【デッドマンズクルーズ】海賊遊戯に終焉を

<オープニング>


 ――幽霊船の甲板。
 二十人近い海賊リビングデッドに囲まれた能力者達は、息を潜めてその扉が開くのを待っていた。
『で、今回は何日持つと思う?』
『船長は気まぐれだからな。まあ、女どもはサービス次第じゃ二週間は持つんじゃないか?』
 品定めでもするように彼等――特に女性陣を眺めていた海賊リビングデッド達が、不意に静まった。
(「何だ……?」)
 その不自然な沈黙に星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)が内心で訝しがると、ガッ! と真後ろから抑え付けられ床へと膝を付かされる。
『船長のお出ましだ――頭を下げな』
 真後ろから無理矢理抑え付けられた能力者達は音に聞いた。ギイ……、と船尾楼甲板の扉が軋みを上げて開き、カツンカツンという足音と共に近づいてくる気配がある。
『――面を上げさせろ』
『へい』
 その尊大な物言い、能力者達は海賊リビングデッド達に顔を上げさせられ――見た。
(「地縛霊、ですの――?」)
 白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)が演技ではなく驚きの表情を浮かべる。
 そこにいたのは、身の丈は一五十センチ程度の青白い小男だった。その身にまとうのは、黒を基調とした海賊帽に髑髏の意匠を所々に施した豪奢なコート。しかも、右目には髑髏が描かれた眼帯に左手がフックになっている拘りようだ。この海賊リビングデッド達が船長と呼ぶのに相応しいいでたち――なのだが、その小柄で貧相な見た目の性で学芸会の域を出ていない。
 ただ、特筆すべきはコートから覗くその胸だ――地縛霊の証である鎖がぽっかりと黒い穴へと繋がっている。
 ジャラン、と胸の鎖を慣らしながら一人ずつその顔を覗き込んだ船長が、満足げにうなずいた。
『ふん。随分と幼いが見た目は悪くないじゅないか。今回は当たりだな――よくやった。いつものように、男どもは船艙へ送っておけ。女達はオレの部屋だ』
『へい、船長』
(「……まずいな」)
 六桐・匳(青藍月輪・b66454)が小さく舌打ちする。ただでさえ敵の多いこの状況で戦力が分断されるのは致命的だ――匳がそう身を硬くした瞬間、阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)のその言葉が響き渡った。
「妾達をどうするつもりじゃ。 いい年して海賊ゴッコかえ」
『――――』
 一瞬にして、空気が凍りつく。海賊リビングデッド達がビクリと身を震わせ――船長が怒りの形相で読魅の首を右手で掴み、吊り上げた。
『海賊ゴッコ……ゴッコだと!? 戯言を抜かしたのは、その口か!?』
「く、う……」
 小柄な船長だが、それよりも更に小さい読魅は首を絞められながら足が宙をぶらつせる。ギチリ、と左手のフックが赤黒く染まっていくのを見て、思わず白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)がその腕にしがみついた。
「止めてください! 相手は子供ですよ!?」
『……ふん。ガキの戯言か』
 友紀の言葉を受けて、船長が忌々しげに吐き捨て読魅を甲板へと転がす。その表情は言葉とは違い怒り覚めやらぬといった感じだが、威厳を取り繕うようにわざとらしい低い声で吐き捨てた。
『気が変った――監督官! 監督官はいるか!?』
『……へい、船長』
 船長の声に、船艙へと続く階段からのっそりと姿を現す影が一つ――その姿に、九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)が目を見張った。
「……また、大きいね。これは」
 現れたのは体長二メートルはあろう、大男のリビングデッドだ。上半身裸にズボンとブーツだけという服装に茨の棘のような凶悪な鞭を下げている。
 明らかに、他の海賊リビングデッドとは一線を画したリビングデッドだった。
『全員、船艙送りにしておけ――こいつ等は特に厳しく躾けておけ』
『……へい、船長』
『二十四時間後に、もう一度会ってやる。その時には、少しはしおらしい言葉遣いを覚えているだろうさ』
 連れて行け! と船長が踵を返す。その後ろ姿を見やりながら、能力者達は海賊リビングデッド達に連行されていった。

『……今日、ここまで。ここで、停泊……する』
 ビシリ、と鞭で地面を叩き、監督官リビングデッドがたどたどしく告げた。
「ふう、ようやく終わったな……」
 オールから手を離し、ゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)が大きく息をこぼした。常にランタンの明かりで照らさなくてはいけない船艙では時間感覚に乏しいが、既に時間は夜になってるのだろう、オールの出し口から見える海は真っ暗だ。
 船艙へと連行された能力者達を待っていたのは、この幽霊船のオールを漕ぐ重労働だった。そして、彼等が見たのはその船艙でオールを漕がされていたリビングデッドの存在だ。
 男もいれば女もいる――海賊リブングデッド達と違い痩せこけて傷だらけのリビングデッドばかりだ。
「すまぬな。妾のせいで……」
「そんなの、気にしなくていいよ」
「そうです。逆にバラバラにならずにすみましたし」
 読魅の謝罪に、キング・シュライバー(お菓子好き人狼・b65723)が笑みで答え高遠・深哲(予言・b00053)もそう告げる。
「お腹、すかない? 僕、お菓子一杯持ってきてるよ」
 バックや手荷物の類は奪われなかった。よほど、自分達の実力に自信があるのか、それとも油断しているのか――とりあえず、今はそれに感謝しつつキングがバックからお菓子類と携帯食を取り出していく。
「えっと……いる?」
 ふと、キングがリビングデッド達にそう問いかけてみれば、リビングデッド達は顔を見合わせ、ものすごい勢いでお菓子へと手を伸ばした。

『えっと……すまない、恥ずかしい所を見せてしまって』
 リビングデッドの男が、照れくさそうに頭を下げた。既にお菓子の類は欠片一つ残っていない。リビングデッド達にあれよあれよと言う間に食い尽くされていた。
 彼等が言うには、食事を与えられずに餓死してしまった者がほとんどだという。リビングデッドになってからは食事をする必要はなくなったが、久しぶりのお菓子に食べながら感極まって泣き出す者もいたほどだった。
「あ、はい。そういえば……先ほどはありがとうございました」
『いや、不慣れではきついからね。オール漕ぎは』
 ペコリ、と友紀が頭を下げる。そのリビングデッドは友紀や他の者が漕ぐ疲労に倒れそうになった時、手伝ってくれたリビングデッドだった。
『しかし、君達も災難だったね……随分と、若いみたいだけど』
「海同好会のメンバーなんだ」
 匳が事前に打ち合わせていた設定を口にすれば、リビングデッドの男は「そうか」とすぐに納得してくれた。そして、決意の表情で仲間のリビングデッド達を振り返ると、小さな低い声で告げる。
『こんな子供達まで、俺達のような目に合わせる訳にはいかない……明日、決行しよう』
「決行、とは?」
 その不穏な空気に、綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)が慎重に問いかけた。それにリビングデッドの男は、声を潜めて続ける。
『反乱だ。俺達は、船長を倒す』
『あの船長がそもそもの始まりよ、あの船長さえ倒せばこんな恐ろしい事件は終わるはずなのよ! そうすれば、きっと私達も元に戻れるはずよ……!』
 リビングデッドの女が、低く言い捨てた。それに、リビングデッドの男も厳しい表情で付け加えた。
『もちろん、憶測でしかないがな。船長を倒せば自分達も消える、と思っている者もいる……だが、このまま悪戯に時間を浪費すれば犠牲者が増えるだけだ。例え、俺達が消える事になったとしても……何としてもこれ以上の凶行は止めなくてはいけない』
 その言葉と表情には強い決意がある。他のリビングデッドも多少の差こそあれど、覚悟は決まっているようだ。
 その言葉に、能力者達は顔を見合わせる。そして、無言でうなずきあえば代表して深哲が口を開いた。
「――そういう事なら、お手伝いします」
『いや、しかし……』
「そういうの、実は得意ですのよ? 私達」
 クスリ、と微笑む琴音にリビングデッド達が顔を見合わせ――リビングデッドの男が、コクリと一つうなずいた。
『わかった。手伝ってもらおう、ただし無理だけはしないでくれ』
「――ここに来るまで、観察した船の中はこんな感じだったけど……合ってる?」
 一人紙にペンを走らせ続けていた悠斗が、リビングデッドの男にその図を見せる。リビングデッドの男は目を丸くすると、悠斗の顔を関心したように見やった。
『驚いたな。きちんとした船の知識があるんだな』
「いえ、齧ったぐらいだけど」
 事前の調査があったからこその図だ、悠斗ははぐらかすように笑みをこぼす。
『大体の中の構造はこの通りだ。ただ、明らかに船のサイズより中の広く感じられてね』
(「特殊空間化してるんだな」)
 優輝もそれは気にかかっていた。内心で納得しながら、話を進める。
「敵の戦力は?」
『海賊風の奴等は俺達のようにさらわれて船長に取り入った者ばかりでね、おそらくは二十人くらいだ。こっちも漕ぎ手は十五人ほど……うまくやれば、勝てない戦力差じゃない。ただ、問題は船長と監督官だ……こいつ等はかなりの強敵でね』
「あ、それなら何とかなるのじゃ」
 それには読魅がニヤリと笑う。昼間あった甲板での出来事を語れば、リビングデッドの男はさも痛快だと笑った。
『なるほど、海賊ゴッコか。言いえて妙だな……それなら、船長と監督官、後は船長によく引っ付いている海賊もどき五人くらいは、手薄になるな。それなら、数の上では船の中でなら互角に戦える』
「船長達は、私達が何とか足止めします」
 友紀がそう凛と言えば、リビングデッドの男も力強くうなずいた。
『必ず、助けに駆けつける。無理だけはしないでくれ』
「もちろんです」
『――後、一つ頼みがある』
 リビングデッドの男は真剣な表情で、静かに告げた。
『船長を倒しても俺達が動く死体のままなら、俺達を殺してくれないか?』
「え……?」
『無茶な事はわかっている……だが、これはここにいる俺達全員の総意なんだ。例え、元の世界に返っても死体に居場所なんてないんだから』
 だから、頼む――そう告げるリビングデッドの男と頭を下げるリビングデッド達に、深哲がかすれた声で呟いた。
「……最後まで、考えさせてください」
『ああ、それでいい』

 ――それから二時間後。作戦の確認を終え、能力者達とリビングデッド達は顔を見合わせた。
『決行は明日。君達が連行されるのが合図だ――絶対に、無理はしないでくれよ?』
「わかっています。そちらもお気をつけて」
 リビングデッド達と能力者達が固く握手を交わしていく。
 能力者達とリビングデッドの奇妙な同盟がここに結成された――打ち倒す目標は、この悪趣味な海賊遊戯だ。

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参加者
高遠・深哲(予言・b00053)
九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)
白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)
星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)
阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)
ゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)
白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)
キング・シュライバー(お菓子好き人狼・b65723)
六桐・匳(青藍月輪・b66454)
綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)



<リプレイ>


『お前ら、来る。船長が、お呼び……』
 監督官リビングデッドの言葉に、高遠・深哲(予言・b00053)はあのリビングデッドの男と視線を合わせた。
「(それでは、打ち合わせ通りに)」
 深哲の小声に、リビングデッドの男は事前に手渡されていた時計を見せてうなずく。
「(殲滅して、この幽霊船騒動に蹴りをつけないとな。あの人達を救う方法あればいいんだが……)」
「(何も思うところが無いわけではありません……でも、今は目の前の敵を倒す事に集中しましょう)」
 今も労働に従事されているリビングデッド達を見れば、星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)と白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)がそう小さく決意を新たにした。
 事情を知り、言葉を交わし、想いを理解した――今や『仲間』とも呼べるリビングデッド達に六桐・匳(青藍月輪・b66454)も心の中でこぼした。
(「……あの人達の最期を考えんのは後だ。今はやれる事をやってやる。……あの船長気取りが。首洗って待ってやがれ」)
 一番前を監督官リビングデッドに、最後尾に海賊リビングデッドに挟まれ十人が船艙から甲板へと進んでいく。
 青い空と海が一望できる甲板へと出れば、そこにいたのは豪勢な椅子にふんぞり返ったあの船長と十体ばかりの海賊リビングデッドだった。
『どうだ、少しはしおらしくなったか?』
(「どうだ、少しはしおらしくなったか?」)
 船長の第一声は、白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)の想像と一語一句食い違う事はなかった。運命予報能力に目覚めましたかしら? と自嘲気味に苦笑するが、何の事はない。相手がわかりやすいだけだ。
 昨日のように並べられた彼等の中で、阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)がうつむいたまま涙を流しながら懇願する。
「ゴメンなさい、妾が悪かったのじゃ。船長好みの女になるゆえ、船艙送りは堪忍なのじゃ」
『はっ! ガキは反省も早いな! そういうしおらしい態度なら少しは扱いを考えてやら無いでもないぞ? んん?』
 その読魅の態度にはご満悦だったのだろう、満面の笑みを浮かべた船長に――読魅は顔を上げ冷めた目で、吐き捨てた。
「……とでも言うと思うたか、お遊戯海賊団のエセ船長」
『――――ッ!!』
 まさに百面相、といった船長の表情の変化は、怒りから戸惑いになる。
 幽霊船の速度が落ちたかと思えば、船艙からいくつもの物音が響いてきたからだ。能力者達には、それが反乱の始まりなのだとすぐにわかった。
『な、なんの騒ぎだ! よ、様子を見て来い!』
(「あ、ここでどもるんですのね……」)
 予想以上の小物っぷりに呆れながら、琴音は船艙に降りていく海賊リビングデッド達を見やる。
 ここまでは、計画通り――ゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)がイグニッションカードを取り出し、言い放った。
「船長、覚悟せよ……!」
「あなたには、聞きたい事がいくつもあります」
 同じくイグニッションカードを構えた九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)の言葉に、船長はギリギリ……と歯軋りする。そして、怒りに燃えた表情で立ち上がれば自分が座っていて椅子を左手のフックで殴り壊せば怒鳴り散らした。
『ああ、わかった……! いくら慈悲深いオレでももう限界だ……! お前等、残らず魚の餌にしてやる――!』
「誰が慈悲深い、だ。あの人達をあんな目に合わせておいて」
 こちらは静かな怒りを滲ませ、綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)が言い捨てる。
 助けるべきだった人が救えなかった……今は、それを嘆くのではなく、終わらせるために。
「それに、まだどうにかなる可能性も残っています。ますます負けられない! お菓子好きに悪い人はいないのです!」
 キリッと己の信条を語り、キング・シュライバー(お菓子好き人狼・b65723)がイグニッションカードを高らかに掲げ――能力者達の声が揃った。
『――イグニッションッ!!』
 能力者達の手に、詠唱兵器が握られる。そして、琴音の足元に使役ゴーストである真ケットシーのテツロウが出現した。
 それを見た船長が目を白黒させると、慌ててがなり散らす。
『お前達、やってしまえ!!』
『へい、船長!!』
「……救いようもねぇ。遠慮なくやれるぜ」
 その姿に、匳が吐き捨てた。いっそすがすがしいまでの救えなさに、ヨーヨーを握るその手にも力がこもる。
 こうして、能力者達と海賊モドキ達の戦いの火蓋が切って落とされた。


「これが、運命予報の無い戦い……ですか」
 友紀が小さく息をつき、光の槍を海賊リビングデッドへと投擲した。その一撃に胸を撃ち抜かれ、海賊リビングデッドは甲板の上へと崩れ落ちる。
『やれ!! そいつらを黙らせろ!』
『へい……船長』
 船長の指示を受けた監督官リビングデッドの棘まみれの鞭が一直線に戦場へ放たれた。
「く、う……!」
 その鋭い一撃に宿禰が鞭を九尾扇で受けようとするが、間に合わない。その鞭に込められた鋭い衝撃に、意識が飛ぶ――『気絶』に膝を揺らす宿禰に、船長が間合いを詰めようとするが、その目の前には深哲の姿がある。
「誰が、通すといいましたか?」
『邪魔だあぁぁ!!』
 船長の赤黒く染まった左手のフックが振り払われた――だが、それを深哲は黒燐奏甲の淡い輝きを放つ武術短棍で巧みに弾き落とす。
「その程度ですか? ――ボーヤ」
『誰が、ボーヤだ!!』
 深哲の挑発に、船長があっさりと激昂する――意図通りとはいえ、あまりの効果に深哲は密かに苦笑した。
「綾川っ! 次は赦しの舞を頼む!」
「わかった」
 中衛から霊的要素を殺害する穢れし呪符を投げ放ちながら優輝が言い、悠斗がコクリとうなずく。
 ――相手の能力がわからない中の手探りの戦闘は、予想以上に能力者達の精神を疲弊させていった。
 海賊リビングデッドは戦術も何もなく突っ込んで来たが、その斧やカトラスを振り回す一撃には『毒』の効果のあった。そして、より脅威と呼べるのは船長と監督官リビングデッドだ。特に厄介なのは、監督官リビングデッドの茨の鞭による広範囲を対象とした『気絶』の効果のある攻撃と船長の左手のフックによる強力な『猛毒』の効果のあるデスフックと右手による『追撃』とこちらの精気を吸収するデスタッチ――共に『暗殺』の効果があるコンボ攻撃だった。
 その事に気付いた読魅がふん、と鼻を鳴らす。
「人の力を当てにした上、コソコソと……骨の髄まで見下げたヤツじゃな」
 その言葉にキングはコクコクとうなずくと、海賊リビングデッドの攻撃をナイフで弾き、言い放った。
「どうやら、強化に影響する攻撃はないみたいだな」
「らしいな。思う存分、本気でいかせてもらう――!」
 ゲルヒルデがその長剣を振り上げる――旋剣の構えを取り、回復と自己強化を施した。
『お前等……お前等、お前等、お前等ッ!! 抵抗するなよ! とっとと死ねよ! クソッ! クソクソクソクソッ!! 死ね死ね死ね、おっ死ねこんちくしょ――』
「癇癪起こした子供か――ッ!?」
 じだんだしてわめき散らす船長への言葉を匳は途中で飲み込んだ。船長が左目を見張って海を見たのに気付いたからだ。同じように鋭敏感覚を持っていた優輝と深哲もそれに気付き――言葉を失う。
「嘘、だろ……?」
 優輝がかすれた声で、ようやくそれだけを吐き出した。
 海上。そこには、二つの船影があった。近くの一隻はどこにでもある大き目の漁船だが、黒塗りの船体はおそらく防弾処理が施されているのだろう、どう考えても漁目的で終わるとは思えない船だ。そして、遠いもう一隻は船体の左右に小さな船体の付いた特徴的な――こちらも黒塗りの三胴船型ウェーブ・ピアーサー方式の小型高速艇だった。
 悠斗も仲間の異常に気付き、こちらに向かってくる二隻の船影を確認した。そして、悠斗は仲間達が驚いた理由を知る――二隻の船、その船体に刻まれた赤い蝙蝠の紋様に思わず声を上げた。
「まさか――吸血鬼かっ!?」


「この期に及んで、吸血鬼の登場か!」
 海賊リビングデッドの一撃を受け流したゲルヒルデが、返す刃で闇色に染まる長剣を切り上げる――その一撃に、最後の海賊リビングデッドが切り伏せられた。
「近付いてきますわよ!」
 琴音がそう言った瞬間、併走してきた随伴艇から五人の男達――吸血鬼がこちらへと飛び乗ろうと跳躍した。
「テツロウ!」
「させません!」
 それを見た琴音の指示を受けたテツロウがそのレイピアを振るい、友紀が光の槍を投擲する。一人が切り裂かれ、一人が貫かれ、海に落ちていく。だが、それを掻い潜った吸血鬼が幽霊船の甲板に降り立つ――そう思った瞬間、その声が響き渡った。
『させるか――!』
「ぐ、お……!」
 不意打ち気味に放たれた長いオールでの一撃に三人の吸血鬼が腹部を強打され、海へと落ちていく。
『悪いな、待たせた』
「……いえ。いいタイミングでしたよ」
 その一撃を放ったリビングデッドの男に、宿禰が笑みをこぼす。そして、六体のオールやカトラスや斧といった相手から奪ったのだろう武器を持ったリビングデッド達が甲板へと駆け上がってきた。
 そのリビングデッド達を見て顔色を失ったのは、誰であろう船長だ。
『お、お前等! あ、あいつ等は……オレの部下はどうした!?』
『ここに私達がいるんだから、わかるでしょう? カラッポ頭』
 船長へと挑発的に返したリビングデッドの女は、その言葉ほど表情は明るくない。仲間を失ったのもある――だが、何よりも敵だったモノもまた同じ状況にあった同士だったのだ。
 リビングデッドの男は、隣の随伴艇から第二陣の吸血鬼が飛ぼうとしているのを見て、短く友紀へと告げる。
『――船長は、任せていいか?』
「え……?」
『本当は俺達だって一発ぐらい殴ってやりたいが……どうせなら、そんなつまらない事よりもっと意味があることをしたいんだ』
『どうせ、一度は死んだ身だしな。こういうのも悪くねぇ』
『あたし達も少しは大人らしいところも見せたいしね!』
 リビングデッドの男が仲間のリビングデッド達に一つうなずけば――リビングデッド達が次々と吸血鬼が待ち構える随伴艇へと飛び乗っていった。
 それを見たキングが、思わず手を伸ばす。
「そんな、駄目だ……!」
『あなたのくれたお菓子、とっても美味しかったわ。ありがとう』
 キングへと微笑を返し、リビングデッドの女も飛び込んでいく。そして、最後に残ったリビングデッドの男が深哲へと左手につけた腕時計を見せて笑って言った。
『借り物は、きちんと返すよ――だから、君達も』
「はい……必ず」
 深哲が無理矢理に笑みを作り、そう答える。リビングデッドの男はそれに満足げに笑うと、随伴艇へ飛び移った。
『ハ、ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』
 不意に上がった狂ったような笑みに、能力者達は視線を向ける。そこには、腹を抱えて船上の戦闘によって速度を落として離れ始めた随伴艇を指差した船長がいた。
『あの船の連中が誰かは知らんが、どうせオレの敵だろう!? なのに、反乱を起こしたあいつ等が身を張って足止めって……ハハハハハッ、格好つけやがって、馬鹿ばっかりだ! オレはまだついてるぞ! お前等を殺して、この隙に――』
「黙れ」
 船長の言葉を遮るように、匳が吐き捨てた。
「てめぇの海賊ゴッコで、どんだけ奪われたモンがあると思ってやがる――もう、ガキのお遊びはおしまいだ」
『ゴッコと呼ぶなあ!! 監督官!!』
『へい、船長』
 船長の指示に、監督官リビングデッドが鞭を振り上げる。それに、能力者達は身構えた――この、海賊遊戯を終わらせるために……その新たなる決意を胸に。


「失せろ!」
「――滅殺」
 キングの右足が弧を描き振り抜かれ、合わせて動いた優輝の放つ符が監督官リビングデッドを捉えた。
『が、あ、あ……』
 ズン……! と監督官リビングデッドが、甲板に重い音と共に倒れ伏す。それを見た読魅が、キッと船長を睨み付け言い捨てた。
「貴様に一つ言っておくことがある」
『な、何だ……!?』
「妾の事をガキと呼んだが、妾は19歳じゃっ!」
『う、嘘付けぇって、何だ、これ!?』
 読魅の撃つ武装解除弾に、船長が力を失っていく両腕を見て叫ぶ。その足元に始まりの刻印が刻まれる――悠斗のアークヘリオンだ。
「光よ!」
「所詮『ごっこ遊び』だったな」
 そのアークヘリオンの光の爆発の中、合わせて動いたゲルヒルデの紅蓮の業火に包まれた長剣が大上段に振り下ろされる。
『う、あ、あ……!』
 船長の体が魔炎へと包まれた。そこに深哲が渾身の力を込めた右の拳を繰り出す!
「龍顎拳――!」
「慈愛の舞よ」
 ドンッ! とその胸部を深哲の拳が強打し、宿禰の慈愛の舞が仲間達を癒していった。
 そして、そこへ凛と友紀が光の槍を手に言い放つ。
「何の罪も無い人達を苦しめた事、絶対に許せません。これ以上犠牲者を出さない為にも、今此処で貴方達を倒します」
『うるさ、い――ぐっ』
 投げ放たれた光の槍は受け止めようとした船長のフックを弾き、その肩口に深々と突き刺さる。だが、苦痛の声を漏らしながらも船長はそのフックを赤黒く染めて周囲を薙ぎ払った。
『う、がああああああああ!!』
「倒れるわけにもいかねーんだよ……あの人らのためにもな」
 その一撃を受けながらも、匳が跳躍――クレセントファングで、その胸元を切り裂いた。そして、蒼い雷を生み出した琴音とレイピアを構えたテツロウが駆け込んでいく。
「この一撃はしびれるわよ♪」
 蒼の魔弾が船長の胸を貫き、テツロウのレイピアがその脇腹に突き刺さる。ガクリ、と片膝を付いた船長へ、キングの右足と合わせて動いた優輝の符が迫る――!
「これで――」
「――海賊ゴッコは終わりだ」
 その連撃に船長は耐えられない――ゆっくりと甲板へと仰向けに倒れこみ、船首へとその震える右手を伸ばした。
『い、やだ……消えたく、ない……た、すけ……』
 助けて、の言葉は最後まで紡がれない。こうして、多くの犠牲者を出した一人の男による海賊遊戯に幕が下ろされた……。


「そうだ、向こうは!?」
 ゲルヒルデが駆け出して随伴艇を見る。他の仲間達も戦いの疲労も忘れ、次々と縁から身を乗り出した。
 随伴艇は、既にかなり遠くなっていた。オールで漕がなくても風を受けても走れるガレアス船だったからだろう――だが、その随伴艇から立ち昇る黒い煙を見て能力者達は息を飲んだ。
「あれって、まさか――」
 悠斗の不吉な予感は、最後まで紡がれる事なく現実のものとなる。

 ――鈍い爆発音と、撒き散らされる爆炎。

 彼等のために時間を稼ごうとしてリビングデッド達の乗る船が、黒煙をあげゆっくりと沈んでいこうとしていた……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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作成日:2010/08/20
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