手にも力がこもる。 こうして、能力者達と海賊モドキ達の戦いの火蓋が切って落とされた。
● 「これが、運命予報の無い戦い……ですか」 友紀が小さく息をつき、光の槍を海賊リビングデッドへと投擲した。その一撃に胸を撃ち抜かれ、海賊リビングデッドは甲板の上へと崩れ落ちる。 『やれ!! そいつらを黙らせろ!』 『へい……船長』 船長の指示を受けた監督官リビングデッドの棘まみれの鞭が一直線に戦場へ放たれた。 「く、う……!」 その鋭い一撃に宿禰が鞭を九尾扇で受けようとするが、間に合わない。その鞭に込められた鋭い衝撃に、意識が飛ぶ――『気絶』に膝を揺らす宿禰に、船長が間合いを詰めようとするが、その目の前には深哲の姿がある。 「誰が、通すといいましたか?」 『邪魔だあぁぁ!!』 船長の赤黒く染まった左手のフックが振り払われた――だが、それを深哲は黒燐奏甲の淡い輝きを放つ武術短棍で巧みに弾き落とす。 「その程度ですか? ――ボーヤ」 『誰が、ボーヤだ!!』 深哲の挑発に、船長があっさりと激昂する――意図通りとはいえ、あまりの効果に深哲は密かに苦笑した。 「綾川っ! 次は赦しの舞を頼む!」 「わかった」 中衛から霊的要素を殺害する穢れし呪符を投げ放ちながら優輝が言い、悠斗がコクリとうなずく。 ――相手の能力がわからない中の手探りの戦闘は、予想以上に能力者達の精神を疲弊させていった。 海賊リビングデッドは戦術も何もなく突っ込んで来たが、その斧やカトラスを振り回す一撃には『毒』の効果のあった。そして、より脅威と呼べるのは船長と監督官リビングデッドだ。特に厄介なのは、監督官リビングデッドの茨の鞭による広範囲を対象とした『気絶』の効果のある攻撃と船長の左手のフックによる強力な『猛毒』の効果のあるデスフックと右手による『追撃』とこちらの精気を吸収するデスタッチ――共に『暗殺』の効果があるコンボ攻撃だった。 その事に気付いた読魅がふん、と鼻を鳴らす。 「人の力を当てにした上、コソコソと……骨の髄まで見下げたヤツじゃな」 その言葉にキングはコクコクとうなずくと、海賊リビングデッドの攻撃をナイフで弾き、言い放った。 「どうやら、強化に影響する攻撃はないみたいだな」 「らしいな。思う存分、本気でいかせてもらう――!」 ゲルヒルデがその長剣を振り上げる――旋剣の構えを取り、回復と自己強化を施した。 『お前等……お前等、お前等、お前等ッ!! 抵抗するなよ! とっとと死ねよ! クソッ! クソクソクソクソッ!! 死ね死ね死ね、おっ死ねこんちくしょ――』 「癇癪起こした子供か――ッ!?」 じだんだしてわめき散らす船長への言葉を匳は途中で飲み込んだ。船長が左目を見張って海を見たのに気付いたからだ。同じように鋭敏感覚を持っていた優輝と深哲もそれに気付き――言葉を失う。 「嘘、だろ……?」 優輝がかすれた声で、ようやくそれだけを吐き出した。 海上。そこには、二つの船影があった。近くの一隻はどこにでもある大き目の漁船だが、黒塗りの船体はおそらく防弾処理が施されているのだろう、どう考えても漁目的で終わるとは思えない船だ。そして、遠いもう一隻は船体の左右に小さな船体の付いた特徴的な――こちらも黒塗りの三胴船型ウェーブ・ピアーサー方式の小型高速艇だった。 悠斗も仲間の異常に気付き、こちらに向かってくる二隻の船影を確認した。そして、悠斗は仲間達が驚いた理由を知る――二隻の船、その船体に刻まれた赤い蝙蝠の紋様に思わず声を上げた。 「まさか――吸血鬼かっ!?」
● 「この期に及んで、吸血鬼の登場か!」 海賊リビングデッドの一撃を受け流したゲルヒルデが、返す刃で闇色に染まる長剣を切り上げる――その一撃に、最後の海賊リビングデッドが切り伏せられた。 「近付いてきますわよ!」 琴音がそう言った瞬間、併走してきた随伴艇から五人の男達――吸血鬼がこちらへと飛び乗ろうと跳躍した。 「テツロウ!」 「させません!」 それを見た琴音の指示を受けたテツロウがそのレイピアを振るい、友紀が光の槍を投擲する。一人が切り裂かれ、一人が貫かれ、海に落ちていく。だが、それを掻い潜った吸血鬼が幽霊船の甲板に降り立つ――そう思った瞬間、その声が響き渡った。 『させるか――!』 「ぐ、お……!」 不意打ち気味に放たれた長いオールでの一撃に三人の吸血鬼が腹部を強打され、海へと落ちていく。 『悪いな、待たせた』 「……いえ。いいタイミングでしたよ」 その一撃を放ったリビングデッドの男に、宿禰が笑みをこぼす。そして、六体のオールやカトラスや斧といった相手から奪ったのだろう武器を持ったリビングデッド達が甲板へと駆け上がってきた。 そのリビングデッド達を見て顔色を失ったのは、誰であろう船長だ。 『お、お前等! あ、あいつ等は……オレの部下はどうした!?』 『ここに私達がいるんだから、わかるでしょう? カラッポ頭』 船長へと挑発的に返したリビングデッドの女は、その言葉ほど表情は明るくない。仲間を失ったのもある――だが、何よりも敵だったモノもまた同じ状況にあった同士だったのだ。 リビングデッドの男は、隣の随伴艇から第二陣の吸血鬼が飛ぼうとしているのを見て、短く友紀へと告げる。 『――船長は、任せていいか?』 「え……?」 『本当は俺達だって一発ぐらい殴ってやりたいが……どうせなら、そんなつまらない事よりもっと意味があることをしたいんだ』 『どうせ、一度は死んだ身だしな。こういうのも悪くねぇ』 『あたし達も少しは大人らしいところも見せたいしね!』 リビングデッドの男が仲間のリビングデッド達に一つうなずけば――リビングデッド達が次々と吸血鬼が待ち構える随伴艇へと飛び乗っていった。 それを見たキングが、思わず手を伸ばす。 「そんな、駄目だ……!」 『あなたのくれたお菓子、とっても美味しかったわ。ありがとう』 キングへと微笑を返し、リビングデッドの女も飛び込んでいく。そして、最後に残ったリビングデッドの男が深哲へと左手につけた腕時計を見せて笑って言った。 『借り物は、きちんと返すよ――だから、君達も』 「はい……必ず」 深哲が無理矢理に笑みを作り、そう答える。リビングデッドの男はそれに満足げに笑うと、随伴艇へ飛び移った。 『ハ、ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』 不意に上がった狂ったような笑みに、能力者達は視線を向ける。そこには、腹を抱えて船上の戦闘によって速度を落として離れ始めた随伴艇を指差した船長がいた。 『あの船の連中が誰かは知らんが、どうせオレの敵だろう!? なのに、反乱を起こしたあいつ等が身を張って足止めって……ハハハハハッ、格好つけやがって、馬鹿ばっかりだ! オレはまだついてるぞ! お前等を殺して、この隙に――』 「黙れ」 船長の言葉を遮るように、匳が吐き捨てた。 「てめぇの海賊ゴッコで、どんだけ奪われたモンがあると思ってやがる――もう、ガキのお遊びはおしまいだ」 『ゴッコと呼ぶなあ!! 監督官!!』 『へい、船長』 船長の指示に、監督官リビングデッドが鞭を振り上げる。それに、能力者達は身構えた――この、海賊遊戯を終わらせるために……その新たなる決意を胸に。
● 「失せろ!」 「――滅殺」 キングの右足が弧を描き振り抜かれ、合わせて動いた優輝の放つ符が監督官リビングデッドを捉えた。 『が、あ、あ……』 ズン……! と監督官リビングデッドが、甲板に重い音と共に倒れ伏す。それを見た読魅が、キッと船長を睨み付け言い捨てた。 「貴様に一つ言っておくことがある」 『な、何だ……!?』 「妾の事をガキと呼んだが、妾は19歳じゃっ!」 『う、嘘付けぇって、何だ、これ!?』 読魅の撃つ武装解除弾に、船長が力を失っていく両腕を見て叫ぶ。その足元に始まりの刻印が刻まれる――悠斗のアークヘリオンだ。 「光よ!」 「所詮『ごっこ遊び』だったな」 そのアークヘリオンの光の爆発の中、合わせて動いたゲルヒルデの紅蓮の業火に包まれた長剣が大上段に振り下ろされる。 『う、あ、あ……!』 船長の体が魔炎へと包まれた。そこに深哲が渾身の力を込めた右の拳を繰り出す! 「龍顎拳――!」 「慈愛の舞よ」 ドンッ! とその胸部を深哲の拳が強打し、宿禰の慈愛の舞が仲間達を癒していった。 そして、そこへ凛と友紀が光の槍を手に言い放つ。 「何の罪も無い人達を苦しめた事、絶対に許せません。これ以上犠牲者を出さない為にも、今此処で貴方達を倒します」 『うるさ、い――ぐっ』 投げ放たれた光の槍は受け止めようとした船長のフックを弾き、その肩口に深々と突き刺さる。だが、苦痛の声を漏らしながらも船長はそのフックを赤黒く染めて周囲を薙ぎ払った。 『う、がああああああああ!!』 「倒れるわけにもいかねーんだよ……あの人らのためにもな」 その一撃を受けながらも、匳が跳躍――クレセントファングで、その胸元を切り裂いた。そして、蒼い雷を生み出した琴音とレイピアを構えたテツロウが駆け込んでいく。 「この一撃はしびれるわよ♪」 蒼の魔弾が船長の胸を貫き、テツロウのレイピアがその脇腹に突き刺さる。ガクリ、と片膝を付いた船長へ、キングの右足と合わせて動いた優輝の符が迫る――! 「これで――」 「――海賊ゴッコは終わりだ」 その連撃に船長は耐えられない――ゆっくりと甲板へと仰向けに倒れこみ、船首へとその震える右手を伸ばした。 『い、やだ……消えたく、ない……た、すけ……』 助けて、の言葉は最後まで紡がれない。こうして、多くの犠牲者を出した一人の男による海賊遊戯に幕が下ろされた……。
● 「そうだ、向こうは!?」 ゲルヒルデが駆け出して随伴艇を見る。他の仲間達も戦いの疲労も忘れ、次々と縁から身を乗り出した。 随伴艇は、既にかなり遠くなっていた。オールで漕がなくても風を受けても走れるガレアス船だったからだろう――だが、その随伴艇から立ち昇る黒い煙を見て能力者達は息を飲んだ。 「あれって、まさか――」 悠斗の不吉な予感は、最後まで紡がれる事なく現実のものとなる。
――鈍い爆発音と、撒き散らされる爆炎。
彼等のために時間を稼ごうとしてリビングデッド達の乗る船が、黒煙をあげゆっくりと沈んでいこうとしていた……。
|
|
参加者:10人
作成日:2010/08/20
得票数:楽しい1
泣ける12
カッコいい10
知的1
せつない44
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |