飛球避球闘球!


<オープニング>


「よーし、行くぞー!」
「ヘイ、パスパス!」
 屋内運動場において、元気な少年達の声が響く。
 顔と同程度のサイズのボールをパスし合い、ぶつけ合い、避け合う。彼らはドッジボールチームのメンバーである。
 誰もが熱心に、真剣に練習に取り組んでいるように見えるが、お世辞にもボールの扱いは上手いとは言えない。
「行くぞ、スーパーダイナミックグレート以下略アターック!」
 1人の少年が勇ましげな技名を叫び、へろへろのボールを投げれば――。
「ボールが止まって見えるぜ! あっ」
 それを受け止めたかに見えた少年が、ボールをぽろりと落としてしまう。
 これでは、同年代の相手と試合をしても到底勝負にならないレベルだ。
「すみませーん、ボール取ってくださーい」
 転々と転がって行くボールの先には、ジャージを纏った女が1人。彼女はおもむろにボールを拾い上げると――。
 ――ビュオッ!!
「うわっ!?」
 凄まじい剛速球が少年達の間をすり抜け、壁にめり込む。
「「す、すげぇ……」」
「お前達が本気で強くなりたいなら、私が力を貸してやるぞ」
 その言葉を聞いて、唖然としていた少年達の表情が、キラキラと輝き始めるのにそう時間は掛からなかった。
「……お、お願いします! 俺達にドッジボールを教えて下さい!」
「良いだろう、ただし……私の特訓は厳しいからな、覚悟しておけよ!」

「ジャック・マキシマムの配下、ナイトメアビースト達が動き出したみたい」
 柳瀬・莉緒(中学生運命予報士・bn0025)の説明によると、「優勝請負人」颯爽・菱子は、弱小スポーツ選手にナイトメアビーストの力を付与して必殺技を習得させる能力を持っているのだと言う。
 それら必殺技はアビリティに匹敵する威力を秘めており、その力が通常の試合で用いられるような事があれば、間違い無く死者が出るだろう。
「ドッジボールで死者を出すなんて、絶対に許せないわ」
 と、息巻くのは速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)。
「それを阻止する為に、あなた達に出張って貰いたいんだけど……厄介な事に必殺技を習得した彼らドッジボールチームが、ナイトメアビーストを援護する為に戦いに加わるわ」
 しかし彼らを戦闘不能にしてしまえば、殺してしまう事になる。
「それを避ける方法もあるわ。彼らと試合をして勝利する事よ」
 試合という名目であれば、その間菱子が攻撃をしてくる事も無いと莉緒は言う。

「スポーツの内容はドッジボール。選手達は全員異常な球威と球速を持つ殺人ショットを習得しているけれど、細かい情報はここに纏めてあるわ」
 莉緒が広げた紙には、選手らのデータと必殺技が記されていた。

 タマヒラ・イツキ:小柄ながらスローイング・キャッチングの技術に長けるチームのエース。相手のボールを受け止めた後、その球威を利用しての回転カウンターショットが必殺技。
 チネン・ダイブツ:坊主頭がトレードマーク。分身や土遁の術、顔面ブロックなど、ディフェンス面に長ける。
 オザキ・ハル:チームのキャプテン。知略・分析能力に優れる精神的支柱。
 フジドウ・ミサト:チームの紅一点。色仕掛けや上目遣いでお願い等、男子に対する魅了攻撃を持つ。
 タケタ・イチ:双子の兄。見た目は弟と全く同じで区別が付かない。空中でX字に交差し、どちらがボールを投げるか悟らせないXショットが必殺技。
 タケタ・ニ:双子の弟。
 サカマキ・スカルチノフ:見た目も地味な縁の下の力持ち的選手。味方にヒットしたボールを驚異的反応で拾い上げる。
 ミウラ・ストーム:全てにおいて平均的な選手だが、ヒットされると大袈裟なリアクションとセリフを吐いて仲間の闘争本能に火を付けるサクリファイスが必殺技(?)。
 キノウエ・ツヨシ:眼鏡をかけた少年。同上。

「とまぁ、そんな所ね。試合に勝てば、菱子と彼らは襲いかかってくるから、その時は遠慮無く倒しちゃって頂戴」
 選手達は意識を失って倒れるだろうから、水でも掛けて気付けしてやれば良いだろう。ちなみに菱子はコピーである為消滅する。

「今回の試合には、絶対に負ける事は許されないわ。負ければ、選手達の命が失われるのだから」
 なので、菱子の所に行く前にドッジボールの練習をしっかりしてゆく様にと莉緒は言う。
「試合でも戦いでも、必ず勝利して頂戴っ」
 かくして能力者達は、一風変わった戦いへと赴くのだった。

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参加者
川満・紅実(空に知られぬ雪・b16707)
山桜・麻里(花守くのいち・b35101)
紗白・波那(光巡る花・b51717)
水無瀬・忍(高校生真水練忍者・b54513)
穂村・煉司(紅蓮旋刃・b57176)
鈴鹿・小春(空色のうたかた・b62229)
ラクス・ソルス(蒙霧升降・b66563)
平・等(鎌倉縦断亅ウルトラ眼鏡・b69224)
NPC:速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)




<リプレイ>


「いっちに! いっちに!」
 夕焼けに染まる川沿いの土手を、掛け声と共に駆ける一団。
「選手さん達のため頑張りましょう!」
 山桜・麻里(花守くのいち・b35101)が言う「選手」とは、彼らの対戦相手であるドッジボールチームの事。
「優勝請負人」こと颯爽・菱子に魅入られた彼らを救うには、試合で勝つより他に無い。
「絶対勝つぞー!」
「おー!」
 淑やかなイメージの川満・紅実(空に知られぬ雪・b16707)も、今回ははりきって声を上げる。
「あ、水溜り? ……逃げ水だった」
 鈴鹿・小春(空色のうたかた・b62229)は数回頭を振って、前方に視界を戻す。
 日が傾いてきたとは言え、気温は極めて高い。
「倒れないよう皆も水分補給はこまめにね」
 ペットボトルで喉を潤しつつ、注意を呼びかける。
「うん、苦しくなったら、呼吸を整えてね」
 強靭な持久力を持つラクス・ソルス(蒙霧升降・b66563)は、時折皆を振り返って声を掛ける。
「スポコンは青春よね。一度やりたかったんだ〜!」
 一方、最後尾を走る紗白・波那(光巡る花・b51717)は、皆が励ましあいながら走る様子をじっくり眺めつつ、自身も満喫している様子。
「ええ、ボクもこういう熱いノリは大好きです」
 普段は飄々とした印象の穂村・煉司(紅蓮旋刃・b57176)も、汗を輝かせつつ楽しげに走る。
 彼らはこうして、基礎体力と助け合う意識を向上させたのだった。
 全員の基礎体力がUPした!
 チームワークがUPした!


「……これがとしまる謹製、魔球養成ギブス……だそうです」
 水無瀬・忍(高校生真水練忍者・b54513)が速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)に差し出したのは、スプリングが施されたギブス。
「こ、これきついかも……」
 早速身に着けてみた2人だが、じっとしているだけでも負荷は大きい。
「キャッチの鬼をめざーす!」
「どんなボールでも受け止めてやるわ!」
「立つ場所を狭くすれば効果も期待できるはずだ」
 一方で、小春と波那、平・等(鎌倉縦断亅ウルトラ眼鏡・b69224)らは主にキャッチングの技術向上の為にボールを受ける練習。
 ――ヒュッ!
 忍とめぐるに加え、ピッチングマシンからも撃ち出される無数のボールを必死で受け止め、或いは回避してゆく。
「大事なのは、先読みする事とボールから目を離さない事。腕の振る角度、指の位置、足のつま先の方向、目線、重心移動、性格。ショットの情報は投げる前から読めるものなのよ!」
 ――ヒュッ! ヒュッ!
「いきます! ……もう一回、……まだまだ」
 ギブスを付けたまま投げるのはかなりの力を要する。2人は必死で一球一球を投じ、ディフェンス側は限られたスペースの中でボールに対処してゆく。
「……って何時まで……?」
「……つ、疲れた……」
 皆の縋るような視線を物ともせず、としまるはじっと特訓風景を見守るばかり。
 そんな鬼コーチの指導の下、彼らはオフェンス・ディフェンスの両面を強化してゆくのだった。
 忍、めぐるのショット力がUPした!
 波那、等、小春のディフェンス技術全般がUPした!
 煉司、紅実、麻里、ラクスの総合技術がUPした!


 その後もメンバーらは、休み時間、放課後、個人での時間を利用し練習に取り組んだ。
 菱子率いるチームにも、十分勝てるのではないか……そんな実感が強まりつつあったある日のこと。
「必殺技?」
「うん、相手も必殺技を使ってくるみたいだし。ボクらもね」
 自分達に足りない物は何か? 導き出された答えは「必殺技」だった。
 これより、各自、自分のイメージに合った必殺技習得の為の特訓が始まったのだ。

 ――ビュオッ!
 僅か2、3メートルの先から撃ち出される高速の球を、1歩も動く事無く上半身の捌きやジャンプだけで回避する等。
 彼は当初より限られたスペースでの回避術を特訓していたが、その究極形がついに完成した。
 等はスーパーウルトラスペシャル鬼避けを習得した!

 ――シュッ!
 目隠しをしたままの小春は、死角から飛来する球を柔らかな動きで受け止め、そのまま投げ返す。
 あたかも三日月を描く様ななめらかな動きで放たれる球は、大幅に球威を増している様にすら見える。
 小春はクレセントカウンターを習得した!

 一方波那も、投じられたボールを受けて投げ返す練習に励んでいた。
 しかし彼女の場合は敵の球をカウンターするのではなく、味方の球をそのまま反射しようと言うのだ。
(「チェインショット……我ながらいいネーミング!」)
 仲間の投球フォームを注意深く観察し、スケッチし、受け続けてきた彼女ならではの高等技術である。
 波那はチェインショットを習得した!

 皆の必殺技が飛び交う中、独り黙して座禅を組むのはラクス。
 目を閉じ、ただひたすら五感を研ぎ澄ます。
 彼は派手な必殺技を習得するよりも、弱点を無くし、揺るぎない精神力を身に付ける事を選択したのだ。
 ラクスは明鏡止水の心を習得した!

(「フジドウさんの色仕掛け、くのいちとして負けられません!」)
 お色気はくのいちにとっても重要な要素。麻里は敵チームの紅一点に対しライバル心を燃やしていた。
「……ハッ!?」
 どう太刀打ちしようか考えて居た麻里の目に飛び込んだのは、その豊かな胸。
 いかなぶりっこ美少女とは言え、麻里のプロポーションに勝てる筈はない。まして相手の多くは少年達。効果は十分期待出来る。
 こうして彼女は、どの様なモーションで構え、投げるのがより効果的か、鏡の前でひたすらポージングを続けるのだった。
 麻里は悩殺アタックを習得した!

「分身術ならともかく、投げたボールを分身させるなんて無理……」
「必殺技なんて無くても、もう十分勝てるんじゃ」
 ――ばしっ。
「痛っ」
 一方、忍とめぐるは必殺技の習得にやや苦戦していた。弱音を吐く2人に、ステッキで渇を入れるとしまる。
 彼はそのまま、着いてくることを促す様にすたすたと歩き出す。
「……ここは……」
 やがて2人が着いたのは、古寺の境内。
「あっ!?」
 次の瞬間、視界に飛び込んできたのは、長い石段を鉄下駄で駆け上がる紅実の姿。
 自作のドッジマシーンを相手にキャッチングの練習をしたり、木製の的目掛けて変化球を投げ込んだり、文字通り血の滲むような特訓にあけくれている。
「あれが、私達に足りないもの……」
「ええ……努力が足りなかったわ! コーチ、私達をもっと鍛えて!」
 2人はひたむきな紅実の姿を目にして、心を入れ替えるのだった。
 紅実の基礎体力、キャッチ技術、変化球のキレがUPした!
 忍は消える分身魔球を習得した!
 忍、めぐるのやる気がUPした!

 煉司はリバウンドボールを足で拾い上げる練習を行っていた。
「――っ!?」
 彼が何千回目かのボールを拾い上げた刹那――それは起きた。
 ボールは高速回転しながら高く浮き上がり、やがて炎に包まれたのだ。
「危ない!」
 そしてどういう訳か、それはめぐるの頭上へ。
 煉司の声に反応しためぐるは、とっさに両手を差し出す。しかし激しく炎上するボールを素手で掴む事は出来ない。
 とっさの判断で両手に風を纏わせ、浮かせる様にしてボールを保持したのは無意識の行動だった。
「こ、これって……」
 炎を宿し、めぐるの両手の間に浮かぶボールを暫し凝視していた2人は、直感めいたものを感じて顔を見合わせる。
「使える!」
 煉司、めぐるはコンビネーションショットを習得した!


「たのもーっ!」
 満を持して、菱子率いるチームに練習試合を申し込む能力者達。
 予想通り、その申し入れは二つ返事で受け入れられた。
「お前達は最高のチームだ!」
「「はい!!」」
 菱子の声に応える選手達の顔は自信に満ち、いかにも強豪チームといった風格さえ漂わせている。
「皆で円陣を組まない?」
 煉司の発案で、能力者たちもまた円陣を組む。
「この試合に勝って、皆で花園に行こうぜ?」
「「おーっ」」
「しまっていきましょう!」
「「おーっ!!」」
 等、紅実の呼びかけに応えて声を合わせる一同。

 ジャンケンによってコートが決定し、菱子によるボールトス。
 ジャンパーは煉司とオザキ。
 ――ばんっ!
 身長ではオザキ有利だが、ここでも煉司のジャンプ力が活きた。僅差で競り勝つ。
 自陣に転がるボールを拾い上げたのは、麻里。
「!?」
 勿論、ただ拾い上げるだけではない。
 二の腕で胸を寄せながら、グラビアアイドル並のポージングを惜しげもなく披露。ゆっくりとボールを両手で掴む。
 これには相手チームの男子も視線釘付け。
「いきます!」
 ――ヒュッ!!
 彼らが我に帰るより早く、目にも留まらぬ速球が放たれる。
「うわあっ!! 皆っ……す、すまな……」
「ストーム!」
 ボールはミウラに直撃、サカマキがとっさにダイブするがそれも間に合わない。彼もまた、麻里の悩殺ショットに幻惑されていたのだろう。
「……素晴らしい」
 理想的な出だしに、元外野のラクスも賞賛を贈る。
「お前達! そんなに見たかったら私のを見せてやる! 試合に勝ったら幾らでもな!」
「い、幾らでも……」
 コート外から告げる菱子。少年らは顔を見合わせる。
「しまっていくぞ!!」
「「おーっ!!」」
 あからさまにテンションが高まる少年達。
「男子ってバカね」
 そんな女性陣の冷ややかな視線を他所に、少年らはコート内を躍動する。
「うおりゃあぁ!!」
 ――ゴォッ!
 オザキの投じたボールは唸りを上げ、紅実目掛け襲いかかる。
「くっ!」
 高度なキャッチング技術を身に付けた彼女でさえ、凄まじい衝撃に思わず顔を顰める。
「ナイスキャッチ、大丈夫? 紅実さん」
「これくらい何でもありません。だって私達は負けられませんから……!」
 掌の痛みも物ともせず、すぐさま反撃の投球モーションに入る紅実。
 ――ヒュッ!
 手首のスナップを活かしサイドスロー気味に放たれたボールは、大きなカーブを描く。
 予想とは全く違う軌道に対し、少年達は不完全な姿勢での対処を余儀なくされる。
「うおおおっ!! ぐふぁっ!!」
 ――バキャッ!
 直撃を受けて、コート上を転がるチネン。
「セーフ! 顔面セーフ!」
 彼は一か八かのキャッチを試みるより、コートに残れる可能性が高い顔面でのブロックを選択した様だ。
「いくよ」
 ――ヒュッ!
 外野に転がってきたボールを素早く拾い上げたラクスは、鼻血を滴らせてフラついているチネンへ追い打ちを掛ける。
「させるかぁっ!!」
 そのまま行けば、確実にヒットしたであろうボールを遮ったのはエースのタマヒラ。
「スーパーグレートトルネード(以下略)!」
 空中で数回転すると、技名に恥じない凄まじいボールが放たれた。
「っ!?」
 忍はとっさに身をかわすが、ボールを包む竜巻が袖口を掠る。
 ボールその物に当たって無くても、ボールの纏う火や風に当たるとヒット扱いになるのはお約束だ。
「簡単にヒットにはさせないよ」
 カバーに入るのは煉司。
 タマヒラの必殺ショットに対し、臆することなく足を差し出す。
 ――ガッ!!
 高々と舞い上がるボール。竜巻は消し飛び、代わりに激しく燃え上がる。
「今よ! ハイパーシュープリーム(以下略)!」
 ――ゴォォッ!!
 としまるギブス、煉司の炎、めぐるの風が三位一体となって生み出された必殺ショットが空を裂く。
「ぐあぁっ!」
 さすがのチネンも、これを顔面で受ける事は出来ずに吹き飛ばされる。
「まだ終わりじゃないわよ!」
 回り込むのは外野の波那。
「チェインショット!」
 辛うじて逃げ回る彼らに、二の太刀が襲いかかった。
「なッ!? ぐあぁぁぁっ!!」
 主将オザキも、背後からの急襲に為す術なく倒れるのだった。

「出来る出来る! 気持ちの問題だぞっ!」
 菱子の応援が響く。
 必殺ショットの応酬により、この時既に両チームとも目まぐるしく内外野の面子を交代させていた。
「そこかっ!」
 ――ヒュッ!
 小春は死角から襲い掛かる球を見事にキャッチすると、相手の体勢が整うより早く投げ返す。
「うわあっ!」
「ツヨシ!! ちくしょうっ!」
 吹き飛ぶキノウエの仇とばかり、怒りを籠めて投げ返すタマヒラ。
「くっくっくっ」
 内野に入ってからの等は、練習の成果を活かして華麗にボールを回避し続ける。
「特訓の成果……いきます」
 ぐるりと腕を回すと、忍はダイナミックにボールを投じる。
 ――バッ!
「なっ!?」
 忍の手を離れたボールは、左右に揺れたかと思うと瞬く間に分裂。
 しかし少年達を驚愕させたのは、次の瞬間――無数のボールが一斉に掻き消えた事だった。
「き、消え……うわぁっ!」
 タマヒラもこの魔球によりヒット。内野に残るはフジドウ1人だ。
「……ぐすんっ……もう無理、私戦えない……」
 ボールを抱えたまま、その場に蹲る少女。
 しかし次の瞬間。
 ――ヒュッ!
 低い体勢から放たれるのは、男子顔負けの剛速球。油断を誘っての不意打ち戦法だ。
 とは言え、ラクスにその様な小細工が通用する筈もなかった。彼は易々とそのボールを受け止めると、反撃の投球モーションへ入る。
「ま、待って! うぎゃっ!!」
 ラクスの放ったショットは容易く彼女を仕留め、この試合に決着をつけたのだった。


「まだ負けた訳ではないぞ!」
 菱子は選手らを立ち上がらせ、往生際も悪く襲いかかる。
「ドッジボールで死者が出たとあっては物笑いの種になるに違いない」
 カノープスに前衛を張らせ、茨の領域を展開する等。
「遺恨を残して掴んだ勝利が、後々どんな結果を生むか、貴女はその可能性を考えてみないのだね。ミス・リョー……ヒシコ?」
「ふん、大事なのはこいつらが勝つ事だ!」
 霧の巨人を纏いつつ言うラクスに対し、悪びれもせず答える菱子。
 しかし、戦いで彼らが能力者達に太刀打ち出来よう筈も無かった。
 少年達は次々に打ち倒され、菱子ひとりになるまでにものの数分と言った所。
「これが私達の努力の成果です!」
「……何度現れても、お前なんて特訓を乗り越えた私達の敵じゃない!」
 紅実の九尾が猛然と襲いかかり、忍の練気が炸裂すると、菱子の姿は跡形も無く消え去った。

「皆も飲む〜?」
 ギンギンカイザーXを振る舞う波那。
 少年達も目を覚まし始める。
「あ、あれ……?」
「競技で勝つ事も良いけど、ドッジボール、楽しみましょう」
 忍は彼らを助け起こしながら、その手にボールを返してやる。
「今度は皆で普通のドッジをやりたいなー♪」
「でも、今のままじゃ私達の圧勝ね」
 小春の言葉に、不敵な笑みを浮かべるめぐる。
「強くなるには、1に体力2に体力。さぁ皆で夕陽に向かってダッシュしましょう!」
「「お、おーっ」」
「くっくっくっ。俺は熱血キャラではないが、たまには良いか」
 かくて一行は、体育館を飛び出しグラウンドへと向かう。

 犠牲者を出す事なく戦いを終えた彼らを祝福するかの様に、この日の太陽はいつまでも輝き続けるのだった。


マスター:小茄 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2010/09/02
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